福岡地方裁判所小倉支部 昭和46年(ワ)661号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一、原告ら主張の原告らと訴外小前健蔵との身分関係および健蔵が昭和四六年六月二七日に死亡したこと、ならびに被告が「ともろビーチ」を所有経営し、右「ともろビーチ」には遊泳施設として原告ら主張の大人用と子供用プールとが設置されていることは当事者間に争いがない。
被告は、健蔵が水死したものではない旨同人の死亡原因を争うが、<証拠>を総合すると、原告ら主張のように健蔵が本件大人用プールの中で溺れたため溺死するに至つたことが認められ、証人森野哲雄、同荒岡英美子の各証言および被告本人尋問の結果をもつてするも、右認定を左右するに足りず、他にこれに反する証拠もない。
二、次に、原告らは、本件大人用プールと子供用プールとの間に子供が大人用プールに接近するのを防止するための柵の不存在(当事者間に争いがない)を工作物の設置瑕疵と主張するので、この点について判断する。本件各プールが有料の遊泳施設であることは当事者間に争いがなく、距離的にも約一二メートルと両者相近接しているのであるから入場した子供が大人用プールに接近し、あるいは水泳未熟な子供が大人用プールに入り溺死する危険性が皆無とは言えないことは当然であるが、一方前掲各証拠および弁論の全趣旨によると、後記認定のように本件プールの所有占有者である被告としては、監視員を雇傭し子供が単独で大人用プールに接近するのを防止することを含めて遊泳者に対する危険発生を未然に防止すべく監視に当らせていたのであるから、前記子供用防止柵の設置に関するかぎり、その不存在が工作物の設置瑕疵になるか否かは、一般的に有料プールにおける入場者の通常の行動状況およびこれに対して要求される監視態勢を考慮に入れたうえ、通常予想される危険発生を未然に防止するに足りる工作物自体の設置がなされているかどうかによつて相関的に決すべきものと考えられる。これを本件についてみると、被告は大人など適当な保護者が同伴するときは子供が大人用プールに入ることを容認しており、またこれは一般的に有料営業プールにおける実態と認められ、プール入場者としても自己の行動については水難に対しある程度の危険回避責任を負担すべきことは当然であり、一方前記のように被告は一応の監視態勢を執つていたのであるから、これらの事実を勘案すると、前記防止柵の不存在をもつて本件プールの設置につき瑕疵があつたものとは認められない。
三、そこで、原告ら主張の使用者責任について判断する。本件事故当時被告が訴外後藤勇策および同田中俊二をプール監視のアルバイトとして雇傭し、プール入場者の監視に当らせていたことは当事者間に争いがない。しかして、前掲各証拠を総合すると、本件事故当時右監視員らは別紙見取図表示の位置にあつて、遊泳者の動静の監視に従事していたのであるが、当初健蔵を含めて子供用プール内には一〇名位の子供が遊んでいたが、健蔵が単独で子供用プールから大人用プールに向い同プール内で溺れているのを他の遊泳客によつて発見、引き揚げられたことが認められる(<見取図略>)。右認定事実および本件各プールの構造、位置をあわせ考えると、前記のように大人用プールと子供用プールとの間には防止柵もなかつたのであるから、プール監視員としては特に子供が子供用プールから大人用プールに接近するのを未然に発見防止すべき注意義務があることは明らかであり、かつ、当時の遊泳客数(大人、子供あわせて一〇数名位と認められる)からしても、右注意義務を尽して健蔵が大人用プールに接近するのを防止することは十分可能であつたと認められるから、右訴外人らには監視義務懈怠の過失があつたものと言わざるを得ない。そして、後記認定のように健蔵にも本件結果発生につきその過失が一因をなしているが、右訴外人らの注意義務懈怠に起因して大人用プールに入り溺死したのであるから、被告は民法七一五条により「ともろビーチ」経営者としてその被傭者たる訴外人らがその事業の執行につき惹起した後記損害を賠償する責任がある。<後略>
(森永龍彦 寒竹剛 柴田和人)