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福岡高等裁判所 平成10年(ネ)372号 判決 2000年3月28日

控訴人

宮川三勇實

右訴訟代理人弁護士

永尾廣久

中野和信

被控訴人

右代表者法務大臣

臼井日出男

右指定代理人

佃美弥子

和多範明

井上隆幸

腹巻哲郎

山崎元

森本凡

渡邉博一

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金三〇万円及びこれに対する平成六年二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  主文第一項及び第二項同旨

2  被控訴人敗訴の場合、担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、原判決二枚目表九行目の「当庁」を「福岡地方裁判所」と改め、同裏四行目の「同弁護士に電話で」の次に「約三〇万円の納税額を示して」を加えるほかは、原判決事実摘示(原判決二枚目表六行目から四枚目表一一行目までに記載)のとおりであるから、これを引用する。

第三証拠

証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠目録の記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所は、原審及び当審における当事者双方の主張立証を検討しても、控訴人の本件請求は理由がないものと判断するが、その理由は、次に説示するとおりである。

1  当事者間に争いのない事実及び証拠(甲二ないし九、証人栁)並びに当裁判所に顕著な事実を総合すると、大牟田税務署長の税務職員が別件訴訟の一審原告代理人である永尾廣久弁護士(以下「永尾弁護士」という。)に対して行った税務調査の経緯及び態様は、次のとおりであったことが認められ、右認定を左右するに足りる的確な証拠は存しない。

(一)  永尾弁護士は、平成三年七月二六日、大牟田税務署長による所得税の更正処分が取り消されたことにより、還付金に対する利息相当の加算金(以下「還付加算金」という。)九三万七八〇〇円を受領した。

ところで、還付加算金については、雑所得として納税申告をしなければならないところ、納税者の中には、事業所得中の雑収入と誤解して申告している場合がままあり、雑所得として申告しているか事業所得として申告しているかは、申告書をみただけでは判明しないため、税務当局としては、納税者に対し、申告の実情を直接聴取して確認する必要があった。そして、この確認は、通例七月ころ若しくは一二月ころに行われていた。

(二)  大牟田税務署の栁統括官は、永尾弁護士が還付加算金を平成三年分の雑所得として平成四年三月一五日までに確定申告していないことから、同年一二月九日、高松調査官と打ち合わせのうえ、同調査官をして、永尾弁護士の事務所宛に電話させた。同調査官は、永尾弁護士に対し、雑所得としての申告の有無を聴取したところ、永尾弁護士は、申告していないと述べ、還付金受領のころに雑所得としての納税義務があることの教示がなかったなどと発言した。

高松調査官は、栁統括官との打ち合わせの段階で必要経費が存在しないとしたときの納税額(約三〇万円)を算定していたが、永尾弁護士に対し、納税額は約三〇万円になると述べて修正申告をしょうようしたところ、永尾弁護士は、更正処分をするように述べた。なお、別件訴訟の第一回口頭弁論期日は、同月一一日であった。

(三)  永尾弁護士は、同月一五日から平成五年一月二八日にかけて、大牟田税務署長に対し、請願書を四回提出したが、この中には、還付加算金については還付を受けるに至るまでの弁護士費用等の必要経費が存在する旨の記載があった。

そこで、栁統括官は、必要経費があれば納税額は減額となるため、還付加算金の申告の有無及び必要経費の確認の目的で、同年一月下旬ころ、永尾弁護士に電話をかけ、同弁護士との間で税務調査の日取りを決めたが、その日時及び調査所要時間は永尾弁護士が指定した。

指定された同年二月五日、栁統括官及び高松調査官は、永尾弁護士の事務所を訪問し、約三〇分間面談した。この中で、永尾弁護士は、請願書においても記載していたように、弁護士費用が必要経費に当たるとの見解を述べた。これに対し栁統括官は、否定的結論を述べ、納税資金が借入によるときは、支払利子などが必要経費になると説明した。なお、永尾弁護士は、当日は資料は示しておらず、栁統括官は、次回には資料を確認してもらいたい旨要望した。なお、同月十二日、別件訴訟の第二回口頭弁論期日が開かれた。

(四)  栁統括官は、同年二月ないし四月の確定申告の時期を過ぎた同年五月一八日、永尾弁護士に対し、借入金利息についての税務調査方を連絡し、永尾弁護士は、同年六月一〇日の三〇分間を指定した。なお、別件訴訟の第三回口頭弁論期日は、同年五月七日に開かれた。

六月一〇日、栁統括官及び高松調査官は、永尾弁護士の事務所を訪問した。この際は、牛島昭三税理士が立ち会った。永尾弁護士は、まず、弁護士費用関係の書類を示したので、栁統括官らは、その内容をメモした。次に栁統括官らは、借入金利子関係の資料を閲覧したが、約束の三〇分が経過し、右資料も引き上げられてしまったため、その内容を確認するまでに至らず、栁統括官らは右資料のコピーの交付を求めたが、永尾弁護士は、これを断った。そこで、栁統括官は、貸付元の調査を独自に行うと述べた。なお、別件訴訟の第四回口頭弁論期日は同年六月一八日に開かれた。

(五)  栁統括官は、同年七月下旬ころ、貸付元の大牟田市農業協同組合の反面調査を行い、弁護士が被調査者であったことから念入りに検討し、同年一一月ころになってようやく調査結果を取りまとめた。

栁統括官は、永尾弁護士に対し、同年一二月から平成六年一月にかけて、調査結果を説明したいので面談したいとして、何度か電話をかけたが、永尾弁護士は、説明を受ける必要はないし、修正申告にも応じない、更正処分をすればよいとの態度であった。

(六)  大牟田税務署長は、同年四月六日、永尾弁護士に対する更正処分を行ったが、これによる納税額は約一〇万円程度であった。永尾弁護士は、右更正処分に対し、法定の不服申立てを行った。

2  以上の事実をもとに検討するに、大牟田税務署長の税務職員である栁統括官らが行った税務調査は、永尾弁護士の平成三年分の申告所得金額のうち、雑所得の金額を確定するための調査であり、その相手方はあくまでも永尾弁護士であって、還付加算金の金額が雑所得として申告されていなかった以上、その調査の必要性があったことは優に認められる。また、栁統括官らは、永尾弁護士から必要経費が存在するとの主張を受け、永尾弁護士と面談する必要があったのであり、面談の結果、永尾弁護士から納税資金が借入金によって手当されているとの申出を受け、永尾弁護士自ら設定した面談時間及び資料の閲覧態様の制約から、必要経費について確認するため、やむを得ず永尾弁護士の借入先の反面調査をした。さらに、調査結果については、なお必要経費の存在を主張されることもあり得るから、被調査者に対する説明と言い分の聴取も当然必要と認められる。

以上の事情を総合すると、永尾弁護士に対する前記税務調査には、その必要性があり、かつ、その態様も相当なものであったというべきであって、右税務調査が別件訴訟の妨害を目的とするものであるということは到底できない。なお、永尾弁護士に対する右税務調査が控訴人に対して精神的負担を与えることがあったとしても、本件においては、控訴人が精神的負担を受けないことが法的に保護されるべき利益であるとも到底認め難いところである。

二  以上の次第で、控訴人の本件請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却した原判決は相当である。よって、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

平成一一年一一月一二日口頭弁論終結

(裁判長裁判官 吉原耕平 裁判官 下野恭裕 裁判官 金光健二)

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