福岡高等裁判所 平成10年(ネ)601号 判決
一審原告 全自交長崎県タクシー労働組合
右代表者執行委員長 森本靖生
一審原告 中村繁範
一審原告 石橋和弘
一審原告ら訴訟代理人弁護士 熊谷悟郎
一審被告 中央タクシー有限会社
右代表者代表取締役 宮崎満明
右訴訟代理人弁護士 山下誠
主文
一 一審原告らの本件各控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
1 一審被告は、一審原告全自交長崎県タクシー労働組合に対し、金五五万円及び内金五〇万円に対する平成八年二月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 一審被告が一審原告中村繁範に対して平成六年一〇月一四日付けでした譴責処分が無効であることを確認する。
3 一審被告は、一審原告中村繁範に対し、金三一万一〇三二円及び内金二八万一〇三二円に対する平成七年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 一審被告が一審原告石橋和弘に対して平成八年一月一〇日付けでした出勤停止処分が無効であることを確認する。
5 一審被告は、一審原告石橋和弘に対し、金二六六万〇〇一九円及び内金五〇万円に対する平成八年一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
6 一審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
二 一審原告石橋和弘の当審における請求の拡張に基づき
一審被告は、一審原告石橋和弘に対し、金一三八万一〇八六円を支払え。
三 一審被告の本件控訴を棄却する。
四 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その一を一審原告らの負担とし、その余は一審被告の負担とする。
五 この判決第一項1、3及び5、第二項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 一審原告ら
1 控訴
原判決を次のとおり変更する。
(一) 一審被告は、一審原告全自交長崎県タクシー労働組合(以下「一審原告タク労」という。)に対し、金一七〇万円及び内金一五〇万円に対する平成八年二月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 主文第一項2と同旨
(三) 一審被告は、一審原告中村繁範に対し、金三八万一〇三二円及び内金二八万一〇三二円に対する平成七年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(四) 主文第一項4と同旨
(五) 一審被告は、一審原告石橋和弘を乗務員として処遇しなければならない。
(六) 一審被告は、一審原告石橋和弘に対し、金三一六万〇〇二〇円及び内金一〇〇万円に対する平成八年一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 一審原告石橋和弘の当審における請求の拡張
一審被告は、一審原告石橋和弘に対し、金一三八万一〇八六円を支払え。
二 一審被告の控訴
1 原判決中、一審被告敗訴部分をいずれも取り消す。
2 一審原告らの右部分にかかる請求をいずれも棄却する。
第二事案の概要
一 争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実
1 当事者
一審原告タク労は、昭和三〇年一一月一五日に結成された、長崎県下のタクシー会社に勤務する労働者により組織されている労働組合であって、組合員が雇用されているタクシー会社毎に一七の支部がある。このうち一審原告タク労中央タクシー支部(以下、単に「中央タクシー支部」という。)は昭和五七年一二月に一審原告タク労に加盟した。
一審被告は、昭和二七年一一月一四日に設立され、一般乗用旅客自動車運送事業等を営んでいる有限会社であり、労働組合としては、中央タクシー支部のほか、中央タクシー従業員組合誠和会(以下「誠和会」という。)がある。
一審原告中村及び同石橋は、いずれも一審被告に雇用されている者であり、ともに中央タクシー支部に所属している。一審原告中村は、平成五年一〇月以降、中央タクシー支部の書記長を務めている(甲五四)。一審原告石橋は、平成八年一月八日に中央タクシー支部に加入したが、それまでは誠和会に所属していた。
2 平成六年における一審原告タク労及び中央タクシー支部と一審被告との間の団体交渉の経過
(一) 平成六年六月八日、一審原告タク労及び中央タクシー支部と一審被告は、賃金協定を締結した。そこで一審被告は、同日、中央タクシー支部に対し、三六協定締結を申し入れ、協定案を示して調印を求めたが、右協定案には乗務員数の記載に誤りがあったほか、夏期一時金の算定、公傷害の取扱いについて問題があったことから、同支部は調印を拒否し、改めて夏期一時金支給日前の話合いを求めた。
しかし、その後、当時一審被告の営業部長を務めていた福田惇(以下「福田部長」という。)は誠和会の了承の下、従業員代表者として三六協定に調印し、一審被告はこれを労働基準監督署に届け出た(以下、この三六協定を「本件三六協定」という。)。
(二) 平成六年七月八日、中央タクシー支部の組合員の賃金が減額された(以下「本件賃金カット」という。)。その理由は、従来は、午前二時帰庫、午前二時三〇分まで洗車として、洗車時間を含めて午前二時三〇分までを労働時間と扱っていたのを(ただし、午前一時以降午前二時三〇分までが所定内労働時間であるのか残業としての労働時間であるのかについては争いがある。)、本件三六協定締結を契機に、午前二時から午前二時三〇分までの洗車時間を労務提供時間と評価しなかったためであった。
この問題につき、一審原告タク労は、同年七月二六日、長崎県地方労働委員会(以下「地労委」という。)にあつせんの申立てをした。
3 野里和孝の一審原告中村に対する暴行と一審被告の一審原告中村に対する譴責処分等
(一) 一審被告は、平成六年八月一三日、給与振込の取扱銀行を従来の十八銀行から親和銀行に変更する旨の文書を社内に掲示した。
一審原告タク労及び中央タクシー支部は、給与振込取扱銀行の変更それ自体についてはこだわらないことを確認したが、同支部の組合員の中には、居住地域内に親和銀行の支店がなく、給与引き出しに困ることになる者が三名いたため、これらの者に対する対応を一審被告と協議することを決め、同月一四日、福田部長に対し、一審被告との団体交渉を申し入れ、右問題につき中央タクシー支部としては労組協議会を開催したうえ、職場集会で組合員の意見を聞いて決定する予定である旨述べた。
一審被告支配人安藤伸吉(以下「安藤支配人」という。)は、同月一五日、中央タクシー支部に対し、給与振込取扱銀行の変更について説明し、協力を依頼した。これに対し一審原告中村は、振込先変更に伴い居住地域の関係上不都合が生じる人たちへの配慮を申し入れたところ、安藤支配人は了解する旨答えた。
(二) 一審被告は、平成六年八月三一日、右給与振込取扱銀行変更の問題について、午後一時から本社二階の会議室(以下、単に「会議室」という。)において、親和銀行の社員による説明会(以下「本件説明会」という。)を開いた。
中央タクシー支部の植松一博支部長(以下「植松支部長」という。)、小宮芳隆副支部長(以下「小宮副支部長」という。)ほか二名の同支部役員も、同日、本件説明会に参加するため会議室前に集まったが、これに対し、当時一審被告の顧問を務めていた野里和孝(以下「野里顧問」という。)は、「お前たちは何しに来た。親和に変更しない者には関係ない。帰れ。」と怒鳴るなどして右中央タクシー支部の役員らに退去を命じた。同日午後二時三〇分ころ、乗務中であった一審原告中村は、小宮副支部長から呼ばれて会議室にやって来た(甲三、五四)。
一審原告中村らは、野里顧問に本件説明会の参加を拒否されたことから、本社一階の従業員控室(以下、単に「控室」という。)に移動し、協議をした末、給与振込取扱銀行変更の件等の問題で一審被告に団体交渉を申し入れることを決め、申入書の作成を始めた。なお、このとき一審原告中村及び小宮副支部長は、職場離脱手続をとっていなかった。
同日午後三時三〇分ころ、野里顧問が、福田部長、当時一審被告の営業部次長を務めていた後田博(以下「後田次長」という。)及び同部営業課長を務めていた鹿山勝征(以下「鹿山課長」という。)とともに、控室へやって来た。野里顧問は、控室に集まっていた中央タクシー支部の役員らに対し、「お前たちはここで何ばしよっとか。出て行け。ここは会社の控室だぞ。誰の許可を取っとっとか。出て行け。」、「中村、小宮、お前たちは仕事に行け。」などと言って控室から出ていくように命令した。一審原告中村らはこれに直ちに従わなかったことから、野里顧問は、一審原告中村に暴行を加え、その結果一審原告中村は傷害を負った(以下、この事件を「本件傷害事件」という。)。
(三) 一審被告は、同年九月一日、本件傷害事件に関し、野里顧問を、就業規則九一条により、「例え乗務につかせるための指導中の事故であったにせよ、貴職の社内における指導的立場等からして、中村乗務員に、結果的に負傷を負わせたことは遺憾です。今後、同様事例の発生がないよう、会社は、貴殿に戒告します」として、戒告処分をした(甲一六)。
同月六日、一審原告タク労と一審被告との間で団体交渉が行われ、その席上、一審被告側は、「八月三一日の中村氏に対する負傷事故については、(野里顧問の)過失であるので懲戒処分、戒告とする。このようなことが起きたことは遺憾に思う。今後このようなことのないように。」との内容の文書を読み上げたが、一審被告の就業規則の懲戒に関する条項には戒告処分の規定はなく、一審原告タク労側は、納得できない旨述べて一審被告の再検討を求めた。しかし、福田部長及び後田次長は、「見解の相違がある。」、「過失事故である。」と述べ、右交渉は決裂した。
(四) このため一審原告中村は、平成六年九月七日、一審原告タク労の意を受け、長崎警察署に野里顧問を傷害罪で告訴した。その結果、野里顧問は、同年一二月二六日、傷害罪で罰金一〇万円の略式命令を受け、後日同命令は確定した。
(五) 一審被告は、同年一〇月一四日付けで、一審原告中村に対し、就業規則九九条3及び4により、譴責処分をした(以下「本件譴責処分」という。)。これによると、一審原告中村が刑事告訴に及んだことから、一審被告としても、野里顧問のみに不当な社会的判断が下されないように、公平な処分をするとの立場で、<1>正式の乗務離脱手続がなされないままの状況下であったこと、<2>他の管理者全員から乗務復帰を指示されていたにもかかわらず、これに従わなかったことから、一審原告中村が事件の原因を作出したとされている(甲一七の1及び2。「処分遅延の理由について」と題する同号証の2は別紙五のとおりである。)。
4 平成七年度春闘における労使紛争
平成七年五月、一審原告タク労と一審被告との間で、同年度の春闘として団体交渉が行われた。これに関連して、同年六月四日、同日付け「タク労中央支部組合員の皆様へ」と題する書面(以下「本件書面」といい、その内容は別紙四のとおりである。)が一審被告本社の掲示板に掲示された。
5 一審原告石橋が受けた処分等
一審原告石橋は、乗務員として勤務していたが、平成七年一二月三〇日から三一日にかけての勤務において早退したことから、平成八年一月一〇日、一審被告から、同月五日から同月一〇日までの出勤停止処分(以下「本件出勤停止処分」という。)を受けるとともに、JR長崎駅(以下、単に「長崎駅」という。)の構内におけるドアマンとしての勤務を命じられた(以下、この命令を「本件配置転換」という。)。以来、一審被告は、一審原告石橋が乗務員として勤務することを拒否している。
また、同年二月七日、一審原告石橋が長崎駅構内で制帽をかぶらずにドアマンとして勤務していたところ、その場を福田部長が訪れ、一審原告石橋に対し制帽を着用するよう注意をした。この際、福田部長は、その場で転倒したような状態となったが、福田部長は、これが一審原告石橋の暴行によるものであるとして、長崎警察署に対し、一審原告石橋を傷害罪で告訴した。一審原告石橋は、暴行の事実を否定している。長崎地方検察庁は、同年八月一九日ころ、嫌疑不十分を理由に不起訴の裁定をし、長崎検察審査会は、福田部長の審査の申立てに対し、不起訴処分は相当と判断している(甲五九、乙一二、一三、五一)。
二 争点
1 一審原告中村関係
一審原告中村は、一審被告に対し、本件傷害事件に関し、本件譴責処分の無効確認、及び同処分をした行為が不法行為を構成するとして慰謝料等の損害賠償を求めるとともに、本件傷害事件により要した治療費等について使用者責任に基づき損害賠償を求めるものであるが、当事者双方の主張は次のとおりである。
(一) 一審原告中村の主張
(1) 本件傷害事件に関する一審被告の使用者責任
野里顧問は、一審原告中村の胸部を両手で二回突き飛ばし、その勢いで一審原告中村がよろめきアルミサッシの出入口付近に来たところで、再び一審原告中村の胸部を両手で力任せに突き飛ばし、アルミサッシのドア枠でその右前腕部を強打させたもので、その結果一審原告中村は、二針の縫合を含む全治一〇日間を要する右前腕部擦過挫創、打撲症の傷害を負った。野里顧問は一審被告の業務を遂行中であったから、一審被告は、野里顧問の使用者として民法七一五条の使用者責任を負う。
(2) 本件譴責処分の違法、無効性
ア 後記3のとおり、一審被告は、一審原告タク労及び中央タクシー支部を嫌悪して、その弱体化を目的とした敵対的労務管理政策をとっているところ、一審原告中村は、中央タクシー支部の書記長であることから、一審被告によるいわれなき処分乱発の危険にさらされており、雇用契約上本件譴責処分の無効を確認しておかなければ、同処分の存在を理由に将来さらに加重な処分を受ける現実の危険性があるから、一審原告中村には本件譴責処分の無効を確認する利益がある。
イ 本件譴責処分は、次のとおり違法、無効である。
(ア) 中央タクシー支部は、給与振込取扱銀行変更の問題について、同支部の組合員のうち三名がその居住地域内に親和銀行の支店がなかったことから、一審被告に対し、それらの組合員に限って配慮をしてほしいと求めていた。
一審原告中村ら中央タクシー支部の役員が本件説明会の会場である会議室に赴いたのは、この問題について、同支部が一審被告との団体交渉を申し入れたところ、一審被告は、平成六年八月二四日、いったんこれに応じる旨の回答をしたのに、同月二七日になって右回答を一方的に撤回したため、植松支部長らがその理由の説明を求めたところ、野里顧問が「三一日から親和銀行から説明に来るので、役員も説明を受ければよいし、質問もすればよいではないか。」と述べたためである。
(イ) 本来、労働基準法施行規則七条の二によれば、会社が従業員の給与振込先を変更しようとする場合には、個々の労働者の同意を得なければならないはずであって、一方的に自己の指定する銀行に給与振込を行うことはもとより、自らが一方的に指定した銀行を給与の振込先とすることを強制することはできないと解すべきであるから、一審被告は中央タクシー支部の主張に耳を傾け、必要な措置をとるべきであった。
(ウ) このような状況の中で一審原告中村らが会議室に赴いたところ、野里顧問は前言を翻して、一審原告中村らに対し、一方的に退去を命じたのであって、これに対し話合いで解決するため団体交渉を申し入れることは労働組合として当然の行動であり、以上のような事情の下では、一審被告の施設内で団体交渉の申入書を作成することも非難されるべきものではない。しかも、一審原告中村は野里顧問に対し何の抵抗もしていない。
(エ) 一審被告は、一審原告中村が野里顧問を告訴したため、その報復として「正式の乗務離脱手続がなされないままの状況下であったこと、他の管理者全員から、乗務復帰を指示されていたにもかかわらず、これに従わない状況下にあったことなどに見られる、傷害を負うべき明確な原因を創出した点に留意して、公平に社内処分を科すべしとの判断に至った。」ことを口実に本件譴責処分を行った。要するに、一審被告は、いったんは中央タクシー支部の主張に応じるかのような態度をとりながら、結局これを無視して一方的に給与振込取扱銀行の変更を強行しようとし、団体交渉の申入れも拒否して、労使間に不必要な混乱と紛争をもたらしたもので、本件譴責処分には何ら正当な理由がなく、同処分は無効である。
(3) 本件譴責処分に関する一審被告の不法行為責任
本件譴責処分は、一審原告中村に対する不利益取扱いの不当労働行為であるとともに、同人の名誉、人格権を侵害する不法行為でもある。よって、一審被告は、不法行為による損害賠償責任を負う。
(4) 損害額 三八万一〇三二円
一審原告中村は、次のとおりの損害を被った。なお、一審原告中村には、一審被告の主張するような過失は何らない。
ア 給与減額分 六万四六三二円
(内訳) 平成六年八月分 一万一〇二〇円
同年九月分 五万三六一二円
イ 冬期一時金減額分 一万二〇〇〇円
ウ 治療費 四四〇〇円
エ 受傷及び本件譴責処分を受けたことによる慰謝料 二〇万円
オ 弁護士費用相当損害金 一〇万円
合計 三八万一〇三二円
(二) 一審被告の主張
(1) 本件傷害事件における一審被告の使用者責任について
野里顧問は、一審被告の顧問であり、独自の立場でその業務を行う者であるから、一審被告の指揮監督を受けず、民法七一五条にいう被用者に当たらない。
(2) 本件譴責処分の有効性
ア 本件説明会は、親和銀行から係員数名が来社して振込先変更が決定している従業員に対し、十八銀行からの借入金の弁済や担保の差替えなどの手続について個別的に説明することを目的としたものであり、職場離脱の必要性も緊急性もないものであった。しかるに、一審原告中村は、本件説明会を混乱させる意図で、所定の手続をとらず職場を離脱して本件説明会に押し掛けた。
イ 野里顧問は、本件説明会が混乱することを防止しようとして、一審原告中村に対し、本件説明会からの退去及び職場復帰を命じた。しかるに、一審原告中村は、不当にもこれを拒否した。
なお、控室は、一審被告の全従業員が使用するものであって、一審原告タク労はもとより中央タクシー支部の組合事務所でもなく、一審被告の代表者が組合事務所としての使用を許可したことも、一審原告タク労や中央タクシー支部が組合事務所として使用する慣行もなく、野里顧問がその使用を禁止したのは当然のことであった。
ウ 一審被告は、一審原告中村の以上の行状を考慮して、懲戒処分のうち最も軽微な処分である本件譴責処分をしたのであって、同処分は有効かつ妥当であり、不法行為にもならない。一審原告タク労や中央タクシー支部を嫌悪して本件譴責処分をしたものでないこともちろんである。
(3) 過失相殺
仮に、一審被告が何らかの損害賠償責任を負うとしても、一審原告中村には次のとおり過失があり、損害賠償額を減額すべきである。
中央タクシー支部の役員らが本件説明会に来た当時は、一名の従業員が親和銀行の係員と相談中であったため、そのプライバシーを保護する必要があり、また、四名(後に来た一審原告中村を含めると五名)もの中央タクシー支部の役員が来たことから、野里顧問は、これらが説明会の趣旨に反する別の意図を持ってやって来たものと判断し、右役員らの入室を拒否したのであり、これに対する一審原告中村らの態度は、野里顧問の態度に比べ極めて激しいものであった。このような事情に加え、前記(2) の事情をも併せ考慮すれば、一審原告中村にも野里顧問の暴行及び本件譴責処分を招いたことについて過失があり、過失相殺がなされるべきである。
2 一審原告石橋関係
一審原告石橋が、一審被告に対し、本件出勤停止処分を受け、また、本件配置転換を命じられたとして、これら処分の無効確認を求めるとともに、これらの行為は不法行為又は債務不履行を構成するとして、当審での請求の拡張部分も含めて給与減額分等の損害賠償を求めるとともに、乗務員としての処遇を求めるものである。当事者双方の主張は次のとおりである。
(一) 一審原告石橋の主張
(1) 本件出勤停止処分の違法、無効性
ア 後記3のとおり、一審被告は、一審原告タク労及び中央タクシー支部を嫌悪し、その弱体化を目的とした敵対的労務管理政策をとっているところ、一審原告石橋は一審被告の意向を無視して同支部に加入したことから、一審被告によるいわれなき処分乱発の危険にさらされており、雇用契約上本件出勤停止処分の無効を確認しておかなければ、同処分の存在を理由に将来さらに加重な処分を受ける現実の危険性があるから、一審原告石橋には本件出勤停止処分の無効を確認する利益がある。
イ 本件出勤停止処分及び本件配置転換に至る事実関係
(ア) 一審原告石橋は、平成七年一二月三〇日当時、誠和会に在籍しながらもその運営のあり方に疑問を感じ、中央タクシー支部の組合員との交友を深める中で、誠和会からの脱退、一審原告タク労への加入を考えるようになっていた。
(イ) そうした中、一審原告石橋は、同日の勤務時間中、妊娠中でつわりがひどく精神的に極めて不安定な状態になっていた妻から、体調が非常に悪いので早く帰宅してほしい旨の電話連絡を受けた。
そこで、一審原告石橋は、一審被告の営業担当者に早退の許可を求めた。これに対し、右営業担当者は、遊休状態の営業車に乗る予定であり、同月三一日午前零時に帰社すれば自分が一審原告石橋に代わってその営業車に乗って営業に出ることができるので、同日午前零時まで何とか頑張ってもらいたい旨答えた。
そのため一審原告石橋は、右営業担当者と交替すべく同日午前零時に帰社する予定でいたが、客が重なり、結局同日午前一時過ぎに帰社した。なお、一審原告石橋の自宅は、一審被告の本社近くであったため、一審原告石橋は、帰社する直前に自宅に寄って妻の様子を見たところ、比較的安定していたので、一審原告石橋は、妻に対し、本社に戻って洗車、納金したうえで帰宅する旨告げた。
(ウ) 一審原告石橋が本社に戻って洗車していると、同僚から、一審原告石橋の自宅近くの飲み屋でする忘年会に誘われた。一審原告石橋は、体質上酒は全く飲めず、妻の様子も気になったが、当時、近く妻との結婚式を控えており、その際には同僚を招くことになっていたうえ、以前から妻が体調を崩していることについて同僚に相談に乗ってもらっていたりしたことと、この日がこの年の最後の勤務であったことから、同僚が集まる忘年会に顔を出さなければならないと思い、退社後とりあえず自宅に戻って妻の様子を見たうえで、具合が良ければ顔だけ出そうと考えていた。
一審原告石橋が洗車を終え、営業収入を納金したうえ、帰宅しようとしたところ、偶然誠和会の書記長を務めていた馬場萬喜太(以下「馬場書記長」という。)に出会ったため、同人に対し、年が明けたら誠和会をやめて一審原告タク労に加入しようと考えている旨述べた。これに対し、馬場書記長は、「おれの顔をつぶすのか。」などと言った。
その後、一審原告石橋は帰宅し、妻の様子を見たが、苦しそうにして腹部をさすったりしていたので、一審原告石橋は、妻の介抱をして眠るまでその腹部をさすったりし、妻が眠ったのを確認した後、同僚が集まっている忘年会に顔を出した。
(エ) 一審原告石橋は、平成八年一月一日の勤務後の公休日であった同月五日に一審被告から呼出しを受けて出社した。一審原告石橋は、福田部長、後田次長、鹿山課長から、「妻が具合が悪いと言って仕事を早く上がり酒を飲みに行っただろう。会社に嘘をついて仕事をさぼった。」、「解雇されても仕方がないことだ。」、「自主退職扱いにするから辞表を書け。」と次々に責め立てられた。
一審原告石橋は、営業担当者に早退の許可をとったこと、実際に帰宅して妻の様子を見て介抱したことを述べて反論したが、福田部長らは、「結局その後飲み屋に行ったということは会社に嘘をついたことになる。」、「自主退職しなければ懲戒解雇にする。」、「懲戒解雇になればタクシーだけでなくどこにも就職できなくなる。」と脅し、一審原告石橋が「退職届を書くことはどうしても納得できない」と述べると、福田部長らは、「それなら懲戒解雇するしかない」と責め、結局、一審原告石橋は、同月五日付けの退職届を同月一〇日に提出する旨の念書(以下「本件念書」という。)を書かされた。
ところで、一審原告石橋の労働時間は、一審被告と一審原告タク労との間で取り交わされた協定書により、本来、午前八時から翌日の午前一時までとされており、その後は残業としての労働時間であったから、一審原告石橋には何らの勤務の懈怠はなかったのであるが、一審原告石橋はそのことを認識していなかった。
(オ) 一審原告石橋は、その後、納得できないまま控室に行き、その場にいた乗務員に一審被告の対応を話したところ、一審原告タク労に相談するように勧められた。一審原告石橋は、中央タクシー支部に所属する乗務員に相談すると、「君は一応今のところ誠和会に籍があるので、誠和会の幹部に相談してみて、駄目だったら、タク労に相談に来てくれ。」と言われた。
そこで、一審原告石橋は、誠和会の幹部に相談したところ、当初は一審被告を支持したものの、「明日役員会を開いてOKが出れば会社と話してみる。」ということになった。
一月六日、一審原告石橋は、馬場書記長に役員会の結果を尋ねたところ、「中央タクシー在職中は誠和会をやめないという念書を書けば会社と話してもよい。」と言われ、仕方なく右内容の念書を書いて出した。その後、一審被告の意向が「諭旨退職としたうえ、一か月か半月位の出勤停止処分を受け容れれば、正社員として戻れる。」というものであること聞き、さらに「誠和会にこの一件をすべて任せれば解雇しないということだ。」、「会社の言うとおりにするか辞めるしかない。」と言われた。
(カ) 一月八日、一審原告石橋は、誠和会に脱退届を提出するとともに、一審原告タク労に加入した。一審原告タク労は、一審被告が一審原告石橋を乗務させようとしないため、同日、一審被告に対し、一審原告石橋が一審原告タク労に加入したことを告げて、団体交渉の申入書を提出したが、一審被告は、同月九日、一審原告石橋が誠和会に在籍しているとして団交申入書を返した。
そこで一審原告石橋は、一審原告訴訟代理人を通じ、本件念書を撤回する旨の内容証明郵便を一審被告に送付した。そこで、一審被告は、一審原告石橋に対し、同月五日付け解雇通知書及び同月一〇日付け処分通知書を送付し、「誠和会との交渉の結果解雇通知を撤回して出勤停止処分とする。」との通知をして、本件出勤停止処分を行うとともに、本件配置転換を命じた。
(キ) なお、福田部長は、平成八年二月七日午後三時三〇分ころ、長崎駅において、一審原告石橋に引っ張られて肩からひっくり返って負傷したとして、長崎市内の山崎内科で肩周辺炎の病名の診断書をとったうえで、長崎警察署に一審原告石橋を傷害罪で告訴した。しかし、これは、本件出勤停止処分及び本件配置転換を正当化し、一審原告石橋に対しさらに新たな懲戒処分を行おうとする一審被告の意を受けて、福田部長が自作自演の芝居をしたもので、全くのでっち上げである。
ウ 一審被告は、一審原告石橋が誠和会を脱退して一審原告タク労に加入したことを知りながら、殊更に一審原告タク労を無視し、一審原告タク労との交渉を拒否して、誠和会との交渉によって一審原告石橋の解雇を撤回したとの外形を取り繕いながら、一審原告石橋が一審原告タク労に加入している限り乗務員として勤務させず、経済的不利益を与え続けようとして、報復的に本件出勤停止処分及び本件配置転換を行ったのであって、これらの処分には何ら正当な理由がない。
また一審原告石橋は、乗務員として一審被告に雇用された者であるところ、ドアマンへの本件配置転換は賃金の大幅な減額を伴うものであって、そのような労働条件の変更は使用者といえども労働者の同意なく実施することはできない。
したがって、本件出勤停止処分及び本件配置転換はいずれも無効というべきである。
(2) 不法行為ないし債務不履行
以上のとおり、本件出勤停止処分及び本件配置転換は、一審原告石橋に対する不当労働行為であって、不法行為を構成する。また、一審原告石橋は、乗務員として一審被告に雇用されたものであるから、何ら合理的理由なく賃金の大幅な減額を伴うドアマンとしての勤務を受忍すべき義務はなく、労働契約上、一審被告に対し、乗務員としての勤務を求める権利を有する。よって、一審被告の行為は、労働契約上の債務不履行にも該当するから、一審被告は、損害賠償責任を負う。
(3) 損害額
ア 原審請求分 三一六万〇〇二〇円
(ア) 給与減額分 一七六万五六八〇円
内訳は別紙一に記載のとおり
(イ) 賞与減額分 二九万四三四〇円
内訳は別紙二に記載のとおり
(ウ) 慰謝料 一〇〇万円
(エ) 弁護士費用相当損害金 一〇万円
合計 三一六万〇〇二〇円
イ 当審請求拡張分 一三八万一〇八六円
(ア) 給与減額分 一一六万八三二七円
内訳は別紙三に記載のとおり
(イ) 賞与減額分 二一万二七五九円
内訳は別紙三に記載のとおり
(4) 一審原告石橋を乗務員として処遇すべきこと
一審原告石橋は、乗務員として一審被告に雇用された者であり、契約によって定められた特定の業務に従事する義務があるだけではなく、その地位を合理的理由なしに使用者の恣意的判断によって変更され、その結果当初の労働契約で定められた職種に就労していたことによって得ていた賃金を大幅に削減され、自己とその家族の生活を破綻させる結果となることを受忍しなければならない義務までを負っているとまでいうことはできない。
このような結果をもたらす使用者の恣意的な業務命令は、労働契約上の信義則に照らし権利の濫用として無効である。そして、使用者がこのような信義則上の義務に反して労働者の労働契約上の乗務員の地位を不当に奪い、受忍の限度を超えて、労働者とその家族の生活が破綻せざるを得ないような過酷な経済的不利益を、長期間にわたって強要し続ける場合、労働者は、元のとおり労働契約に定められた乗務員としての処遇を回復することを使用者に求める特別の合理的利益を有するというべきであって、使用者の不当な措置を根本的に救済することになる乗務員たる処遇の回復を求めることができる。
(二) 一審被告の主張
本件出勤停止処分及び本件配置転換が適法、有効であることは次のとおりである。
(1) 平成七年一二月三〇日の一審原告石橋の勤務時間は、午前八時から翌日午前二時三〇分までとなっていたが、一審原告石橋は、同月三〇日午後九時ころ、一審被告の営業担当者に対し、口頭で、早退したい旨申し出た。これに対し、右営業担当者は、勤務時間終了時まで頑張るよう指示したが、一審原告石橋は、同月三一日午前一時ころ、帰社して洗車を始めた。鹿山課長がこれを見て、「早いのではないか。もう少し走らないか。」等と注意したところ、一審原告石橋は、自分も妻も体調が悪いことを理由にして早退させてほしい旨述べ、右注意に従わなかった。なお、午前二時三〇分までが所定内労働時間であることは、労使間で協議が調っていることである。
(2) ところが、一審原告石橋は、退社後、帰宅することなく、同僚と飲み屋街を歩いていたことが判明した。
一審原告石橋の勤務状況は従来から怠惰なものであり、しかも(1) に記載のとおり、一審原告石橋は年末のかき入れ時に虚偽の申告をして早退したため、一審被告は本件出勤停止処分及び本件配置転換をしたものであって、一審被告が一審原告タク労及び中央タクシー支部を嫌悪したことはなく、その弱体化を図るためにこれらの処分をしたものでもないから、これらの処分は有効であり、一審被告がこれらの処分をしたことが不法行為を構成することはなく、一審被告には債務不履行もない。
(3) なお、一審原告石橋は、長崎駅での福田部長の負傷について、一審被告を論難する。
福田部長が、同所において、一審原告石橋に対し、制帽を着用するよう指導したところ、一審原告石橋は、突然福田部長の左腕をわしづかみにし、これを振り払おうとした福田部長を強く押したため、同人は右肩から転倒し、右肩関節部を強打した。一審原告石橋は、なおも福田部長の襟首をつかんで揺すり、同人の頭部を数回路面に打ちつけるとともに大声で罵声を浴びせたのであって、一審原告石橋の暴行は事実である。
3 一審原告タク労関係
一審原告タク労が、一審被告に対し、本件賃金カットに至るまでの一審被告の一審原告タク労に対する対応、一審原告中村に対する本件譴責処分並びに一審原告石橋に対する本件出勤停止処分及び本件配置転換は、一審原告タク労の団結権を侵害する不当労働行為であり、また、本件書面は内容が虚偽であり、一審原告タク労を誹謗、中傷するもので、団結権を侵害するものであるとして、不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。当事者双方の主張は次のとおりである。
(一) 一審原告タク労の主張
(1) 一審被告の一審原告タク労及び中央タクシー支部に対する敵対的姿勢
一審被告は、中央タクシー支部が一審原告タク労に加盟して以来、一審原告タク労及び中央タクシー支部を嫌悪し、ことごとく敵視する労務政策を執拗にとり続け、これまで同支部所属の組合員に対し、解雇を含む懲戒処分を乱発するとともに、労使協議会や団体交渉の拒否、不誠実団交、同支部に加入しようとする従業員を正社員として採用しないなどの差別的取扱等様々な不当労働行為を繰り返している。本件傷害事件、本件譴責処分、本件出勤停止処分及び本件配置転換は、いずれも、一審原告タク労及び中央タクシー支部を嫌悪し、弱体化させるために行われたものであり、その意味は、これらの流れの中で意義付けられるものである。また、一審被告は、中央タクシー支部の弱体化を図るため、その組織切り崩し工作を展開して、昭和五八年一月、労使協調を旨とする誠和会を結成させた。
(2) 本件傷害事件に至るまでの一審被告の不法行為
ア 中央タクシー支部と一審被告は、平成五年の春闘時に、同年度の三六協定の締結に際して、適正な乗務員数の確保、二車三人体制(営業車二台につき乗務員三名が交代勤務する体制)の廃止と隔日勤務への移行を平成六年に実施することを確認した。そして、一審被告は、平成六年六月八日、同年度の三六協定の締結を申し入れたが、前年の労使間の確認事項がいずれも実施されていなかったため、中央タクシー支部は、協定案に対する調印を拒むとともに、平成七年までに約束を履行することをあらためて文書で確認するなら三六協定の締結に応じるとの姿勢を示した。しかるに、一審被告は、一審原告タク労と誠意をもって協議を行って問題の解決を図るという対応をとらずに、福田部長を「労働者代表」に仕立て上げて、当時過半数の労働者を組織していた一審原告タク労を殊更に除外して本件三六協定を作りあげて労働基準監督署に届け出るという支配介入の不当労働行為を行って、中央タクシー支部に対する敵対的姿勢を露骨に示した。
イ 本件賃金カットは、従前の労使間の協定に明確に違反するものであった。すなわち、一審被告は、従来労働時間内の作業として賃金支払の対象としていた「洗車時間」について、中央タクシー支部に事前の連絡・協議もなしに、一方的に本件賃金カットを行った。中央タクシー支部は、一審被告に話合いを申し入れたものの、これを拒否されたことから、平成六年七月九日付けで一審原告タク労名義で団体交渉を申し入れた。しかし、これに対し一審被告は、交渉内容の訂正・変更を挑発的に要求し、右申入れを拒否した。その後、地労委の斡旋の結果、同年八月一一日、一審被告は、一審原告タク労及び中央タクシー支部に対し同月一八日の労使協議会開催を申し入れたが、その日は一審原告タク労も中央タクシー支部も都合がつかなかったため、翌週の開催を求めたところ、一審被告は、「会社は日程を作ったのに拒否された。」として、以来、交渉を拒否し続けた。
ウ 前記ア、イの一審被告の対応は、中央タクシー支部の弱体化を図るためにした同支部の自主的運営に対する敵対的姿勢を露骨にした支配介入の不当労働行為であって、一審原告タク労の団結権を侵害する不法行為を構成する。そして、かかる行為によって一審原告タク労が被った損害のうち弁護士費用を除く額は五〇万円を下らないというべきである。
(3) 本件傷害事件及び本件譴責処分の不当労働行為性
一審被告は、親和銀行との給与振込に関する契約書(一条、四条)によれば、居住地域内に親和銀行支店がない若干名の乗務員について、親和銀行を「取りまとめ店」として従前どおり十八銀行に給与振込を行うことが容易に出来た。しかるに、一審被告は、中央タクシー支部に、このことを殊更に秘して、自らの都合で強引に全乗務員の給与振込先を親和銀行に変更させようとした。振込先変更に応じない乗務員の氏名を公表したり、わざわざ「給与現金受取理由書」を書かせて給与を現金支給するなどのいやがらせまで行う理由は、はじめから何もなかったのである。
あげくの果てに、一審被告は、福田部長を「従業員代表」に仕立て上げて、「賃金の銀行振込制度に関する協定書」を作成して、労働者の同意なしに給与振込先の変更を強行し、中央タクシー支部の自主的運営に支配介入している。一審被告が、殊更に右のような対応に出たのは、自己の意に従おうとしない中央タクシー支部を嫌悪した敵対的姿勢の発現という他はない。
野里顧問の一審原告中村に対する本件傷害行為は、中央タクシー支部の組合活動(団体交渉申入書の作成)そのものに直接に向けられた阻止行動というべきもので、その自主的運営に対する支配介入の最も典型的な不当労働行為というべきである。そして、本件譴責処分は、何ら正当な理由のない無効な処分であり、一審原告中村が一審原告タク労の方針に従って刑事告訴に及んだことに対する報復的な不利益処分の不当労働行為なのである。
(4) 本件書面掲示の不法行為性
ア 平成七年五月二〇日、一審原告タク労及び中央タクシー支部と一審被告との間で同年度の春闘における団体交渉が行われ、その際、その後の交渉が誠和会と一審被告との間の合意内容に左右されないことの確認がなされた。したがって、本件書面の記載のうち、「その結果貴組合の立場として主張すべき事項は存在するが、今日の売上低下による会社経営の困難性を認識し、前出組合との合意内容を了解する旨の合意に至りました。」、「同月二九、三〇日両日の職場集会を経た後に組合として、平成七年度賃金協定書及び確認書に署名捺印するとの確約を得たところです。」の部分は虚偽である。
イ また、本件書面の記載のうち、「これが満足されなければ賃金決定にもとずく労使の権利義務を約定する内容である協定書に調印出来ないとするのは言わば協定書を人質にとった不当交渉でないのか?」、「しかるに植松一博支部長は、そもそも協定書に付随してこれ等の複数の文書が作成されるのは不都合である等と言ったおよそ今日迄の度重なる交渉経過から見て社会的道義的に問題ある発言を繰り返し、調印するのを拒否し、改めて団体交渉を申し出る等と言ったおよそ人格的に問題有りと思われる態度をとるに至りました。ここに及んで会社は支部長の態度は明らかに会社経営を混乱させる悪質な意図にもとずく交渉姿勢であり、多数の貴組合員の経済的利益を無視した暴挙であると判断し交渉を打切るに至りました。」の部分は、職場集会において中央タクシー支部の組合員の意見を集約し、その要求を実現すべく交渉を行ったことについての誹謗、中傷であり、また、「この責任はあげて組合支部長の組合を私物化した独断専行によるものであります。会社はかかる非常識な組合指導者が存する以上今後一切貴組合との交渉は不可能と判断します。」の部分は、一審原告タク労に対する誹謗、中傷であり、その自主的運営に対する支配介入である。
ウ これらの記載内容は、明確に事実に反し、又は、殊更に事実を歪曲しており、その目的も一審原告タク労の正当かつ自主的な組合活動を殊更に誹謗、中傷することによって一審原告タク労を弱体化させようとするものであって、使用者側の正当な言論活動として容認される限度を逸脱した違法、不当なものであり、これにより一審原告タク労の名誉、信用は著しく毀損され、その自主的活動を露骨かつ不当に侵害されたから、本件文書の掲示は不法行為を構成する。
そして、かかる行為によって一審原告タク労が被った損害のうち弁護士費用を除く額は五〇万円を下らない。
(5) 本件出勤停止処分及び本件配置転換の不法行為性
一審被告は、一審原告石橋が誠和会を脱退して一審原告タク労に加入したことを知りながら、一審原告タク労の弱体化とその組織破壊を目的として、一審原告タク労の団体交渉の申入れに対してはこれを強引に拒否し、既に一審原告石橋自身が脱退を表明し、かつ、自ら石橋処分問題から手を引くことを通告していた誠和会を交渉当事者として、一審原告石橋の懲戒処分を決定し、さらに、一審原告タク労に加入した一審原告石橋をさらし者として、殊更にみせしめ的にドアマンとしての勤務を継続させているものであって、極めて悪質な支配介入の不当労働行為であり、団結権侵害の不法行為であるというべきである。
かかる行為によって一審原告タク労が被った損害のうち弁護士費用を除く額は五〇万円を下らない。
(6) 弁護士費用相当損害金
一審原告タク労は、一審原告訴訟代理人に対し、着手金及び報酬として総額二〇万円を支払う旨約しており、一審被告はその全額を賠償すべきである。
(二) 一審被告の主張
(1) 一審原告タク労の主張(1) について
中央タクシー支部が一審原告タク労に加盟して以来、一審被告が同支部の組合員を解雇したことはなく、その他の懲戒処分をする際もその都度一審原告タク労と協議しており、中央タクシー支部の組合員に対し懲戒処分を乱発したことはない。また、一審被告が正社員採用にあたって差別的取扱いをしたり、あるいは、同支部を嫌悪したり、その組織切り崩し工作を展開したりしたことはない。
(2) 一審原告タク労の主張(2) について
「二車三人体制」の対象者は、正社員任用前の者及び誠和会所属の組合員に限られており、平成六年六月当時、中央タクシー支部との協議の中で同体制が問題となったことはなかった。
本件賃金カットは、本件三六協定に基づくものであるが、一審被告が中央タクシー支部との合意のないまま同協定書を労働基準監督署に届け出たのは、同協定書中の乗務員数の記載の誤りの問題と公傷害の認定の問題で、一審被告と中央タクシー支部との間で不毛の論議が繰り返された結果、時間外労働について協定ができず、違法状態となることが心配されたためである。
また、地労委のあつせんにより一審被告が一審原告タク労及び中央タクシー支部に対し労使協議会の開催日として提示したのは、平成六年八月一八日及び同月一九日の両日であった。ところが、このうち同月一八日については一審原告タク労本部の役員の都合がつかないとの回答があり、同月一九日については中央タクシー支部の支部長が個人的用件で旅行をするので開催できないとの回答がなされた。しかし、その後も一審被告が一審原告タク労及び中央タクシー支部との団体交渉を拒否したことはなく、再三にわたり団体交渉は実施された。
(3) 一審原告タク労の主張(3) について
本件傷害事件及び本件譴責処分についての主張は、前記1(二)のとおりである。
(4) 一審原告タク労の主張(4) について
一審原告タク労が主張する労使間の確認は、平成七年五月九日の交渉時点のものであり、同月二〇日の交渉では本件書面の記載どおりの協議が成立しており、協議が成立したからこそ、中央タクシー支部の職場集会が予定されていたのであって、本件書面に虚偽の記載はない。
ところが、その後、一審原告タク労の組合員から、協定書について枝葉末節にわたる文言の修正の申し出があり、一審被告は可能な限りこれに応じたものの、いつまでも枝葉末節にこだわるのは労使間の信義に反する不当な行為と判断し、本件書面を掲示したものである。
(5) 一審原告タク労の主張(5) について
本件出勤停止処分及び本件配置転換にかかる主張は、前記2(二)のとおりである。
第三争点に対する判断
一 本件事案にかかる総括的認定事実
第二の一の事実及び証拠(甲四八、五四、五五、一〇六、一一六、一二六、乙一一の一部、五四の一部、証人植松(原審及び当審)、証人福田(原審)の一部、同野里(当審)の一部、同安藤(当審)の一部、一審原告中村本人(原審)、一審原告石橋本人(原審及び当審)、一審被告代表者(原審)の一部、後記該当部分で掲記する証拠)を総合すると、概要以下の事実が認められ、右認定に反する証拠(甲一一ないし一三、乙一一、四九、五四、証人福田(原審)、同野里、同安藤(いずれも当審)、一審被告代表者(原審))の各一部は、後記のとおり採用しない。
1 一審原告タク労及び中央タクシー支部と一審被告との平成六年七月ころまでの関係について
(一) 一審被告が過去中央タクシー支部組合員に対してした処分等(甲四八)
中央タクシー支部が一審原告タク労に加盟した昭和五七年一二月以降、一審被告は、同支部組合員に対し、次のとおり懲戒解雇処分をした。<1>昭和五七年一二月二日の四名の組合員に対するもの(ただし、その後の労使交渉により退職、再雇用の扱いとされた。)、<2>同年一二月七日の一名の組合員に対するもの(ただし、その後の労使交渉により自主退職の扱いとされた。)、<3>昭和五八年四月二九日の一名の組合員に対するもの(ただし、その後の労使交渉により一週間の出勤停止処分とされた。)、<4>昭和六一年一一月二五日の一名の組合員に対するもの(ただし、その後、地位保全の仮処分を得て復職した。)
また、一審被告のした懲戒処分の扱いにおいて、次のような例があった。<1>勤続一年六か月の一審原告タク労の組合員が暴行事件を理由に一年間の年功剥奪処分を受ける一方、誠和会所属の乗務員に対しては処分がなされなかった例、<2>就労後に営業所で飲酒した後仮眠をとって帰宅した一審原告タク労の組合員四名が、いったん懲戒解雇処分を通告されたうえ、最終的に年功剥奪、一時金なしの処分を受ける一方、就労中に飲酒した誠和会所属の従業員は、単なる依願退職を勧告された後、最終的に年功剥奪、一時金なしの処分を受けた例、<3>一審原告タク労の組合員が長崎駅構内で乗車拒否をしたとして懲戒解雇処分を通告され、その後労使交渉の結果三か月間のドアマンとしての勤務を命じられる一方、途中下車を強要した誠和会の乗務員に対しては、氏名も明らかにしないまま注意を呼びかける告示がなされただけで、その後一審被告の対応が不公正と指摘されて、ようやく駅入構禁止一か月の処分を受けた例。
(もっとも、これらの各事例については、原因となる事実関係及び各処分に至った経緯を認めるに足りる的確な証拠は存しないから、この事実のみをもって、一審被告が、この当時、一審原告タク労及び中央タクシー支部に対し、敵対的労務管理政策をとっていたことを推認するに足りない。)
(二) 本件三六協定について(甲一一、一二、二六の1、四六、四七、一〇一の4、一二五の1、乙五四)
(1) 一審被告では、平成五、六年ころは、中央タクシー支部の方が誠和会より、僅かに組合員数が多かったところ、平成五年一〇月から、中央タクシー支部執行部の体制は、植松支部長、小宮副支部長、一審原告中村書記長ほかの体制となった。
そして、一審原告タク労は、平成六年度春闘において、九六時間ストライキを決行し、一審被告と一審原告タク労及び中央タクシー支部との労使関係は、激しく対立するようになっていった。一審被告は、九六時間ストライキが団体交渉を含む正常な労使関係を構築できない原因であるのは明らかであるとの認識を示している。
(2) 中央タクシー支部は、平成五年度において、一審被告に対し、二車三人体制の廃止を要求していた。ただし、二車三人体制の対象者は、正社員雇用前の者及び誠和会所属の組合員に限られており、一審原告タク労組合員の労働条件に直接の影響を及ぼすものではなかった。
同体制の勤務条件は、一週間をA勤務(午前八時から午後九時まで)を二回、B勤務(午前一〇時から翌日午前二時まで)及びC勤務(午前一〇時から翌日午前五時まで)を各一回、非番を二回、公休日を一回のサイクルで回すものであって、C勤務の場合、連続拘束時間が一九時間に及ぶなど乗務員の負担が重いうえ、中央タクシー支部では乗客の安全輸送にも不安があるとして、平成五年度の三六協定締結時から同体制の廃止を求め、平成六年の団体交渉では文書による廃止の約束を求めたが、一審被告はこれに応じなかった。
(3) 一審原告タク労及び中央タクシー支部と一審被告は、平成六年六月八日、賃金協定を締結した。
前年度の賃金協定によれば、勤務は、始業時間午前八時、終業時間午前一時までの隔日勤務とされ、一審被告は、午前一時から午前二時までの一時間に対して所定残業の割増賃金を支払う、労使はこの時間を当然に拘束時間と解し、当該時間の完全消化を図るものとするとされていた(甲一二五の1)。 平成六年度の賃金協定は、勤務は、始業時間午前八時、終業時間午前一時までの隔日勤務とされ、一審被告は、午前一時から午前二時三〇分までの一時間三〇分に対して所定残業の割増賃金を支払う、労使はこの時間を当然に拘束時間と解し、当該時間の完全消化を図るため、賃金上は「積み上げ方式」により算定し支給するものとするとされた(甲二六の1)。
(4) 一審被告は、平成六年六月八日、中央タクシー支部に対し、三六協定締結を申し入れ、協定案(甲四六)を示して調印を求めた。右協定案には適正乗務員数の確保がされていないにもかかわらず実在しない乗務員数が記載されていたほか、二車三人体制の廃止と隔日勤務への移行も実施されず、夏期一時金の算定、公傷害の取扱いについての問題(業務上休んだのに欠勤扱いして一時金を支給しなかったというもの)があったことから、同支部は調印を拒否し、改めて夏期一時金支給日前の話し合いを求めた。
ところが、一審被告は、管理職を従業員代表者にすることには問題があると認識しながら、福田部長(平成五年一〇月から平成八年五月三一日まで営業部長、その後一年間は参与。)を従業員代表者とすることで誠和会の了承を取り付けたうえ、福田部長との間で本件三六協定に調印し、一審被告はこれを労働基準監督署に届け出たが、本件三六協定文書を一審原告タク労には開示しなかった。
(三) 本件賃金カットについて(甲一八、一九、二五、二七、二八、四八、一〇六、一一五)
(1) 一審被告は、平成六年七月八日、本件賃金カットを行った。その理由は、従来は帰庫後の洗車時間も含めて賃金支給の対象としていたのを、中央タクシー支部が本件三六協定の締結を拒否したことから、午前二時から二時三〇分までの洗車時間を実労働時間として評価せず、就労していないと判断したからであった。この洗車時間の取扱いについては平成六年度春闘における賃金交渉でも話題に上ったことはなかったため、一審原告タク労は、同月九日、団体交渉を申し入れた(甲一八)。交渉事項は、<1>賃金カットの件、<2>一時金支給の件、<3>業務上事故の件、<4>その他の四点とされた。<2>及び<3>は、要するに公傷欠勤者の取扱問題の件であった。
これに対し、一審被告は、同月一一日付けで回答書(甲一九)を出し、<2>については中央タクシー支部の役員に回答済みであることを理由に撤回を求め、<3>については、同支部が本件三六協定の調印を拒否したため、一審被告としてはこのような行為は組合として当事者能力に欠けるものと判断したため、労使協議を開催するに至らなかった、ただ、話し合いの必要はあったので、誠和会との間で話し合い、既に合意ができているとして、交渉を拒否したので、一審原告タク労は、<4>については交渉事項の特定をしたうえ再度の交渉申入れを求めたが、一審被告は、<1>については、「本来協定書において決定された基準に基づき実施されたものであるから、これに関する団体交渉であると言う以上、基本となる今次賃金決定内容を、貴組合が否定されるのかどうかについて、文書でまず回答されたい。」とした。
(2) 一審原告タク労は、一審被告の回答に対し、同月二六日、地労委にあつせんの申立てをした(甲二七)。地労委のあつせんの結果を受けて、同年八月一一日、一審被告は、一審原告タク労及び中央タクシー支部に対し、同月一八日の労使協議会開催を申し入れたが、その日は、一審原告タク労及び中央タクシー支部側の都合が悪かったため、一審原告タク労及び中央タクシー支部は、翌週の同会開催を求めたが、結局日程が決まらなかった。(このころに、後記の本件傷害事件及び本件譴責処分を巡る問題が発生した。)
さらにその後、地労委のあつせんにより、一審原告タク労及び中央タクシー支部と一審被告との間で協議及び団体交渉が行われ、最終的に平成七年二月一六日の労働基準監督署の勧告を経て、同年三月四日に一審被告が本件賃金カット分の返還する金額を明示したので解決した。
2 本件傷害事件の発生(甲一の1、2、二ないし五、八ないし一五、三五、三六、五六の1ないし8、乙六、一四、一六、四五)
(一) 従業員給与振込取扱銀行の変更問題の提起
(1) 一審被告は、平成六年八月一三日、従業員給与振込の取扱銀行を従来の十八銀行から親和銀行に変更する旨、申込みは同月二〇日までである旨の文書を社内に掲示し、安藤支配人は、一審原告中村にその旨説明した。
一審被告は、同月一五日、親和銀行との間で、「給与振込に関する契約書」(乙一六)を締結しているが、その二条は「取扱店は、親和銀行の本支店、並びに親和銀行が給与振込の提携をしている銀行の本支店」と定めている。したがって、従業員が親和銀行以外の銀行を取扱銀行と指定することも可能であったのに(乙五四には、一審被告の資金事情、事務処理対応能力からして、これは無理であったとの部分が存するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。)、一審被告は、中央タクシー支部役員にはこのような説明を何らしなかった。
(2) 一審原告タク労及び中央タクシー支部は、給与振込取扱銀行の変更それ自体については、個人の問題であり、こだわらないことを確認したが、同支部の組合員の中には、居住地域内に親和銀行の支店がなく、給与引き出しに困ることになる者が三名いたため、これらの者に対する対応を一審被告と協議することを決め、同月一四日、福田部長に対し、一審被告との団体交渉を申し入れ、右問題につき中央タクシー支部としては労組協議会を開催したうえ、職場集会で組合員の意見を聞いて決定する予定である旨述べた。
他方、安藤支配人は、同月一五日、小宮副支部長及び一審原告中村に対し、給与振込取扱銀行の変更について説明し、協力を依頼した。一審原告中村は、振込先変更に伴い居住地域の関係上不都合が生じる人たちへの配慮を申し入れたところ、安藤は了解する旨答えた。
植松支部長も、同日、後田次長に対し、給与振込取扱銀行の変更の問題に関して、一審被告との団体交渉を申し入れた。
(3) これに対し、一審被告は、同月二四日、鹿山課長において、近いうちに団体交渉をする旨の回答をし、後田次長も同旨のことを述べたが、同月二七日になり、突然福田部長において、団体交渉を行わない旨の通告をしたため、植松支部長ら中央タクシー支部の役員五名は、同月二九日、野里顧問(同人は、平成五年に退職するまで一審被告の営業部長として勤務していた者で、退職に伴い一審被告との間で顧問契約を結んだ。)に対し、その理由の説明を求めるとともに、改めて団体交渉を申し入れた。なお、同日には、ローン借入や自動引き落とし等の諸変更手続申込みについて、本件説明会を開催する旨の掲示がされていた(甲三六、乙六)。
中央タクシー支部の右要求に対し、野里顧問は、「口座を作らないと話し合いはしない」、「給与振込については、個人の問題であり協議の必要はない。三一日から四日間親和銀行から説明に来るので、役員も説明を受ければよいし、質問もすればよいではないか。」と述べた。これを受けて一審原告中村は、「銀行振込については個人の問題ではあるが、協定事項でもあり、後田次長によると、昭和五三年に協定がされているとのことであり、これを変更するには協議をするべきである。三一日からの説明は聞きに行く。」と述べた。
(4) 一審被告は、同月三一日、給与振込取扱銀行変更の問題について、午後一時から会議室において、本件説明会を開いた。植松支部長、小宮副支部長ほか二名の同支部役員も、同日、本件説明会に参加するため会議室前に集まった。なお、小宮副支部長は、当日は乗務日であったが、職場離脱届を提出していなかった。
これに対し、野里顧問は、中央タクシー支部役員が押し掛けてきたものと考え、二七日とはうって変わって、「お前たちは何しに来た。親和に変更しない者には関係ない。帰れ。」、「役員には聞かせない」、「口座を作ってない者に聞かせる必要はない」と怒鳴るなどして右中央タクシー支部の役員らに退去を命じた。(中央タクシー支部役員らは、変更に応じない組合員三名を残したままではいけないと考え、親和銀行の口座を作らなかった。甲八、一二。野里顧問の発言は、このことを前提としている。)
このため、植松支部長らと野里顧問は、会議室前で長時間の押し問答となった。そこで、小宮副支部長は、同日午後二時三〇分ころ、中央タクシー支部書記長である一審原告中村の応援を求めた。一審原告中村は、当時、乗務中であったものの、無線での呼出しに応じて、会議室前に現われ、押し問答に加わった。
(5) その後も埒があかないため、一審原告中村らは、控室に移動し、協議をした末、給与振込取扱銀行変更の件等の問題で一審被告に団体交渉を申し入れることを決め、申入書の作成を始めた。なお、このとき一審原告中村は、職場離脱手続をとっていなかった。
すると、同日午後三時三〇分ころ、野里顧問が、福田部長、後田次長及び鹿山課長とともに、控室にやって来た。野里顧問は、集まっていた中央タクシー支部役員らに対し、「食堂はお前たちの事務所じゃなか。ここを組合員の会議室代わりに使用するな。」、「お前たちはここで何ばしよっとか。出て行け。ここは会社の控室だぞ。誰の許可を取っとっとか。出て行け。」、「中村、小宮、お前たちは勤務中だろうが。仕事に行け。」などと言って控室から出ていくように命令した。野里顧問が一審原告中村及び小宮副支部長の職場離脱を問題にしたのはこの時点であるが、両名に職場離脱届を出すようにとは言わなかった。
植松支部長らは、「私たちの組合事務所の所在地はここになっている。それも社長の許可を受けている。事務的なことはいつもここで済ませている。慣行になっている。それに今団体交渉申入書を書いている。職権乱用も甚だしい。」などと、一審原告中村は、「団交申入書をもう少しで書き上げるけん、待っとかんね。」、「乗車時間の一三時間はきちんと働く」などと抗議した。(日頃鹿山課長は実走一二時間位を指導しており、一審原告中村の右発言はこれを念頭に置いている。)
野里顧問は、これらの応対に興奮して、小宮副支部長の胸を押したりした後、一審原告中村の胸部等を強く押し、体勢を崩させて、一審原告中村の右腕をアルミサッシのドア枠に強打させ、通院加療一〇日間を要する右前腕部擦過挫創、打撲傷の傷害を負わせた。
なお、中央タクシー支部役員らが控室に止まっていた間に、他の従業員の控室の利用が阻害されることはなかった。
3 本件譴責処分等(甲一六、一七の1ないし3、三七ないし三九、乙四の2、八、一五の1、2)
(一) 中央タクシー支部は、一審原告中村が負傷したため、即日、一審原告タク労に対し報告し、一審被告に対し、団体交渉を申し入れた。
一審被告は、同年九月一日、本件傷害事件は野里顧問の過失行為によるものと位置付け、野里顧問を、就業規則九一条によるとして、戒告処分をした。
一審原告中村、後田次長、鹿山課長は、九月二日、本件傷害事件の事後処理について話し合った。一審被告側は、本件傷害事件は遺憾に思うが、野里顧問の過失である、賃金も治療費も一時金も補償する、示談金も三万円程度用意している、ただし、営業収入の補償はしないと表明した。一審原告中村は、野里顧問が謝罪せず、内容的にも不満であり、また、一審原告タク労本部に処理を委せていたので、示談を断った。
(二) 一審原告タク労及び中央タクシー支部と一審被告との間で、同年九月六日、団体交渉が行われ、その席上、一審被告側は、「八月三一日の中村氏に対する負傷事故については、(野里顧問の)過失であるので懲戒処分、戒告とする。このようなことが起きたことは遺憾に思う。今後このようなことのないように。」という内容の社長見解なる文書を読み上げ、一審原告中村が勤務時間中であるのに勤務に就かなかったので指導していた中での事故であるとした。
一審原告タク労は、一審被告の就業規則中の懲戒に関する条項に戒告処分の規定はなく、また懲戒解雇処分が相当と考えていたため、納得できない旨述べて一審被告の再検討を求めた。しかし、福田部長及び後田次長は、「見解の相違がある。」、「過失事故である。」と述べ、右交渉は決裂した。
このため一審原告中村は、同月七日、一審原告タク労の意を受け、長崎警察署に野里顧問を傷害罪で告訴した。その結果、野里顧問は、同年一二月二六日、傷害罪で罰金一〇万円の略式命令を受け、同命令は確定した。
(三) 一審被告は、同年九月七日、同月一〇日の給料支給日を前に、給与振込取扱銀行を親和銀行へ変更をしない者については、給料を現金支給する旨及びそれに該当する者の氏名を告示した(甲三七)。
そこで、中央タクシー支部役員らは、同月一〇日、一審被告に対し、右告示について追及した。一審被告代表者は、親和銀行に変更しない者についての配慮は一切考えてないと言明したため、中央タクシー支部役員らは、引き続いて後田次長に面談したが、同次長は、十八銀行とは取引がないので、労働基準法の原則に戻したと返答するのみであった。
他方、一審被告は、右交渉の経緯については異なる認識の下に、同月一二日、先に中央タクシー支部役員らが、同月八日及び一〇日に一審被告事務所へ乱入して団体交渉を強要し、業務妨害をした、今後中央タクシー支部がこのような行為を取る限り、あらゆる団体交渉を拒否する場合があるとする旨の警告書(甲三八)を出した。
(四) 一審被告は、同年九月二八日、再び本件三六協定を締結した方法と同様、従業員代表としての福田部長(誠和会は福田部長に委任した。乙一五の2。)と「賃金の銀行口座振込制度に関する協定書」(乙一五の1)を締結した。これによると、振込銀行は、一審被告が取引を有し、かつ、指定する銀行の本支店で、従業員が指定するところされ、取扱銀行を制限するものであった(乙一五の1及び2)。
そして、一審被告は、同年一〇月四日、中央タクシー支部に対し、給与振込に関する労使協議会の開催を申し入れ、協議の場が持たれたが、一審被告側は、親和銀行への変更をしないと、協定には応じないとの態度を固持し、物別れに終わった。
さらに、一審被告は、同月一〇日の給料支給日を前にして、給与振込取扱銀行を親和銀行へ変更をしない者について給料を現金支給すること、一審原告タク労組合員についてのみ、同原告が引き去りについての協定書締結を拒否したとして、チェックオフを停止する旨告示した(甲三九、乙八)。
(五) 一審被告は、同年一〇月一四日付けで、一審原告中村に対し、本件譴責処分をした(甲一七の1ないし3)。これによると、本件譴責処分は、就業規則九九条3(正当な理由、または手続きがなく、欠勤、遅刻、早退、または職場、車輌から離脱したとき。)及び4(業務上の指示、命令に従わないとき。)に基づくとされ、「処分遅延の理由について」と題する書面(別紙五)には、要旨、一審原告中村が刑事告訴に及んだことから、一審被告としても、野里顧問のみに不当な社会的判断が下されないように、公平な処分をするとの立場で、<1>正式の乗務離脱手続がなされないままの状況下であったこと、<2>他の管理者全員から乗務復帰を指示されていたにもかかわらず、これに従わなかったことから、一審原告中村が原因を作ったとされている。一審被告の就業規則上、譴責は「将来を戒める」もので、最も軽い懲戒処分とされている(乙四の2)。
一審被告代表者は、一審原告中村と野里顧問の間で示談ができれば、一審原告タク労に対する警告をするに留め、一審原告中村に対する懲戒処分をするつもりではなかったが、示談を拒否され、刑事告訴もされたので、懲戒処分をすることになったとする。
4 平成七年度春闘の状況及び本件書面の掲示(甲二六の1、3、三〇、三三、四〇、四一の1ないし3、四二の1ないし3、四四の1ないし4、六二)
(一) 平成七年三月になって、前記本件賃金カットの問題が解決を見たが、同年度の春闘の労使交渉は、一回目が同月二三日に、二回目が同年五月九日に行われた。右二回目の労使交渉において、次回五月二〇日(三回目)の労使交渉で妥結を目指すことが確認され(甲四一の1及び2)、五月二〇日に妥結しなければ一審原告タク労はストライキをすることになっていた。
二回目の労使交渉の席上、一審原告タク労の本部書記長楠田昭義(以下「楠田」という。)が、一審被告側に対し、既に一審原告タク労が統一八社(長崎市タクシー経営者協議会に加盟する八社を指す。)との間で妥結していた、傷病を理由として有給休暇取得の事後承認を求める場合には保険証を明示し、さらに場合によっては診断書を明示するとの協定の内容を説明した(甲四一の1、2)。
(二) ところが、一審被告は、二回目の交渉の翌日、一審原告タク労に対し、同年五月一〇日付け「平成七年度春闘交渉に関する申入れ書」と題する書面(甲四〇)を差し入れた。右書面には別紙六のとおりの記載がなされているが、要旨は、誠和会加入者が上回ったので、誠和会との間で交渉を妥結するものとし、これを前提として一審原告タク労と交渉するとされている(甲四〇)。
(三) 三回目の交渉は、五月二〇日、一審原告タク労側から、松本勲本部委員長、楠田本部書記長、植松支部長のほか、中央タクシー支部の役員数名が、一審被告側から、野里顧問、後田次長、鹿山課長らがそれぞれ出席して行われた。その席上、まず、一審原告タク労側が前記申入れ書(甲四〇)の内容を問題にしたところ、野里顧問は、誠和会との妥結内容の説明であり、一方で妥結しているものを変更はできないと言明したが、最終的には一審原告タク労が他の組合の合意内容に拘束されるものではないことを認めた。なお、同日の交渉に先立ち、一審原告タク労側では中央タクシー支部の職場集会を開き、意見の集約をした。
(四) 三回目の労使交渉の結果、<1>賃金及び一時金の基準、<2>低営業収入者の指導基準、<3>勤務時間のスライドの件、<4>有給休暇取得の条件、<5>労働協約の改定、労働時間の短縮、四年台替えの件、<6>仕業点検の時間スライドの件、<7>一審被告の営業努力の件等の事項につき、概ね、労使双方の合意ができ、一審被告において協定書文案を一審原告タク労に示し、それで良ければ調印する運びとなった。
右<2>は、平成六年に一審原告タク労と一審被告との間で締結された協定(以下「平成六年協定」という。)では、営業収入が前年同月の統一八社の乗務員の平均営業収入の八八パーセン卜以下の者に対しては一審被告が指導を行い、三回指導を受けた者の賃金体系は原則として長崎県の最低賃金基準によるものとされていたところ、一審被告側は営業収入の比較の対象を統一八社の乗務員のものから、一審被告の乗務員のものへと変更したい旨の提案をし、一審原告タク労側がこれを拒み、従来どおりとすることで合意がなされたものである。
右<3>は、平成六年協定では、勤務時間は、始業午前八時から終業翌日午前二時三〇分まで(残業時間を含む。)が原則であったものの、二時間を限度としてこれを早い時間にスライドさせることができることになっていたが、早朝には乗客が少ないため、一審被告はスライドを制限することを望んでおり、交渉の結果、午前六時から午前七時の間に始業した場合のみスライドできることとし、その代わりに一審被告は洗車場、駐車場を早急に完備するというものである。
右<4>は、有給休暇のうち日曜祭日の取得を一五パーセントまで認め、その他の取扱いは従来通りというもの、右<5>は、労働協約の改定、労働時間の短縮、四年台替えの問題については一審原告タク労と統一八社との交渉の結果に沿い交渉を進めていくというもの、右<7>は、一審被告は営業収入確保のために遊休車両の稼動に努めるというものである。
なお、この日の交渉では、有給休暇取得の事後承認を求める手続の問題は、少なくとも中心的な話題にはならなかった。
(五) 一審被告は、同年五月二八日ころ、同月一三日に既に調印されていた誠和会との間の協定書二通及び確認書一通の各写し(これらの本文の記載内容は、別紙七ないし九のとおりである。)を一審原告タク労側に渡し、これらと同内容の協定書及び確認書への調印を求めた。
一審原告タク労は、渡された協定書文案が誠和会と一審被告との間の協定書等であったため、検討を加え、同月二九日及び三〇日の両日、中央タクシー支部の職場集会を開き、その結果、一審被告から調印を求められた右協定書二通及び確認書一通の文言中、以下の八項目に関して追加、削除又は訂正を求めることとした。
(1) 別紙七の協定書中、1<2>の末尾に「会社は洗車場の整備及び乗務員の通勤車輌の駐車場について改善をする」との文言を追加する(甲四二の1)。
(2) 別紙七の協定書中、3の「例 6時14分出社は、6時出社と見なし、」を、「例 6時15分出社は、6時出社と見なし、」と訂正する(甲四二の1)。
(3) 別紙七の協定書中、7の「本協定の実施期間は、平成7年4月1日より平成8年3月31日迄とする。」のうち、「平成8年3月31日迄」の文言を削除する(甲四二の1)。
(4) 別紙八の協定書中、1(ロ)の末尾に「定年退職者で支給条件を満たしていながら賞与支給当日在籍しない者に関しては、特別措置として当該賞与は支給するものとする。」との文言を追加する(甲四二の2)。
(5) 別紙九の確認書中、6の「傷病に基づく有給休暇に関しては、入通院治療の証明書として、保険証を呈示することを必須条件とする。」を、「急病、急用に基づく有給休暇に関しては、薬袋または領収書を呈示することを必須条件とする。」と訂正するとともに、その後に「日祭日の有給取得制限枠の改定により、有給制限枠を15%及び冠婚葬祭は除く。」との文言を追加する(甲四二の3)。
(6) 別紙九の確認書中、8<1>の冒頭に「統一8社の」との文言を追加する(甲四二の3)。
(7) 別紙九の確認書中に、「営収確保のために遊休車輌を稼働させるための努力を会社は行う。そのために労使は改善のため協議を行う。」との項目を追加する(甲四二の3)。
(8) 別紙九の確認書中に、「4年台替えは確認書の交換後に行う。」との項目を追加する(甲四二の3)。
(六) 同年六月一日、一審原告タク労側からは植松支部長、小宮副支部長、一審原告中村ら中央タクシー支部の役員が、一審被告側からは福田部長、後田次長、鹿山課長らが各出席のうえ、再度労使交渉が行われた。その席上、一審原告タク労側から右(五)(1) ないし(8) のとおりの申入れがされ、右出席者間において、一応以下のとおりの合意がされた。
(1) 第(1) 点については、一審被告は早急に洗車場の整備及び乗務員の通勤車輌の駐車場を改善する。
(2) 第(2) 点については、六時一五分出社を六時出社とみなす運用を行う。
(3) 第(3) 点については、「平成8年3月31日迄」の文言を削除する。
(4) 第(4) 点については、次年度の協定書に記載する。
(5) 第(5) 点については、「急病、急用に基づく有給休暇に関しては、薬袋または領収書を呈示することを必須条件とする。」と訂正の上、有給制限枠を一五パーセントとし、冠婚葬祭の場合は従来どおり除くこととする。
(6) 第(6) 点については、「統一8社の」との文言を追加する。
(7) 第(7) 点については、一審被告は六月以降一審原告タク労の組合員にも公休出勤を実施し、一〇〇パーセント稼動に努力する。
(8) 第(8) 点については、統一八社の確認書が締結された時点でこれに合わせる。
(七) 同年六月三日には、一審被告が訂正、追加、又は削除すると回答した右(六)(3) 、(5) 及び(6) の三点に限って、前記同メンバーでさらに一審原告タク労と一審被告との間で交渉が行われた。
一審被告側は、右(六)の(3) 点については、「本協定の実施期間は、平成7年4月1日よりとする。」と読み替える旨、同(6) 点については、「統一8社の」との文言を挿入して文章を構成する旨各回答し、一審原告タク労側もこれを了解した。
しかし、一審被告側は、同(5) 点については、営業部が事実上の扱いとして事後承認として処理する旨回答し、一審原告タク労側は確認書自体の文言の訂正を求めた。これに対し、一審被告側は、福田部長、後田次長及び鹿山課長の三名が署名押印した事後承認と理解できる覚書を提示することで理解を求め、確認書の文言自体の訂正には難色を示した。一審原告タク労側は、あくまでも確認書上「傷病」の文言を「急病(事後承認)」と訂正することを要求し、これに対して一審被告側は、「社長も事後承認であると理解している。これ以上社長に頼めないことに理解を求めたい。」と回答した。そこで、さらに、一審原告タク労側は、「社長自身が事後承認であると理解しているなら、確認書の訂正をお願いする。」と求めたため、結局この日の合意には至らなかった。植松支部長は、一審被告側に対し、右問題点についてさらに再検討をするよう求めたが、一審被告側は、「これ以上社長に頼むことはできないし、ここまでの回答しか権限の委任は受けていない。これが不服であれば白紙に戻すほかはない。」と述べたので、植松支部長は、後日に団体交渉を申し入れる旨述べた。
(八) 一審被告は、平成七年六月四日、本件書面を掲示した。植松支部長は、一審被告に対し、中央タクシー支部に対する謝罪を求めたが、「キチガイに謝罪の必要はない」との返答があった以外、本件書面についての一審被告からの釈明等は何もされていない。
そして、同月八日、一審被告は、同月三日に協議の対象とした三点の事項について、「平成七年度春闘妥結時の協定書及び確認書の文言中特に確定する事項について」と題する書面(甲四四の4)を提示したので、一審原告タク労は、平成七年度の協定書及び右書面に調印した。なお、右調印された協定書自体の記載は、別紙七ないし九と変わりはない。一審原告タク労は、前記八項目のうち、残りの五項目は文言の訂正削除までは必要はないとの判断で調印に応じた。
(九) 一審被告は、この後は、一審原告タク労に対し、労働協約に関することは、第一組合である誠和会と協議決定することとすると言明したり、交渉内容を変更しない限り団体交渉には応じないとする態度に終始している。
5 本件出勤停止処分及び本件配置転換(甲二〇の1、2、二一の1ないし3、二二、二三、三二、三三、四五、五八、乙九、一〇、四七の1、2、4、四九)
(一) 一審原告石橋は、平成五年八月に一審被告に入社し、平成七年一月にいったん退社したものの、同年三月から再び一審被告に雇用され、乗務員として稼働するようになった。一審原告石橋は、誠和会に所属していたが、一審原告タク労の組合員と自然と親しくなり、また日頃一審原告タク労の悪口を言う誠和会の馬場書記長に不信感を持つようになったため、一審原告タク労への加入を考えていた。一審原告石橋は、誠和会所属の友人にそのことを話したことから、誠和会脱退が既に噂になっていた。
(二) 平成七年一二月二八日から同八年一月三日まではタクシー業界は最も繁忙な時期であり、一審被告においても、乗務員の有給休暇の取得を制限していたところ(乙九)、一審原告石橋は、同月三〇日午後九時過ぎころ、当時妊娠中でつわりがひどく、自律神経失調気味となっていた妻から連絡を受け、具合が悪いから早めに帰宅してほしい旨言われた。
そこで、一審原告石橋は、そのころ本社に戻り、野口係長に対し、早退したい旨の希望を述べた。しかし、野口係長は、同月三一日午前零時まで頑張るよう指示したので、一審原告石橋は、一旦本社近くの自宅に戻って妻の様子を見た後、再び仕事に出て、同月三一日午前一時過ぎころ、帰庫した。その際居合わせた鹿山課長は、一審原告石橋に対し、もう少し走るよう指示したが、一審原告石橋は妻の具合が悪い旨述べて指示に従わず、鹿山課長は、結局早退を了承した。
(三) 一審原告石橋は、その後、馬場書記長に出会ったため、同人に対し、年が明けたら正式に一審原告タク労に加入したい旨の話をし、会話は三〇分以上続いた。そして、洗車をして納金の手続をしていると、一審原告タク労の組合員が一審原告石橋を忘年会に誘った。一審原告石橋は、もともと体質的に酒を飲めず、しかも妻のことが心配ではあったが、当時妻との結婚式を控えており、その際には一審原告タク労の組合員らにも来てもらうつもりであったため、誘いを断ることもできず、参加する旨答え、午前二時三〇分過ぎに退社した。
一審原告石橋が帰宅してみると、妻は安定して寝ていたため安心し、同僚らが集まっていた自宅裏の飲み屋に顔を出した。ところが、鹿山課長が、一審原告石橋の姿を見かけていた。
(四) 平成八年一月三日、安藤支配人、誠和会町田委員長らが国民宿舎に集まり、一審原告石橋が妻の具合が悪いと言って早退したのに飲み屋に出かけていたことについて協議した。
その結果、一審被告は、一審原告石橋は本件の前後一審原告タク労幹部と何らかの意図のもとに頻繁に接触し、一審原告石橋の行動の裏には、一審原告タク労役員がその組織拡大のために一審原告石橋を飲屋に誘い、一審原告石橋を早退させたのでないかとの思いを強く持った。
(五) そこで、一審被告は、同月五日、後田次長において、公休中の一審原告石橋に連絡して、出社させた。福田部長、後田次長及び鹿山課長は、交々、「一二月三〇日に妻が具合が悪いと言って一時に上がり、酒を飲みに行っている。これは結果的に会社に嘘をついたことになるので解雇に相当する。」、「解雇相当ではなくやめてもらう。」、「今後のこともあるから『自主退職』にするから退職届を書け。」などと述べた。
一審原告石橋は、福田部長らに対し、事情を説明して反論したが、「焼き鳥屋に行った以上、結果として嘘をついたことになる。」、「退職届が書けないから、懲戒解雇にする。」などと述べた。
一審原告石橋は、何とかその場を出て一審原告タク労の組合員に相談しようと考え、時間をくれと頼むと、福田部長らは、「待ってやるから一〇日に五日付けの退職届を出せ。」と述べ、これを断る一審原告石橋に対し、「それなら懲戒解雇にするしかない。」、「懲戒解雇になったらタクシー会社以外の会社でも就職の時に不利になる。」などと迫った。
一審原告石橋は、仕方なく「一月五日付けの退職届を一〇日までに郵送します。」との内容の文言が鉛筆で下書きされた念書にボールペンでなぞり書きし(本件念書)、ようやく解放された。なお、一審原告石橋は、その後は乗務を禁止された。
(六) 一審原告石橋は、その直後、控室にいた一審原告タク労の組合員に対し事情を話したところ、右組合員は、誠和会に話してみて、だめなら一審原告タク労に相談したらよいとアドバイスした。一審原告石橋は、誠和会の町田委員長及び馬場書記長に事情を話したところ、両名は、「会社の言うとおりだ。」、「やめていく人間においたちは何もせん。」と述べつつも、「一応誠和会の会員なので明日役員会を開いて、OKが出れば支配人らと話をする。」と約した。
翌六日、一審原告石橋は、誠和会から要求されて、「中央タクシー有限会社在職中は、中央タクシー従業員組合誠和会を脱退しないことをここに誓約します。」との文面の誓約書(甲二二)を記した。誠和会は、一審被告と交渉したが、一審被告は、一審原告石橋を諭旨解雇処分とし、一か月か半月の出勤停止後正社員として乗務させる旨回答した。誠和会役員は、一審原告石橋に一審被告の右回答を伝えたが、一審原告石橋は納得できなかった。そこで、一審原告石橋は、誠和会脱退を表明し、誠和会は、同日、一審被告に対し、誠和会は交渉を打ち切ると伝えた。
一審原告石橋は、同月八日、町田委員長及び馬場書記長と会って、誠和会脱退届を提出し、中央タクシー支部に加入した。町田らは、「会社の言うとおりにするか会社をやめるしか方法はない。」、「誠和会を絶対やめないという念書を書いておきながらなぜ脱退するのか。」と非難した。
(七) 一審原告タク労は、同年一月八日、福田部長、後田次長、鹿山課長の三名に対し、一審原告石橋が中央タクシー支部に加入したことを伝えたうえ、一審原告石橋の処分について団体交渉の申入書(甲四五)を提出した。
これに対し後田次長は、当初は自分の判断ではできないと答えていたが、同月九日、鹿山課長とともに、一審原告石橋は誠和会に在籍しているとして団体交渉申入書を返戻しようとした。一審原告タク労側は、改めて団体交渉を申し入れ、検討を要請し、結局後田次長は、右申入書を持ち帰った。
(八) 一審原告石橋は、同年一月一〇日、一審原告ら訴訟代理人を通じて、一審被告宛に本件念書を撤回する旨の通知をしたところ、一審被告は、一審原告石橋本人のもとに、同月五日付けの就業規則三一条三及び九項、九九条一、三及び五項、一〇〇条四及び一四項、服務規程五条四及び一〇項により解雇する旨の解雇通告書(甲二一の2)並びに同月一〇日付けの右解雇処分を撤回し、本件出勤停止処分とする旨の処分通告書(甲二一の1)を送付した。右処分通告書の記載内容は別紙一〇のとおりである。
(九) 一審被告は、同年一月一一日、一審原告石橋の乗務員としての職を解き、当面の間として、本件配置転換を命じ、その旨を一審原告タク労ではなく誠和会に通知した。これは、一審被告において、誠和会は一審原告石橋の脱退を認めていないとの態度をとったからであった。
以来、一審被告は、今日まで、一審原告石橋が乗務員として勤務することを拒否し続けており、本件配置転換がなされたことによって、以後、一審原告石橋が一審被告から受ける給料の金額は、後記認定のとおり大輻に減少した。
一審原告タク労は、同月一九日、団体交渉を申し入れたが(甲三二)、一審被告は、本件配置転換は有効であり、会社人事権に対する不法な介入であるとして、これを拒否した(甲三三)。
二 一審原告中村の請求について
1 本件傷害事件に関する一審被告の使用者責任について
(一) 野里顧問の不法行為
前記認定のとおり、野里顧問の暴行により一審原告中村が通院加療一〇日間を要する右前腕部擦過挫創、打撲傷の傷害を負ったのであるから、野里顧問は右傷害の不法行為による損害賠償責任がある。
(二) 一審被告の使用者責任
(1) 前記認定事実及び証拠(甲一二、乙四の1及び2、四五、一審被告代表者(原審))によれば、野里顧問は、平成五年に退職するまで一審被告の営業部長として勤務し、退職に伴い一審被告との間で顧問契約を結んだこと、右契約上、一審被告が指定する時期に出社して一審被告の業務に協力するほか、一審被告が指示する内容に基づき一審被告の代理業務を行うことが業務とされていること、野里顧問は、現実には、営業部管理職へのアドバイスも担当しており、本件傷害事件の際には、中央タクシー支部役員らに対し、一審被告管理職らとともに業務命令を発していること、一審被告は本件傷害事件に関して野里顧問を戒告処分としているが、「就業規則九一条により」処分していること、右条項は懲戒処分に関する規定であること、以上の事実が認められ、これによれば、野里顧問の地位には、一般の従業員とは異なる点が存するものの、実際上一審被告の指揮命令に服する関係にあると認めるのが相当であって、一審被告は民法七一五条一項における使用者と認められる。
前記認定事実によれば、本件傷害事件は、野里顧問が一審被告の事業の執行に付き一審原告中村に損害を加えたものというべきであるから、一審被告は、一審原告中村に対し、野里顧問の使用者として、損害賠償義務を負うというべきである。以上に反する一審被告の主張は採用の限りではない。
(2) 本件傷害事件により一審原告中村の被った損害額について検討するに、前記認定事実に甲八、五四、五七の1及び2並びに一審原告中村本人(原審)を総合すると、一審原告中村は、本件傷害事件による受傷のため平成六年九月六日まで休業し、同月一〇日まで長崎市内の田島外科医院に通院して治療を受け、治療費等として総額四四〇〇円の支出を余儀なくされたこと、本来であれば勤務できたはずの休業中の給与及び平成六年度冬期一時金の一部を失ったこと、平成六年八月分給与の減額分が一万一〇二〇円程度、同年九月分給与の減額分が五万三六一二円程度、同年度冬期一時金の減額分が一万二〇〇〇円程度(右減額分合計七万六六三二円)であることが認められる。
これらの事実に、本件に現われた一切の事情を総合考慮すれば(本件譴責処分関係のものは追って説示する。)、一審原告中村が本件傷害事件によって受けた精神的苦痛を慰謝するには一〇万円をもってするのを相当と認める。
そうすると、右合計額は、一八万一〇三二円となる。本件傷害事件にかかる弁護士費用相当損害金は、本件に現われた一切の事情を総合考慮すれば、二万円と認めるのが相当である。
2 本件譴責処分の違法、無効を理由とする損害賠償請求及び無効確認請求について
(一) 本件譴責処分の違法、無効性
(1) 前記認定事実及び証拠(乙一四、証人安藤(当審)、一審被告代表者(原審))によれば、一審被告と「中央タクシー労働組合」は、昭和五三年五月二八日付けで「給与等の銀行振込に関する協定書」(乙一四)を締結していたこと、右協定書によれば、一審被告は従業員の申出により、賞与を含むすべての給与を銀行振込の方法で支払うことができ、一審被告は十八銀行の預金口座へ振り込むこと、協定の有効期間は一年間とし、自動更新すること等が定められていたこと、その後、「中央タクシー労働組合」は長崎地区労に加盟し、一審原告タク労中央タクシー支部となったこと、以上の事実が認められる。
右認定に反する乙一一及び五四の各一部は、一審被告代表者(原審)の、乙一四は乙一五の1のように新規締結ではなく変更になったとの供述や、証人安藤も、「中央タクシー労働組合」が一審原告タク労中央タクシー支部となったことを認める証言をしていることに照らし、いずれも採用できない。
以上の事実を総合すると、昭和五三年の前記協定書は、平成六年当時も依然として有効であったというべきであって、振込取扱銀行を一八銀行から親和銀行に変更するためには、労使間でさらに協定を結ぶ必要があったというべきであり、一審被告が、給与振込取扱銀行の変更問題についての団体交渉の申入れを拒否したのは不当というべきである。そして、このような団体交渉拒否の姿勢は、後に説示するとおり、一審原告タク労に対する不当労働行為の発現の一つの現れと認めるのが相当である。
(2) 前記認定によれば、野里顧問は、団体交渉については拒否したものの、本件説明会が開かれるので中央タクシー支部役員もその説明を受ければよいし、質問もすればよい旨発言し、右役員らが本件説明会に参加することを容認していた。しかるに、中央タクシー支部役員らが実際に本件説明会に参加しようとしたところ、野里顧問は、前言を翻し、右役員らを本件説明会から排除しようとしたのであるから、右支部役員らが野里顧問に対し抗議したことは当然の成り行きであったということができる。
乙五四や証人野里(当審)は、本件説明会は親和銀行への変更を了承する従業員に対する個別的なものであって、中央タクシー支部役員らが本件説明会に参加することは説明会の目的外であり、現に一名が相談中であったし、右役員らが多数名で押し掛けてきたので、混乱を避けるために排除しようとしたというのであるが、事態の混乱を招いたのは、むしろ、給与の振込口座は労働者が指定する権利を有しており、使用者がその権利を有しているものではないのであるから(労働基準法施行規則七条の二)、一審被告において従業員に対して十分に説明をして、その理解を得て解決すべき事柄であるにもかかわらず、それを怠ったうえ、あたかも右説明会において親和銀行以外の金融機関への振込みに関する問題についても説明がされ、解決が可能であるかのように述べて、同説明会への支部役員らの参加を許し、あるいは勧奨するかの態度を示してきた野里顧問の対応であるというべきである。
(3) 次に、一審原告中村は、小宮副支部長の要請により、乗務中でありながら本件説明会会場にやって来たのであるが、職場離脱届が必要であったかどうかについて検討する。
前記認定事実及び証拠(甲六〇、六二、九五、一一七の1、2、乙三、一審被告代表者(原審)並びに弁論の全趣旨)によれば、一審被告と一審原告タク労及び中央タクシー支部との間には、労働組合法の定める要件を具備した労働協約は存在しないが、労使双方ともに、一審原告タク労と長崎市ハイ・タク経営者協議会との間で締結された労働協約(甲六二、乙三)をもって、一審被告における労使関係の基本的な定めであると認識していたところ、右労働協約においては、勤務時間中の組合活動は、会社との間にもたれる団体交渉等の会合に出席する場合、その他会社の承認を得て出席する場合に限り従事することができ、その場合には所定の職場離脱手続をとること(一七、一八条)が要求されていること、しかし、一審被告では、これまでの労使関係において、組合用務のために職場離脱届を提出する運用はされていなかったし、一審被告代表者においても、そのようなことに関心を持っていなかったこと、以上の事実が認められる。
右認定事実を総合すると、一審原告中村は、本件説明会に参加する予定ではなかったが、野里顧問が前言を翻して、親和銀行の係員の説明を聞くために会議室に集まっていた中央タクシー支部の役員らに対し退去を命じたことから、連絡を受けて急遽やって来たものであって、このように一審原告中村が勤務中でありながら一時帰社して本件説明会の会場である会議室を訪れたこと自体は、タクシー乗務員の勤務の態様、同人が中央タクシー支部において書記長の要職にあることや、それ以前の段階で中央タクシー支部が給与振込取扱銀行の変更の問題について住居地域内に親和銀行の支店のない者について一審被告に配慮を求める要請をし、一審被告もこれに応じる姿勢を示し、また、野里顧問においては中央タクシー支部の役員らが本件説明会に参加することを許していながら、説明会当日になって野里顧問が突然前言を翻して中央タクシー支部の役員らに対し会議室からの退去を命じたという経緯並びに証人野里(当審)によれば、本件説明会に参加すること自体では職場離脱手続は不要とされていたことや、野里顧問は、前示のとおり、一審原告中村らに対して職場離脱届の提出を促していないことなどを併せ考慮すれば、一審被告が主張するように右労働協約の規定が適用されることを前提としても、一審原告中村が職場離脱届を提出していなかったことをもって直ちに右職場離脱が許されないものと解することは相当ではないというべきである。
(4) 一審原告中村らが控室で団体交渉申入書を作成した点及び一審原告中村が依然として職場離脱を継続していた点について検討する。
前記認定事実及び証拠(甲五六の1ないし4、六二、乙三、五四、証人植松(原審及び当審)、一審原告中村本人(原審)、一審被告代表者(原審))によれば、控室には、一審被告の掲示や一審原告タク労及び誠和会の掲示もあり、組合事務所ではないこと、前示の労働協約(甲六二、乙三)には、組合が会社施設を利用するときは、日時、場所を指定し、あらかじめ会社の承認を得る必要があるとされている(二〇条)が、これまでに、一審原告タク労が控室にスト権投票箱を置いたり、一審原告タク労の組合員が団体交渉の申入書を書いたり、緊急の集会をしたり、役員の打合せを行ったりしたことがあったが、そのことで、一審原告タク労ないし中央タクシー支部が一審被告から注意を受けたことはなかったこと、誠和会も控室を組合活動の場として利用していること、また、団体交渉申入書作成のために正式に職場離脱届を提出することも従来から行われていないこと、以上の事実が認められる。
右の事実を総合すると、一審被告においては、これまでも中央タクシー支部の緊急の集会や同役員らの短時間の打合せ等に使用する限度では一審被告から注意されることはなく、事実上使用が黙認されていたとみられること、一審原告中村を含む中央タクシー支部役員らは、野里顧問から、不当にも本件説明会への参加を拒否されたことから、控室において約一時間をかけて話し合い、やはり団体交渉をするしかないとの結論に至り、団体交渉申入書を作成していたのであり、野里顧問ほかの一審被告の管理職が控室からの退去を要求した時点においては、団体交渉申入書の作成中であり、その仕上げに長時間を要するものでもなく、植松支部長らは、控室に止まっている理由も述べていたのであるから、前記認定の控室の利用に至る経緯に鑑みると、この程度の控室の利用形態をもって、直ちに違法とするのは相当でないというべきである。
(5) 一審原告中村が、野里顧問から仕事に戻るよう命令されながらも直ちには従う姿勢を見せなかった点について検討する。
前記認定によれば、一審原告中村としては、そもそも長時間の職場離脱を予定していたわけではなく、現実にも一審原告中村が職場を離脱してから本件傷害事件に遭うまでの時間は約一時間に止まっており、タクシー乗務員の勤務の実態からすると、さほどの実害があったとは考えられないこと、離脱時間が長くなったのは、野里顧問が前言を翻して本件説明会への中央タクシー支部役員らの参加を阻止しようとしたことに起因していること、野里顧問が一審原告中村に対し仕事に戻るよう命令した時点で既に団交申入書の作成は終わりに差し掛かっており、それが終われば一審原告中村は職場に復帰するつもりであり、その旨及び離脱時間をカバーして勤務する旨も言明していたこと、野里顧問は午後三時三〇分ころまで小宮副支部長及び一審原告中村に対して職場復帰を求めていなかったこと等の事情に鑑みれば、一審原告中村が野里顧問の命令に直ちには従わなかったとしても、それを業務命令違反として違法であるとは断じがたい。
(6) 一審被告の給与振込取扱銀行の変更問題に対する対応及び本件傷害事件の処理並びに本件譴責処分の経緯について検討する。
前示のとおり、一審被告が中央タクシー支部の団体交渉申入れを拒否したことは不当であるうえ、野里顧問の対応も極めて不誠実なものと認められる。
さらに、一審被告は、本件傷害事件の翌日には、混乱の最大の原因を作った野里顧問を就業規則にも定めのない戒告処分に付しただけで、その後も、給与振込取扱銀行の変更問題に対する団体交渉の申入れや本件傷害事件に関する団体交渉の申入れに対し、誠実に対応することなく、一審原告中村が野里顧問を告訴し、一審原告タク労もこれを支持して野里顧問に対するさらに重い処分を要求したことに反発して、本件譴責処分に及んでいること、後に説示する一審被告の一審原告タク労に対する組合敵視の姿勢をも考慮すると、本件譴責処分が一審被告の就業規則で定められた懲戒処分の中では最も軽い処分である(乙四の2)とはいえ、一審原告中村の所為に比してなお重きに失しているし、一審被告の一審原告タク労及び中央タクシー支部に対する嫌悪及び敵視の姿勢を合わせ考慮すれば、これらの一審被告の対応は、不当労働行為に該当するというべきである(この点は後にさらに敷衍して説示する。)。
以上の事情を総合考慮すると、本件譴責処分は、これを維持する正当な理由を認めることはできず、かつ、労働組合法七条一号の不当労働行為に当たり、無効というべきである。
(二) 損害賠償請求及び無効確認請求について
前示のとおり、一審被告は、無効な本件譴責処分により、一審原告中村に対し、精神的苦痛を与えたことを優に認めることができるから、一審被告は、一審原告中村に対し、不法行為による慰謝料支払義務がある。
なお、一審被告が行う譴責処分は、「将来を戒める。」というものにすぎないことは前記認定のとおりであり、譴責処分を受けること自体で直ちに被処分者と一審被告との間の法律関係に変動が生じるものではないが、乙四の2によれば、一審被告の就業規則上、いったん懲戒処分を受けた者が再度懲戒処分を受ける場合には処分が加重されることになっていることが認められるほか、一般に、懲戒処分を受けるとそれが譴責処分に止まるものであっても、人事考課や昇給の面で事実上の不利益が及ぶことが予想されるから、一審被告から譴責処分を受けた者は、そのような不利益を避けるために、また、違法な譴責処分により侵害された名誉を回復するに適当な処分として、その無効の確認を求める法律上の利益を有しているものと解される。したがって、一審原告中村には本件譴責処分が無効であることの確認を求める法律上の利益(確認の利益)がある。
そこで、右慰謝料額について検討するに、本件に現われた一切の事情を考慮すると、一審原告中村が被った精神的苦痛を慰謝するには一〇万円をもってするのを相当と認め、弁護士費用相当損害金は一万円が相当と認められる。
3 過失相殺について
前記認定によれば、野里顧問は一審原告中村に対して故意に暴行を加え、その結果一審原告中村に対し傷害を負わせたものであって、その間一審原告中村は何の挑発も抵抗もしていないことからすれば、一審原告中村が職場を離脱して本件説明会の会場である会議室を訪れ、また、野里顧問の仕事に戻るようにとの命令にも強く反論するなどして直ちには従わなかったとはいえ、これらの事情をもって、本件傷害事件を招いたことについて過失があるとまでは認め難い。よって、一審被告の過失相殺の主張は採用できない。
4 結論
以上の次第で、一審原告中村の一審被告に対する本件請求は、本件譴責処分の無効確認並びに三一万一〇三二円及び内金二八万一〇三二円に対する平成七年一月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
三 一審原告石橋の請求について
1 本件出勤停止処分及び本件配置転換の違法、無効を理由とする損害賠償請求について
(一) 本件出勤停止処分の違法、無効性
(1) 平成七年度の賃金に関する協定書(甲四二の1、別紙七)においては、乗務員の勤務時間は、始業午前八時、終業午前一時までの隔日勤務とされ、一審被告は、午前一時から午前二時三〇分までの一時間三〇分に対して所定残業の割増賃金を支払う、労使はこの時間を当然に拘束時間と解し、当該時間の完全消化を図るため、賃金上は「積み上げ方式」により算定し支給するものとするとされているところ、午前一時から午前二時三〇分までの時間について労使はこの時間を拘束時間と解するとしている部分は、あたかも午前二時三〇分までがいわゆる残業時間ではない所定労働時間であることを前提にしているかのごとき表現ではあるが、他方、明確に「始業八時・終業翌日一時まで」と記載され、また午前一時から午前二時三〇分の間の一時間三〇分に対して、所定残業の割増賃金を積み上げ方式により算定し支給するものとされていることからすれば、右協定書上所定労働時間は午前一時までであって、その後は残業時間であるものと解するのが相当である。
この点については、本件協定書を起案した安藤支配人も、午前八時から翌日午前一時までを所定労働時間としないと、当時の労働基準法所定の労働時間規制を遵守することはできなかったので、このような形式を取ったと証言している(証人安藤(当審))ことや、甲一二一における記載内容に鑑みれば、一審被告においても、右協定書上、所定労働時間としての終業時間が午前一時であることは当然認識していたというべきである。ところで、一審被告は、右賃金協定における残業時間である午前一時から午前二時三〇分までの勤務について、個々の組合員に対し残業を義務づけるに足りる就業規則、三六協定等が存在することについて何らの主張立証をしない(なお、本件三六協定については、その内容も証拠上不明であるばかりでなく、同協定が成立したとされる当時において、福田部長が、労働基準法施行規則六条の二が定める資格の点を含め、従業員の過半数を代表する者であったことを認めるに足りる証拠はない。)。そうである以上、一審原告石橋に残業義務がないことは明らかである。
そうすると、前記平成七年度の賃金協定における、午前一時から午前二時三〇分までの一時間三〇分の勤務についての定めは、残業をした場合の賃金の算定の仕方について言及したものに過ぎないというべきである。
(2) 一審原告石橋は、当時が年末であってタクシー業界においてはかき入れ時であったという事情があるにせよ、妻の体調が悪かったことから、野口係長に対し、早退することを申し出、所定労働時間である午前一時を過ぎてから帰庫し、その際、鹿山課長に対し、妻の体調が悪いことを理由に早退することを申し出、同課長は、結局一審原告石橋の早退を認めたのであるから、結局のところ、一審原告石橋は残業に協力しなかったに過ぎず、午前一時以降午前二時三〇分までの残業手当を受けることができないというに過ぎない。
そして、一審原告石橋は、右退社後、妻の様子を見るためにいったん帰宅しているのであって、その後の行動をもって、一審原告石橋が当初から嘘の早退理由を申告したということはできない。
なお、一審被告は、一審原告石橋の勤務状況が従来から怠惰なものであったと主張し、これに副う証拠(乙一一、五四)も存するが、一審原告石橋の現実の勤務状況を具体的に認めるに足りる的確な証拠は存しないうえ、所定労働時間を勤務し、早退について鹿山課長の了承を得ている以上、従来の勤務状況がいかなるものであっても、残業に協力しないで早退したこと自体が懲戒処分の理由となるものではないことは明らかである。
(3) 以上によれば、本件出勤停止処分は、その処分の前提とした事実関係が存在しないものであるから、違法、無効というべきである。
そして、一審被告の就業規則(乙四の2)によれば、一審被告が行う出勤停止処分の内容は、「三〇日労働日以内の期間を定めて出勤停止を命ずる」ものであることが認められるところ、前示のとおり、一審被告の就業規則上、いったん懲戒処分を受けた者が再度懲戒処分を受ける場合には処分が加重されることになっているほか、一般に、懲戒処分を受けると人事考課や昇給の面で事実上の不利益が及ぶことが予想されるから、一審被告から懲戒処分を受けた者は、そのような不利益を避けるために、また、違法な懲戒処分により侵害された名誉を回復するに適当な処分として、その無効の確認を求める法律上の利益を有しているものと解される。したがって、一審原告石橋には、本件出勤停止処分が無効であることの確認を求める法律上の利益(確認の利益)がある。
(二) 本件配置転換の違法、無効性
証人福田、同安藤及び一審被告代表者によれば、本件配置転換及びこれを継続している理由は、一審原告石橋のこれまでの勤務成績及び勤務態度が不良であり、平成七年一二月三〇日の早退の件も考慮して、乗務員に向かないと判断し、本件配置転換に至った、一審原告石橋のドアマンをして行状が良ければ再び乗務員に戻す積もりであった、しかし、一審原告石橋は、本件裁判を起こしており、一審被告の指揮命令に従わないことを明らかにしているから、乗務員に戻せないというのである。
しかしながら、前示のとおり、一審原告石橋のこれまでの勤務成績及び勤務態度が不良であることを具体的に認めるに足りる的確な証拠はなく、一二月三〇日の早退の件も前示のとおり違法ではなく、何ら問題はないのであるから、これをもって本件配置転換の理由とするには足りず、また、乗務員に戻すことについても、ドアマンとしての行状とは関係のない本件裁判を提起していることを理由に拒否しているのであるから、いずれも理由があるものとは考え難い。
そして、前記認定のとおり、一審被告側は、一審原告石橋が一二月三〇日の前後に一審原告タク労幹部と何らかの意図のもとに頻繁に接触し、一審原告石橋の行動の裏には、一審原告タク労役員がその組織拡大のために一審原告石橋を飲屋に誘い、一審原告石橋を早退させたのでないかとの思いを強く持ったというのであるから、一審被告は、一審原告石橋が一審原告タク労に所属しようとしたこと及び現に所属していることを嫌悪して、本件配置転換を命じ、乗務員に復帰させないようにしているものと考えざるを得ない。このことは、後記のとおり、一審被告が、一審原告タク労からの本件配置転換についての団体交渉申入れを拒否していることからも窺われるところである。
以上の事情を総合すると、本件配置転換は、一審原告石橋が一審原告タク労に所属していることを理由として行った不利益取扱及び支配介入の不当労働行為であり、かつ、乗務員として雇用された一審原告石橋の地位を継続して侵害しているものであって、不法行為にも該当するというべきである。
(三) 損害額
よって、一審被告は、一審原告石橋に対し、本件出勤停止処分及び本件配置転換により一審原告石橋が被った損害を賠償する責任があり、その損害額は次のとおりである。
(1) 甲六一の1ないし6、8ないし12、14ないし17、六三の1ないし4、6ないし10、12、13及び乙一によれば、一審原告石橋が本件配置転換を受ける前の三か月間(平成七年一〇月ないし同年一二月)に一審被告から受けた各月の給与(本給に諸手当を加えたもの)の平均金額は二一万六三八一円であって、一方、その後本件配置転換を受けた平成八年一月ないし平成一〇年二月の二六か月間に一審原告石橋が一審被告から受けた各月の給与(前同)の金額は、別紙一の実支給額欄記載のとおりであるものと認められる(ただし、甲六一の15により、平成九年一月に受けた給与の金額は一四万九二九二円と認められる。)ところ、右二一万六三八一円と別紙一の実支給額欄記載の各金額との差額は本件配置転換により被った損害と評価することができ、その総額は一七六万五六七九円を下らない(平成九年一月の損害額は六万七〇八九円となる。)。
(2) 甲六一の7、13、六三の5、11及び弁論の全趣旨によれば、平成八年及び同九年に一審原告石橋が一審被告から支給された賞与の金額(社会保険料等控除額を除く。)及び本件配置転換がなければ支給されたはずの賞与の金額(諸手当を含み社会保険料等控除額を除く。)は別紙二のとおりであるものと認められ、両者の差額は本件配置転換によって被った損害と評価することができ、その総額は二九万四三四〇円となる。
(3) 本件に現われた一切の事情を総合考慮すると、本件出勤停止処分及び本件配置転換により一審原告石橋が被った精神的苦痛は五〇万円をもって慰謝するのが相当である。
(4) また、本件出勤停止処分及び本件配置転換による不法行為と相当因果関係のある一審原告石橋の弁護士費用相当損害金は一審原告石橋の主張する金額である一〇万円と認めるのが相当である。
よって、一審原告石橋の損害額は総額二六六万〇〇一九円となる。
(5) 当審における請求の拡張分について検討するに、証拠(甲一〇七の1ないし14、一二四の1ないし9)によれば、平成一〇年三月から平成一一年九月までの本件配置転換がなければ受けられたであろう給与額と現に支給された給与額との差額並びに本件配置転換がなければ受けられたであろう平成一〇年夏冬の賞与及び平成一一年夏の賞与の額と現に支給された賞与額との差額は、別紙三に記載のとおり、合計一三八万一〇八六円となることが認められ、右同額を本件配置転換により被った損害と認めることができる。
なお、一審被告は、乙五五の1及び2、五六、五七の1及び2、五八をもって、一審原告石橋の予想賃金及び予想賞与額は一審原告石橋の主張する額を下回るとするが、一審被告の採用する方法が前示の算定より合理的であると認めるに足りる的確な証拠はないというべきである。
2 一審原告石橋を乗務員として処遇することを求める請求について
前記認定のとおり、一審原告石橋は乗務員として一審被告に雇用された者であるところ、ドアマンとしての勤務の場合、乗務員としての勤務に比し、その給与の金額が少ないことも前記認定のとおりである。
しかしながら、一般に労働契約においては、労働者は使用者の指揮命令に従って一定の労務を提供する義務を負担し、使用者はこれに対して一定の賃金を支払う義務を負担するのがその最も基本的な法律関係であって、労働者の就労請求権について労働契約等に特別の定めがある場合を除き、労働者は就労請求権を有するものではないものと解される。したがって、労働者が使用者に対し、現在の部署又は業務における就労義務の不存在の確認を求めることはともかく、特定の部署又は業務において就労する労働者としての扱いを求めることはできない。
本件において、一審原告石橋と一審被告との間の労働契約において就労請求権について特別の定めがあるといった事実は何ら主張、立証がないから、一審原告石橋が一審被告に対し乗務員としての取扱いを求めることはできないというべきである。
3 以上によれば、一審原告石橋の本訴請求は、本件出勤停止処分の無効確認、二六六万〇〇一九円及び内金五〇万円に対する平成八年一月一一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の限度での支払請求(原審請求分)並びに一三八万一〇八六円(当審拡張分)の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。
四 一審原告タク労の請求について
1 本件傷害事件に至るまでの一審被告の不当労働行為による損害賠償請求について
(一) 本件三六協定締結の不当労働行為性
前記認定によれば、一審被告は、一審原告タク労が平成六年度春闘において九六時間ストライキを貫徹したことから、一審原告タク労に対し嫌悪感を抱いていたところ、さらに、当時一審被告の最大組合であった一審原告タク労から平成六年度の三六協定(本件三六協定)の調印を拒否され、三六協定の締結ができない状態となった。そこで、一審被告は、一審原告タク労を排除して、誠和会の了承を取り付けたうえ、福田部長を従業員代表に仕立て上げて、福田部長との間で本件三六協定を締結し、労働基準法を遵守しているとの外形を作出した。
一審原告タク労がその所属組合員の利益に直接の関わりはないと考えられる二車三人体制の廃止及び隔日勤務への移行等を強く要求して本件三六協定の締結を拒否したことは、その戦術の妥当性に疑問の余地はあり得るものの、そうであるからといって、当時一審被告の最大組合であった一審原告タク労を全く排除して(なお、一審原告タク労が話し合いを全く拒否していた状況ではなかった。)、これに次ぐ誠和会の了解を取り付けて右のような便宜的方法で三六協定が締結されたとの外形を作出した一審被告の行為に正当性を認めることはできない。
そして、一審原告タク労を排除したうえで本件三六協定を締結したことのみでは、未だ一審原告タク労の運営を支配、若しくは介入しようとしたとまでは評価できないとしても、右の事情を一審被告の一審原告タク労敵視の現れとしての一間接事実とみることは十分に可能である。
(二) 本件賃金カットの不当労働行為性
前記認定によれば、一審被告は、平成六年七月八日、午前二時から午前二時三〇分までの洗車時間を実労働時間として評価せず、本件賃金カットを行ない、一審原告タク労が本件賃金カット問題を含む四点について団体交渉を申し入れたのに対し、一審原告タク労が本件三六協定の締結を拒否したことから、このような組合は当事者能力に欠けるので労使協議ができないが、誠和会との間で話し合ったとして、団体交渉を拒否したり、団体交渉の条件として文書回答を要求したりした。そしてその後も、一審原告タク労の申入れにもかかわらず、団体交渉を拒否し、地労委のあつせんがあるまで団体交渉を拒否し続けたのである。
(三) 右(一)及び(二)の事情によれば、一審被告は、一審原告タク労を嫌悪して、一審原告タク労を殊更無視し、団体交渉も拒否し、誠和会との関係を重視し、一審原告タク労を誠和会に比して軽視したものであって、不当な組合差別をしていることが明らかである。このような一審被告の行為は、労働組合法七条二号及び三号に該当する不当労働行為と認めるのが相当であって、民事上も違法な程度にあると認めるのが相当であるから、一審被告は、これにより一審原告タク労に生じた損害を賠償する義務がある。そして、右事情を総合考慮すると、右損害額は一〇万円と認めるのが相当である。
2 本件書面掲示の不当労働行為による損害賠償請求について
(一) 本件傷害事件及び本件譴責処分にみられる一審原告タク労の敵視
前記認定によれば、一審被告は、本件三六協定の締結及び本件賃金カットについて、一審原告タク労から団体交渉の申入れを受けながら、これを拒否していたところ、さらに、従業員給与振込銀行の変更を一審原告タク労に申し入れた。一審原告タク労は、右取扱銀行を十八銀行から親和銀行に変更することにより不便となる一審原告タク労の組合員三名への配慮を求めた以外には、特にこれに反対はしなかった。
しかるに、一審被告は、右銀行変更問題について一審原告タク労から団体交渉の申入れを受けるや、これも拒否し、野里顧問において、本件説明会に参加して説明を聞けばよいと言明し、この言に従って本件説明会に参加しようとした中央タクシー支部役員らを、前言を翻して排除しようとし、前示のとおり本件傷害事件を発生させた。
そして、本件傷害事件の処理に当たっては、前記認定のとおり、本件傷害事件の翌日には、混乱の最大の原因を作った野里顧問を就業規則にも定めのない戒告処分に付するとしただけで、その後も、給与振込取扱銀行の変更問題に対する団体交渉の申入れや本件傷害事件に関する団体交渉申入れに対し、誠実に対応することなく、その一方で、誠和会とは「賃金の銀行口座振込制度に関する協定書」の締結を交渉、合意し、一審原告中村が野里顧問を告訴し、一審原告タク労もこれを支持して野里顧問に対するさらに重い処分を要求したことに反発して、本件譴責処分に及んでいる。
以上のような、一審被告の対応は、一貫して一審原告タク労及び中央タクシー支部に対する嫌悪及び差別意思に裏打ちされていると認めるのが相当である。
(二) 本件書面掲示の不法行為性
(1) 前記認定によれば、一審被告は、平成七年度春闘において、誠和会構成員数が一審原告タク労のそれを上回ったとの認識のもと、一審原告タク労に対し、同年五月一〇日付けで、「平成七年度春闘交渉に関する申入れ書」と題する書面を差し入れ、誠和会加入者が上回ったので、誠和会との間で交渉を妥結するものとし、これを前提として一審原告タク労と交渉すると表明し、同月二〇日の労使交渉においても、その冒頭で野里顧問が、誠和会と妥結しているものを変更はできないなどと言明して、一審原告タク労の自主性を否定する態度を表明した。
(2) 右春闘交渉は、平成七年五月二〇日、労使双方とも、大筋で合意し、協定に調印する作業に入ったが、一審被告は、同月二八日ころ、一審原告タク労に対し、当時既に調印されていた誠和会との間の協定書二通及び確認書一通の各写し(これらの本文の記載内容は別紙七ないし九のとおりである。)を一審原告タク労側に交付して、これらと同内容の協定書及び確認書への調印を求めた。これに対し、一審原告タク労は、中央タクシー支部の職場集会を開いたうえで、文案について追加、削除又は訂正を求め、さらに、一審被告側と文案を詰める交渉を行っていた。そのような状況の中で、一審被告は、本件書面を突然掲示したのである。
(3) そこで本件書面の内容(別紙四)を検討するに、二枚目の上から一四行目から二一行目までの部分のうち、「しかるに植松一博支部長は、・・・およそ人格的に問題有りと思われる態度をとるに至りました。」、「会社は支部長の態度は明らかに会社経営を混乱される悪質な意図にもとずく交渉姿勢であり、多数の貴組合員の経済的利益を無視した暴挙であると判断し交渉を打切るに至りました。」の部分、並びに同二六行目から二九行目の「この責任はあげて組合支部長の組合を私物化した独断専行によるものであります。会社はかかる非常識な組合指導者が存在する以上、今後一切貴組合との交渉は不可能と判断します。」の部分は、その余の記載部分が一審被告の認識による事実経過(前記認定によれば、大筋では事実と合致している記載と考えられる。)を説明しているのに対比して、その具体的根拠を示すことなく植松支部長に対する人格攻撃に終始しており、同支部長を個人的に誹謗、中傷することを通じて、一審原告タク労の組合員らに対し、あたかも植松支部長の人格には重大な欠点があり、自分たちにとって植松支部長が中央タクシー支部の支部長を務めることが不利益であるかのごとき印象を与えて、一審原告タク労内部に動揺と混乱を招きかねない性質のものであって、一審原告タク労の運営に対する不当な支配介入であると認められるとともに、使用者側の正当な言論活動として容認される限度を逸脱した違法なものと認められる。
(4) 以上を総合すると、一審被告は、本件書面の掲示により一審原告タク労が受けた名誉、信用上の損害及び団結権を侵害されたことによる損害を賠償する義務を負うべきところ、本件に現われた一切の事情を総合考慮すると、本件書面の掲示によって一審原告タク労が受けた損害額は二〇万円と評価するのが相当である。
3 本件出勤停止処分及び本件配置転換の不当労働行為による損害賠償請求について
前記認定によれば、一審被告側は、一審原告石橋が平成七年一二月三〇日の前後に一審原告タク労幹部と何らかの意図のもとに頻繁に接触し、一審原告石橋の行動の裏には、一審原告タク労役員がその組織拡大のために一審原告石橋を飲屋に誘い、一審原告石橋を早退させたのでないかとの思いを強く持ったのであり、一審原告石橋を責めるべき点は他に見当たらないから、一審被告は一審原告石橋が一審原告タク労に加入しようとしたこと及び現に加入していることを嫌悪して本件出勤停止処分をし、かつ、本件配置転換を命じ、乗務員に復帰させないようにしているものと認めるのが相当である。このことは、一審被告が、一審原告タク労からの本件配置転換に関する団体交渉の申入れを拒否していることからも窺われるところである。
以上によれば、本件出勤停止処分及び本件配置転換は、一審原告石橋が一審原告タク労に加入していることを理由として行った支配介入の不当労働行為であって、民事上も違法というべきである。そして、本件に現われた一切の事情を総合考慮すると、一審被告の右不法行為により生じた損害額は二〇万円と認めるのが相当である。
4 以上の次第で、一審原告タク労の本件請求は、本件傷害事件に至るまでの一審被告の不当労働行為による損害賠償請求分として一〇万円、本件書面掲示の不当労働行為による損害賠償請求分として二〇万円、本件出勤停止処分及び本件配置転換の不当労働行為による損害賠償請求分として二〇万円の計五〇万円及び右各行為と相当因果関係の認められる弁護士費用相当損害金として計五万円の合計五五万円並びに内金五〇万円に対する平成八年二月七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。
五 結論
以上の次第で、一審原告らの本件各請求は、主文第一項記載の限度で理由があり、その余は理由がなく、これと結論の異なる原判決は一部不当であるから、原判決を主文第一項記載のとおり変更することとし、一審原告石橋の当審において拡張した請求はすべて理由があるから主文第二項のとおり認容し、一審被告の本件控訴は理由がないから、これを棄却する。
(裁判長裁判官 吉原耕平 裁判官 兒嶋雅昭 裁判官 下野恭裕)
別紙(一~一〇)<省略>