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福岡家庭裁判所小倉支部 平成11年(家)987号 審判 1999年12月01日

申立人 ●●児童相談所長 A

事件本人 B

事件本人 Bの親権者父 C

主文

申立人が事件本人を児童養護施設に入所させることを承認する。

理由

第1申立ての要旨

(1)  事件本人B(以下「B」という。)は、事件本人C(以下「父C」という。)とD(以下「母D」という。)の長女として出生したが、父母は、平成9年6月9日離婚した。

(2)  その後、Bは、平成10年7月1日、父Cの同意を得て○○ホームに措置入所した。

なお、Bの弟E(別件の平成11年家第988号事件の事件本人)は、すでに同年6月15日、同様に○○ホームに措置入所されていた。

(3)  父Cは、Bが同ホームに入所中、夜遅く面会したり、頻繁にかつ長期の外泊をさせたり、いじめを疑って同ホーム職員に激しく抗議したりしていたが、平成11年8月11日、5日間の外泊許可を得て、弟EとともにBを○○ホームから自宅に引き取った。

ところが、同月16日、父Cから○○ホームに「Eがケガをした。」という電話連絡が入り、同人の身体を調べたところ、右鎖骨骨折や右頬打撲、性器先端部の腫れ・出血があったため、同ホームではEを●●児童相談所に移送し、Eは児童福祉法33条により緊急一時保護された。そして、Eは、同月19日から30日まで甲病院で入院治療を受けた。

(4)  父Cは、児童相談所の外泊許可に反して、同月16日からはBを同ホームに戻さず、昼間だけホームに預け、同月25日からはそれもせずにBを自宅に留め置き、児童相談所との連絡も絶ってしまった。

そのため、児童相談所は、同年8月29日、父Cと協議したが、Bの○○ホームへの帰所を拒否した。なお、その際、Eについては、同人に対する暴行等を否定し、Eの引取を強硬に主張した。

(5)  児童相談所は、その後、Bの生活状況を調査したところ、父Cは、Bを自宅で監禁状態に置いており、父Cが出勤して自宅にいない間はほとんど訪れる人もないこと、父Cは深夜帰宅することもあり、その間、Bは外出することもなく、自宅である市営アパート5階の窓と窓枠の間を行き来して転落の危険のある行動を示したことが判明したため、同年9月14日、児童福祉法29条に基づき立入り調査を行い、同法33条によりBにつき緊急一時保護をするとともに、Bの○○ホーム入所措置を解除した。

(6)  Bは、これまでに父Cから身体的心理的虐待を受け、弟への身体的虐待を目の当たりに見てきたため、父Cによる心理的暴力的支配の下にあり、心理的な統制を受けていて、今後、放置すると、外傷後ストレス障害に発展する可能性がある。

(7)  このまま放置することは、Bの健全な育成をそこなうばかりでなく、児童福祉法上許容することのできない行為と認められるので、児童福祉法28条1項を適用するため、主文掲記の措置の承認を求める。

第2当裁判所の判断

本件記録によれば、以下の事実が認められる。

(1)  Bは、平成○年○月○日、父C(昭和○年○月○日生)および母D(昭和○年○月○日生)の第1子長女として出生したが、母Dが平成8年10月ころ家出したため、弟Eとともに、父Cと父方祖母Fに育てられ、乳児保育所に通っていた。その後、父Cの要請により、養育困難を理由に、平成8年12月と平成9年1月、児童相談所に一時保護されるも、父Cの翻意によりすぐ自宅に引き取られるなどのことがあったが、祖母が高齢で養育が困難となったため、平成10年7月1日、父Cの措置願書を得て、○○ホームに措置入所された。

父Cと母Dは、その間の平成9年6月9日、BとEの親権者を父Cと定めて調停離婚した。また、母Dは、平成11年6月17日、再婚して1子をもうけた。

なお、Eは、平成8年11月1日、乳児保育所に預けられたが、父Cによる身体的虐待等がおきたので、平成9年1月24日、○○乳児院に措置入所され、平成10年6月15日には父Cの同意を得て○○ホームに措置変更された。

(2)  Cは、Bが同ホームに入所中、夜遅く面会したり、朝食前に来て自分の持参したお菓子、ジュースを与えたりして、共同生活の規律を無視する行為をし、また、自由な時間に来て頻繁にBに面会し、平成11年1月には強引に引き取って約1ヶ月間一時帰省をさせ、あるいは同年5月から約3ヶ月の間に19回にわたって1ないし3泊の一時帰省をさせるなど、Bに対する同ホームの養護への影響について配慮に乏しく、親権者として不適格な態度をくり返し、さらには、要求事が多く、いじめを疑ったり、ささいなことから同ホーム職員に激しく抗議し、弁護士に訴えるなどと他罰的・攻撃的言動を重ねて、紛争を起こしたりしていた。

(3)  父Cは、平成11年8月11日、5日間の外泊許可を得て、EとともにBを○○ホームから自宅に引き取った。

ところが、同月16日、父Cから○○ホームに「Eがケガをした。」と電話連絡が入り、同人の身体を調べたところ、右鎖骨骨折や右頬打撲、性器先端部の腫れ・出血などがあったため、同ホームでは、直ちにEを病院に連れて行き、診察を求めたところ、医師によって、虐待による障害の可能性が大きく、父子分離が必要と診断された。そこで、同ホームは、Eを●●児童相談所に移送し、同日、Eは、児童福祉法33条により緊急一時保護された。同人は、同月19日から30日まで入院治療を受けた。

(4)  前記Eの障害について、父Cは、同年8月29日、児童相談所と協議した際、これは、アパートの自室玄関前の階段踊り場でビニール製プールでEを行水させていたところ、自分が室内にいて目を離した隙に、Eがプールの端から階段を5ないし7段ほど転落してできたものであり、Eの自己過失であると述べて、Eに対する暴行や虐待等を否定した。

しかし、鑑定人Gの鑑定結果によると、性器先端部の腫れ・出血は、父Cの説明する受傷状況と矛盾し、逆に強く包皮を引っ張ったり、何かの物で陰茎を強く挾んだりした身体的虐待によって生じたことが強く推認され、また、右頬の打撲傷は、数日前の損傷であって、平手や手挙などで殴打した身体的虐待によって生じたものであることが最も疑われ、その他の下腹部の打撲傷や大腿部の打撲傷等も身体的虐待が最も疑われる。

(5)  父Cは、児童相談所の外泊許可に反して、同月16日からはBを同ホームに戻さず、昼間だけホームに預け、同月25日からはそれもせずにBを自宅に留め置き、児童相談所との連絡も絶ってしまった。そして、前記の8月29日の児童相談所との協議の際には、Bの○○ホームへの帰所を拒否した。

(6)  児童相談所は、その後、Bの生活状況を調査したところ、父Cは、Bを自宅で監禁状態に置いており、父Cが出勤して自宅にいない間はほとんど訪れる人もないこと、父Cは深夜帰宅することもあり、その間、Bは外出することもなく、自宅である市営アパート5階の窓と窓枠の間を行き来して転落の危険のある行動を示したことが判明したため、同年9月14日、児童福祉法29条に基づき立入り調査を行い、同法33条によりBを緊急一時保護するとともに、Bの○○ホーム入所措置を解除した。

なお、父Cは、その後も、度々、母Fや親戚の女性を伴って児童相談所を訪れ、母らの補助を受けながら養育したいと言って、Bの引き取りを強硬に申し入れ、また、Bを児童養護施設へ入所することや、Bの養育について児童相談所から助言・指導等を受けることについては拒否している。

また、父Cは、審問期日では、Bを児童養護施設へ入所することに同意すると述べるものの、週末に自宅に外泊させることが条件であると述べるなど、Bの福祉に対する配慮に乏しく、かつ容易に翻意してBの引き取りを強硬に主張するおそれが非常に大きい。

(7)  Bは、現在5歳であるが、これまでに父Cの弟Eに対する身体的虐待を目の当たりに見てきたことや父Cの偏跛かつ溺愛の養育態度を反映して、年令より大人びており、子どもらしい表情が少なく、冷めた表情で視線も合わせにくく、感情表出が抑制されていて、情緒的関わりが比較的困難な状態にあり、自発的な行動もとれない。

精神科医師の所見では、希薄な他者との情緒的関係性、軽度の情動鈍麻、軽度の集中力低下・多動傾向、中等度の攻撃的衝動性、低い自己評価による偽成熟言動等が認められ、今後、外傷後ストレス障害(PTSD)に発展する可能性が高いこと、さらなる虐待が続き、健全な自我の発達が障害されれば、将来的に人格障害や解離性同一性障害等の精神障害をきたす可能性があることが指摘される。

(8)  Bは、一時保護所では、児童保育士らによる心理的援助を受け、弟Eその他の児童と生活しているが、職員にも慣れ親しみ、徐々にリーダー性を発揮するなど少しずつ安定しつつある。

今後も、Bに対しては、当面の間は父子分離を図り、父Cによる面会・外泊を制限しつつ、安定した環境の元で、相当の期間専門家による養護を進めるとともに、他方、父Cに対しては、児童相談所の処遇方針に基づき、Bとの親子関係形成のプログラムに参加させ、Bに対する態度の変容ないし自己成長を促す必要がある。

以上の事実によれば、父CによるBの養育はきわめて不適切であって、その健全な育成をそこなうおそれが大きく、このまま放置すると、将来心身への重大な影響が生じるおそれも否定できず、本件においては、Bを父Cに監護させることは、現時点では著しくBの福祉を害するというべきであり、Bの福祉のためには、児童養護施設に入所させるのが相当である。

よって、本件申立てを認容することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 古川順一)

〔参考〕福岡家小倉支 平11(家)988 平11.12.1審判

主文

申立人が事件本人を児童養護施設に入所させることを承認する。

理由

第1申立ての要旨

(1) 事件本人E(以下「E」という。)は、事件本人C(以下「父C」という。)とD(以下「母D」という。)の長男として出生したが、平成8年11月1日乳児保育所に預けられ、父母は、その後、平成9年6月9日離婚した。

(2) しかし、その後、父CによるEに対する身体的虐待が続いたため、●●児童相談所は、児童福祉法27条1項3号により、Eを○○乳児院に措置入所し、平成10年6月15日には、父Cの同意を得て○○ホームに措置変更した。

なお、Eの姉B(別件の平成11年家第987号事件の事件本人)も、同年7月1日、同様に○○ホームに措置入所された。

(3) 父Cは、平成11年8月11日、5日間の外泊許可を得て、姉BとともにEを○○ホームから自宅に引き取った。

ところが、同月16日、父Cから○○ホームに「Eがケガをした。」という電話連絡が入り、同人の身体を調べたところ、右鎖骨骨折や右頬打撲、性器先端部の腫れ・出血があったため、同ホームではEを●●児童相談所に移送し、Eは児童福祉法33条により緊急一時保護された。

Eは、同月19日から30日まで甲病院で入院治療を受けた。

なお、姉Bも同年9月14日児童福祉法33条により緊急一時保護された。

(4) 児童相談所は、同年8月29日、父Cと協議したが、Eに対する暴行等を否定し、本人の自己過失であると述べた上、Eの引き取りを強硬に主張した。

児童相談所は、9月8日、○○警察署に、Eの障害について父Cによるものと被害申告をし、同月14日、姉BとともにEの○○ホーム入所措置を解除した。

(5) このまま放置することは、Eの健全な育成をそこなうばかりでなく、児童福祉法上許容することのできない行為と認められるので、児童福祉法28条1項を適用するため、主文掲記の措置の承認を求める。

第2当裁判所の判断

本件記録によれば、以下の事実が認められる。

(1) Eは、平成○年○月○日、父C(昭和○年○月○日生)と母D(昭和○年○月○日生)の第2子長男として出生したが、母Dがまもなく家出したため、姉Bとともに、父Cと父方祖母Fに育てられ、平成8年11月1日には乳児保育所に預けられた。

父Cと母Dは、その後、平成9年6月9日、Eと姉Bの親権者を父Cと定めて調停離婚した。なお、母Dは、平成11年6月17日、再婚して1子をもうけた。

(2) Eは、前記乳児保育所に預けられていた期間の平成8年11月ころ、背中の小さい傷や鼻の鬱血、左足のふくらはぎの火傷の傷、左頬と右下顎の叩き傷などが保育所職員によって発見され、当時診察した乙病院医師によると、これらは父Cによる身体的虐待と診断された。また、父Cの不適切な養育(いわゆるネグレクト。例えば、ミルクを薄くしたり、砂糖を入れて飲ませたりし、またミルクを飲み残したときは、そのまま残りを口に押し込んで飲ませた。あるいは冬期、上着とタオル一枚で寝かせたため、Eは、同年11月27日、発熱して急性気管支炎に罹り、乙病院に入院した。さらには、Eを高温の風呂に入れたり、泣き叫んだときには懐かないと言って叩いたり、床に放り出したりした。)も判明したため、●●児童相談所は、児童福祉法27条1項3号により、平成9年1月24日、Eを○○乳児院に措置入所し、平成10年6月15日には父Cの同意を得て○○ホームに措置変更した。

なお、Eの姉B(別件の平成11年家第987号事件の事件本人)も、同年7月1日、同様に○○ホームに措置入所された。

(3) 父Cは、Eが○○ホームに入所中の約3年間、10数回面会に訪れたが、Eは父Cを見ると表情が固まってしまうことがあり、また父Cも、平成11年3月22日、面会の際、自分の持参した衣服をEが着ようとしなかったため「自分に親権があるからお前なんかどうにでもなる。パパを侮辱するならお前を捨てるぞ。」などと叱りつけたことがあった。

(4) 父Cは、平成11年8月11日、5日間の外泊許可を得て、姉BとともにEを○○ホームから自宅に引き取った。

ところが、同月16日、父Cから○○ホームに「事件本人Eがケガをした。」という電話連絡が入り、同人の身体を調べたところ、右鎖骨骨折や右頬打撲、性器先端部の腫れ・出血などがあったため、同ホームでは、直ちにEを乙病院に連れて行き、診察を求めたところ、医師によって、虐待による障害の可能性が大きく、父子分離が必要と診断された。

○○ホームは、当日深夜まで父Cから前記Eの診察について抗議を受けたこともあって、Eを●●児童相談所に移送し、同日、Eは、児童福祉法33条により緊急一時保護された。

同人は同月19日から30日まで甲病院で入院治療を受けた。

なお、姉Bも同年9月14日児童福祉法33条により緊急一時保護された。

(5) 児童相談所は、同年8月29日、父Cと協議したが、その際、同人は、Eの傷は、アパートの自室玄関前の階段踊り場でビニール製プールでEを行水させていたところ、父Cが室内にいて目を離した隙に、Eがプールの端から階段を5ないし7段ほど転落してできたものであり、Eの自己過失であると述べて、Eに対する暴行や虐待等を否定した。

しかし、Eには、右鎖骨骨折と性器先端部の腫れ・出血、右頬打撲その他の傷が存在し、鑑定人Gの鑑定結果によると、性器先端部の腫れ・出血は、陰嚢に変色や腫脹などの変化がなく、左右大腿部にも打撲傷や擦過傷などの外傷がない点で、父Cの説明する受傷状況と矛盾し、逆に、これら性器の損傷は、強く包皮を引っ張ったり、何かの物で陰茎を強く挟んだりした身体的虐待によって生じたことが強く推認される。また、右頬の打撲傷は、数日前の損傷であって、平手や手挙などで殴打した身体的虐待によって生じたものであることが最も疑われる。その他にも、下腹部の打撲傷や大腿部の打撲傷等が存在するが、いずれも身体的虐待が最も疑われる。

なお、父Cは、前記協議の際、Eの引き取りを強硬に主張し、その後も、度々、母Fや親戚の女性を伴って児童相談所を訪れ、母らの補助を受けながらEを養育したいと言って、Eの引き取りを強硬に申し入れ、また、Eを児童養護施設へ入所することや、Eの養育について児童相談所から助言・指導等を受けることについては拒否している。

また、父Cは、審問期日では、Eを児童養護施設へ入所することに同意すると述べるものの、週末にはEを自宅に外泊させることが条件であると述べるなど、Eの福祉に対する配慮に乏しく、かつ容易に翻意してEの引き取りを強硬に主張するおそれが非常に大きいことが認められる。

(6) 児童相談所は、同年9月8日、○○警察署に、事件本人Eの傷害について父Cによるものと被害届出をし、同月14日、姉BとともにEの○○ホーム入所措置を解除した。

(7) Eは、現在3才で、知能検査の結果では軽度精神発達遅滞が疑われるものの、一時保護所では、児童保育士らによる心理的援助を受け、姉Bその他の児童と生活しているが、職員の様子を窺って行動し、また甘えからくるわがままを示すなどしながらも、職員にも慣れ親しみ、自己表現も出てくるなど少しずつ安定しつつある。

今後も、Eに対しては、当面の間は父子分離を図り、父CによるEへの面会・外泊を制限しつつ、安定した環境の元で、相当の期間専門家による養護を進めるとともに、他方、父Cに対しては、児童相談所の処遇方針に基づき、Eとの親子関係形成のプログラムに参加させ、Eに対する態度の変容ないし自己成長を促す必要がある。

以上の事実によれば、Eに対して父Cによる身体的虐待が行われた蓋然性が濃厚であり(仮にそうでないとしても、父Cによる養育は、保護の怠慢等が窺われ、きわめて不適切である。)、今後もそのおそれは否定できず、Eを父Cに監護させることは、現時点では著しくEの福祉を害するというべきであり、Eの福祉のためには、Eを児童養護施設に入所させるのが相当である。

よって、本件申立てを認容することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 古川順一)

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