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福岡地方裁判所直方支部 昭和43年(ワ)44号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕被告会社が原告を雇入れ、右使用期間中の昭和四二年一月一八日原告が被告会社のトンネル堀削工事に伴なう、岩石土砂のトラック積込作業に従事中本件事故が発生したこと、本件工作物の構造が原告主張の如きものであつたこと、本件工作物に岩石が噛み合い、流出しにくくなることがあつたことは当事者間に争いがない。そこで、本件工作に関する原告主張の構造上の瑕疵について考えるに、<証拠>を綜合すると、

一、本件工作物は被告会社に勤務する技師訴外笠原健三の責任において設計され、被告会社が製作し、これを本件工事現場に設置した原告主張の構造を有する堆積岩石をトラックに積込むための工作物であるが、同訴外人は右設計にあたり、岡山県新見発電所に石灰石搬出のために設置された工作物にヒントを得、堀削岩石搬出のためトラックに積込む方法として各種あるうち堀削岩石を一旦堆積したうえ、その下方に岩石の重力を利用して流出させ必要量を調節してトラックに積込む方法を採用し、本件工事現場の状況、堀削岩石の状況、運搬トラックの幅員、流出岩石の量等を考慮し、本件工作物を設計したが、その構造は原告主張のとおり鉄製の横断面凹形樋状のトラフを斜行させ、上部に堆積した岩石の重力を利用し、岩石をトラフ内を通じて下降させ、トラフの末端排出口であるホッパ口の高さをトラック荷台から凡そ一メートル程度にし、ここに開閉操作ができるよう設置された熊手型の鉄製の蓋をもつて流出岩石を押え、トラックの荷台をホッパ口の下に配置し、右熊手型の蓋を圧搾空気による動力をもつて開いて岩石を流出させて積込み、同じくこれを閉ぢて流出を止め、口径が大きすぎれば岩石の量下降速度等が大きすぎて危険が伴い、又トラックが破損することも考えられ、狭すぎれば岩石の噛み合い瀕度が多くなつて能率が下るので、その間の調和を保つにはホッパ口の横巾約一メートル、高さ八〇乃至九〇メートルが適当と考え、その上部は岩石の取入口としてこれより横巾を広くして岩石の流入を容易にさせるように配慮した。

二、被告会社は昭和四一年一〇月ころより、本件工事現場に右工作物を設置し、トンネル堀削工事に着手したが、当初の堀削岩石、土砂は小さかつたので、本件工作物に岩石が噛み合うことも少なく、時折噛み合つて岩石が流出しにくい時があつても、ホッパ口に設置された熊手型の蓋を開閉してトラックに振動を与えれば、その動揺で岩石の噛み合が崩れて流出し、それでも流出しない時には、配置したトラックの運転席の屋根を足場とし、鉄棒を水平に右噛み合い部分に突き入れ岩石をこねれば容易に流出する状態であつた。そして鉄棒でこねる場合は熊手型の蓋を閉ぢたうえで作業しなければ流出岩石が急激にトラックに落下するので危険が伴い、作業員は常に右熊手型の蓋を閉ぢて作業し、この場合は岩石がホッパ口まで下ることはあつても、それ以上に右熊手型の蓋を押し上げて流出することはなく、トラック積込みにも危険がない状態であつた。

三、しかるにトンネル堀削工事が進捗し昭和四一年一一月ころより搬出岩石が大きくなり、そのため本件工作物は岩石の噛み合いのため以前にくらべて順調に岩石が流出せず、しばしば鉄棒でこねる作業が必要になつたがそれでも作業員がトラックの荷台の上を足場としてその作業を行えば危険はなく、又多くの場合それで流出していたが時によつてはそれでも流出し難い状況になる場合が生じ、被告会社はかかる場合資格を有する者に爆薬をもつて岩石を破砕し流出させるよう命じ、作業員にもその旨指示し、実際にこれを行えば岩石が流出する状態にあつた。

一方作業員から被告会社に噛み合いのないよう本件工作物のホッパ口を拡張するよう要望があつたが、それも危険の除却を要望したものではなく能率をあげるための趣旨であつて、被告会社はホッパ口を拡張すれば危険が発生することも考えられることからこれに応じなかつた。

四、ところで被告会社は本件事故発生後の昭和四二年三月ころ、本件工作物を改良してホッパ口の横巾高さとも約一〇センチメートル広げたところ、岩石の流出量が増加し、能率の上では以前より効果が上るようになつたが、それでも岩石噛み合いは防げず、かえつて予想したとおり急激に岩石が流出してトラックの荷台を埋める事態が発生し以前に比較して作業に危険が伴なう状態になつた。

五、被告会社は本件トンネル堀削工事中労働基準監督署の保安監督を受け、監督官としては工具について危険のあるとき安全規則の違反がある場合は修理、改善の勧告を行なうところ、被告会社は隧道内の漏電の危険性、隧道内の照明不足等について監督官より勧告を受けたことがあつたが、被告会社が他に比較しても特に安全性について不備が多かつたということはなく、本件工作物について安全規則違反もなかつたので勧告事項には入らなかつた

ことが認められる。

右認定事実によれば本件工作物に岩石が噛み合い流出しにくい状態になることがあり、特に昭和四一年一〇月ころより堀削岩石の型状が大きくなつて噛み合いの頻度が増加したことは認められるが、かかる場合岩石噛み合い部分に鉄棒を入れてこねる作業により多くの場合容易に噛み合いが崩れる状況にあり、又右作業はトラックの運転台を足場にし熊手形の蓋を閉ぢたうえ右作業を行えば危険はなく、噛み合いを防ぐためにホッパ口を拡張すれば、かえつて流出岩石が増加し積込み作業に危険が生ずるものであると認められるところ、本件工作物が常に岩石の噛み合いのないような構造であれば鉄棒使用の必要もないけれども、岩石をトラックに積込むための工作物として流出岩石の量が多量であれば危険を伴なうので噛み合いを防ぐことのみを考慮することはできず、噛み合いが少なく且つ流出量を適当にするための構造を持たなければならない性質のものであつて、その構造上の性質を考えれば、本件工作物に岩石の噛み合いが瀕繁にあつても、危険を伴なうことなく容易に噛み合いが崩せる状態にあれば、本件工作物が本来備えているべき性質又は設備を欠くものとし、瑕疵あるものということを得ない。而して前記認定のとおり、当初は順調に流出し、又岩石が噛み合つてもその取崩しは多くの場合、本件工作物を振動させるか、安全な姿勢を採つて鉄棒を使用し岩石をこねあげれば多くの場合容易に流出し、それでも崩れぬ場合は爆薬を用いて崩せば必ず岩石は流出し得る構造を有していたものであるから構造上ホッパ口の上部に狭隘部があつて岩石の噛み合う状態が生ずるものであつてもこれをもつて本件工作物に瑕疵があるということはできず、又本件全証拠によるも本件工作物に瑕疵あるものと認めるに足りない。

かえつて<証拠>によると、

原告は本件工作物に岩石が噛み合つた場合、熊手型の蓋を開閉してトラフに振動を与え、又鉄棒を使用してこねあげる作業をしていたが、日頃の作業態度は鉄棒使用に必要以上に自信を持ち、鉄棒を岩石噛み合い部分に突込んでも流出しないときは、トラック荷台内に入つて力一つぱい掛声をかけて岩石をこねあげて作業し、事故発生まで一度も爆薬による破砕を依頼したこともなく、又熊手形の蓋も開いたままの状態で作業していたため、こね上げ作業によつて急激に岩石がトラック荷台に流出して鉄棒が流出岩石内に埋まる場合すらあつたが、本件事故発生当日も原告はトラック荷台内に立ち、ホッパ口右側横のトラフの横壁の下方から約二メートル上方の噛み合い部分に上に向つて鉄棒を突き込む作業をしている中急激に流出した岩石が鉄棒をはね上げて本件事故発生に至つたものと認められ、日頃の作業態度からして事故発生当日も熊手形の蓋は開いたまま、又可成り無理な作業をしていたものと推測される。

右事実によると本件事故は、原告としてはトラック荷台の上から安全作業すべきであり又それでも流出しないときは爆発物による破砕を依頼するなど作業上当然配慮すべき注意を怠り、あえて危険をかえりみずトラック荷台内に入り、熊手形の蓋もせぬまま作業をしたため流出岩石がトラック内に急激に流出し、そのため鉄棒に強い衝激を与え、附近にいた原告が傷害を負うに至つたもので、原告の一方的過失によつて本件事故発生に至つたものであつて、本件工作物に瑕疵があつたために本件事故発生に至つたものとは認められない。

よつて原告の請求はその余の事実を判断するまでもなく理由がなく、原告の請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(早船嘉一)

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