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福岡地方裁判所直方支部 昭和44年(ワ)52号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、本件交差点は被告車進行方向からみて左方は原告車が交差点に進入してくるのが漸く選挙用ポスターの下から見える程度の見とおしであり、原告車の進行方向からみて右方は右ポスター及び雑草に妨げられて見とおしが殆んどできない状況にあり、又交通整理が行なわれていない場所であるから、道路交通法第四二条にいう左右の見とおしのきかない交差点に該当すると認められるところ、被告車進行の国道二〇〇号線は幅員七メートルであり、一方原告車進行の道路の幅員は3.8メートル(東南側道路は五メートル)であるから被告車進行の国道二〇〇号線は原告車進行の道路より明らかに広いものと認められる。従つて道路交通法第三六条第三項第四項によれば、本件において被告車に優先通行権があり、原告は被告車の通過を待つため本件交差点の手前で徐行して被告車の確認をなし、一旦停車して被告車を通過させる義務があるというべく、逆に、一般的にみて被告としては原告は自車の進行状況を確認したうえ、自車の通過を持つため交差点の手前で一旦停車してくれるものと期待されるから、被告車に同法第四二条所定の徐行義務はないものと解され、同法第二条第二〇号にいう直ちに停止することができるような速度にまで減速して進行する義務はないといい得る。しかし、一般的に右徐行義務が被告車にはないということが直ちに不法行為の要件たる過失が被告には存在しないとはいいえず、右一般的事情を考慮しつつ、具体的な特別事情を考え過失の有無を判断しなければならない。本件において、被告は原告車が前方左方の道路より交差点に進行して一旦停車したのを前方約二七メートルの地点で認めたが、前記のとおり見とおしは極めて困難な場所であるから、原告が右一旦停車の地点では被告車の確認をし得なかつたものと考えるのが相当で、されば原告車が更に進行して再び停車したのも再度確認のためと当然予想されるところ、原告は自己の左方のみを注視して、被告車の方向を見ずにいるのを認めたのであるから、通常道路確認の方法としては危険の大きい右方を先ず見とおし、次に左方をみとおすものではあるけれども被告としては、原告が被告車の確認を欠いていることも予想しうるところであり、原告が徐行義務、一旦停車義務を行つているからといつて、直ちに危険のない状態とはいえず、かかる場合原告が被告車に気付かず進行してくることも予想し得るところであるから、被告としては騒音器を吹鳴して原告に警告を与え、もつて事故発生を未然に防止すべき義務あるものというべく被告はこの義務を怠つて自車を進行させ、事故に至つたのであるから、被告に過失なしということはできない。

従つて被告には自動車損害賠償保障法第三条但書の免責事由がないから同条本文に定められた責任があり被告主張の右抗弁は採用できない。

原告の過失と被告の過失は前記のとおりであり、原告は徐行一旦停止の義務は尽しているものの右方確認の義務を欠き、右義務は被告車に優先通行権がある本件においては大きく、被告の過失である警音器吹鳴は、原告が当然なすべき右方確認義務を前提とし、なお原告がその義務を尽していないと予想される場合に警告する義務があるから原告の義務に比較し小さいものというべく、本件の場合原告六に対し被告四をもつて相当と考える。

二、原告経営の酒類煙草等販売業の経営の実体は、原告が一五、六年に亘つて礎いた店舗、得意先、原告自身が小竹町々会議員としての地位にあつたことの信用が店舗経営に与えた効果等はその収入を挙げるに大きな要素をなし、右店舗を原告の娘夫妻たる井上が受け継ぐことによつてその要素はそのまま収入の要素となつて維持されているものと認められ、原告が井上に店を委ねて約三年の間に経営収入の要素は井上に定着したものと考えられる。原告は時たま店舗に出て仕上をしていた事実も認められるけれども前記のとおり井上に仕事を引継ぐ必要上のために行なわれた労務が重要な要素をなし、その必要が薄れるにつれて原告は労務から離れていつたものと推認され常時勤務に就いて店舗の収益を挙げていたものとは認められず、すでに六九年の高令に達している原告の後継者として井上が原告より引継いだ店舗の事実上の経営者となつている状況下にあつては原告の事故による労働力喪失により、他に経営に当る者を求めなければ利益を挙げることが出来ないこともなく、原告が直接店舗に出なければ経営困難な状況にあるともいえず、又原告が店舗に出て井上に手を貸さない為にその収益の減少をもたらし、或は出費の増大を招いた事実を立証する証拠はない。以上のように前記認定事実から判断すると、原告は本件事故により将来得べかりし利益を喪失したものとは認められず、よつて原告の右逸失利益を求める請求はその余の事実を判断するまでもなく理由がない。(早船嘉一)

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