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福岡地方裁判所小倉支部 昭和57年(ワ)420号

原告

大倉登

右訴訟代理人弁護士

安部千春

田邊匡彦

被告

みどり第一交通株式会社

右代表者代表取締役

白川音芳

右訴訟代理人弁護士

辰巳和正

中野昌治

被告

田島清

主文

一  被告田島清は原告に対し、金三万九、六三〇円と、これに対する昭和五七年四月一五日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の、同被告に対するその余の請求及び被告みどり第一交通株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告田島清との間に生じた分は、これを二分し、その一を同被告、その余を原告の負担とし、原告と被告みどり第一交通株式会社との間に生じた分は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告みどり第一交通株式会社は原告に対し、金六五万三、一七三円と、これに対する昭和五七年四月一五日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  被告田島清は原告に対し、金八万三、二三〇円と、これに対する昭和五七年四月一五日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  1、2につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 被告みどり第一交通株式会社(以下「被告会社」という。)は、「みどりタクシー株式会社」という商号であったところ、訴外第一通産株式会社の買収により同社を中核とするいわゆる第一グループの一員となり、昭和五五年一一月一日現在の商号になった。

(二) 原告は被告会社の従業員で、みどりタクシー時代の労働組合であるみどりタクシー労働組合に加入し、昭和五一年以降、同組合の書記長である。

2  暴力事件の発生

被告田島清(以下「被告田島」という。)は、昭和五六年六月九日、被告会社営業所二階会議室において、就業規則を学習中の原告に対し、「貴様生意気な」と言って、右手で原告の左顔面を殴打し、原告が「暴力を振うのは止めろ」と抗議すると、更に二回殴打して、原告に対し加療五日間を要する左眼部及び頬部打撲症の傷害を負わせた(以下「本件暴力」という。)。

3  出勤停止処分

(一) 被告会社は原告に対し、昭和五六年六月一四日、三日間の出勤停止処分(以下「本件第一処分」という。)、昭和五七年二月二八日、五日間の出勤停止処分(以下「本件第二処分」という。)をなした。

(二) 右各処分は、いずれも理由がなく、違法である。

4  差別取扱

第一グループに入った被告会社は、昭和五五年九月六日、希望退職を募り、同年九月一〇日、原告を除く全従業員五七名がこれに応じ、その内三二名が、同日、被告会社に再就職したため、みどりタクシー労働組合は原告一人となった。

右は組合潰しが目的であり、職制からの退職勧奨も頻繁であり、被告会社は、原告が依然としてみどりタクシー労働組合に残留していることを嫌悪して、原告に対して次のとおりの差別取扱(以下「本件差別取扱」という。)、すなわち不当労働行為をなした。

(一) 車の清掃

被告会社は原告に対してのみ、次のとおり業務命令を発して車の清掃をさせた。

(1) 昭和五五年九月一二日午前一〇時から同一一時まで

エンジンルームの石鹸清掃

(2) 同年九月一四日午前七時から同七時三〇分まで

(3) 同年九月一七日午前七時二〇分から同八時二〇分まで

同(特にボンネット内側)

(4) 昭和五六年二月一八日午前一〇時一〇分から同一〇時二〇分まで車両のホイール洗い

(5) 同年八月二九日午前七時一五分から同七時五〇分まで

エンジンルームの石鹸清掃

(6) 同年九月六日午前七時二五分から同七時四五分まで

(7) 同年九月八日午前七時一五分から同七時五五分まで

(8) 同年九月三〇日午前七時から同八時一〇分まで

(9) 同年一〇月九日午前七時五分から同八時一〇分まで

コンパウンドがけ

(10) 同年一〇月一二日午前七時一〇分から同八時まで

(11) 同年一〇月一四日午前七時一〇分から同八時一〇分まで

車両室内天井の石鹸清掃

(12) 同年一〇月一六日午前七時五分から同七時三五分まで

天井外のパウンドがけ

(二) 業務命令による個人攻撃

(1) 被告会社の森脇課長は原告に対し、昭和五六年八月二七日午前七時ころから三〇分間、組合活動、とりわけ他の従業員に対する働きかけをしないよう申し渡した。

(2) 被告会社の山下副長は原告に対し、同年一〇月一四日午前八時一〇分から同午前九時まで、被告会社に対する反抗的態度を改めるよう、右態度を改めない限り、車の清掃を命じ、無線機を取外し、他の従業員と取扱を別にする旨申し渡した。

(3) 被告会社代表者(当時、訴外第一通産株式会社交通事業部長、以下「白川部長」という。)は原告に対し、同年六月九日午前七時一〇分から同八時三〇分まで、就業規則の学習を命じた。

(三) 構内マーク

被告会社は原告に対し、昭和五六年七月一〇日から昭和五七年一月一〇日まで、国鉄黒崎駅構内で仕事をするのに必要な構内マークを与えなかった。

(四) 無線機

被告会社は、昭和五六年一〇月一五日から同年一〇月二八日まで、原告車の無線機を取外し、無線の仕事を出来なくした。

(五) 社内旅行

被告会社は、昭和五六年九月実施の社内慰安旅行(旅行先、大分県日田)に原告のみ参加させなかった。

(六) 配車

被告会社においては、三年ないし三年半で新車に切替えるところ、原告車については、昭和五七年二月一四日、廃車にするまで四年九か月間新車に切替えなかった。

(七) 故障

原告車は、前記のとおり新車に切替えられなかったため、故障が多く、ハンドルのぶれは何回修理しても良くならなかった。その原因は、被告会社の修理の際、新品の部品を使わず、中古の部品を使うためである。

又、自動ドアの修理要求を一一回行うも修理をしないので、昭和五六年一〇月六日、原告は止むなく陸運局に通報した結果、やっと被告会社はこれに応じた。

なお、右修理時間中の賃金保障をしなかった。

(八) 担当車

被告会社は原告に対し、前記のとおり原告車を廃車したまま昭和五七年二月一六日以降担当車を決めず、その都度空車に乗務するよう命じている。

(九) 制服

被告会社は、昭和五五年九月一七日、全従業員に制服を支給したが、原告のみ昭和五六年一二月八日まで支給しなかった。

(一〇) 点呼

被告会社は、他の従業員と分離して原告一人のみの点呼を行ってきた。

5  損害

(一) 本件暴力による損害 金八万三、二三〇円

(1) 逸失利益 金三万三、二三〇円

原告は、本件暴力により、五日間休業した。

原告の昭和五六年六月九日当時の一日当りの平均賃金は金六、六四六円であるから、原告は、右休業により、合計金三万三、二三〇円の賃金収入を失った。

(2) 慰藉料 金五万円

本件暴力により被った原告の精神的苦痛を慰藉するには金五万円が相当である。

(二) 本件各処分及び差別取扱による損害 金六五万三、一七三円

(1) 逸失利益 金五万三、一七三円

本件第一処分により、原告の昭和五六年六月一四日当時の一日当りの平均賃金六、六四六円の三日分合計金一万九、九三八円と本件第二処分により、昭和五七年二月二八日当時の一日当りの平均賃金六、六四七円の五日分合計金三万三、二三五円の賃金収入を失った。

(2) 慰藉料 金五〇万円

原告は、本件各処分及び本件差別取扱により、精神的苦痛を受け、右苦痛を慰藉する金員は金五〇万円を下ることはない。

(3) 弁護士費用 金一〇万円

原告は、本件訴訟を原告代理人らに委任し、着手金として金一〇万円を支払った。

右弁護士費用は被告会社が負担すべきものである。

6  よって、原告は、右各不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告会社に対し本件各処分及び差別取扱による損害金六五万三、一七三円と、被告田島に対し本件暴力による損害金八万三、二三〇円とこれらに対するいずれも右各不法行為の後である昭和五七年四月一五日から各支払ずみまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は争う。

3  同3(一)の事実は認め、(二)は争う。

4  同4について

第一グループに入った被告会社が、昭和五五年九月六日、希望退職を募り、同年九月一〇日、原告を除く全従業員五七名がこれに応じ、その内三二名が、同日、被告会社に再就職したことは認め、その余は争う。

(一)ないし(一〇)の事由は差別取扱ではない。すなわち、

(一)(1)ないし(3)、(9)ないし(12)の事実を認める。被告会社はサービス業たるタクシー業を営むところから、乗客に不快感を与えることのないよう車の清掃の徹底を全社的に行っていた。他の従業員が、被告会社の右方針を理解し、自発的に、又は注意をすれば素直にこれに応ずるのに対し、原告のみ殊更右方針を理解しようとせず反抗的態度をとるため、業務命令をもって対処せざるを得なかった。

(二)(1)、(2)の事実は不知。

(3)の事実は認める。原告は、昭和五六年六月六日勤務時間中、事前の届出をすることなく八幡地区ハイタク連絡協議会に出席し、白川部長がそのことを注意しても、反抗的態度に出たため、就業規則の理解を深める必要が生じたものである。

(三)の事実は認める。原告が服装について被告会社の指示に従わなかったこと及び黒崎駅構内付近で居眠りをしていたとの情報があったことによるものである。

(四)の事実は認める。無線機が故障し煙を出したためである。修理に日数を要したのは、当該無線機がみどりタクシー時代に設置されたものであったため、そのメーカーと被告会社は取引がなく、被告会社の取引先である他のメーカーに修理させたためである。

(五)の事実は認める。社内旅行は「みどり第一交通」の共済会の積立金を主たる財源とするところ、原告は、右共済会に加入していなかったので、参加しうる立場にはなかった。

(六)の事実のうち、原告に対し、昭和五七年二月一四日、廃車にするまで四年九か月間新車を与えなかったことは認める。被告会社においては、走行距離三八万ないし四〇万キロメートルを目途として廃車としているが、これはあくまでも一応の目途であり、個々の車の状態によって多少異なった取扱は当然に起り得る。また、配車の問題は被告会社の労務指揮権の問題である。

(七)の事実のうち、原告が、昭和五六年一〇月初旬ころ、自動ドアの開閉について不満を述べていたこと及び陸運局に通報したことは認め、その余は不知。

原告車の交替運転手は何ら異常を訴えたことはなく、修理時間中の賃金保障は全従業員に対して行っていない。

(八)の事実は認める。長引く不況のため、北九州のタクシー業界では、福岡県知事の要請(昭和五六年一二月二二日付)に従い、減車することとなり、被告会社の割当は六台であり、ちょうど原告車を含む六台が交換期になっていたので、これらを廃車として減車した。原告は、二交替制勤務(早出・遅出をそれぞれ四回毎繰り返す勤務、この場合は二人で一台の割合になりやすい。)ではなく、隔日勤務(午前七時より翌日午前三時までの勤務)を希望していたため、担当車のない勤務(これを「スペアー要員」といっている。)とならざるを得ず、当時、スペアー要員は原告を含め二〇名いた。

(九)の事実は認める。原告は、みどりタクシー時代は服装は自由でそれが労使慣行である旨主張して、第一グループの制服の着用を拒否していたためである。その後、原告は、制服の支給を申出たが、被告会社は原告の真意を計りかね、取敢ずみどりタクシー時代の制服の着用を指示して様子を見ることにしたが、原告はこれに応じなかった。結局、制服を支給したのは、原告の再三の要求と現場上司の口添えがあったことによる。

(一〇)の事実は認める。原告は、他の従業員と勤務形態が別であったためである。

5  同5は争う。但し、本件暴力後、原告が五日間休業したことは認める。

三  抗弁

1  本件暴力の経緯は次のとおりであり、原告に重大な落度がある。

昭和五六年六月九日、営業所二階会議室において、白川部長の命により、同部長、藤井貞雄営業副長、原告、被告田島の四名が就業規則を学習中、八条五号(二重在籍の禁止)を読み終えたところ、原告は、就業規則の学習を無視して、突如、被告田島に対し、「あんたは、二か月位前、戸畑第一の車に乗って遠賀川の堤防の上を走っていたではないか。これは、二重在籍ではないか。」と虚偽の事実を言い出した。

被告田島は、一年前までは第一グループとは別系列の戸畑第一タクシーに勤務していたが、これを退職後は右会社とは全く関係していなかったため、「そんなことはない。」と強く否定した。

そこで白川部長は、「君の発言は事実であれば、被告田島の懲戒解雇にもあたる重大な発言であり、責任を持って言えるか。」と質したところ、原告は、「この目で見た。」と強弁した。

このとき、白川部長宛に電話がかかっている旨連絡が入ったので、白川部長は三人に引続き就業規則を学習するように命じて、一階に降りて行った。

ところが、原告は、更に、「俺は見ていた。あんたも手を振っていたではないか。」と興奮気味に手振をしながらくってかかったので、被告田島も「そんなら調べてみろ。そのころ、俺は山口の方に行っていたから、こっちにいるはずがない。」と否定し、原告の手を払うようにして右手を二度振ったところ、その手が、原告の顔面に当った。

その後、原告は、「暴力をふるうのか。病院に行く。」と言い残して許可なくその場を立去り、学習を放棄した。

2  本件第一処分の理由は次のとおりである。

1記載のとおり、原告は、

(一) 白川部長の就業規則学習続行命令を無視した。

(二) 被告田島の名誉を侵害した。

そこで、被告会社は、原告の右(一)の所為は就業規則八四条一四号の「上長の指示に従わないとき。」に、右(二)の所為は同規則八六条七号の「社会的規範に反する行為(刑罰にふれ、又は、刑罰にふれなくとも一般社会通念上当然してはならないこと)をなし、会社又は従業員たる体面を汚したとき。」に該当するので、本件第一処分に及んだ。

3  本件第二処分の理由は次のとおりである。

(一) 原告は、昭和五七年二月二七日ころ、国鉄黒崎駅構内及び被告会社営業所内の営業車両に、「団結して非人間支配をやめさせよう」と題する(証拠略)のビラ(以下「本件ビラ」という。)を配布した。

(二) 本件ビラには、次の記載がある。

(1) 第一交通で働らく皆さん、……黒土社長が一番真先に皆さんの賃下げを強行しました。……許せないのは黒土社長は陸運局には、私達の賃金は一万四〇〇〇円程アップしたと、ウソの報告をしている事です。……上記の表は北九州で一番小さな事業所「新和タクシー」の賃金ですが、第一交通とくらべていやになる程大きな格差です。

(2) 事故を起せば費用は本人負担。……仲間が事故起し退職したけど会社は事故費を退職した後も請求する。この事は逃げようとも逃がさんぞ、恐ろしい会社だと判りました。……会社はなんらかの保険に加入していて、保険から金銭がはいりなおかつ運転手にも負担させるなんて、まったく会社は二重取りの大もうけです。

(三) 本件ビラの右記載内容は大部分事実に基づかず、又は事実を誇張歪曲して被告会社を非難攻撃し、全体として被告会社を中傷誹謗するものであり、本件ビラの配布により被告会社の信用及び名誉を傷つけた。すなわち、

(1) (二)(1)について 賃率は下げたものの、被告会社の実車率は高く、従って賃金が低下したことはなく、同業他社の賃金と比しても遜色はない。また、被告会社は福利厚生面に力を入れており、その全体評価をしなければ、労働条件を云云することはできない。

(2) (二)(2)は事実に反する。

(3) (二)(3)は事実に反する。

(四) そこで、被告会社は、原告の右所為は就業規則八六条一五号の「会社の経営に関し故意に真相をゆがめ又は事実をねつ造して宣伝、流布又は通報するなど、会社の信用又は名誉を傷つけたとき」に該当するので、本件第二処分に及んだ。

(五) 仮に、同規則八六条一五号に該当しないとしても、同規則同条七号及び同条一七号の「故意又は重大な過失によって会社に損害を与え又は与えようとし、或いは業務に関して会社に損害を与えたとき若しくは会社の信用を失墜させたとき」に該当する。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1について、原告に重大な落度があるとする点は争う。

2  同2のうち、処分理由が(一)、(二)のとおりであることは認めるが、その存在は争う。原告は、白川部長の命令を無視したものではなく、本件暴力によって学習続行が不可能となったものである。また、原告は名誉毀損ということで告訴されたが、不起訴処分となっており、単に質問したにすぎない。更に、就業規則八六条は諭旨解雇・懲戒解雇の規定であるから、同条をもって本件第一処分に及ぶのは筋違いである。

3  同3(一)、(二)の事実は認める。(三)、(四)、(五)は争う。

原告は、本件ビラを作成したものではなく、配布する際、事実に反する部分があることを知らなかった。また、就業規則八六条(諭旨解雇・懲戒解雇)をもって本件第二処分に及ぶことは許されない。

五  再抗弁

本件各処分は、原告が労働組合員であり、その組合活動を嫌悪してなされたものであるから、労働組合法七条一号の不当労働行為に該当し、無効である。

六  再抗弁に対する認否

争う。

第三証拠

本記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  本件暴力について

(証拠略)を総合すると次の事実が認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果(一部)は前掲各証拠に照し措信し難いところその他右認定を覆すに足る証拠はない。

1  原告は、昭和五六年六月六日勤務時間中に、事前の届出をすることなく、八幡地区ハイタク連絡協議会に出席した。

2  そこで、白川部長は、同年六月九日午前七時ころ、出勤してきた原告に対し、営業所点呼場において、就業規則八四条に基づき、右無届職場離脱を理由として乗務停止一日を申し渡したところ、原告は、素直にこれに承服せず、みどりタクシー時代は日報記入による事後報告でよかった旨強弁するので、原告にはいまだ就業規則の理解が不充分であると考え、二階会議室において、藤井貞雄営業副長、被告田島主任の二人の管理職を加え、就業規則の学習を命じた。

3  就業規則八条五号(服務規律中二重在籍の禁止の号)を読み終えたとき、原告は、突如、被告田島に対し、「あんたは、二か月位前、戸畑第一の車に乗って遠賀川の堤防の上を走っていたではないか。これは、二重在籍ではないか。」と発言したが、身に覚えがない被告田島はこれを強く否定し、白川部長は原告に対し、右発言は被告田島の懲戒問題にかかわる重大発言である旨説明して真偽を質したところ、原告は、なお右発言に固執して「この目で見た。」旨強弁した。

4  しかしながら、原告の右発言内容は事実に反するものであり、原告は右発言内容が事実に反することを知った上故意にかかる発言に及んだものか、少なくとも、発言内容の重大性に鑑み、事前に被告田島の二重在籍の有無を確かめるため種々の努力を尽すべき注意義務を安易に怠った過失を敢てしたものである。

5  このとき、白川部長に所用ができたので、同部長は、被告田島の二重在籍問題は暫く措いて、就業規則の学習を続行するよう命じて中座した。

6  白川部長中座後、原告は右問題を蒸返し、被告田島も気分が収まらず、原告に対し右発言の訂正を求めたところ、原告はなおも「俺は見ていた。あんたも手を振ったではないか。」と手振を加えて言ったばかりかその真偽の程を確認すべく戸畑第一交通への同道を求めた被告田島を殊更無視する態度に出たため、同被告は激昂して、「貴様生意気な。」といいながら、右手で原告の手を払いのけて左顔面を殴打し、原告が「暴力を振うのは止めろ」と抗議したが、更に殴打した。

7  原告は、本件暴力後、「病院に行く。」と言い残してその場を立去って辻村医院で手当を受けた。

8  原告は、本件暴力により、安静加療五日間を要する左眼部及び頬部打撲症の傷害を負った。

9  被告田島は、本件暴力に責任を感じ、同年六月三〇日、退職願を提出したが、被告会社は、事の重大性に鑑み、受理することなく諭旨解雇処分に及んだ。

三  本件差別取扱について

次の1ないし7の事実は当事者間に争いがない。

1  第一グループに入った被告会社は、昭和五五年九月六日、希望退職を募り、同年九月一〇日、原告を除く全従業員五七名がこれに応じ、その内三二名が、同日、被告会社に再就職した。

2  請求原因4(一)(1)ないし(3)、(9)ないし(12)の事実。

3  同(二)(3)の事実。

4  同(三)ないし(五)の事実。

5  原告に対し、昭和五七年二月一四日、廃車にするまで四年九か月間新車を与えなかった。

6  原告は、昭和五六年一〇月初旬ころ、自動ドアの開閉について不満を述べ、陸運局に通報した。

7  同(八)ないし(一〇)の事実。

(証拠略)を総合すれば、次の事実が認められ、右認定に反する(証拠略)、原告本人尋問の結果は容易に採用し難いところ、その他右認定を覆すに足る証拠はない。

1  車の清掃について

請求原因4(一)(4)ないし(8)の事実。

被告会社は前述のとおり訴外第一通産の傘下に入って経営陣を刷新後は、サービス業たるタクシー業を営むことから、乗客に不快感を与えることのないよう運転手のみだしなみを初め、車両の清掃の徹底を運転手教育の第一方針として全社的に行っており、原告を除く他の従業員は、被告会社の右方針を理解し、自発的に、又は注意をすれば素直にこれに応じていたところ、原告のみが旧みどりタクシー時代の各人の自主性に委ねるとの慣例に固執して右方針を理解しようとしなかったため、業務命令をもって対処せざるを得なかった。

2  業務命令による個人攻撃について

白川部長の就業規則学習命令は、勤務時間中の無届職場離脱を注意したのに対し、原告が就業規則について無理解とも思える態度に出たため、改めてその学習の必要があったからである。

3  構内マークについて

構内マークを与えなかったのは、原告が被告会社の制服の着用を拒否していたため、被告会社において、第三者たる国鉄の敷地で稼働するのは不適格と認めたからである。

4  無線機について

被告会社が昭和五六年一〇月一五日から約二週間にわたり原告車の無線機を取外したのは、当該無線機が故障したためであり、修理日数を要したのは、みどりタクシー時代に設置されたものであったため、被告会社はそのメーカーと取引がなく、止むなく被告会社の取引先である他のメーカーに修理させたためである。

5  社内旅行について

社内旅行は「みどり第一交通」の共済会の主催であり、参加者は原則としてその加入者に限られるところ、原告は、右共済会に加入していなかったので、参加しうる立場になかった。

6  配車について

被告会社においては、走行距離三八万ないし四〇万キロメートルを目途として新車に切替えているが、必ずしも画一的なものではない。

7  故障について

被告会社は乗客に対するサービスを第一義としており、理由なく故障車を放置するようなことはないし、また修理時間中の賃金を保障しない取扱いは独り原告のみならず全従業員に対する平等且つ統一的な取扱いである。

8  担当車について

長引く不況のため、北九州のタクシー業界では、福岡県知事の要請(昭和五六年一二月二二日付)に従い、減車を実施することとなり、被告会社の減車割当ては六台であったところ、たまたま原告車を含む六台が車輛交換期になっていたので、これらを廃車として減車し、一方原告は、二交替制勤務ではなく、隔日勤務を希望していたため、担当車のない勤務(スペアー要員)とならざるを得ず、当時、スペアー要員は原告を含め二〇名いたが、みどりタクシー時代からの運転手は原告のみであった。

9  制服について

原告は、みどりタクシー時代から服装は自由でありそれが労使慣行である旨主張して、第一グループの制服の着用を拒否していたため、被告会社は制服を支給しなかった。その後、原告は、制服の支給を申出たが、被告会社は原告の真意を計りかね、取敢ずみどりタクシー時代の制服の着用を指示して様子を見ることにしたが、原告はこれに応じなかった。結局、制服を支給したのは、原告の再三の要求と現場上司の口添えがあったことによる。

10  点呼について

点呼が原告のみ分離されていたのは、原告は、他の従業員と勤務形態が別であったためにすぎない。

ところで原告は被告の原告に対する各種所為を目して違法不当な不法行為である旨主張するところ、右当事者間に争いがない事実及び1ないし10に認定した事実によれば、被告会社の労務管理が経営者として最も望ましいもの或は万全なものであったか否かの点は暫く措くとしても、いずれも原告に対する不法行為を構成すべき性質のものではないことが窺えるのである。

原告は、被告会社の希望退職の募集は組合潰しが目的である旨或は被告会社の原告に対する労務管理はいちいち原告の組合活動を嫌悪した結果である旨主張するけれども、これに符合する(証拠略)は右認定に供した証拠と対比して容易に採用できず、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。

四  請求原因3(一)の事実は当事者間に争いがないから、以下各処分ごとにその効力ないし違法性を検討することとする。

五  本件第一処分について

本件第一処分の処分理由が被告会社主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、(証拠略)によれば、被告会社の就業規則八四条一四号は「上長の指示に従わないとき」を、八六条但書、七号は「社会的規範に反する行為(刑罰にふれ、又は刑罰にふれなくとも一般社会通念上当然してはならないこと)をなし、会社又は従業員たる体面を汚したとき」を、それぞれ出勤停止を含む懲戒事由として規定していること及び本件第一処分は、抗弁2(一)を同規則八四条一四号に、同2(二)を同規則八六条七号に該当するとしてなされたものであることが認められるところ、前示理由二3ないし9で認定した事実によれば、原告は白川部長の就業規則学習続行命令を遵守しなかった点において同規則八四条一四号に該当し、被告田島に対する二重在籍発言が故意又は過失による事実無根の発言であって明らかな名誉侵害行為である点において同規則八六条七号に該当し、その行為の態様その他諸般の状況からみて出勤停止三日間の本件第一処分は相当であるということができるから、同処分の無効と違法性を指摘する原告の主張は到底採用の限りでない。

原告は就業規則学習続行命令の不遵守は被告田島の本件暴力に起因する止むをえないものであった旨強調するが、右主張は現象的には一理あるとしても、本件暴力前後の経緯を全体としてみれば、本件暴力及びそれに伴なう就業規則学習続行命令の不遵守は、その一面において原告の自招行為とも評価できる性質のものであって、原告は責任を免れることはできない。

また、原告は、被告田島に対する二重在籍発言につき刑事上不起訴処分になったことを把えて就業規則八六条七号の適用の不当性を主張するが、刑事処分の帰趨は即同規則八六条七号所定の事由の有無に直結するものではないから、右は主張自体失当であり理由がない。

更にまた、原告は、本件第一処分は不当労働行為に該当すると主張するけれども、本件全証拠をもってしても、これを認めるべき証拠はない。

六  本件第二処分について

1  抗弁3(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。

2  (証拠略)を総合すると、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(一)  タクシー運転手の賃金の相当性は独り賃率のみならず実車率、運収額、会社の福利厚生努力その他の労働条件との関連において相対的に決定されるべき性質のものであり、このことはタクシー業界における一般常識に存する事柄であるところ、被告会社においては、昭和五六年度の料金改訂により、賃率を下げたが、その企業努力により従業員の実車率は同業他社のそれに比して高く、現に前記料金改訂後においては賃率低下に拘らず賃金は増額されており、新和タクシーを含む同業他社の賃金と比較しても遜色はない上、被告会社は、賃金とは別に、従業員の福利厚生面の充実に力を入れており、「賃下げ」と評価されるべきなんらの筋合いはないのに、本件ビラは、単純に賃率の低下が賃下げないし労働条件の悪化に直結する旨印象づけ、しかもそれが被告会社の意図的な労務政策に基づくかのような表現を敢てしている。

(二)  事故費用の負担問題について、被告会社は、運転手の重過失による事故、例えば、踏切一旦停車違反、飲酒運転、居眠り運転等の場合は、その損害填補を運転手の個人負担としているが、その他の場合は、運転手の個人的事情、例えば免許停止等の行政罰を免れるため、当該運転手個人の要請がある等例外的な場合を除き運転手個人に負担させていないに拘わらず、本件ビラは、事実に反する記事を登載したが、これは被告会社に応募しようとする運転手に悪印象を与えるに充分である。

(三)  原告は、本件ビラの作成者ではないが、本件ビラを配布するに際し、その記載内容を知悉していた。

(四)  被告会社は、原告の本件ビラ配布は、就業規則八六条一五号の懲戒解雇事由である「会社の経営に関し故意に真相をゆがめ又は事実をねつ造して宣伝、流布又は通報するなど、会社の信用又は名誉を傷つけたとき。」に該当すると認めたが、同規則八六条但書の「但し、情状によっては諭旨解雇又はその他の処分を行うことがある。」との規定に基づき、本件第二処分に及んだ。

3  ところで、労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、一種の制裁罰である懲戒を課することができるものであるが、両者の関わり合いは、要するに、双方共、労使関係の信義に照らし、自ら節度あるものでなければならないところ、右1の争いのない事実及び2(一)ないし(四)認定事実によれば、本件ビラの内容は大部分事実に基づかず、又は事実を誇張歪曲して被告会社を中傷誹謗し、被告会社に対する不信感を醸成して企業秩序を乱す虞があったものということができるのであって、原告の本件ビラ配布は、労働者としての節度を超え、被告会社の経営に関し故意に真相をゆがめて宣伝、流布し、もって会社の信用又は名誉を傷つけたものというを妨げない。しかして、事案の態様、前示第一処分その他諸般の状況を総合すれば、出勤停止五日間の本件第二処分は相当であって、その間なんらの違法不当な廉はないといわなければならない。

この点の原告の主張は失当であり採用できない。

また、原告は、本件第二処分は不当労働行為であると主張するけれども、本件全証拠をもってしても、これを認めるべき証拠はない。

七  損害について

前記によれば、被告田島は、本件暴力によって被った原告の次の損害を賠償する責任がある。

1  逸失利益

原告は本件暴力後五日間休業したが(当事者間に争いがない。)、前二認定事実によれば、右休業は本件暴力によるものということができ、(証拠略)によれば、原告の昭和五六年四月から六月までの一日当たりの平均賃金は金七、二一〇円であると認められるから、右休業損害は金三万六、〇五〇円となる。

2  慰藉料

原告が本件暴力により精神的苦痛を受けたことは十分に推認でき、前認定の傷害の内容、程度、休業損害等を総合して考慮すると、右精神的苦痛を慰藉するには金三万円をもって相当と考える。

3  過失相殺

前認定のとおり、原告の虚偽の事実の発言等が本件暴力の発生に大きく寄与していることは明らかであるけれども、その過失の程度は被告田島の行為に比しより大なるものとも評し難く、原告の過失割合は四〇パーセントをもって相当とする。

従って、右1、2の損害額につき四〇パーセントの過失相殺をすれば、その結果は金三万九、六三〇円となる。

八  以上によれば、原告の本件請求は、被告田島に対し、右損害金三万九、六三〇円と、これに対する本件暴力の日の後である昭和五七年四月一五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余はいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を適用するが、仮執行の宣言は本訴において相当でないからこれを付さず、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鍋山健 裁判官 渡邊安一 裁判官 渡邊了造)

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