福岡高等裁判所 平成元年(う)207号 判決
1 所論1は,まず,法39条は,法38条と密接な関連性があるとして,法39条中の「競走において」と規定する文言を,「出走する選手間において」と限定解釈したうえ,同条は,これら選手間の八百長を問題にしたものであるから,犯罪主体は出走選手であり,身分犯規定である,と解し,同条と相関連する法38条も(消極的)身分犯である(したがって,その主体は,当該出走選手以外の者に限定される。)と主張するのであるが,法39条に「競走において」と規定するところから,同条の犯罪主体を「出走する選手」に限定解釈のうえ同条を身分犯規定と主張するところは,そのように解すべき文理上の根拠は見当たらず,また弁護人が法39条と関連する法38条を(消極的)身分犯規定であると主張するところも,所論で「2条(法38条,39条)並べて関連する処罰範囲を特定してある場合は,併せて整合性のある解釈をする必要がある」という以外に,右関連性の意味,内容が不明である。要するに,法38条を(消極的)身分犯規定とする所論が到底採用できないことは,原判決が「争点に対する判断」において,「モーターボート競走の健全な発展を期するについては,競走の公正とそれに対する社会の信頼が不可欠であり,法はこれを広く保護するため,法38条において「偽計または威力によるモーターボート競走の公正を害すべき行為」を処罰の対象とする一方,法39条において,右行為以前の段階である「公正を害する方法による競走の共謀」をも独立に処罰の対象として規定しているうえ,両条とも,その文言上,行為の主体について何等の制限も加えていないばかりか,それぞれ構成要件の異なる行為を処罰の対象にしており,一方が身分犯で,他方が消極的身分犯となる関係に立ち得ないことは両条の文理上明らかであって,弁護人の右主張は文理上の根拠を欠くうえ,いわゆる八百長レースの共謀において,当該レースに出艇する選手だけでなく第三者を交えての共謀が一般的に考えられるのに,敢えて法39条の共謀者から第三者を除き,同条を当該レースに出艇する選手に限り適用される身分犯規定と解する合理的根拠を見い出し得ない。」旨十分に説示したところであり,当裁判所も,原判決の右説示するところは相当として肯認できる。
所論1は,次に,法38条における「公正を害すべき行為」の解釈として,原判示のように「レースに出走する」ことまで要求されておらず,従って,被告人の本件行為のように,単なるモーターボート競走会連合会の内部規定の整備規程に違反した程度の抜け駆け行為に過ぎないものが同条所定の懲役3年以下の刑に処せられ,一方,共同謀議により八百長レースを仕組んだ悪質な行為が法39条により懲役2年以下の刑に処せられるのは,刑罰の不均衡がある,というのである。しかしながら,法38条は,同条が保護法益とするモーターボート競走の公正とこれに対する社会の信頼,円滑な競技の運営を損うような「偽計や威力を用いて競走の公正を害すべき行為」を実行した行為者を処罰の対象とし,法39条は,右の実行行為に出る以前における共謀段階での行為を対象としているのであるから,後者の共謀に過ぎない行為以上に法益侵害が明白かつ高度な前者の実行行為者に対し懲役3年以下(または罰金20万円以下)の刑,後者の共謀行為者に対し懲役2年以下(または罰金10万円以下)の刑に各処することは,両条の規定の趣旨,内容を対比しても,何ら不合理,不均衡の点は認めえないのみならず,右のように解釈することが合理的である。なお,法38条の「偽計を用いて競走の公正を害すべき行為」の解釈として,原判決が説示するところの「レースに出走する」ことまでは要しないとしても,被告人のように,秘かに軽量の私物プロペラを自己の出走用乗艇に取り付け,他の選手より速力において有利な条件を作り出したうえ,同艇を本番ピットに待機させるがごとき自体,同条が禁止した右行為に該当し,競走の公正とこれに対する社会の信頼を侵害するに足りるもので,同条所定の処罰を免れないことはいうまでもなく,法38条の他に,前示連合会が整備規程を設けて,本件のような違反行為を防止し,これの違反者に対し,例えば,右連合会内部において一定期間内での出場停止などの制裁を加えることは,競走の公正,社会の信頼,円滑な競技の運営の維持などの面から,法38条の刑罰規定とは別個の自治的措置を規定したものとして,それなりの意義を十分に有するのであるから,所論のように被告人の本件行為が右整備規程に抵触する抜け駆け程度のものであり,法38条により処罰対象とはなり得ない旨の主張は到底採用できない。
2 所論2は,法38条は「競走の公正を害すべき行為」を処罰するのであるから,おのずから処罰目的があり,右処罰目的からして,八百長行為の処罰という構成要件的目的要素を欠いてはならないのであり,右八百長目的を有しない被告人の本件行為は法38条に該当しない,というのである。しかしながら,法38条が規定された目的(規定理由というべきもの)がモーターボート競走の公正とそれに対する社会の信頼の保護を主目的とすることは既に指摘したとおりであるが,同条において右のような目的を有することから,直ちに,同条が構成要件的な目的要素として,八百長行為のみを処罰対象としたものと解する弁護人の所論には合理的理由が見当たらないのみならず,同条において,八百長目的の行為に限定した文言はなく,むしろ,同条の前示規定目的(理由)に照らしても,文理上,偽計や威力を用いて競走の公正を害すべき行為一般を処罰の対象としたものと解するのが相当であって,この点の所論も採用できない。
3 以上のとおりであって,被告人が,原判示の日時,場所において,ボートレース2日目の第12レースに出場し,モーターボートの走力を向上させるため,正規のモーター付属のプロペラに替え,前示整備規程に定められたプロペラの最低重量制限を42.4グラム軽くした約319.6グラムの私物プロペラを自己の出走用乗艇のモーターに装着し,同乗艇を出走に備え競走場内の本番ピットに浮かべ,更には同乗艇に乗船して右12レースに参加出走した本件において,原判決が,右被告人の所為を法38条の「偽計を用いて競走の公正を害すべき行為をした」旨の要件に該当するとして有罪を認定した判断には,同条の解釈上前示のレースに出走する行為を必要とするごとく説示する部分を除外しても,判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の解釈,適用の誤りは認められない。