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福岡高等裁判所 平成10年(ネ)785号 判決

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  控訴人の平成六年三月二六日及び同月二七日の欠勤が年次有給休暇によるものであることを確認する。

三  被控訴人は、控訴人に対し、二万二〇〇六円及びこれに対する平成八年四月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  控訴人の右両日の欠勤を理由に不利益な取扱いをしないことを求める訴えを却下する。

五  控訴人のその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。

七  この判決第三項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  主文第二項と同旨

3  被控訴人は、控訴人に対し、控訴人の右両日の欠勤を理由に不利益な取扱いをしてはならない。

4  被控訴人は、控訴人に対し、金一二二万二〇〇六円及びこれに対する平成八年四月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

6  第4項につき仮執行宣言

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

次のとおり補正するほかは、原判決三頁末行から一八頁末行までのとおりであるから、これを引用する。

一  原判決五頁五行目「労働協約」の次に「(以下「本件労働協約」ということがある。)」を加える。

二  原判決一一頁三行目「指定権」を「変更権」と、同七行目「越える」を「超える」とそれぞれ改める。

三  原判決一二頁八行目「可否の」から同九行目末尾までを「可否を通知していた。」と改める。

四  原判決一三頁六行目「提出した」の次に「(控訴人が年休の時季指定をした右両日を、以下「本件両指定日」ということがある。)」を加え、同九行目「八名」から同一〇行目末尾までを「七名」と、同末行「七名で、原告の順位は」を「多くとも七名で、控訴人の順位は、公休予定者で、当日公休出勤ができない旨予め告知してきた者も含めて」とそれぞれ改める。

五  原判決一四頁二行目「七名で、原告の順位は」を「多くとも七名で、控訴人の順位は、公休予定者で、当日公休出勤ができない旨予め告知してきた者も含めて」と改める。

六  原判決一六頁三行目ないし同四行目を次のとおり改める。

「三 主な争点

1  被控訴人による時季変更権行使の意思表示があったか。あったとすれば、どの時点か。

(控訴人の主張)

被控訴人は平成六年三月二三日及び同月二四日に勤務管理表の掲示をしたが、これは勤務内容の指示であって、控訴人の年休の指定に対する時季変更権の行使には当たらない。仮に、右掲示が時季変更権行使の意思表示であるとしても、これが控訴人に到達したのは、控訴人が具体的に勤務管理表を見た同月二五日である。

(被控訴人の主張)

被控訴人は、小倉営業所で一般に行われている方法に従い、本件両指定日の各三日前である同月二三日及び同月二四日に勤務管理表を掲示することにより、時季変更権行使の意思表示をしたものである。なお、意思表示は、相手方が了知し得る状態に置くことによって到達したといえるのであって、具体的に相手方が了知することまでは必要でないから、被控訴人の時季変更権行使の意思表示は、右各日に控訴人に到達したこととなる。

2  被控訴人による時季変更権の行使が、労働基準法三九条四項ただし書の「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合」等の実体的要件を具備しているか。

(控訴人の主張)

(一) 本件両指定日には、控訴人の代わりに他の運転士がバスを運行しており、欠行はしていないから、被控訴人による時季変更権の行使は、「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合」との要件を具備していない。

(二) 本件労働協約によれば、計画慰休は、労働者が時季指定に係る日に休む必要があるというものではなく、年休の権利の時効消滅を防ぐために休ませるものであり、これについては、一時期に集中して業務上の不都合が生じないように、一年間の実施計画を立てるべきこととされている。また、計画慰休については、労働者同士の交替を認めることとされ、一旦具体的な日割りを設定しても、時季指定に係る日の三日前までに時季変更権の行使ができることとされ、業務の都合で使用されなかった計画慰休は翌年度に繰り越されることとされている。他方、自由慰休については右のような取決めはなく、「本人の請求により与える」こととされていた。このように、本件労働協約上、自由慰休は計画慰休に優先するものであり、被控訴人が右労働協約を遵守して、本件両指定日に、計画慰休で時季指定した者に対して時季変更権を行使して出勤させていれば、控訴人が本件両指定日に年休を取っても、事業の正常な運営を妨げるような事態は生じなかった。なお、前記二の2のような、自由慰休と計画慰休の取扱いに関する被控訴人と組合小倉分会の合意は、後記3の(三)のとおり、本件労働協約に違反するものである。

したがって、この点からも、被控訴人による時季変更権の行使は、「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合」との要件を具備していない。

(三) 平成六年に週休二日制が導入された際、被控訴人は、本来五三四名の運転士の増員が必要であったのに、二〇九名の増員にとどめて、三二五名の不足は休日出勤で賄う方針を取り、この定員不足を補うため、一人当たり年間一九日の休日出勤が予定されていた。その上、小倉営業所では、一か月で延べ一二六六名、一日あたり約四〇名の欠員が生じていた。年休を取得すると事業の正常な運営が困難となる場合であっても、それが右のように恒常的な要員不足に起因する場合には、使用者が時季変更権を行使することは許されないというべきである。

(四) なお、被控訴人小倉営業所においては、冠婚葬祭を理由とする年休は優先的に認めることとされていたところ、前記二の3(四)によれば、控訴人は、平成六年三月二五日にも、法事と結婚式のためという理由を明らかにして、本件両指定日に年休を取ることを助役に述べ、年休の時季指定をしたこととなる。したがって、この時季指定に対する時季変更権の行使は、労働基準法三九条四項ただし書の要件を具備していない。

(被控訴人の主張)

(一) 控訴人の右各主張は、当審第二回口頭弁論期日以降において初めて提出された、時機に遅れた攻撃防御方法である。

(二) 本件両指定日には、前記二の2のような小倉営業所における取扱いの下で、計画慰休を申請した者が多くいたため、年休の枠が少なく、控訴人に自由慰休を与えると、被控訴人の事業の正常な運営を妨げることになるものであった。

3  被控訴人による時季変更権の行使が、手続的に適法なものといえるか。」

七  原判決一七頁九行目の次に改行して次のとおり加える。

「(三) 本件労働協約によれば、被控訴人は、自由慰休は労働者の指定どおりに与え、計画慰休については、予め一年間の実施計画を立てた上、毎月二二日までに翌月分の計画付与割当表を公示しなければならないこととなっている。

しかるに、前記二の2のとおり、小倉営業所では、自由慰休及び計画慰休の双方ともについて、勤務予定日の三日前に勤務管理表を掲示する方法で、年休取得の可否を通知していたが、仮に、このような取扱いが被控訴人と組合小倉分会との合意に基づくものであるとしても、同分会のようなそれ自体で一個の労働組合としての実体を持たない職場組織は、団体交渉権を持たず、組合中央より一定事項につき団体交渉遂行の委任を受けた場合にのみ団体交渉に従事することができるものというべきである。しかるに、同分会が組合中央から計画慰休の取得方法等に係る団体交渉につき委任を受けたことはないから、同営業所における右のような取扱いは、本件労働協約に違反する。

この観点からも、本件時季変更権の行使は、手続的に違法である。」

八  原判決一八頁四行目「2」を「4」と改める。

第三争点に対する判断

一  争点1(被控訴人による時季変更権行使の意思表示があったか。あったとすれば、どの時点か。)について

前記第二の二2(四)認定の事実によれば、被控訴人が平成六年三月二三日及び同月二四日に勤務管理表を掲示したのは、小倉営業所で従前行われてきた方法に従ったものであって、同営業所に勤務するバス運転士としては、年休について、時季変更権が行使されたか否かについては、この表を見て確認するのが常態であったと認められる。そして、一般に、意思表示が相手方に到達したというためには、具体的に相手方に了知させることまでは必要でなく、了知し得る状態に置くことをもって足りるものというべきところ、右のような勤務管理表の掲示により、控訴人が時季変更権行使の事実を了知し得る状態になったと認められる。

そうすると、被控訴人は、平成六年三月二六日の年休については同月二三日に、同月二七日の年休については同月二四日に、それぞれ時季変更権の意思表示をし、この意思表示は右各日に控訴人に到達したものというべきである。

二  争点2(被控訴人による時季変更権の行使が、労基法三九条四項ただし書の「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合」等の実体的要件を具備しているか。)について

1  被控訴人は、この争点についての控訴人の主張について、民訴法一五七条一項により却下を求めるもののようである。確かに、控訴人の右主張は、当審第二回口頭弁論期日以降において初めて提出されたものであるけれども、この争点については、後記2ないし4判示のとおり、それまでに調べられた証拠により比較的容易に認定判断することが可能であるから、控訴人の右主張は、同項にいう「訴訟の完結を遅延させることとなる」ものではない。

したがって、右主張は却下しないこととし、以下、右の労基法三九条四項ただし書の要件の有無について検討する。

2 まず、証拠(乙二)によれば、本件労働協約においては、計画慰休とは、「各人の前年度未消化慰労休暇を計画付与する」ものであり(五〇条覚書2の(1) )、「計画慰休の実施にあたり、あらかじめ本人の希望する時期を聞き、業務の繁閑を考慮して、付与期日から一年間の実施計画をたてる。」(同2の(2) (イ))、「計画慰休の具体的日割については、各月毎に行うものとし、指定日の設定および変更については業務に支障のないようにする。」(同2の(2) (ロ))、「計画慰休の具体的日割(計画慰休指定日)を周知させるため慰労休暇計画付与割当表を作成し、翌月の分を毎月二二日公示する。」(同2の(3) )、「計画慰休の具体的日割を設定後、本人の申出があったときは、業務に支障のない限り、計画慰休指定日相互間の個人交替を認める。」(同2の(4) )、「慰休の具体的日割を設定後、業務の都合で計画慰休指定日を変更するときは、指定日の三日前までに本人に連絡する。」(同2の(5) )と定められていること、自由慰休については右のような定めはなく、「本人の請求により与える。」(同2の(10))と定められていることが認められる。

右のような規定からすると、計画慰休は、労働者に年休を消化させるために休ませるものであって、必ずしもその日に年休を取る必要があるものではなく、そのため、労働者同士の交替や、三日前までの時季変更権の行使が本件労働協約上容認されているものと解される。他方、自由慰休は、計画慰休に優先するものと位置付けられ、原則として労働者の時季指定どおり与えるべきものとされていることになる。そして、被控訴人のバス事業においては、直前にならなければバス運行計画の全体が確定せず、時季変更権行使の要否も判明しないという特殊性があることは前記第二の二2(三)判示のとおりであるが、そのことにより直前になって時季変更権を行使する必要が生じた場合には、三日前までに、計画慰休について行使すべきであるというのが、本件労働協約の趣旨であると解される。

もっとも、小倉営業所では、本件労働協約の定めとは異なり、被控訴人と小倉分会との合意により、四月から一二月までは自由慰休と計画慰休につき優劣を区別せず、一月から三月までは計画慰休を優先する方法を取っていたことは、前記第二の二2認定のとおりである。しかし、分会のように、独立した労働組合としての性格を有しない職場組織は、団体交渉権を持たず、組合中央より一定事項につき委任を受けた場合に限り団体交渉をし、使用者と合意することができるものと解するのが相当であるところ、小倉分会が組合中央から計画慰休の取得方法等に係る団体交渉につき委任を受けたことについての主張、立証はないから、同営業所においても、労使双方は右労働協約の定めに拘束され、同営業所における右のような取扱いに係る被控訴人と小倉分会との合意は、本件労働協約に違反するものといわざるを得ない。

3  そして、前記第二の二3(二)認定のとおり、本件両指定日における計画慰休の申込者は、平成六年三月二六日については七名、同月二七日については八名であるところ、乙七の2によれば、その全員が年休を取得できていること、控訴人より先順位の自由慰休申込者は、右両日とも多くとも七名で、このうち時季変更権を行使された者は、いずれも多くとも四名であったことが認められる。

そうすると、本件両指定日においては、計画慰休申請者に時季変更権を行使すれば、バスの運行に必要な運転士は確保できたと考えられるし、仮に、各運転士の技能により、計画慰休申請者だけでは当日の路線につき乗務可能な者が不足する(前記第二の二2(三)参照)としても、公休者に乗務を依頼することにより、運転士の確保は可能であったと認められる(原審証人牛垣正義、原審控訴人本人及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人においては、公休者を呼び出して乗務を依頼することはかなり頻繁に行われており、公休の運転士も、手当が支給されることから、比較的良くこれに応じていることが認められる。)。

4  以上によれば、被控訴人による時季変更権の行使が、「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合」との要件を具備しているとは認められないこととなる。

したがって、被控訴人による本件時季変更権行使の意思表示は無効であり、控訴人は、被控訴人に対し、本件両指定日に係る二万二〇〇六円の賃金請求権を有することとなる。

三  争点3(被控訴人による時季変更権の行使が、手続的に適法なものといえるか。)について

1  一般に、年休に対する時季変更権の行使は、労働者による時季指定を受けた後、労基法三九条四項ただし書の「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合」の要件の存否を判断するのに合理的な期間内に行使しなければならないものと解される。そして、年休は、本件のような冠婚葬祭のほか、宿泊や交通機関の予約等を伴う家族旅行等に利用されることも多いのであるから、本件のように時季変更権を三日前に行使することは、右要件の存否の判断上、やむを得ない特段の事情が認められない限り、同条が労働者に年休を保障した趣旨を没却するものであって、許されないものと解さざるを得ない。

そこで、右の特段の事情の有無について判断する。

2  被控訴人小倉営業所においては、貸切バスや臨時便の関係等により、直前にならなければ、最終的なバス運行計画を確定し得ないという業務上の特殊性があるということは、前記第二の二2(三)認定のとおりである。

しかし、前記二の2判示のとおり、被控訴人においては、自由慰休は計画慰休に優先して与えられるべきであり、時季変更権を行使する必要が生じた場合には、まず、計画慰休について行使すべきであるというのが、本件労働協約の趣旨であると解される。

3  また、右の業務上の特殊性の具体的な程度についてみると、まず、貸切バスや臨時バスについては、福岡ドームや博多の森サッカー場等への運行については、具体的な乗客人員は直前にならなければ確定しないにせよ、試合の日程自体は、かなり以前から判明していることであるし、貸切バスについての季節的な繁閑も、ある程度事前に予測が付くものと考えられる。そして、乙一〇及び弁論の全趣旨によれば、貸切りバスは、原則として貸切り営業所で運行するものであって、その他の営業所で運行するのは例外であること、平成六年に小倉営業所が運行したものとしては、同年一月が貸切バスが五台、臨時バスが一七台、同年二月は貸切バスが二四台、臨時バスが一四台、同年三月は貸切りバスが二〇台、臨時バスは二一台であり、いずれも平均して一日あたり一台未満であったことが認められる。

そうすると、少なくとも小倉営業所においては、貸切バスや臨時バスの運行という不確定な要素についても、前記二の2判示の年間処理計画(本件労働協約五〇条覚書2の(2) (イ))及び各月の慰労休暇計画付与割当表(同2の(3) )を適切に作成することにより、かなりの程度対応することが可能であると考えられる。

4  ところで、臨時にバス運転士を確保する必要が生じた場合に、本件労働協約の趣旨に沿って、まず計画慰休申請者から順に時季変更権を行使すると、運行日の直前になって、時季変更権を行使することを要する人数が計画慰休申請者の数を超えることとなった場合には、その時点で初めて自由慰休申請者に対して時季変更権を行使する必要が生ずる結果にもなりかねない。

しかし、自由慰休を計画慰休に優先させるとの本件労働協約の趣旨は、手続面にも及ぶと解されるから、右のような場合には、もはや、運行日の三日程度前になって自由慰休申請者に時季変更権を行使することは許されず、公休者に出勤を依頼することにより運転士の確保を図るべきであると解される(右3判示の小倉営業所における貸切バス及び臨時バスの台数や、前記二の3の判示にも照らすと、このことが、特に困難であるとは認められない。)。

5  これらの諸事情に照らすと、控訴人の申請した自由慰休について、被控訴人が運行日の三日前に時季変更権を行使したことにつき、やむを得ない特段の事情があったと認めることはできない。

したがって、この点からも、被控訴人による本件時季変更権行使の意思表示は無効である。

四  控訴人の本件両指定日の欠勤が年休によることの確認請求について

前記二、三によれば、本件両指定日について、控訴人の時季指定どおり年休が付与されたこととなるから、右確認請求は理由がある。

なお、この確認請求の性質は、同日の欠勤が年休による正当なものであったことを判決主文で宣言することにより、これを前提とする控訴人の現在における労働契約上の地位を確認することを求める趣旨であると解される。そして、同日の欠勤が事故欠勤ということになると、賞与、昇給、退職金その他の査定等、様々な面で控訴人が不利益を被る可能性があることは当事者間に争いがないから、本件両指定日の欠勤が年休であったことを確認する利益があるというべきである。

五  控訴人の本件両指定日における欠勤を理由に不利益な取扱いをしないことを求める請求について

右請求は、被控訴人に対し、抽象的な不作為を求めるものであって、具体的な不作為給付の内容が特定されていないから、不適法といわざるを得ない。

六  慰謝料及び弁護士費用について

控訴人は、被控訴人が、無効な時季変更権の行使をして、本件両指定日における年休を認めず、事後的にも、同日の欠勤を年休に振り替えなかったことをもって、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料及び弁護士費用相当額の支払を求めるものである。

本件においては、被控訴人は、控訴人に対して無効な時季変更権の行使をし、事後的にも控訴人に対して年休に振り替える取扱いを拒んだものであるが、かかる無効な意思表示をし、あるいはなすべき取扱いを拒んだことが、直ちに、不法行為を構成するということはできない。右のような無効な時季変更権を行使したこと等が不法行為法上違法となるためには、右行為が、その目的、態様等に照らし、社会通念上著しく不相当であることを要するものと解される。

しかるに、前記第二の二2の認定によれば、被控訴人による控訴人に対する時季変更権の行使等は、従前から小倉分会との合意に基づき行われてきた労使慣行に従ったものにすぎないのであって、本件労働協約に違反するにせよ、被控訴人がそのような取扱いをしたことについては、無理からぬものがある。なお、証拠(甲一二ないし一五)によれば、控訴人は、かつて被控訴人で組合の分会委員に就いていたことがあり、平成五年にバス運転士が就業規則違反を理由に解雇されたことについて、支援する会の会長として、解雇の撤回を求めて活動したことが認められるけれども、本件時季変更権の行使が、控訴人のこのような活動を嫌悪し、これに報復する目的でなされたことを認めるに足りる証拠はない。

以上によれば、被控訴人が控訴人に対して時季変更権を行使したこと等は、その目的、態様等に照らし、社会通念上著しく不相当であるとは認められないから、不法行為となるものではなく、控訴人の慰謝料及び弁護士費用相当額の損害賠償請求及びこれに係る遅延損害金請求は理由がないこととなる。

七  以上によれば、控訴人の請求のうち、控訴人の本件両指定日の欠勤が年次有給休暇によるものであることの確認請求及び金員支払請求中カット分の賃金二万二〇〇六円及びこれに係る遅延損害金の支払請求の部分は認容し、不利益取扱いをしないことを求める請求に係る訴えは却下し、その余の請求は棄却すべきであって、控訴人の各請求をいずれも棄却した原判決は一部不当であるから、これを右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六七条二項、六一条、六四条を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 兒嶋雅昭 裁判官 原啓一郎)

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