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福岡地方裁判所小倉支部 昭和25年(ヨ)39号 判決

債権者 和田実 外二名

債務者 日本製鉄株式会社

一、主  文

本件仮処分申請は之を却下する。訴訟費用は債権者等の負担とする。

二、申請の趣旨

債権者代理人は、債権者等が債務者会社に対し提起する解雇無効確認事件の本案判決確定に至る迄債務者日本製鉄株式会社が昭和二十三年十月十六日債権者等に対して為したる懲戒解雇の効力を停止する。訴訟費用は債務者の負担とする。

三、事  実

債権者代理人は、其の申請の原因として債権者等は何れも日本製鉄株式会社八幡製鉄所の従業員であつて、債権者和田実は八幡製鉄労働組合海岸運輸支部青年部長、債権者竹内宣明は同青年部幹事、債権者竹中正和は同青年部員で同支部闘争委員会警備連絡班長である。而して八幡製鉄労働組合は広畑、輪西、釜石等の日鉄従業員の組織する各労働組合と共に日鉄労働組合連合会を結成しているが、八幡製鉄労働組合は昭和二十三年九月二日より日本製鉄株式会社(以下日鉄会社と略称)に対し給与闘争を開始し、組合本部に於て同会社と団体交渉中であつたが一方中央闘争委員会は各職場に対し「職場闘争要領」を配布し各職場毎に其の職場特有の不平不満を取り上げて闘争に移し、会社の末端機構に対し徹底的に闘争を為すべき旨及び要求を拒否せられた時は実力行動を取つて闘争を激化すべき旨を指令した。依つて右組合海岸運輸支部青年部は同年九月十七日青年部大会を開き会社に対し(一)起重機の完全整備(二)消耗品及び備品の必要量絶対確保(三)休憩所設備の改善(四)請負労務者の暴力行為に対する明確なる対策(五)就業時間中に於ける一週四時間の組合教育時間の確認の五項目十二細目の即時履行を要求する団体交渉を運輸部長に対し行う事を決議した。依つて債権者等は同月二十四日右要求に付き対運輸部長交渉を行つたが其の要求は拒否せられたので同年十月二日再び同青年部大会を開き要求貫徹の為実力行使に出る事を決議し、其時期方法は債権者等に一任せられたが更に同年十月四日の同支部大会に於ても青年部のみに依つて実力行使の手段に出る事を認容された。依つて債権者等は同支部青年部の全員及び之に同調する一陸工務青年部の一部を以て同年十月十五日を期して二十四時間ストを決行せんとし組合本部に連絡した。然るに組合本部は之を中止せしめる事を決定し其前日十月十四日午後八時中央闘争委員長の名を以て「スト中止、全員出勤」の指令を出した為に、右両青年部全員のストは実現するに至らず、中止指令を伝達出来なかつた少数の者を除き他は全部出勤し、作業も平素と大差ない能率を挙げた。勿論賠償指定施設に何等の損傷を生ずる事は無かつた。而して右のストライキは上述の通り中央闘争委員会の配布した職場闘争要領に基き且組合の海岸運輸支部青年部大会及び同支部大会の決議を経て行われたのであるから山猫争議ではない。ただ実力行使を為すに付中央闘争委員長の文書に依る指令を受けていない事及び海岸運輸支部鬪争委員長の承認を経ていなかつた事実はあるけれども、之は単に組合の内部規律違反の問題に過ぎないから争議行為の正当性に影響はない。殊に之に付ては昭和二十三年十月二十三日の中央鬪争委員会に於て組合の正規の争議行為として追認せられている。又右の争議行為は日鉄会社が労働安全施設の充足を怠つている為債権者等の生命身体の危険を防止する為其施設の充足せらるる迄労務の提供を拒絶したものに過ぎず何等積極的な妨害行為を含んでいないから其の目的及び手段に於ても正当な争議行為である。成程右のストライキ計画は、所謂保全要員を含めて海岸運輸支部青年部の全員及び一陸工務支部青年部員の一部のストライキを行わんとしたものであつて当日若干名の保全要員の欠勤者を出した事は事実であり、且保全要員なるものは連合国最高司令官の覚書に依る賠償指定施設を保全する為所謂管理担当者たる八幡製鉄所長によつて選任されるものではあるけれども、保全要員は争議除外人員ではなく賠償指定施設に実害を与えない限り争議行為を為す権利を奪われているものではない。従つて会社側が保全要員の氏名を一方的に指定したとて之に依つて保全要員が争議行為を為す権利を失う理由はない。又本件保全要員の欠勤に依つて賠償指定施設に実害を生じた事実はないし又本件争議行為は実害なき事の認識の下に行われた争議行為であるから何等違法の点はない。然るに日鉄会社は債権者等が違法の争議行為を為したるものとして昭和二十三年十月十六日就業規則第四十八条に依り就業禁止の通告を為し給料の支払を停止した。依つて債権者等は福岡地方労働委員会に提訴した結果、同委員会の勧告に依り会社は昭和二十四年三月以降平均賃金の六十パーセントを支給する事となつたが債権者等は此の程度の賃金では生活する事が出来ない。其の上会社は昭和二十四年四月二十五日組合に対し賞罰委員会の席上債権者等を懲戒解雇にし度いと申出て来たが、組合は態度を保留し之に応じなかつた。之を開けば会社側委員の方が多いから不当な動議を可決する虞があつたからである。一方債権者等は右の行為によりポツダム勅令に基き発せられた昭和二十一年勅令第三百十一号に違反したものとして起訴せられ昭和二十四年十一月二十一日各罰金五千円に処せられたところ会社は昭和二十四年十二月二十九日債権者等に対し懲戒解雇の通告を為し来つたのである。

併し斯かる解雇は次の理由に依つて無効である。(一)本件争議行為は正当な争議行為であるから之を理由に解雇する事は不当労働行為である。(二)争議当時に於ては旧労調法が施行されていたのであるから債権者等は「労働委員会の同意が無ければ解雇せられない」と言う事を期待していたのである。従つて労働委員会の同意が無ければ解雇せられぬと言う事は債権者等の既得権であつて、債権者等の解雇に対しては旧労調法第四十条を適用すべきである。故に労働委員会の同意を得ないで為された本件解雇の意思表示は無効である。(三)日鉄会社と日鉄労組連合会との労働協約に依れば懲戒解雇に付ては各作業所別の賞罰委員会に於て協議の上之を決定する事になつている。然るに会社は労働協約は失効したから其の必要はないとして右の手続を経る事なく一方的に解雇を為したのであるが懲戒解雇に付ては賞罰委員会に於て協議決定すると言う条項は協約の規範的部分であるから協約失効後も事後効を有すると解すべく、此の条項に違反した本件解雇は無効である。(四)債権者等は労調法第四十条並に労働協約の有効期間中に仮処分申請を為したところ、会社は弁論期日の延期を求めたので債権者等は判決ある迄解雇しない事を条件に之に応じたところ会社は右の紳士協定を破つて解雇したのであつて斯様な解雇は信義誠実の原則に反し無効である。(五)又会社側の為した就業禁止通告は労働委員会の同意を得ないで為されたものであるから旧労調法第四十条に違反し之亦無効である。又債権者等所属の日本製鉄労働組合連合会と債務者会社との間に成立した労働協約の基本事項には「組合員の解雇賞罰其他処遇に関する事項に付ては甲乙(会社と組合)協議の上之を定める。前項の協議決定機関として甲乙両者間に労務委員会を設置する」とあり労務委員会の専門委員会として賞罰委員会が設けられているに拘らず、右の就業禁止は労務委員会又は賞罰委員会の協議を経ずして為されたものであるから此の点から言つても無効である。依つて申立の趣旨掲記の如き仮処分を求めると述べ債務者の答弁事実を否認した。(証拠省略)

債務者代理人は本件仮処分申請は全部之を却下す、訴訟費用は債権者等の負担とすとの判決を求め、答弁として債権者等が日鉄会社の従業員であつた事、及び同人等が何れも八幡製鉄労働組合の組合員で同組合海岸運輸支部青年部員であり、其の中債権者和田は同支部青年部長、債権者竹内は同青年部幹事、債権者竹中は同支部闘争委員会警備連絡班長であつた事、八幡製鉄労働組合は日鉄従業員を以て組織する広畑、輪西、釜石等の各労働組合と共に日本製鉄労働組合連合会を結成している事、八幡製鉄労働組合は昭和二十三年九月二日より日鉄会社に対し給与闘争を開始し、組合本部に於て会社と団体交渉中であつた事、然るに債権者等は中央闘争委員長の指令を受けず同組合海岸運輸支部闘争委員長の承認をも受けずして同年十月十五日を期して多数の保全要員を含む海岸運輸支部青年部の総欠勤を企てた事、之を知つた組合本部では十月十四日午後八時中央闘争委員長の名を以て右集団欠勤の中止命令及び全員出所命令を発したが、それにも拘らず十月十五日には多数の集団欠勤者を出した事、債権者等は右集団欠勤に依り勅令第三百十一号違反として起訴され昭和二十四年十一月二十一日有罪の判決を受け各罰金五千円に処せられた事、会社が債権者等に対し就業規則第四十八条を適用し就業禁止通告を為し給料の支払を停止したが、其後地労委の勧告に依り平均賃金の六十パーセントを支払つて来た事、及び右有罪判決言渡後昭和二十四年十二月二十九日債権者等を懲戒解雇に附する通告を為した事は何れも之を認めるが其余の債権者等主張事実は之を争いなお次の通り答弁する。

債権者等の本件集団欠勤は海岸運輸支部闘争委員長の承認を得ず且中央闘争委員長の指令を受けずして為された違法の争議行為である。何となれば八幡製鉄労働組合に於て正規の争議行為を為すには次の手続に従う事を要する。即ち同組合の総意を決定する為には大会あり大会に諮る遑のない場合或はそれ程重大でない事は約三百名を以て構成する中央委員会で意思決定を為し、今若し大会で闘争宣言を決議し之を発した場合は中央委員会が中央闘争委員会に切り替えられ、中央委員会の議長が中央闘争委員長となり若し委員長差支えの場合は副議長之に当る事となつている。委員長は労働組合長が之を兼任するが本件争議当時は組合長差支えの為副組合長緒方孝男(佐藤孝男)が其の代理をして居り中央闘争委員長であつた。又組合の各支部は現場単位で構成され、各支部にも闘争委員会あり支部長が支部闘争委員長となつている。従つて支部で争議行為を為す場合は支部長兼支闘長の承認を得、支部長兼支闘長は中央闘争委員長に申出でて正式指令書の交付を受けなければならぬ。従つて本件の場合は海岸運輸支部の青年部員のみの所謂職場闘争であるから当然支部長兼支闘長の承認を得中闘長より指令書の交付を受けて始めて争議行為に入る事が出来る。然るに債権者等は本件集団欠勤の計画を支部長兼支闘長より拒否せられた為、故意に其の承認を求める事を囘避し、青年部員のみで勝手に決議して争議行為に出たものであつて違法の争議行為たる事明らかである。更に本件集団欠勤は之を別の方面から見ても違法の争議行為である。即ち一九四六年八月十五日付連合国最高司令官の覚書(スキヤップイン一一三〇号)に依り日本製鉄株式会社八幡製鉄所の熔鉱爐、コークス爐、平爐、電気爐をはじめ全般の工場施設は―製銑、製鋼能力の約五十パーセントに相当する限度に於て―全部的に賠償対象として指定され、該施設は連合軍最高司令官の「領置及び管理」に移され、日本政府は「該施設の適当なる保護維持及び警備を確保するに必要なる手段を講ずべき事」及び「合衆国第八軍司令官が適当なる領置管理及び保護維持に必要と認むる要員施設及び必要品は凡て日本人側に於て之を同司令官に提供すべき事」を命ぜられ、更に同日付総司令部の右覚書の施行に付ての通牒に依り「右施設保護の任に選ばれたる要員は、従前より当該工場に傭われ、其の施設を熟知し、且之が維持保存の方法に通ずる人たるべき事」を命ぜられた(之は後述保全要員を意味する)。依つて日本政府は右の覚書及び指令を履行する為に総司令部の承認の下にポツダム勅令昭和二十年第五四二号に基き昭和二十一年商工文部省令第一号を制定し商工省(現在通産省)所管の賠償指定施設に付ては主務大臣を最高責任者とし主務大臣の承認を得て経営者の選任する管理担当者を直接の管理実施機関とし(但し場合に依り主務大臣が直接之を任命する)、管理担当者をして現地軍司令官、主務大臣、地方長官の指揮監督の下に指定施設の管理保全を実施せしめる特別の管理機構を設置した。而して右省令に依り主務大臣又は地方長官は経営者又は管理担当者に対し、該施設の保存、維持、補修、警戒、監視、其他管理に関し必要なる命令又は処分を為す事を得る権限を与えられているので主務大臣は之に基いて「同省令運用方針」、「指定施設管理実施要綱」、「管理指定鉄鉱設備保守手入基準」等を制定し茲に総司令部承認の下に一連の指定施設管理保全の特別機構が確立された。而して八幡製鉄所長角野尚徳は昭和二十一年八月三十日管理担当者に選任され前示覚書に示された「合衆国第八軍司令官が施設の適当なる領置管理及び保護維持に必要と認むる要員」(保全要員)として最少限度の人員を従業員中より各自の技能に応じ本人の承諾を得て選任し、且「賠償指定施設の適当なる保護、維持を確保するに必要なる」(前示覚書)業務を保全業務として指定し、保全要員は争議中と雖も保全業務を遂行すべき旨を組合及び保全要員に通告した。此の保全業務の中に本件海岸運輸及び一陸工務の作業の一部を含ましめたのは次の理由に因る。即ち賠償指定施設の大部分は争議に際し単に後始末さえすれば保全に格別差支えないけれども特殊のものに付ては休止に依つて当然大なる損傷を来し良好なる状態を保持する能わざるものがあるので、此の種のものに付ては保全の為に最低操業を継続する事を必要とする。例えば製鉄所の生命とも言うべきコークス炉及び熔鉱炉の如きはそれであつてコークス炉は一旦火入した以上八年乃至十年は作業を休止する事が出来ないのみならず作業度を或限度以下に切下げることも出来ない。即ち石炭が著しく不足するか又は此の火を止めて休止すれば必然的に炉壁の損傷崩壊を惹起し延いては鉄皮其他の鉄鋼設備を損壊し之が再建には長年月と莫大な費用を要する。熔鉱炉も亦然りであつて之に付てはバンキングと称し特殊の操作に依つて一時石炭鉄鉱石の消費を少くし尚其供給囘復を待つ方法もあるけれども之は技術的に極めて困難であつて屡々炉を損傷する危険を伴うので殊に争議中には実行され得べきものではない。従つて熔鉱炉及びコークス炉に付ては最低操業を継続する事が保全上絶対不可欠であり、之を行うには動力、運輸等の補助部門に於ても之に必要なる限度に於て最低操業を為さねばならないのである。

右の通りコークス炉及び熔鉱炉の保全の為其の最低作業を維持する為には石炭鉄鉱石、石灰石、其他原材料の受入作業を欠く事が出来ないが、是等のものは八幡港に於て荷揚せねばならないから(鉄鉱石が輸入に待たねばならぬのは勿論の事、コークス炉に使用する石炭は強粘結性炭たる事を要するから主としてアメリカよりの輸入炭でなければならぬ。)従つて海岸運輸の起重機作業も休止し得ない。而も鉄鉱石及び石炭は厳格なる計画配給であり且船舶輸送の特性上荷揚は一船単位に全部的に為される事を要し保全作業に必要の最少限度の原材料と之を超ゆる部分とが事実上不可分である事、船舶は占領軍CTSの指示に依り船舶運営会が計画配船を行つているので荷役抛棄等に依つて滞船等の事実があれば輸送計画を混乱に陷らしめ、向け先割当変更等の事態を生じ忽ち石炭等の入荷欠乏を惹起する。此の場合八幡製鉄所の如く石炭、鉄鉱石の消費量多く且前述の如き特殊品質の原材料を要する所に於て多量のストックは期待出来ず、たとえ若干のストックを保有していても不測の事情に因る輸入の杜絶遅延や右の如き原因による輸送計画及び入荷の混乱に際会しても最低作業を保証し得る確信は何人も之を有し得ない。是等の物資輸入、物資割当及び輸送計画上の特殊事情を前提として考えれば、一日や二日位受入作業を抛棄してもストックで間に合うから保全の障害にはならぬとの考え方が皮相のものたる事明かである。

(なお、保全とは別の関係であるが海岸荷役は別に最高司令官の覚書即ち内国船に付き一九四五年九月二十八日及外国船に付き一九四八年八月十三日の各覚書に依つて二十四時間作業の遂行を命ぜられて居るから八幡港に於て港湾荷役作業殊に外国船のそれを休止する事は許されないところであつて債権者等の企てた集団欠勤は必然に右二十四時間作業を不可能ならしめるから此の点からも債権者等の行為は昭和二十一年勅令第三百十一号違反となる。)

而して右の如く海岸荷役作業は指定施設保全の為に欠くべからざる業務であるから、管理担当者は海岸運輸の起重機に依る荷揚作業及び之と不可離の関係に在る一陸工務の起重機の応急修理作業の保全に必要なる業務(保全業務)として指定し、之に必要なる最少限度の人員を本人の承諾を得て保全要員として選任し右両部に配置し、罷業中と雖も争議と切離して其の業務を遂行すべき事を命じたのである。而して賠償指定施設は、本来之を「領置管理」の下に置いた連合国最高司令官の行う行政乃至業務であり(前示覚書)実際上之を掌握するのは第八軍司令官である。唯最高司令官及び第八軍司令官は実際上の管理の遂行を日本政府に命令し、日本政府は同司令官の承認の下に更に此の管理を適当と認める管理担当者に命令し、主務大臣及び地方長官をして之を指揮監督せしめている。斯様に指定施設の管理保全業務の実際の仕事は日本政府(主務大臣)に任され更に日本政府から管理担当者に任されているけれども同司令官は何時でも之に介入し之を指揮監督命令する固有の権限を保有しているのであつて、之は本来占領軍の行政乃至業務であるから、之に対し争議権を以て対抗する事は許されないのである。保全即ち指定施設の「保護、維持」が他の国内法上の法益例えば団結権、争議権を以て保護せられる労働者の職業上の利益と衝突する場合には、当然ポツダム勅令の優先性に基き保全が優先されねばならない。而して前示覚書に示された「施設の保護」とは実害発生を防止する業務に外ならぬから債権者等の主張する如き施設に損傷を生じない限り施設保護の仕事(保全業務)を抛棄しても差支えないと言うのは明らかに誤である。若し之が許されるならば「指定施設の保護」は完うされず実害の発生は防止し得ないであろう。

然るに債権者等は外三名と共に首謀者となり中央闘争委員長の承認乃至指令を受けず、海岸運輸及び一陸工務支部闘争委員長の承認をも受けず、保全要員を含む海岸運輸支部青年部全員、及一陸工務支部青年部員の一部の抜打的集団欠勤を謀議計画し、是等の者を教唆して之に同調せしめ、昭和二十三年十月十五日を期して之を実行する手筈を決めていたところ、其の前日十四日午後八時中央闘争委員長より中止命令及び全員出勤命令が発せられたのであるが、会社側及び組合側の出勤督促にも拘らず当日は完全欠勤者六十二名(内保全要員二十二名)に及び、右の外出勤督促に依り漸く中途より出勤した者三十二名(内保全要員十五名)を出したと言う状況であつた為平素の作業秩序は全く混乱し、荷揚作業に最も大切な構内鉄道及船内船側労務との連繋出来ず、当時は外国船の入港最も多かつた時で外国船六隻、内国船三隻の入港を見ていたのに、起重機予定十九台中予定通り作業せるもの四台、呼出出勤に依り中途より作業せるもの四台に過ぎず、残余十一台は作業不能に陷つたものである。

右の通り債権者等の行為は山猫争議である点より見ても、又賠償指定施設保護の業務を阻害し昭和二十一年勅令第三百十一号に該当する点より見ても、更に港湾荷役の一日二十四時間作業に関する連合国最高司令官の日本政府宛指令の趣旨に反する行為で同じく右勅令に該当する点から見ても、違法の争議行為たる事は明白である。従つて債務者会社が就業規則に照し債権者等を懲戒解雇に附したのは当然であつて何等違法の措置ではない。而して本件解雇前の昭和二十四年十二月一日以降労働協約は既に失効していたのであるから、労働協約中の経営参加条項に依つて設置せられたる労務委員会、賞罰委員会も消滅して居り、本来ならば債権者等の解雇を賞罰委員会に附議する必要はないのであるが、特に手続の慎重を期して同年十二月二十六日の賞罰委員会で債権者等を懲戒解雇に附する事を協議決定し、同月二十九日正式の解雇通知を為し、尚右解雇に付ては八幡労働基準監督署長に対し労働基準法第二十条の解雇の予告除外申請を為し、直に許可になつているのであるから解雇の手続上にも何等の瑕疵はない。なお、就業禁止通告に付ては、債権者等の行為は昭和二十一年勅令第三百十一号所定の罪に該当するから(当時直に起訴されている)労働委員会の同意がなくとも本来直に解雇を為し得べかりしものを債権者等の為特に其愼重を期し刑事判決の言渡迄解雇を猶予し、それ迄の保全処分的処置として就業禁止の処置を取つたに過ぎないのであつて、懲罰として就業禁止をしたものではない。従つて何等不利益処遇にはならない。然るに刑事事件の審理が予想外に長引く為に昭和二十四年三月十九日会社は地労委の斡旋に応じ自発的に平均賃金の六十パーセントを支給して債権者等の生活を保障する事にしたのである。然るに同年四月下旬になつても刑事判決の言渡がない為、債務者側は昭和二十四年四月二十五日労働協約に従い賞罰委員会に於て債権者等の懲戒解雇の提案を為さんとしたが、組合側が応じなかつた為閉会となつた(当日の出席委員は組合側が多数であつたので票決に入れば組合側の希望する通りになつた筈である)。其後本件仮処分訴訟提起され一方、債権者等に対する刑事事件に付ては昭和二十四年十一月二十一日債権者等全員有罪の判決があつたので会社は依願退職の申出があれば之を容れる旨通告したが之に応じない為やむを得ず前述の通り懲戒解雇の処置を取つたのである。且会社は同月二十八日に至つてやうやく判決の謄本を入手したので直に慎重なる検討を加え翌二十九日組合側に対し会社側は旧協約存続中に本件を賞罰委員会に於て審議し度いから同月三十日賞罰委員会を開催したいと申入れ、一切の準備を整えていたが、組合側は新旧役員の交替引継ぎ業務の為会社の申入れに応じられないとの事であつたので、遂に旧協約存続中に賞罰委員会に附議する事が出来なかつたのである。なお信義則違反の解雇云々の主張は全く事実無根であると述べた。(証拠省略)

四、理  由

当裁判所は前記当事者間に争なき事実に、何れも成立に争なき疏甲第一、二号証、疏甲第五号証の五乃至八、疏甲第七号証の一、疏甲第十二乃至第十六号証、疏甲第二十二号証、疏甲第二十五乃至第三十六号証、疏乙第一号証の一、二、疏乙第二乃至第四号証、疏乙第五号証の一、二、疏乙第十一、第十三、第十七、第十八の各号証、疏乙第十九号証の一乃至四、疏乙第二十号証の一乃至三、疏乙第二十四号証の一乃至四十七、疏乙第二十五、第二十六号証、証人西田米生の証言に依り真正に成立したと認める疏甲第三号証、疏甲第五号証の一、疏甲第八号証、証人和田実の証言に依り其成立を認め得べき疏甲第五号証の二、三、証人吉田実、入江富雄の証言に依り真正に成立したと認め得る疏乙第六乃至第十号証、疏乙第十二号証の一、二、疏乙第十四乃至第十六号証、疏乙第二十二号証の一乃至六、疏乙第二十三号証、証人武田喜三の証言に依り真正に成立したと認め得る疏乙第二十七号証、及び証人西田米生(第一、二囘)の証言の一部(措信せざる部分を除く)、証人渡辺玉、木村美吉、武田喜三、入江富雄、吉田実の各証言を綜合して左の通り事実を認定し(本件に於ける凡ての証拠中右認定に反する部分は措信出来ないし、他に右認定を覆すに足る措信し得べき証拠はない)且其事実に基いて次の通り法律上の判断をする。

(一)  先ず債権者等の企てた本件集団欠勤が、債権者等所属の労働組合の争議行為と見られるか否かに付て審究するに、本件集団欠勤の理由となつたものは八幡製鉄労働組合海岸運輸支部青年部員の会社に対する(イ)起重機の即時完全修理(ロ)消耗品及び備品の即時確保(ハ)休憩所の設備(ニ)請負労務者の暴力行為防止(ホ)就業時間中に於ける一週四時間の組合教育時間の確保等五項目の職場要求事項貫徹の為であつて、債権者等は同支部青年部代表として昭和二十三年九月十九日頃及び十月二十二日、運輸部長及び部長代理に対し右要求を提出交渉したが、其の囘答が満足すべきものでなかつたと言うので直に保全要員を含めて海岸運輸支部青年部全員の集団欠勤を計画したが、右要求貫徹の為海岸運輸支部青年部の総欠勤乃至職場抛棄の手段に出る事は同組合海岸運輸支部の大会に於てすら三十歳以上の老年層殊に同支部幹部(組合支部の幹部)の反対を受けたところであつて結局同支部大会に於ては右の職場要求事項は承認されたが実力行使の点は採択されなかつた。従つて之は同支部としても承認していない争議行為であり又同組合一陸工務支部としても同支部員の集団欠勤を承認してはいない。又勿論其の決行に付き中央闘争委員長の指令を受けたものでもない。殊に債権者等が決行せんとしたのは前記海岸運輸支部及び一陸工務の保全要員―其法律上の地位に付ては後に詳述する―の全員を含めた集団欠勤であつたが、保全要員は連合軍最高司令官の覚書(スキヤップイン一一三〇号)に依り賠償対象として指定された工場施設の管理保全に必要なる最少限度の人員として右覚書及びポツダム勅令に基く昭和二十一年商工文部省令第一号に従い本人の承諾を得て経営者に依り選任された者であり後述「管理担当者」等管理保全実施機関の指揮下に提供された者であるから海岸運輸支部及び一陸工務支部の保全要員がストライキに参加する事は従来組合本部も許容しなかつたところであつた。保全要員はストに参加できない、又参加させないと言う事は是迄組合の堅持して来た方針であり組合内部及び職場の秩序として確立されていた事であつた。故に是迄の八幡製鉄労組のスト決行に際しては其の都度保全要員はスト参加から除外されていた。然るに債権者等殊に和田青年部長、訴外河部青年部副部長等は日頃から之を不満として中央闘争委員会の幹部に対し保全要員参加の必要を力説したのであるが容れられず債権者等が同年十月六日決行せんとした保全要員を含む海岸運輸支部青年部のストも保全要員参加に付き組合本部の反対に遭つて中止のやむなきに至つたので債権者等は訴外河部青年部副部長等と共に首謀者となり更に独自の見地から組合本部の承認も受けず海岸運輸支部及び一陸工務支部の保全要員を含めた海岸運輸支部青年部全員及び一陸工務支部青年部の一部の抜打的な集団欠勤を計画し他の青年部員等を動かして之に賛同せしめ同年十月十五日を期して実行に移す手筈を決めていたところ其の前日午後三時頃之を知つた組合の海岸運輸支部長兼支部闘争委員長渡辺玉、組合本部の大野中央執行委員、中央闘争執行部の大島組合長等より中央闘争委員長の指令なくして而も保全要員を含めた実力行使に出る事の不可なる所以を懇々説示されたに拘らず頑強に之を拒否し遂に同日午後八時中央闘争委員長の正式指令に依り其の中止を命ぜられたのであるが、中止命令後会社側及び組合側の出勤督促の努力に依つても之を完全に阻止する事が出来ず十月十五日には左記員数の集団欠勤者を出したのである。

1  完全欠勤者六十二名(債権者竹中、竹内を含む)

内訳{海岸運輸支部四十七名(内保全要員十六名)一陸工務支部十五名(内保全要員六名)

2  出勤督促に依り中途より出勤した者三十二名

内訳{海岸運輸支部十九名(内保全要員十二名)一陸工務支部十三名(内保全要員三名)

但し不在の為呼出が出来なかつた者七名

尚当時は外国船の入港最も多く所謂船混み状態に在つた時で、其際に熟練を要する起重機作業員等多数が突然欠勤し他の者を以て之に代える事も困難であつた為作業に大きな支障を来し荷揚業務に混乱を来さしめたものである。

債権者等は右は山猫争議ではなく中央闘争委員会より配布された「職場闘争要領」の中に於て職場スト等各職場の実力行使を認められていたのであると主張するけれども之は西田書記長自身が労働委員会の審問に於て(疏乙第十七号証)又当裁判所に於ける証言に於て之を否定しているし(西田米生に対する第二囘証人訊問調書第四項)組合の執行委員会及び中央闘争委員会の各議事録の記載(疏乙第二十五、二十六各号証)も西田の否定的証言を裏書して居るのみならず右の「職場闘争要領」(疏甲第五号証の一)に依つても中央闘争委員会が之に依つて各職場に於けるストライキ迄許容していたものとは到底認め難く却て右書面第四項(4)の註に依れば争議行為に付ては中央闘争委員長の指令に依るべき旨注意している事実を認め得る。

而して八幡製鉄労働組合に於ては海岸運輸支部や一陸工務支部は独立の組合になつて居らず、支部員のストライキ等の実力行使に付ては凡て中央闘争委員会を代表する中闘長の指令に依らねばならぬようになつている事、中闘長の指令は支部闘争委員長に宛てて発せられる事及び本件集団欠勤が中闘長の指令を受けていないのは勿論中央闘争委員会の意向に反し且支闘長の承認を得ずして行われたものである事は冒頭引用の証拠上明白であるから債権者等の右主張は理由がない。

右の通りであるから債権者等の本件集団欠勤は同人等所属の労働組合の争議行為でない事は明白で組合も当時会社側の照会に対し此の事を認めた囘答書を発している。斯様に組合活動たる実質を有せず組合活動のわく外に出る争議行為は違法である。いつたい労働組合の正規の争議行為が合法とせらるる理由は労働組合の各組合員の労働力に対する統一的支配(学者の所謂コントロール)そのものが合法とせられ権利として認められるからであつて、例えばストライキが使用者に対する債務不履行にも不法行為にもならないのは免責法条の結果でもなく集団的な労務の停止自体に其合法性の根拠があるのでもなくそれが組合の、組合員各個の労働力に対するコントロールの発現なるが故に合法視せられるからである。従つて斯様な組合のコントロールとして現われるのであれば一人が休業しても債務不履行や不法行為にはならず、逆に此のコントロールの発現として行われるのでなければどれ程多数が集団欠勤しても債務不履行又は不法行為になるのである。然るに本件集団欠勤は斯様な組合のコントロールとして現われた実力行使ではなくて組合のコントロールに服しないで債権者等が勝手に行つた争議行為だから之を合法化すべき根拠を欠いて居り所謂山猫ストの一種として使用者に対する義務違反となるのである。

之に対して債権者等は本件集団欠勤は単に組合の内部規律違反に過ぎないから合法な争議行為だと言うけれども其の内部規律に違反したと言う点が即ち本件集団欠勤が組合其ものの行動である如き外形を取つて為されてはいるが内実は組合のコントロールとして現われた争議行為ではなく却つて之を排除して為された事を示しているのであつて之を合法化する根拠がない。

或は海岸運輸支部青年部は独立の争議団を構成し独立して争議行為を為したと見るべきかと言うに右青年部はそれ自身労働組合としての実体を有せず其の本来の構造に於て組合本部の正式機関の指揮命令に全部的に服すべき関係に在り、独立して争議団を構成し得る実体を具えていないから独立して争議行為を為す事は許されないし、又債権者等の意思に於ても組合から分離して独立の争議団を結成するつもりも無かつたのである。

以上の見解はそれ自身労働組合としての実体を有している組合支部が単一組合の指令を無視して為した争議行為が適法とせらるる場合があるのと矛盾しない。何となれば其の場合は其の単一組合と組合支部の各構造及び其の両者間の関係からして其の組合支部の争議行為の適法不適法を決する標準としてはそれが単一組合全体を通じた一つのコントロールの発現なりや否やに依るべきではなく、組合支部自体のコントロールの発現としての争議行為なりや否やに依るのが相当だと認められるからである。此の場合は組合支部が単一組合の指令に反した事が規約違反として問題になるだけで組合のコントロールの発現としての争議行為か否かが問題になるのではないから内部規律違反にはなつても、争議行為自体は違法にならないのであるが、本件のような場合は右青年部はそれ自体独立したコントロールの力を持つ事を認められていないのだから右の場合とは区別しなければならない。

以上の通り債権者等の行為は組合活動のわく外のものであつて組合活動たる実を有しないから職務上の義務違背として取扱わるべく使用者は専ら契約理論の要件の下に解雇等の手段に出る事を許されるものと言わねばならない。従つて債務者会社が之を理由に債権者等を解雇した事は不当労働行為にならない。

もつとも本件集団欠勤に付ては其後昭和二十三年十月二十日の中央闘争委員会に於て之を組合のストライキとして追認する旨の決議をしている。併しながら之は中央闘争委員会が債権者等集団欠勤参加者が山猫争議を為した事の故を以て解雇せらるるのを救済すると言うだけの目的を以て之を組合の正規の争議行為として追認したに過ぎない。一体争議行為は使用者に対しては勿論一般公共の利益に対しても重要な関係を持つものであるから争議行為が正当であるか否かは争議行為の時に確定するものと解すべきであつて、前示の如く或争議行為が其行われた当時に於ては到底労働組合の正規の争議行為たる実質を備えず、又組合の正式機関に於ても之を正規の争議行為と認むる意思が無く却つて其禁止令迄出して置きながら後に至つて其の争議参加者が山猫争議の参加者として処断せらるるのを防ぐ目的で之を追認する決議をしても之に依つて―組合の内部関係に於て組合員の責任を解除するは格別―違法な争議行為が性質を変じて適法な争議行為となるものではない。

(二)  次ぎに、債権者等の企てた本件集団欠勤乃至職場抛棄は賠償指定施設保全に関する連合軍最高司令官の日本政府に対する覚書及び指令の趣旨に反する点からも違法の争議行為となる。(尚茲に一言すべきは一部日本人は賠償問題が既に重要性を失つたような考を抱いているけれども賠償指定施設管理の実際に現われたところでは、是等日本人の一方的な安易な見解を裏切つて賠償指定施設の管理及び保全作業実施に対する連合軍の監督は原則として従来と大差なく極めて厳格に行われつつあるのであつて、連合国最高司令官の指令覚書以下賠償指定施設管理保全に関する諸法令の解釈に付ても、現実を無視した一方的な安易の見解を本にして我田引水的な解釈をする事は許されない事である。)

即ち一九四六年八月十三日付の連合国最高司令官の覚書(スキヤップイン一一三〇号)及び「右覚書の一般的施行に対する通知」と題する同日付総司令部の指令に依れば次の諸点が明らかである。

即ち八幡製鉄所の熔鉱炉及びコークス炉、平炉、電気炉をはじめとして其の全工場施設は―製銑、製鋼能力の約五十パーセントに相当する限度に於て―全般的に連合国最高司令官に依り賠償対象として指定され(所謂能力指定)「同司令官の領置及び管理に移され」た事。併しながら同司令官は直接連合国軍隊を以て之を占有し管理する代りに日本政府に対し特別の管理機構の設置を命じ賠償として指定された施設を「最良の状態に」置く為「該施設の適当なる保護、維持及び警備を確保するに必要なる手段を講ずべき事」及び「合衆国第八軍司令官が適当なる領置及び管理、保護、維持に必要と認むる一切の要員施設及び必要品は凡て之を同司令官に提供すべき事」「日本人側は所要の要員及び資材を供出すべく且右の施設保護の任に選ばれたる要員は従前より当該工場に傭われ其施設を熟知し且之が維持保存の方法に通ずる人」たるべき事(後述管理要員又は保全要員が之に該当する)等の指令を発した。なお右指令の中には「日本人は施設を良好なる状態に於て保全する為に適当なる維持を完うすべき事」が明にされている。(而して連合軍最高司令官の日本政府宛の指令や覚書は昭和二十一年勅令第三百十一号に引用される事に依つて直接に国民に対し拘束力を持つ国内法たる一面をも有するに至つたのである。)之に依つて見れば賠償指定施設を管理し保全するに必要なる手段を講ずる事は日本政府に課せられた重大な責任であつて日本国政府は万難を排して其の責任を完遂する義務があり政府のみならず日本国民各自も右指令、覚書及び右勅令第三百十一号に依り其の施設保全の業務を阻害すべからず之に協力する法的義務を負うている。而して政府は右の指令覚書を履行する為に昭和二十年ポッダム勅令第五四二号に基き総司令部の承認の下に、商工文部省令第一号に依り指定施設の管理保全の為特別の管理機構を設け特別の管理実施機関をして之に当らしめる事とし此の特別の管理実施機構の最高責任者たる主務大臣は右省令に基き「同省令運用方針」「指定施設管理要綱」「管理指定鉄鋼保守手入基準」等を制定し経営者及び管理担当者に対し之に従つて管理保全業務を遂行すべき事を命じ茲に一連の賠償指定施設管理機構及び其の運用の手続が確立された。其の大綱及び実際の運用は次の通りである。

(イ)  通商産業省(元商工省)所管の賠償指定施設の管理保全に付ては最終最高の責任者は主務大臣(現通産大臣、元商工大臣)であつて連合軍総司令部よりの指令及び連絡は主務大臣が之を受ける。主務大臣は主として地方長官をして指定施設の保全警戒等の実施を指導監督せしめる。

(ロ)  地方長官は連合軍の現地指揮官より指示を受け且つ現地指揮官と緊密なる連絡の下に指定施設の管理を良好ならしめる責任を有する。

(ハ)  経営者は当該指定施設に付き政府又は地方長官の命令を受け指定施設を良好なる状態に於て管理する義務を有する。

(ニ)  経営者は当該指定施設に付き管理担当者を選任し地方長官を経由し主務大臣に之を届出で其の認可を受くる事を要する。

(ホ)  管理担当者は経営者等の指揮に従つて指定施設の管理を担当する義務と責任を負ひ、主務大臣は管理担当者を不適任と認むるときは経営者等に対し之を解任し他の管理担当者を選任すべき事を命ずる事が出来場合に依つては自ら之を任命する事が出来る。

(ヘ)  主務大臣又は地方長官は経営者等又は管理担当者に対し指定施設の保存、維持、補修、警戒、監視、其他管理に関し必要なる命令又は処分を為す事が出来、其の命令違反に対しては厳重な罰則が附せられている。

(ト)  管理担当者は経営者の指揮並に援助を受け所要の管理人、看視人、警備員、保守人(以下是等を一括して管理要員又は保全要員と称する)等を使用して施設の保全管理を遂行する責務を有する。

(チ)  経営者、管理担当者は連合軍代表者よりの命令指示は原則として地方長官を通じて之を受ける。

即ち賠償指定施設の「管理保護維持」は占領政策上最も重要なものの一つであり且特殊の性質を持つものであるから最高司令官は―一般の行政事務に於けるが如く之を日本政府に一任して了つて日本政府自らが純然たる国内法上の行政事務として之を処理する事を得しめ最高司令官は単に日本政府に対し之に付ての指令示唆を与えると言う方式を取る事なく―賠償指定施設を「其の領置及び管理下に移し」(前示覚書)最高司令官及び其指揮下に在る合衆国第八軍司令官が終局的には自ら其の「管理保護維持」の仕事を掌握し「合衆国第八軍司令官が適当なる領置、管理及び保護維持に必要と認むる一切の要員施設並に必要品は凡て之を同司令官に提供する事」(前示覚書)「所要の要員並に資材は本人側が之を供出する事、且右の施設保護の任に選ばれたる要員は従前より当該工場に傭われ其の施設を熟知し且之が維持保存の方法に通ずる人たるべき事」を命じている。唯其の実施は原則として連合国軍隊を以て自ら之を為す事なく日本政府が其の責任に於て設置し提供する特別の管理実施機構内の特別の管理実施機関をして前示第八軍司令官に提供されたる保全要員を使用して之を実施せしめ管理実施の結果に付ては日本政府及び管理実施機関が直接連合軍最高司令官に対し全責任を負わなければならない事になつている。此の点は連合国軍の日本管理の普通の方式と稍趣を異にしているが、前示の如き最高司令官の覚書及び指令の文詞からも管理の実際に現れたところからも(疏乙第二十三号証)右のように解しなければならない。

依つて日本政府は最高司令官総司令部の承認の下に前記の如き特別の管理実施機構を設け「主務大臣」「地方長官」「管理担当者」等特別の管理実施機関をして各其の責任を以て賠償指定施設の管理保全行為を行わしむる事としている。而して主務大臣は最高司令官、総司令部の承認を得て作られた特別の管理実施機構内の最高責任者として最高司令官に対し直接の責任を負い、総司令部と緊密なる連絡を保ち其の指示を受けつつ自らの責任に於て管理保全義務を遂行しなければならぬ事になつている。此の事は勿論主務大臣の管理実施の結果に付き主務大臣のみが責任を負い日本政府が責任を免れる意味ではなく、若し右のような管理実施機構に依る管理保全業務が適当に行われない時は日本政府は更に右の管理実施機構の整備充実を図るとか或は適切な管理が行われるような新な管理組織を立案するとか其他要するに「施設の適当なる保護維持警備を確保するに必要なる一切の手段を講ずべき」責任(前示覚書)を最高司令官に対し負うている。併しながら日本政府が総司令部承認の下に設置した特別の管理機構内に於て現実に指定施設の管理保護維持(保全)の業務を遂行する事は特別の管理実施機関として総司令部及び日本政府に依つて認められた主務大臣の権限であり責任である。而して前示覚書及び指令に依り日本政府は「指定施設の管理保護維持に必要なる一切の措置を為すべき事」を命ぜられ任かされているのだから、管理実施機関としての主務大臣は此の覚書及び指令を根拠法として指定施設の管理保護維持に必要なる一切の措置を為し得る権限を有するのみならず之を為すべき義務をも課せられている。ポッダム勅令に基く前示商工文部省令第一号に示されたる主務大臣の権限は其の現われであるが、前示指令や覚書実施の為にどうしても必要な措置である以上は其権限は之のみには限られないと解すべきである。

(1)  いつたい最高司令官の覚書及び指令は降伏文書に基いて発せられるのであるが、降伏文書は連合国の日本管理の言わば憲法的基本法であり、連合国の管理下に在る日本憲法の上に立つ超憲法的基本法である。指令や覚書は此の超憲法的基本法に基き連合国の管理政策を実施する為の具体的形式であつて、之亦超憲法的性格を持つものである。斯様に指令や覚書は超憲法的性格を持つものではあるが、其の実施は憲法を通して純粹な憲法上の国家機関に依つて行われるものと、憲法を通さずして最高司令官及び其指揮下に在る第八軍司令官の行政行為に直結する特別機構内の特別の機関に依つて行われるものとがあり、賠償指定施設の保全管理は後者即ち憲法を通さず特にその為に設けられた特別の機構内の一連の特別機関に依つて行われるものに属し、而もその最も顕著なるものに属する。従つて賠償指定施設の管理実施機関の如く賠償指定施設の管理保護に関する最高司令官の指令や覚書を実施する為に、憲法の領域外に於て特に設けられた一連の機関は、其の末端機関に至る迄普通の憲法上の国家機関とは全く其権限の根拠を異にし之と別系統に属するものであつて、たとえ憲法上の既存の行政機関等を以て便宜之にあてている場合に於てもそれは憲法上の機関たる本来の資格地位とは別個に、前示の如き特別機構内の特別機関となつたものであつて、指定施設管理保全の為にする其の行政的活動は其の本来の資格地位に於ける行政活動とは其性質及び効果を異にするものである。即ち純粹な憲法上の国家機関が終局的には憲法を根拠として立法司法行政の領域に於て活動するのに相対して、右の機関は終局的には最高司令官の超憲法的効力を有する指令や覚書を根拠法とし普通の立法司法行政の各領域とは異つた領域に於て活動し両者は全く別系統に属する。従つて斯様な機関の顕著な例であるところの賠償指定施設の管理保全実施機関が、管理保全の必要の為に為すところの指揮命令其他の措置(但し後述の如く解雇は之を含まない)の法律上の適否、裁量上の当不当も亦、其の同一系統の上位機関に依つてのみ是正せらるべくその措置が明白なる権限濫用と見られる場合でない限りは是等の機関と権限の根拠法を異にし、活動の領域を異にする別系統の機関たる裁判所が、右の是正措置を待たずして直に之を否定する事は許されない。(主文に於てのみならず理由中に於ても許されない。)(以上の点に付き公職追放の行政処分に関する法律上の争訟に関する一九四八年二月四日連合国最高司令官総司令部政治部の日本最高裁判所長官宛通牒、及び昭和二十三年(れ)第一八六二号事件に対する最高裁判所大法廷の判決、並に昭和二十三年(オ)第九号事件に付ての最高裁判所大法廷の判決、大阪高等裁判所昭和二十三年(ネ)第二三六号事件判決参照)

又斯様な特別機関の為すところが、本来超憲法的性格を有する指令や覚書を実施する為に欠くべからざる措置として為されたものである以上は、仮に之が憲法に抵触し他の法令と矛盾する立法的行政的措置であつても、其の効力を否定する事は出来ない。指令又は覚書が超憲法的性格を持つと同様其の実施措置も亦、其の形式がどのようにもあれ、超憲法的性格を持つものと見る外はないからである。従つてポッダム勅令に基き発せられた前記商工文部省令も亦普通の憲法上の行政法規とは異つて一種特別の性質を有する国内法で超憲法的性格と効力とを有するものであり、又主務大臣が賠償指定施設の管理保全に関し取るところの措置はたとえ憲法に抵触し憲法上保障された争議権を制約する結果となつても、それが最高司令官の指定施設保全に関する指令や覚書を実施するに避くべからざる措置として為された以上は、其の効力を否定する事は出来ないと言わなければならぬ。

而して以上の事は地方長官及び管理担当者が管理実施機関として為すところの指揮命令其他の措置に付ても同様である。

即ちポッダム勅令に基き発せられた前示商工文部省令第一号に依り指定施設管理実施機関としての地方長官も亦、主務大臣の下部機関として其の指揮命令監督を受くる外は、主務大臣と全く同様に前記指令又は覚書の趣旨を執行する機関として指定施設の管理保全を完うするに必要なる一切の措置を為し得る権限を与えられて居り、之を為すべき義務をも負わされていると言わなければならない。管理担当者の権限に付ては前示文部商工省令第一号の規定も稍明確を欠いているけれども、管理担当者は右省令に依り指定施設の管理保全を完うすべき重大な責任を負わされて居り且右省令に依れば前示指令又は覚書を執行する機関として現実に之を実施するのは管理担当者であり主務大臣、地方長官も之を指揮監督するに過ぎないのだから、管理担当者は前示覚書や指令を実施する為に必要なる一切の措置を為すべき事を超憲法的性格と効力を有する前記省令に依り命ぜられ任されて居り、且主務大臣及び地方長官からも其権限に基き同じ事を命ぜられ任されていると見るべきである。従つて管理担当者も亦前示覚書や指令の趣旨に従い管理保全を完うする為必要なる一切の措置を為し得る権限を与えられ其の義務を課せられている。従つて管理担当者は指定施設の管理保全の為如何なる措置を為すべきか、例えば如何なる作業を指定施設の管理保全上必要なる業務と指定すべきかを自ら決定し之に必要なる保全要員(前示覚書)を本人の承諾を得て選任し、之を必要なる箇所に配置し、苦し罷業の為指定施設の保全が阻害せらるる危険ある場合は、罷業中と雖も保全要員をして保全作業を争議と切離して遂行せしめる等の権限を有するものと解すべきである。たとえ其の結果争議権を制約する結果となつたとしても、それが最高司令官の指定施設保全に関する指令や覚書の趣旨を執行するに避くべからざる措置として為されたものである以上は―本来指令や覚書自体が憲法に抵触する措置を必要とする事を理由として其の執行を拒否する事を許されないものである以上―之を違法と言う事は出来ない。

(2)  之を別の方面から考えても日本国民は前示最高司令官の指令に依り「施設を良好なる状態に於て保存する為適当なる維持を完うする事」を命ぜられて居り、又ポッダム勅令に基き発せられた昭和二十一年勅令第三百十一号に依つて「連合国最高司令官の日本政府に対する指令の趣旨に反する行為、及び其指令を施行する為に占領軍の各司令官の発する命令の趣旨、及び指令履行の為に日本政府の発する法令に違反する行為」は何れも処罰せらるる事になつているから、日本国民各自も亦連合国を代表する最高司令官に対し直接賠償指定施設保全に協力すべき法的義務を負うている。

斯様に労働者自身最高司令官に対し直接施設保全に協力すべき法的義務を負うているのだから保全作業は争議と切離して遂行せらるべく、労働者が経営者に対する自己の要求貫徹を理由に争議手段として自ら負担している最高司令官に対する此の義務を怠る事は許されない。従つて管理担当者に於て管理保全上為さねばならぬ業務と認めて其の遂行を命じているものを保全要員が拒否する事は争議行為としても之を為し得ないのみならず、保全要員でない者も保全要員を教唆して斯様な争議行為を為さしめ或は共謀して之を行う事は許されない。そのような行為は管理保全の為に為さねばならぬ作業の実施を阻害する事であつて―前記最高司令官の日本政府に対する命令の趣旨に反するものであるから―違法な争議行為と言わねばならぬ。

(なお保全作業と争議権の関係に付き昭和二十二年九月以降十二月に亘る三菱重工業東京機器製作所の争議に際して終戦連絡中央事務局より質疑したるに対して総司令部賠償部及び労働課の見解として「争議自体に付ては何等連合国の関知せぬところであるが、保全作業は争議の如何に拘らず別に定めた準則に依り管理担当者の指示の下に遂行せらるべきものとする原則」が強調せられ、従つて「労資双方は如何なる意味に於ても保全作業を争議の解決乃至継続に関連せしむべきではない」旨を明にされている。―疏乙第二十三号証百頁)

併しながら保全要員が管理担当者の指揮命令其他の措置に対し争議行為を以て対抗し得ないのは、それが指定施設の保全の為にする措置である場合に限られ、管理担当者が保全の為でなく他の目的例えば争議行為を抑圧する等の目的で明らかに保全の為に必要でも適当でもない事を指揮命令し措置したと言うような場合は管理担当者の権限濫用でありもはや法律的には管理担当者の権限の行使とは言えないから保全要員と雖も其責任に於て之を拒否し得るものと解せられ、又裁判所は当然斯様な指揮命令措置の違法なる事を前提として解雇の有効無効を判断し得るから本件に於て管理担当者が海岸運輸の起重機作業及び一陸工務の起重機及び船舶の緊急修理作業の一部を賠償指定施設殊に熔鉱炉及びコークス炉の保全上避くべからざる業務として指定し、此の作業に保全要員を配置し、罷業中と雖も争議と切離して右の保全作業を継続すべき旨を命じた事が、果してそのような目的を以て為されたものかどうか、又明らかに保全上不必要不適当なものであるかどうかに就て審究するに、次の事実を認め得る。

即ち八幡製鉄所の工場施設の中には罷業に際し適当な予告期間が置かれ、施設の損傷防止の為技術的措置を講ずる余裕が置かれてあり、且斯様な対応策を講じて後作業を休止すれば施設に損傷を来さないものが多いけれども、多種多様な施設の中には最低作業を継続しなければ其施設自体又は他の施設の損壊を生ずるものが若干あり、其最低作業を継続する為には、原材料受入部門の最低作業が絶対に必要であるものがある。例えば熔鉱炉及びコークス炉等はそれ自体の保全の為に最低作業が必要であり、又火力発電所、汽罐場水道、ポンプ関係等は他の施設保全の為に最低作業を実施する事が必要である。例えば全工場一齊に争議を行い工場作業を休止し発電所も発電を中止した場合を考えると(購入電力のみでは不足であるから)給水排水用ポンプが先づ停止し、此の状態が続けば熔鉱炉もコークス炉も炉内に種々の異変を起す結果、例えば熔鉱炉の冷却装置、シヤモット煉瓦積の破損が起り、又コークス炉に於ても炉の温度低下により硅石煉瓦積に龜裂を生じ、なお炉内部の硅石煉瓦が破損し、是等炉体の損傷は鉄皮を灼熱変形せしめ、延いて附属鉄鋼設備の巨大な荷重を支えているバランスを失わしめ之を損壊せしめる。又製鋼工場の蓄熱室及び分塊工場の灼熱炉は、地下水の浸水によつて煉瓦積が損傷する。此の点から考えても火力発電、汽罐場、其他動力関係の完全罷業は設備の保全上危険であるから之に付ては他の施設保全上最低作業を継続する必要があり、之に要する燃料の受入作業も、最低作業を継続しなければならぬ。又熔鉱炉及びコークス炉は後述の如き特殊理由により保全上最低作業を継続する事が絶対に必要であり、故障其他止むを得ない事由なき限り火入後は八年乃至十年間作業を休止する事はない。其の為には動力部門及び原材料の受入の運輸部門も或限度の作業を常時継続する必要がある。即ち八幡製鉄所の如く百八十万坪の工場敷地に極めて多種多様の工場が無数にあり火力発電所及び巨大な熔鉱炉やコークス炉等を幾つも持つているところでは、其の消費する石炭の量も極めて多いので、相当量のストックがあつてもそれでは極めて僅少の日数を支え得るに過ぎないから日々受入する石炭、鉄鉱石、石灰石等を最も効果的なコースで所要箇所に直送して直に費消しなければならぬ。従つて運輸部門の完全罷業は直ちに賠償指定施設の保全に影響があるが、特に其の中でも熔鉱炉及びコークス炉に於ては運輸部門の完全罷業は恰も石炭、鉄鉱石、石灰石等の炉内投入を突然中止するに等しく、直ちに作業休止の余儀なきに至るが、急に作業を止めれば炉体及び附属施設を損壊せしめる。又漸時的に作業度を切下げつつ休止に至る余裕がある場合にも、作業度を切り下げる程炉を損傷する危険増大し、休止に至る過程に於て炉内温度の降下に依り必然的に種々の異変を惹起し、炉体及び鉄皮を損壊せしめ、一部の損傷変形は巨大な荷重を支えている全体のバランスを失わしめ、炉や附属鉄鉱施設を崩壊せしめる(日鉄輪西の実例あり)。而して苦し崩壊すれば、例えばコークス炉の再建には最低二カ年の日子と七億円の費用を要する。又煉瓦積がゆるんだり龜裂を生じたりする為に、目塗をしても隙間が出来る事は避けられず、其隙間から空気が侵入し炉内のガスと化合してガス爆発を起す危険があり、其他種々施設保全上の障害を惹起する。右の通り熔鉱炉もコークス炉も、其作業を休止すれば必然的に之を損壊せしめるから苦し石炭、鉄鉱石、石灰石欠乏しやむを得ない時は之に対処する為一時其の消費を少くして其供給囘復を待つ方法として債権者等が主張するような熔鉱炉に於ける「バンキング」コークス炉に於ける「蒸し込み」と言う方法を実施せねばならぬ場合も生ずる。併し之には炉の最も好調子の時を選ぶ事、充分な準備期間を置く事、実施も一挙に行わず徐々に之を行う事、其実施に伴い生ずるガス管爆発の危険(此のガス管は熔鉱炉から出るガスを全工場に送るもので延長約七万メートル)を防止する為に充分な人手のある事、且実施に伴う色々の技術上の困難を克服し得る事等種々の条件が満たされる事が施設保全上絶対に必要であつて、苦し此の条件を充足する事が出来れば此の方法も―技術上非常に困難であり炉に多少の損傷は生ずるけれども―実施不可能とは言えない。併しながら争議に際し是等の条件が叶えられる事は実際上不可能であり、此の条件が欠けていると必然的に施設を損壊し、場合に依つては再使用を不可能にする。従つて之はどうしても石炭、鉄鉱石の不足を打開する方法がない時、其他やむを得ない場合にしか実施されない方法である。即ち熔鉱炉のバンキングと言うのは、鉄鉱石を減らしコークスを多くする等原料装入の割合を変えつつ送風をやめ、出銑迄の時間を長くし、出銑の囘数を少くして原材料の消費抑制を図り其の供給増加を待ち、其の供給が囘復せねば作業を休止する方法であり、コークス炉の「蒸し込み」と言うのは炉中に熱いコークスが這入つたまま粘土等で炉を目塗して空気の這入らぬようにし、ガスは止めて炉の保温を行いつつ急激な冷却を防ぎ、結局は炉を休止する方法であるが、是等の方法も争議の行われていない時に事前に炉況の最も好調の時を撰択し、且充分の準備を整えるに足るだけの相当日数の余裕があり、又技術上の困難を克服して実施出来れば不可能とは言えないが、実際上は技術的に極めて困難であつて炉体及び附属鉄鋼設備の損傷を伴い、場合に依つては再使用を不可能にする。殊に争議中は前述の条件を充たす事が出来ないから其危険は一層大きい。例えば熔鉱炉に於てバンキングを行えば徐々に炉の温度は低下し、其為シヤモツト煉瓦は収縮するので煉瓦積はゆるんで破損し、延いては附属鉄鋼設備を損壊せしめ、又ガス管や炉体の裂目等から空気が侵入し其為ガス爆発を起す危険がある。又目塗りをしても煉瓦積に隙間が出来るのはどうしても避けられぬから、其の隙間から空気が侵入して炉内反応を起し熔融物が炉底に溜り之を取り出す事が出来ぬので、再開後場合に依つては炉体の一部を切開して出銑を行わねばならぬ事態も起る。又コークス炉の蒸し込みの場合に於ても、蒸し込みが出来るのは、四日か五日位の間でそれ以上長期に亘ると炉体を損傷するからそれ以上は続けられぬ。又炉内の温度が降下する為、元来膨脹収縮率の大きい硅石煉瓦は急激に収縮し目塗りをしても避けられぬ隙間から空気が侵入する為コークスや石炭が燃え出し、「クリンカー」と言う塊が出来て炉壁に附着し炉体を損傷する。又最も大切な炉蓋フレームが熱の為に曲り作業再開の時非常な障害となる。右の通りバンキングも蒸し込みも作業度の或限度以下の切下も炉体及び附属設備を損壊せしめる危険があるのみならず他の施設にも危険を及ぼす、其の一例として八幡製鉄所では熔鉱炉から出るガスを通した延長七万米に及ぶガス管が工場内を「くも」の巣の如く張り廻らされているがバンキングの実施又は熔鉱炉の作業度の著しく切下げられるに従つてガス管内のガスが逐次少くなり、管内のガス体の圧力減少する為空気が侵入して爆発を起す危険増大するが、何分延長七万米にも及ぶものであるから其の危険防止には相当の人手と細心の注意が必要であつて、殊に罷業に依つて工場の大部分が休止している時は爆発火災を起す危険が大きいから争議中に斯様な事態の生ずる事は保全上是非共避けねばならぬ。

右のような見地から八幡製鉄所では技術的に検討した結果熔鉱炉、コークス炉の作業率の或限度以下の切下もバンキング蒸し込み等の方法も施設保全上危険があり、殊に争議の時には絶対に之を避くべきであるとの結論に達した。併しながら常時完全操業を続行させる事は―保全上から言えば完全操業が最も好適であるけれども―争議を制約する事になるので、施設保全の為熔鉱炉及びコークス炉の作業は必要欠くべからざる最低限度に止めるべきであるとの見地から最低作業の方法に依るべしと言う事になり、管理担当者も之を採用した事、然るに製鉄所に於ては石炭からコークスを作り其のコークス及び石灰石を使用して鉄鉱石を熔解し銑鉄を製造するのであるが、コークス炉に於て原料として使用する石炭は強粘結性炭たる事が必要であるのに強粘結性炭は日本では北松炭坑に少量産するのみで、八幡製鉄所も大部分はアメリカ、中国等より外国船に依つて運搬される輸入炭に依存しなければならぬ為海岸運輸の起重機に依る荷揚作業を休止出来ない関係に在る事、従つて海岸運輸の起重機作業及び之に附随する一陸工務の作業の一部は指定施設保全に不可欠の業務である事、管理担当者の選任した保全要員の数も過多と認むべき何等の根拠がない事等を認め得る(証人武田喜三の証言及び之に依つて真正に成立したと認め得る疏乙第二十七号証証人吉田実、入江富雄の各証言)。

之に依つて見れば保全要員に依つて熔鉱炉及びコークス炉、海岸運輸等の最低操業を維持すると言う事は、本件賠償指定施設の保全上必要且適当の措置であり、是等の措置が保全の為でなく争議行為の抑圧を目的として執られたものであると言う事跡は全然見出し得ないから、債権者等及び他の保全要員が此等の措置乃至指揮命令を拒否し得る理由は無かつたと言わなければならない。従つて之に反して為した本件争議行為は仮りに山猫争議でないとか或は山猫争議も違法でないとか言うような見解を採るとしても右の点に於て既に違法なものであり行為者は当然職務上の義務違反に問われなければならない。然るに債権者等は当時若干の石炭のストックがあつたから海岸運輸の作業を短期間休止しても保全上差支えなかつた旨主張するけれども熔鉱炉及びコークス炉に使用する石炭、鉄鉱石の大部分は海外から船舶により輸入しなければならないのに船舶の荷揚は一船単位に全部的に為される事を要し、保全作業に必要の最少限度の原材料と之を超ゆる部分とが事実上不可分である事、又港湾荷役の一日二十四時間作業実施に関する最高司令官の指令は暫く別論としても船舶殊に外国船舶は占領軍CTSの指示に依り船舶運営会が厳格な計画配船を行つているので本来石炭、鉄の輸入が自由でないところに、配船の上から更に制限を受け厳格な計画配給と同じ結果になり、苦し荷役抛棄等に依つて滞船等の事実があれば輸送計画を混乱に陥らしめ、向け先割当の変更等の事態を生じ、忽ち石炭、鉄鉱石、石灰石等の入荷欠乏を惹起する事、此の場合若干のストックを保有していても不測の事情に因る輸入の一時的杜絶、遅延や右の如き原因に因る輸送計画の混乱及び入荷の手違が起れば最低作業は保証されないと言う事も認め得られる。

又若干のストックがあるからと言つて其のストックが切れて了う迄は石炭の受入を止めても施設保全上危険がないとは言われない。何となれば石炭が切れそうな場合熔鉱炉及びコークス炉の施設に損傷を生じないように対策を講ずるには前述の通り相当日数の技術上の準備期間を要し且其対策にかかつてからも技術上一挙に之を実施する事が出来ず徐々に実施せねばならぬから、其の点からもかなりの日数の余裕が無ければならぬ。ストックはそれ等の期間を支える為にも又争議以外の前述の如き不測の事情に因り入荷なき場合に備える為にも常時之を保持せねばならぬから若干のストックは施設保全上不可欠のものであつて、全くストックのない状態に陥るのは保全上危険であると言わねばならぬ。又八幡製鉄所の如く石炭、鉄鉱石、石灰石其他の原材料の消費量の多い所では長期間を支えるストックを持つ事は困難であり、又海岸で荷揚したものを正常のコース―即ち最も効果的に工夫されたコース―で所要箇所に直送するのと異つて、ストックを使用する場合は貯炭場より貨車に積んで所要の箇所に運搬するのであるから相当の人手と手間を要し、特に罷業中人員の少い時にはストックがあつても所要部分の保全上の必要量を所要箇所に於て間に合わせ得るやの問題も考慮しなければならず、構内の陸上運輸作業の罷業中には殊に此の点が問題である事をも認め得る。従つて若干のストックがあつたからと言つて海岸運輸の保全業務が保全業務でなくなる理由はないから管理担当者が之に保全要員を配置し、罷業と切離して其の作業の続行を命じたのは保全上当然の措置であつて若干のストックがある事は保全要員が保全作業を拒否し得る理由にはならない。

債権者等は施設保全に実害なき認識の下に本件集団欠勤を行つたのだから其行為は正当たと主張するけれども是迄検討して来た通り、海岸運輸作業の全面的休止は客観的に見て指定施設保全上危険をもたらすものであり、又其の故に管理担当者が之を保全業務として指定し保全要員を之に配置し、罷業中と雖も保全要員の作業は争議と切離して施設保全の為に続行せらるべき事を命じているのであつて、之は施設保全上管理担当者として正当な措置と認められるから、債権者等の主観的見解如何に依つて勝手に之を否定し排除して保全要員でありながら保全作業を拒否し又は保全要員を教唆して保全作業を抛棄せしめる事は許されない。

又債権者等は施設に損壊を生ぜしめなかつたから本件集団欠勤は正当行為であると主張するけれども、一体管理担当者及び保全要員に命ぜられているのは保全作業即ち「施設の適当なる保護維持」(前示最高司令官の覚書)であり、「保護」と言う事は実害発生を防止する仕事に外ならぬ。故に本件の如く実害防止の為に為される管理担当者の指揮命令を拒否し実害発生防止の仕事を拒否し阻害する事は、たとえ結果に於て施設の毀損を惹起しなかつたとしても、前示覚書や指令の趣旨に反する事であつて此の点から違法の争議行為と見られる事に変りはない。

而して斯様に管理担当者が賠償指定施設の保全上必要と認めて為した指揮命令其他の処分に対し保全要員が之を拒否した場合、及び他の者が之を教唆して之を拒否せしめた場合、管理担当者は管理保全業務の職場規律維持の為必要と認めるときは之を保全要員から排除し得、使用者は是等労働者の職務違反の程度如何に依り私企業の使用者として之を解雇し得る。その故は経営者も前示商工文部省令第一号に依り管理担当者と同様に指定施設の管理保全を完うすべき責任と、前記最高司令官の指令覚書並に前示省令に示された保全要員を管理担当者の指揮下に提供すべき義務とを負うて居り、此の責務を果す事は経営者に取つて最も重要な「業務」であるから、保全要員としての職務上の義務を拒否し或は保全作業を阻害する労働者との間に雇傭関係を継続し難い事は当然であり、私企業の経営者たる地位に於て之を解雇する事も許されねばならないからである。

而して労働契約は私企業の経営者と労働者との関係であり、労働協約は私企業の経営者と労働組合との関係であつて、何れも管理担当者と労働者との関係ではないから、保全作業阻害乃至保全要員の保全作業に関する管理担当者の指揮命令拒否を理由に之を解除することは、労働契約、労働協約及び法令の定むる要件に従つて為される事を要し、之に違反したか否かはもはや前示特別機構内の問題ではなくして憲法の完全に支配する領域内に於ける純然たる私法上の問題であるから当然司法裁判所の判断事項に属する事である。

而して債務者日鉄会社は、債権者等の企てた本件集団欠勤は山猫争議であるとの点より見るも、又賠償指定施設保全に必要なる作業を阻害する行為であつて連合国最高司令官の日本政府に対する命令の趣旨に反する行為である点より見ても、違法な争議行為であり、賠償指定施設保全作業の職場の秩序を紊した事、及び債権者等が勅令第三百十一号違反として昭和二十四年十一月二十一日有罪の判決を受けた事を理由に職場の規律保持の見地から債権者等に対し辞職勧告を行つたが応じないので、賞罰委員会に附議して其の決定を経たる上、就業規則中の懲戒解雇に関する条項を適用し、昭和二十四年十二月二十九日債権者等を懲戒解雇に附し、同日之を債権者等に通知した事実を認め得るが、敍上認定の債権者等の行為は、就業規則中の懲戒解雇の条項に該当し、且右解雇に付ては同日付で八幡労働基準監督署長より労働基準法第二十条の解雇の予告除外事由ある事の認定を受けている事をも認め得るから、右懲戒解雇は有効であると言わなければならない。

債権者等は本件集団欠勤当時には旧労調法が施行されて居り、同人等は「労働委員会の同意が無ければ解雇されない」事を期待していたのであるから、「労働委員会の同意が無ければ解雇されない」と言う事は債権者等の既得権であつて其の同意を得ざる本件解雇は無効であると主張するけれども、右解雇の通告当時には既に新労調法が施行されていたのであるから新法を適用すべきであつて旧労調法違反の問題は生じない。旧労調法下に於て労働委員会の同意を得ざる解雇が一般に無効とされたのは、労働委員会の同意無き解雇に対しては、同法第四十条が直接に働いて之を無効としただけの事であつて、決して同条が個々の労働契約の内容となり、個々の労働契約の当事者が「労働委員会の同意がなければ解雇されない。又解雇しない」と言う労働契約上の具体的権利義務を取得したからではない。然るに同条の改正に依り右のような効力はなくなつたのだから労働委員会の同意は必要ではない。いつたい既得権とは特定の法条が効力を有している間に其の法条の適用によつて既に具体化した権利(或は労働協約規範に付て言えば協約の存続中協約規範の適用により使用者又は労働者が既に取得した具体的権利)を指称すべきであつて旧労調法第四十条の如き法の強行的規範力に依つて生ずべき効果(例えば解雇の無効)の反射として生ずべき抽象的利益乃至地位迄も既得権と言うのは正当でなく仮りに之を既得権と呼んで見たところでそのようなものは、それを生ぜしめている法規の改正により消滅するのは当然であるから本件解雇に付て旧労調法第四十条を適用する余地はない。

又債権者等は同人等所属の組合連合会と債務者会社との労働協約に依れば、懲戒解雇に付ては各作業所の賞罰委員会に於て協議決定すると定められて居り、右条項は協約の規範的部分に属するから協約失効後も効力を有するに拘らず、本件解雇は其の協議決定を経ずして為された解雇であるから無効であると主張するけれども、「労働協約の事後効力を認める説は我労働組合法第十六条の解釈としてはにわかに採用出来ない。即ち我労働組合法第十六条前段に「労働協約に定める労働条件其他労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は無効とする」と言つているのは、恰も民法に於て強行法規に反する契約が当然無効とされるのと同じ事で協約の強行法的規範力に依つて之に反する契約が無効とされるだけの事であるし、同条後段に「此の場合に於て無効となつた部分は基準の定めるところに依る」「労働契約に定めのない部分に付ても同様とする」と言つているのも―協約に所謂強行法的規範力を有せしめる基礎は労働契約の内容の決定に付て当事者の個人的意思を排除して団体意思を以て之に代らしめる点に在る事から言つても、又右法条の「基準の定めるところに依る」と言う文詞から言つても、―之は協約規範が、所謂強行法的補充法規として当然当事者間の労働契約に「適用」される事、即ち労働契約の当事者は、之を知ると否と、之に服する事を欲すると否とに関係なく、法律上当然之に依つて規律され、直接に協約規範に依つて労働契約上の権利を取得し義務を負う事を認めたに過ぎない趣旨が窺われる。従つて協約の規範的部分が個々の労働契約の内容となると解する事は、我法制上は根拠に乏しい事になり、又協約規範の直接的効力を説明する為にそのような擬制的且稍不自然な説明をする必要もないと考えられ寧ろ前示の通りに解する事が最も自然であり、又協約規範の直接的効力の本質をも簡明に説明し得ると思われる(協約規範の直接的効力の本質は、それが単に労働関係の内容を規律するに止まる点に在るのであつて、それが個々の労働関係の構成部分となる点に存するのではない。)。又協約終了後協約規範が社会的規範或は経営の慣行として残ると言う説もにわかに採用し難い。

右の様に解すると協約の事後効力は否定される結果となるけれども、其事は却つて我労働組合法第十五条第二項が協約の効力の自動延長を否定した精神に合致すると思われる。

仮りに右述べるところと反対に協約規範の事後効力を認める説を採つたとしても、債権者等の主張する前記協議約款は事後効力を持つ余地がないと考えられる。即ち右約款は懲戒解雇の一般的基準を、会社と組合連合会との間に設置せられる中央労務委員会に於て協議決定し、此の設定された基準に従つて特定人を懲戒解雇に附すべきや否やは、会社と各作業所単位の組合との間に設置された各作業所別の労務委員会に於て協議決定する事となつている。即ち右協約条項は前段に於て「解雇基準其のもの」の「決め方を決め」後段に於て「解雇の当否判定の手続」を定めている(実際に於ては基準の決め方を決めただけで其基準其のものは未だに協議決定されていないし、労使双方から其協議の申出もないままで今日に至つて居り、ただ就業規則には懲戒解雇に関する基準が掲げられている)。而して例えば「業務上の義務に背き業務を怠つた者は懲戒解雇にする」とか「社品を不正に持出した者は懲戒解雇にする」とか言うような「解雇の客観的な基準」は広い意味で「労働条件」と言い得るけれども、斯様な「解雇基準其のもの」と「之を設定し」或は之に照して「解雇の当否を判定する作用」とは明に区別せらるべきであつて、斯様な解雇基準を設定する事、及び其の解雇基準に照し解雇の当否を判定する事、及び解雇の意思表示をする事は本来経営者の権限に属する事であり、組合が之に参加する事を定める協約条項は所謂経営参加として協約の債務的部分に属する。本件協約に於て「懲戒解雇に付ては賞罰委員会(労務委員会)に於て協議決定する」と言う条項は本来経営者の権限に属する解雇の当否の判定に対し組合が賞罰委員会と言う形式を以て経営参加を為す事を定めたものであつて、労働条件乃至労働者の待遇に関する「基準」を定めたものではないから之は協約の債務的部分に属する。(右の協議約款は懲戒解雇に付ては労務委員会に於て協議決定すとなつているが賞罰委員会に於ては労資の委員は同数であるけれども双方の意見が一致しない時は会社側から出た委員長が決する事になつているから、此の約款は結局会社をして組合の意見を充分聴いて之と協議せしめ解雇の当否の判定に付き会社側に反省せしめる効果を持つに止まり最後の決定権は会社側が持つている。此の点から見ても之は会社が解雇権其のものを放棄したのではなくて解雇手続に組合側を参加せしめる事を約した趣旨だと解せられる)故に協約の終了に因り是等の賞罰委員会等経営参加に関する条項も当然失効し事後効の問題を生ずる余地はない。然るに債務者会社と債権者等所属の組合連合会との労働協約は昭和二十四年十二月一日以降失効しているから債権者等を解雇するに付ても、前述の如き意味に於ける解雇基準には従わねばならぬが、賞罰委員会に於て協議決定する事は必要ではない。従つて本件解雇は手続上も瑕疵はない。

次ぎに債権者等主張の本件判決ある迄解雇せざる旨の紳士協定が、債権者等と債務者会社との間に存したと言う点に付ては何等の疏明がなく仮にそのような紳士協定があつてもそれは解雇の効力には影響がない。

なお債権者等は就業禁止通告の効力を停止する仮処分をも同時に求めているけれども既に債権者等に対する解雇が有効と認められる以上、就業禁止通告の効力を仮処分を以て停止する理由も必要も認められない。

以上の通りであるから本件仮処分の申請は何れも理由がないから之を却下しなければならない。

依つて訴訟費用の負担に付き民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 中村平四郎)

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