福岡地方裁判所小倉支部 昭和60年(ワ)376号 判決 1987年7月03日
原告
中田猛
被告
高洲亀雄
ほか一名
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して、金六六六万〇二四八円及びこれに対する昭和五七年四月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告中村雅延は、原告に対し、金七〇万円及びこれに対する昭和五七年四月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は被告らの負担とする。
五 この判決は、第一、二項にかぎり、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告らは、連帯して、原告に対し、金七五八万〇八〇二円及びこれに対する昭和五七年四月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告中村雅延は、原告に対し、金七〇万円及びこれに対する昭和五七年四月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行宣言。
二 被告ら
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 交通事故の発生
(一) 日時 昭和五七年四月二一日午後七時五〇分頃
(二) 場所 北九州市小倉南区葛原一丁目一番一号先路上
(三) 加害車 普通乗用車(北九州五六そ四九三六)(以下、「被告車」という。)
右運転者 被告 中村雅延
(四) 被害車 普通乗用車(山口五六み五〇四五)(以下、「原告車」という。)
右運転者 原告
(五) 態様 右場所において、信号待ちのため停止中の原告車に被告車が追突したもの(右交通事故を以下「本件事故」という)。
2 責任原因
(一) 被告中村雅延は、前方不注視の過失により本件事故を生せしめたものであるから、民法第七〇九条により原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。
(二) 被告高洲亀雄は、本件事故当時、加害車を所有し、被告中村に加害車を使用させていたものであるから、加害車の運行供用者として自動車損害賠償保障法第三条により原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。
3 傷害と治療状況
原告は、本件事故により「頸椎捻挫、腰部打撲、及び外傷性頸部症候群」等の傷害を負い、別表記載のとおり、入・通院の治療を受け、その結果「頸椎運動制限、聴力低下等」の後遺障害が残り、昭和六〇年一〇月一四日右各後遺障害につき、自賠責保険後遺障害等級一〇級五号、同一一級七号にそれぞれ該当し、これを併合して同九級とする旨の決定を受けた。
4 損害
原告は、本件事故により次の損害を被つた。
(一) 入院雑費 一三万四〇〇〇円
原告は、本件事故による傷害のため合計一三四日間入院し、その間入院雑費として少なくとも一日当り一〇〇〇円、合計一三万四〇〇〇円を支出した。
(二) 通院交通費 一五万三八〇〇円
原告は、前記3のとおり通院治療を受け各通院のための交通費として一日(一往復)あたり次の金員を支出した。
(1) 小文字病院につき、 一日あたり三二〇円の
二二日分 合計七〇四〇円。
(2) 九州労災病院につき、 一日あたり六〇〇円の
七九日分 合計四万七四〇〇円。
(3) 佐藤整形外科、 一日あたり四八〇円の
二〇七日分 合計九万九三六〇円。
右(1)(2)(3)の通院交通費は合計一五万三八〇〇円となる。
(三) 休業損害 二九四万二八四五円
原告は、本件事故のため、次の(1)ないし(4)の合計二九四万二八四五円の休業損害を被つた。
(1) 本給分 (一五九万七七二八円)
原告は、本件事故当時、宇島タクシー株式会社の営業所長として勤務していたが、本件事故による傷害の治療等のため、昭和五七年七月一日から昭和五八年一月二〇日までの二〇四日間の欠勤を余儀なくされ、その間原告は勤務先から給与(本給分)の支払を受けられなかつた。原告の昭和五七年四月から六月までの本給の合計は七〇万四九〇〇円なので、一日あたり七八三二円であつた。従つて、右休業期間中の本給分の損害は、一五九万七七二八円となる。
(2) 賞与分 (二一万円)
原告の勤務先は、夏期及び冬期の年二回ボーナスが支給されているものであるが、前記欠勤のため昭和五七年冬期分の賞与二一万円の支給を受けられなかつた。
(3) 昇給減(昭和六〇・三・三一まで) (四〇万八〇〇〇円)
原告は、前記(1)記載のとおり、長期間の欠勤を余儀なくされたため、昭和五八年四月一日宇島タクシーの営業所長から親会社である有限会社堀構内タクシーの渉外課(事故係)に降格・配置転換となつた。
もし、本件事故による右配置転換がなければ、原告は、昭和五八年四月一日から月額二万二四〇〇円の昇給がなされる筈であつた。ところが、前記のとおりの降格・配置転換のため昇給した金額は月額五四〇〇円に止まり、その差額月額一万七〇〇〇円だけ昇給を受けられなくなつた。
従つて、右昭和五八年四月一日から本訴提起に至る昭和六〇年三月末日までの二四か月分、合計四〇万八〇〇〇円の昇給減となつた。
(4) 昇給減(昭和六四・三・三一まで) (七二万七一一七円)
原告は、本件事故当時満五〇歳であり、原告の勤務先の定年は五六歳である。従つて、昭和六〇年四月一日以降原告が満五六歳に達した年の事業年度末である昭和六四年三月三一日までの四年間(ホフマン係数三・五六四三)、(3)記載の月額一万七〇〇〇円の昇給減が継続することとなる。
その結果、昭和六〇年四月一日以降原告が定年に至るまで七二万七一一七円の昇給減少分が生ずることとなつた。
(算式)
17000×12×3.5643≒727117
(四) 後遺症による逸失利益 二四七万〇一五七円
(1) 年収額
昭和五七年冬期ボーナスを含む原告の本件事故発生直前半年間の収入は、一五四万一九〇〇円であり、その結果、本件事故当時の原告の年収は、その倍額である三〇八万三八〇〇円を下らない。
また、前記のとおり、原告は本件事故のため毎月一万七〇〇〇円昇給が遅延したので、原告が満五六歳の定年に達した時点における年収は、右本件事故当時の年収三〇八万三八〇〇円に年間昇給遅延分二〇万四〇〇〇円を加算した三二八万七八〇〇円を下らない。
(2) 後遺障害等級九級の場合の労働能力喪失率は、自賠責保険等級別後遺障害一覧表によると、三五パーセントである。
(3) 喪失期間
後遺症に残存する期間は、後遺障害の認定を受けた昭和六〇年一〇月一四日から少なくとも五年間(ホフマン係数四・三六四三)である。
(4) 逸失利益額
以上(1)ないし(3)を総合すると、原告に生じた後遺障害による逸失利益額は、次の算式により、少なくとも二四七万〇一五七円を下らない。
(算式)
原告の定年時の所得額×{(就労の終期の年齢-事故時の年齢)に対する係数-(定年時における年齢-事故時の年齢)に対する係数}×労働能力喪失率
=3287800円×{(59-50)に対応する係数-(56-50)に対応する係数}×0.35%
=3287800×(7.2782-5.1336)×0.35
=2470.157円
(五) 慰藉料 合計六七〇万円
(1) 入通院慰藉料 二五〇万円
(2) 後遺障害慰藉料 四二〇万円
以上(一)ないし(五)の合計額は、一二四〇万〇八〇二円となる。
(六) 車両損害 七〇万円
本件事故により原告車は全損となり廃車した。その損害は七〇万円を下らない。
5 損害の填補
原告は、本件事故につき、自賠責保険から金五二二万円を受領した。
6 弁護士費用 四〇万円
原告は、本訴の提起、追行を原告訴訟代理人に委任し、その報酬として金四〇万円を支払うことを約した。
7 結論
よつて、原告は
(一) 被告両名に対し、連帯して、前記4の(一)ないし(五)の人的損害合計一二四〇万〇八〇二円から5の填補額を控除し、その残額七一八万〇八〇二円に6の弁護士費用四〇万円を加えた七五八万〇八〇二円、
(二) 被告中村に対し、前記4の(六)の物的損害七〇万円、及び、右(一)、(二)に対する本件事故発生の日である昭和五七年四月二一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
(被告中村)
請求原因1、2、5は認め、同3、4、6は不知、同7は争う。
(被告高洲)
請求原因1は認め、同2のうち、(一)は不知、(二)は否認、同3ないし6は不知、同7は争う。
三 被告高洲の主張
被告高洲は本件事故当時、被告車の所有名義人とされていたが、その実質的使用者であつた被告高洲の息子である訴外高洲久は、本件事故以前の昭和五七年三月末若しくは四月上旬頃ガソリンスタンドの従業員である訴外清水年光の仲介により被告車を中古車販売業者である被告中村に売却したものであつて、車両引渡と同時に車検証、印鑑証明書その他名義移転に必要な書類はすべて交付し、代金も引渡時一五万円、数日後残金を受領ずみである。
従つて、本件事故当時、被告高洲亀雄は、登録原簿上の使用名義人であつたとしても、それは形式的ないわゆる「名義残り」の場合であつて、被告車に対する運行支配を喪失していたものであつて、運行供用者としての自賠法三条の責任はない。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりである。
理由
一 交通事故の発生
請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
成立に争いのない甲第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし四、原告本人尋問の結果によると、原告は、原告車を運転し、本件事故現場において赤信号にて停止し、右足で軽くブレーキペダルを踏んで停止中、酒気を帯びた被告中村運転の時速約三〇キロメートルの被告車に追突されたため、衝撃によりブレーキペダルから右足が外れて上体を前方に押し出され、フロントガラスと天井との境目辺りに頭部を打ちつけ、原告車は約二・五メートル前進し、前方に停車していた二台の自動車に追突して三重追突事故となつたことが認められる。
二 責任原因
1 被告中村
同被告が、前方不注視の過失により本件事故を生ぜしめ、民法七〇九条により原告が被つた損害を賠償すべき責任があることは、原告と被告中村との間に争いがない。
2 被告高洲
成立に争いのない甲第二〇号証、第二九号証の一ないし九、証人高洲久の証言によると、被告車(ニツサンローレル、五四年型)は、被告高洲亀雄(大正一二年一二月九日生)の息子である訴外高洲久(昭和二二年一月二日生)が、昭和五四年二月七日頃福岡日産自動車株式会社到津営業所から中古車価額一二〇万円(頭金六〇万円、割賦代金月額三万八〇〇〇円ないし四万円)にて所有権留保付で購入したもので、自動車の登録名義については、昭和五四年二月七日付で、所有者「福岡日産自動車株式会社」、使用者「被告高洲亀雄」にて登録がなされ、その後被告高洲は遅くとも昭和五五年中には割付代金の支払を完了し、同被告が実質的に所有権を取得したことが認められる。
被告高洲は、本件事故前に被告車を中古車販売業者である被告中村に対し、代金三〇万円で売却ずみであつて、車検証、印鑑証明書等名義移転に必要な書類はすべて交付し、代金もすでに被告中村から二回に分けて全額受領ずみであつて登録名義だけが被告高洲に残つていたものであると主張する。
証人高洲久、同清水利光の各証言及び被告中村雅延本人の供述中には右主張に沿う部分があるが、右証拠間には、被告車売却の時期において同じく本件事故発生前といいながら微妙な喰い違いがあり、代金額においてもあいまいな点があつて一致せず、または証人高洲久は、被告車の売却時に名義変更に必要な被告高洲名義の印鑑証明書を被告中村に交付したと証言し、被告中村も印鑑証明書を含む名義変更に必要な書類の交付を受けたと供述するが、成立に争いのない甲第二九号証の一ないし九、第三〇号証によれば、被告高洲は昭和五六年度以降小倉南区長宛に住民基本台帳法第四章の届出はなく、北九州市印鑑条例に基づく印鑑登録もなされていないこと、被告高洲から被告中村に登録名義の変更がなされたのは、本件事故後の昭和五七年八月二四日であることが認められ、右認定事実と対比すれば、被告高洲の主張に沿う前記部分は措信できない。むしろ前掲各証拠(但し、被告高洲の主張に沿う部分を除く)のほか、原告本人尋問の結果を総合すると、被告高洲の息子高洲久は昭和五七年四月上旬頃、被告車の売却方を依頼して中古車センター「マイルド」(昭和六〇年四月廃業)を経営していた中古車販売業者である被告中村に被告車を一時的に貸与し、同被告において被告車を使用するうち本件事故を発生させたもので、その当時は未だ買手も見つからず、代金も未済であつたと認めるのが相当である。
右認定事実によれば、被告高洲はいまだ被告車に対する運行支配を喪失しておらず運行供用者として自賠法三条の責任を免れない。
三 傷害と治療状況
成立に争いのない甲第四号証、第二五号証(小文字病院関係)、甲第八号証、第一〇、第一一号証、第二三、第二四号証、第二六号証(労災病院関係)、甲第一二、第一三号証、第二二号証(佐藤整形外科関係)及び甲第二一号証に原告本人尋問の結果を総合すると、請求原因3の事実のほか、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。
1 原告は、本件事故後「頸椎、腰椎変性症、頸椎捻挫、腰部打撲」の傷病名で約三か月間(実通院日数二二日)自宅近くの小文字病院に通院したが軽快せず、かえつて頸椎治療の際体に痛みが走り、食物を嘔吐する症状も出たため、九州労災病院で検査の結果「頸椎症」にて手術が必要と診断され、昭和五七年六月三〇日入院し、同年七月二六日「第五ないし第七頸椎の前方固定術、骨移植術」の手術を受け、術後頸椎固定装具を使用して治療した結果、神経症状は軽減し、同年一〇月二五日一時退院して通院治療に切りかえたが、同年一二月八日から二三日まで再入院して治療を受けた。
2 原告は、昭和五八年一月二一日職場に復帰したが、通勤の都合上九州労災病院の紹介で、同年一月二九日から、行橋市の佐藤整形外科に通院し、頸部の痛み、上下肢のしびれ、筋力低下等の症状に対し、理学療法を中心に治療を受けたが、特段の症状の変化もなく、昭和六〇年三月二九日症状固定として治療を打ち切られた。
3 原告は、昭和六〇年三月二九日「頸椎々間板症」による頸から肩の疼痛、右上肢のしびれ、前額部のひきつり感、頸椎の可動制限があり、なお腰痛症、左耳の聴力低下の後遺症が認められ、同年一〇月一四日保険会社により、後遺障害等級一〇級五号(聴力低下)と同一一級七号(背椎に奇形を残すもの)とを併合して同九級に該当すると認定された。
四 損害
1 入院雑費 一三万四〇〇〇円
前記三で認定のとおり、原告は九州労災病院に一三四日間入院したことが認められるので、その間入院雑費として、少なくとも一日当たり一〇〇〇円、合計一三万四〇〇〇円を支出したことは容易に推認されるところである。
2 通院交通費 一五万三八〇〇円
原告は、小文字病院、九州労災病院、佐藤整形外科にそれぞれ通院実日数二二日、七九日、二〇七日の通院をしたことは、前記三で認定のとおりである。
成立に争いのない甲第一七号証、原告本人尋問の結果によれば、右各通院に要した交通費は、一回(一往復)当たりそれぞれ三二〇円、六〇〇円、四八〇円を下らないことが認められるので、請求原因4の(二)のとおり通院交通費は合計一五万三八〇〇円となる。
3 休業損害 二二一万五七二八円
(一) 本給分 (一五九万七七二八円)
成立に争いのない甲第二八号証、原告本人尋問の結果及び同尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一四、第一五号証によると、原告は、本件事故当時、宇島タクシー株式会社の営業所長として勤務していたが、本件事故による傷害の治療のため、昭和五七年七月一日から昭和五八年一月二〇日までの二〇四日間(休日を含む)の欠勤を余儀なくされ、その間原告は勤務先から給与(本給分)の支払を受けられなかつたこと、右欠勤前三か月間の本給の支給総額は七〇万四九〇〇円(一日当り七八三二円)であつたから、右休業期間中の本給分として、一五九万七七二八円の損害を被つたことが認められる。
(二) 賞与分 (二一万円)
原告本人尋問の結果及び同尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一六号証によると、原告は前記(一)認定の欠勤のため昭和五七年冬期分(同年六月一日から一一月三〇日まで)の賞与の支給を受けられず、二一万円の損害を被つたことが認められる。
(三) 昇給減 (四〇万八〇〇〇円)
成立に争いのない甲第一六号証、甲第二七号証及び原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件交通事故のため昭和五八年四月一日宇島タクシー株式会社(豊前市大字八屋二〇六五の一)の営業所長から同系列の有限会社堀構内タクシー(行橋市宮市町四番二号)の渉外課(事故係)に降格・配置転換となつたこと、もし、配置転換とならなければ、原告の昭和五八年度の昇給額は、昭和五七年度の昇給額(月額二万二四〇〇円)と同額の筈であつたが、右配置転換のため昇給は月額五四〇〇円に止まり、昭和五八年四月一日から毎月差額一万七〇〇〇円の昇給減となつたことが認められる。
しかして、前記認定のとおり、原告の症状が固定したのは、昭和六〇年三月二九日であるので、配置転換となつた昭和五八年四月一日から昭和六〇年三月末日まで(その後の損害については、次の「後遺症による逸失利益」の項において考慮する)の昇給減による損害は、四〇万八〇〇〇円となる。
従つて、原告の被つた休業損害は、以上(一)ないし(三)の合計二二一万五七二八円となる。
4 後遺症による逸失利益 二一七万六七二〇円
原告本人尋問の結果及び同尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一五号証によると、原告は、昭和六年八月二九日生まれの男子で本件事故当時年齢五〇歳であり、事故前三か月の平均給与は月額二〇万七八一五円で、勤務会社の定年は五七歳であることが認められる。
原告が昭和六〇年四月一日から従事するタクシー会社の渉外課(事故係)の仕事は、前記認定の後遺障害の内容から考え、原告の労働能力への影響を否定できず、また前記のとおり症状固定後も現実に収入の減少があることを考慮すると、原告の後遺障害は、少なくとも、症状固定の昭和六〇年三月二九日から五年間存続し、右期間中原告の労働能力喪失の割合は、二〇パーセントを認めるのが相当である。
そこで、原告の後遺障害による逸失利益を、前記事故前の収入に労働能力の喪失割合を乗じ、これに喪失期間に対応するホフマン係数(四・三六四三)を乗じて算定すると、次のとおり、二一七万六七二〇円となる。
(算式)
207815×12×0.2×4.3643=2176720
5 慰藉料 六七〇万円
前記認定の傷害の部位、程度、入通院期間、後遺症の程度その他本件に顕れた諸般の事情を勘案すれば、本件事故によつて原告が受けた精神的苦痛に対する慰藉料は金六七〇万円が相当である。
6 車両損害 七〇万円
成立に争いのない甲第一八、第一九号証、原告本人尋問の結果によると、原告車は本件事故により廃車の止むなきに至り、その車両損害は、七〇万円を下らないことが認められる。
五 損害の填補 五二二万円
原告が、本件事故につき、自賠責保険から金五二二万円の支払を受けたことは、当事者間に争いがないから、右金額を車両損害を除く前記四の1ないし5の損害額(一一三八万〇二四八円)から控除すると、六一六万〇二四八円となる。
六 弁護士費用 五〇万円
原告が、本件訴訟の提起、追行を弁護士である原告訴訟代理人に委任し、その費用及び報酬として相当額の支払を約していることは弁論の全趣旨によつて認められるところ、本件事案の性質、審理の経過及び認容額等に鑑みると、被告らに対して賠償を求め得る弁護士費用の額は、五〇万円と認めるのが相当である。
七 結論
よつて、原告の本訴請求は、被告らに対し、連帯して、車両損害を除く損害の合計金六六六万〇二四八円、被告中村雅延に対し、車両損害の金七〇万円、及びこれらに対する本件事故発生の日である昭和五七年四月二一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める程度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 三村健治)
(別表)
<省略>