福岡家庭裁判所小倉支部 昭和40年(家)715号 審判 1965年8月03日
申立人 山本ヨシ(仮名)
相手方 山本民男(仮名)
主文
相手方は申立人に対し、昭和四〇月八月末日までに金六万五、四二四円を一時に、同年九月以降、申立人存命中毎月金九、〇二八円宛を毎月一〇日までに支払え。
審判費用は申立人および相手方の負担とする。
理由
一、申立人は相手方に対し、扶養の審判を求め、その原因として、申立人は相手方の実母で満七一歳の老人である。相手方は先代(相手方の父、申立人の夫)が昭和五年死亡により、その家督を相続し、先代の財産を一人で相続したものであり、現在では北九州市○○区○○四三〇三番地の二六〇〇組の小倉出張所長として、相当な地位にあり、月収約五万円その他相当額の賞与等の収入があり、裕福な生活をしている。申立人は目下三女良子の婚家先田中則男(良子の夫)方に身を寄せ、三女夫婦等から世話を受けているが、相手方からは何等の扶養もないため、困窮の極に達しているので相手方から相当額の扶養料の支払を求むるため、本件申立に及んだというのである。
二、よつて審按するに、
北九州市小倉区長畑中直作成の申立人の戸籍謄本によれば、相手方山本民男は申立人の二男であることが認められ、又同区長作成にかかる相手方戸籍謄本によれば、申立外田中良子は申立人の三女であることが認められる。されば相手方及び申立外田中良子は申立人を扶養すべき義務あることは明かである。而して扶養の方法としては申立人を引取り扶養する方法と申立人に対し扶養料を支払う方法とがある。
先づ相手方及び右申立外田中良子の中、申立人を引取り扶養すべき者の有無並びにその適否を按ずるに当裁判所調査官宮村孝の調査報告中の記載によれば、申立人は現在高血圧にて併せて腎臓症を病み、小康を保つている程度であるので所謂スープのさめない位の位置に近親者が居住していることが望ましいのであるが相手方の住家は八畳、六畳二室があり、独立性を加えた部屋の構造であることが覗われるけれども、申立人と相手方とは心理的に離反して居り、両者の葛藤状態は深刻であり、更に又申立人と相手方の妻とは嫁姑として感情の対立があり、申立人と相手方と同居して申立人扶養の面倒を見ることは極めて困難な実情にあることが覗われる。他方目下申立人と同居し、その扶養の面倒を見ている田中良子方の家庭の状態を見ると、同家は六畳、四・五畳の二室及び離れの附属室一室があるが、使用人宿泊し、深夜早朝に及ぶ人の出入の為騒がしく又同家は二五坪の宅地一二坪の家屋を所有し、トラック五台を使用し、従業員三名を雇い、小企業の運送業を営んでいるが、不況の折柄五、六〇〇万円の負債を有し、事業不振のため三年間赤字続きの営業状態で、近く田中夫婦は現住所から去り、田中則男の親許に引越して家庭生活が為される予定であり、申立人と同居扶養をなすことは困難な状態であることが認められる丈でなく、扶養料の分担を為すことも至難な状況にあることが覗われるところである。唯田中良子は孝心厚くその夫則男と共に申立人を自分等の住む近くに住まわせ労力面で種々面倒を見ることを誓つているので、申立人の扶養料を相手方において支払い、田中良子等において申立人の身の廻り等の面倒を見ることにより申立人の扶養を期するのが最も適切な方法であると考えられる。進んで相手方の負担すべき扶養の額を検討するに、前示調査官宮村孝の調査報告書の記載によれば相手方は子女なく、前掲会社の要職にあり、平均手取り月収額は四万八、一四〇円であり、比較的余裕のある生活程度であることが認められ、之に申立人がその恩給、所有株式等の配当金等年間正味受領額一万三、八六〇円の収入あること、相手方は○○専門学校卒業という高等教育まで授けられ養育せられおる等の事情を参酌するときは所謂生活保持義務の範囲において申立人の扶養度は毎月九、〇二八円(宮村調査官募集賃料参酌)の金銭扶養を為すことが相当であると認められる。従つて当裁判所は相手方に対し本件申立をした翌月である昭和四〇年一月以降同年八月まで八ヶ月分の扶養料金七万二、二二四円中から相手方が同年五月二二日申立人に対し送り届けている米五六キログラム相当額金六、五〇〇円を控除した金六万五、七二四円を同年八月末までに一時に支払うべく、同年九月以降申立人の存命中毎月一〇日迄に前記扶養額を支払うべく主文掲記の如く決定するものである。審判費用については家事審判法第七条非訟事件手続法第二六条により主文の通り審判する。
(家事審判官 渡辺利通)