福岡地方裁判所小倉支部 平成4年(つ)1号 決定 1992年9月21日
主文
本件請求をいずれも棄却する。
理由
一 本件請求の趣旨及び理由
1 本件付審判請求の趣旨及び理由の要旨は、請求人は、さきに福岡地方裁判所小倉支部に勤務する裁判官仲家暢彦、同福崎伸一郎及び同櫻庭信之をいずれも公務員職権濫用の罪で福岡地方検察庁小倉支部に告訴したところ、同支部検察官において、平成四年八月一〇日、告訴の事実を認定すべき証拠がなく、その嫌疑がないとして、右三名をいずれも不起訴処分に付し、同月一二日その旨の通知を受けたが、この処分に不服であるから、右事件を福岡地方裁判所小倉支部の審判に付するため本件請求に及んだ、というものである。
2 付審判請求の犯罪事実の要旨
被疑者仲家暢彦、同福崎伸一郎及び同櫻庭信之は、いずれも北九州市小倉北区金田一丁目四番一号福岡地方裁判所小倉支部の裁判官として、請求人に対する有印公文書偽造、同行使、詐欺、窃盗被告事件(当庁平成三年(わ)第四四号、第六七号、第一四九号、第四二二号、第四九九号)の審理を担当したものであるが、平成四年一月二二日ころ、請求人から同被告事件の公判調書の閲覧請求を受けながら、右三名共謀の上、同裁判所において、正当な理由もないのにこれを拒否し、もって、職権を濫用して請求人の公判調書閲覧権を妨害し、ひいては公判調書の記載に対する異議申立権や上訴権の行使等を不能ならしめたものである。
二 当裁判所の判断
一件記録によれば、前記被告事件の判決宣告の翌日である平成四年一月二二日、請求人から裁判所に対し同事件の公判調書の閲覧請求がなされたところ、担当書記官光武純一郎において、判決言渡後も、その確定または控訴申立までは被告人に付された弁護人選任の効力は持続しているものと解して、右閲覧請求に応じなかった事実が認められる。
そこで判断するに、刑事訴訟法上、弁護人は、起訴後訴訟に関する書類及び証拠物を閲覧し、かつ、謄写することができるとされ、被告人には、弁護人がないときに公判調書に限ってその閲覧権が認められているところであるが、審級における被告人の弁護人選任の効力の終期については、通説及び実務の一般は、判決言渡後もその確定又は上訴申立までは、従来の弁護人の選任の効力が持続するとの見解に立って処理されていると認められるから、本件において、担当書記官光武純一郎が右見解に立って判決宣告の翌日における請求人からの公判調書閲覧請求に応じなかった処置は、相当なものであり、特に、被疑者ら三名において、殊更正当な理由もないのに職務の執行に藉口して右閲覧請求権等を妨害したことを窺わせるような証拠は存しない。
よって、付審判請求の犯罪事実の嫌疑はないというべく、本件請求はいずれも理由がないから、刑事訴訟法二六六条一号によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。