福岡地方裁判所甘木支部 昭和40年(ワ)21号 判決 1968年1月26日
主文
被告会社の昭和四〇年五月二八日の定時株主総会における高松進、広瀬治輔、〓口記義、山口太吉、秋吉〆蔵、師岡嘉朝、梅本敏夫を取締役に、竹井一義、山本人士を監査役に選任する旨の決議はこれを取消す。
被告会社の発行する株式の総数は八、〇〇〇株とする旨の被告会社の昭和四〇年六月一八日の臨時株主総会の決議の存在しないことを確認する。
被告会社の昭和四〇年六月一九日の取締役会の決議にもとづく被告会社の株式一、〇〇〇株の新株発行は無効とする。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は主文と同旨の判決および主文第二項に対する予備的請求として「昭和四〇年六月一八日被告会社の臨時株主総会における、被告会社が発行する株式の総数は八、〇〇〇株とする、旨の決議はこれを取消す。」との判決を求め、その請求の原因として、
「第一、原告と被告会社との関係
(一) 被告会社は昭和二九年一一月二六日、青果物およびその加工品、花卉、塩干物、乾物、鳥卵の購入、販売、販売受託、保管、貯蔵等、ならびにこれに関連する事業を行うことを目的として設立されたものであるが、同会社の発行する株式総数は二、〇〇〇株、発行済株式総数も同じく二、〇〇〇株、一株の額面五〇〇円、資本額一〇〇万円である。
(二) 原告は被告会社の株式四一二株を有する株主であるが、被告会社創立以来昭和四〇年五月二八日の定時株主総会まで被告会社の取締役であつた。
第二、(第二一号事件関係)
(一) 昭和四〇年五月二八日開催された被告会社の定時株主総会(以下、本件定時総会と称することがある)において、高松進、広瀬治輔、〓口記義、山口太吉、秋吉〆蔵、師岡嘉朝、梅本敏夫を取締役に、竹井一義、山本人士を監査役にそれぞれ選任する旨の決議がなされた。
(二) しかしながら、右決議は次の理由により取消さるべきものである。
(1) 本件定時総会の招集は、取締役会の決議なくして行われたもので、商法第二三一条および被告会社の定款第一三条(株主総会は法令に別段の定めがある場合の外取締役会の決議に基き社長これを招集する)の規定に反する。
(2) 本件定時総会の招集通知は会日である昭和四〇年五月二八日のわずか四日前である同月二三日に発せられているが、これは商法第二三二条第一項に反する。
(3) 原告は、本件定時総会において取締役に選任されなかつたが、同総会においては七名の取締役選任決議がなされたのであるから、原告は他の株主とともに累積投票によることを求める権利を有していたのに、総会招集通知発信から会日までわずか四日しかなかつたため右権利を行使する機会を奪われ、更に同総会において議長が「定款の規定により累積投票によらないことになつている」旨を附言して取締役改選の議事を総会にはかつたため、原告は取締役に再任されず、それまで保有した取締役の地位を喪失したものであるが、右は総会招集の手続および取締役選任決議方法が法令・定款に違反し、且つ決議方法が著しく不公正であるといわなければならない。
(4) 右取締役選任決議に際しては、議長から「取締役の選任決議は一人一票とする」旨宣言され、そのまま無記名連記投票によつて一人一票の投票が行われて取締役が選任されたが、これは明らかに一株一議決権を定めた商法第二四一条の規定に違反する。
第三、(第二五号事件関係)
(一)(1) 被告会社は昭和四〇年六月二九日、「昭和四〇年六月一八日会社が発行する株式の総数変更。一、発行する株式総数八、〇〇〇株」なる旨の登記をなしたが、右登記申請の添付書類である臨時株主総会議事録には、同月一八日開催の被告会社の臨時株主総会(以下、本件臨時総会と称することがある)において一、八七四株の株主が出席のうえ「被告会社が発行する株式の総数は八、〇〇〇株とする」旨の決議が満場一致で決議された旨の記載がある。
(2) しかしながら、右所謂臨時株主総会なるものは、その招集通知もなされず、また総会も現実には開かれていないのであるから、前記議事録の記載は全く架空のものである。
(3) しかしながら、右決議に副う登記がなされているので、同決議が無効であることの確認を求める。
(二) 仮に、右総会が現実に開催されたことがあるとしても、同総会は取締役会の決議によらず、原告やその他の株主に対し全く何等の通知もなく開催されたものであるから、同総会はその招集手続が違法であり、したがつて同総会において為された前記決議は取消さるべきである。
(三)(1) 以上のとおり、いずれにしても「被告会社が発行する株式の総教は八、〇〇〇株とする」旨の決議は効力を有しないので、被告会社の取締役会が昭和四〇年六月一九日になした新株一、〇〇〇株の発行決議は結局被告会社が発行する株式総数を超過した株式発行となり、したがつて右新株発行決議にもとづいてなされた新株発行は法令定款に反し無効である。
(2) 仮に然らずとするも、被告会社が右新株一、〇〇〇株を発行するに当つては、
(イ) 新株引受権を有する株主に対して、その者が引受権を有する株式の額面、無額面の別、種類、数、ならびに一定の期日までに株式の申込をなさないときはその権利を失うことを通知しなければならず、同通知は申込期日の二週間前にこれをなすことを要し、
(ロ) 取締役は法定の事項を記載した株式申込証を作り、これに基いて新株の申込をさせることを要し、新株引受人は払込期日にその発行価格の全額の払込をなすことを要する
のに、被告会社は右いずれの手続も全く履践していないので右新株発行は無効である。被告会社が昭和四〇年七月三日になした一、〇〇〇株発行ずみの登記はその実体をともなわない架空のものである。」
と述べた。
証拠(省略)
被告訴訟代理人は「原告の請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁ならびに被告の主張として、
「原告と被告会社との関係
原告主張の第一記載の事実中(一)記載の事実は認めるが、同(二)記載の事実は争う。被告会社の発行する株式の総数はその後被告会社の定款変更により八、〇〇〇株に変更された。
第二一号事件関係
原告主張の第二記載の事実中(一)記載の事実は認める。
同(二)の(1)記載の事実は否認する。本件定時総会の招集は取締役会の決議にもとづいてなされたものである。
同(二)の(2)記載の事実中、招集通知が発せられた日時が原告主張のとおりであることは認めるが、商法の規定に違反しているとの点は争う。原告は本件定時総会が開催されることを右招集通知が発せられる以前にすでに承知していたものである。
同(二)の(3)記載の事実中、議長が累積投票によらない旨を宣言して取締役改選の議事を総会にはかつたことは認めるが、右取締役選任の決議方法が法令定款に違反し、且つ決議方法が著しく不公正であるとの点は争う。原告は右決議方法に何等異議を述べなかつたものである。
同(二)の(4)記載の事実中、取締役選任決議が無記名連記投票によつて為されたことは認めるが、右投票が一人一票として為されたことは知らない、原告は右無記名投票によることについて異議を述べなかつたものである。
第二五号事件関係
原告主張の第三記載の事実中(一)の(1)記載の事実は認めるが、同(一)の(2)記載の事実は争い、その余の事実は全部否認する。」
と述べた。
証拠(省略)
理由
被告会社が昭和二九年一一月二六日に設立された株式会社で、被告会社の発行する株式の総数が二、〇〇〇株、発行済株式数も同じく二、〇〇〇株であつたこと、および一株の金額が五〇〇円であることについてはいずれも当事者間に争いがない。
原告本人尋間の結果および検証の結果(特に、昭和四〇年七月二一日の期日における検証調書添付の別紙17の記載および写真第二一の影像ならびに同年八月二〇日の期日における原告名義の株券の検証の結果)によれば原告は被告会社の株式四一二株を有する株主であることを認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。
そこで、以下原告の本訴各請求の当否について判断する。
(第二一号事件関係)
昭和四〇年五月二八日開催の被告会社の定時株主総会において主文第一項記載の各取締役および各監査役の選任決議がなされたことは当事者間に争いがない。
ところで、成立について争いのない乙第一号証の被告会社の定款にはその第一三条に「株主総会は法令に別段の定めがある場合の外取締役会の決議に基き社長之を招集する」との規定が存するところ、右定時総会が被告会社の取締役会の決議にもとづいて招集されたものであることを認めるに足る証拠はなく、却つて証人鶴田友七の証言および原告本人尋問の結果によれば右総会を招集するにつき取締役会の決議は無かつたことが推認される。なお、昭和四〇年七月二一日の期日の検証調書添付の別紙4の昭和四〇年五月一二日付取締役会議事録には「……早々にも定期株主総会を開き……」の記載があるけれども、取締役会の決議においては単に総会を招集すべき旨のみならず、その日時、場所、議題等をも定めるべきものであるから、前記取締役会議事録の断片的記載をもつて本件定時総会の招集決議がなされたものとみることは到底できない。したがつて、被告会社の本件定時総会はその招集手続が被告会社の前記定款の規定および商法第二三一条の規定に反し違法であるといわざるを得ない。
また、本件定時総会の招集通知が会日の四日前の昭和四〇年五月二三日に発せられたことは被告の認めるところ、この点も商法第二三二条第一項の規定に反し、招集手続が違法であるといわざるを得ない。被告は原告は本件定時総会が開催されることを招集通知が発せられる前にすでに承知していたから、通知が遅れたからといつて違法とはいえない旨の主張をなすけれども、原告が右通知がなされる以前に本件定時総会の日時、場所、議題等を承知していたことを認め得る証拠はないばかりでなく、却つて原告本人尋問の結果によれば原告は招集通知をうけてはじめて総会の開催を知つたものであることが認められるところ、仮に株主の一人にすぎない原告がたまたま通知前に総会の開催を承知していたからといつて他の株主との関係においても存する招集手続の違法の瑕疵が消滅するものとは考えられない。
更に、原告は右招集通知発信が遅れたため、本件定時総会における取締役選任に当り累積投票に依るべきことを求める権利の行使を妨げられたと主張するのでこの点について検討する。前顕乙第一号証の被告会社の定款第一九条第二項には「取締役選任の決議は発行済株式総数の四分の一以上に当る株式を有する株主の請求がない限り累積投票によらない」旨の規定が存するけれども、本件定時総会当時被告会社の発行済株式の総数が二、〇〇〇株であることについては当事者間に争いがなく、原告の有する株式の総数が四一二株であることは前記認定のとおりであるから、原告は発行済株式総数の四分の一に近い株式を有することとなり、他の株主と同一歩調をとることにより容易に累積投票に依るべきことを求め得る可能性を有していたものというべきところ、株主が右累積投票に依るべきことを請求するためには会日より五日前に書面を以つて為すことを要するのに、本件定時総会の招集通知が会日の四日前に発せられたことは前記のとおりであるから、結局原告は右累積投票請求権を行使する機会を奪われ、本件定時総会における取締役選任決議方法は結果的には著しく不公正であつたといわざるを得ない。
次に、原告の、本件定時総会における取締役選任決議は一株一議決権を定めた商法第二四一条に違反してなされた旨の主張について検討するに、右選任決議が無記名連記投票の方法によつて為されたことは当事者間に争いがなく、更に原告本人尋問の結果および証人田中進の証言によれば、右無記名投票は投票する取締役となるべき者の氏名を七名連記するのみで他に何等の記載をなさずして為されたことが認められ、右認定に反する証拠はないところ、右の事実からすれば、投票をなした株主がすべて同数の株式を有する場合であるならば格別、検証の結果によつても明らかな如く各株主の持株数の異る被告会社の場合においてはある株主の投票が如何なる数の議決権を表象するものなりやこれを確知するに由なきものといわざるをえず、また右投票に際し各株主の投票毎に議決権数の調査がなされた形跡も認められない本件の場合においては結局原告主張の如く本件定時総会における取締役の選任決議は前記商法の規定に違反して為されたものといわざるを得ない。
以上のとおり、本件定時総会が商法および被告会社の定款の規定に反し取締役会の決議なくして招集されたものであり、且つその招集通知も会日より二週間前に発することを要すとする商法の規定に反しわずか会日の四日前に発せられたことはいずれも総会招集の手続が法令若くは定款に違反する場合に該り、いずれも同総会における決議取消の原因となり得るものであり、更に同総会における取締役の選任決議が株主に累積投票に依るべきことを求める機会を与えることなく、また一株一議決権の原則(商法第二四一条第一項)を無視してなされたことはいずれも同総会における取締役選任決議取消の原因に該当するものといわざるを得ない。よつて、原告が本件定時総会における主文第一項掲記の各取締役および各監査役選任決議の取消を求める請求は理由がある。
(第二五号事件関係)
原告主張の請求原因事実中第三の(一)の(1)記載の事実、すなわち被告会社が昭和四〇年六月二九日、被告会社が発行する株式の総数を八、〇〇〇株とする旨の変更登記をなし、同登記申請書の添付書類である臨時株主総会議事録には同月一八日開催の被告会社の臨時株主総会で満場一致で右登記の趣旨に副う旨の決議がなされたとの記載があることは当事者間に争いがない。
しかしながら、証人鶴田友七、同古賀貞義の各証言ならびに原告本人尋問の結果および被告会社代表者尋問の結果(第一回)によれば右の昭和四〇年六月一八日の被告会社の臨時株主総会は実際には開催されていないことが認められ、右認定に反する証拠はない。とすれば開催されたことのない株主総会で決議が成立するはずはないから、主文第二項記載の決議の不存在の確認を求める原告の請求は理由がある。よつて同決議の取消を求める予備的請求については判断しない。
次に新株発行無効の主張について検討するに、被告会社の発行する株式の総数および発行済株式の総数がいずれも二、〇〇〇株であつたことは当事者間に争いのないところ、後に前記臨時株主総会において被告会社の発行する株式の総数を八、〇〇〇株とする旨の決議が存在しないこと前記認定のとおりであるから、結局被告会社の発行する株式の総数は依然として二、〇〇〇株のままに止まるものというべく、しかもその二、〇〇〇株全部発行済であることは前記のとおりであるから被告会社としては改めて定款の規定を変更することなくしては新株を発行する余地はないものといわざるを得ない。したがつて、被告会社が昭和四〇年六月一九日の被告会社取締役会の決議にもとづき被告会社の新株一、〇〇〇株を発行したのは結局被告会社が発行する株式総数を超過した株式発行となり、商法ならびに定款の規定に反すること明らかであるからその効力を有しないものといわざるを得ない。よつて、原告の右新株発行の無効を主張する請求はその余の点について判断するまでもなく理由がある。
(結論)
以上のとおりであるから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。