福岡地方裁判所小倉支部 昭和43年(ワ)591号 判決
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〔編注〕 被用者の過失斟酌肯定例――大判大九・六・一五民録二六輯八八四頁、大判昭一二・一一・三〇民集一六巻一八九六頁等。
広路進行車徐行義務否定例――最判昭四五・一・二七本誌二四四・一五九等
〔判決理由〕不法行為において、被害者の被用者の過失も加わつて損害が発生、拡大した場合には、それを被害者からの賠償請求について考慮すべきと考えるので、以下被告ら主張の過失相殺の抗弁について判断する。
<証拠>とを併せ考えると、本件交差点は、事故発生当時交通整理が行われておらず、原告車の進行していた甲道路から被告車の進行していた乙道路の見通しが困難であつたことは前記のとおりであるが、甲道路は乙道路より明らかに幅員が広いものであること、一方原告車の進行方向右側すなわち北東方面にのびる乙道路は幅員が明らかに甲道路より広いものとはいえないが、甲道路からみて乙道路の見通しは良好であることが認められ、右事実によれば、甲道路東方面から本件交差点に向けて進行していたが訴外竹之内には、乙道路との関係で優先通行権があり、乙道路との関係で見通しがきくのであるから、右交差点に進入する前に、直ちに停止することができるような速度にまで減速する義務、すなわち徐行義務が当然あつたとは解し難い。勿論、優先通行権のある車でも、相手車の位置速力等の関係から相手車が優先通行権を無視して交差点に進入し、その結果として両車の道路が交差し衝突するであろう危険な状況が現実に存する限り、その危険を回避するため、警音器吹鳴、徐行ないし一時停止の注意義務が課せられると解すべきであるから、この点を調べる。
<証拠>によると、本件事故当時その現場はアスフアルト舗装で乾燥しており、甲道路の制限最高速度は毎時五〇キロメートルであつたこと、現場には原告車のタイヤスリップ痕16.9メートルがあり、被告車のタイヤ擦過痕2.6メートルがあつたこと、被告車は衝突後衝突地点から9.5メートル両方に移動してやつと停車したものであること、以上の事実が認められ、右スリップ痕の長さから原告車の制度初速を計算すると時速約五〇キロメートルとなることは被告ら主張のとおりであるけれども、(1) <証拠>に照らしてみて、右認定事実から当然に原告車の制動初速が五〇キロメートル毎時を「はるかに」超えるものであつたとは断定し難いし、(2) 右認定事実によれば、訴外竹之内は五〇キロメートル毎時を超える速度で本件交差点を通過しようとしたものであることは是認し得るが、<証拠>>によると、本件事故当時現場は照明があり、甲道路東方面からは、交差点に進入しない限り乙道路の見通はきかず、また甲道路を進行する車両が乙道路を進行してくる車両のライトに気付き得る状況でなかつたこと、訴外竹之内も被告車のライトに気付かず、乙道路の方向に注意しつつ交差点に進入し、進入後はじめて、その時交差点に進入しようとしていた被告車のライトを発見したこと、そして訴外竹之内は被告車より先に交差点を通過できるものと考えて被告車をみながらそのまま五メートル位進行し、その際はじめて被告車の速度が大であるのに気付いて衝突の危険を感じ、急制動の措置をとつたがおよばず被告車と衝突したこと、以上の事実が認められ……、右事実に対比すると、本件事故当時被告車が本件交差点に進入し、その結果として同車と原告車の進路が交差し衝突するであろう危険な状況が存することを、訴外竹之内において認識し、或は、甲道路東方面から右交差点に進入せんとする車両において通常認識することが可能であつたとは認定し難く、他に右危険な状況を認識することが可能であつたことを認めさせるに十分な証拠はないし、訴外竹之内が時速五〇キロメートルを超える速度で右交差点を通過しようとしていたにしても、このことから当然に右危険な状況を予想し、または予想し得たとも認め難い。
そして被告ら主張の、訴外竹之内が前方左右安全確認義務を怠つた旨の抗弁事実についてもこれを認めさせるに足る証拠はないので被告らの過失相殺の抗弁は採用できない。(武田多喜子)