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福岡地方裁判所小倉支部 平成2年(ワ)986号 判決 1994年2月01日

原告

ミリオンコーポラス高峰館管理組合理事長

外山憲一

右訴訟代理人弁護士

三津橋彬

笹森学

田中峯子

吉田康

鈴木高志

石川善一

花井増實

折田泰宏

中村広明

河村利行

石口俊一

吉野正

中島繁樹

村井正昭

梅野茂夫

矢野正剛

三浦邦俊

椛島修

山喜多浩朗

中村仁

山上知裕

佐藤進

服部弘昭

荒牧啓一

金弘正則

村山博俊

松本光二

被告

百万両住宅株式会社

右代表者代表取締役

平田三郎

右訴訟代理人弁護士

永松達男

主文

一  原告の主位的請求(不当利得金請求)を棄却する。

二  被告は、原告に対し、金二四四〇万円及びこれに対する平成二年一〇月二六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  (主位的・予備的請求)

被告は、原告に対し、金二四四〇万円及びこれに対する平成二年一〇月二六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  受継前原告友末正勝は、別紙物件目録記載の建物(ミリオンコーポラス高峰館。以下「本件マンション」という。)の各専有部分の建物を所有し、敷地権の目的である土地(北九州市小倉北区高峰町二二番一五、宅地、1203.72平方メートル。以下「本件敷地」という。)の共有持分を有する区分所有者全員(以下「区分所有者全員」という。)により構成される団体である本件マンション管理組合(以下「管理組合」という。)の管理者たる理事長であり、平成二年九月一五日、管理組合の臨時総会において、本件訴訟の追行権を授権され、本訴を提起したが、原告は、平成五年三月二八日開催の管理組合総会において、理事長に選任され、管理者として本訴を受継したものである。

2  本件マンションの各区分所有者は、昭和六三年七月から一一月ころにかけて、別表記載のとおり、完成予定の本件マンションの専有部分の建物及び本件敷地の共有持分を、それぞれ被告から買い受け(以下この各売買契約を「本件各売買契約」という。)、右各専有部分の建物につき直接保存登記手続をしている。

被告は、本件敷地の一部(空き地部分)に二五区画の駐車場を設け、本件各売買契約締結の際、別表記載のとおり、これに対する専用使用権を、全区分所有者中二五名(以下「駐車場専用使用権者」という。)に対し、一人一区画ずつ分譲し、その対価として合計金二四四〇万円を受領した。

3  (不当利得 主位的請求の請求原因)

しかし、本件敷地は区分所有者全員の共有に属しているから、駐車場専用使用権者に対して駐車場の引渡しをしたのは、区分所有者全員であって、被告ではない。つまり、被告は、本件敷地が区分所有者全員の共有になった後、本件敷地の一部を駐車場として、一部の区分所有者に対して分譲し、その代金の名目で合計二四四〇万円を取得し、区分所有者全員は、共有土地である本件敷地の一部を駐車場専用使用権者に使用させるという義務を負ったのである。また、駐車場専用使用権は、私的な契約によって法定外の物権を設定しえないこと、平等使用を原則とする共有敷地の性質を害してはならないこと等からすれば、賃借権類似の使用権にすぎないものであり、右代金は使用利益の対価というべきである。そして、右専用使用権が設定された結果、区分所有者全員は、本件土地の利用を一部制限されるという損失を不可分的あるいは総有的に被っており、他方、被告は何らの根拠もなく右二四四〇万円を利得している。したがって、区分所有者全員は被告に対し、右二四四〇万円の返還を求めることができるところ、管理組合は、本件マンション及び本件敷地の管理権を有し、管理に関する事項として、右返還請求権を行使することができる。

よって、原告は、被告に対し、民法七〇三条に基づき、駐車場分譲代金相当額二四四〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成二年一〇月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

4  (委任 予備的請求の請求原因)

前記のとおり、駐車場専用使用権者の有する専用使用権が、賃借権類似の債権であり、その設定契約が、管理組合(または区分所有者全員)と駐車場専用使用権者との間で締結された契約関係であること、その設定が、本件敷地の管理または変更に該当し、管理組合の権限に属するかまたは区分所有者全員の集会決議によらなければならないことからすれば、区分所有者全員が、駐車場専用使用権認諾特約付きの売買契約書にそれぞれ署名したことによって、駐車場専用使用権者に対し、各駐車場の専用使用権を設定することを認め、その設定契約を被告に委任する旨の書面決議をなし、この決議に基づいて、被告が、管理組合(設立過程にある管理組合ということもできる。)を代理して、駐車場専用使用権者に対して駐車場専用使用権を設定し、その対価として合計二四四〇万円を受領したものというべきである。したがって、被告が、駐車場専用使用権の分譲代金の名目で受領した右二四四〇万円は、受任者たる地位に基づいて、右委任事務を処理するにあたり受け取ったものであるから、管理組合は、被告に対し、委任契約(民法六四六条一項)に基づき、右金員の返還を求めることができる。

よって、原告は、被告に対し、不当利得請求が認められないときは、予備的に委任契約に基づき、右金二四四〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成二年一〇月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

1  請求原因1の事実のうち、管理組合が原告主張の団体であることは認め、その余は不知である。

2  請求原因2の事実は認める。

3  請求原因3、4の各事実は争う。

4  被告の主張

(一) 本件駐車場分譲契約の法的性質

一般に、分譲業者が複数の専有部分のあるマンションを新築して分譲する場合、分譲業者が、その一棟の建物の複数の専有部分及び敷地の全てを所有し、これをどのような方法で販売しようとも、私的自治と契約自由の範囲内の問題ということができる。本件駐車場分譲契約は、本件各売買契約に付随して、分譲業者である被告が、特定のマンション購入者との間で、駐車場の専用使用権を付与する契約を結ぶと同時に、分譲業者が他のマンション購入者全員から右付与につき同意を取り付ける義務を負担する契約であって、分譲業者が他のマンション購入者全員から同意を取り付けることによって、駐車場の分譲を受けた者は、反射的に駐車場を専用使用する利益を取得し、結果として非取得者は、そのような負担のあるマンション及び敷地の共有持分を取得する。したがって、分譲業者がマンション購入者に対し、マンション及び専用使用する土地の引渡しを行い、他のマンション購入者全員の同意取付けを完了するのと同時に、分譲業者の契約上の義務履行は完了するのであって、その後は履行の問題を残さないのであるから、分譲業者が駐車場として使用することができる状態にする義務を負担するとか、マンション購入者全員が、使用させる義務を不可分的に承継するとかの観念を入れる余地はない。

駐車場専用使用権の性質は、右のような地位であって、権利の性質は本件において重要なものではない。

(二) 駐車場分譲の対価の帰属について

(1) (請求原因3について)

被告は、本件マンション完成後、平成元年三月中に本件マンションの分譲を完了し、必要な登記手続及び引渡しを完了した。その際、被告は、駐車場専用使用権を分譲する権利を留保したうえ、右分譲をしたものであり、本件マンション購入者すべてが右権利が留保されたこと及び駐車場専用使用権者が駐車場を専用使用することを承認して本件各売買契約が締結され、被告は、専用使用権者に対し、分譲した駐車場の引渡しをなし、かつ、本件マンション購入者全員の同意の取付けを完了し、契約当事者双方の義務履行が完結し、被告はその報酬(手数料)として合計二四四〇万円を受領したものであり、右金員が不当利得にあたらないことは明らかである。

前記のとおり、被告から駐車場専用使用権者に対し駐車場の引渡しがすでになされていたこと、駐車場専用使用権者は、被告が区分所有者全員の認諾を取り付けたことにより他の共有者から妨害がなされないことの反射的効果として駐車場を専用使用することが可能であることからすれば、管理組合は対価の対象となる有償の債務を負ってはいない。

仮に、原告が主張するように駐車場専用使用権が賃借権類似のものであるとしても、被告が取得した分譲代金は、賃料の前払いとは断定できず、かえって、後記のような販売価格の設定方法が取られたことからすれば、これを売主である被告に帰属させる旨の清算の約定が被告と本件マンション購入者全員の間にあったとみることができ、被告の分譲代金の取得は不当利得とはならない。

(2) (請求原因4について)

駐車場専用使用権の設定が前記のようなものである以上、原告主張の代理という観念を入れる余地はない。すなわち、管理組合は、全部またはほとんどの本件マンションの区分所有権が本件マンション購入者に分譲され、区分所有・共有関係が生じた段階で成立すると考えるのが妥当であるから、原告主張の駐車場分譲契約に関して、分譲業者が管理組合を代理するという論理は、管理組合なる実体が存しないため、存在しない実体の代理という観念が存在しないという意味において成立不可能な理論である。そして、管理組合の実体が成立した後においては、そもそも、管理組合は、専用使用の負担のある駐車場を管理する権限を取得するだけであって、前記のように駐車場を設置運営する権限を取得する余地はないから、駐車場専用使用権の設定を被告に委任することは不可能であった。

仮に、このような代理的構成をとるとしても、管理組合ないし設立中の管理組合が被告に対して委任したのは、専用使用権の割当て行為、すなわち、特定の区分所有者との間で駐車場の専用使用権設定契約を締結すること及びその対価の受領行為であり、その対価は被告に帰属させるという趣旨の清算の合意があったと解すべきである。なぜなら、本件マンション購入者全員は、まず、駐車場専用使用権の付着しないマンションを駐車場代金の分だけ安く購入し、その所有権に含まれる土地利用権の売却を分譲業者に委託し、専用使用権希望者は右委託を受けた分譲業者から駐車場の割当てを受け、特別の代金を支払って専用使用権を取得するからである。マンションの通常の価格決定過程からすれば、本件敷地の共有持分を取得した区分所有者全員が、土地の利用権の売却を分譲業者に委託し、右売却金を分譲業者が取得すると解釈することが素直な解釈である。この場合、明らかに二重利得していると認められるのでない限り、駐車場専用使用権の付着しない区分所有建物の価格が、時価より高いか安いかは問題ではなく、駐車場専用使用権に明確な価格が設定されていることから、これの付着しない区分所有建物及び本件敷地持分の価格より明白に右駐車場価格分だけ安いということが重要なのである。

第三  証拠関係

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1の事実のうち、管理組合が本件マンションの区分所有者全員により構成される団体であることは当事者間に争いがなく、その余の事実は、受継前原告友末正勝本人尋問の結果及びこれによって真正に成立したことが認められる甲第四、第五号証並びに弁論の全趣旨によって認めることができる。

二  請求原因2の事実は争いがない。

三  本件駐車場専用使用権分譲契約の検討(請求原因3、4について)

1  前示の事実に、成立に争いがない甲第一ないし第三号証、第六号証の一ないし三二、第一八、第一九号証、第二一号証の一、二、乙第一四号証、証人池田武の証言により真正に成立したことが認められる乙第一五号証、証人吉本敬貴、同平田博通、同池田武の各証言及び前記友末正勝本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の(一)及び(二)の各事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(一)  被告は、昭和六三年七月から同年一一月ころまでの間、本件敷地上に本件マンション(専有部分の建物戸数三一戸)を建設して分譲販売するに際し、本件敷地の一部(空き地部分)に二五区画の駐車場を設けて、本件マンションの分譲とは別に、各駐車場についての専用使用権を、駐車場の使用を希望する本件マンション購入者に対して、三区画を八〇万円(一区画当たりの単価。以下同じ。)、二区画を八五万円、五区画を九〇万円、五区画を一〇〇万円、四区画を一〇五万円、六区画を一一〇万円でそれぞれ分譲し、その後本件マンションが完成し、平成元年三月中に、購入者全員から売買代金が完済され、駐車場専用使用権者は駐車場の代金として合計二四四〇万円を被告に支払い、被告は、本件敷地につき敷地権の登記をし、本件マンションの各区分所有権の保存登記手続がなされ、区分所有者への本件マンションの引渡しを行った。そして、同年三月から六月ころに本件マンションへの入居がなされ、駐車場専用使用権者は各駐車場区画の使用を始めた。

本件各売買契約と同時に、被告が、本件マンション購入者全員との間で交わした管理委託契約書(乙一四号証はその一部。以下「本件管理委託契約書」という。)には、本件マンション購入者は、被告に対し、本件マンションの専有部分を所有する間、その建物・敷地及び付属施設(集合アンテナを含む)の管理並びに環境の維持に必要な処理及び業務を委託する(一条)、マンション購入者は被告に対し、管理費(月額六五〇〇円)六か月分を諸手続開始時に前納する(二条一項)、被告は、本件マンションの竣工後六か月以内、または入居者が八〇パーセント以上となったとき、「建物の区分所有等に関する法律」に基づき区分所有者全員で結成する管理組合に引き継ぎ、本件委託契約を解除する(八条)旨各規定されている。

被告は、右契約(以下「本件管理委託契約」という。)に基づいて、一般の管理費(本件管理委託契約書二条一項記載のもの)と合わせて修繕積立金や、後記駐車場専用使用共益費を徴収する業務を行い、入居者が八〇パーセント以上となった同年六月ころ、管理組合に対し、右管理費等から経費を差し引いた金銭の引渡し等の管理業務の引継ぎがなされ(計算関係については乙第一五号証及び第一六号証参照。)、同年七月ころには、管理組合の第一回総会が開かれた。

(二)  被告が本件マンション購入者全員との間で交わした本件マンションの土地付区分建物売買契約書(甲第三号証及び第二一号証の一はその一部であり、代金額等の区分所有者ごとに個別に決せられる点を除き内容は同一である。以下「本件契約書」という。)には、本件敷地は本件マンションの区分所有者全員の共有とする(八条)、売買対価としては駐車場対価としての代金を含む(一条)、本件マンションの買主は、土地の一部を駐車場として特定の区分所有者に専用使用させることを認諾する、その場合、専用使用部分は現況のまま使用し、工作物の構築及び使用目的の変更はできない、買主は専用使用にあたり別に定める費用を払わなければならない(九条)旨各規定されており、結局、駐車場対価については、売買対価に含まれると記載されているだけである。

そして、本件各売買契約の際に各本件マンション購入者に対し交付された重要事項説明書(甲第一八号証及び第二一号証の二はその一部であり、区分所有者ごとに個別に決せられる点を除き内容は同一である。)には、「専用使用権に関する規約等の定め」として、「駐車場」の欄に、「専用使用をなしうる者 特定区分所有者」、「専用使用共益費の有無 有り:一区画当り一ヶ月五〇〇円」、「専用使用共益費の帰属先等 管理組合」と記載されているが、本件契約書記載の「駐車場対価」については、これを説明する具体的記載が全くない。また、本件マンション購入希望者に渡された本件マンションの価格表(甲第二号証)や図面集(甲第一九号証)をみると、価格表には、駐車場の一区画あたり、八〇万円から一一〇万円の価格の記載があるだけで、駐車場を経営するのが誰であるか等の駐車場の対価の帰属を窺わせる具体的説明はなく、図面集にも、本件駐車場の配置図が載せられているだけで、同様に右に関する具体的説明はない。

被告が作成した本件マンションの管理規約案(甲第一号証。区分所有者全員により承認されて管理規約として成立。)には、専用使用権の定義として「敷地及び共用部分等の一部について、特定の区分所有者が排他的に使用できる権利」(二条)と規定され、区分所有者は別表第3に掲げるバルコニー、玄関扉等及び駐車場、屋上テラスにつき専用使用権を有することを承認し、区分所有者から専有部分の貸与を受けた者が右専用使用部分を使用することができる(一四条)旨規定され、別表第3には、特定区分所有者が使用する場所として「屋上テラス 敷地(駐車場、専用庭)」と記載されているが、やはり、本件契約書記載の駐車場対価についての説明はない。

2  駐車場専用使用権及び分譲契約の法的性質

(一)  ところで、宅地建物取引業法三五条一項五号の二、同施行規則一六条の二第三号は、共用部分に関して専用使用権があるときは、その内容を重要事項説明書の中で説明しなければならないと規定し、建設省は、これを受けて、「宅地建物取引業法及び積立式宅地建物販売業法の一部を改正する法律、宅地建物取引業法施行令及び地方公共団体手数料令の一部を改正する政令及び宅地建物取引業法施行規則の一部を改正する省令の施行について」と題する通達(昭和五五年一二月一日建設省計動発第一〇五号。甲第二八号証の二参照。)の中で、重要事項説明書における駐車場専用使用権に関する説明の具体的態様について、「専用使用権は、通常、駐車場、専用庭、バルコニー等に設定されるものであるが、このうち駐車場については特に紛争が多発していることに鑑み、その『内容』としては、専用使用をなしうるものの範囲、専用使用料の有無、専用使用料を徴収している場合にあってはその帰属先等を記載すること」としている。この通達からも窺われるように、宅地建物取引業法三五条一項五号の二や同施行規則一六条の二第三号の趣旨は、マンションにおける駐車場専用使用権をめぐる紛争を防止するために、宅地建物取引業者である分譲会社に対して、専用使用権の内容に関するマンション購入者に対する説明を、書面によって十分にさせることを要請していると解するのが相当である。

また、建設省は、右通達に先んじて、「民間分譲中高層共同住宅(分譲マンション)に係る施工管理の徹底、取引の公正の確保及び管理の適正化について」と題する通達(昭和五四年一二月一五日建設省計動発第一一六号、建設省住指発第二五七号。甲第二八号証の一参照。)の中で「共有敷地等における使用収益関係等の明確化」として、「共有敷地及び建物の共有部分の権利関係、使用収益関係を巡って紛争を生ずる事例が多いことに鑑み、取引段階においてこれらを明確にすること。特に、分譲業者が共有敷地等に専用使用権を設定してその使用料を得る等の例は、現在少なくなっているが、取引の形態としては好ましくないので、原則として、このような方法は避けること。また、専用使用権の設定に当たっては、存続期間、使用料等について公正かつ妥当なものとし、これらを管理規約等において明定するとともに、これから生ずる収益等については、修繕積立金への繰り入れにより区分所有者の共有財産に帰属させる等公正な処理を行なうこと」として各地方公共団体や業界に対して行政指導している。

したがって、分譲業者である被告は、本件敷地上に存する駐車場専用使用権の対価を取得するのであれば、宅地建物取引業者の義務として、本件各売買契約時において、どのような権限に基づいてその対価を取得するのかについて、少なくとも前記通達で要求している程度は、書面によって説明すべきであったということができる。

(二)  ところが、前記1(二)にみたとおり、被告は、本件契約書中に、専用使用権の内容として、区分所有権者は、土地の一部を駐車場として特定の区分所有者に専用使用させることを認諾するという条項は置いているものの、その対価については、単に駐車場専用使用権分譲代金が売買の対価に含まれるという条項を置いただけであって、これだけでは、分譲業者である被告が、どのような権限に基づいて駐車場専用使用権の対価を取得するのかについて、契約書上、十分な説明がなされているとは評価できない。そして、本件契約書の内容を補完するものとして、宅地建物取引業法により、その作成・交付が義務づけられている重要事項説明書の中にも、駐車場専用使用権の対価について全く説明がないばかりか、「専用使用共益費」という紛らわしい表現を用いて説明をしたような外観を整えているだけであり、そこでは、「専用使用共益費の帰属先等」として、「管理組合」と記載されていることから、むしろ被告が取得した駐車場の対価である専用使用料も管理組合に帰属する趣旨であるかのようにも読める記載となっている。また、本件各売買契約に際して、被告から各区分所有者に対して交付された他の書面(前記図面集及び価格表)にも、駐車場の対価の帰属先等について、本件契約書や重要事項説明書の内容を補完するような記載は全くない。さらに、管理規約案においても、専用使用権の定義の説明はあっても、本件契約書記載の駐車場対価についての説明はない。この点に関し、被告専務取締役である証人平田博通は、駐車場を別売りする際に賃貸ではないと説明しているなどと供述しているものの、マンション購入者に対して具体的にどう説明したかについての明確な供述はなく、また、被告の元従業員であり、本件マンション分譲に際して宅地建物取引主任として本件契約書や重要事項説明書の説明をした証人池田武も、共有の土地であるが、専用使用権を買ってもらうと説明した、駐車場は専有部分の建物を所有している限り永久に使用できる、出ていくときは売ってよい、代金は当事者間で決めてよい、使用できる権利を売る、一種の地上権みたいなものである旨説明したなどと供述するだけであって、結局、口頭によっても本件契約書や重要事項説明書等の不十分さを補う具体的説明がなされたと認めることはできない。また、専用使用権に関し、証人平田は、区分所有者間で駐車場専用使用権が独立の売買の対象となること、駐車場は専有部分の建物を所有している期間使用できるとの考えで売却にあたり、駐車場を別売りする際は賃貸ではないと説明するよう従業員に指導したこと、本件マンションの販売計画において、土地の取得費及びマンション建築費、環境整備費に金利を加えた総原価を八五パーセントで割り、総売価を出し、これから付加価値分として駐車場、専用庭、ルーフバルコニーの売価で回収する分を控除し、専有部分の建物面積で割った坪単価七六万円がマンション本体の売価とする計画であったこと、本件訴訟が提起され、駐車場につき専用使用権の設定ではなく、賃貸形式をとるようになったなどと供述している。

(三)  しかし、本件各売買契約においては、駐車場を含む本件敷地は共用部分として区分所有権者全員の共有とされていたことは明らかであるから、分譲業者たる被告が、独立の取引対象になったり、永久使用ができるような物権的権利や物的負担をたやすく設定しえないものであることもまた明らかである。

被告が、駐車場対価を八〇万円から一一〇万円という建物区分所有権及び敷地持分の対価(一三九〇万円及び二一四〇万円)に比してけっして少額とはいえない額に設定し、しかも駐車場の場所等の使用の便宜を考慮して四段階の価額を設けていること及び本件マンション購入者全員が本件各売買契約において駐車場専用使用権者に駐車場を排他的に使用させる義務を負担することを認諾し、右義務を相当期間負担することからすると、被告が受領した駐車場対価は、この駐車場を使用させる義務の対価であると認めるのが相当である。

そして、駐車場専用使用権の存続期間については、被告は分譲にあたり本件マンションの存続期間程度を意識していたといえるが、右存続期間は相当の長期間に及ぶものであり、右駐車場対価は、右長期間の使用対価としては廉価であり、他方、本件マンション購入者全員が前記の認諾によりそのような長期間の権利の設定まで承認したものとみることはできない(他の専用使用権の対象であるテラス及び専用庭の場合は、特定の区分所有者しか利用できないものであり、当該区分所有権に付随するものであることの承認がなされているとみることができ、この点で駐車場専用使用権と区別される。)から、分譲代金額と近隣の駐車場使用料金を比較し、相当期間存続すべきものというしかない。

また、駐車場専用使用権は、本件マンション購入者全員の承認により認められた権利にすぎないのであるから、これを譲り受けた者もまた、その権利の行使にあたっては、本件敷地に関する管理事項にあたるため管理組合の承認を必要とするものというべきである。

(四) 前記認定のとおり、本件契約書には駐車場を特定の区分所有者に専用使用させることを認諾する旨記載され、本件マンションの各購入者は、本件各売買契約と同時に締結された本件管理委託契約により、本件マンションの建物・敷地・付属施設の管理を被告に委託し、その管理の対象には、駐車場も含まれている。したがって、被告は、右委託契約に基づき駐車場の使用を希望する本件マンションの購入者に対し、順次駐車場専用使用権を設定していったものと解するのが相当である。そして、本件管理委託契約書には、本件マンションの管理については、本件マンションの竣工後六か月以内または入居者が八〇パーセント以上となったとき、建物の区分所有等に関する法律に基づき、区分所有者全員で結成する管理組合に引き継ぎ、右委託契約は解除する旨記載されているから、管理組合が設立された段階では、右引継ぎにより、各駐車場専用使用権者との間の専用使用権設定契約上の被告の地位は、すべて管理組合に移転したものと解すべきである。

したがって、被告は、各本件マンション購入者の右管理に関する委任を受けて(未だ分譲していない分については将来分譲すべき区分所有者のために)、専用使用権者を選定し、本件マンション購入者全員のために駐車場の分譲契約(専用使用権設定契約)を締結したものと解するのが相当であって、被告が取得した駐車場対価は右専用使用権に対する対価である以上、反対給付である駐車場の専用使用を認諾する義務を負担した本件マンション購入者全員(管理組合)に帰属すべきであり、被告がこれを取得するいわれはないというべきである。

(五)  もっとも、被告が駐車場の分譲代金を専用使用権者から受領して区分所有者に支払う代わりにその分を区分所有者に対する分譲代金から差し引いたものと解する余地がないではないが、そのためには売買契約書にその趣旨の明確な記載があるか、売買契約締結の際の説明によって本件マンション購入者全員にその旨十分了解されていたことが必要である。しかし、本件契約書には右趣旨を認めるに足りる記載は見当たらず、分譲の際に被告従業員らによってなされた説明は、前記各供述の内容にとどまり、そのような説明がなされたことを認めるに足りる証拠もない。

(六)  結論

以上の検討から、本件駐車場分譲代金は、被告が、本件マンション購入者全員の委任に基づき、駐車場専用使用者から受領したものと解すべきであるから、これが不当利得であるという原告の主張(請求原因3)は採用できない。

しかし、右代金は、前記本件管理委託契約の趣旨に従い、駐車場専用使用権設定契約関係の引継ぎとともに管理組合に交付すべきものと解され、区分所有者全員から本件マンション(駐車場を含む。)の管理を委託された管理組合の管理者たる原告は、被告から本件マンションの引継ぎを受けるとともに本件分譲代金の交付を受ける権限を与えられたものと解するのが相当である。

3 よって、原告は、委任契約に基づき、被告に対し、本件駐車場分譲代金二四四〇万円及びこれに対する請求の日である訴状送達の日の翌日である平成二年一〇月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を請求できるものと認められる。

四  以上によれば、本訴請求のうち、主位的請求(不当利得金請求)は理由がないから棄却し、予備的請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条ただし書きを、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官綱脇和久 裁判官犬飼眞二 裁判官平島正道)

別紙物件目録<省略>

別表

<省略>

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