福岡高等裁判所 平成10年(行コ)24号 判決
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人が控訴人に対し昭和六三年一〇月一八日付けでした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分を取り消す。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
主文と同旨
二 控訴の趣旨に対する答弁
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二当事者の主張
当事者の主張は、当審における主張を次のとおり加えるほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人の主張)
伊賀富夫(以下「亡富夫」という。)の虚血性心疾患は、心電図所見によれば、死亡の約半月前である昭和五七年七月一七日には約一年前より改善していたこと、血圧は昭和五六年四月頃から正常化し昭和五七年七月一七日には一四二/七〇とほとんど正常であったこと、肥満度も従前より低下しており最終測定時である昭和五六年一一月一一日には二四・五であったことなどが認められ、亡富夫の心筋梗塞発症による死亡が同人の虚血性心疾患の自然的悪化によるものとはいえない。
一方、亡富夫の仕事は本船荷役(船倉にある原木に玉掛け作業を行う)、鉄板仕訳(三五トンのレッカー車の操作)等で多大な精神的緊張を伴う上、屋外の作業で夏季の暑熱の直接的影響を受けやすい作業環境であった。死亡前四週間(六月二八日から七月二五日まで)をみると、四回の休日のうち三回の休日出勤があり、この間一四・五時間の時間外労働があり、同年五月に比して労働時間が増加傾向にあり、一週間当たりの平均労働時間は約六〇時間と長時間労働であり、しかも後半に時間外労働、休日出勤が集中している。亡富夫は昭和五六年四月一日から六月三〇日まで休業し、同年七月一日から仕事を再開して一四日間連続出勤し、その間二四時間の時間外労働をした後の同月一五日の心電図所見では危険性が指摘され、同月-六日から八月一二日まで二九日間連続で出勤し、その間五六時間の時間外労働をし、同月一三日から一五日まで三日間休んだ後の同月一九日の心電図所見でも悪化が認められたことからしても、業務負担の増大(休日出勤、長時間労働)と亡富夫の虚血性心疾患の発症との間に明らかな相関関係が認められる。
以上によれば、亡富夫が昭和五七年六月、七月に従前に比して長時間労働に従事したことが同人の同年七月三一日の虚血性心疾患の悪化(心筋梗塞の発症)の大きな要因として作用したことが明らかである。
(被控訴人の主張)
昭和五七年七月一七日ころ亡富夫の虚血性心疾患の病態は安定(改善)していたことは争う。同月一七日の前後を比較しても、同月一八日以降の時間外労働時間が特段に多かったということはないうえ(同僚の時間外労働と比較しても特段に多かったというものでもない。)、作業内容にも変化はなく、同月三一日の気象上の作業環境も夏の通常の暑さであったのに、同月三一日に亡富夫に心筋梗塞が発症したのであって、亡富夫は、これまで数回にわたって狭心症、心筋梗塞を発症してきたこと、複数の基礎疾患を有していること、肥満や喫煙習慣があるなどの危険因子を有していたことなども総合考慮すると、いつ心筋梗塞が発症してもおかしくない状況にあったというべきであり、業務が他の原因と比較して相対的に有力な原因になって同月三一日の心筋梗塞が発症したとは認められず、業務と発症との間に相当因果関係はないというべきである。
第三証拠
証拠関係は、原審及び当審の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。
第四当裁判所の判断
一 請求原因1ないし4(当事者、亡富夫の死亡、行政処分の存在、不服申立て)の各事実は、当事者間に争いがない。
二 前提事実
本件の事実関係は、次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決「理由」中の「二1 本件の事実関係」(原判決二二頁四行目から同四四頁八行目まで)のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決二三頁六行目の「数名」を「八名(設立当初は九名)」と、同八行目の「外材原木の積出作業」を「外材原木にワイヤーをかけてウインチで巻き上げ水面に搬出する作業」とそれぞれ改め、同九行目の「鉄板を」の次に「レッカ-車を使用して」を、同末行の「担当し」の次に「、社長以下八名全員が、吉田港運の従業員とともに同社による各作業への人員配置に従って各作業に従事し」を、同二四頁三行目の「二二、」の次に「二八、」を加え、同二五頁二行目の「夏場の作業環境」から同六行目末尾までを次のとおり改める。
「しかしながら、夏場の晴天の作業環境では、鉄板、アスファルト等の輻射熱により作業現場は高温になり、レッカー車の運転業務は、通常運転席の側面のドアと前面の窓を開け、小さな扇風機を設置してあったため地上での作業員ほどではないにしろ、暑熱の暴露を受け、暑い中での作業であった。なお、亡富夫が死亡した日に一緒に鉄板仕訳作業に従事していた同僚は、水分をとると疲れがひどくなるのでできるだけとらないようにしていた旨述べている(乙第三号証の一九)ところからすると、吉田港運や協栄産業では、当時、暑い中で作業するに当たり十分水分の補給をしながら行うことを指導していたことは窺われず、亡富夫も右同僚と同様に考えていた可能性が高い。」
2 同二九頁九行目の「三回」の次に「(昭和五六年七月一五日、同年八月一九日、昭和五七年三月三日)」を加え、同末行の「RonT波が出現していた」を「RonT波(重症度の不整脈)が出現し、同年八月一九日の検査所見では、ST低下の悪化がみられ前回より悪かったため十分注意するよう指示され、また、度々食事と過重労働に注意するよう指示された。そして、昭和五七年三月三日及び同年七月一七日の検査所見では、虚血の所見の持続はあるものの、昭和五六年の夏ころに比べてST低下の程度が減少するなど心電図所見は改善していた。なお、亡富夫は、受注減による会社の都合で約三か月休業(その間失業保険を受給)した後の昭和五六年七月一日から一四日間連続出勤し、その間二回の休日出勤と合計八時間の早出残業の時間外労働をしたところ、その直後の同月一五日の心電図所見で危険性が指摘され、また、同月一六日から八月一三日まで二九日間連続で出勤し、その間四回の休日出勤と合計二二時間の早出、残業の時間外労働をし、同月一四日から一六日まで盆休みを三日間とった後の同月一九日の心電図所見でも悪化が認められたことからしても、夏季の業務負担の増大(休日出勤、長時間労働)と亡富夫の虚血性心疾患の発症との間に相関関係を窺うことができる」と改め、同行の「甲第一号証、」の次に「第二五号証ないし第二八号証、」を加え、同行から同三〇頁初行にかけての「乙第三号証の三二」を「乙第三号証の二七、三二」と改め、同行から二行目にかけての「証人清田」の次に「、弁論の全趣旨」を加え、同二行目の次に改行の上、次のとおり加える。
「 なお、原審証人清田は、亡富夫は昭和五七年七月当時いつ心筋梗塞が発症して急死に至ってもおかしくない状態であり、亡富夫の死亡は自然の経過によるものである旨証言しているが、他方で、昭和五七年七月当時は従前に比べて高血圧、高脂血症、心電図所見等が改善していることも認める証言をしていること及び前記認定の当時の病状などに照らすと、前記証言部分は採用できない。また、児玉俊一作成の意見書(乙第三号証の四〇)中にも「いつ急死になるかもしれないものであった」との記載があるが、原審証人児玉の証言によれば、右記載部分は昭和五五年一一月ころの状況がそうであったという意味であって、その後亡富夫の心電図上の所見は安定してきている旨証言していることにかんがみると、右記載部分は昭和五七年七月ころの亡富夫の病状についての意見を述べたものとは認められず、これらは、いずれも亡富夫の昭和五七年七月当時の病状に関する前記認定判断を左右するものではない。」
3 同三〇頁一〇行目の次に改行の上次のとおり加える。
「 しかしながら、昭和五六年四月以降の井上病院での血圧測定(甲第一号証)によれば、受診時(四月一〇日)は一五〇/一〇〇であったが、翌日は一二〇/七八と正常化し、その後血圧は安定して、同年五月六日に一四〇/九〇、同年七月七日に一一八/九〇と二回拡張期血圧が九〇以上となっただけであり、最終測定の昭和五七年七月一七日も一四二/七〇と正常であった。なお、昭和五六年一一月一一日は、職場においても定期健康診断が行われ、血圧測定の結果は一六四/一〇四であったのに対し、井上病院では同日一二〇/八六と正常であったことが認められるが、これは、職場では安静状態での測定が確保されなかったことなどによるものと考えられる(甲第二五号証)。」
4 同三〇頁末行の「入院した期間を除いて、」を「入院する前まで」と、同末行から同三一頁初行にかけての「喫煙をしていた」を「喫煙をしていたが、退院後はやや控えて一日一〇本ないし一五本程度にしていた」とそれぞれ改め、同行目の「乙第三号証の一七、」の次に「二二、」を加え、同八行目の次に改行の上、「冠動脈疾患の危険因子としての総コレステロールは、投薬及び栄養指導により、昭和五六年五月以降低下傾向にあった(甲第一号証、第二五号証)。」を加え、同末行の「一時尿酸値は」から同三二頁二行目までを「尿酸値は下降し、昭和五七年七月一七日の検査では五・八mg/デシリットルであった(甲第一号証)。なお、尿酸値の正常範囲は議論のあるところであり、二・五ないし五・〇mg/デシリットルとされたり(甲第一号証)、七・〇mg/デシリットル以上が高尿酸血症であり、九・〇mg/デシリットル以上が治療を要するとされたりしている(甲第二〇号証)。また、高尿酸血症が虚血性心疾患の危険因子であるかどうかについても議論は分かれている(甲第二〇号証)。」と、同四行目の「一日二〇本以上」を「一日一〇ないし一五本(昭和五五年一一月ころまでは一日約二〇本)」と、それぞれ改める。
5 原判決三三頁初行から同三五頁三行目までを次のとおり改める。
「 亡富夫は、前記の各発作後、病院で薬物による治療(四回目の昭和五五年一一月二六日の発作時は三四日間入院、他は通院)を受け、職場に復帰(ただし、昭和五六年四月から同年六月末日までは受注減による会社の都合で休業)していたが、病院からは食餌と過重労働に注意するよう指示を受けただけで、亡富夫の就労すべき業務の種類、内容について具体的に言及されたことを認める証拠はない。
亡富夫は、昭和五六年七月一日職場復帰し、夏場の一四日間連続出勤(その間の時間外勤務は七時間)したが、同月一七日の井上病院の検査所見ではRonT波などの異常所見が出現した。
しかし、その後高血圧、高脂血症は改善傾向を見せ、昭和五七年七月一七日の心電図検査の所見では、心室性期外収縮は認められず、心筋梗塞の既往を有する狭心症で虚血の持続はあるものの、悪化傾向はなく、安定していた(甲第一号証、第二五号証、当審証人久米行則)。」
6 同三五頁六行目の「就業時間は、」の次に「月曜日から土曜日まで通じて」を、同八行目から九行目の「早朝出勤」の次に「(午前六時出勤、午前四時出勤等)」を加え、原判決の別紙一の富夫の欄に「23」とあるのを「14.5」と改め、原判決同三六頁七行目の「別紙三のとおりである」の次に「。なお、亡富夫は、本船荷役作業をするときは、他の二名の従業員の責任者としての立場で玉掛作業を行い、鉄板仕訳作業をするときはレッカー車の運転を担当した。」を、同行目の「第三号証の」の次に「二二、」を、それぞれ加え、同一〇行目の「合計二三時間」を「合計一四・五時間(その内、早出は九日に二時間(午前六時出勤)、二〇日に四時間(午前四時出勤)、二二日に二時間(午前六時出勤)であり、その余は残業である。)」と、同三七頁四行目の「残業」を「早出」とそれぞれ改め、同七行目の「また、」から同三八頁二行目までを次のとおり改める。
「 亡富夫は、通常、午後九時ころ就寝し、午前六時ころ起床して、通勤に自家用車で片道約四五分間を要して午前八時までに会社に出勤していたが、レッカー車の回送の仕事があるときには、公道での混雑を避けるため午前六時等に早出勤務することが度々あり、午前六時出勤のときには午前四時半ころ起床しなければならなかった。レッカー車の回送業務が三〇分位で終われば、事務室で休憩することができたが、仮眠をとれるような状況ではなかった。
(甲第一七号証、乙第三号証の一一、一七、二七、二八、四四、五二、六一、原審証人大下、同高野、原審控訴人。なお、昭和五七年七月期及び八月期の勤務状況は、会社作成の作業日報及び亡富夫作成の日誌の記載(乙第三号証の一一、四四、五二)に拠った。)」
7 同四〇頁の七行目から末行までを削除する。
8 同四四頁八行目の「なかった」の次に「が、死亡前一週間は、同程度の平均気温が続き、日照時間はやや長くなってきて、屋外作業現場における気温は鉄板、アスファルト等の輻射熱により右測定値より高く、その温熱環境は、日本産業衛生学会が示す、健康な成人男子作業者が安全かつ能率の低下をきたすことのない工場、鉱山の作業場の許容基準を上回る可能性もあるものであった」を加え、同行目の「乙」を「甲第六号証、第二五号証、乙第二号証、」と改める。
9 同四四頁八行目の次に改行の上、次のとおり加える。
「 (六) 上司、同僚の評価によれば、亡富夫は、無口であるが責任感が強く、仕事熱心で、早出残業も命じられれば断ることがなく、真面目な人物であった(乙第三号証の一八ないし二二)。
(七) 心筋梗塞とは、心臓壁循環の異常により生じた心筋の壊死である。一般には冠状動脈の閉塞により、その動脈の灌流部分に生じた肉眼的に認め得る大きさ又は径〇・五センチメートル以上の壊死巣をいう。冠状動脈の閉塞の成因(病因)は、大部分が動脈硬化である。動脈壁の動脈硬化が次第に進むと、血管の内腔は狭くなり、遂には閉塞してしまう。あるいは、硬化した動脈壁に血栓が付着して動脈を閉塞してしまう。激しい胸痛(三〇分以上続くものが多い。)で発症し、随伴症状として悪心、嘔吐、冷汗などをよく伴い、不整脈(心室性期外収縮等)が出現することも多く、その死亡率は高くて、三五ないし五〇パーセントといわれたり(乙第二九号証)、二〇パーセントといわれたりしており(乙第四号証)、死亡の大半は発症後一、二時間以内に集中する救命の困難な病気である。
狭心症とは、冠状動脈の異常により生じた一過性の心筋虚血による胸痛発作である。運動などの労作で心筋の酸素需要が増大したのに、冠状動脈の狭窄があるため十分な血流を供給できない場合と、冠状動脈が攣縮して血流が低下する場合とがある。前胸部に圧迫感、紋扼感などの狭心痛を訴えるが、病状の持続は一五分以内のことが多く、酸素不足の程度は軽く、一過性で心筋に壊死を認めない。心筋梗塞は、血液の酸素不足の程度が、高度、持続的かつ不可逆的で心筋の壊死を来したものである。両者を一括して、虚血性心疾患という。狭心症は心筋梗塞の前駆症状であることがある。
虚血性心疾患の病因は、冠状動脈硬化症であり、その病因は冠状動脈硬化症の病因ということになる。虚血性心疾患の病因(危険因子。リスクファクター。)としては、高血圧、高脂血症、喫煙、糖質代謝異常、肥満等が挙げられており、このうち前三者が三大危険因子とされている。危険因子は、虚血性心疾患の遠い原因(遠因)である。虚血性心疾患は、初期は症状が現れず、徐々に心筋虚血が進み、あるときになって狭心症とか心筋梗塞の症状が発現する。その発現の直接の引き金となる原因(直接の原因、あるいは誘因といわれる。)は、狭心症の場合は激しい体動の最中(労作性狭心症)、心筋梗塞の場合は心身の精神的、身体的負荷の後(日中に原因があって、その夜に発症)ということがよく見られる。(乙第四号証、第二九号証)
虚血性疾患の作業関連性に関しては、寒冷、暑熱暴露(暑さのため発汗が増加し、体内水分量が減少して血液が濃縮され、心臓の負担が増加する。)、筋労作、運転労働、心理社会ストレス(睡眠不足、長時間労働等)等の要因がその発症に関連していることが報告され、日本産業衛生学会の循環器疾患の作業関連要因検討委員会報告(一九九五年)において、虚血性心疾患予防のため、月五〇時間以上の時間外労働、週六〇時間以上の長時間労働の原則禁止、寒冷、暑熱暴露のある労働者の時間外労働の原則禁止、やむを得ず行う場合は代替え休日等を保証することなどが提言されている。(甲第八号証、第二二号証、乙第三〇号証の二)」
三 業務起因性の判断基準、亡富夫の心筋梗塞の発症時期について
原判決四六頁三行目「無過失の」を「過失がない場合にも」と、同八行目の「通常の勤務」を「基礎疾病を有するものの勤務の軽減を要せず、通常の勤務」とそれぞれ改めるほか、同四四頁九行目から同四八頁八行目までに記載のとおりであるからこれを引用する。
四 亡富夫の心筋梗塞の業務起因性について
以上認定の事実によれば、(一)亡富夫は、昭和五二年六月から昭和五六年四月までの間に五回にわたる狭心症発作を起こし、その内一部は心筋梗塞に移行し、冠状動脈の多肢病変も指摘されていたが、昭和五六年四月以降の通院治療中の健康状態をみると、血圧は概ね境界域ないし正常に改善され、高脂血症も総コレステロール値が正常値に改善され、心電図所見は、夏季の長時間労働が続いたころの昭和五六年七月及び八月にはRonT、ST低下の悪化、心室性期外収縮がみられるなどして一時悪化したものの、その後は昭和五七年七月一七日まで、虚血の持続はあるものの悪化傾向は認められず安定(改善)していたこと、(二)亡富夫は、右のとおり虚血性心疾患の既往症を有する高血圧、高脂血症、肥満等の基礎疾患を有しながら、レッカー車運転を中心とする業務に就いていたのであるが、その業務遂行状況をみると、時間外労働時間は、昭和五七年六月期(三五時間)及び七月期(一四・五時間)は同年四月期(一三時間)及び五月期(一一・五時間)に比べて増えており、同僚六人の六月期及び七月期の各平均(一六・五時間、一四・八時間)と比較すると、七月期はほとんど同等であるが、六月期は格段に多く、死亡前一か月余り(六月二六日から七月三一日)をみると、五回の休日(日曜日)のうち三回の休日出勤があり、時間外労働が二二・五時間で、死亡の三日前(七月二九日)に親戚の結婚式に出席するため休みを一日とったものの、その前は一七日間連続して勤務しており、死亡前二週間(最後に心電図検査を受けた翌日である七月一八日から死亡した七月三一日まで)をみると、労働時間は一二三時間(=八時間×一三日+時間外勤務一九時間(乙第三号証の一一、二八))、週平均六一・五時間に及び、それ以前に比べて早出(五回)、残業(三回)が集中している上、死亡当日は最高気温二九・五度(佐伯地方)の中鉄板仕訳作業のレッカー車の運転に従事したものであり(前日もほぼ同様)、レッカー車の運転席にも鉄板等の輻射熱が影響し、暑熱の暴露があったといえること、(三)前記認定の虚血性疾患の作業関連性に関する報告、提言などを併せ考えれば、亡富夫の前記基礎疾患がその自然の経過によって致死的心筋梗塞を発症させる程度に増悪していたとみるのは困難であって、発症前二か月、特に直前の二週間に従事した業務による過重な精神的、身体的負荷が亡富夫の基礎疾患をその自然の経過を越えて増悪させ、右発症に至ったとみるのが相当であって、その間に相当因果関係の存在を肯定することができる。したがって、亡富夫の発症した心筋梗塞は労働基準法施行規則三五条、別表第一の二第九号にいう「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当するというべきである。
第五以上によれば、右判断と異なる原判決は相当ではないからこれを取り消し、控訴人の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川畑耕平 裁判官 岸和田羊一 裁判官 白石哲)