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福岡地方裁判所小倉支部 平成元年(ワ)375号 判決

原告 濱中政徳

原告 野澤政治

原告 川原良介

原告 坪井正太郎

原告 馬場秀恭

原告 渡部文雄

原告 松尾邦弘

右七名訴訟代理人弁護士 江越和信

同 佐藤裕人

同 吉野高幸

同 住田定夫

同 配川寿好

同 荒牧啓一

同 河邉真史

同 前田憲徳

同 年森俊宏

同 安部千春

同 田邊匡彦

同 林健一郎

同 幸田雅弘

右七名訴訟復代理人弁護士 蓼沼一郎

同 梶原恒夫

同 仁比聰平

被告 新日本製鐵株式会社

右代表者代表取締役 千速晃

右訴訟代理人弁護士 畑尾黎磨

同 山崎辰雄

同 加茂善仁

同 瀧川誠男

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告濱中政徳及び同野澤政治と被告の間で、同原告らが日鐵プラント設計株式会社(北九州市戸畑区大字中原四六番地の五九。以下「日鐵プラント」という。)において労務を提供する義務がないことを確認する。

二  原告松尾邦弘と被告との間で、同原告が山九株式会社(東京都港区三田一丁目四番二八号三田国際ビル。旧商号は岡崎工業株式会社。以下「岡崎工業」もしくは「山九」という。)において労務を提供する義務がないことを確認する。

三  被告は、原告川原良介、同坪井正太郎、同馬場秀恭及び同渡部文雄に対し、各二〇〇万円及びこれに対する原告川原良介については平成七年四月一日から、同渡部文雄については平成八年四月一日から、同馬場秀恭については平成一〇年三月一一日から、同坪井正太郎については平成一〇年七月一日から、各支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らが、被告の原告らに対する出向命令ないし出向延長措置は無効であると主張して、被告に対し、現在も被告に在籍する原告三名において出向先の各会社における労務提供義務がないことの確認を求め、既に退職した原告四名において慰謝料の支払いを求めた事案である。

一  争いのない事実及び証拠(甲一ないし七、一〇及び一一の各1、2、一二、一三の1、2、一四ないし二六、二七の1、2、二八、二九の1、2、三〇ないし四九、五〇の1ないし10、五一、五三の1ないし5、五四ないし一一〇、一一四ないし一二五、一二七、一二八、一二九の1、2、一三〇ないし一四四、一四五の1、一四六ないし一五五、一五六の1ないし22、一五七ないし一七四、一七七ないし一七九、一八〇ないし一八二、一八三の1、2、一八四ないし一九四、一九五の1、2、一九六、一九七、二三一ないし二三九、二四一ないし二五七、乙一ないし三、四の1ないし15、七ないし一一、一二の1ないし6、一三、一四の1ないし4、一五、一六の1、2、一七、一八ないし三一の各1、2、三二ないし三九、四〇の1、2、四一ないし五四、五五ないし六三の各1、2、六四ないし六六、六七の1、2、六八ないし八六、八七の1ないし7、八八、九〇ないし九七、一〇一ないし一〇四、一〇五の1の1、2、一〇五の2ないし10、一〇六ないし一〇八、一一〇ないし一二四、一二五の1、2、一二六ないし一二八、一二九及び一三〇の各1、2、一三二、一三四ないし一三七、一三八の1、2、一四〇ないし一四六、一四七及び一四八の各1、2、一四九、一五〇、一五五ないし一七〇、一七三ないし一八一、一八四ないし一八八、一八九の1、2、一九〇ないし二二四、二二八の1、2、二二九ないし二三三、二三四の1ないし11、二三五ないし二四〇、二四一の1、2、二四二ないし二四五の各1、2、二四六、二四七、二四八の1ないし3、二四九の1、2、二五〇、二五一の1、2、二五二ないし二五五、二五六の1ないし3、二五七の1ないし9、二五八の1ないし3、二五九ないし二六一、二六二の1ないし3、二六三ないし二六七、二七〇ないし二七三の各1ないし3、二七四ないし三二三、三二四の1、2、三二五ないし三二八、証人日高保雄、同光永征二、同白石光彦、同西尾仁見、同野口政明、同伊美今朝則、同橋本伸二、原告川原良介、同渡部文雄、同馬場秀恭、同坪井正太郎、同松尾邦宏、同野澤政治、同濱中政徳)により認められる事実

1  被告の概要

被告は、昭和四五年三月三一日、八幡製鐵株式會社と富士製鐵株式會社との合併によリ設立され、鉄鋼の製造販売のほか、非鉄金属、セラミックス及び化学製品の製造販売、製鉄プラント、化学プラント等の産業機械装置及び鉄鋼構造物の製造販売、建設工事の請負、都市開発事業及び宅地建物の取引、情報処理、通信システム及び電子機器の製造販売並びに通信事業、バイオテクノロジーによる農水産物の生産販売、教育、医療、スポーツ施設等の経営、以上に関する技術の販売等を目的とする株式会社であり、本社を東京都千代田区に置き、製鉄部門として八幡、室蘭、釜石、広畑、光、名古屋、堺、君津及び大分の各製鐵所並びに東京製造所を設置し、エンジニアリング事業本部、都市開発事業部、新素材事業部、シリコンウエハー事業部、エレクトロニクス情報通信事業部、LSI業務班、技術開発本部を有し、国内各支店及び海外各事務所を設置している。

被告の平成元年三月三一日当時の従業員数は出向者一万三二二九名を含めて五万八一八六名であり、資本金は三三一八億三五〇〇万円であったが、平成一一年三月三一日現在の従業員数は出向者八五六一名を含めて二万九九七五名、資本金は約四一九五億円である。

2  原告らの経歴

(一) 原告濱中政徳は、高校卒業後、昭和四八年四月一日付で社員見習として被告に雇用され、同年六月一日付で社員となり、工作本部管理部人事課に配属され、同年一二月末まで工作研修職として研修を受けた後、昭和四九年一月一日付で工作本部プラント工事部組立課組立掛に配属され、昭和六二年七月一日、機械・プラント事業部の事業部調整部技術管理室に配転され、CAD(後述)業務に従事していたが、右業務の委託に伴い、被告の平成元年三月一日付出向命令(以下、原告らに対する同日付出向命令を「本件出向命令」と総称する。)により日鐵プラントに出向し、現在に至っている。

(二) 原告野澤政治は、高校卒業後、昭和四五年一二月一日付で社員見習として被告に雇用され、昭和四六年二月一日付で社員となり、工作本部プラント工事部工事課組立掛に配属された後、昭和六二年七月一日付で機械・プラント事業部調整部技術管理室に配転され、CAD業務に従事していたが、右業務の委託に伴い、本件出向命令により日鐵プラントに出向し、現在に至っている。

(三) 原告川原良介は、中学卒業後、昭和三一年一一月二七日付で臨時作業員として旧八幡製鐵に雇用され、昭和三二年一月二七日付で社員となって八幡製鐵所工作部第一工作整備課北洞岡工作整備掛に配属され、工作本部機工部鉄構課第二鉄構掛等への配属を経て、平成元年一月三一日まで機械プラント事業部機械製造ロール部機械製造工場鉄構掛に勤務していたが、同年二月一日、機械製造業務の委託に伴って機械製造工場鉄鋼掛が廃止されたため、同日付で機械・プラント事業部の機械製造ロール部機械製造管理室に配転され、本件三月一日付出向命令により岡崎工業に出向したが、平成三年一一月ころ体調を崩し、一時被告に復職の上病気休職し、平成五年九月一日ころ再び山九(旧岡崎工業)に出向し、平成六年一〇月一日、定年前の教育休業措置により被告に復職し、教育期間及び休業期間を経て、平成七年三月三一日付で被告を定年(被告においては「社員在籍年齢満限」、略して「年満」という。)退職した。

(四) 原告坪井正太郎は、中学校卒業後、昭和三五年一〇月二五日付で旧八幡製鐵に臨時作業員として雇用され、同年一二月二五日付で社員となり、八幡製鐵所工作部機工課戸畑製缶掛(その後、組織変更により機械・プラント事業部の機械製造ロール部機械製造工場鉄構掛となった。)に配属され、平成元年二月一日、機械製造業務の委託に伴って機械製造工場鉄鋼掛が廃止されたため、同日付で機械・プラント事業部機械製造ロール部機械製造管理室に配転され、本件出向命令により岡崎工業に出向し、平成一〇年六月三〇日、自己都合退職した。

(五) 原告馬場秀恭は、中学校卒業後、昭和三二年七月三〇日付で旧八幡製鐵に臨時作業員として雇用され、同年九月三〇日付で社員となり、八幡製鐵所工作部機工課堂山製缶掛(その後、戸畑製缶掛に名称変更され、さらに組織変更により機械・プラント事業部機械製造ロール部機械製造工場鉄構掛となった。)に配属され、平成元年二月一日、機械製造業務の委託に伴って機械製造工場鉄構掛が廃止されたため、同日付で機械・プラント事業部機械製造ロール部機械製造管理室に配転となり、本件出向命令により岡崎工業に出向したが、定年前の教育休業措置により平成九年一〇月一日付で被告に復帰し、教育期間及び休業期間を経て、平成一〇年九月三〇日、定年退職した。

(六) 原告渡部文雄は、高校卒業後、昭和三二年六月二九日付で臨時作業員として旧八幡製鐵に雇用され、同年八月二九日付で社員となり、八幡製鐵所工作部機工課堂山製缶掛(その後、機械プラント事業部機械製造ロール部機械製造工場鉄構掛となった。)に配属され、平成元年二月一日、機械製造業務の委託に伴って機械製造工場鉄鋼掛が廃止されたため、同日付で機械・プラント事業部機械製造ロール部機械製造管理室に配転され、本件出向命令により岡崎工業に出向したが、定年前の教育休業措置により平成七年四月一日付で被告に復帰し、教育期間及び休業期間を経て、平成八年三月三一日、被告を定年退職した。

(七) 原告松尾邦弘は、高校卒業後、昭和三六年四月一日付で旧八幡製鐵に臨時作業員として雇用され、同年六月一日付で社員となり、八幡製鐵所工作部戸畑工作課中原機械掛に配属となり、八幡工作課組立掛等への配属を経て、機械・プラント事業部機械製造ロール部機械製造工場組立掛に配属され、平成元年二月一日、機械製造業務の委託に伴って機械製造工場組立掛が廃止されたため、同日付で機械・プラント事業部機械製造ロール部機械製造管理室に配転され、本件出向命令により岡崎工業に出向し、現在に至っている。

3  被告の労働組合

(一) 被告には本社、各製鐵所、製造所の各所在地域(箇所)毎に単位労働組合が組織されており、これらの上部組織として新日本製鐵労働組合連合会(以下「連合会」という。)がある。

原告らはいずれも新日本製鐵八幡労働組合(以下「八幡労組」という。)に所属する組合員であり、原告川原、同渡部、同馬場、同坪井及び同松尾(以下、右五名を「原告川原ら」という。)は八幡労組機械製造支部に、原告濱中及び同野澤(以下、右二名を「原告濱中ら」という。)は八幡労組プラント管理支部にそれぞれ所属していた。

八幡労組は本部を北九州市に置き、平成元年三月一日当時組合員数約一万一六七八名を擁し、下部組織として五二支部を有していたが、平成一一年四月現在では組合員数四八三五名、四一支部となっている。

(二) 連合会と被告はユニオンショップ条項を含む統一労働協約を締結しており、右協約は連合会傘下の各単位組合の組合員である被告従業員に共通して適用される。右労働協約上、経営審議会、労使委員会(旧八幡製鐵においては「生産委員会」)、団体交渉の三つの労使交渉制度が定められ、経営審議会においては生産計画に関する重要事項及び主要設備の建設計画、稼働開始及び休止計画に関する重要事項等の経営に関する重要事項を取り扱い、労使委員会においては組合員を大量に配置転換または転勤させる場合の基準方針、福利厚生に関する重要事項等のほか、被告と連合会または組合双方が必要と認めた重要事項を取り扱うこととされている。このほか、職場における会社との意思疎通を図るため、室または工場限りの事項を取り扱う職場生産委員会が室または工場毎に設けられている。

4  被告の就業規則

被告においては、原告川原、同渡部、同馬場、同坪井及び同松尾が採用された旧八幡製鐵時代、原告野澤及び同濱中が採用された新日本製鐵時代を通じ、会社は従業員に対し業務上の必要によって社外勤務をさせることがある旨の規定を有する就業規則が存在する。

原告らはいずれも、被告に採用されるにあたり、就業規則の各規定の説明を含む入社時の導入教育を受け、就業規則を遵守する旨の誓約書を提出した。

5  被告と組合との労働協約

(一) 被告と連合会との間においては、被告は業務上の必要により組合員を社外勤務させることがある、社外勤務については被告と連合会との間で別に協定する旨の規定を含む労働協約が締結されている。

(二) 右協約にいう社外勤務協定は、昭和四四年九月、当時の八幡製鐵労働組合との間で「社外勤務に関する協定書」が取り交わされて以来、数次にわたり更新されてきた。

昭和六二年一二月二三日付の社外勤務協定の更新に際しては、出向手当の見直し等をめぐって六回にわたり労使交渉(中央団体交渉及び労使委員会)が行われ、その結果、被告と連合会との間で、業務上の必要により所定の出向期間を超えて出向を命じることがある旨の規定(次項(三)の(3) と同旨)における「業務上の必要」の文言の解釈につき、新規事業に関わる出向や余力人員の活用策としての出向等も含め、幅広く運用することとする旨の議事録確認が締結された。

(三) 本件出向命令当時の社外勤務協定書(昭和六三年三月二日付)には以下の趣旨の諸規定が定められている。

(1)  社外勤務を分けて出向及び派遣とする(二条一項)。出向とは関係会社、関係団体、関係官庁等に役員または従業員として勤務することをいう(同条二項)。

(2)  出向する組合員は社外勤務休職とする(三条)。

(3)  出向期間は原則として三年以内とする。但し業務上の必要によりこの期間を延長し、またはこの期間をこえて出向を命ずることがある(四条一項)。出向期間は被告の勤続年数に通算する(同条二項)。

(4)  出向者の就業時間、休日、休暇等就業に関しては出向先の規定による(六条一項)。

(5)  出向者の被告における考課、昇格、昇給および賞与等の査定については出向先における勤務成績を勘案のうえ、被告の規定により社内勤務者と同一基準により行う(七条)。

(6)  出向者の懲戒については出向先の規定による。この場合の被告における取扱いについてはその都度定める。ただし、出向先の規定または被告の規定により解雇に該当する場合は復職を命じた後、被告の規定を適用する(九条)。

(7)  出向者の転勤、職場もしくは職務の変更および出張は出向先の命ずるところによる(一〇条)。

(8)  出向者が出向先の規定により休職に該当する場合は出向先の定めるところによる。この場合の被告における取り扱いについてはその都度定める(一一条一項)。出向者が被告の規定により病気休職に該当する場合は復職を命じた後、病気休業を命ずる(同条二項)。

(9)  出向者が被告の社員在職年令満限に達したときは被告を退職するものとする(一三条)。

(10) 出向者に対し、出向時に出向手当Aを一時金として支給する。出向手当Aの金額は五万円とし、原則として出向当月の月例給与支給時に支給する(一四条)。

(11) 出向者の給与および賞与は出向先の定めるところによる。ただし、出向先支給額が被告の規定による支給額に満たないときは被告の規定による支給額との差額を支給する(一五条一項)。

(12) 一五条一項に定める被告の規定による給与の支給額は、基準内給与および出向手当B(出向先の年間所定労働時間が当社の年間所定労働時間を超える場合には年間所定労働時間差に応じて支給される。)とし、出向先における所定就業時間外の就業または休日の就労に対する超過勤務手当および深夜手当を一定の数式に基づいて計算して支絵するほか、その他諸手当は被告の規定により計算した額とする(一六条)。

(13) 賞与支給額は、出向先における勤務に基づき、被告の基準により計算する(一七条)。

(14) 退職手当は出向期間を通算し、被告の規定により支給する(一八条)。

(15) 出向者は被告が保有する病院、診療所、保養所等の厚生諸施設および出張時の宿泊施設を利用することができる。ただし、社宅については出向先の社宅が利用できない場合に限り被告の社宅を利用することができるものとする(一九条)。

(16) 出向者は出向先および被告が支給する給与および賞与の範囲内でそれぞれ社内預金に預金することができる。ただし、出向先に預金制度がない場合は出向先で支給する給与および賞与も併せて被告に預金することができる(二〇条)。

(17) 出向者は被告の住宅資金貸付制度、年金転貸持家融資制度、財形転貸持家融資制度、財形ローン制度、進学ローン制度等を利用することができる。ただし、出向先に被告に準ずる貸付制度があり、これを利用する場合はこの限りでない(二一条)。

(18) 出向者の健康保険、厚生年金保険および雇用保険は原則として被告において加入する(二三条)。

(19) 出向者の労災保険は出向先において加入する(二四条)。

(20) 出向者の業務上および業務外の災害補償は出向先の規定による。ただし、出向先に定めがない場合、または出向先の定める補償額が被告の社員災害補償規程に定める補償額に満たないときはその差額を支給する(二五条)。

(21) 出向者が復職する場合はその能力、経験等を勘案して配置職務を決定する(二六条)。

6  機械・プラント事業部の概要

(一) 原告らが所属していた機械・プラント事業部(以下「本件事業部」という。)は、製鉄、環境、化学の各プラント及び鉄鋼構造物の製造販売、建設及び技術協力事業等のエンジニアリングを業務とする独立的事業体であるエンジニアリング事業本部の中核的下部組織である。

その沿革は、旧八幡製鐵時代の昭和三八年に製鉄部門から分離独立して工作本部として発足し、主として社内の製鉄設備等の受注製作を行っていたが、漸次業務を拡大し、社内のみならず国内外からも受注するようになり、昭和四九年にエンジニアリング事業本部工作事業部に名称変更された。昭和五〇年代に入り、被告は経済構造の変化に対応するため従来主力商品のーつであった鋳型製造部門の設備を廃止するなどして本件事業部の事業構造の改善に努め、製鉄プラント分野における営業品目を拡大し、さらに非鉄関連プラント、化学プラント、各種産業機械、単体機械等の分野へ積極的に事業展開を図り、その名称をプラント事業部(昭和六〇年ころ)、次いで機械・プラント事業部(昭和六二年)に変更した。

(二) 本件出向命令当時、本件事業部には調整部、調達部、機械事業開発部、プラント事業開発部、精錬プラント部、圧延プラント部、化学プラントタンク部及び機械製造ロール部の八か部があり、東京都千代田区に管理部門及び営業部門、北九州市戸畑区に設計、製造、工事部門が置かれていた。

(三) 本件事業部の経常損益は昭和五九年度が三億円、昭和六〇年度が八億円であったが、昭和六一年度にはマイナス九億円、昭和六二年度にはマイナス四五億円に落ち込んだ。

(四) 本件事業部における年度別出向者数は、昭和五二年は八名、昭和五三年は一四名、昭和五四年は一二名、昭和五五年は一六名、昭和五六年は三三名、昭和五七年は五四名、昭和五八年は三六名、昭和五九年は六五名、昭和六〇年は四九名とほぼ増加傾向にあったが、昭和六一年は一三二名、昭和六三年は二二〇名と急増した(以後、平成元年は九七名、平成二年はー五名となり、平成一一年四月当時、本件事業部に在籍する技術職社員三一二名のうち出向者は二三二名となった。)。

7  機械製造部門の概要

本件事業部の機械製造・ロール部にはロール営業室、機器営業室、鋳鍛・ロール管理室、ロール工場、機械製造管理室及び機械製造工場があり、このうち鋳鍛・ロール管理室、ロール工場、機械製造管理室及び機械製造工場は戸畑地区に置かれ、前二者はロール部門、後二者(機械製造管理室についてはその一部)は機械製造部門と通称されていた。

機械製造部門のうち原告川原らが所属していた機械製造工場においては、図面に基づいて鋼材を所定の寸法に切断し、プレス等で曲げ加工した部材を組み合わせ、溶接を行って鉄鋼構造物や機械部品を製作する鉄構作業、鉄構作業の終わった部品や外注メーカーから納入される部品を加工する機械加工作業、機械加工作業が終わった部品及び外注メーカーから納入される部品を組み立て、その装置の試運転を行う組立作業を順次行ない、高炉、転炉等の大型製鉄設備等を製造していた。

8  CAD設計製図部門の概要

CAD(Computer Aided Design)は「コンピュータによる製図」を意味し、図面の製作をコンピュータで行うことで図面品質の向上を図るとともに図面の再利用を拡大し、既存データの活用により設計作業を効率化し、製造分野等の業務効率化を支援するシステムである。

本件事業部の各部門に置かれた各設計部署は、主として受注した設備のレイアウト、設備を構成する各種装置の仕様を決め、設計全体のマクロ的な機能を決定する基本設計、設備を構成する装置の各機能を決定し、より具体的なイメージを作り上げる計画設計を担当し、実際に装置を構成する部品レベルでの機能や製作条件等を決定する詳細設計及び製図作業は大部分を被告の子会社である日鐵プラントに発注していた。

昭和五七年当時、CADは革新的な設計概念であり、基本ソフトの購入と適用技術の開発等の面において多額の資金と専門技術者の充足が必要で、設計協力会社による取り組みは困難であったため、被告は本件事業部にCADを導入し、コンピュータの活用による設計業務の効率化に着手することとし、設計関係業務の標準化、効率化の推進と図面の品質管理を担当する本件事業部調整部技術管理室を主管として基盤整備に取り組むこととした。CADを導入した当初は、設計の自動化等を目的としてシステムの構築作業が進められていたが、昭和六二年ころ、被告は、システム開発を要する設計自動化を中断してCADの製図機能の活用を促進する方向に転換し、これに基づき、調整部技術管理室に設置したCADセンター(通称)において過去の蓄積図面を写図入力し、データベースを構築するための要員として、同年七月、原告濱中らを含む技術職社員二〇名を製造工場から技術管理室に配転し、製図技術者への転換と育成を図るとともにCADの本格的活用へ向けた基盤整備を行っていた。しかし、本件事業部は本来製図機能を持たず、製図作業を外注に出していたため、CADによる設計製図作業をどのように位置づけ、運営すべきかが検討課題となっていた。

9  岡崎工業の概要

岡崎工業は、昭和一三年三月一日に創立され、昭和二四年一月に株式会社に改組された資本金三七億四〇〇〇万円(平成元年当時)、昭和六三年九月末当時の従業員数三三〇五名の企業であり、本店を北九州市八幡西区築地町に置き、工場を八幡西区黒崎に保有するほか、東京等に一〇支社、六営業所を有していた。事業内容は土木、建築の設計施工、鉄鋼構造物、機械装置等の設計製作、鉄鋼、電力、化学等産業機械装置の据付及び配管、電気計装工事の設計施工、製鐵所構内の常例作業等であり、主要取引先は被告を含む国内主要鉄鋼メーカー、造船メーカー及び官公庁等であった。

被告は昭和二四年一一月から岡崎工業と作業請負契約関係を持つようになり、本件出向命令の当時、一般機械設備整備作業、各製鐵所における高炉関連の常例作業の請負契約を締結しており、被告から同社への出向者は三九一名であった。

平成二年一〇月一日、岡崎工業は山九株式会社と合併した。

10  日鐵プラントの概要

日鐵プラントは昭和四八年一〇月一日に設立された資本金一億円、昭和六三年一二月一日当時の従業員数三七一名の企業であり、本店を北九州市戸畑区大字中原に置き、東京に事務所を有している。事業内容は製鉄、化学、環境保全、運搬荷役、一般工業炉等の設備の設計及びこれらに関連する機器類の設計である。

同社は被告が本件事業部の設計力を強化する目的で一〇〇パーセントを出資して設立した協力会社であり、本件事業部からの発注業務が全業務の約八割を占め、被告から同社への出向者は平成元年四月当時六七名(総従業員数三九三名)であったが、平成一一年四月一日現在では三九名(総従業員数四三七名)となった。

11  被告の中期総合計画

被告は、昭和五〇年代以降の鉄鋼需要の減少、販売環境の悪化、昭和六〇年代に入ってからの急激な円高進行による国際価格競争力の低下等の構造的な要因に基づく国内粗鋼生産規模の大幅な減少に加えプラント関係のエンジニアリング部門の採算悪化により、経営は危機的状況にあるとの認識に立ち、昭和六二年二月一三日開催の中央経営審議会において、連合会に対し「製鉄事業中期総合計画」及び「複合経営推進の中長期ビジョン」を柱とする「中期総合計画」を提示した。

製鉄事業中期総合計画は、製鉄事業部門において、総固定費を二五パーセント以上削減することなどを目標に、粗鋼生産規模を年間二四〇〇万トンの低水準と措定し、これに見合う生産体制への移行(室蘭、釜石、広畑、堺の各製鐵所の高炉休止等)及び余剰能力の削減、これに伴う要員合理化等の施策を行うことなどを内容とし、複合経営推進の中長期ビジョンは、鉄鋼以外の分野で総売上高の五〇パーセント以上を確保することを目標に、従来からの事業多角化に加えて、エレクトロニクス、情報通信、バイオテクノロジー等の新分野に進出することとし、エンジニアリング事業部門においては、国内産業構造の転換及び円高の進行という変化に対応した事業構造の強化と見直しの一環として、市場の拡大が見込まれる建設事業分野の強化拡充、先端技術分野を対象とした機械プラント事業及びエネルギー関連の新規事業への進出等の方針を示したものであった。

また、被告は、昭和六二年四月一三日の中央団体交渉において、連合会に対し、粗鋼生産量の減少に伴う余剰人員対策として、それまで段階的に進めてきていた六〇歳までの定年延長を六三年度から三年間停止し、また、定年退職前の従業員に対し一年間の長期教育及び休業期間措置を昭和六二年一〇月から実施することを提案し、連合会は、質疑応答の末、厳しい経営状況のもとで経営合理化の施策を推進することによって生じる余剰人員対策は避けられないとの判断に立ち、被告の右提案をやむなく受け入れる旨表明した。

12  プラント事業の方向性

通商産業省の機械情報産業局長の私的諮問機関であるプラント輸出基本政策委員会がとりまとめた「プラント産業ビジョン(現状と展望)」(昭和六二年八月発行)には、昭和五七年以降、石油をはじめとする一次産品市況の低迷から中東産油国や発展途上国において経常収支が悪化し、さらに発展途上国では米国の高金利政策による米ドル実質金利の上昇に起因する債務返済負担増などの影響が重なり、活発であった中東産油国や発展途上国でのプラント建設活動は後退し、世界のプラント需要は一九八一年から八二年を境に大幅な減少に転じ、八六年には八一年の約六割の水準まで規模が縮小し、国内需要についても、円高が急激に進んだことから国内のプラント企業は欧米企業や韓国をはじめとするアジア諸国に比べて価格競争力の面で著しく不利な状況に追い込まれ、プラント輸出が大幅に減少し、海外調達が急増しているほか、大部分の基礎素材産業において、石油危機後の原料コストの高騰に伴う価格競争力の低下及び世界的な景気停滞に伴う製品需要自体の伸び悩みから設備投資が停滞しており、今後一〇年間は世界のプラント輸出市場の回復は期待できず、現状の水準での低迷が継続し、国内の基礎素材型産業においては維持更新投資等の小規模投資に限定した形で市場の縮小が予想されるなどの記述がある。

このような国内外の厳しい市場環境の中で、被告の競合会社である三菱重工業、石川島播磨重工業等の造船重機会社、千代田化工建設、東洋エンジニアリングなどのエンジニアリング専業会社は、昭和六一、二年ころ、相次いで要員合理化を中心とした合理化計画を打ち出していた。

13  本件事業部の中期経営計画

前記製鉄事業中期総合計画に基づく被告社内における設備投資の抑制、高炉の休止と集約化の影響により、製鉄プラント中心の本件事業部における昭和六一、六二年度の受注規模はそれまでの平均九〇〇億円から六〇〇億円台に減少し、収益は従前の黒字基調から赤字に転落した。

このため、昭和六一年一二月、被告は本件事業部内のロール製造部門の作業をほぼ全面的に外部委託し、これに伴って同部門に所属していた技術職社員約八〇名を委託先会社に出向させた。

本件事業部は、昭和六三年二月ころ、「機械プラント事業部中期事業計画」を策定し、同年四月二一日の経営審議会において、八幡労組に対し、事業規模縮小の避け難い製鉄プラント分野における固定費圧縮と変動費削減、機械製造分野における生産構造の再構築、設計部門を中心とするエンジニアリング業務の効率化を推進し、事業規模六〇〇億円強のもとで安定的収益を上げ得る事業体質を確立するとの基本方針を説明し、組合の理解と協力を求めた。

14  機械製造部門の業務委託

(一) 被告は、本件事業部の機械製造工場における要員の合理化、不要設備の除却等により、昭和五七年当時に約四〇億円であった固定費を昭和六二年には約二七億円に削減したが、受注規模の大幅減少により年間作業量がほぼ半減したためコストの切り下げにはつながらず、タイムチャージ(年間作業量一時間当たりの固定費)は昭和六二年度には市場価格レベルの四〇〇〇円ないし四二〇〇円の約五割高の約六五〇〇円であり、これを大きく低減する見通しが立たず、また、受注が多いときは生産の一部を外注に出さざるを得ず、少ないときは固定費が回収できないという機械プラント業務における生産の繁閑の問題を解決する必要があったことから、固定費の大部分を変動費化し、仕事量の変動に対して弾力性のあるコスト構造を実現するとともに、委託先会社の営業力により仕事量の繁閑を平準化して、市場価格ベースのコスト水準を維持する一方、準内製という形で工場運営を可能にし、かつ、機械製造工場の従業員の雇用を確保するため、機械製造工場の全業務と機械製造管理室の一部技術管理業務を関連企業に一括して委託する方針を固め、昭和六三年一一月九日の箇所経営審議会において、八幡労組に対し以下のとおり説明した。

(1)  機械製造部門は被告の内製部門として高炉、転炉等を中心とする大型設備を自製し、外部調達時における評価能力の確保、設備の大型化と高機能化に対応した製造技術の確立等の重要な役割を担っているところ、先端機械装置事業分野に進出を図るとともに、競争力向上対策として各種の設備改善、受注規模減少と品種構成の変化に応じた要員規模の見直しや職種転換を行うなどの諸対策を講じてきたが、生産品種が多岐にわたり、かつ生産量の変動が大きいプラント事業の特性から、現在の体制と諸条件下では負荷(生産能力)弾力性を含めた競争力には限界があり、いまだ外部調達品と比肩し得るコストレベルの実現に至っていないため、製造部門においても、従来の役割を確保しつつ、新規事業分野の早期拡充確立と既存分野の競争力強化に向けて要員配置の弾力化を含め、負荷変動に柔軟に対応することができる生産体制を確立し、固定費負担の軽減化を図る必要がある。

(2)  製造機能は機械プラント事業を継続発展させていく上で必要不可欠であるため、競争力確保、品質や納期維持の観点から、内製に準じた形で位置づけることを前提に、同部門の製造作業及び製造技術管理業務を関連協力企業に委託化する。委託先については、当事業部と密接な連携による情報交流、技術のフィードバック等が必要であることから、被告の関連企業で、同種事業の豊富な経験と技術蓄積、独自の事業基盤を持つ岡崎工業とし、業務を円滑に移行し、遂行していくため、平成元年二月一日付で機械製造管理室及び機械製造工場から同社への出向措置を講ずることとする。

(二) 被告は八幡労組に対し、岡崎工業に委託することにより、被告の機械製造工場と岡崎工業の工場の各特徴を生かし、一元的な管理の下で効率的な生産を行い、かつ、各工場の負荷の跛行性に対し要員の弾力的な対応を図ることでコスト競争力を強化し、被告の優れた技能、設備と岡崎工業の独自の営業力、小回りの利く事業体質を組み合わせることにより、事業規模及び領域の拡大を図る趣旨である旨説明した。

(三) 被告は、同月一六日に開催された箇所経営審議会において、八幡労組に対し次のとおり説明した。

本件事業部は一品受注生産形態で製品が極めて多品種にわたり、しかも需要業界の設備投資動向を反映して受注量に大きな山と谷があって、現状の設備や要員構成では生産体制が硬直的で非効率なものとなっており、製品の多様性、受注量の変動に対応できない。別会社化についても検討したが、厳しい競争状況下では、従来の本件事業部の技術、技能、設備及び営業力等をべースとしつつ他に事業基盤を有しない新しい企業を発足させたところで、存続発展は困難であり、問題の解決にはならない。

岡崎工業は本件事業部が有しない橋梁、建設、土木等の事業領域を有し、本件事業部と取引実績のない一般顧客及び官公庁との契約実績も豊富であり、小回りの利く企業体質、営業力、調達力、工事力及びコスト競争力をそなえている。

(四) 被告は、同月二五日に開催された箇所労使委員会において、本件事業部における生産体制の再構築、業務委託に伴う人員措置につき、これまで機械製造部門が保持してきた技術と技能水準を維持することが大前提であり、当該職場の従業員が培ってきた専門技術と技能を継承すること、委託化を品質や納期に一切影響を及ぼさずに円滑に実施することが必要であるため、当該職場の全員を対象として人員措置を行うこととし、具体的には機械製造部門工場の各掛から一三四名、整備掛から二名の併せて一三六名を岡崎工業へ出向させる旨説明した(当時機械製造工場には一七三名が在籍していたが、休業者等一一名、病気休職者等三名、すでに他社へ派遣されていた者二五名がおり、これらを除く全員が出向の対象とされた。)。

(五) その後、昭和六三年一一月三〇日、同年一二月六日、同月一二日に開催された箇所労使委員会における質疑応答を経て、同月二八日、八幡労組は、被告に対し、本件事業部生産体制の再構築に伴う人員措置につき了解する旨表明した。

15  CAD部門の委託

(一) 被告は、昭和六三年一二月一二日、箇所労使委員会において、CAD設計製図作業の委託とこれに伴う人員措置について以下のとおり説明した。

本件事業部の競争力強化のためには設計業務の一層の効率化が必須であり、特に作図効率や画面品質の向上、作図コストの低減が緊急の課題であるが、このためにはCADの製図機能の活用促進が重要かつ有効であると認識しており、CADの早急な実用化を狙いとして、昭和五七年のCAD導入以来製図領域を重点とした活用を図ってきた。また、昭和六二年七月以降、CAD基盤整備の一環として、陣容の強化拡充を図り、製造ノウハウを保有する技術職社員の製図技術者への育成を図りつつ図面情報の蓄積に精力的に取り組んできたが、一層のCAD実用化を促進するため、詳細設計業務担当部門にCAD設計製図作業を位置づけ、詳細設計業務とCAD製図作業の一体的運用を図ることによって業務の効率化、生産性の向上を図り、詳細設計技術、CADソフト開発、オペレーター業務まで一貫して対応できる体制を確立することによりCAD活用範囲を拡大し、実用化を加速することを狙いとして、基本設計と計画設計の業務を本件事業部に残し、詳細設計及びCAD業務を切り離して日鐵プラントに委託することとし、委託対象業務に従事している技術職社員については、今日まで培ってきた技術と技能を生かし、日鐵プラントにおけるCAD業務の円滑な立ち上げを図り、かつ、業務委託により本件事業部内に担当業務がなくなり、余力人員となる担当技術職従業員の雇用確保を図るため、昭和六四年(平成元年)二月一日付で委託先会社への出向措置を講ずることとする。

日鐵プラントを選定したのは、設計業務とCAD設計製図作業の一体化を図り得ることに加え、同社は数値解析業務及び設計分野へのコンピュータ適用技術を保有しており、これとCAD技術技能を併せ持つことでCAD活用範囲の一層の拡大と社外市場への積極的な事業展開が期待できるためである。

(二) 八幡労組は、平成元年一月二七日の箇所労使委員会において、被告に対し、CAD設計製図業務の委託及びこれに伴う人員措置につき了解する旨表明した。

16  被告と原告らとの交渉

(一) 被告は、機械製造部門につき、当時機械製造工場に所属していた技術職社員のうち出向者等を除いた一三六名全員を、CAD設計製図部門につき、昭和六二年七月に機械製造工場から技術管理室へ配転して製図技術者として育成した二〇名全員を出向対象者とした。

機械製造部門の出向対象者のうち一二九名及びCAD設計製図部門の出向対象者のうち一七名については、本件各出向措置につき同意を得られたため、平成元年二月一日付をもって岡崎工業ないし日鐵プラントへの出向命令が発令された。

しかし、機械製造工場に所属していた原告川原らを含む七名及びCAD設計製図部門に所属していた原告濱中らを含む三名については、上司を通じて説得を重ねたものの同意を得られなかったため、平成元年二月一日付の出向命令発令を延期し、原告川原らについては業務委託により廃止された機械製造工場の各掛から機械製造管理室に配転した上で、引き続き原告らとの交渉を継続した。被告は原告らに対し、同年二月二三日までの間、出向の必要性等を説き、理解を求めたが、原告らは休日の減少など労働条件が低下し、出向すると転籍になるおそれがあるなどと主張して出向に同意しなかった。被告と原告らとの交渉は一人当たり延べ一二回に及んだ。

(二) 被告は、平成元年一月二四日、同月二七日、同月三〇日、同年二月一三日の各労使委員会において、八幡労組に対し、出向拒否者一〇名との交渉の経過を説明したが、同年二月二一日の労使委員会において、これ以上の進展を期待できないとして、機械製造管理室に所属する七名を岡崎工業へ、技術管理室に所属する三名を日鐵プラントへ、それぞれ同年三月一日付で出向を命ずる措置を講ずる予定である旨表明した。これに対し八幡労組は、労使間の出向措置に関する取り扱い上特段の問題はないとして、これ以上被告との交渉を持つことは考えていない旨表明した。

17  本件出向命令の発令

被告は、平成元年三月一日、原告川原らに対し「エンジニアリング事業本部機械プラント事業部調整部調整室労働人事掛勤務を命ずる。社外勤務休職を命ずる(岡崎工業株式会社へ出向)。」旨の、原告濱中らに対し「エンジニアリング事業本部機械プラント事業部調整部調整室労働人事掛勤務を命ずる。社外勤務休職を命ずる(日鐵プラント設計株式会社へ出向)。」旨の職務命令をそれぞれ発令した。

18  出向先会社の労働条件

(一) 岡崎工業

本件出向命令発令当時、岡崎工業は常昼勤務につき本件事業部と同様の勤務時間帯を採っており、三交替職場である機械製造工場機械掛の交替シフトと同様の三組三交替の逆シフトを採用したため、本件出向者の勤務形態は従前と同様であった。休日については、岡崎工業の方が常昼勤務者につき一二日、交替勤務者につき一三日短く、年間所定労働時間に九〇時間強の差があったため、被告は、社外勤務協定に基づき、出向者に対し、出向発令から平成元年九月三〇日までは月額一万三三三四円、同年一〇月一日から平成二年三月三一日までは月額一万円の出向手当Bを支給した(出向手当Bについては、昭和六三年四月、出向者の処遇につき制度改定が行われ、従前は被告と出向先会社との年間所定労働時間差分につき過勤務という形で支払っていた手当を、出向に伴う精神的または肉体的な負荷に対応する手当と位置づけることとし、社外勤務協定別表を適用することとしたが、移行措置として、昭和六三年四月一日から平成元年九月一日までの間は本来の表とは別の表を適用していたものであり、同年九月三〇日からは本来の表が適用された。)。その後も社外勤務協定に基づいて出向手当Bが支給され、平成一〇年三月三一日以降は、被告と山九の年間所定労働時間差三八時間四五分(年間休日数にして五日分)に対し月額六〇〇〇円が支給されている。

被告は岡崎工業に対し、機械製造部門の業務委託に伴い、機械製造工場の建て屋及び機械設備一式を貸与したため、本件業務委託化後も、原告川原ら従業員の勤務場所は従前と同様であり、その職務内容、職場環境に変化はなかった。

(二) 日鐵プラント

日鐵プラントは委託化にあたり被告の勤務形態をそのまま採用していたため、委託化当初の勤務形態及び所定勤務時間は出向前と同様であったが、平成元年四月一日に被告の労働時間が短縮されたことにより年間一一時間弱の所定労働時間差が生じ、平成五年四月一日には所定労働時間差は二六時間四五分まで広がったため、出向手当Bとして月額六〇〇〇円が支給されるようになった。平成一一年四月一日以降、日鐵プラントの労働時間短縮が被告に追いついたため、所定労働時間の差は解消された。

被告は日鐵プラントに対し、CAD設計製図部門の業務委託に伴い、CAD設計製図設備及び施設を貸与したため、業務委託後も原告濱中らの勤務場所は従前と同様であり、職務内容、職場環境ともに変化はなかった。

19  機械製造部門の業務委託後の状況

(一) 本件出向命令後の平成元年度における岡崎工業のタイムチャージ(時間あたりの作業費)は、機械製造工場の建て屋等にかかる減価償却費の一部を本件事業部において負担していたこともあって約三七〇〇円まで下がったが、その後、岡崎工業(山九)の所定労働時間の短縮や平成四年ころ機械製造工場建て屋の減価償却費を負担するようになったことなどの影響によって漸増し、平成七年度には約四二〇〇円となった。また、平成八年ころ、従前本件事業部が負担していた機械設備の減価償却費を山九に移管したため、平成八年度以降のタイムチャージは五五〇〇円弱となった。

(二) 平成元年から平成一〇年までの機械製造工場の生産時間(実績)中に占める岡崎工業(山九)の独自受注分にかかる生産時間は平成五年度に急激な落ち込みがあったほかはほぼ一ないし二パーセント台の水準であったが、平成七年度(三二・九パーセント)以降、その比率は急激に増加した。

(三) 岡崎工業(山九)プラント製造部の平成元年から平成九年までの受注高は、平成六年度まではほぼ二、三〇億円台で推移したが、平成七年度からは増加に転じ、平成九年度は六〇億円を超え、このうち山九の独自受注分の割合は、平成四、五年に急激な落ち込みがあったほかはほぼ数パーセントであったが、平成七年度以降は一〇パーセントを超え、平成九年度は約三〇パーセントに上がった。売上高及びそのうちの山九独自受注分の割合もこれとほぼ同じ推移であった。

(四) 本件事業部機械製造部門の平成元年度から平成九年度までの売上高は三〇ないし四〇億円台で推移したが、経常損益は平成二年度から平成四年度の間にプラスとなったほかは軒並みマイナスであり、平成九年度にようやくプラス約四億円となった。

本件事業部の平成元年度以降平成九年度までの売上高は八四〇億円から一三四七億円の間を推移し、経常損益は平成元年度の九億円と平成五年度の五五億円の各プラスを除き毎年ほぼプラス二、三〇億円台であったが、平成八年度にプラス一二億円、平成九年度にはマイナス五億円に減少した。

(五) 被告は従前機械工場の管理業務のうち外注メーカーに発注する設備についての製造管理業務を本件事業部に残存させていたが、平成七年一〇月、右製造管理業務も全て山九に移管した。

20  CAD設計製図部門の業務委託後の状況

(一) 日鐵プラントは、平成元年二月一日、社内にCADセンターを設置し、原告濱中らを含むCADオペレーターによるCAD設計製図業務のほか設計協力会社に対するCAD化の推進、CADオペレーションの指導、作成図面の一元的管理等を行うようになった。

CAD設計製図作業の委託後、設計者とCAD製図者の連携により様々な分野の部品図等のCAD製図標準が作成され、図面管理表システムが整備され、数値解析グループとの連携により作業効率が向上し、また、三次元CAD活用促進による詳細設計業務の効率化と図面費低減、NCガス切断の自動化による詳細設計及び製作作業の効率化が進められ、その後も製鉄プラントの詳細設計業務の対応範囲を拡大し、海外プロジェクトにおいて現地で作成された製作図面の検図や制作時における技術指導を実施するなど総合的な業務対応力が向上し、翻訳ソフトにより日本語から中国語への自動変換を行うなどの成果があった。

(二) CAD化率(年間の作図枚数のうちCAD作成図面の占める割合)は、平成元年は一七パーセント、平成二年は三〇パーセント、平成三年は四二パーセント、平成四年は五六パーセントと急速に増加し、平成一〇年には八九パーセントを占めるに至った。また、製図生産性(図面一枚あたりの作図時間)は、平成元年には二〇・八時間、平成二年には一五・二時間、平成三年には一四・四時間と順調に向上し、平成九年には一二・五時間となり、図面単価は平成六年度以降手書き図面単価を下回り、平成九年ころには委託前の図面単価より五四パーセント低減された。

21  出向延長措置

(一) 本件出向命令は、社外勤務協定四条一項に基づき、平成四年三月一日、平成七年三月一日(原告川原を除く。)及び平成一〇年三月一日(原告川原、同馬場及び同渡部を除く。)の三回にわたりそれぞれ延長された(以下「本件各出向延長措置」と総称する。)。

(二) 八幡労組は当初から出向を拒否していた一〇名がいずれも復帰を希望していることを確認したが、平成元年二月一日付で岡崎工業及び日鐵プラントに出向した技術職社員についてはすでに延長を容認しており、出向先における状況変化もないとして、本件各出向延長措置をいずれも容認した。

(三) 被告は本件各出向延長措置を原告らが出向前に所属していた職場職制を通じて原告らに通知した。

22  本件出向命令発令後及び本件各出向延長措置前後の経済状況等

(一) 被告が中期総合計画を実施していた昭和六二年から平成二年までの間、政府が行った円高不況対策としての公共投資の拡大や公定歩合の引き下げが民間設備投資、住宅投資や個人消費を誘発するなどして好景気(いわゆるバブル景気)をもたらした。通産省機械情報産業局通商室編「プラント産業の中期展望」(平成元年六月)には、前記「プラント産業ビジョン」の昭和六二年時点での危機的展望の後一年を経ずして、わが国経済は円高を克服してかってない活況を呈するようになり、鉄鋼業や化学工業は内需の拡大により増産体制に入り、設備投資が活発となって人員合理化は一段落し、エンジニアリング専業各社では、人員の量的不足や質の低下、生産余力の減少等の人員合理化の弊害もあらわれている旨の記載がある。

しかし、平成三年にはバブル景気が終わって民間設備投資や個人消費が落ち込み、わが国の経済は長期低迷の局面に至った。

被告の粗鋼生産量は平成二年度の二八九九万トンをピークに減少傾向をたどり、内部留保(特別積立金及び当期未処分利益)も平成三年の一五一五億円をピークに平成五年には一〇二七億円、平成八年には五七二億円と減少した。

(二) 被告は、平成二年四月、それまでの中期総合計画を引き継いで「新中期総合経営計画」(平成三年から平成五年まで)を実施し、一層の要員合理化の推進、事業規模の拡大と収益力の向上を目指し、製鉄事業においては労働生産性の向上、運転資産の圧縮、直行率の向上、エンジニアリング事業部門においては安定的な収益基盤の確立に向けて取り組む方針を示した。

(三) 本件事業部は、平成四年二月、「九六年事業構造計画」を策定し、従前の被告の製鉄プラント等の社内プロジェクトからの収益に依存する体質から脱し、平成八年を目処に外販規模一〇〇〇億円を達成して外販を中心とした自立的な事業体を確立し、事業転換の柱となる戦略事業分野として電炉・ミニミル、環境等の分野において重点的に事業の拡大を図り、製鉄プラント分野などの既存分野において、顧客拡大と技術力の強化に努め、事業規模を伸長するという目標を掲げ、コスト競争力を大幅に改善すべく、さらに二五パーセントのコストダウンを図ることを目標に掲げた。

(四) 平成五年に入り、被告の経営環境の悪化は極めて深刻となり、平成五年度の決算において株式売却を除く実質経常損益で八五〇億円の赤字に陥ったことから、被告は「第三次中期総合計画」(平成六年から平成八年まで)を策定して、市場分野や品種毎の国際競争力の基盤確立と収益力の早期回復による適正利益水準の確保を目指し、三〇〇〇億円規模のコスト削減を目標にコスト収益構造を抜本的に改革することとし、右計画の人員対策として技術職社員の要員合理化を一五パーセント程度(三〇〇〇名規模)を目処に行うこととした。

被告はこれらの計画を実施するに当たり、雇用を確保することを大前提として、出向を拡大するとともに、五五歳以上の者の関連会社への転出(転籍)を要請し、定年退職一年前の従業員を対象として長期教育・休業措置を実施し、早期退職に対する援助措置を拡充することとした。

(五) 平成八年にはそれまでのコスト削減の努力などにより八〇〇億円程度の経常利益の確保が見込まれるまでに収益が回復したが、特別積立金は過去最低水準に落ち込んでおり、ストックの回復には至らず、被告は収益力の向上と財務体質改善を図ることを目標に、平成八年一一月二六日、「中期経営方針」(平成九年から平成一一年まで)を策定し、組合に説明した。

中期経営方針では、製鉄事業においては国内外の市場で最強競合社と比肩し得るコスト競争力の達成を目指し、エンジニアリング事業においては製鉄事業に次ぐ中核事業として事業基盤の再構築を行い、その位置づけに相応しい事業規模、収益力の実現を目指し、分野別の事業戦略を確実に実行していくとともに外部調達費用や諸経費等の削減、管理間接部門の合理化等のコスト削減、新商品の開発と事業化に全力を注ぐことにより、強固な事業体質を確立し、収益率の向上と成長分野での事業規模の拡大を実現していくこととした。また、被告は要員合理化に伴う人員対策につき、今後とも出向措置を基本として出向先の開発に努めていくとした上で、五五歳以上の者の関連会社への転出(転籍)の協力要請、高齢者の長期教育・休業及び代休の取扱いの継続、早期退職援助措置の臨時増額を提案し、連合会はこれを了承した。

二  当事者の主張の概略

原告ら

1  本件出向命令は原告らの同意がなく、無効である。

(一) 出向労働関係は出向元会社、出向先会社及び労働者の三者間の法律関係であり、労働契約における使用者の義務の移転を伴う民法上の免責的債務引受の要素を含むから、三者の合意が必要であるが、本件出向命令は労働者と出向元会社及び出向先会社との合意がないから無効である。

(二) 労働契約の根本である指揮命令権者の変更を伴う出向については、出向すること自体、具体的出向先、出向中の労働条件、出向期間及び復帰の際の条件等につき、労働者の個別具体的な同意が必要である。

(三) 就業規則を出向命令の根拠とすることにつき

(1)  抽象的に出向を命じることがある旨の規定しか置いていない就業規則によって使用者の出向命令権を根拠づけることはできない。

(2)  業務委託に伴う本件出向命令のように出向期間の長期化が避けられない特殊な形態の出向については、就業規則によるという事実たる慣習が成立していたとはいえない。

(3)  原告らの入社当時、作業職社員の出向の事例はほとんどなく、あったとしても技術指導型出向ないし年満対策型出向だけであったから、就業規則の出向に関する規定は業務委託型出向や復帰を予定しない出向について労働者の応諾義務を定めたものとはいえない。

(4)  被告の労使間では、出向に際して出向対象者の同意を得るという解釈運用が定着しており、個別労働者の同意なしに出向命令は出さないという慣行が確立していた。

(四) 労働協約(社外勤務協定)を出向命令の根拠とすることにつき

(1)  労働者の出向義務を定める労働協約は協約自治の範囲を超え、かつ、労働条件の基準を定めたものにはあたらないから規範的効力を有しない。

(2)  被告と組合との間の労働協約及び社外勤務協定は極めて抽象的であり、合理性を欠くから本件出向命令を正当化する根拠とすることはできない。

(3)  被告が採用するユニオンショップ制の下では、労働者は自己の意思に反する労働協約を締結する組合から脱退することはできないのであるから、組合員に対し協約の規範的効力を及ぼすことは許されない。

(4)  労働協約の社外勤務に関する定め及びこれに基づく社外勤務協定は原告ら(原告濱中及び同野澤を除く。)の入社当時にはなく、右規定の創設は労働条件の不利益変更にあたり、原告らに対する拘束力を有しない。

2  本件出向命令は合理性、必要性がなく、権利濫用に該当し、無効である。

(一) 本件出向命令は悲観的すぎる事業規模予想に基づいてなされたものであって、被告の経営判断に合理性はなく、また、機械製造部門及びCAD設計製図部門ともに業務委託の必要性はなかった。

(二) 本件出向命令発令当時、岡崎工業の仕事量は少なく、業務委託に伴って機械製造部門に所属していた技術職社員全員を出向させる必要性、合理性はなかった。また、CAD設計製図部門の出向者二〇名のうち三名が出向後に減員となり、一七名でも支障なく業務を遂行できたのであるから、原告濱中及び同野澤を日鐵プラントに出向させる必要性はなかった。

(三) 本件出向命令により、岡崎工業への出向者は休日が減少し、出向先での配置転換の危険にさらされ、転籍対象者にされるなどの著しい不利益を受けており、日鐵プラントへの出向者については、当初は年間労働時間に差はなかったものの、その後被告の労働時間短縮により年間二六時間あまりの格差が生じるという不利益を受け、労働組合のない日鐵プラントにおいては今後も被告の労働条件改善に大きく遅れていく可能性が高く、原告らが受ける不利益は極めて大きい。

(四) 本件出向命令は出向期間が三年と定められているが、実質的には期間の定めがなく、復帰の見込みがないものであり、事実上労働者を企業から放擲するに等しい。

(五) 本件各出向延長措置については、通常の出向要件では足りず、当該出向を不可避とする事情があるなど特段の事情の存在が必要とされなければならないところ、平成三年度、平成六年度ともに本件事業部は十分な経常利益を上げており、原告ら六名が復帰することとなっても被告の経営にほとんど影響を与えないことは明らかであるから、平成四年三月一日及び平成七年三月一日の本件各出向延長措置はいずれも合理性、必要性を欠き、また、被告は平成八年度までに実施された第三次中期経営計画により経営危機を脱したのであるから、平成一〇年三月一日の本件各出向延長措置についても合理性、必要性はなかった。

被告

1  本件出向命令及び本件各出向延長措置の根拠につき

(一) 在籍出向を命じ、またその期間を延長するについて労働者の個別具体的な同意が必要であるとする根拠はない。

(二) 本件出向命令及び本件各出向延長措置は、いずれも原告らが遵守を誓約した就業規則、労働組合法一六条により規範的効力を有する労働協約及び労働協約の規定を受けて労使間で締結された社外勤務協定に基づいて行われたものであり、適法である。

2  権利濫用の主張につき

(一) 本件出向命令は被告の経営上、業務上の必要に基づく業務委託に伴い、委託された業務に従事していた原告らを対象としたものであり、合理性を有する。

(二) 原告らの勤務場所、業務内容、職場の人間関係、職場環境は出向前と何ら変わらず、給与は被告の給与が支払われ、社外勤務協定に基づき社内勤務者とほぼ同様の労働条件が保障されており、労働時間差については出向手当の支給によりその不利益の大半は補填されているから、本件出向命令及び本件各出向延長措置の業務上の必要性の程度と原告らが受ける不利益の程度との比較上、本件出向命令及び本件各出向延長措置はいずれも権利の濫用にあたらない。

第三判断

一  出向命令の有効要件

労働者が当該企業の従業員たる身分を維持したまま出向先の企業の指揮命令の下に業務に従事するいわゆる在籍出向は、労働契約の根幹をなす指揮命令権の移転と労働条件の不利益変更の可能性を伴うものであるから、使用者の出向命令権は労働契約に内包される一般的な人事権の範囲には含まれず、使用者は労働者との個別の労働契約に出向に関する約定があるか、または個々の労働者が出向に同意した場合でなければ、出向を命じることはできない。しかし、労働契約に約定がなく、労働者の個別具体的な同意がない場合であっても、就業規則もしくは労働協約に出向に関する規定があり、これらの規定が労働者の労働条件を直接規律する効力を有するための要件を具備している場合は、これに基づく使用者の出向命令は原則として有効となると解される。ただ、就業規則は個々の被用者の個別的な応否の余地がない普通契約約款の性質を有し、労働協約は団体的労働関係の維持を目的とする法律政策に基づき被用者個々の契約意思に関わりなく労働契約の内容となるのであるから、これらの規定に基づく使用者の出向命令権の行使は、場合によっては社会通念上予想される範囲を越えた不利益を労働者に課する結果となるおそれがあることに照らし、出向の必要性、人選の合理性、出向により労働者が受ける不利益の有無及び程度などの諸点の総合的検討の結果、権利濫用の法理により効力が否定されることがあると解される。

原告らは出向が出向元企業、出向先企業及び労働者の三面的な法律関係であり、民法上の免責的債務引受の要素を含むとして、右三者間の合意ないし労働者の個別的同意が不可欠である旨主張するが、在籍出向に民法上の免責的債務引受契約の法律関係を類推するのは困難であるし、出向が三面的な法律関係であることと労働者の個別具体的な同意を有効要件とすることとは論理必然的に結びつくものではないから、右主張は理由がない。

原告らは一般労働者として雇い入れた労働者を派遣の対象とするには当該労働者の同意を要する旨の労働者派遣法三二条二項との対比上、労働契約関係の一部が移転する出向においては当然に対象者の同意を必要とする旨主張するが、労働者派遣法の右規定は労働者の派遣が労働者供給事業の性質を有し、強制労働や中間搾取等の問題を引き起こすおそれがあるため、労働者の自由意思を確保する目的で設けられた規定であり、趣旨、目的、法的性質ともに異なる在籍出向にこれを類推すべき必然性、合理性はない。

二  本件出向命令の根拠

1  原告らと被告との間で原告らの入社(労働契約締結)時もしくはその後の契約関係存続中に出向に関して個別的、具体的な契約が交わされた形跡はなく、また、原告らがいずれも本件出向に同意しなかったことは争いがない。

2  就業規則中の出向に関する規定

原告らが入社した昭和三一年ないし昭和四八年当時の被告の就業規則に被告は従業員に対し業務上の必要により社外勤務をさせることがある旨の規定があり、原告らがいずれも右就業規則を遵守する旨の誓約書を提出したことは前認定のとおりである。

右就業規則の社外勤務に関する規定は労働基準法八九条一項一〇号の定める就業規則の相対的記載事項としての規定であり、その趣旨は、被告は従業員に対し被告以外の企業において就労すべき旨の業務命令すなわち出向命令を発する権利を有し、従業員は右命令に従う義務を負う旨を定めたものと認められる。

就業規則に定められた事項は労働基準法その他の法令や労働協約に違反せず、かつ、その内容が合理的なものである場合は、個々の労働者の知、不知及び承諾の有無を問わず、労働契約の内容となると解されるところ、被告の就業規則の出向に関する規定が労働基準法等の法令や被告の労働協約に反するとは認められず、また、被告のような大企業においては様々な経営上、業務上の理由に基づき従業員を関連企業において就労させる必要が生じることがあると推認される。しかし、出向させる必要があるというだけでは合理性を基礎づけることはできないうえ、右規定は極めて抽象的、包括的であり、出向を命じる場合の手続的要件、出向中の労働条件や復帰時の処遇等の定めを伴っていないため、合理的なものかどうかの判定は不可能というほかない。

したがって、就業規則中の右規定は被告と原告らとの各労働契約の内容となっているとはいえず、右規定があることをもって直ちに本件出向命令の有効性を根拠づけることはできない。

3  労働協約(社外勤務協定)について

(一) 被告と連合会との間において、会社は業務上の必要により組合員を社外勤務させることがあり、社外勤務については会社と連合会との間で別に協定する旨の規定を含む労働協約が締結されており、右協約に基づき、昭和四四年九月、社外勤務の定義、出向中の社員の地位、昇格昇級等の査定等に関して詳細な規定を設けた社外勤務協定が締結され、以後右社外勤務協定は被告と連合会との間で数次にわたり更新されてきたこと、本件出向命令当時の協定(昭和六三年三月二日付)にも出向中の従業員の処遇及び労働条件、出向期間、復職等に関する詳細な規定があることは前認定のとおりである。

(二) 右社外勤務協定は在籍出向という労働条件についての一般的基準を定めた労働協約にほかならず、有効に成立した労働協約は労働組合を構成する個々の労働者の労働契約を直接規律する効力を有するから、原告らは右社外勤務協定に定める内容にしたがい、被告の出向命令に従う義務を負い、被告が約束した処遇を受ける権利を有すると認められる。

ただ、在籍出向には種々の目的、態様があり、前認定の事実によれば、本件出向命令は一時的な業務上の必要に基づく短期間の出向ではなく、経営合理化のため被告の業務の一部を切り離し、他企業に委託することに伴うものであり、長期化が予想され、むしろ復帰の予定がないというべき出向を命じたものと認められるところ、原告らはこのような本件出向命令が有効とされるためには原告らの個別具体的な同意を必要と解するべきである旨主張する。しかし、前認定のとおり、被告は、昭和四五年ころ以降多数回にわたり業務委託に伴う出向及び出向期間の延長が行われてきたことを踏まえ、昭和六二年一二月二三日付の社外勤務協定更新に際し、連合会に対し、技術職社員を含む業務委託型出向の事例が増加するとともに出向期間が長期化し、将来とも右傾向が増大すると見込まれるとして社外勤務協定の見直しを提言し、交渉の結果、被告と連合会との間で「業務上の必要」の文言の解釈につき、新規事業にかかる出向や余力人員の活用策としての出向等も含め、幅広く運用する旨が確認されたこと、社外勤務協定は三年以上の長期にわたる出向や出向期間の延長があることを予定しており、業務委託型の長期出向も対象に含めていると解されることに照らし、右社外勤務協定が業務委託型の長期出向にはおよそ適用されず、したがって出向命令の根拠となる労働協約は存しないと解さなければならない根拠はない。また、業務委託型出向の場合、従前の職種、職階、職場、同僚等の労働条件及び労働環境に変動がなく、ただ勤務先の名称が変わったのみといって差し支えないケースがあり得るし、出向先企業と出向元企業が親会社と子会社であるなど資本や組織等において密接な関係にある場合は、よりいっそう出向の色彩が薄れるという面があるから、長期化が必至で復帰の予定がないという点のみに着眼して、直ちに労働者が受ける不利益が大きく、したがって個別具体的な同意を要するという結論を導くことはできないというべきであり、原告らの右主張には左袒できない。

(三) 原告らは社外勤務協定は協約自治の限界を超え、規定が抽象的で合理性を欠くから出向命令を法律上正当化する根拠となり得ない旨主張するが、労働組合が労働者の雇用を確保するためにやむなく出向を容認するに際し、等しく出向の対象者となり得る可能性のある労働者の多数意思を代表して使用者と労働協約を締結することにより、出向による労働者の不利益をできるだけ回避するための枠組みを定めることは、労働者の利益を擁護するために必要にして有効な手段であるから、出向に関する事項が協約自治の範囲内にあることは明らかであり、また、前記のとおり詳細な規定を設けた社外勤務協定が抽象的で合理性を欠くという見方は根拠がない。

原告らは、ユニオンショップ制の下では、労働組合が労働者の意思を反映しているといえない場合は組合員に対し協約の規範的効力を及ぼすことは妥当でない旨主張するが、連合会及び八幡労組は、業務委託及びこれに伴う人員措置に関する被告の提案についてその都度協議し、各職場の意見を求めた上で対処したものであり、組合員の意思または利益に反する活動をしたことを認めるべき証拠はなく、また、ユニオンショップ制の採用と労働協約の規範的効力に関する主張は各制度の趣旨を正解しない独自の見解であり、理由がない。

原告らは、労働協約の出向に関する規定及び社外勤務協定は原告濱中及び同野澤を除くその余の原告らの入社当時にはなく、その後に設けられた規定であり、右規定の創設は労働条件の不利益変更にあたるから原告らに対する拘束力を有しない旨主張するが、これは使用者が一方的に定める就業規則と労働協約の効力の差異を無視した議論であり、理由がない。

原告らは出向命令の発令にあたっては出向対象者の具体的同意を得るという運用が定着していた旨主張するが、被告の労使関係において具体的同意がない場合は出向命令を発しないとする慣行が存在し、このため同意しなければ出向させられることはないという認識ないし期待が被告従業員の間で一般化していたという事実を認めるに足りる証拠はない。

三  権利の濫用について

1  本件出向命令の必要性につき

(一) 機械製造部門につき

前認定の事実によれば、被告が本件事業部中の機械製造工場の業務を岡崎工業に委託し、これに伴って同工場の余剰人員を同社に出向させることを決定するに至ったのは、被告の中期総合計画が策定された昭和六二年以降本件出向命令当時に至る国内外の経済情勢、被告の製鉄事業部門における生産規模の縮小などの背景事情のもとで市場競争力の維持を図るために市場価格べースのコスト水準を達成し、かつ、準内製という形で工場運営を可能にし、さらに機械製造工場の従業員の雇用を確保する必要に迫られていたことによるものであり、当時の経済情勢に対応して企業の存続と従業員の雇用確保を図るべき責務を負う被告経営陣による長期的な企業経営戦略の一環として行われたものと認められ、右業務委託及びこれに伴う機械製造工場の要員の出向命令は被告の企業経営上の必要性に基づくものであったと認められる。

原告らは、平成二年から四年までの間の本件事業部の受注高が被告の予想を大幅に上回ったことを指摘し、機械製造工場の業務委託は悲観的すぎる見通しを前提として行われたものであり、また、右業務委託により要員の効率的運用や仕事量の平準化などの効果は生じていないから、出向の必要性はなかったと主張し、さらに、被告の全般的な経営不振とこれに基づく組織、人員等の合理化は、いわゆるオイルショック後のわが国及び世界の経済情勢、為替の変動、鉄鋼需要や産業構造の変化を読み誤り、適切な対応をしなかった被告に責任があり、これを労働者に転嫁する業務委託等の合理化には正当性、合理性がない旨主張する。

確かに、平成元年から平成四年ころまでは、一時的な内需景気や大型プロジェクトの受注があったため、本件事業部の受注額は一〇〇〇億円を超える高いレベルで推移し、かつ、被告独自の受注分が多く、岡崎工業の受注分により機械製造工場の仕事量の谷間を埋める必要は比較的少なかったと認められる。しかし、一時的な経済情勢の好転のために業務委託の見かけ上の成果が現れなかった点は、その後の長期不況下における被告の全般的な経営不振の状況からして業務委託を含む被告の経営合理化は不可避の方向であったといえること、後記のとおり平成六年度以降は山九の独自受注分(その中には被告の競合会社で従前被告とはあまり取引のなかった川崎製鉄等からの受注が含まれる。)の割合が急激に増加し、平成九年度には全受注高の約三〇パーセントを占めるに至り、タイムチャージも着実に減少してコスト削減の効果が現れており、山九黒崎工場から要員の派遣を受け、山九の協力会社から応援を受けて仕事量の増加に柔軟に対応し得た例があるなど要員の効率的運用の面においても成果が上がったことに照らし、被告の業務委託及びこれに伴う出向命令の必要性がなかったことの徴憑にはなり得ない。被告が当時の国内外の経済情勢の変動に適切に対応しなかったために経営不振を招いたのであるから、これに基づく業務委託等の合理化方策には正当性、合理性がない旨の原告らの主張については、裁判所の法律判断の範囲を超えるものというほかない。

(二) CAD設計製図部門につき

前記のとおり、被告は本件事業部の競争力を強化するため、設計部門においても設計技術力の強化を早急に行う必要があったことから、本件事業部調整部技術管理室において基盤整備に取り組んでいたCADの持つ製図機能をより積極的に活用すべく、圧倒的に製図量の多い計画設計ないし詳細設計を担当する部門におけるCADの活用が現実的かつ効率的な方策であり、詳細設計業務とCAD製図作業の一体的運用を図ることによって詳細設計技術、CADソフト開発及びオペレーター業務の一貫対応体制を確立し、CAD活用範囲の拡大と実用の加速化を可能とすることを目的として、基本設計と計画設計の業務を本件事業部に残し、詳細設計及びCAD業務を切り離して日鐵プラントに委託することとしたこと、日鐵プラントは数値解析業務及び設計分野へのコンピューター適用技術を保有しており、これとCAD技術を併せ持つことで、CAD活用範囲の一層の拡大と社外市場への積極的な事業展開を期待し得たことに照らし、右業務委託及びこれに伴う原告濱中らに対する本件出向命令は経営上の必要性に基づくものであったと認められる。

原告らは、業務委託の前後で要員や設備に変化はなく、従前の体制でも作業効率の向上や図面単価の低減は実現できたから、業務委託の必要性はなかった旨主張するが、前認定のとおり、右業務委託後、様々な分野における設計者とCAD製図者の連携により部品図等のCAD製図標準が作成され、図面管理表システムが整備され、数値解析グループとの連携により作業効率が向上し、その結果、平成九年ころには製図生産性は六〇パーセント向上し、図面単価は五四パーセント低減されたなどの成果があったことからして、右主張は理由がない。

2  人選の合理性につき

本件出向は、本件事業部の機械製造工場の業務を岡崎工業へ、CAD設計製図部門の業務を日鐵プラントへそれぞれ一括して委託し、同時に右各委託業務にかかる設備を委託先会社に貸与したことに伴い、これによって生じた余剰人員の雇用を確保し、かつ、業務委託を円滑に行うための要員措置としてなされたものであることに照らし、被告が右各業務に従事していた原告らを出向させたことには十分な合理性があったと認められる。

3  本件出向命令発令に至る労使交渉につき

機械製造工場の業務及びCAD業務の委託、原告らを含む右各業務従事者の出向についての昭和六三年一一月九日以降の被告と八幡労組との交渉の経過、被告の原告らに対する説得と出向に応じた他の従業員に遅れて本件出向命令が発せられた経過、八幡労組の対応は前認定のとおりであり、右事実によれば、本件出向命令は、原告らを含む出向対象者及び組合に対する事前の説明と説得の手続に欠けるところはないと認められる。

被告による出向先での労働条件の説明は不十分であった旨の原告らの主張事実を認めるに足りる証拠はない。

4  原告らの不利益につき

前認定のとおり、本件出向命令により原告らが労働時間の点において不利益を受けた事実はあるものの、これに対しては出向手当Bの支給がなされたこと、機械製造部門及びCAD設計製図部門の施設、設備は出向先会社に貸与され、委託された業務に従事していた従業員全員が出向したため、出向後の各従業員の勤務場所、職務内容、職場環境に変化はなかったこと、出向者は社外勤務協定により労働時間等を除き社内勤務者とほぼ同様の労働条件が保障されていることに照らし、原告らが本件出向命令により労働条件、生活関係において著しい不利益を受けたとは認められない。

原告らは出向者は転籍の対象とされるという不利益を受ける旨主張するが、被告は平成六年三月三一日の箇所経営審議会ないし労使委員会において、転籍については本人の同意が必要である旨回答し、現に原告川原は定年退職前の教育・休業措置により被告に復職するにあたり、本件事業部調整室から転籍意思の有無を問われ、これを拒否したところ、その後転籍の話はなかったことに照らし、転籍対象者とされることが不利益にあたるとは認められない。

原告らは本件出向が復帰を予定しないものであること、被告が出向回避策を採らなかったことを理由に、本件出向命令が権利の濫用にあたる旨主張する。しかし、本件出向は在籍出向であって、原告らは出向後も被告との間の労働契約関係に基づき社内勤務者と大差がない処遇を受けることが保障されており、被告によって解雇されない限り、出向先会社から退職を強いられることもない安定した立場にあるから、出向の長期化が予想されることをもって、事実上企業から放擲するに等しい旨の原告らの主張は当を得ず、また、被告が出向回避の方策を取る余地があったことを認めるに足りる証拠はなく、仮に本件出向が回避されたとしても、業務委託により原告らが従前稼働していた部署が廃止されたため、原告らは職種の変更、より大きな不利益を伴うおそれがある配置転換に直面したであろうと推認されることからして、被告が出向回避の措置を講じるべきであったとは認められない。

5  以上の次第であるから、原告らに対する本件出向命令はいずれも権利の濫用にあたるとは認められず、これを無効とする根拠はない。

四  本件各出向延長措置について

1  平成四年三月一日、平成七年三月一日、及び平成一〇年三月一日の三回にわたってなされた本件各出向延長措置は社外勤務協定四条一項の規定に基づいており、労働協約である右社外勤務協定が労働条件についての一般的基準を定めたもので、労働組合を構成する個々の労働者の労働契約を直接規律する効力を有することは前記のとおりであるから、原告らは、出向命令の場合と同様、社外勤務協定にしたがって被告の業務命令(出向延長措置は、先行する出向命令に基づき、出向期間を延長する新たな業務命令と解される。)に服するべき義務を負うが、右業務命令が延長出向の必要性、出向延長により労働者が受ける不利益の有無及び程度などの要素に照らし、業務命令権の濫用に該当すると認められる場合は無効となると解される。

これに対し、原告らは、出向期間の延長は、労働者の復帰の期待ないし権利を事実上喪失させるものであるから、通常の出向要件では足りず、出向の延長を不可避とする特段の事情が必要とされなければならず、延長が繰り返されるたびにその要件は加重されなければならない旨主張する。しかし、社外勤務協定の規定上、出向期間の延長の要件は「業務上の必要」があることで足り、延長の際の要件が特に加重されていると解することはできない。また、一般的には、労働者が出向により労働条件や勤務地等の生活条件において具体的な不利益を受けている場合、これが所定の出向期間の満了により解消されることへの期待は保護されるべきであるけれども、業務委託に伴う本件出向命令の場合、原告らにおいて、被告の組織合理化に伴う業務委託がわずか三年間で必要性がなくなって解消され、出向も終了するであろうという期待を抱く根拠となるに足りる客観的事情があったとは認められないから、原告らの右主張は本件の場合にはあてはまらない。

2  本件各出向延長措置の必要性について

(一) 前認定のとおり、被告の経営状況は平成三年度以降いわゆるバブル崩壊によって経常利益が激減し、平成五年度には一八三億円の経常損失が出る状況となり、第三次中期経営計画の実施により平成八年度には八〇〇億円程度の経常利益が見込まれるところまで改善されたものの、過去最低水準にまで落ち込んだ特別積立金を回復するには至らず、本件事業部においても、被告の新中期総合経営計画を受けた九六年事業構造計画(平成四年二月)により平成八年を目処にコスト競争力の改善のため大幅なコストダウンを図ることとしたが、平成五年以降、被告の経営環境の悪化は極めて深刻となったこと、被告は中期総合計画により一万九〇〇〇名を削減したのに続いて、第三次中期総合計画により三〇〇〇名規模の技術職社員の合理化を行う一方、雇用確保のため出向を拡大し、長期教育・休業措置、早期退職援助措置を拡充し、平成八年に策定した中期経営方針において、人員合理化方策として、さらなる出向先の開発、五五歳以上の者の関連会社への転出(転籍)の協力要請等を実施していくこととし、これにつき組合の了解を得たことに照らし、本件各出向延長措置は、被告の業務委託を含む経営合理化、コスト削減とこれによる余力人員の活用、雇用確保等の経営上の必要性に基づくものであったと認められる。

(二) 機械製造工場の業務委託がコストの削減(タイムチャージの減少)及び仕事量の平準化、受注先の拡大等において一定の成果を上げていたことは前記のとおりであり、これに被告が平成七年一〇月に機械製造工場の管理業務のうち外注メーカーに発注する設備についての製造管理業務も全て山九に移管したことを併せ考えると、本件各出向延長措置当時、右業務委託及び原告川原らの出向を継続する業務上の必要性はむしろ高まっていたと認められる。

(三) CAD設計製図業務の委託後、日鐵プラントCADセンターにおける作業効率の向上、詳細設計業務の効率化と図面単価の低減、業務対応力の向上等の成果があったことは前記のとおりであり、本件各出向延長措置の当時、CAD設計製図部門の業務委託及び原告濱中らの出向を継続する業務上の必要性があったと認められる。

3  本件各出向延長措置により原告らが受ける不利益につき

本件各出向延長措置後も原告らの勤務場所、勤務環境及び労働条件に変化はなく、本件各出向延長措置により原告らが特段の不利益を受けた事実は認められない。

4  以上の検討結果によれば、本件各出向延長措置はいずれも権利の濫用にあたるとは認められない。

第四結論

よって、原告らの本件請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 池谷泉 裁判官 中嶋功 裁判官 小野寺優子は転補のため署名押印できない。裁判官 池谷泉)

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