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福岡地方裁判所小倉支部 昭和39年(ワ)234号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、先づ事故発生の原因及び態様について検討する。

<証拠略>を綜合すれば、原告敬子及び原告幸子両名の通学する平野小学校においては数年前から通称山の手線バス通りを南北に交差して同小学校に通ずる十字路の東側に当る前記学童横断歩道(幅員四、〇五米で長さは幅員九、一米の車道と同一)における登校学童の交通を指導規整して来たものであるが、これによると、六年の上級生が交通整理班の当番制により毎朝午前八時一〇分までの登校時刻に二人宛交替で横断歩道の南北両端にある歩道(いずれも幅員三米)に立つて赤旗と青旗を両手に持ち、これを交互に横断する学童の方と進行する車の方に出し、青旗の場合は学童が横断するかまたは車が進行し、赤旗の場合は学童が横断を中止するかまたは車が進行を中止して一旦停止しいずれかが待機するように交通を整理すると共に横断する学童は必ず横断歩道内を遅滞なく次々に通るよう指導しているところ、本件においては、六年生の当番片首辰夫、城戸洋一両名が交通整備に当り、一二、三名の学童が横断歩道を北側の歩道から南側の歩道へまさに横断し終つたので、右両名とも青旗を東の方に出し替え、赤旗を登校学童の方へ出して横断を制止しようとする直前、原告敬子及び原告幸子が横断歩道内の西側部分を急ぎ足で横断し始め、東側の車道から進行して来る車には全く気付かないでいたところ、折柄被告が自動三輪車を時速三〇粁近くの速度で運転し、横断歩道に接近して来たが、当時学童の登校時刻に当るので、特に自動車運転者としては学童の横断状況、横断歩道の両端に立ち交通整理に従事している学童の指示或は横断歩道に近付いて来る登校学童の動静等前方左右に細心の注意を払い、その通行を妨げないように徐行一時停止その他臨機必要な運転方法を執り(道路交通法第一三条、第三八条第二条第二項、第七一条第三号参照)、以て事故の発生を未然に防止すべき義務があるにもかかわらず、これを怠り、前方注視不十分のため横断歩道の数米手前に来たときその両端で交通整理に当つている学童の青旗が車の方に出ているのを認め、そのまま進行できるものと軽信し、更に横断歩道の直前位の地点に近接した際、始めて原告敬子及び原告幸子が右斜前方の横断歩道内西側を急ぎ横断して来るのを発見したので、ハンドルを急遽左に切り、一方それまで車の接近に気付かなかつた原告敬子及び原告幸子が車の接近により無意識的に危険を感じたか横断歩道を約三分の二位進んだ地点から急に横断歩道の西方外側へ行きかけたので、被告はいよいよ衝突必至の危険を避けるため更に急制動の措置を執ろうとしたところ、運転未熟のため意の如くならず、遂に車体右側前方で原告敬子及び原告幸子を跳ね飛ばし横断歩道から約七米四方の小さな小溜りの個所に転倒させるに至つたことが認められ、<中略>被告は前記自動三輪車を運転進行中、自動車運転者として当然遵守すべき義務を怠つたため本件事故を惹起し、因つて原告敬子及び原告幸子は勿論その両親である原告一及び原告美佐子にも相当の損害を与えたことが推認されるので、これによつて生じた損害を賠償すべき義務があるといわなければならない。

二、そこで、被告の過失相殺の抗弁について判断する。

被告の抗弁の要旨は原告敬子及び原告幸子の両名が通行車両に対する青旗信号を無視して突然横断歩道に飛び出して来た重大な過失が本件事故の主たる原因をなしているとし、右原告両名は平素教諭指導のもとに、当番の学童二名が横断歩道の両端に立つて赤旗青旗を両手に持ちこの旗の色分けにより登校学童の横断を規整しているから、必ず右旗の色分けに注意すると共に横断歩道をその左右から通行する車両につき安全の有無を確認した上横断歩道を横断すべきであつたのに、通行車両に対して出された青旗の信号旗を無視して突然横断歩道を走り抜けようとした重過失があり、且つ原告敬子は当時生後一二年五カ月、原告幸子は同じく一〇年三カ月の相当の年齢に達し、いずれも学力優秀でかねて道路交通、信号旗及び横断歩道の交通整理等については充分習得訓練を受けていたので、交通事故の危険発生を未然に防止するだけの注意能力は優に備えていたものと認められるのに、本件において、右原告両名はこの注意を欠き横断歩道に急に飛び出したため本件事故が発生したものであるから本件事故については右原告両名に重大な過失があり、本件損害賠償の額の算定についてはこれを斟酌して当然過失相殺されるべきであると抗弁するところ、本来青旗及び赤旗の信号旗はその目的として、登校学童の安全横断を規整するために使用されるものであつて、学童に青旗を出して横断歩道を安全に横断せしめるためには勢い通行車両に赤旗を出して学童右横断中一時停止の措置を要請し、その協力を得なければならないことになるので、赤旗を出された通行車両はそれが法的義務として要請されるものではないにしても、一般社会の交通道徳と交通安全の思想から右要請に応じて協力することになる関係上(なお道路交通法第一四条第四項には、児童または幼児が小学校または幼稚園に通うため道路を通行している場合において、誘導、合図その他適当な措置をとることが必要と認められる場所については、警察官その他その場所に屋合わせた者はこれらの措置をとることにより、児童または幼児が安全に通行することができるようにつとめなければならないと規定されている)学童は協力する通行車両に対し横断歩道の通行を円滑にして交通秩序を確保するためには勢い通行車両に対し青旗を出して横断歩道の通行を促すと共に学童に対しては赤旗を出して横断歩道の横断を制止し以て学童を交通事故から保護する半面通行車両の安全且つ円滑な運転の目的を達成せしめることがその趣旨とするところである。従つて、本件においても、原告敬子及び幸子並びに被告はいずれも右信号旗の色分けを注視し、これに応じた行動または運転をしなければならないところ、前記認定の如く右原告両名は信号旗が学童に対しまさに青旗から赤旗に交替しようとする直前に急いで横断歩道を横断し始め、被告は信号旗が赤旗から青旗に交替する直前及び直後の状況、従つて学童の横断歩道における横断状況及び横断歩道北端の横断態勢に対する前方注視が不十分であつたため、被告が青旗のみを認めたときは既に横断歩道に接近していたばかりでなく、青旗を恰も道路交通法に定められた信号機の表示する信号と同一に考え、横断歩道を安全に通行し得るものと過信してそのまま進行したため、前記原告両名の発見が遅れ、しかも被告が運転未熟であつたところ臨機適切な措置を執ることもできず、遂に本件事故を惹起するに至つたもので、前記原告両名が全く被告の車に気付かず、学童に対する信号旗がまさに青旗から赤旗に交替しようとする直前に早く横断しようとしたためか、急いで横断歩道を横断し始めたことが事実上本件事故の一因をなしていないとはいえないにしても、道路交通法においては「車両等は交通整理の行なわれていない交差点において歩行者が道路を横断しているときはその歩行者の進行を妨げてはならない。」(同法第三八条第二項)「歩行者は車両等の直前又は直後で道路を横断してはならない。ただし、横断歩道によつて道路を横断するときはこの限りでない。」(同法第一三条第一項)と規定されているから、前記原告両名は被告の車の直前を横断することができるのに対し被告はその進行を妨げることができない。すなわち歩行者優先の原則が確立され、前記原告両名は被告の車等通行車両の有無或は進行状況等を予め確認した上でなければ横断することができないという義務を負うているものではない。従つて、前記原告両名は学童の行う交通整理に従うべきであることは言うをまたないけれども、信号旗に違反せず、道路交通法上も何らその義務に違反した点はないというべきであり、また被告の主張する過失相殺をなすに必要な過失(不法行為の成立要件としての過失の程度までの過失を要求されていない)についても、前説示により明らかな如く交通法規は勿論現在の交通道徳乃至一般交通秩序の見地から考察して前記原告両名に過失の責はない、少くとも本件の損害賠償の額を算定するにつき斟酌するを相当とする程度の過失はないというべきである。さすれば、前記原告両名に右過失を認めるに必要な責任能力の有無を判断するまでもなく、被告の過失相殺の抗弁は理由がない。(滝口隣)

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