福岡地方裁判所小倉支部 昭和32年(ワ)419号 判決 1958年2月07日
原告 小田純一
被告 国
訴訟代理人 川本権祐 外一名
主文
原告の訴はこれを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金二十三万九千二百四十二円及びこれに対する昭和三十二年七月二十八日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、原告は福岡地方裁判所小倉支部昭和三十年(ケ)第二一〇号競売事件(抵当権実行)の昭和三十二年七月二日の配当期日において、次順位抵当権者として、その売得金中より金二十三万九千二百四十二円の配当を受けることとなり、該配当表は確定し、右競売手続は終了した。したがつて、被告国は、原告に対し右配当金を支払うべき義務を負うものというべきところ、国の機関たる右裁判所歳入歳出外現金出納官吏橋本保は、該配当金を保管しながら、遠賀税務署長において右配当金請求権に対し国税滞納処分による差押えをなしたことを理由に、その支払をしない。
しかし、右差押は訴外小田初次郎に対する滞納処分としてなされたもので原告に対しなされたものでないから、右差押は無効であり、被告国は原告に対し本件配当金の支払義務を免れない。よつて、被告国に対し右配当金二十三万九千二百四十二円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和三十二年七月二十八日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため、本訴に及ぶと述べ、
被告指定代理人は、「主文同旨」の判決を求め、本案前の答弁として、原告は、競売手続の終了を前提として本件配当金の請求をなすけれども、競売法による競売手続は配当金の交付をもつて終了するものと解すべきであり、且つ、配当金の交付は競売裁判所の実施すべき競売手続上の行為にほかならない。したがつて、配当金の交付は当該手続中においてこれを求むべきである。凡そ競売手続の違法を理由に救済を求めるためには、民事訴訟法の強制執行手続における不服申立方法に関する規定中競売手続に準用される規定にもとづき不服を申立るべきであつて、それ以外の方法による救済は許されないものである。しかるに原告は、右競売手続上の不服申立方法によらず、本訴において国に対し直接配当金の交付を求めているのであつて、かかる訴は不適法であると述べ、なお本案につき、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め原告主張の滞納処分による差押は本件配当金請求権に対する差押であるから原告の本訴請求は失当であると述べた。
<立証 省略>
理由
原告の本訴請求は、要するに、その主張に係る事実関係をもつて、該競売手続が終了したものと解し、これを前提とし、競売手続外における国の配当金支払義務なるものを是認し、もつてその履行を求めるものであることは、その主張自体により明かである。
しかしながら、競売法による担保権実行のための競売手続は、担保権者に優先弁済を得させることを目的とするものであるから競売代金中より競売費用を控除した残額を受取るべき者に交付するまでは終了しないと解すべきであり、また、裁判所の歳入歳出外現金出納官吏のなす競売代金の保管、交付等の事務は競売手続内の事実行為であつて、当該官吏は競売裁判所の事務補助者としてなすものにすぎず、その行為は競売手続を離れて独立に存するものではなく、すべて競売裁判所の行為に吸収せられるものにほかならない。
してみれば、原告の本訴請求は競売手続の最終段階にあたり、配当金の交付を求むるものであつて、つまり競売手続は、民事訴訟法上の強制執行手続と同じく強制的に債権者の権利の実現を図る広義の民事訴訟手続であり、その執行機関たる競売裁判所が不動産競売手続の過程において、競落代金の支払を受け、これを権利者に交付することも、右訴訟手続としてなすものであつて、私法上の権利義務の主体としてなすものでないことはいうまでもない。
故に、競売手続が終了しない以上、訴訟法上の配当請求権のほかに、国に対する実体法上の配当金請求権というが如き権利は認められず、結局、配当請求権は当該手続内において、配当要求としてこれを行使するのほかなく、これに対する不服は当該手続における不服申立方法によるべきであつて、本訴の如き国を相手とする独立の訴は、訴の要件を欠き不適法であつて、却下を免れない。
よつて、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 二階信一 平田勝雅 伊沢行夫)