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福岡地方裁判所小倉支部 昭和45年(ワ)223号 判決 1972年3月29日

主文

被告が訴外中村海工株式会社に対する山口地方裁判所下関支部昭和四四年(手ワ)第一七号約束手形金請求事件の執行力ある判決正本に基づき、昭和四五年三月二日に別紙目録記載の物件についてなした強制執行は、これを許さない。

訴訟費用は被告の負担とする。

本件について、当裁判所が昭和四五年三月九日になした強制執行取消決定は、これを認可する。

前項に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、第二項同旨の判決を求め、その請求の原因として、

「一、被告は、訴外中村海工株式会社に対する山口地方裁判所下関支部昭和四四年(手ワ)第一七号約束手形金請求事件の執行力ある判決正本に基づき、昭和四五年三月二日に福岡地方裁判所小倉支部執行官をして別紙目録記載の物件(以下本件土運船という。)を差押えさせた。

二、しかし、本件土運船は、原告において、その所有者であつた訴外丸嘉機械株式会社から昭和四四年九月一三日本件土運船を含む浚渫船二隻、土運船二隻、鋼製伝馬船一隻を合計金五、九八〇万円をもつて買受け、即日引渡を受け、その所有権を取得したものである。訴外丸嘉機械株式会社が本件土運船の所有者であつた経緯は次のとおりである。

(一)  本件土運船は、訴外宗田造船株式会社において建造し、同訴外会社より訴外湯浅金物株式会社がこれを買受けてその所有権を取得した。

(二)  次いで、訴外湯浅金物株式会社は、昭和四二年一一月二二日、訴外中村海工株式会社に対し、本件土運船を所有権留保付割賦販売の方法で売渡し、即日引渡を了した。

右売買契約締結に際しては使用貸借契約も締結され、前同日、右両者間において、機械割賦売買ならびに使用貸借契約公正証書(甲第四号証)が作成され、同証書各条記載の約定がなされたところ、その第五条には、本件土運船の所有権は、売買代金完済に至るまで訴外湯浅金物株式会社において留保し、売買代金完済のとき訴外中村海工株式会社に移転する、第七条には、訴外中村海工株式会社が右第五条により本件土運船の所有権を取得するまでの間は、訴外湯浅金物株式会社は無償で本件土運船を訴外中村海工株式会社に使用させるものとする、但し、本契約が解除その他の事由により終了したときは、訴外中村海工株式会社は直ちに訴外湯浅金物株式会社に本件土運船を返還しなければならない、第一五条第一項には、同条同項記載の一ないし五各号(その四号には『訴外中村海工株式会社が自ら破産、和義開始あるいは会社更生手続の開始等の申立をしたとき。』との記載がある。)の事由が生じた場合には、訴外中村海工株式会社は自己の負担する一切の債務につき期限の利益を失うものとする、第一六条本文には、第一五条第一項各号の事由が生じたときは、訴外湯浅金物株式会社は何等の催告をすることなく、本売買および使用貸借契約を解除し、本件土運船の返還を請求しうる、第一七条には、本売買および使用貸借契約が解除された場合において、訴外湯浅金物株式会社が本件土運船の引渡を請求したときは、訴外中村海工株式会社は本件土運船を訴外湯浅金物株式会社の営業所に持参して返還しなければならない、訴外中村海工株式会社が返還義務を履行しないときは、訴外湯浅金物株式会社またはその代理人は随時かつ任意に本件土運船を引取ることができるものとし、……後略、との各記載がある。

(三)  ところが、右買主たる訴外中村海工株式会社は、昭和四四年七月一九日、大阪地方裁判所に和議開始申立をなし(同庁昭和四四年(コ)第一五号)、かつ、和議開始前の保全処分をえて、同日以降の支払を全部停止したため、右売主たる訴外湯浅金物株式会社は、右公正証書第五条により同訴外会社に留保されている所有権に基づき、かつ同公正証書第一五条第四号、第一六条、第一七条に基づいて本件土運船の返還を受けたものである。

なお、訴外湯浅金物株式会社から訴外中村海工株式会社に対する右売買契約および使用貸借契約解除の意思表示は、昭和四四年七月二四日頃到達した書面によりなされたものである。

(四)  訴外丸嘉機械株式会社は、昭和四四年七月三一日、訴外湯浅金物株式会社より、本件土運船を含む土運船二隻を金三三〇万円をもつて買受け、本件土運船の所有権を取得したものである。

(五)  なお、仮に訴外丸嘉機械株式会社が訴外湯浅金物株式会社より本件土運船を買受けた際、売主たる同訴外会社に本件土運船の所有権が属していなかつたとしても、同訴外会社より、訴外丸嘉機械株式会社は、右のとおり本件土運船を買受けてその引渡を受け、平穏、公然に占有を始めたものであり、その占有の始め、訴外湯浅金物株式会社が株式大阪市場一部上場会社であり、同訴外会社取扱いにかかる商品たる鉄船の売買であるので、その所有権が売主たる同訴外会社に属することについても毫も疑いを持たず、かつそう信ずるについて過失がないことは多言を要しないから、直ちに、訴外丸嘉機械株式会社は、本件土運船についてその所有権を取得したものである。

三、仮に、原告が訴外丸嘉機械株式会社より本件土運船を買受けた際、売主たる同訴外会社に本件土運船の所有権が属していなかつたとしても、原告は、昭和四四年九月一三日、建設機械販売を業とする同訴外会社から、本件土運船を買受け、平穏かつ公然にその占有を始めたものであり、その占有を始め、本件土運船が同訴外会社の所有に属するものと信じ、かつそう信ずるにつき無過失であつたから、直ちに、原告は、本件土運船についてその所有権を取得したものである。

四、よつて、被告が本件土運船を訴外中村海工株式会社の所有にかかるものとして、前記のとおり同訴外会社に対する強制執行としてこれを差押えたのは失当であるので、原告は、所有権に基づきこれが排除を求めるため本訴に及んだ。」

と述べた。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「一、請求原因第一項の事実は認める。

二、請求原因第二項の事実中、原告が本件土運船を訴外丸嘉機械株式会社より本件土運船を買受けたとの点は否認する。同項(一)ないし(四)の事実中、訴外中村海工株式会社が訴外湯浅金物株式会社より原告主張の日に所有権留保付割賦販売の方法で本件土運船を買受けたとの点は認めるが、その余の事実は不知。同項(五)の事実は否認する。

なお、訴外湯浅金物株式会社が訴外中村海工株式会社に本件土運船を売渡した際、その代金完済に至るまで訴外湯浅金物株式会社において本件土運船の所有権を留保したのは、売買代金支払確保のための担保の一類型であり、譲渡担保の場合に比べて売主と買主が逆になつている点を除き同一であるから、右売買についても、東京高等裁判所が譲渡担保の事案について判示した昭和四四年一月二四日判決(高裁集二二巻一号三五頁)の法理がそのまゝ適用されてしかるべきである。

また、本件においては、原告の主張によれば、その主張の保全決定の結果、訴外中村海工株式会社は、昭和四四年七月一九日以降の支払を差止められたというのであるから、同訴外会社に債務不履行の責はないから、債務不履行を前提とする原告主張の契約条項もまた効力を発生する余地がない。

三、請求原因第三項の事実はすべて否認する。

四、仮に原告主張のように、訴外湯浅金物株式会社と訴外中村海工株式会社間の本件土運船の売買および使用貸借契約につき、原告主張の日に訴外湯浅金物株式会社が訴外中村海工株式会社に右契約解除の意思表示をなしたとしても、右意思表示がなされた時点では、同訴外会社には売買代金の一割にも満たない債務が残つていたにすぎないのに反し、本件土運船は金七五〇万円の価値があつたから、右意思表示は、信義則、公平の原則に照らし権利の濫用というべく、その効力を生ずに由がないい。」

と述べた。

立証(省略)

別紙

目録

鋼製土運船  一雙

名称、型式    三〇〇立方米積底開式鋼製土運船

製造者名     宗田造船株式会社製

製造番号     H・A・K四〇二二三〇一A

船名表示     第一一芳浚丸

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