福岡地方裁判所直方支部 昭和56年(ワ)83号 判決 1982年11月25日
原告
遠山豊次郎
ほか一名
被告
新谷国秀
ほか一名
主文
一 被告らは連帯して、原告遠山豊次郎に対し、金四、四〇三、二二七円及び、これに対する昭和五六年一一月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告遠山カズエの請求を棄却する。
三 訴訟費用は、原告遠山豊次郎と被告らとの間において生じたものは、被告らの負担とし、原告遠山カズエと被告らとの間に生じたものは、原告遠山カズエの負担とする。
四 この判決は一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは連帯して、原告遠山豊次郎に対し、金四、四〇三、二二七円及び、これに対する昭和五六年一一月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告らは連帯して原告遠山カズエに対し、金三五万円及び、これに対する昭和五六年一一月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
(被告両名共)
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告遠山豊次郎は小口金融業を営む者であり原告遠山カズエは原告豊次郎の妻であり、豊次郎の業務の専従者として働いている者である。
2 (事故の発生)
昭和五五年五月一日原告らが業務に従事して帰宅の途中原告豊次郎が自己の所有する自動二輪車を運転し、原告カズエが後部座席に同乗して鞍手郡鞍手町郵便局方面から新延小学校方面に向つて進行中、次の事故により原告両名は負傷し、かつ物件の損害を受けた。
(一) 事故発生日時、昭和五五年五月一日午後八時三〇分頃
(二) 事故発生場所、鞍手郡鞍手町大字新延五六九番地先県道上、西鉄バス島停留所附近
(三) 加害車の所有者及び種類、被告原広美所有の軽四輪乗用車
(四) 加害車の運転者、被告新谷国秀
(五) 加害車両の所有者と運転者との関係
被告両名は近所に居住している友人で被告原広美が自己所有の加害車を被告新谷国秀に使用貸していたものである。
3 (事故の態様と結果)
(一) 原告豊次郎が運転中の自動二輪車を前記事故発生の日時、場所で道路左側を進行させていたとき、被告新谷は追越のためのはみ出し禁止区域であり、かつ、公安委員会が最高速度を毎時四〇キロメートルと定めている区域であるのに時速約五〇キロメートルの速度で自車を運転して原告運転の車を追越そうとして誤つて原告車の後部中央から右側にかけて追突した。
(二) 被告原広美は右加害車の保有者であり、当時自己のため加害車を運行の用に供していた。
(三) 右追突事故により原告豊次郎は四ないし五メートル横に、はねとばされ、道路外側のコンクリート台で全身を強打し、昭和五五年一一月二日迄入院、同月四日から三〇日迄通院の治療を要する頸髄損傷等の負傷をし、原告豊次郎所有の自動二輪車も破損された。
(四) 原告カズエは本件被害車の前方七ないし八メートル位飛ばされて全身を打撲し、昭和五五年七月二七日迄入院同年七月二八日から同年九月三〇日迄通院の治療を要する右橈骨々折左第五中足骨々折等の負傷をした。
4 (損害)
原告両名は右事故により次の損害を受けた。
(一) 原告豊次郎の損害
(イ) 入院治療費、二四〇、〇二七円(昭和五五年七月一日から一一月二日までの分)
(ロ) 入院雑費、七二、〇〇〇円
(ハ) 休業による損害、九八万円(休業により一か月の平均収入一四万円の七か月分)
(ニ) 得べかりし利益の損害、金一五、四八一、二〇〇円(自賠法施行令第二条身体障害等級三級の認定を受けており一〇〇パーセントの労働能力の喪失があり、一か月の収入一四万円、一年の収入一六八万円、これに六七歳迄就労できるものとして一二年間のホフマン式係数九、二一五を乗じた金額)
(ホ) 慰藉料四五〇万円
A 入院六か月、通院一か月として金五〇万円
B 後遺症の慰藉料として四〇〇万円
(ヘ) 以上合計二一、二七三、二〇〇円
(二) 原告カズエの損害
(イ) 入院治療費 一、三四二、〇五七円
(ロ) 後遺症による逸失利益 四二万円(右手首関節及び左足趾関節の骨折による後遺症により自賠法施行令二条身体障害等級の一四級の認定を受けており向う五年間労働能力を五パーセント喪失するものとして昭和五四年女子労働者の学歴、年齢を平均した賃金センサスによる平均賃金一、七一二、三〇〇円の五パーセントに五年を乗じた金額で千円以下切捨金額)
(ハ) 入通院の慰藉料 八〇万円
(ニ) 後遺症による慰藉料 五〇万円
(ホ) 以上合計三、〇六二、〇五七円
5 (被告らの責任)
被告らは次の過失により右事故を起し、よつて原告らに対し前記の損害を与えたものである。
(一) 被告新谷は運転免許を有しないで軽四輪乗用自動車を運転し、原告らを追越すにあたり公安委員会が最高速度を毎時四〇キロメートルと定めているうえ、追越しのため道路右側部分は、はみ出すことを禁止している場所であつたので、右制限速度を遵守し、かつ追越をする場合は原告車の動静を注意し、同車との衝突を防止するように慎重に運転する義務があるのに、この義務を怠り、慢然と時速約五〇キロメートルで原告車を追越そうとしてハンドルを右に切り過ぎて、それに気付きあわてて左に転把したため自車の左側部分を原告豊次郎運転の自動二輪車の後部中央から右側にかけて衝突させて原告らを路上に転倒させ原告らに前記の通りの傷害を負わせたものである。
(二) 被告原は、本件加害車両の保有者であり、本件当時自己の為の運行の用に本件車両を供していた者であり、自賠責法三条による加害車両の保有者としての損害賠償責任がある。
6 よつて原告豊次郎は被告らに対し、連帯して、不法行為に基づく損害賠償として、受けた損害額二一、二七三、二〇〇円から保険等より受給した損害補償額一、六八七万円を差引いた金四、四〇三、二二七円と、これに対する不法行為の後である昭和五六年一一月二二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払い、原告カズエは被告らに対し、連帯して不法行為に基づく損害賠償として受けた損害額三、〇六二、〇五七円から保険等より受給した損害補償額一九五万円を差引いた金一、一一二、〇五七円の内金三五万円及びこれに対する不法行為の後である昭和五六年一一月二二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。
二 請求原因に対する認否
(被告新谷国秀)
1 請求原因1の各事実は認める。
2 同2の事実のうち(五)の事実は否認し、その余の事実は認める。被告原が酒を飲んでいて被告新谷に運転を依頼したので被告新谷が運転したものである。
3 同3、5の各事実は否認する。
4 同4の事実は知らない。
5 同6は争う。
(被告原広美)
1 請求原因1、2の各事実は認める。
2 同3、5の各事実は否認する。
3 同4の事実は知らない。
4 同6は争う。
三 抗弁(被告ら)
1 原告豊次郎は、本件事故に関連して自賠責保険から一、六八七万円の補償を受給している。
2 原告カズエは、本件事故に関連して自賠責保険及び国民健康保険から金一九五万円の給付を受けている。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実はすべて認める。
第三証拠〔略〕
理由
一 請求原因1(原告らの職業等)の事実は、当事者間に争いがない。
二 同2(事故の発生)の事実のうち(五)の事実を除いた事実については、当事者間に争いはない。
同2の(五)の事実について判断する。
成立に争いのない甲第五ないし七、一六ないし一九、三〇号証、被告原広美本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を綜合すると昭和五五年五月一日午後八時二〇分頃被告原広美が自己の所有する軽四輪自動車(本件加害車)を運転し被告新谷国秀方に行き、自分が酒を飲んでいるので泉水という所迄運転してもらうよう依頼し、被告新谷国秀が、これを承諾し、同人が本件加害車を運転し、被告原広美が助手席に乗車していて本件事故が発生した事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
三 請求原因3(事故の態様と結果)、5(被告らの責任)の事実について判断する。
成立に争いのない甲第一ないし七号証、第八号証の一、二、第九ないし一九、二五、二六、三〇、三一号証、第三二号証の一ないし四、第三三号証の一ないし七、九ないし一三、証人隈部平昭の証言、原告遠山豊次郎、同遠山カズエ、被告原広美各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を綜合すると、請求原因3、5のすべての事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
四 請求原因4(原告らの損害)の事実について判断する。
(一) 原告豊次郎の損害
<イ> 成立に争いのない甲第三二号証の一、二、四、原告遠山豊次郎本人尋問の結果によれば、原告豊次郎が山崎病院で昭和五五年五月一日から同年一一月二日まで治療を受けた治療費のうち二四〇、〇二七円を原告豊次郎が支払つている事実を認めることができ右認定を覆すに足りる証拠はない。
<ロ> 前記三で認定した事実によれば原告豊次郎は本件事故により昭和五五年五月一日から同年一一月二日迄一八六日間入院治療を受けており、経験則上七二、〇〇〇円を下らない入院雑費の支出をしている事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
<ハ> 休業による損害
前記一、三で認定した事実及び原告豊次郎本人尋問の結果によれば、原告豊次郎は本件事故当時一か月平均一四万円を下らない収入を得ていたのに本件事故により七か月間の入院及び通院により小口金融業を休業し合計九八万円を下らない損害を受けている事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
<ニ> 得べかりし利益の損害
前記三で認定した事実及び成立に争いのない甲第三三号証の一〇、原告豊次郎本人尋問の結果によれば原告豊次郎は本件事故により後遺障害を受け、その程度は自賠法施行令別表の後遺障害等級三級の程度で労働能力の喪失割合は一〇〇パーセントであり、一か月の収入一四万円、一年の収入一六八万円、これに経験則上通常六七歳迄就労できてる筈であつたものと認められ、事故当時五五歳であつたので一二年間の収入が得られる可能性が高く、右一年間の収入に一二年間のホフマン式係数九・二一五を乗じて得た金額金一五、四八一、二〇〇円の損害が当時生じている事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
<ホ> 慰藉料
A 前記三で認定した事実によれば原告豊次郎は入院一八六日、通院二六日の治療を受けており、この傷害についての慰藉料は原告豊次郎主張の五〇万円を下らないと認めるのが相当である。
B 前記三及び四の(一)の<ニ>で認定した事実によれば、原告豊次郎は本件事故により自賠法施行令別表の後遺障害等級三級程度の後遺障害を受けており、後遺症の慰藉料として、原告豊次郎の主張する四〇〇万円を下らない慰藉料を認めるのが相当である。
<ヘ> 以上原告豊次郎の損害の合計は二一、二七三、二〇〇円を下らない。
(二) 原告カズエの損害
<イ> 請求原因4(二)(イ)(治療費支払)の事実について判断するに、成立に争いのない甲第三二号証の一によれば原告カズエが治療費として金一一、四八〇円を支払つた事実を認めることができ、請求原因4(二)(イ)の事実のうち右金額を超える部分については、これを認めるに足りる証拠はない。
<ロ> 当事者間に争いのない請求原因1の事実及び前記三で認定した事実及び成立に争いのない甲第三三号証の一一、原告カズエ本人尋問の結果によれば原告カズエは本件事故により後遺障害を受け、その程度は自賠法施行令別表の後遺障害等級一四級の程度で労働能力の喪失割合は向う五年間五パーセントと認めるのが相当であり、原告カズエは全盲で事故当時夫の小口金融業の手伝いをしていたものであるので、同人の逸失利益の計算は経験則上主婦の逸失利益の計算に準ずるのを相当とし、昭和五四年度の賃金センサスによる女子労働者の平均賃金年一、七一二、三〇〇円を基準とし、その五パーセントの額に五年のホフマン係数四・三六四三を乗じて得た三七三、六二三円の損害が生じていた事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
<ハ> 慰藉料
A 前記三で認定した事実によれば原告カズエは入院八八日通院七三日の治療を受けており、この傷害についての慰藉料は原告カズエ主張の金八〇万円を下らないと認めるのが相当である。
B 成立に争いのない甲第三三号証の一一、一二及び前記三で認定した事実によれば、原告カズエは本件事故により自賠法施行令別表の後遺障害等級一四級程度の後遺障害を受けており、後遺症の慰藉料として、原告カズエの主張する金五〇万円を下らない慰藉料を認めるのが相当である。
<ニ> 以上原告カズエの損害の合計は一、六八五、一〇三円を下らない。
五 損害の補償
抗弁1、2(保険等からの損害の補償)の事実については当事者間に争いはない。
六 以上の事実によれば、その余の事実について判断する迄もなく、本訴請求は原告豊次郎が被告らに対し連帯して、不法行為に基づく損害賠償として、受けた損害額二一、二七三、二〇〇円から保険等より受給した損害補償額一、六八七万円を差引いた残金四、四〇三、二二七円と、これに対する不法行為の後である昭和五六年一一月二二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、これを認容し、その余は失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条第一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 大嶋惠)