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福岡地方裁判所小倉支部 平成8年(ワ)485号 判決 1998年10月29日

大阪市北区西天満二丁目四番四号

原告

積水樹脂株式会社

右代表者代表取締役

増田保男

右訴訟代理人弁護士

吉利靖雄

小野昌延

山口県玖珂郡周東町大字祖生六三七〇番地

原告補助参加人

サンエイポリマー株式会社

右代表者代表取締役

船田弘隆

東京都中央区日本橋小舟町四番一号

原告補助参加人

平成ポリマー株式会社

右代表者代表取締役

玉谷恭一郎

新潟県北魚沼郡川口町大字川口二一三三番地の一

原告補助参加人

信越工業株式會社

右代表者代表取締役

山下孝正

埼玉県鴻巣市大字箕田字吉右エ門三一三二番地

原告補助参加人

大日製罐株式会社

右代表者代表取締役

丸木眞二

東京都千代田区鍛冶町一丁目八番五号

原告補助参加人

執行商事株式会社

右代表者代表取締役

執行太輔

東京都中央区東日本橋一丁目一番七号

原告補助参加人

宇部日東化成株式会社

右代表者代表取締役

中條恒男

右六名訴訟代理人弁護士

芹田幸子

北九州市八幡東区平野二丁目九番一号

被告

株式会社ケイユー

右代表者代表取締役

渡邉藤明

右訴訟代理人弁護士

中野昌治

右訴訟復代理人弁護士

中野敬一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の、参加費用は各原告補助参加人らの各負担とする。

理由

第一  請求

一  被告は、別紙物件目録一及び二各記載のポリプロピレン製樹脂バンドを輸入し、販売し、販売のために展示してはならない。

二  被告は原告に対し、一一五二万円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、従来から両面に縦長菱目のエンボス(凹凸)模様を施したポリプロピレン製樹脂バンドを製造販売する原告が、同種の模様の商品を輸入販売する被告の行為は、不正競争防止法二条一項一号(商品主体等混同行為)または同一〇号(品質等誤認惹起行為)に該当するとして、被告に対し、右商品の輸入販売等の差止及び損害賠償を請求した事案である。

二  争いのない事実及び証拠上明らかに認定できる事実

1  原告は、プラスチック樹脂製品等の製造販売を主な事業とする株式会社であるが、遅くとも昭和四二、三年ころ以降、両面に縦長菱目のエンボス(凹凸またはシボ)模様を施した梱包用ポリプロピレン製樹脂バンドを製造販売し、昭和五一年以降は、一面の菱目模様の交点が他面の菱目模様の中央部に位置するように両面のエンボスをずらすことによりバンドの両端部をほぼ平滑に成形した別紙物件目録三記載のポリプロピレン製樹脂バンド(以下「原告商品」という。)を製造し、「セキスイPPバンド(またはPPバンド)」の商品名で販売している。

2  ポリプロバンド工業協会は、構成員相互の親睦とポリプロバンド業界の健全な発展に寄与することを目的として、ポリプロバンド生産会社ないしこれに準ずる会社により組織された任意団体であり、その構成員は、平成七年一二月以降、原告、補助参加人宇部日東化成株式会社(以下「宇部日東化成」という。)、同サンエイポリマー株式会社(以下「サンエイポリマー」という。)、同執行商事株式会社(以下「執行商事」という。)、同信越工業株式會社(以下「信越工業」という。)、同大日製罐株式会社(以下「大日製罐」という。)、同平成ポリマー株式会社(平成七年七月一日、訴外昭和電工株式会社より、ポリプロピレン製樹脂バンド事業部門につき営業譲渡を受けた。以下「平成ポリマー」という。)及び司化成工業株式会社の八社である。

なお、原告は、原告商品につき、昭和五七年一〇月から昭和六〇年一一月二九日にかけ、相次いで製造特許、製造装置特許及び製品特許を取得し(最初の出願は昭和五一年一〇月)、昭和六二年以降、順次、同種のポリプロピレン製樹脂バンドを製造販売するメーカーである原告補助参加人らに対し、右特許の通常実施権許諾契約を締結し、以後、右各社は原告商品と同一形態のポリプロピレン製樹脂バンドを製造販売するようになった。

3  被告は、ポリプロピレン製樹脂バンド等の輸入販売を主な事業とする株式会社であるが、遅くとも、平成五年六月以降、両面に逆向きの斜線エンボス模様を施した韓国製梱包用ポリプロピレン製樹脂バンド(別紙物件目録二記載。以下「被告商品1」という。)を輸入し、「ケイユーPPバンド」の商品名で販売し、原告の前記特許が期間満了により失効した以後の平成九年八月以降は、両面に菱目エンボス模様を施した韓国製ポリプロピレン製樹脂バンド(別紙物件目録二記載。以下「被告商品2」といい、被告商品1、2を併せて「被告商品」と総称する。)を輸入し、「ケイユーPPバンド」の商品名で販売している。

三  争点

1  不正競争防止法二条一項一号の適用の可否

(一) 原告商品の形態は、原告の周知商品表示にあたるか。

(原告)

縦長の菱目エンボス模様という原告商品の形態は、それ自体、もしくは、「PPバンド」の商品名と相まって、遅くとも昭和五九年末ころまでには、取引者及び需要者の間において、一見して原告の製造販売する商品であることを認知し得る商品表示として周知されるに至っている。

(被告)

菱目エンボス模様のポリプロピレン製樹脂バンドは、原告商品が製造販売される以前から各社により製造販売されているから、右模様は原告の周知商品表示にはあたらない。また、「PPバンド」はポリプロピレン製樹脂バンドを表す一般名称にすぎない。

(二) ポリプロピレン製樹脂バンドの縦長の菱目エンボス模様は、ポリプロバンド工業協会加盟各社の周知商品表示にあたるか(原告を含む右加盟各社は、一定の法律上、経済上の関係によって結束された企業集団として、不正競争防止法二条一項一号により保護される特定の商品等表示の主体に該当するか。)。

(原告)

ポリプロバンド工業協会に加盟する原告及び各社は、原告が有する前記特許に基づいて同一の縦長菱目エンボス模様のポリプロピレン製樹脂バンドを製造販売し、共通の特許実施認証票を商品に貼付し、共同の広告を実施するなど、法律的、経済的に緊密な関係を有し、右商品形態の保護に関して共通の利益を有する企業集団を構成しており、縦長菱目エンボス模様という周知商品表示の主体に該当する。

(被告)

会員相互の親睦等を目的とする団体にすぎないポリプロバンド工業協会に属する各社は、菱目エンボス模様のポリプロピレン製樹脂バンドを製造販売するという点で共通するだけで、相互に緊密な組織的、法律的、経済的連結関係に立つ企業集団を形成しているものではないから、不正競争防止法二条一項一号の「他人」には該当しない。

(三) 右(一)、(二)が肯定される場合、被告商品の形態は、原告商品ないしはポリプロバンド工業協会加盟各社の商品の形態と同一もしくは類似し、混同を生じさせるものにあたるか。

(原告)

被告商品は、半透明のポリプロピレン製樹脂バンドの両面に斜線のエンボス模様が施されており、両面の斜線模様が重なって見えることにより、一見すると菱目模様として観察され(被告商品1)、または、両面に施された互いに斜交する二組の平行な線状のエンボス模様が菱目模様を形成し(被告商品2)、いずれも原告商品もしくはポリプロバンド工業協会に加盟する各社の商品と同一もしくは類似の印象を与える形態をしており、「PPバンド」の商品名を使用していることと相まって、取引者及び需要者に対し、原告商品もしくはポリプロバンド工業協会に加盟する各社の商品であるかのような混同を生じさせるものである。

(被告)

被告商品1は、両面にそれぞれ一方向の斜線模様が施されているだけであり、ドラムに巻かれた販売時の状態や白紙の上に張り付けられた使用時の状態では、原告商品等との混同を生じるおそれはない。

2  (予備的主張)不正競争防止法二条一項一〇号の適用の可否

被告商品の形態は、その品質を誤認させる表示にあたるか。

(原告)

被告商品は、原告の前記特許に基づいて製造される原告商品及びこれと同一のポリプロバンド工業協会加盟各社のポリプロピレン製樹脂バンドに比べて、自動梱包機に使用した際の走行性、結束時の安定性に劣るところ、被告が、原告商品及びポリプロバンド工業協会加盟各社の商品と類似する形態を用いた被告商品を輸入販売することは、取引者及び需要者に被告商品が原告商品等と同程度の高品質をそなえていると誤認させるような表示をした商品の輸入販売行為に該当する。

3  原告の損害

(原告)

被告は、被告商品の輸入販売を反復継続し、故意または過失により、原告の営業上の利益を侵害した。被告商品の販売高は、平成五年一〇月から平成六年三月までの間は合計二四〇〇万円、同年四月から平成七年三月までの間は合計二億四〇〇〇万円、同年四月から平成八年三月までの間は合計一億二〇〇〇万円(以上合計三億八四〇〇万円)を下らず、純利益率を三パーセントとして、被告は、少なくとも一一五二万円の利益を受け、原告に対し右同額の損害を与えた。

第三  争点に対する判断

一  証拠(甲二、三、八の1ないし20、一〇、四六、五一ないし五五、乙三ないし五、一二、一六、検甲一、調査嘱託の結果)によれば、以下の事実が認められる。

1  ポリプロピレン製樹脂バンドは、昭和三六年ころ開発に着手され、ポリプロピレンが国産化された翌年の昭和三八年、日東紡績株式会社の特許製品として製造されるようになった結束材であり(昭和四一年に設立された原告補助参加人宇部日東化成が右製造を引き継いだ。)、大量生産方式による均一な品質と低廉な価格に加えて、強靱性、耐水性、耐薬品性、着色性等の特性を有していたことから、従来使用されていた紙製バンド等に代わる新結束材として脚光を浴びるようになった。当初は、手結びに適した柔軟性のあるソフトバンドが主流であり、昭和四〇年ころ、ニチロ工業はソフトバンド用の梱包機の販売を開始し、その後、池貝鉄工、内外製鋼所等も、右梱包機を製造販売するようになったが、産業構造の変革もあって、ソフトバンドの製造量は昭和四二、三年ころを境に漸減し、その後開発され普及した自動梱包機の機械適性に優れた、堅く腰の強いハードバンドが主流を占めるに至った。

2  原告は、昭和三九年八月から、戸高産業株式会社(以下「戸高産業」という。)が製造するポリプロピレン製樹脂バンドを、執行商事(当時は株式会社執行商店)を経由して購入し、販売していたが、戸高産業が製造するポリプロピレン製樹脂バンドには、縦割れを生じるなど品質に問題があったため、原告は、昭和四〇年四月ころ、自社製品の製造を開始した。

原告は、ソフトバンドの需要が頭打ちとなったため、自動梱包機用の機械適性に優れたハードバンドを開発すべく、梱包機メーカーと共同して、バンド形態の研究開発に努め、遅くとも昭和四二、三年ころまでには、バンド表面に、頂部角度が四〇度の縦長の菱目模様(互いに斜交する二組の多数の平行凸条を賦形して、平行凸条により囲まれた凹部が菱形となるように形成されている。)のエンボス加工を施した自動梱包機用のハードバンドを開発し、製造するようになった。

また、前記日東化成は、昭和四五年一〇月、バンドの見かけ厚みを大きくすることにより、梱包機のアーチ通過性を向上させる目的で、菱目エンボス模様を施したポリプロピレン製樹脂バンドの生産を開始した。

3  ポリプロピレン製樹脂バンドは、主原料であるポリプロピレンを押出機に供給し、帯状に押し出して成形した後、摂氏一〇〇度前後に加熱し、約五倍から一〇倍に引き延ばして、エンボス加工を施すという製造過程をたどるものであるが、右延伸によって分子配向が起こり、バンドの長手方向に高い引張強度が付与されるところ、延伸されたバンドの表面にエンボスを賦形してその分子配向を乱すことにより、縦割れ防止に必要な強度が得られるとともに、自動梱包機による梱包作業時の摩擦抵抗が適度に増大するという機械適性を付与できることから、ポリプロピレン製樹脂バンドの製造過程においてエンボス加工を施すことには極めて重要な意味がある。

このため、ポリプロピレン製樹脂バンドの製造各社は、自社製品に施すエンボス模様につき研究開発を進め、頂角の角度を異にする種々の菱目模様を含む多数の意匠が出願されたが、次第に縦長菱目模様ないしこれに類似する菱目模様を自社製品に取り入れる製造会社が多くなり、昭和五〇年ころまでには、縦長菱目模様はポリプロピレン製樹脂バンドの代表的なエンボス模様となるに至った。

4  原告は、昭和五一年一〇月二五日、従来製造していた縦長菱目模様のポリプロピレン製樹脂バンドの製造装置のロールをずらすことによって、その一方の面に形成された二組の平行凸条の交点を、他方の面の二組の平行凸条に囲まれた凹部の中央に位置するように形成し、バンドの両側端部がほぼ平滑になるようにする、いわゆるエンボスズラシに関する製造特許を出願し、右特許は昭和五七年一〇月二八日に特許庁で登録され確定した(特許第一一一八五六九号)。

このエンボスズラシ特許は、エンボス模様の凸部と凹部が表裏互いに対応する位置に形成された従来品が抱えていた、バンドの両端部に連続的にはみ出したノコギリ状のバリのために、作業時に手を切る原因となったり、バンドが自動梱包機のアーチ部を走行する際に蛇行したり、バリの摩耗によって生じた粉のために自動梱包機が停止したりするという問題点を解消し、従来品より引張強度が強化されるなどの利点を有していた。

その後、原告は、右エンボスズラシに関し、製造装置についての特許(特許第一二四六八八八号)を取得し、さらに、昭和六〇年一一月二九日には、製品についても特許(特許第一二九二二七五号)を取得して、原告のエンボスズラシ特許は、製造から装置、製品に至るまで完全なものとなった。

原告は、昭和五一年以降現在に至るまで、右エンボスズラシの製法により製造し、「セキスイPPバンド」の名称を付した原告商品を販売している。

5  原告の右エンボスズラシ特許については、従来から縦長の菱目エンボス模様の商品を製造販売していたメーカーから、製造過程で表裏の模様がずれたバンドは不可避的に生じていたため、このようなバンドも右特許に抵触することになるのではないかという不満が述べられ、原告は、昭和六一年一〇月から平成元年二月ころまでの間に、従来から縦長菱目模様のポリプロピレン製樹脂バンドを製造していた宇部日東化成等を含め、原告補助参加人らメーカー各社との間で、順次右エンボスズラシ特許の通常実施許諾契約を締結した。以後、右各社は、自社製品を、原告の右特許に基づく製品として製造販売するようになり、現在では、国内産のポリプロピレン製樹脂バンドのうち、右特許に基づく商品の市場占有率は約九〇パーセントに達し、原告商品はそのうちの約四〇パーセントを占めている。

二  争点1(一)について

1  商品の形態は、商品の機能・効率を強化増大させるための技術的要請や需要者の嗜好に合致する美観や意匠の観点から選択されるものであるが、それ自体が、同種の商品に一般的に採用されている類型的形態の範疇を越え、きわだって個性的な外形上の特徴を有していることにより、他の同種商品との自他識別機能をそなえ、または、長期間にわたり特定の営業主体の商品に排他的、独占的に使用され、あるいは短期間であっても強力に宣伝広告されたことにより、当該商品の形態を一見しただけで特定の営業主体の商品であることを認識観念させるに足りる出所表示機能を有するに至ったときは、不正競争防止法二条一項一号の周知商品表示に該当すると解される。

2  しかし、縦長の菱目エンボス模様という原告商品の形態は、以下の理由により、原告の周知商品表示に該当するとは認められない。

(一) 前記のとおり、ポリプロピレン製樹脂バンドのエンボス模様は、バンドの強度増加、自動梱包機用の機械適性等の機能的、技術的な側面において重要な意味を持つところ、ポリプロピレン製樹脂バンドの商品カタログ等に、エンボス模様を識別できるような写真や図版等を掲載しているものやエンボス模様を当該バンドの商品的特徴として掲げているものがほとんどなく(甲一、八の7、9、20、乙二)、原告も、平成六年に出願し、平成八年一〇月に登録された「ダイヤシボ」の商標(甲六四の1、2、3の(1)、(2))を用いるようになる以前は、原告商品の縦長菱目エンボス模様を、他の模様よりも秀でた品質をもたらす要因となる外形的特徴である旨を特記した商品広告を行ってきた形跡はないことに照らし、原告を含むポリプロピレン製樹脂バンド製造販売業者は、エンボス模様による形態上の特徴を、自社商品を他の同種商品から際だたせるための要素として周知させることはしておらず、おおかたの需要者においても、外形的なエンボス模様の如何を購入するバンドの選択基準として重視してはいないこと、すなわち、ポリプロピレン製樹脂バンドのエンボス模様の如何は、市場において、特定の商品を他の商品から区別するうえでの重要な要素にはなっていないことが推認される。

(二) 菱目模様自体は、従来から一般的文様として存在し、特に創作力を必要とするものではないところ、ポリプロピレン製樹脂バンドに菱目エンボス模様が用いられるようになった経緯について、前認定事実のほか、以下の事実が認められる。

昭和三九年一〇月、訴外中ノ瀬徳光は、基本的には連続する斜め格子模様であるが、格子の中間部に菱形模様が形成されており、おおまかには菱目模様とも見ることができるエンボス模様につき意匠登録を出願した。しかし、右出願は、普通に知られた連続菱形模様をバンドに表したまでのもので、特に創作力を要したものとはいえないとして、いったんは拒絶され再審査の末、昭和五〇年一一月に登録された(甲四四)。同じく中ノ瀬が昭和四九年八月に意匠登録を出願し、昭和五〇年一一月に登録されたものは、バンドの中央部に点々と付された丸い模様が差別化の要素となっているものの、全体の地模様は縦長の菱目模様そのものであった(甲四九)。中ノ瀬は、昭和五一年六月三〇日、原告、サンエイポリマー、宇部日東化成、執行商事、昭和電工株式会社ほかの各社との間で、中ノ瀬が所有するポリプロピレン製樹脂バンドの模様に関する多数の意匠権等の工業所有権につき、通常実施許諾契約を締結した(なお、同契約においては、ポリプロピレン製樹脂バンドは「PPバンド」と呼称されている。)が、右意匠権の目的となる模様の中には、縦長の菱目模様のものが含まれていた(甲五〇、乙六)。

以上のとおり、ポリプロピレン製樹脂バンドの縦長菱目模様は、それ自体、独創的、画期的な意匠ないし形態とはいえず(原告が前記特許の実施権設定契約を各社との間で締結した昭和六一年から平成元年ころまでに、既に多くのメーカーが、同様の菱目模様のポリプロピレン製樹脂バンドを製造していたことは、各社が自動梱包機向けの機械適性という機能面の改良のための研究を重ねた結果、いずれも菱目模様が技術的に考えられる最適な形態であるとの結論に達したこと、すなわち、梱包用ポリプロピレン製樹脂バンドの菱目模様は、その機能から必然的に生じ、機能と不可分の普遍的形態であることを示唆するものである。)、原告は、ポリプロピレン製樹脂バンドの縦長菱目模様を、長期間にわたり排他的、独占的に使用してきたものではなく、したがって、右模様が、市場において、原告の企業イメージないし商品イメージと不可分に結合されていること、すなわち、右模様が原告の商品表示としての出所表示機能を獲得しているという客観的状況は存在しないと認められる。

(三) 昭和五一年ころ以降に製造されるようになった原告商品は、従来品と同様の縦長菱目模様ではあるが、エンボス模様がより鮮明に刻されているうえ、両面の模様が重ならないようにずらされ、その結果バンドの両端部が平滑に成形されている点において、従来品と異なっていることが認められるものの、模様としての基本的構成要素に変更はなく、表裏で模様がずらされ、両側端部が平滑化されている点にしても、もともと表面積の小さいバンドのミリ単位のレベルでの差異にすぎず、一見しただけで容易に右特徴を把握できるとは認められないから、原告商品の模様は、商品表示としての形態という側面においては、従来から存在した縦長菱目模様と異なるものとは認められない。

(四) 原告は、昭和六一年一〇月以降、順次、原告補助参加人らを含む同業各社とエンボスズラシ特許の通常実施許諾契約を締結し、右各社は、以後、右特許実施権に基づき、原告商品と同一の形態を持つポリプロピレン製樹脂バンドを製造販売するようになり、その合計市場占有率が約九〇パーセントに達していることは前認定のとおりである。

ある種類の商品市場において、特定の形態を持った商品の占有率が極めて高い場合、需要者が、当該商品の形態をその種類の商品の一般的形態と認識するに至ることがあるのは、例えば、商品名において、新規市場において独占的な占有率を得た特定企業の商品の固有名称(マジックインキ、プラモデル等)が、事実上その種類の商品の一般名称化する場合があるのと同様と考えられ、市場を席巻している当該商品がただ一つの企業の商品である場合には、需要者は、右商品とその企業とを直結し、不可分のものとして認識するようになる可能性があり、その場合、形態を含めた当該商品それ自体が出所表示機能を有するということができる。しかし、同一の形態の商品が、多数の企業により製造され、それぞれ自社製品として別々の商品名により販売されているときは、需要者は、右形態がその種類の商品の一般的形態にほかならないと認識するに至り、右出所表示機能も失われると見ざるを得ない。

右の観点からしても、原告商品の形態が、それ自体で自他識別機能、出所表示機能を有する周知商品表示に該当すると認めることはできない。

なお、原告は、平成元年ころ以降、特許の使用許諾契約に基づいて原告商品と同一の商品を製造販売する各社に、特許使用を示す認証票を商品の包装に貼付させていることが認められるが、右事実は、原告商品の形態が、それ自体、自他識別機能、出所表示機能を有し、周知商品表示に該当するかどうかの判断要素もしくは間接事実にはなり得ない。また、前記認定事実によれば、「PPバンド」という商品名が原告の営業の標識として機能していると認めることはできず、右名称の使用は原告商品の形態の自他識別機能ないし出所表示機能を左右するものではない。

三  争点1(二)について

不正競争防止法二条一項一号の「他人」は、単一の営業主体であることを要せず、特定の商品表示又は営業表示の持つ出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに同表示の商品化契約等によって結束している複数の営業主体のグループを含む。

右の商品化契約とは、商品表示の使用許諾契約、再使用許諾契約をいうものであるところ、ポリプロバンド工業協会の会員各社が原告との間で締結している通常実施権設定契約は、前記のとおり、表裏のエンボス模様をずらすことにより両端部を平滑に成形するというポリプロピレン製樹脂バンドの製造方法及びこれに基づく製品等についての特許を対象とするものであって、縦長菱目模様という原告商品の形態の使用許諾契約ではなく、また、右ポリプロバンド工業協会は、ポリプロピレン製樹脂バンドの製造販売企業であれば、原告と前記特許の通常実施権設定契約を締結しているか否かを問わず、原則として誰でも参加することができ、会員相互の親睦、ポリプロバンド業界の健全な発展という目的のもとに組織された任意団体にすぎない。

右事実によれば、右協会に加盟する各社は、ポリプロピレン製樹脂バンドの縦長菱目模様という形態の出所識別機能や顧客吸引力を保護発展させるという共通目的のもとに結束する企業グループを構成しているとはいえず、不正競争防止法二条一項一号の定める周知商品表示の主体としての「他人」には該当しないと認められる。

四  争点2について

1  梱包用ポリプロピレン製樹脂バンドの「品質」(商品の成分及び属性)とは、材質や柔軟性等の素材自体の性質のほかに、強度、耐久性等の梱包用結束材としての適性や自動梱包機に対する機械適性等、当該商品の目的とする機能の充足能力、すなわち性能を含むと解され、品質を誤認させるような表示とは、文字、記号、音声、図画、立体的造形、映像などの媒介手段を用いて、他者をして、その商品がそなえていない品質をそなえているかのように誤って認識させる行為を指すと解される。商品の形態は、外見的に看取し得る立体的造形であるから、表示の一手段となり得る。

2  商品にどのような形態を与えるかは、その商品の機能や性能に大きく関わる場合があり、特定の形態がその商品の性能の優劣と密接な相関関係ないし因果関係を有することがある。ポリプロピレン製樹脂バンドの表面に施されたエンボス模様の如何は、バンドの強度や自動梱包機に用いた場合の走行安定性等の適性の有無にとって大きな意味を有すること、表裏のエンボスをずらした原告商品及び前記特許の実施契約に基づく他社商品の縦長菱目模様が右の性能において優れていることは前記のとおりである。

これに対し、被告商品1は、梱包機のロールを通過する際に、表裏に逆の角度の斜線模様が施されているため、理屈のうえでは偏向しないかのようであるが、実際には左右にずれて外れることがあり、機械適性(走行安定性)という点においては、性能が劣ることは否定できず、被告商品2についても、幅、厚さ等の均質性や寸法精度に劣ることがうかがえる(甲六六ないし七一、検甲二、六、弁論の全趣旨)。

3  しかし、前記のとおり、原告商品等の模様と類似する菱目模様は、原告商品等が製造販売される以前からポリプロピレン製樹脂バンドの模様として使用され、ポリプロピレン製樹脂バンドのエンボス模様として陳腐化していたと認められること、表裏の菱目エンボス模様をずらした特許製品であるかどうかは、バンドの形態を一見しただけで明瞭に把握することは困難であること、原告を含むポリプロピレン製樹脂バンドの製造販売者は、原告商品等の縦長菱目エンボス模様がバンドに強度や機械適性を付与するうえで特に有利であり、高品質に貢献しているという相関関係を強調した広告宣伝活動を行ってきた形跡はなく、需要者は、必ずしも、当該エンボス模様を特定のバンド製造者とを結びつけ、模様の如何と強度や機械適性等の機能や品質との関係を認識し、この点に留意して特定のエンボス模様の商品を選択しているのではないと推認されることに照らし、平均的な需要者や取引者において、原告商品等と同じ縦長菱目模様であることから、それ以外の商品について、原告商品等と同一の品質、すなわち、表裏のエンボス模様がずれているために両端部が平滑で、優れた機械適性をそなえているものと認識判断するであろうと推認するのは困難である。

そうすると、原告商品等の形態それ自体が品質表示にあたるとは認められず、したがって、被告商品に原告商品等と類似の形態を使用することが被告商品の品質を偽って表示する行為に該当するとは認められない。

第四  結論

よって、その余の事項について判断するまでもなく、原告の本件請求はいずれも理由がない。

(口頭弁論終結の日 平成一〇年九月一〇日)

(裁判長裁判官 池谷泉 裁判官 永留克記 裁判官 小野寺優子)

物件目録一

<省略>

物件目録二

<省略>

物件目録三

<省略>

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