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福岡地方裁判所飯塚支部 昭和56年(ヨ)36号

申請人

飛健市

村上光美

相川勝

右申請人ら訴訟代理人弁護士

登野城安俊

(ほか二一名)

被申請人

合名会社中村産業

右代表者代表社員

中村己義

右訴訟代理人弁護士

畑尾黎磨

主文

1  申請人らが被申請人に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2  被申請人は申請人らに対し、別紙(略)賃金目録B欄記載の各金員(但し申請人相川に対しては五万五、二七六円)及び昭和五六年五月一日から本案判決言渡に至るまでの間毎月二〇日限り同目録A欄記載の各金員(但し申請人相川に対しては一八万五、二七六円)を支払え。

3  申請人らのその余の申請を却下する。

4  訴訟費用は被申請人の負担とする。

理由

第一当事者の求めた裁判

申請人らは、主文第1、4項同旨及び、「被申請人は、申請人らに対し、別紙賃金目録B欄記載の各金員及び昭和五六年五月一日から本案判決確定に至るまでの間、毎月二〇日限り同目録A欄記載の各金員を支払え。被申請人は、申請人らの就労を妨害してはならない。」旨の裁判を求め、被申請人は「申請人らの本件請求をいずれも却下する。訴訟費用は申請人らの負担とする。」旨の裁判を求めた。

第二当事者の主張

一  申請人らの本件申請理由の要旨

1  当事者

(一) 申請人飛は昭和五六年一月五日から、同村上は同四四年一一月から、同相川は同四五年ころからいずれも被申請人会社において運転手として勤務していたものであるが、申請人飛は同五六年四月二三日に解雇処分を受けたものであり、また被申請人会社は、同村上については同月八日に、同相川については同月二一日にそれぞれ被申請人会社を合意退職したと主張している。

(二) 被申請人は、炭酸カルシウム、プロパンガス等の運送事業及び砕石の製品、販売を目的とする事業を営み、従業員約七〇名を擁する合名会社である。

2  本件解雇及び退職の無効

(一) 申請人飛について

同申請人の解雇理由について被申請人は、試用期間中の勤務態度及び成績不良(適格性欠如)による本採用拒否(解雇)を主張している。しかしながら右解雇は次の各理由により無効である。

(1) 同申請人が採用された当時、被申請人会社には就業規則も、試用期間制度もなかった。同申請人は当初から本採用されたものである。

(2) 仮に就業規則が存するとしても、被申請人主張の就業規則第五条一項によると、試用期間は六〇日間であり、本件解雇は右期間経過後になされたもので無効である。仮に被申請人の主張が試用期間を延長した趣旨であるとすれば、同規則を労働者の不利益に変更するもので許されない。

(3) 仮にそうでないとしても、同申請人には何ら業務不適格な点はないばかりか、後記のとおり、本件解雇は同申請人の属する組合やその正当な組合活動を嫌悪し同申請人を会社から排除するためになされたもので不当労働行為に該当する。

(二) 申請人村上、同相川について

同申請人らの「退職」にいたる経緯は後記のとおりであり、右退職は次の理由によりいずれも無効である。

(1) 強迫ないし詐欺による退職の意思表示の取消

(イ) 申請人村上について

被申請人は、後記中村産業労組設立以来の指導者である同申請人を会社から排除しようと企て、中村産業開発株式会社の事務員長尾洋子の退職問題を口実にして同申請人の責任を追及し、執ように退職を強要したうえ、同人を威圧して退職届を提出せざるを得ない状態に追い込んだ。よって、同申請人の退職は強迫によるものというべきである。また、懲戒解雇事由に該当しない事由をもってあたかも懲戒解雇もやむを得ない背信行為があったかのように誤認せしめ、その結果錯誤により退職届提出に至らしめたもので、詐欺にも該当するものというべきである。よって、同申請人は、昭和五六年四月一八日付内容証明郵便で右退職の意思表示を取消し、右取消の意思表示はそのころ被申請人に到達した。

(ロ) 申請人相川について

被申請人は、後記運輸一般労組の組合員である同申請人を会社から排除しようと意図し、同人が後記社友組合を脱退したことを理由に、社友組合に戻らなければ同組合との間のユニオンショップ協定により解雇する旨威圧して退職の意思表示を強要したもので強迫に該当するものであり、また、社友組合と会社との間のユニオンショップ協定の効力は同申請人に対しては及ばないものと解されるところ、あたかもそれが及ぶかのように誤信させ、その結果錯誤により退職の意思表示をなさしめたもので詐欺によるものである。そして同申請人は、右退職の意思表示をした翌日である昭和五六年四月二二日付内容証明郵便で右意思表示を取消し、右取消の意思表示はそのころ被申請人に到達した。

(2) 退職の意思表示の撤回

仮に同申請人らの退職が強迫または詐欺によるものでないとしても、退職の場合、労働者が退職するに至った動機、経緯さらには退職届撤回に至る経緯等を総合的に判断して、その撤回により使用者に不測の損害を強いることとなるような労使間の信義に反すると認められる特段の事情がない限り自由にこれを撤回することができると解すべきところ、前記のとおり同申請人らは、いずれも相当期間内に各退職の意思表示を撤回した。

(3) 不当労働行為

同申請人らはいずれも外形上合意退職の形をとっているが、労働者の自発的意思による退職という法形式をとる場合でも、その退職が何らかの形で強制、強要されたものとみられる場合には実質的には解雇であって不当労働行為として無効と考えるべきところ、被申請人は、同申請人らの属する労働組合を嫌悪し、同申請人らがその労働組合を結成し又は加入したこと、正当な組合活動をしたことを嫌悪し同申請人らを排除するため、不当に退職を強要し、その結果同申請人らをして退職の意思表示を余儀なくさせたもので、いずれも実質上解雇に相当し、不当労働行為として無効である。

3  本件解雇及び退職に至る経緯

(一) 被申請人会社には七〇余名の労働者が雇用されているが、労働条件の改善等を求めて従業員真子某、申請人村上らの呼びかけにより、昭和五五年一一月一日、運転手四六名中四二名が参加して中村産業労働組合を結成し、右真子が委員長に、申請人村上が副委員長に就任し、同組合は総評系全国一般労働組合田川支部に加入した。被申請人はあらかじめ右組合結成の動きを察知して介入を始めていたが、結成後直ちに組合の切り崩しを開始し、業務部長中村義道や社内の親睦団体である友の会の幹部らをして、組合役員に対し執ように組合の解散を迫る一方、個々の組合員に対し個別に自宅を訪問して組合から脱退するよう懐柔して回った。このため次々と組合員が脱落していくなかで、同月二二日第三回臨時組合大会の席上、委員長真子が突然組合を解散し、委員長を辞任する旨表明し、さらに同月二四日真子委員長名で組合解散の声明書が掲示されるに及び、同組合は事実上壊滅の状態となった。

(二) 中村産業労組の壊滅以来被申請人は、友の会を母体とした企業内組合を結成させるべく社友会結成へ向けて準備会を発足させていたが、右準備会が被申請人の発意と庇護によるもので自主性を欠くとして前組合員らは申請人村上を中心として新たに自主独立した組合を結成すべく活動し、全日本運輸一般労働組合福岡地方本部書記長山崎貢の指導のもとに準備を進め、昭和五六年一月四日までに右運輸一般労組に合計一六名が個人加入し、同月一一日同労組田川地域支部中村産業分会(後に現在の名称である同労組博多地域支部中村産業分会に変更)を組織するに至り、申請人村上がその委員長に就任した。その後加入者は三〇名近くに達したが、申請人相川は当初からの、同飛は同月二一日に加入した、いずれも同労組の組合員である。

被申請人は右運輸一般労組に対しても以前にも増して激しい組合切崩工作を行い、いわゆる赤攻撃の誹謗中傷を加え、組合員宅を個別に訪問して脅迫、懇請する等あらゆる違法、不当な手段を駆使して組合つぶしに狂奔した。そしてこれと同時に被申請人は中村義道業務部長をして委員長である申請人村上に対してひそかに働きかけを行い、全日本労働総同盟のオルグに直接面談させる等して運輸一般労組からの脱退ならびに中村産業分会の解散もしくは上部団体の変更等を強要し続け、同人が解散を決しかねているとみるや暴力団の名刺を示して脅迫し決断を迫った。申請人村上は業務部長に対し労働条件の改善や運輸一般労組員に対する不当差別をしないなどの条件を呈示し、これを受け入れてもらったものの、ついにその強要等に屈し、同年二月一九日、二〇日の両日にわたり、被申請人の指示通りに運輸一般労組員全員の脱退届を集め、全員を脱退させた。(しかし、その後脱退届を書いた組合員の一部は再び運輸一般労組に再加入の手続をとり、以後秘密裏にいわゆる地下活動を続けていた。)

右のように被申請人は一応運輸一般労組を解散に追い込むことに成功したものの、なおも組合の芽を完全に断ち切るため委員長であった申請人村上を退職させようと意図し、同月二四日同申請人に対し、五月に設立する新会社に採用するので、中村産業労組の委員長であった真子とともに組合結成の責任をとって退職するよう強要し同申請人は真子作成の退職届を見せられて、やむなくこれに応じ、即日退職届を提出した。(しかし同申請人は家族の者や、本件訴訟代理人である登野城、江上両弁護士らと相談のうえ、翌日右退職届の撤回を申し入れ、被申請人もこの時はこれを認めている。)

(三) 同月二一日、被申請人会社には、その指導によって、全従業員を組合員とする社友組合が結成され、同年三月二五日に第一回臨時総会が開かれ、被申請人提案による事項の討議が行われた。右事項は、ユニオンショップ協定の締結、スト予告期間を三〇日とすること、ローリー車の軍転手はストライキに参加しないこととするものであって、申請人村上は、強くこれに反対し、その結果右提案は反対多数で否決された。被申請人はこれによって大きなショックを受け、申請人村上を早急に退職させる必要性を痛感した。その口実に使われたのが関連会社前記中村産業開発(以下単に開発という。)事務員長尾洋子の退職問題であった。

申請人村上は、被申請人会社から砕石部門を開発に移行する計画のあることをきいていたが、右移行は砕石部門運転手にとって重大問題であると考え、とりあえず開発の営業状態について知るため、同年四月一日、同事務員の長尾に電話をしてこれを尋ね、同女から出荷量が増加していることを聞いた。その後長尾から、「開発の事務員が新たに採用されるので自分は転属を命ぜられているが、この際会社を辞めたい」旨の相談を受け、同申請人は、同女が退職の意思を有していることを知った。ところが、同月五日、開発の所長中村稔から突然呼び出しを受け同申請人の長尾に対する行為について厳しく責任を追及された。同所長の言い分は、長尾は同申請人から開発の経営内容を尋ねられ、これを教えたが、会社の業務秘密を他にもらしたことで道義的責任を感じ、また、同申請人が恐くなったので退職したい旨申出ているとのことであった。同申請人は同女の退職理由が別のところにあると思っていたので、同女を交えて話をさせてほしい旨要請し、同月六日、被申請人会社会議室において、同所長、前記中村業務部長及び長尾と面談したところ、同所長らは、長尾に対し有無を言わさず一方的に念を押すようにして前記所長の言い分を押しつけ、長尾もこれに相づちを打つだけで終った。

そして、同月七日、同所長は朝と夜の二回にわたり同申請人宅を訪ね、同人に対し、長尾を退職に追い込んだ責任をとって退職するよう執ように強要し、同申請人はこれにたまりかねて九日夕方までに返事をする旨答えてその場は免れたが、翌八日、同所長は同申請人を事務所に呼び、同人に対し退職届を持参したか否かを聞き、同人がこれを持参していないと知るや、面前に退職届用紙とボールペンを置き、右退職届にサインするまで退室を許さないとの強い姿勢を示し、同申請人を威圧し続けた。そのため同申請人はついにこれに耐え切れず不本意ながら退職届に署名して提出した。

(四) その後、同月一二日に再び社友組合の臨時総会が開かれ、前回否決されたユニオンショップ協定締結等の案件が再び審議され、前記中村業務部長が出席して積極的に発言し、反対意見を述べるいとまを与えず怒号の中で採決が行われ、被申請人の提案どおり可決された。この間前記のいわゆる地下活動をしていた運輸一般労組員玉江進一は第一回臨時総会の席上で、同じく小池敏英、江藤義博、木本秀明、申請人相川の四名は右ユニオンショップ協定の議案が採択されるに先だって、それぞれ社友組合から脱退する旨意思表示をなした。

そして、同月二一日朝、右小池、玉江、江藤、木本の四名が社友組合との間のユニオンショップ協定を理由に被申請人から解雇する旨の通告を受けたが、同日午後、中村業務部長は申請人相川に対し、社友組合に戻れ、そうすれば小池らみたいに解雇にならないですむ、と解雇をちらつかせて恫喝し、同申請人があくまで社友組合に戻ることを拒否するや、戻る気がないならどうせ解雇だからここで退職願を書いて帰れと強要し、退職届用紙とボールペンを置いてサインするまでは退室させないとの強い姿勢を示したため、同申請人はこれに抗し切れず、やむなく退職届に署名した。

4  賃金請求権と保全の必要性

(一) 申請人らが本件解雇または退職意思表示の前に受領していた過去三ケ月間の賃金及びその平均額は後記のとおりであって、申請人らは夫々被申請人にその賃金請求権を有する。しかし、昭和五六年四月分については申請人飛は金一三万四〇九六円、同村上は金四万円、同相川は金一三万円を受領しているので同月分の残額は同飛について金五万一六七七円、同村上について金一六万〇一〇〇円、同相川について金六万円となる。

<省略>

(二) 申請人らは、被申請人に対し、雇用契約上の地位の確認、及び賃金の支払を求める訴を準備中であるが、本件解雇等により就労が不可能となり、かつ、生活に不可欠の賃金を断たれた現在、本案判決の確定を待っていては回復し難い損害を蒙る恐れがある。

二  被申請人の答弁

1  申請人飛の解雇について

(一) 同申請人は昭和五六年二月五日に採用されたものであるが、その当時の被申請人会社の就業規則五条には、六〇日間の試用期間をおき、この間業務に不適当と認められた場合は解雇できる旨定められている。同申請人は、この適用をうけるものである。

(二) 同申請人は以前約二年位の間被申請人会社に勤務したことがあるが、その時の勤務状態も好ましいものではなかった。このため同人の再就職の希望に対し最初は断っていたが再三の希望があったので温情的に採用したものの、従前の事情から特に注意して真面目に勤務することを誓約させ、また、六〇日間の試用制度についても面接の際告知した。そして被申請人は同申請人を炭酸カルシウム運搬車(以下タンカル車という)に乗務させていたが、右炭酸カルシウムの販売先のうち飼料と道路舗装関係の顧客については現場への搬入時刻が指定され、その遵守が厳しく注文されていた。そのため被申請人会社としてはタンカル車については前日までに各運転手毎に行先と出発時刻を定め、これを配車と呼んでいたが、同申請人は右配車時刻より早く出発し、或は遅れて出発する等の行為が多々発生した。

(三) このため、被申請人は同申請人の直接の上司にあたる営業課長岩田智明から同申請人を本採用しないでもらいたい旨の上申を受け、中村業務部長はやむなく右岩田に対し、同申請人に試用期間を経過しても本採用しない旨通告するよう命じ、同人は右命令に従い、同年一月末日ころ、申請人に対し同年二月末日をもって解雇することを言い渡した。これによって、被申請人と同申請人との間の雇傭契約関係は終了した。ところが、右二月末日、同申請人は中村業務部長に対し勤務態度を改めるので解雇しないでもらいたいと懇請してきた。これに対し同業務部長は同申請人の個人的事情も勘案して温情的にもう一度機会を与えることとし、改めて同年三月一日付で再雇用すること及び試用期間は六〇日間であり、今後はいかなる違反があってもその場で解雇する旨申し渡して、同申請人を再試用し、同人もこれに異議なく同意した。

(四) しかしその後も同申請人の勤務態度は全く改らず、他の運転手からも苦情が出て、放置しえない段階に至っていたところ、同年四月二三日朝、被申請人会社を解雇された小池らが会社玄関先に押しかけ押問答となった際、同申請人も配車に従わずにこれに参加してきたので、その場に居合せた中村業務部長や岩田課長が配車に従い運転出発するよう再三指示したが、同申請人は全くこれを無視して指示に従わなかった。以上の如く同申請人が従業員としての適格性を欠くことは明らかで、被申請人は同月二四日同申請人に対し即日解雇する旨通知した。

(五) 以上のとおり同申請人の解雇は、試用期間中の業務不適当によるもので、有効な解雇である。

(六) 仮りに、右(三)の被申請人の措置が試用期間の延長にあたるとしても、これは同申請人の利益のため合意によってなしたもので、このような事情下における試用期間の延長は適法である。

2  申請人村上の退職について

(一) 昭和五六年五月一日、被申請人はその砕石部門を開発に移譲したが、右移譲の計画は数年前から企画されていた。同申請人は右移譲に関する調査のため、同年三月末日、同年四月二日、三日の各日にわたり、開発事務員長尾洋子に対し開発の営業内容等をもらすよう執ように迫った。このため同女は自己の知る範囲で開発の内情を同申請人に教示したが、さらに今後とも協力してほしい旨依頼されるに及び、同申請人に加担してしまったことやさらに引続いて同人との協力を要請される関係に至ったことについて危惧感を抱き、ことここに至らしめた同申請人を畏怖するにいたった。そして、同女は、これより逃れるためには開発を辞職するしかないと思い、同月四日に退職届を提出し、被申請人は同日これを受理した。

(二) 被申請人会社の所長中村稔は同年五月一日に開発の社長に就任していたが、従前から開発の事務を統括的に管掌していたものであるところ、同人は長尾の退職届を受理した後その退職理由を知り、管理者としてその職責上看過できないことと考え、同年四月五日同申請人と会ってその考えを質した。同申請人は事実関係そのものは認めたものの同女の退職理由については否定し同女との面接を希望したので、翌日同女を交えて話したところ、同女はその退職理由が同申請人の協力要請にあったことを言明した。

(三) 中村所長は以上のような事実経過が判明した以上放置するのは適当でなく、同申請人の責任を明確にすべきであると思料し、その方法としてはまず同人の自省を求め自発的に責任をとらせた方が良いと判断した。もっとも同所長としては始末書、或は顛末書を提出する程度のことを考えていたが、同月七日、所用の折に同申請人方に立寄り、同人の対処方を質したところ、同人はいきなり会社を辞めると言い出した。これに対し同所長はおだやかにそれを制して奥さんとも相談するようさとしたが、同人が夜また来てくれと言うので、夜再び赴くことにした。そして同日夜、同所長は再び村上方を訪れたが、同申請人は夫婦そろって退職の意向を表明し譲らず、加えてその手続も同申請人が翌日被申請人会社に出向いてなすということまで決まってしまった。

(四) そして同月八日、同申請人は印鑑を持参して出社し、被申請人会社において、同日付の退職届を自筆で作成して署名押印のうえ中村所長に提出し、被申請人は直ちにこれを受理し、もって被申請人と同申請人との労働契約は合意解約された。

3  申請人相川の退職について

(一) 同申請人は申請人村上の義弟であるが、同年四月一三日申請人村上が前記退職に伴う手続のため被申請人会社に出向いてきた際、同人は中村業務部長に対し、義弟の相川が会社を辞めるといってきかないので部長からも辞めないよう説得してほしいと依頼した。そこで業務部長は翌一四日に申請人相川と面接して説得したが、同申請人は確たる理由はないものの、これ以上勤務しても面白くないので四月一杯で辞めると言い張って説得に応じなかった。

(二) 同申請人は、右に先立ち同月一二日に他の四名の者と社友組合を脱退しており、このため同組合は被申請人に対し、同申請人を含む脱退者五名につき、昭和五六年四月一二日締結のユニオンショップ協定に基いて解雇するよう要請する予定である旨連絡してきた。

これを知った中村業務部長は、同申請人は四月末日で退職の予定であり、すでに退職の決った者を解雇するのは忍びないので、同申請人について退職するまで見逃してくれるよう社友組合へ依頼した。そこで同組合は、同月一八日同申請人を除いた他の四名についてのみ解雇措置の履行を求めてきたが、その数日後、社友組合としては同申請人の辞職の意思を確認できないとして、同人についても他の者と同様解雇するよう要請してきた。

(三) そこで中村業務部長は、同月二一日同申請人に対し、右の旨を告げて同人の考えを質したところ、同人は退職の意思は変らないが四月中は勤務したいとのことであり業務部長としては困惑し、態度を決めかねていたが、同人は四月一杯でやめるも今日やめるのも同じだから今日やめますと自ら申出た。それを受けて同業務部長は、社友組合には同申請人に対する措置を撤回するよう求め、円満退職の取計をする旨提案し、同申請人もこれを諒承した。そして、同申請人は直ちに同日付で退職届を自筆で作成し、署名のうえ指印して中村所長に提出し、被申請人はこれを受理し、よって同申請人と被申請人間の労働契約は同日付をもって合意解約された。

4  申請人村上、同相川の合意退職に関する強迫、詐欺の主張、退職の意思表示撤回の効果に関する主張、申請人らに対する不当労働行為の主張は否認する。

第三当裁判所の判断

一  申請人村上、同相川について

1  本件疎明資料及び当裁判所の審尋の結果を総合すると次の各事実を認めることができる。

(一) (当事者等)

(1) 被申請人は、砕石の販売及び炭酸カルシウム(通称タンカル)の製造販売ならびにLPガスの輸送を目的とし、従業員約七〇名を擁する合名会社であるが、被申請人代表者の実弟等が経営する開発、サンエス工業株式会社、中村商事株式会社等の関連会社があり、被申請人を中心としてひとつのグループを形成している。

(2) 申請人村上は昭和四四年一一月ころから、同相川は同四五年ころから、同飛は同五六年一月五日から、いずれも被申請人会社において運転手として雇用されていたものであるが、申請人村上は同年四月八日に、同相川は同月二一日にそれぞれ退職届を提出したものであり、同飛は同月二三日に従業員としての適格を欠くものとして試用期間中の解雇処分をうけたものである。

(3) 被申請人会社には、本件当時、中村産業社友組合(現在の中村産業労働組合、但し後記(二)記載の組合とは別のもの、以下単に社友組合という。)及び全日本運輸一般労働組合博多地域支部中村産業分会(以下単に運輸一般労組という。)の二つの組合が存し、申請人らはいずれも運輸一般労組員である。

(二) (中村産業労働組合結成とその解散)

被申請人会社には当初労働組合は存しなかったところ、労働条件の改善等を求めて、昭和五五年一一月一日、従業員真子勝憲、申請人村上ら主導のもとに運転手約四〇名が参加して中村産業労働組合を結成し、真子が委員長に、申請人村上が副委員長に就任した。そうして、翌二日、全国一般合同労働組合(田川支部)に加入した。

被申請人は右組合の結成を知り、幹部の真子らに対し組合結成の意図を問いただす等露骨に組合結成に対する反感の意を表明し、業務部長中村義道(被申請人代表者の実弟、以下単に業務部長という。)をして組合との折衝にあたらせた。

当時被申請人会社には、社長は別として、他は管理職を含むほとんどの社員の加入する社内の親睦団体である中村産業友の会(以下単に友の会という。)が存していたが、業務部長は真子及び申請人村上に対し、右友の会から管理職が脱退するなど会社との交渉権をもつ団体に改組して従業員の要望を取り入れる旨申し入れて組合の解散を迫り、また、友の会会長田中征二(運転手)、課長岩田智明、係長谷崎義行ほか同会の幹部らは個々の組合員宅を個別に訪問するなどして組合からの脱退及び改組された友の会への加入を求めて回った。このため組合としては、地区労に相談して地労委に対する救済命令申請手続をしたり、会社への団交申入ならびに抗議行動等を行い、組合に対する介入をやめるよう求めたが、相次いで組合員が脱退していった。

そして、同月二二日、第三回臨時組合大会が開かれ、これに業務部長も出席していたが、委員長真子はあらかじめ組合役員にはかることなく突然に組合を解散し、委員長を辞任する旨表明し、同月二四日には同委員長名での組合解散声明が掲示された。このため同組合は結成後わずか二〇日余りで事実上解散の状態に陥った。

(三) (運輸労組の結成とその壊滅)

(1) その後、業務部長の主導のもとに、友の会を改組した企業内組合結成へ向けて準備会が設けられ、同年一一月末ころから数回にわたり規約作り等のため会合がもたれ、これには、真子、申請人村上及び前記友の会の役員らのほか、業務部長ならびに所長中村稔(現在の開発代表者、当時取締役所長であり、事業所の所長という意味で所長と通称されていた。以下単に所長という。)らが出席していたが、そのころ直ちに中村産業社友会として発足した。(但し、正式な結成は昭和五六年一月一五日である。以下社友会という。)

(2) しかし、申請人村上は、社友会が会社の庇護と指導によるものであって真に従業員の利益を守るものとはなり得ないものと考え、自らあらためて組合を結成すべく運輸一般労組福岡地方本部書記長山崎貢の指導を受けて秘密裏に準備をすすめ、同年一二月一二日に申請人村上ほか六名が同労組に個人加盟してさらに加盟者を募り、翌五六年一月一一日、社友会の正式発足に先んじて同労組田川地域支部中村産業分会(同年三月四日に現名称に変更)を組織し、同申請人がその委員長に選出された。組合員数二二名であった。申請人相川は同村上と当初から行動を共にした最初からの組合員であり、同飛は同年一月二一日に加入した。なお、被申請人に対しては組合員数の増加を待って通告することとし、組合員数が約三〇名に達した同月二一日にその結成の通告と、合わせて団交の申入をした。

(3) 右のとおり運輸一般労組はその結成通告をした右同日から表立って活動を開始し、被申請人から同年二月一〇日前後に団交申入れに応ずる旨の回答を得ていたが、その直後から社友会会員らの激しい脱退工作が始まった。同会は表向きは社友会員の獲得を標榜しつつ個々の組合員宅を訪問しあるいは夜間電話するなどしてその脱退を求め、このため会社内は完全に二分した険しい対立状況を呈するなかで運輸一般労組員らは次々と脱退するに至った。その間被申請人は、組合の抗議に対し、社友会のすることは会社とは関係がないとの態度をとり続けた。

他方業務部長は、同年二月一二日ころ伊田の飲食店味よしに申請人村上を呼び「運輸一般の目的は会社を倒産させることだ。」「上部団体をかえよ。」などと申入れ、「同盟系なら社内全従業員での加盟を認める。」とも述べた。また業務部長は、さらに同月一六日にも、レストラン赤い河において、申請人村上に対し、組合を解散させるべく組合員全員を脱退させるよう重ねて要請するとともに、同申請人個人について、五月発足予定の新会社で採用するからひとまず退職するよう持ちかけた。

同申請人は、会社内の険悪な雰囲気の中で運輸一般労組員らの利益の擁護と業務部長の働きかけの板ばさみとなって精神的に追いつめられた状態になり、心身ともに疲弊していたが、その対立を解消し、現状を打開するためには、運輸一般労組傘下の現組合を解散するもやむなしとの心境に至り、業務部長に対し、基本給のアップ等労働条件の改善ならびに現在の運輸一般労組員である従業員に対する不当な差別をしない等の条件を呈示し、これらを受け入れてもらったうえで業務部長の意向に応ずることを決意した。

そして、業務部長がこれを承諾し、不当差別をしない旨の念書(<証拠略>)を差し入れたので、同申請人は当時残っていた運輸一般労組員約二〇名位を個別に説得して脱退するよう求め、その結果、同月一九日にはほとんどの者の脱退届を、翌二〇日には同申請人の行動に疑問を感じ脱退を拒んでいた小池ら三名の脱退届をとりつけ、これを業務部長に提出した。集った組合員らの脱退届は、その後宛名が違うということで更に書きなおして同様業務部長がとりまとめ、運輸一般労組福岡地方本部あて送付した。ここにおいて運輸一般労組傘下の中村産業分会も解散のやむなきに至った。(しかし、小池、江藤、玉江、申請人飛の四名は同月二一日に、木本は同月二五日に、再び運輸一般労組に再加入し、以後いわゆる地下活動を継続している。)

(四) 以上の業務部長、所長らの行動、友の会ないし社友会に属する者たちの行動が被申請人の意思と無関係に行われたものとはとうてい理解し難く、前記認定の如き組合又は組合員に対する働きかけは、被申請人がその従業員による自主的労働組合の結成を嫌い、労働組合の結成・運営に対し支配介入を行ったものと認めるのが相当である。

(五) (申請人村上の退職届提出)

(1) 同月二一日、会社内の前記各組織をすべて解消し、管理職を除く全従業員を構成員とする中村産業社友組合が結成され、谷崎係長がその委員長に選出されていたところ、同月二四日、業務部長は申請人村上に対し、前記退職の件を重ねて勧め、「これからは会社のスケジュールに合わせてほしい」、「真子も退職届を書いている。」旨申し向け、真子の退職届を示して退職届を書くよう求めた。このため同申請人は、五月発足予定の新会社に採用するとの業務部長の言を信じて退職することを決意し、その場で直ちに退職届を書いて業務部長に提出した。しかし右退職については前記山崎書記長や本件訴訟代理人である登野城、江上の両弁護士らと相談のうえ、両代理人に依頼してその撤回を申し入れ、被申請人もこれを承諾した。

(2) ところで、同年三月二五日、前記社友組合の第一回臨時総会が開かれ、被申請人申入れにかかる「合意事項」の討議が行われた。右合意事項は、<1>被申請人と社友組合との間にユニオンショップ協定を締結すること、<2>スト予告期間を三〇日とすること、<3>ローリー運転手はストライキに参加しないものとすることを含むものであったが、これに出席していた申請人村上は、<1>については社友組合が真に組合員の利益を擁護しうるか否か不明であって、現時点では時期尚早である旨、<2>については期間が長すぎ、三日程度が相当、<3>については到底容認しがたいものとして、強くこれに反対した。その結果、右提案は否決され、逆に、ユニオンショップの件は秋ころまで棚上げする、スト予告期間を三日とする、ローリー運転手のストライキ不参加協定の締結はこれを拒否する旨の決議がなされた。

(3) これより以前の同月一七日ころ、申請人村上は業務部長から、五月発足の新会社の件は、被申請人会社の砕石部門を開発に移行させるものであること、ならびに、一定の資格者に対して中古のダンプカーを払い下げ、独立して継続的に開発の下請をしてもらう計画であることを知らされていた。同申請人は右移行の件は納得し難いもので計画の延期等を求めようと考えたが、そのためにも開発の営業状態を知っておく必要があるものと考え、同年四月一日、開発の女子事務員長尾洋子に対し、電話でこれを問い合わせた。

同女は昭和五五年一〇月に開発に採用されたものであるが、開発においては昭和五六年四月一日付で谷崎係長の娘が事務員として新しく採用されており同女は関連の中村商事の経営するガソリンスタンドへの転属を命ぜられていたものの、これが不満であったため事務引継が終了次第開発を辞めることを考えていた。そこで同女は申請人村上の問い合せに対し、自分が入社した時に比べ出荷量が増加していることを教えるとともに、同申請人に対し右退職の気持を打ちあけて相談した。申請人村上はその後同女と直接合うなどして退職を思いとどまるよう説得していた。

(4) ところが、同月五日、同申請人は所長から突然の呼出しを受けた。同所長は現在の開発の代表者であり、当時から開発の業務全般を掌握していたものであるが、申請人村上に対し、同申請人の前記行為が長尾を退職に至らしめたとして、その責任を強く追及した。所長の言い分は、同女は同申請人から業務秘密をもらすよう頼まれやむなくこれを教えたものの、今後も協力するよう求められ同申請人が怖くなり、また会社の業務内容を口外したことに道義的責任を感じたため退職することを決意した、というものであったが、同申請人としては、同女の真の退職理由とは異なるものと思い、同女を交えて話しをしたい旨要望した。

そこで翌六日、申請人村上は、会社応接室において、所長、業務部長とともに長尾と面談したところ、所長は一方的に同女の退職理由を前記のとおり述べて、同女に確認を求め、同女はこれを認める旨返事した。申請人は、同女と二人で話をさせてほしい旨求めたが所長らに入れられず、その対応に苦慮し、考える時間がほしい旨言ってその場を辞した。

翌日、同申請人はいったん会社に出勤したものの配車予定が取消されていたので当日から三日間休暇をとって考えることにし自宅に戻ったところ、午前八時四〇分ころ、所長が訪れ、長尾退職の件の責任をとって退職するよう申し向け、同日午後九時ころ再び訪れて、午後一二時ころまでの間重ねて退職するよう迫った。所長は明日会社に来るよう指示したので翌同月八日午前八時半すぎころ、同申請人は会社に出向いて所長と会ったところ、所長から再び退職届を提出するよう求められ、その場に用紙を出して書くよう言われたため、もはややむを得ないものと思いつめ、退職届(<証拠略>)を作成し自署のうえ押印してこれを所長に提出した。

(六) (申請人相川の退職届提出)

(1) 同月一二日、再び社友組合の臨時総会が開かれ、前回否決されたユニオンショップ協定締結等の案件が再度審議され、業務部長自ら出席してその趣旨を積極的に述べ、結局被申請人申入れの合意事項がそのまま可決された。前記のいわゆる地下活動をしていた運輸一般労組員玉江はすでに第一回臨時総会の席でこれに反対して社友組合を脱退していたが、その余の小池、江藤、木本、申請人相川の四名は右合意事項が可決されるに先立っていずれも社友組合を脱退した。

(2) 社友組合は、右合意事項可決により同日被申請人会社との間でユニオンショップ協定を締結し(<証拠略>)、被申請人に対し、同月一八日に申請人相川を除く四名について、同月二一日に申請人相川についてそれぞれ社友組合を脱退したものである旨通知した。

(3) これを受けて、被申請人は同月二一日午前中に小池ら四名をユニオンショップ協定に基づき解雇した。同日午後、申請人相川は業務部長に呼ばれ、同日付で社友組合からの脱退通知が来ていることを示して、社友組合に戻るか、解雇されるかの二者択一を迫られた。同申請人としては、小池らが解雇されたことに動揺し、なかば投げやりの気持から差し出された用紙に退職する旨自筆で作成し、指印して、これを居合せた所長に提出した(<証拠略>)。

なお、右小池ら四名は、右解雇は無効である旨主張して福岡地方裁判所田川支部に地位保全等の仮処分を申請し、同年七月一三日、同裁判所はこれを認める仮処分を決定し、被申請人もその後の地労委の仲介等を経たのち、結果において右仮処分決定に従い、同年八月末日右解雇を撤回し、右小池らはいずれも本案訴訟を待つことなく職場に復帰している。

(七) (同申請人らの退職の撤回)

申請人村上、同相川の退職届提出は、いずれも被申請人の退職要求に対する承諾の意思表示と認められるが、申請人村上は、同年四月一八日に、同相川は同月二二日に、被申請人に対し、それぞれ各退職を取消す旨記載した同日付の内容証明郵便を出し、これはそのころ被申請人に到着した。

2  申請人村上の本件退職の無効

同申請人の本件退職届を提出するに至った直後の原因は右認定の如く開発の事務員長尾洋子の退職問題にあるのでまずこの点について検討するに、被申請人は長尾退職の真相は、同申請人の協力要請にあり、このため同女をして苦境に立たせ、また業務秘密を口外したことによる自責の念にあり、被申請人が同申請人に対し、その責任を追及したことは相当の措置であって、同申請人も自発的にその責任をとって任意に退職したもので、右退職には何らの瑕疵もない旨主張している。

しかしながら、疎明資料によると、長尾退職の事由は、前認定のとおり転属に対する不満にあったものと認められる。ただ、同女としてはこれを正面から言うことをはばかり、業務部長に対したまたま起った同申請人の行為を持ち出したことは考えられる。そうして、業務部長においてこれを真に受けたと考える余地がないではない。しかしそうであれば人事等会社業務の管理者としては、その事由が退職もやむを得ないほどのものであるかについて、その漏えいした事項を問い質したうえ、その内容を吟味して退職届を受理すべきか否か検討するのが通常であるにも拘らず、その内容及び影響等について充分検討した形跡はうかがえず、また、同女が開発における業務秘密に深くたずさわっていたことも認められないところであり、同女が同申請人に教示した内容は、単に業績が上向いているという極めて抽象的なことであって、何ら開発の業務に支障を及ぼしうるものとは考え難い。

以上のようにみて来ると、業務部長らの右行為は、同人らが前記のように社内における各組合結成に際してとった行為を切り離して無関係には論じ得ないものというべきである。即ち、同申請人は、被申請人会社における最初の組合である中村産業労組以来、終始一貫して組合の指導的立場にあったものである。被申請人は前認定の如く労働組合の結成・運営に対して支配介入を行って来たものであり、その正当な組合活動の故に申請人村上を嫌っていたものと認められ、とりわけ被申請人の主導によって結成されたものと認めるべき社友組合において、被申請人提案のユニオンショップ協定締結等の案件が同申請人の反対によって否決されたことによって被申請人としてこの対応に苦慮したことは推断に難くない。

以上の諸点ならびに前認定の本件退職に至る全体的経緯を総合すると、被申請人は偶発的な長尾退職問題を巧みにとらえて、従前から業務部長の働きかけに動揺し、精神的にも相当疲弊していたと思われる同申請人を退職させるべく、これを利用したものと認められ、そして、またこれが組合活動の中心的存在であった同申請人を会社から排除しようとした被申請人の意図に基づくものと認めるのが相当である。

なお、被申請人は、同申請人作成の退職に伴うあいさつ文をもって、その退職の自発性、積極性を裏づけるものと主張するので検討するに、なるほど右あいさつ文には、長尾退職の責任をとって退職を決意した旨の記載がある。しかし、右あいさつ文は本件退職届を提出した後に作成されたものと認められるところであって、退職に至る事情はともあれ、一応自ら退職届を提出してしまった以上、もはやなすすべもないものと思い込みこれまでの自己の組合活動を回顧して各組合員であった者に対し、同申請人なりの感慨を起草する心境に至っても不自然ではなく、これをもって退職に至る前認定の諸事情を左右しうるものとはいい難い。

以上論述したところによると、本件においては同申請人と被申請人間に退職についての合意が存するとしても、右合意は被申請人が不当労働行為意思のもとに長尾問題をとらえて申請人村上に退職を求め、その退職届(雇傭契約関係解約の承諾)をひき出したもので、右被申請人の行為が、たとえ取消事由としての強迫もしくは詐欺に該当する程度のものとまではいえないものであっても、同申請人の意思決定に不当な影響を与え、その真意に反した承諾をなさしめたもので、このような方法で雇傭契約関係を終了せしめる行為は、労働組合法七条の解釈適用については実質上解雇に等しい不利益取扱いとして不当労働行為に該当し、無効といわざるを得ない。

3  申請人相川の本件退職の無効

同申請人が退職届を提出したいきさつは、前述のとおりである。ところで前記の如く、被申請人は、従業員による労働組合の結成・運営に介入して来た。

そうして、申請人相川は、前記のように社友組合が、被申請人とユニオンショップ協定を締結するに先立って同組合を脱退したが、その前から全日本運輸一般労働組合に所属していたもので(<証拠略>)、右ユニオンショップ協定の効力は及ばないものであった。

そうして、同申請人の本件退職については、これに至る被申請人の行為をもって民法上取消し得べき強迫又は詐欺行為があったことを認めるに足りる疎明資料は右しないが、同申請人が退職を決意した動機は前認定のとおり、被申請人から、本来自己に効力の及ばないユニオンショップ協定を理由に意に反する社友組合への復帰か、あるいは、解雇されるかの二者択一を迫られたことにあり、合意とはいうものの意に反する退職であったことはいうまでもない。

しかも被申請人は、前記の如く従業員が自主的に労働組合を結成し運営することを嫌い、労働組合の結成・運営に支配介入した事実があり、社友組合が結成されてからは、被申請人側から申入れて同組合と三〇日間のスト予告条項、ローリー運転手のストライキ不参加条項と共にユニオンショップ条項を含む協約を締結し、右組合に属さない従業員を事業から排除しようとした。そうして右組合は、全日本運輸一般に属する組合が被申請人の介入による組合員脱退で消滅した後、社友会員らとあわせて結成された組合で、申請人村上が退職した後頃から特に被申請人の強い影響下におかれていたと認められる。

してみると、被申請人が申請人相川に退職を求める理由となったユニオンショップ協定は、本来同申請人に効力が及ばなかったことに加え、前記認定の事実にてらすと、被申請人の前記支配介入が成功して、全日本運輸一般労組に属する労働組合が一応消滅した結果を保持するため、被申請人が申入れ、締結されたものと認められる。このような事情のもとになされた本件退職の合意を有効とすることは、労使間の信義則に反し、公序良俗に反するものといわなければならない。

よって、申請人相川の本件退職も無効である。

二  申請人飛について

1  本件疎明資料及び各審尋の結果を総合すると次の事実を認めることができる。

(一) 同申請人は昭和五六年一月五日被申請人に運転手として採用されたが、当時、被申請人においては昭和五一年四月一日施行にかかる就業規則が適用されており、同規則五条には、「新たに採用された従業員に対しては六〇日間の試用期間をおく。この期間、業務に不適当と認められた時は解雇できるものとする。」旨規定されていること。

(二) 同申請人は、採用後タンカル車運転の仕事に従事していたが、タンカルは現場への搬入時間につきその遵守が厳しく要求されており、このため被申請人としては予め会社出発時刻を定めて配車の予定をたてていたところ、同申請人はその配車予定時間に違反することが多々あったこと。

(三) そのため、同申請人の直属の上司である業務部営業課長岩田智明はその都度注意を与えていたが、なおも同申請人の勤務態度が改まらないとして、昭和五六年一月末日ころ業務部長に対しその旨報告し、本採用しない旨上申したこと。

(四) 右上申を受けた業務部長は、解雇もやむを得ないものと判断し同年二月末日をもって解雇する旨同申請人に予告するよう命じ、同日岩田課長はこれを同申請人に伝えたこと。

(五) 同年二月二八日ころ、業務部長及び岩田課長は同申請人に対し、会社応接室において前記予告どおり解雇する旨言い渡した(以下第一次解雇という)ところ、同申請人は継続して雇用してほしい旨懇請したので、業務部長は同人の家庭的事情等を考慮したうえ、今後配車予定を遵守するよう説ゆして右解雇を撤回したこと。

(六) その後同年四月二三日ころ、前記のとおりユニオンショップ協定を理由に被申請人から解雇された運輸一般労組員小池らがこれを不当として就労要求にきた際、同申請人は業務部長の指示に従わずに右小池らを支持してこれに加わったため、被申請人は翌二四日同申請人に対し直ちに解雇する旨通告した(以下本件解雇という。)こと。

(七) なお、被申請人は、第一次解雇の前後を通じて各種保険等の取扱を継続して行い、その間に間断がなく、前記社友組合の関係においても、同組合規約によると試用期間中の者は組合員となれない旨規定されているにも拘らず同組合の結成された同年二月分及び三月分について組合費徴収事務(いわゆるチェックオフ)が行われている。(但し、被申請人は三月分については誤りであるとして同年四月二一日に返還している。)

2  ところで、被申請人は、第一次解雇により同申請人との当初の労働契約は有効に解雇(ママ)されたが、同申請人の懇請を特に入れて、再び同人を試用することになったもので、本件解雇はその二度目の試用期間中における勤務成績の不良のため業務に不適当と認めたものである旨主張する。

しかしながら、いったん解雇した後日時的には継続してあらためて再試用することは労働者をして長期にわたり試用期間という不安定な地位におくことになり、労働者にとって身分上重要な事柄にかかわるものであるから、その前提たる解雇の相当性はもとより、労働者をしてこれを甘受するもやむを得ない合理的理由が必要であり、また手続上もこれを了知させるに足るだけの明確性が要請されるべきものというべきである。しかるに本件においては前認定のとおり第一次解雇の前後を通じて同申請人に対する各種保険の取扱について何ら手続上の変動のないこと、また組合費のチェックオフも引続きなされたこと、さらに、業務部長中村義道は同申請人に対し、今後いかなる違反があってもその場でただちに解雇する旨厳しく申し渡した旨述べるところであるが、被申請人提出の疎明資料によると、同申請人は三月中も従前と同様配車予定に従わず、課長らにおいてたびたび注意を与えるにも拘らずその態度が改まらない旨記されているところであるのに、これをとらえて直ちに同人を解雇するに至っておらず、解雇の直接の契機が前記認定のとおり運輸一般労組員らとのトラブルにあることなどを合わせ考えると、前認定のとおり被申請人は第一次解雇を撤回したものと認めるのが相当である。

なお附言するに、試用期間中における業務不適格を理由とする解雇といえども解雇権の濫用にわたらないよう一定の合理性が必要なところ、同申請人に対する解雇の理由が真に業務不適当にあるのかについて前記認定の諸事情に照らすと必ずしも疑問の余地がないわけではなく、また、同申請人の配車時間不遵守の事跡が、被申請人会社における運送業務全般及び他の運転手の業務状況に比し、特に解雇もやむを得ない程度のものと認めうるかについて、必ずしも充分な疎明があるものとも断じがたい。

以上ともあれ、被申請人は同申請人に対する第一次解雇を撤回したものと認めるのが相当であるから、同申請人は採用後六〇日を経過した同年三月七日をもって試用期間を満了したものというべきであって、被申請人の本件解雇はその前提を欠き無効といわざるを得ない。

三  賃金請求権及び保全の必要性

1  以上によると、申請人らは本件解雇及び退職の翌日以降もいぜんとして被申請人の従業員たる地位を有し、被申請人に対し賃金債権を有するものというべきところ、疎明資料によると被申請人の給料支払日は毎月二〇日であり、申請人らの本件解雇及び退職前三ケ月の各賃金額は次のとおりであることが認められ、その平均月額は別紙賃金目録A欄記載の各金員(但し申請人相川は、一八万五、二七六円)となる。

<省略>

ところで、申請人らは解雇または退職した四月分については、申請人飛について金一三万四〇九六円、同村上について金四万円、同相川について金一三万円を各受領していることを自認するところであるので、これを各平均月額から差し引くと別紙同目録B欄記載の各金員(但し申請人相川は五万五、二七六円)となる。

2  疎明資料及び審尋の結果によると、申請人らはいずれも賃金を唯一の資とする労働者であって、被申請人から右賃金の支払を受けられないまま本案判決の確定を待っていては回復し難い損害を蒙むるおそれのあることがうかがわれるから、保全の必要性が認められる。

3  なお申請人らは被申請人に対し就労を妨害しないよう求めるところであるが、この点については具体的な就労請求権を首肯し得ず採用できない。

四  以上の次第で、爾余の点は判断するまでもなく申請人らの本件仮処分申請は、申請人らにつき夫々雇傭契約上の権利を有する地位にあることを仮りに定めること、前記認定の限度ですくなくとも本案判決言渡しまでの賃金仮払いを求めること(その後の賃金については必要性についての疎明がない)、の限度で、相当としてこれを認容し、その余は被保全権利の疎明を欠くか必要性の疎明がないのでこれを却下することとして、民事訴訟法第八九条、第九二条を適用し主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡野重信 裁判官 郷俊介 裁判官 德永幸藏)

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