福岡地方裁判所飯塚支部 昭和54年(ワ)69号 判決 1983年3月03日
原告
中島富枝
被告
瀧本喜美子
ほか四名
主文
1 原告に対し
被告瀧本喜美子は金九一万〇、四〇一円及び内金八一万〇、四〇一円に対する昭和五一年九月七日以降、被告瀧本喜久雄、同瀧本三枝子、同瀧本健二、同瀧本久子は夫々金二二万七、六〇〇円及び内金二〇万二、六〇〇円に対する右同日以降各支払ずみまで、年五分の割合による金員をいずれも支払え。
2 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを一〇分し、その三を被告らの、その余を原告の各負担とする。
4 本判決主文第1項は、仮りに執行することができる。
事実
第一 当事者双方の求める裁判
一 請求の趣旨
1 原告に対し、
瀧本久雄訴訟承継人被告(被告という)瀧本喜美子は、金三七七万八、四一〇円及び内金三三二万八、四一〇円に対する昭和五一年九月七日から、
被告瀧本喜久雄、同瀧本三枝子、同瀧本健二、同瀧本久子は夫々金九四万四、六〇二円及び内金八三万二、一〇二円に対する右同日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告らの負担とする。
3 仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二 当事者双方の主張と答弁
一 請求の原因(原告)
1 原告は、昭和五一年九月七日午後四時二〇分頃、飯塚市鯰田一四七オートレース場内で、道路上を歩行中、瀧本久雄が運転する普通貨物自動車(六福岡む四五四五)が、駐車地点から発進すると同時に右に転回し衝突した。
2 瀧本久雄は、右加害車を自己のため進行の用に供する者であり、原告に生じた損害を賠償すべき義務を負う。
3 損害は、別紙損害一覧表のとおり(総額一、〇六二万六、八二一円)。
原告は、本件事故により「前胸部・腰部打撲、腹部外傷、左第一一肋骨々折、外傷性腹壁ヘルニアによる亜腸閉塞」の傷害をうけた。
4 損害の填補(三〇七万円)
(イ) 後遺症保険金 二二四万円
(ロ) 自賠責仮払金 三五万円
(ハ) 瀧本久雄支払 四八万円
5 よつて、残金は、七五五万六、八二一円である。
6 ところで、瀧本久雄は、本件係属後の昭和五六年一一月一七日死亡し、妻被告喜美子(相続分八分の四)、長男被告喜久雄、長女被告三枝子、二男被告健二、三女被告久子(相続分各八分の一)がこれを相続した。
よつて右久雄の債務は、右割合をもつて被告らに承継されたから被告喜美子に対し金三七七万八、四一〇円及びうち弁護士費用分を除いた三三二万八、四一〇円に対する事故発生の日である昭和五一年九月七日から、その余の被告らに対し夫々九四万四、六〇二円及びうち弁護士費用分を除いた八三万二、一〇二円に対する前同日から各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する答弁(被告ら)
1 請求原因1は認める。
2 同2のうち、瀧本久雄が本件加害車の運行供用者であつたことは認める。
3 同3は争う。
原告は本件事故前からの生活保護受給者で、その主張の如き逸失利益の損害は発生していない。
また、原告は、医療扶助もうけていたもので、事故と因果関係なき疾病についての治療もうけており、本件事故による傷害だけでその主張するような長期の治療期間を要したとはおもわれない。また原告は、右の疾病による療養中で、将来にわたつて稼働できる見通しも存しない。
4 同4のうち(イ)、(ロ)は認めるが(ハ)は争う。(ハ)は合計七七万七、〇〇〇円である。
三 抗弁(被告ら)
1 過失相殺
原告は、本件事故当時車道中央線上を漫然と歩行していて、加害車が時速二ないし三km位でゆつくり転回しているのにも気付かず、加害車の右側に自ら衝突した。
よつて、本件の事故発生には原告にも過失があリ、この点は十分に斟酌されるべきである。
2 瀧本久雄は、昭和五二年三月二五日、原告との間に保険給付は別として、以後右久雄から原告に対し金八〇万円を支払うことによつて原告は爾余の請求を放棄する旨の和解をした。
ちなみに瀧本久雄は同年四月二日右和解金の内三〇万円を支払い、更に同月九日五〇万円を現実に提供したところ、原告はその五〇万円のほか更に五〇万円を請求したので、右五〇万円は支払つていない。
3 瀧本久雄は、昭和五一年九月一一日から同五二年一一月一九日までの間、一〇回にわたつて損害賠償として合計七七万七、〇〇〇円を原告代理人であるその夫幸太郎に支払つた。
四 抗弁に対する答弁(原告)
1 過失相殺の主張は否認する。
2 抗弁2は否認。
3 同3は、四八万円の限度で認め(第二の一の4参照)、その余は否認。
五 受継
1 被告ら
瀧本久雄は、本訴係属中である昭和五六年一一月一五日死亡し、久雄の妻被告喜美子、同長男被告喜久雄、同長女被告三枝子、同二男被告健二、同三女被告久子が亡久雄の権利義務を承継した。よつて本件手続を受継する。
2 原告
瀧本久雄の死亡と被告らの身分関係及び相続の事実は、被告ら主張の通り認める。
第三 証拠の関係は、本件記録中書証目録、証人等目録各記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 本件は、当初瀧本久雄を被告として提起されたところ、係属中である昭和五六年一一月一五日、同人が死亡し、被告喜美子が妻として、同喜久雄が長男として、同三枝子が長女として、同健二が二男として、同久子が三女として、右亡久雄の権利義務を承継したことは当事者間に争いがなく、本件手続の受継はこれを認める。
二 請求原因1の事実、同2のうち亡瀧本久雄が加害車両の運行供用者であつた事実は、当事者間に争いがない。よつて亡久雄は、原告が蒙つた身体傷害による損害を賠償すべき義務を負担したことが明らかである。
三 本件事故により原告が蒙つた傷害について。
成立に争いなき甲第二、第三号証と原告本人の供述をあわせると、原告は、昭和四三年と同四六年頃、二度にわたつて腹部の手術をうけたことがあつたが、本件事故によつて更に前胸部・腰部打撲・腹部外傷・左第一一肋骨々折のほか、外傷性腹壁ヘルニアによる亜腸閉塞の傷害をうけた事実が認められる。そうして原告は、右傷害により昭和五一年九月七日から昭和五二年四月一九日まで二二五日間飯塚市吉原町青山病院に入院し、その後同月二〇日から昭和五三年一〇月一一日までの期間、山田市熊ケ畑の自宅から同病院に通院して治療をうけた。通院実日数は、二一一日である。また、右入院期間中入院初日から昭和五一年九月二六日まで二〇日間附添看護を要し、附添看護をうけた。
また、前掲各証拠に成立に争いなき乙第二号証と弁論の全趣旨をあわせると、原告の本件事故前の第二回目の手術はイレウス(腸閉塞症)に対するもので事故前から腸壁ヘルニアの傾向があつた。しかし本件事故の結果、それがより顕著となり、腹に力を入れられないような状態で自賠法施行令別表一一級(一一号)の後遺障害が残存することとなつた。症状固定は、昭和五三年九月三〇日(前掲甲第三号証参照)と認めるのが相当である。
この認定を左右するに足る証拠はない。
四 損害について。
1 逸失利益
成立に争いなき甲第一号証、前掲乙第二号証、証人松岡憲文の供述と原告本人の供述の一部をあわせると、原告は、昭和八年三月一八日生れの主婦で、夫と共に本件事故前からの生活保護世帯である。そうして、原告は、その間、いわゆる拾い仕事をして、本件事故当時の月四万円くらいの収入を得ていた。
本件事故がなかつたとしても原告の稼働収入状態に変動はなかつたと認められる。
後遺障害による労働能力の喪失率は、二〇%と認められる(労働能力喪失表)。また原告の前記身体状況、健康度からみて、原告は通常の健康体であつたとはいえず、本件事故がなかつたとしても稼働可能年齢は六〇歳までと認めるのが相当である。
(一) 原告は、本件事故発生の翌日から症状固定の前日たる昭和五三年九月二九日まで二四カ月と二二日間、前記稼働ができず九八万九、三三三円(円未満切捨)の得べかりし利益を失つた。
(二) 原告は、前記労働能力喪失により、症状固定の日から六〇歳まで一五年間、一年につき九万六、〇〇〇円の割合による得べかりし賃金収入を失つた。よつて一五年のライブニツツ係数一〇・三七九六を乗ずると九九万六四四一円(円未満切捨)となり、これが現価額である。
この認定を左右するに足る証拠はない。
2 入院付添費
弁論の全趣旨によれば、原告は、前記添付看護料として一日一、五〇〇円の割合による三万円の費用を要した。この認定を左右するに足る証拠はない。
3 入院雑費
原告は、前記認定の入院期間一日五〇〇円の割合による一一万二、五〇〇円を下らない入院雑費を要したものと認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。
4 交通費
弁論の全趣旨によると、原告は、前記熊ケ畑の自宅から飯塚市吉原町青山病院にバス通院しその代金は一往復で五六〇円であつた。
よつて実通院日数二一一日間の費用は、一一万八、一六〇円である。
この認定を左右するに足る証拠はない。
5 治療費(前記青山病院関係)
前掲甲第二号証、成立に争いなき甲第四、乙第一一号証によると原告主張の治療費二五万四、四五九円は、これを認めることができる。この認定を左右するに足る証拠はない。
6 慰藉料
以上認定の傷害の部位程度、治療状況、後遺障害その他諸般の事情にてらして、原告は本件事故の結果相当の精神的苦痛をうけたことが認められ、三〇〇万円の支払いをもつて慰藉されるのを相当と認める。
この認定を左右するに足る証拠はない。
7 してみると、以上損害額合計は五五〇万〇、八九三円である。
五 過失相殺について
前掲甲第一号証、成立に争いなき同第六号証と原告本人の供述によると、亡瀧本久雄は、対向車に気をとられて右後方の安全を確認せず、時速約五kmで転回した過失が認められるが、原告も道路傍の加害車から約三台位先に駐車していた自分の車に戻るため、漫然と道路中央部附近を駐車中の車列にそつて歩いていた事実が認められ、過失相殺として一〇%を減ずるのが相当である。この認定を左右するに足る証拠はない。
六 和解について
裁判外和解成立について被告ら主張の趣旨にそう被告本人瀧本喜久雄の供述はいまだ採用するに足らず、右被告ら主張の事実を肯認するに足る証拠はない。
七 損害の填補
本件につき原告が後遺症保険金二二四万円、自賠責仮払金三五万円の支払いをうけたことは、当事者間に争いがない。
亡久雄の支払について。
成立に争いなき乙第四ないし第九号証によると、亡久雄は原告又は原告代理人(夫)幸太郎に対し、昭和五一年一〇月一六日から昭和五二年一一月一九日までの間に六回にわたり合計七四万円の賠償金を支払つたことが認められる。右を超えた弁済についての乙第三号証及び被告本人喜久雄の供述は原告本人の供述にてらして採用できない。
他にこの点に関する被告らの主張を肯認すべき証拠はない。
八 よつて、前記四の7の金額につき過失相殺をした残額四九五万〇、八〇三円(円未満切捨て)から右七の総額を控除した額は一六二万〇、八〇三円となる。
九 弁護士費用
成立に争いなき甲第五号証によると、原告は、昭和五四年八月一三日、財団法人法律扶助協会福岡県支部を介して原告訴訟代理人と本件訴訟委任契約を締結し、相当額の弁護士費用を支払う義務を負担したが、前記八の金額その他一切の事情を考慮し、二〇万円をもつて本件事故と相当因果関係ある損害と認めるのが相当である。この認定を左右するに足る証拠はない。
一〇 亡久雄の死亡と被告らの相続は前記の通りであリ、相続分は被告喜美子が八分の四、その余の被告らが各八分の一あてである。
よつて、相続分に従い、被告らが承継した債務額を算出すると左記の通りとなる。
記
(イ)前記八の金額 (ロ)弁護士費用 (ハ)合計
被告喜美子 八一万〇、四〇一円 一〇万〇、〇〇円 九一万〇、四〇一円
その余の各被告ら 二〇万二、六〇〇円 二万五、〇〇〇円 二二万七、六〇〇円(各円未満は切捨)
一一 よつて本訴請求は、原告が被告らに対し夫々前項(ハ)の金額、及びその内(イ)の金額に対する本件事故発生の昭和五一年九月七日から各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で相当として認容し、その余は棄却することとして民事訴訟法第八九条、第九二条、第一九六条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 岡野重信)
損害一覧表
<省略>