福岡地方裁判所小倉支部 昭和50年(ワ)657号 判決 1977年6月23日
原告 山本和也 外一名
被告 東海カーボン株式会社
補助参加人 合成化学産業労働組合連合東海カーボン労働組合
主文
一、原告らが被告の従業員たる地位を有することを確認する。
二、被告は、原告山本和也に対し金四、三六九、六四〇円と昭和五一年三月二一日以降毎月二五日限り月額金一四三、〇三〇円を、同浦本憲二に対し金四、三三三、九〇〇円と右同日以降毎月二五日限り月額金一四一、〇八〇円を、それぞれ支払え。
三、原告らのその余の請求を棄却する。
四、訴訟費用のうち、補助参加によつて生じた分は補助参加人の負担とし、その余は被告の負担とする。
五、本判決第二項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 原告らが被告東海カーボン株式会社九州若松工場勤務の従業員たる地位を有することを確認する。
2 被告は、原告山本和也に対し金四、四七二、〇四〇円および昭和五一年三月二一日以降毎月二五日限り月額金一四八、六三〇円を、同浦本憲二に対し金四、三八七、一八〇円および右同日以降毎月二五日限り月額金一四一、四八〇円を、それぞれ支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 第2項につき仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
(請求原因)
1 当事者
被告(以下「被告会社」という。)は、カーボンブラック等の製造販売を目的とする会社であり、原告山本和也(以下「原告山本」という。)、同浦本憲二(以下「原告浦本」という。)は、昭和五〇年五月当時被告会社に雇傭され九州若松工場に勤務していた。
2 本件解雇
被告会社は、昭和五〇年五月一九日原告らを解雇したとして同日以降原告らの従業員たる地位を否定しているが、右解雇は後記のとおり無効である。
3 賃金
(一) 被告会社は毎月二五日限り賃金の支給をなしているところ、昭和五〇年度の労使賃金協定により、昭和五〇年三月二一日に遡及し同日以降の平均月額賃金(基準賃金に基準外賃金を加算したもの)は、原告山本が金一三九、五四〇円、原告浦本が金一三六、一八〇円となつた。その結果原告らが昭和五〇年四月二一日以降同五一年三月二〇日までに受くべき賃金は次のとおりになる。
原告山本金一、五三四、九四〇円
139,540円×11ケ月=1,534,940円
原告浦本金一、四九七、九八〇円
136,180円×11ケ月=1,497,980円
(二) 昭和五一年度の労使賃金協定により、昭和五一年三月二一日以降の基準賃金は、原告山本が月額金一四八、六三〇円(原告山本と同期入社の平野昭夫が昭和五〇年三月二一日付で実務四級から同五級に昇給しているので、特別の事情がない限り、原告山本は昭和五一年三月二一日付で実務五級に昇進しているはずである。)、原告浦本が月額金一四一、四八〇円となつた。
(三) 原告らの解雇後に受けるべき臨時賞与は別表一のとおりであり、その合計額は、原告山本が金一、四三七、一〇〇円、同浦本が金一、三八九、二〇〇円である。
4 不法行為
(一) 被告会社は、原告らが昭和四九年二月一三日被告会社若松工場で発生した従業員竹内優の労災死亡事故(以下「竹内労災事故」という。)につき、同人の遺族から提起された損害賠償請求訴訟(以下「竹内労災裁判」という。)を支援する目的で遺族を守る会(以下「守る会」という。)を結成しその活動をすすめたことを理由に、原告らを企業外に放逐するため、昭和五〇年三月一八日からの補助参加人(以上「補助参加人組合」という。)と被告会社との労働協約改定交渉の場で、原告らの右活動を口実にして妥結調印に難色を示し、原告らの除名処分のなされることを示唆し、補助参加人組合による原告らに対する後記除名処分に決定的影響を与えたものである。以上により被告会社は、原告らに対する除名処分が無効であり、ユニオン・ショップ協定により原告らを解雇する義務のないことを知りながら本件解雇をしたものである。
仮にそうでないとしても、被告会社には解雇の意思表示をなすことが客観的に合理的なものであるか否か、解雇権の濫用にならないか等について厳しく判断すべき注意義務があるところ、本件解雇に至る前記事情によれば被告会社は本件解雇が無効であることを容易に知りうる地位にあり、又相当の注意をもつてすれば本件解雇が客観的に合理性のないものであることが容易に判明したのに右注意義務を怠り、原告らをいち早く企業外に放逐しようとして安易に本件解雇の意思表示をしたものである。
(二) 原告らの竹内労災裁判の支援活動は、労働者の正当な組合活動であるところ、被告会社は原告らの右活動を嫌悪して、補助参加人組合に対して除名を示唆した上本件解雇処分を行つたのであるから、これは労働組合法七条一号に該当する不当労働行為であり民法七〇九条の不法行為責任を免れない。
5 損害
(一) 被告会社は、本件解雇により原告らを企業外に放逐し、裁判所により原告らの従業員たる地位保全の仮処分決定が下されているにも拘らず、ベースアップによる賃金・賞与等を支給せず、社会保険も打ち切るなどの迫害を続けてきたもので、これによる原告らの精神的苦痛に対する慰藉料は各金一、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。
(二) 原告らは本件訴訟および右仮処分事件の遂行を弁護士である原告訴訟代理人に委任し、その報酬として各金五〇〇、〇〇〇円を支払う旨約束した。
6 よつて、原告らは被告会社に対し、その従業員たる地位の確認と左記金員の支払いを求める。
(一) 原告山本につき、昭和五〇年四月二一日以降同五一年三月二〇日までの未払賃金一、五三四、九四〇円・別表一の未払賞与金一、四三七、一〇〇円・慰藉料金一、〇〇〇、〇〇〇円・弁護士費用金五〇〇、〇〇〇円の合計金四、四七二、〇四〇円および昭和五一年三月二一日以降毎月二五日限り金一四八、六三〇円の賃金。
(二) 原告浦本につき、右同期間の未払賃金一、四九七、九八〇円・表示一の未払賞与金一、三八九、二〇〇円・慰藉料金一、〇〇〇、〇〇〇円・弁護士費用金五〇〇、〇〇〇円の合計金四、三八七、一八〇円および昭和五一年三月二一日以降毎月二五日限り金一四一、四八〇円の賃金。
(請求原因に対する認否)
1 請求原因1、2の事実は本件解雇の効力を除きこれを認める。
2 同3、(一)の事実中、賃金支給日、昭和五〇年度の賃金改定がなされたことおよびその遡及日は認め、その余は否認する。仮に本件解雇が無効である場合には、原告らに対しては右改定により昭和五〇年三月二一日以降次のとおり賃金が支払われることになる。
a 原告山本 金一三三、八四〇円
b 原告浦本 金一三一、八〇〇円
3 同3、(二)の事実中、昭和五一年度の賃金が同年三月二一日から改定されたことは認め、その余は否認する。仮に本件解雇が無効である場合には、原告らに対しては右改定により次のとおり賃金が支払われることになる。
a 原告山本 金一四三、〇三〇円(同人が実務四級から同五級へ昇進しているはずであるとの点は否認する。昭和五一年度における実務四級から同五級への昇進の人員枠は、等級規則に基き一名であり、有資格者六名の中から過去三年間の昇進、昇給考課点の最優秀者のみが昇進した。ちなみに昇進者は、原告山本より一年早く入社した三名のうちの一人である。)
b 原告浦本 金一四一、〇八〇円
4 同3、(三)の事実は否認する。仮に本件解雇が無効である場合の原告らの賞与は別表二のとおりである。
5 同4、(一)の事実中、竹内労災事故が発生したこと、竹内労災裁判が提起されたこと、原告らが右裁判を支援する目的で「守る会」を結成しその活動をすすめたことは認めるが、その余の事実は否認する。
6 同4、(二)の事実は否認する。
7 同5の事実は争う。
(抗弁)
一 被告会社
1 原告らは被告会社の従業員で組織されている補助参加人組合の組合員であるところ、被告会社と補助参加人組合は、その労働協約六条において「社員はすべて組合員にならなければならない。」と定め、これを受けて同協約二〇条一項が「社員が組合から除名されたときは会社は解雇する。」旨規定し、いわゆるユニオン・ショップ協定を締結している。
2 原告らは昭和五〇年五月一七日補助参加人組合から統制違反を理由に除名されたので、被告会社は右ユニオン・ショップ協定に基き同月一九日原告らを解雇する旨の意思表示をなし右意思表示はその頃同人らに到達した。
二 補助参加人
補助参加人組合の組合規約によれば、その一四条一項が「組合員が次の各号の一に該当するときは懲戒する。1組合規約または機関の決定に違反したとき、2組合の統制秩序をみだした行為のあつたとき、3組合の運営、事業の発展を妨げる行為のあつたとき」と定め、同条二項に「懲戒は戒告、権利の一時停止、解任、除名の四種とする」旨の規定が置かれているところ、原告らは後記のとおり支部総会の決定、評議員会の決定、組合本部の指示を無視し、組合と別個に「竹内さんの遺族を守る会」を結成して組合と異る見解を公然と主張し、その結果組合は被告会社との間で交渉していた特別災害補償協定の改正につき、多大の阻害が生じ被告会社より有利な条件を獲得できず、一般組合員の利益を損うに至つた。そこで補助参加人組合は昭和五〇年五月一七日、原告らの右行為が組合規約一四条一項一ないし三号に該当するとして、組合大会の決議を得たうえ、同条二項に従い原告らを除名処分に付した。除名事由の詳細並びに除名に至る経過は以下に述べるとおりである。
1 補助参加人組合は昭和二八年以来被告会社との間で労働協約において、労働災害に関し普通災害補償の上積分としての特別災害補償協定(協約六三条)を締結し、毎年これの増額を獲得してきた。この特別災害補償協定は、労災事故が発生した場合被告会社に故意又は重大な過失あるいは労災事故につき刑事訴追もしくは労働基準監督署等の関係官庁より告発等を受けるなどの事由がある場合を除き、普通災害補償のほかに特別災害補償としての救済をなすべき旨をとりきめたもので、昭和二八年以来当事者間においては労災事故による損害賠償請求権についての示談的あるいは和解的性格のものとして了解され、この前提のもとに増額交渉がなされ、現に増額されてきたもので、補助参加人組合内部においても、特別災害補償協定を右の如き趣旨のものとして団体意思を形成してきた。
しかしてこの協定は、労災事故が発生した場合、被告会社の過失の有無を問うことなく、普通災害補償のほかに協定で規定された特別災害補償を迅速に受けることができる点において、組合員の労働条件の向上に十分寄与してきた。
2 原告らは補助参加人組合若松支部に所属する組合員であり、原告山本は昭和四七年八月より同四九年七月まで若松支部執行委員、原告浦本は同四八年八月より同四九年七月まで若松支部青年婦人部長の地位にあつた。
3 前記のとおり昭和四九年二月一三日、被告会社の従業員で補助参加人組合の組合員であつた訴外竹内優が勤務中にユニット三系列の建屋のスレート葺屋根からスレートを踏み抜いて地上に墜落死亡するという労災事故が発生した。
4 そこで竹内の遺族に対し、被告会社は前記労働協約六三条に基き普通災害補償のほかに特別災害補償として金八、〇六〇、〇〇〇円を支給した。ところが竹内の妻順子は、右特別災害補償の額を不満として昭和四九年六月二一日頃、被告会社に対しその上積を要求するとともに、当時の補助参加人組合若松支部の執行部に対し、上積補償請求について支援して欲しい旨を申し入れた。
5 これに対し右執行部は労働協約六三条所定の特別災害補償規定は見舞金的性格を有するにすぎずこれに拘束されることなく損害の賠償を請求することができるのであるから若松支部としても竹内夫人の被告会社に対する補償要求を支援すべきであるとの見解をとり昭和四九年六月二二日開催された支部評議員会、同月二六日開催された若松支部臨時総会、同年七月一二日開催された支部評議員会において、右見解を提案したが、いずれにおいても特別災害補償は示談的性格を有するものであつて上積み請求を当然になしうるものではないとの意見が大勢を占め、結局執行部の右提案は採用されるに至らなかつた。
6 そして、昭和四九年八月二七日開催された組合の第三二回定期大会において、竹内支援問題については、組合は特別災害補償規定の性格により、当然にその上積請求ができるものとの立場に立つて支援することはできないが、精神的な支援をすることは可能であり、その具体的事項は若松支部の決定に委ねるとの結論が採択された。
これに応じて若松支部は、昭和四九年一〇月二〇日開催された支部臨時総会において、竹内支援に関し次のような決議をなした。
(イ) 若松支部は、労働協約六三条所定以上の上積補償請求を当然には被告会社に対しなしえないものとする。従つて竹内夫人らの請求を支部としては支援しない。
(ロ) 竹内夫人からの相談が申込まれれば、評議員会の議を経て、次のことを行う。
(a) 遺族の相談相手となる。
(b) 裁判の傍聴と報告
(c) 事情聴取への協力
(d) 弁護士の訴訟準備の協力
(e) 見舞金のカンパ活動を行うこと
(ハ) 個人又は団体が組織上問題のある行動をとつた場合には、組合として統制処分の対象とする。
7 前記のとおり、竹内夫人は昭和四九年一〇月四日、被告会社を相手として損害賠償の訴を提起した。
原告らは、右訴の提起前から「守る会」を結成し、積極的に竹内夫人の損害賠償請求を支持し、「労働協約六三条の規定する補償は過失の有無にかかわりなく被告会社が労働者に支払うべき最低保障の額であり、会社に責任のある場合には、右規定にかかわりなくその全損害の賠償を請求しうるものである。」との主張をなすに至つた。
8 若松支部は原告らの右言動が組合の協定に対する前記解釈と見解を異にするものであるとして、その機関決定をもつて原告らに対し自重と反省を求めるとともに、昭和五〇年一月一八日と同年二月二八日の二度にわたり、機関決定の遵守および原告らの言動が個人的な表現の自由をこえ組合の統制上の問題となるので、原告らの意見を組合内部での意見として十分に闘わしてもらいたい旨の要請をなしたが、原告らはこれを拒否した。
9 昭和五〇年三月一八日から補助参加人組合と被告会社との間の労働協約改定交渉がもたれたが、その席上、被告会社から原告らの言動は労働協約遵守義務に反する、このような状況下では協定を締結することはできない旨の発言がなされ、増額要求どころか、協定そのものの締結があやぶまれる状態に立ち至つた。
10 そこで補助参加人組合は、中央執行委員長名をもつて昭和五〇年四月一〇日本部見解を次のとおり明らかにした。
(イ) 若松支部の組合員が組合の組織決定に反し、独自の意見を主張するため、労働協約改定交渉、とりわけ特別災害補償協定の存続および補償額の増額要求貫徹が難しく最悪の場合は右協定が白紙還元される事態の生ずるおそれがあるので、組合の決定に従うよう説得すること。
(ロ) 個々の組合員は協定に不満や異議があれば、規約に基き組織を通して発言し、これを無視した行動をとることは許されない。
11 昭和五〇年四月一五日開催された若松支部臨時総会において、前記昭和四九年一〇月二日の総会決議を賛成八六、反対二一で再確認し、更に「守る会」を脱会しない組合員については懲戒処分をなす旨の決議をもなした。
続いて同月二〇日支部評議員会で、
(イ) 「守る会」を脱会しなければ、除名を含む統制処分を行う。
(ロ) 脱会する場合は謝罪文を提出する。
(ハ) 脱会するものは同月二一日正午までにその旨文書で提出する。
旨の決議をなし、原告らに申し渡した。
さらに右同日、補助参加人組合は、森中央副委員長を若松支部に派遣し、同人において原告らに対し、「守る会」を脱会し、組合の組織の中で意見を述べるよう説得したが原告らはこれを拒否した。
12 このように原告らが補助参加人組合の再三にわたる説得にもかかわらず、その統制に服さなかつたため、昭和五〇年四月二一日開催された若松臨時総会において、原告らを除名処分とする但し、組合の大会決定までは権利停止処分とする旨の決議がなされた。
これを受けて同年五月一七日開催された第五六回臨時大会において、原告らに対する除名処分の提案がなされ、原告らに弁明の機会が与えられた後、両名の除名処分が可決された。
さらに同月一九日、右組合は被告会社に対し、ユニオン・ショップ協定に基き原告ら両名を解雇するよう申入れた。
13 被告会社は補助参加人組合において、原告らに対する統制処分がなされたのでそれまで拒否していた労働協約六三条の締結をようやく受け入れたが、その結果は補償額の増額をみるに至らず、従前の額にとどまつた。
(抗弁に対する認否)
1 抗弁一、1、2の事実は認める。
2 (一) 同二、冒頭の事実中、主張の如き組合規約が存することおよび原告らが昭和五〇年五月一七日補助参加人組合から原告らに主張の如き事由ありとして、規約一四条一項一ないし三号、二項により除名処分に付されたことは認めるがその余の事実は否認する。右除名処分は後述するとおり無効である。
(二) 同1の事実中、補助参加人組合と被告会社間で労働協約上特別災害補償協定を締結してきたことは認めるが、その余の事実は否認する。
(三) 同2ないし4の事実は認める。
(四) 同5の事実中、若松支部執行部が主張の如き提案を支部評議委員会、支部臨時総会等においてなしたことは認めるが、その余の事実は否認する。
(五) 同6の事実は認める。
(六) 同7の事実は認める。
「守る会」の結成趣旨、目的は竹内労災裁判の支援を通じて遺族に責任ある補償を行なわせ、更に被告会社の安全管理義務を明確にさせることによつて、第二の労災事故を未然に防止することにあつたものであり、「守る会」自体は補助参加人組合の内部秩序をみだす意図は毛頭有していなかつたものである。
(七) 同8の事実については、原告らは昭和五〇年一月頃より補助参加人組合から「守る会」脱会を強要されたものである。なおそれ以前は被告会社若松工場職制から脱会を強制されている。
(八) 同9の事実中、昭和五〇年三月一八日からもたれた補助参加人組合と被告会社との間の労働協約改定交渉の席上、会社から主張の如き発言がなされたことは認めるが、その余の事実は否認する。
被告会社は、以後再三にわたつて原告らを「守る会」から脱会させる措置を補助参加人組合がとるように迫り、労使の交渉の進展しないことが恰も「守る会」の存在に起因するかの如き態度を示すなど、明らかな不当労働行為的言動を行つた。
(九) 同10、11の事実中、若松支部臨時総会に関する事実は認める。
補助参加人組合は、被告会社の誤りを突くのではなく、むしろ会社の意向を汲んで、若松支部に「守る会」を即刻解散させ、支部執行部および総会の決定に違反行為があつた場合は厳重に対処するよう指示するに及んだのであるが、若松支部もこれを受けて原告らに「守る会」からの脱会を迫つたものである。これに対し原告らは、「守る会」攻撃が憲法と民主主義を根本から否認するものであり、かかる圧力に屈するのは働く者として人間として許されないと考え、所定の時刻まで脱会の意思表示をしなかつた。
(一〇) 同12、13の事実中、昭和五〇年四月二一日の若松支部臨時総会での決議およびその内容、並びに原告らに対する除名処分が同年五月一七日の第五六回臨時大会において可決されたことは認める。
(再抗弁および原告らの主張)
1 原告らが「守る会」を結成し補助参加人組合の勧告、決議にも拘らず「守る会」を脱会しなかつたことを理由に、組合が原告らに対し統制権を発動することは以下に述べる理由から許されず従つて本件除名は無効であり、無効の除名に基く本件解雇も又無効といわねばならない。
(一) 「守る会」の基本姿勢は竹内労災裁判を勝利に向けて支援することにあり、訴訟の対立当事者である被告会社にとつて不利益をもたらす以外、組合内部秩序をみだす意図も必要性をも持つものではなく、むしろ「守る会」の活動は、亡竹内の遺族に対し相当の補償がもたらされる点、協約上の特別災害補償でつぐなわれない完全な救済を被告会社に要求する糸口となる点、あるいは労災事故の再発防止といつた点での個々の労働者の安全と補償の権利確立に寄与するものであり、従つて原告らの行為は「組合員の自発的活動」として正当な行為である。
このことは、原告らの行為が一時的、形式的に組合の意思と相違しているとしても団結体が究極的にめざす労働者の普遍的利益と共通し、それへの展望をもつ組合意思形成過程における一時的現象であることを示すものであり、原告らの行為は除名処分等によつて組合外に放逐させるべき性質のものではない。
(二) 本件除名の理由は補助参加人組合の決定、決議にも拘らず原告らが「守る会」を脱会しなかつたことにあるとされているが、「亡竹内の遺族の労災裁判を支援しない。」という組合の消極的な態度決定は、労働者の命と暮しを守ることを第一義にすべき労働組合にとつて組合としての使命放棄にも近いものと評されてもやむを得ないものである。しかのみならず、組合の決定、決議は右の如き消極的態度決定のみならず、「守る会」の活動を統制権を楯に禁止するといつた趣旨も含んでいるのであつて、原告らの「守る会」活動の前記の如き性格からすれば、右組合の決定は、組合の存立目的からみて無効であり、組合員を拘束するような性格のものではない。
(三) 更に一般に統制の対象となる反組合的行為が言論批判活動である場合、組合の統制権の及ぶ範囲はかなり限局される。労働組合が民主的な団体である以上、組合の健全な運営にとつて組合員の活発な発言ないし批判の自由は不可欠の要素であり、この意味での言論の自由の保障がなければ組合の存立、発展はあり得ないからである。
ましてや、個々人が自由な一市民として、憲法二一条に保障された表現の自由を行使し、任意の団体を作り、労災裁判を支援することは、本来的に何人も妨害することのできない性質のものである。
(四) 又原告らの「守る会」の存在が労働協約改定交渉の阻害要因になつたとしても、「守る会」の存在を理由に被告会社が団交や協定調印を拒否することこそが問題なのであり、それは明らかに不当労働行為に該当する。然るに組合が会社の理不尽な態度を放置したまま、かえつて会社の態度に外形的に迎合するように原告らを除名することは、組合の統制権が団結自治の強化のために承認されていることに背反するものである。
2 被告会社は、竹内労災裁判において被告の立場にあつたものであるが、「守る会」の存在を嫌悪し、労働協約改正交渉にあたり、これを一方で遅延させようとして、その手段を補助参加人組合の内部的統制処分に委ねた。本件解雇は、このような背景のもとになされたものであり、原告らの「守る会」活動を嫌悪する意図に基き、ユニオン・ショップ協定に名をかりてなされたところの不当労働行為的なものであり、解雇権を濫用したものである。
(再抗弁に対する認否および原告らの主張に対する反論)
一 被告会社
1 再抗弁および原告らの主張1は争う。
2 同2は否認する。
二 補助参加人
再抗弁および原告らの主張1は争う。
原告らは、補助参加人組合が特別災害補償協定につき、示談的性質を有するものであるという解釈で団体意思を形成し、会社と同補償の増額交渉に入つていたのに、右協定につき組合と全く異つた解釈をなし、再三にわたる組合の説得をも無視し、補償額増額を目指す組合の意思の完遂を妨害し、組合員に動揺、不安を与え、組合の弱体化をもたらし、組合の団結をみだしたものであつて、このような原告らの行為は、その意図のいかんを問わず組合の統制をみだすものとして、統制の対象となし得ることは明らかといわねばならない。
第三証拠<省略>
理由
一 雇傭関係の存在
原告らが請求原因1のとおり被告会社に雇傭され従業員として勤務していたことは当事者間に争いがない。
二 本件解雇の意思表示
被告会社が抗弁一、1、2のとおりユニオン・ショップ協定に基き原告らに対し解雇の意思表示をなし、これが同人らに到達したことは当事者間に争いがない。
三 本件解雇の効力
1 除名処分の存在
補助参加人組合の組合規約に抗弁二に掲記の条項が存すること、補助参加人が昭和五〇年五月一七日原告らに規約一四条一項一ないし三号に該当する事由があるとして、原告らを除名処分に付したことは当事者間に争いがない。
2 除名処分に至る経過
成立に争いのない甲第二〇ないし第二二号証、第三三号証、乙第四ないし第七号証の各一、二、第九号証、丙第六ないし九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五ないし第一〇号証、第一三ないし第一八号証、第二三ないし第二五号証および原告ら各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(一) 原告らは補助参加人組合若松支部に所属する組合員であり原告山本は昭和四七年八月より昭和四九年七月まで支部執行委員、原告浦本は昭和四八年八月より昭和四九年七月まで支部青年婦人部部長の地位にあつた。
(二) 昭和四九年二月一三日被告会社の従業員で補助参加人組合の組合員であつた竹内優が、勤務中ユニット三系列の建屋のスレート葺屋根から地上に墜落死亡するという労災事故が発生した。
(三) ところで、被告会社と補助参加人組合間で締結されている労働協約六三条一項によると、組合員が業務上の災害にかかつた場合、会社は労働者災害補償保険法の定める諸給付等(普通災害補償)のほか、一定額の災害補償(特別災害補償)を行う旨の規定が存するところ、被告会社は右協定に基き、竹内の遺族に対して特別災害補償として金八、〇六〇、〇〇〇円を支給した。ところが竹内の遺族は右支給額を不満とし、昭和四九年六月二一日頃、会社に上積を要求するとともに、当時の若松支部の執行部に対し、上積補償請求についての支援を要請した。
(四) ところで、竹内の妻竹内順子は以前被告会社に勤務していたことがあり、その関係で同女と顔見知りであつた原告らは、事故後同女を慰め、励ましたり、就職の相談にのつたりしていたが、労災問題についての学習会を開くなどしているうちに、前記特別災害補償の規定についても、この規定は、組合員が業務上の災害であれば、会社側の過失を立証することなく、無条件に一定額の補償金の支給を受けることができる点に意味を有し、この点において右規定を評価すべきものとする一方、会社側に過失の存する場合は、かかる規定の存在に拘らず、当然会社は組合員の蒙つた全損害を賠償する責任があり、従つて組合員が裁判によつて右損害の賠償を請求するのも自由であるとの見解を抱くようになり、同女が特別災害補償額を不満として訴訟提起の意思を固めるに伴い、昭和四九年四月頃、同僚組合員ほか外部の者をもまじえて「竹内さんの遺族を守る会」を結成し、会社に対する遺族の要求を支援し、右支援をとおして遺族の救済をはかるとともに、会社の安全管理のあり方についても問題を提起してゆくことにした。
(五) 一方遺族の組合に対する前記要請に対し、当時の若松支部執行部は遺族の補償要求を支援すべきであるとの立場から、その旨の提案を支部評議員会等になしたが、いずれにおいても採用されるに至らないまま推移し、昭和四九年七月役員改選により従前の執行部の大半が退くに及んで、組合の遺族に対する積極的な支援はますます困難な情勢となるに至つた。
(六) 昭和四九年一〇月四日竹内の遺族から被告会社を相手とする損害賠償請求訴訟が提起された。しかして、補助参加人組合は前記特別災害補償の規定については、法律的には種々問題が存するとしつつも、これを示談ないし和解契約的なものと解し、労災事故が発生した場合、会社側に故意又は重大な過失が存するなどの場合を除き、規定に定める補償額以上の上積請求はできないが、補償額の不十分な点は今後の会社との交渉で増額を要求し、妥当な額を勝ちとることによつて、組合員の救済を十分図ることができるとの見地に立ち、組合員がこの規定の存在にも拘らずむやみに上積額を要求して裁判に訴えるようなことになれば、補償額の増額改定交渉において、会社からこの規定の存在の意味がないとして交渉を拒否されるおそれがあり、かくては全組合員に重大な損失を与えることになるとして、既に同月二日の若松支部臨時総会において、次のような決議をなしていた。
(イ) 組合としては支援活動を行わない。但し遺族の意向を全く無視はできないので次の点に限つて活動する。
(a) 遺族の相談相手
(b) 裁判の傍聴およびその報告(人選は評議員会で決定する。)
(c) 事情聴取に対する協力
(d) 弁護士の訴訟活動への協力
(e) 遺族に対する見舞金としてのカンパ活動
(ロ) 個人又は団体が組織上問題のある行動をとつた場合には組合として統制の対象とする。
(七) しかしながら、「守る会」は依然として竹内労災裁判支援のために裁判傍聴などの活動を継続したので、若松支部執行部は前記一〇月二日の決議の存する以上、「守る会」の右活動は分派活動になると判断し、昭和五〇年一月二一日原告らに対し自重と反省を求めた。又同年三月の労働協約改定期を目前に控えた同年二月二八日には、「守る会」の活動が特別災害補償増額交渉に不利に作用することをおそれ、原告らに「守る会」からの脱会を要請したが、原告らは訴提起の正当性を主張するとともに、「守る会」の目的は遺族の起した裁判を物心両面において支援することであり、組合を混乱させる意図の全くないことを強調し、その立場を変えなかつた。
(八) 同年三月一八日から被告会社と組合との間で労働協約改定交渉が持たれたが、その席上会社側から、「原告らの言動は労働協約遵守義務に反する、このような状況下では協定を締結することはできない。」との趣旨の意思表明がなされたので、組合も又何らかの形でこれを統制する旨回答した。
(九) そして同年四月一五日若松支部は臨時総会を開催し、前記一〇月二日の決議を再確認するとともに、「守る会」を脱会しない組合員については懲戒処分をなす旨を決議した。しかして若松支部は右のような決議をなす一方、同月一七日補助参加人組合の上部団体である合成化学産業労働組合連合の仲裁により、原告らと竹内労災裁判の決着がつくまで「守る会」の活動を停止するということで合意したうえ、事態の収拾を図ろうとしたが、活動の停止のみでは被告会社及び組合本部を納得せしめるに至らなかつた。
(一〇) 同月二〇日若松支部評議員会が開催され、
(イ) 原告らが「守る会」を脱会しなければ除名を含む統制処分にする、
(ロ) 脱会する場合は同月二一日正午までに謝罪文を提出すること、
とする決議がなされ、右決議は即日原告らに伝達された。
(一一) しかして以上の経過の中で「守る会」に残つていた組合員五名のうち三名が脱会したが、原告らはあくまで脱会を拒否したので、若松支部は同月二一日支部臨時総会を開催し、原告らを除名処分にする、但し組合本部の決定までは権利停止とする旨決議した。そして若松支部からの上申を受けた組合本部は同年五月一七日第五六回臨時大会を開催し、同大会において、弁明の機会が与えられたうえ、原告らに対する除名処分が可決された。
(一二) その後被告会社と補助参加人組合で特別災害補償に関する協定が成立したが、補償額は従前通りとされた。なお、昭和五一年度の協定は、被告会社から従前の如き内容の協定の免責規定性に疑問が呈されるとともに、竹内労災裁判が係争中であることを理由に協定締結を拒まれたため、いまだその成立をみていない。
3 本件除名処分の効力
右認定の事実によれば、原告らは特別災害補償協定につき補助参加人組合とは異なる見解の下に「守る会」を結成して竹内労災裁判支援を行い、「守る会」脱会を求める組合の機関決定および説得に服することなく支援活動を継続し、その結果特別災害補償増額交渉において被告会社に交渉拒否の口実を与える結果を招来せしめたことが明らかであるところ、補助参加人が主張するように、右の如き原告らの言動の組合規約一四条一項一ないし三号の懲戒事由該当性は、一応これを肯認し得ないものでもない。
しかしながら労働組合に統制権が認められる所以は、労働者の経済的地位の向上をはかることを目的として結成された労働組合の団結権を実質的に保障することにあるのであるから、その統制権の及ぶ範囲についても、労働組合の存在目的からくるところの本質的限界が存するものというべきであり、又統制の対象とされる行為が意見を表明したり団体を結成するなどのいわゆる表現の自由にかかわる場合には、これらの自由が民主々義社会における最も貴重な基本的人権の一つであることに鑑み、かつ又組合民主々義の見地から、これらの行為に対する統制権の行使には極めて慎重な態度が要請されるものといわなければならず、従つて、ある行為が統制の対象となり得るか否かは、単に形式的に統制に違反したか否かによるのではなく、当該行為の性質、目的、態様等を以上の観点から慎重に検討し、かつ統制の内容、必要性に照らして総合的に考え併せることにより、個々の事案の具体的事情に則して決せらるべきものというべきである。
そこで、右見地に立ち原告らの言動が組合の統制の対象となりうるか否かにつき更に検討するに、原告ら「守る会」の活動は元組合員の遺族の被告会社に対する労働災害に起因する裁判の支援であり、そのこと自体は労災事故による同僚の死に直面した労働者としてとることが当然に予想される自然的行為とも評価しうるものであり、又当面は特別災害補償規定の解釈面で組合と対立する見解に立つてはいたものの、竹内労災裁判支援により原告らが意図したところは、組合員の遺族の救済あるいは労働者の安全等といつたもので、組合が追及すべき究極の目的と合致するものである。しかのみならず、原告らの「守る会」の活動は直接的には被告会社に向けられたものであり、前掲甲第九号証、第一四号証、第三三号証によれば、原告らは裁判支援のみにその活動を限定し、組合に混乱をきたさないよう配慮していたことがうかがえるとともに、特別災害補償協定についても、その廃棄を叫ぶというのではなく、それなりにその存在価値を認めて評価していたのであり、又その活動が特別災害補償増額交渉の現実の阻害要因となるに及んでは、これを回避すべく竹内労災裁判の決着がつくまで「守る会」の活動を停止することさえ組合に約束したのであつて、その活動形態において組合の団結をみださないよう十分自重しあるいは自粛する態度を保持していたことが認められるところでもある。
一方、組合の決議ないし原告らに対する要請は、特別災害補償規定につき会社側に故意又は重大な過失等のない限り上積請求はできないとする示談ないし和解契約的なものとする解釈を前提とし、これと見解を異にする「守る会」からの原告らの脱会を求めるものであるが、前掲乙第九号証から認められる特別災害補償規定(協約六三条)の文言を素直に読む限りにおいては、組合が主張するような解釈をこの規定から導き出すことはいささか困難であるといわざるを得ず、仮にしかりとしても組合員個人が有する私法上の権利である損害賠償請求権を労働協約で有効に放棄し得るかは、多分に疑問の存するところであり、従つて、かように多くの疑念を有し、かつ組合員にとつてはある面で不利益となる特別災害補償規定の解釈を前提とし、しかも右解釈を原告らに強制的に押しつける結果ともなりかねない前記組合の決議ないし要請は、その妥当性を疑わしめるものといわざるを得ない。
以上要するに、原告ら「守る会」の活動はその目的において組合目的と究極的合致しており、その態様において自重、自粛性を有していたこと、しかしてこれと対置すべき組合の決議ないし原告らに対する統制はその妥当性に疑問が存することなど諸般の事情を総合すれば、組合が原告らに対し「守る会」脱会を説得することや、活動の自重を求めることは格別、それ以上に「守る会」脱会を要求し、これに従わないことを理由に原告らを統制違反者として処分することは許されないものと解するのが相当である。
してみれば、本件除名処分は、組合の組合員に対する統制権の限界を超えてなされたものとして無効といわなければならない。
4 本件解雇の効力
前記のとおり本件解雇はいわゆるユニオン・ショップ協定に基きなされたものであるところ、被告会社に解雇義務が生ずるのは、組合員が有効に除名された場合に限られ、除名が無効な場合には、会社は解雇義務を負わず、かかる場合になされた解雇は、他に解雇の合理性を裏づける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効と解するのを相当とする。
しかして、本件除名処分が無効であることは既に見てきたとおりであるから、被告会社には解雇義務は発生せず、他に解雇の合理性を裏づける特段の事由も認められないから、結局本件解雇の意思表示は解雇権の濫用として無効といわなければならず、原告らは被告会社の従業員としての地位を依然として保有していることになる。
四 賃金等請求権
1 賃金
(一) 被告会社の賃金支給日が毎月二五日であることは当事者間に争いがなく、本件解雇が無効である場合に原告らが受けるべき賃金については、原告らの主張する額を認めるに足る証拠がないので、被告会社の自認するところに従い、昭和五〇年四月二一日以降同五一年三月二〇日までの間、原告山本が月額金一三三、八四〇円、同浦本が月額金一三一、八〇〇円であると認める。
従つて、原告らが昭和五〇年四月二一日以降同五一年三月二〇日までに受けるべき賃金は、原告山本が金一、四七二、二四〇円(133,840円×11ケ月)、同浦本が金一、四四九、八〇〇円(131,800円×11ケ月)となる。
(二) 右同様の理由により、原告らが昭和五一年三月二一日以降毎月二五日限り受けるべき賃金については、被告会社の自認するところに従い、原告山本が月額金一四三、〇三〇円、同浦本が月額金一四一、〇八〇円であると認める。
2 賞与
原告らが本件解雇後に受けるべき賞与についても、原告らの主張する額を認めるに足る証拠がないので、被告会社の自認するところに従い、別表二のとおり原告山本が合計金一、三九七、四〇〇円、同浦本が合計金一、三八四、一〇〇円であると認める。
五 被告会社の不法行為
1 前掲甲第七号証、第二〇ないし第二二号証、第三三号証、乙第五号証の一、二、成立に争いのない甲第二七号証、第二九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三五号証、原告ら各本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。
(一) 被告会社は、前記竹内労災裁判が提起されるや、若松工場の職制を通じて、従業員に対し「裁判の相手方である竹内の遺族は会社の敵である。従業員は被告会社の味方をすべきである」旨の意思表示をし、原告らに対しても「組合員が竹内労災裁判を支援することは労働協約六三条に違反するので「守る会」を脱会すべきである」旨勧告し、更に前記三、2、(八)のとおり労働協約改定交渉の場において、原告らの竹内労災裁判支援活動を理由に労働協約六三条の改定を拒否し「労働協約とは組合員の代表と会社の代表とが話し合つた結果決定したものであるから、例え異議のある者でも組織の一員である以上これに従わなければならない。従つて補助参加人組合の組合員の資格を有している限り、協定で定めた特別災害補償額以上に損害の請求をすることに賛成して、竹内労災裁判の支援をすることは背信行為であり、統制処分にあつても苦情は言えない。」旨を主張した。これに対応して前記三、2、(九)のとおり、昭和五〇年四月一七日原告らは補助参加人若松支部との間において、竹内労災裁判の決着がつくまで、「守る会」の活動を停止するということで合意したが、被告会社は、この原告らの自粛に満足せず、更に「「守る会」の活動は停止するが「守る会」は残すということでは原告らが労働協約に従い信義を尽すと反省したものとは思われない。被告会社としては本件が正しく解決されない限り協約は締結できない」旨執拗に主張し、原告らが「守る会」を解散して竹内労災裁判の支援を全く断念するか、しからざる場合には組合の統制処分(除名)がなされるべきことを示唆した。
(二) 補助参加人組合としては、被告会社が右の如き強硬な態度をとらなければ原告らを除名処分にまでする必要はなかつたのであるが、協約改定を有利に進めるため、同年五月一七日やむなく右処分に踏み切つた。
(三) 原告らは、右除名処分を理由に被告会社が原告らを解雇することを禁止する旨の仮処分決定を当裁判所に申請し、同年五月一九日午後四時頃右認容決定を得ていたので、同日午後九時過ぎ頃被告会社職制から本件解雇の意思表示を受けた際右仮処分決定の出ていることを告げたが、被告会社はこれを無視して右解雇を強行し、今日に至つている。
2 右認定の事実によれば、被告会社の前記労働協約改定の場での態度は、原告らが「守る会」を解散し活動することを断念するか、しからざる場合には組合の統制処分がなされるかの選択を迫つたものであるが、これは、前記三、2で認定したとおり、原告らの竹内労災裁判支援の目的・態様が労働者としての究極的な目的に合致すること等の事情を考慮した場合、明らかに不当なものであり、本来組合の自主性に委ねられ使用者の関与すべからざる組合の統制処分の場に被告会社が不当に介入したものと言うことができ、しかも、被告会社のかかる不当な行為が本件除名処分の決定的な動機となつたものであることは、右認定のとおりである。
3 ところで、ユニオン・ショップ協定に基く解雇は、一般的には不法行為を構成することはないが、会社自身が組合の統制処分に不当に介入し、違法な除名を強要した等の特別の事情がある場合には、その解雇はユニオン・ショップ協定に基くという形式をとつていたとしても、右除名および解雇が無効であることを認識していたか、あるいは認識しえたのにそれを怠り解雇したものとして、被解雇者に対する不法行為を構成することがあるのは言うまでもない。
本件の場合においては、被告会社に本件除名処分および解雇が無効であることの認識があつた(特に前記解雇禁止仮処分決定が事前に告知されていた)とまでは認め難いとしても、前記認定説示の如き原告らの竹内労災裁判支援の目的、態様、労働協約六三条の規定内容、組合の統制権の限界、被告会社の右統制処分への介入の態様等を総合考慮すれば、被告会社としては右一切の経緯を明らかにして法律専門家たる弁護士の意見を聞く等相当の注意をすれば、本件除名処分および解雇が客観的に合理性のないものとして無効であることを認識できたはずであるから、本件解雇をなすべきではなかつたのに、右相当の注意を怠り、組合に対し積極的に除名処分を働きかけ、同処分がなされるやたやすく本件解雇の意思表示をしたものと認めるのが相当であり、しかも前記解雇禁止仮処分決定がなされたのに拘らず敢えて解雇を撤回せずこれを維持しているのであるから、被告会社の原告らに対する本件解雇処分は、少なくとも過失により原告らの権利を侵害する不法行為であると言わなければならない。
六 損害
1 慰藉料
前掲甲第三五号証、原告ら各本人尋問の結果、成立に争いのない甲第三一号証によれば、原告らは、本件解雇以降賃金仮払の仮処分決定がなされるまで約二ケ月間ほとんど収入がなく、社会保険を打ち切られ不安な生活を送つたこと、仮の地位を定める仮処分後も被告会社は原告らの就労を拒否し、ベースアップによる賃金・賞与等を支給せず、嫌がらせを重ねていることが認められる。かかる事実の外、前記認定の如き本件解雇に至るまでの被告会社の不当な行動、同会社が解雇禁止仮処分に対し敢えて解雇を撤回せず強行してきたこと等諸般の事情を考慮すれば、本件解雇により原告らの蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料は各金一、〇〇〇、〇〇〇円を相当と認める。
2 弁護士費用
原告ら各本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、原告らは本件訴訟および前記仮処分事件の遂行を原告訴訟代理人らに委任し、その報酬を支払う約束をして同費用相当額の損害を蒙つたことが認められるが、本件訴訟の性質、難易度を考慮すれば、被告会社が賠償すべき弁護士費用は原告らにつき各金五〇〇、〇〇〇円を相当と認める。
七 以上によれば、原告らの本訴請求は、原告らが被告会社の従業員たる地位を有することの確認を求め、被告会社に対し、原告山本が昭和五〇年四月二一日以降同五一年三月二〇日までの未払賃金一、四七二、二四〇円・別表二の未払賞与金一、三九七、四〇〇円・慰藉料金一、〇〇〇、〇〇〇円・弁護士費用金五〇〇、〇〇〇円の合計金四、三六九、六四〇円と昭和五一年三月二一日以降毎月二五日限り月額金一四三、〇三〇円、同浦本が右同期間中の未払賃金一、四四九、八〇〇円・別表二の未払賞与金一、三八四、一〇〇円・慰藉料金一、〇〇〇、〇〇〇円・弁護士費用金五〇〇、〇〇〇円の合計金四、三三三、九〇〇円と右同日以降毎月二五日限り月額金一四一、〇八〇円の各支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書、九四条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 谷水央 斎藤精一 杉山正士)
(別表一、二省略)