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福岡地方裁判所小倉支部 昭和55年(ワ)280号 判決 1980年9月11日

原告

中小企業金融公庫

右代表者総裁

船後正道

右訴訟代理人福岡支店長

田宮昭

右訴訟代理人

上野隆司

右同

高山満

被告

日通商事株式会社

右代表者

小藤達郎

右訴訟代理人支配人

斎木節雄

右訴訟復代理人

竹中一太郎

被告

株式会社宮崎相互銀行

右代表者

黒木勝

右訴訟代理人

岩崎光太郎

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  当裁判所昭和五五年(リ)第三号配当手続事件について、当裁判所が昭和五五年三月一七日作成した配当表中、建物にかかる配当金につき、被告日通商事株式会社(以下「被告日通商事」という)を第一順位として配当額金三四六二万九四八八円、被告株式会社宮崎相互銀行(以下「被告宮崎相銀」という)を第二順位として配当額〇円、原告を第三順位として配当額〇円とある部分を変更し、原告を第一順位として原告に金三四六二万九四八八円を配当する。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。<以下、事実省略>

理由

一事実関係<省略>

二当事者間の優先順位についての当裁判所の判断

1  まず抵当権の物上代位が焼失した目的物の火災保険金請求権に及ぶか否かにつき検討すると、被告宮崎相銀が主張するとおり、確かに火災保険金請求権は目的物の焼失によつて法律上当然に生ずるものではなく、保険契約の存在及びこれに基づく保険料の支払を必要とするものではあるが、しかしながら民法三〇四条、三七二条は、抵当権の物上代位の客体について「目的物ノ売却、賃貸、滅失又ハ毀損ニ因リテ債務者カ受クヘキ金銭其他ノ物」と規定し、債務者の権利が法の規定に基づくか契約に基づくかを区別していないのであり、また火災保険金請求権は実質的、経済的にみて目的物に代わるもの、ないしその変形物とみることができるから、本件においても原告及び被告日通商事の各抵当権に基づく物上代位権が本件火災保険金に及ぶことは肯定し得るところである。

2  次に抵当権に基づく物上代位の要件を検討すると、民法三〇四条、三七二条は、抵当権者において代位物である債務者の権利の「払渡又ハ引渡前ニ差押ヲ為スコトヲ要ス」と規定しているところ、そもそも抵当権は本来目的物の滅失によつて消滅すべきはずのものであつて、例えその滅失によつて価値代替物が生じたとしても当然には抵当権の効力が及ぶものではないのであり、物上代位権は法が特に抵当権者を保護するために設けたものと解するのが相当である。そうであれば、抵当権者がその物上代位権を行使するためには、自ら代位物を差押えることが要件となり、他の債権者がなした差押は当該抵当権者の優先的権利を保全する効力がないと解すべきであり(大審院大正一二年四月七日民事連合部判決・民集二巻五号二〇九頁参照)、また前記規定にいう「払渡又ハ引渡」とは債権の譲渡、質権の設定等の処分行為をも包含するものと解するのが相当であるから(福岡高裁宮崎支部昭和三二年八月三〇日判決・下級民集八巻八号一六一九頁参照)、抵当権者は、その優先権を保全するためには、代位物につきこれらの処分行為がなされるより先に差押をなすことが必要である(なお、物上代位による差押は抵当権の優先的効力の保全を目的とするものであるから、強制執行手続における差押のみならず、仮差押の手続によつてもその目的を達成することができると解せられる)。

3  そこで以上のことを前提にして、本件における各当事者間の優先順位を検討すると、前記のとおり本件火災保険金については、最初に被告日通商事がその抵当権に基づく物上代位権の行使として金六〇〇〇万円の請求債権により仮差押をなし、次いで被告宮崎相銀が質権を設定したうえ対抗要件を具備し、更にその後原告がその抵当権に基づく物上代位権の行使として金三五六四万九〇七三円の請求債権により差押をなしたという事実経過であるところ、被告日通商事が被告宮崎相銀の質権設定及びその対抗要件の具備に先だち本件火災保険金につき仮差押をなしたことにより、被告日通商事は自らの優先権を保全し得たものということができるが、一方原告の差押は被告宮崎相銀の質権設定及びその対抗要件の具備より遅れてなされているから、少なくとも被告宮崎相銀との関係で原告は本件火災保険金に対する優先権を対抗し得ないし、ひいては被告宮崎相銀に優先する地位にある被告日通商事に対しても優先権を対抗できない結果となる。

もつとも原告は右の点に関し、被告日通商事のなした仮差押が処分行為禁止の効力を有するから、被告宮崎相銀が右仮差押ののちに設定した質権は右仮差押手続が存続する限り全ての債権者との関係で無効である旨主張する。なるほど、一般の差押(仮差押)の効力についてはいわゆる個別相対効とみる見解と、手続相対効とみる見解の対立があり、前者は差押後の処分行為は、当該差押債権者との関係では無効であるが差押をしていない一般債権者には対抗し得るとの見解に立つものであり、後者は債権者平等の原則等に鑑みて差押後の処分行為は差押債権者はもちろん全ての一般債権者との関係で無効となるとの見解に立つもので、原告の指摘するとおり民事執行法(昭和五四年法律第四号、昭和五五年一〇月一日施行)は差押(仮差押)の効力に関して後者の見解を採用している(同法八七条)。しかし、現行民事訴訟法の解釈としては、少なくとも仮差押に関する限り、最高裁判所は前者の見解を採ることを明らかにしているのであり(昭和三九年九月二九日第三小法廷判決・民集一八巻七号一五四一頁)、当裁判所もこの見解に従うのが相当であると考える。そうすると、被告日通商事がなした仮差押の効力を原告が援用することはできず、従つて被告宮崎相銀の質権設定は被告日通商事との関係では無効であるが、原告に対しては対抗し得るものである。

なおまた原告は、被告宮崎相銀はその質権を被告日通商事に対抗し得ないから単に一般債権者たる資格を有するに過ぎず、本件配当に参加するためには配当要求の申立をなす必要がある旨主張するが、前記説示のとおり被告宮崎相銀はその質権を被告日通商事に対しては対抗し得ないが、原告に対しては質権者として優先する地位にあるのであり、そのような資格で本件配当に参加する限りでは、一般債権者が配当手続に加わるために必要とされる配当要求の申立をなす必要がないものというべきである。

4  以上のとおりであるから、本件火災保険金に係る配当金三四六二万九四八八円につき、被告日通商事がその仮差押における請求債権額金六〇〇〇万円(その存在については当事者間に争いがない)の範囲内で第一順位の配当順位となり、従つて右配当金全額の配当を受け得るのであり(前掲甲第一号証によれば、本件配当表においては被告日通商事がその債権金七〇〇〇万円につき第一順位の配当順位にある旨の記載があるが、その点は誤りであるけれども配当額には影響がない)、被告宮崎相銀は第二順位の、原告は第三順位のそれぞれ配当順位にあるが、いずれも配当額は〇円との結果となる。

三よつて、原告の本件配当表に対する異議は理由がないから本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(谷水央 近藤敬夫 田中澄夫)

別表一、二<省略>

建物目録<省略>

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