福岡家庭裁判所 昭和34年(家イ)579号 審判 1960年4月04日
申立人 田宮美保子(仮名)
相手方 川上茂(仮名)
主文
一、相手方は申立人に対し金一〇万円を昭和三五年四月以降毎月末日限金一、〇〇〇円宛を申立人方へ持参又は郵送して支払うこと。
二、相手方において若し上記分割支払を三回以上遅怠したときは分割支払の利益を失い残額を一時に支払うこと。
三、本件手続に要した費用は全部相手方の負担とする。
理由
申立人は申立の趣旨として相手方に慰藉料一〇万円の支払を求めこの実情の要旨とするところは申立人は昭和二一年三月朝鮮から熊本県天草に引揚げ同年四月福岡県八女郡長峰村の傘屋○○方へ傘張兼女中として住み込んだが偶々相手方も同年○月復員し従前の勤務先であつた右○○方へ通勤することになり同年一〇月一七日相手方と婚約をすると同時に肉体関係を生じたのである。然し申立人は天草に老父を残していたので同二二年九月天草の旅館へ替つて働き同二三年四月父が死亡したので同二五年一〇月姉の居住する宮崎市の旅館へ移つた。この間相手方は申立人の許へたずねて来て肉体関係をつづけ申立人も相手方との婚約を信じ数回の縁談も拒否したのである。次いで申立人は同二八年福岡市の姉を頼つて福岡市へ来て旅館「△△」の女中となつたが、相手方から一緒に世帯をもちたいというので申立人は△△をやめて同三一年一二月申立人が、費用を負担して家一軒借受け新世帯をもち相手方は自動車セールスマンの仕事をしていたところ一週間一〇日間という様に家をあけて帰らずその態度にも不審の点があつたので調査したところ相手方は申立人が宮崎市にいた頃既に八女市においてパーマネント業の川上良子と正式に結婚生活に入つていることが判明し申立人は事の意外に驚き相手方に対し自宅へ戻る様に交渉しその交渉は難航したが、相手方の雇主の仲介で漸く同三三年九月九日相手方は申立人に対し慰藉料一〇万円と申立人が事業資金として立替えた九万円計一九万円を支払うことで話がまとまつたのに拘らずこれを履行せず右事業資金九万円については簡易裁判所の和解調書が作成してあつたのでこれに基き動産差押をしたがその妻の兄から第三者異議の訴を提起されその執行が阻止せられている。結局申立人は相手方のため一〇何年間婚約を口実に貞操を弄ばれ金銭を捲揚げられこれによる精神的苦痛は甚大であるからこれが慰藉を求めるというにある。
仍て本件調停の経過及び本件記録の資料によれば相手方は当裁判所調停委員会の数回の呼出に応じない(特に調査官による出頭勧告に対し以後呼出に応ずる旨答えながら呼出に応じない)ので当事者間に合意成立の見込がないのであるところ申立人と相手方との紛争の状況は概ね申立人の述べることが真相と認められ従つて相手方は申立人に対し相当額の慰藉料を支払うべきものといわなければならない。
而して右慰藉料の数額及びその支払方法については上記の事情と前記資料によつて認められる相手方自身の収入の程度、相手方の生活費がその妻から支給せられる事実その他一切の状況を綜合して相手方は申立人に対し慰藉料一〇万円を昭和三五年四月以降毎月末日迄に申立人方へ持参又は郵送して支払うべく更に相手方の性格から考えて右分割支払を三回以上怠つたときは分割支払の利益を失い残額一時に支払う特約を附するのが相当と思われるので主文のとおり審判するものである。
(家事審判官 山田市平)