福岡家庭裁判所 昭和40年(少イ)2号 判決 1965年4月23日
被告人 中村千秋
主文
被告人を罰金二万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金五百円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は、被告人の負担とする。
理由
(罪となる事実)
被告人は、ストリップ劇団カジノフォーリーを主宰していたものであるが、当時被告人と内縁関係にあつた笹谷賀世もストリップ劇団エロス艦隊の太夫元をしており踊り子の採用補充方を望んでいた折柄、前田恭平が劇団員に採用方を被告人に求めてきたのを奇貨として、同人を介して前示エロス艦隊の踊り子を採用しようと考え、昭和三九年二月一六日午後七時頃北九州市小倉区米町八丁目つるや旅館において、被告人の芸団員光橋資夫及び前示前田恭平と共謀して、児童である○馬○○子(昭和二一年一一月二三日生)及び○本○○美(昭和二二年三月一七日生)の両名に対し、別府、神戸を経て東京方面への旅行に同行するよう交々勧誘する一方、将来沖繩舞踊に出演せしめる計画もあるなど、甘言をもつてこれが同行を承諾せしめ、前示笹谷が、法定の除外事由がないのに、両児童をエロス艦隊ストリップ劇団の踊り子として雇い入れ、地方巡業のストリップショウに出演させて児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもつてその支配下に置くものであることの情を知りながら、同日以降右両児童を別府市、神戸市を経由して浜松まで同行し、同月二一日午後一時過頃浜松市千歳町一〇八番地浜松座小劇場において、両児童を右笹谷賀世に引渡したものである。
(証拠の標目)<省略>
(法令の適用)
児童福祉法第三四条一項七号(九号)、第六〇条二項
刑法第六〇条、第四五条、第四八条二項、第一八条
刑事訴訟法第一八一条一項本文
尚、弁護人は、前示児童福祉法第三四条一項九号の規定は明確を欠き、罪刑法定主義乃至憲法第三一条に違背するというけれども、すべて国民は児童が心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない義務を負担している(同法第一条)のであつて、判示ストリップ劇団エロス艦隊が、児童のしゆう恥心を害し、その徳性に有害な影響を与える性質のストリップ興行を目的としているものであることは前顕証拠上明白で、斯様な劇団の踊り子に児童を採用し入団せしめて各地巡業に同行することは、バー、カフエーなどの住込女給として雇用する場合と同様、前示三四条一項九号にいわゆる支配下に置く場合に該当し、これが処罰を免がれないことはまことに明らかである。従つて、弁護人の論旨は採用の限りでない。
殊に、被告人は昭和三九年一月二〇日(二月四日確定)大阪家庭裁判所において、児童福祉法違反の同種犯罪により懲役四月、二年間執行猶予に処せられたのに拘らず、更に本件犯行に及んだもので、情状酌量すべきものはない。
そこで主文のとおり判決する。検察官瀬口猛出席
(裁判官 厚地政信)