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福岡地方裁判所小倉支部 平成9年(ワ)1188号 判決 1998年11月24日

北九州市<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

高木健康

東京都中央区<以下省略>

被告

山一證券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

河端修一

平野良晃

主文

一  被告は原告に対し、七六二万二三六二円及びこれに対する平成九年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告、その一を被告の各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は原告に対し、二二〇〇万円及びこれに対する平成九年一一月五日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、被告と公社債投資信託の取引を開始した原告が、その後の被告従業員による転換社債購入等の無断取引等によって損害を被ったと主張し、使用者である被告に対し、損害賠償を請求した事案である。

二  争いがない事実及び証拠(甲二、乙一ないし五)により認められる事実

1  原告(大正七年○月○日生)は、平成五年一二月一七日、被告北九州支店の店頭において、被告と累積投資公社債投信コース(二〇〇万円)(①)の契約を締結し、以後、担当者B(以下「B」という)を通じて、以下のとおり、累積投資公社債投信コースの契約をした(争いがない)。

② 平成七年四月一八日 一二〇〇万円

③ 同年七月一九日 四〇〇万円

2  平成八年二月二八日、①の累積投資公社債投信コース二〇〇万円は解約され、右解約金により、累積投資ニューオープンコース・インデックスファンド二二五が二〇〇万円で契約された。

3  同年三月一二日、原告は、新たに累積投資公社債投信コース二〇〇万円(④)を契約した。

4  同月二二日、前記2の累積投資ニューオープンコース・インデックスファンド二二五が解約され、右解約金等により、同月二五日、光洋精工転換社債(第七回)(単価一〇二・六円×数量二〇〇〇=二〇七万二九五〇円)が買い付けられた。

以後、②③④の累積投資公社債投信コースは順次解約され、右解約金や転換社債等の売却金等により、以下の取引が行われた。

(一) 同年三月二八日、ニッセン転換社債(第二回)(単価九八・五円×数量一万=九九八万〇二一六円)の買い付け

(二) 同年四月三日、新電元工業転換社債(第二回)(単価一〇三・四円×数量二〇〇〇=二〇八万八五五〇円)の買い付け

(三) 同年四月九日、新日鐵化学転換社債(第二回)(単価一〇三円×数量三〇〇〇=三一二万一〇四九円 単価一〇三円×数量二〇〇〇=二〇八万〇六九九円)の買い付け

(四) 同年四月一七日、累積投資山一MMF(マネー・マネージメント・ファンド)コース(七万七四九八円)の契約

(五) 同月二六日、日商岩井オーストラリアドル建無担保社債(第一回)(単価九三・五六ドル×数量三〇=二三八万八五九二円)の買い付け

(六) 同年六月二八日、名証二五インデックスオープン(単価一万〇六七九円×数量一八七=二〇三万八一一〇円)の買い付け

(七) 同年七月八日、累積投資ニューオープンコース・インデックスファンド二二五(二四〇万円)の契約

(八) 平成九年一月一〇日、カテナ転換社債(第一回)(単価九〇・五円×数量三〇〇〇=二七五万六八二一円)の買い付け

(九) 同年一月二一日、ヤオハン転換社債(第三回)(単価七一・三円×数量一〇〇〇=七二万二六三一円)の買い付け

5  平成九年三月三一日、Bは被告北九州支店を退職した。

この後も、原告と被告の取引は、以下のとおり、継続した。

(一) 同年七月二二日、日本コムシス転換社債(第二回)(単価一二五・二円×数量二〇〇〇=二五三万〇二三七円)の買い付け

(二) 同年七月二四日、山一NASDAQオープン(単価一万三一二八円×数量三四〇=四六〇万四一二〇円)の買い付け

(三) 同月二八日、累積投資山一MMFコース(マネー・マネージメント・ファンド)(四〇万八五三五円)の契約

6  同年一〇月六日、原告は、被告との取引を中止し、保持していた転換社債等を処分し、投資信託を解約した。最終的な収支は九五二万七九五三円の損失超過であった。

三  主張

(原告)

1 契約違反

原告は被告と、公社債投信と限定して契約したのに、被告(B)は、これに反し、原告に無断で転換社債等の取引をした。

2 説明義務違反

被告(B)は原告に対し、転換社債等の取引についての説明をしないまま、取引を勧誘した。

3 適合性原則の違反

被告(B)は、大正七年生まれの女性であり、これまで株式等の証券取引の軽験は皆無であった原告に対し、危険性の高い転換社債等の取引を勧誘した。

4 以上の被告(B)の行為は、原告に対する不法行為(使用者責任)に該当する。

(被告)

1 無断取引、説明義務違反の事実は否認する。

Bは、原告に商品を勧めるにあたり、自らもしくは上司に依頼して金融商品につき十分な説明をし、原告もこれを納得して契約したものであるうえ、被告は原告に対し、取引のつど、売買報告書を送付し、原告は、右報告書に基づき、被告北九州支店の店頭を訪れて説明を受けており、被告が送付した平成九年三月一四日現在の取引残高を記載した書面に対し、同月二四日付で、右残高を確認する旨の書面を送り返したのであって、無断取引、説明義務違反の事実はない。

2 適合性原則違反の主張は争う。

原告の損失の大部分を占めるニッセン転換社債の売却損については、原告がこれを購入した平成八年三月二八日当時、同転換社債の最終利回りは約二・三パーセントであり、当時の公社債投信の予想利回り二・一パーセントを上回っていたし、格付け上も安全度は十分とされていたのであるから、Bが右転換社債の購入を勧めたことは何ら適合性原則に反するものではない。

第三判断

一  原告と被告北九州支店との取引の経過は前記のとおりである。

原告は、被告と、公社債投資信託と限定して契約していたのに、被告従業員Bは、原告に無断で転換社債の取引を行ったと主張し、甲二(原告の陳述書)及び原告本人尋問の結果中には、Bから転換社債についての説明を一切受けたことがなく、公社債投信の取引をしているものと思いこんでいた旨の部分がある。

しかし、原告は、高齢ではあるが、旧制女学校卒業の学歴を有し、かつ、以前に保険の外交員をしていたことがあり、顧客に保険を勧誘する際には納得がいくまで説明をしていたというのであるから(甲二)、被告との取引において、内容について説明を求めず、理解できないまま取引に応じたとは考えられないこと、原告は、つねづね被告北九州支店を訪れてはBに説明を求め、また、平成九年三月一四日現在の取引残高を確認する旨の書面を被告に送り返した際に、とくに異議故障の申し出もしていないこと(乙五、原告本人)、Bが平成九年三月末日に被告を退職した後の日本コムシス転換社債の買い付け等の取引については、これを承知していたこと(甲二)に照らし、原告の右供述等は措信できず、むしろ、インデックスファンドや転換社債について説明したうえで、取引の承認を得ていた旨の証人Bの証言に照らし、Bが原告に無断で右取引を行っていた事実はないと認められる。

二  しかし、原告は、預貯金以外に不動産等の資産を持たず、収入は年金のみであり、それまで証券会社との取引を行った経験は皆無であったのであり、預貯金よりも有利な公社債投資信託による資産運用を意図し、銀行預金を解約した金員を原資として被告との取引を開始した(原告本人)のであるから、原告の主眼目は、資産の大幅な増殖ではなく、預貯金より少しでも有利な金利による資産の安全な運用にあったことは明白であり、したがって、原告が、投資信託よりも有利ではあっても、元本割れのリスクがある取引の勧誘においそれと同意したとは考えにくいこと、Bの勧誘時の説明がおおむね電話によってなされ、有利性だけを強調する説明であったとうかがえること(甲四、証人B)に加え、原告が、光洋精工、新電元工業やヤオハン等といった企業の業績や転換社債の価格動向についての知識を有し、あるいは、Bの説明によってこれを理解し、取引の是非について主体的に判断することができたとはおよそ考えられないこと、公社債投資信託と転換社債の直接取引とでは、リスクの点で質的に大きく異なるところ、社債に関する取引という点で、社債の性質や値動きの仕組み、投資リスク等についての知識に乏しかった原告が誤認混同をきたし、もしくは、その差異に注意する契機が与えられなかった可能性があると推認されることに照らし、Bは、そもそも原告に転換社債の取引を勧誘すべきではなかったのであり(適合性原則違反)、そうでないとしても、原告に対する転換社債取引についてのリスクの説明が不十分であった(説明義務違反)と認めるのが相当である。

三  そうすると、被告は、Bの使用者として不法行為責任を免れないところ、前記取引の経過等の事情に鑑み、自己責任の原則に基づく原告の落ち度を考慮しても、過失相殺によって被告の責任を局限することができるのは、原告が被告との取引によって被った損害額九五二万七九五三円のうちの二割のみとするのが相当と認められる。

四  よって、原告の請求は、被告に対し七六二万二三六二円及びこれに対する平成九年一一月五日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当である。

(裁判官 池谷泉)

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