福岡高等裁判所 平成11年(ネ)104号 判決 1999年6月29日
控訴人
株式会社第一勧業銀行
右代表者代表取締役
杉田力之
右訴訟代理人弁護士
関口保太郎
同
古館清吾
同
田眞憲
同
冨永敏文
同
吉田淳一
被控訴人
黨正美
右訴訟代理人弁護士
春山九州男
同
柳澤賢二
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人の請求を棄却する。
三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
主文同旨
二 控訴の趣旨に対する答弁
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
本件事案の概要は、次に補正するほかは、原判決二頁末行から一一頁二行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決三頁七行目の「二二目」を「二二日」と改め、末行の「義弘」を「義博」と改め、五頁二行目の「九日」を削る。
二 同九頁五行目の「登記」の次に「手続」を加え、一〇頁八行目から九行目の「ないしそ」を削る。
第三 証拠
証拠関係は、原審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四 当裁判所の判断
当裁判所は、被控訴人の請求を棄却すべきものと判断するが、その理由は、次の一及び二のとおり補正し、三以下に付加するほかは、原判決一一頁四行目から一七頁一〇行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決一四頁一行目の「欺岡」を「欺罔」と改め、一五頁五行目の「その動機に錯誤がある」を「真実所有権を移転する意思がなかったとしても、その動機において錯誤があった」と改める。
二 同一六頁五行目の「は原告の」及び「原告には」をいずれも削除し、一七頁二行目の「名儀」を「名義」と改め、五行目冒頭の「ない」の次に、「(被控訴人に右のような考えがあったとしても、それは、地上げの危険が去った後の処理方法を念頭に置いたものにほかならないというべきであって、このことが本件所有権移転登記を行う動機であったとは考えられない。)」を加える。
三 争点2(善意の第三者保護)について
1 控訴人は、争点2について、民法九六条三項及び九四条二項の類推適用を主張するが、右は選択的な主張と解されるので、まず、同法九四条二項の類推適用の可否について判断する。
2 当事者の意思によって虚偽の外観が作出された場合に民法九四条二項の規定が類推適用されるのは、虚偽の外観作出に加担した者は、その外観を信じて取引関係に立った第三者の犠牲において保護されてはならないとの法意に基づくものである。被控訴人は、その動機はともかくとして、今岡に本件土地建物の所有権を移転する意思がないにもかかわらず、今岡と意思を通じて、本件売買を原因とする所有権移転登記手続をしたのであるから、右法意に従い、民法九四条二項の規定の類推適用により、善意の第三者に対しては、本件売買に基づく所有権移転の無効をもって対抗することができないと解するのが相当である。
本件売買契約における被控訴人の意思表示は、通謀虚偽表示として無効であると同時に、前記のとおり錯誤による無効でもあるが、被控訴人は、自己の財産を保全するために虚偽の外観を作出した当事者であり、外観の作出が意思を相通じた相手方の詐欺による錯誤の結果であっても、そのような信義にもとる行為に出た者が、当該虚偽の外観を信じた善意の第三者の犠牲において保護される理由はない。
3 乙三によれば、控訴人は、セントラルコマースに前記融資をするに当たって、本件土地建物について、セントラルコマースが所有権移転登記を経由して半年以上の期間が経過しており、その間に特段の紛争が生じた形跡がないことから、本件土地建物がセントラルコマースの所有に属するものであることに疑いを抱かず、所定の手続を経て、右融資を実行し、本件根抵当権設定登記を経由したことが認められる。
右の事情によれば、控訴人は、本件根抵当権設定当時、本件土地建物がセントラルコマースの所有に属しているものと信じていたことが認められる。このことは、被控訴人から今岡への本件売買及びこれを原因とする本件登記が有効に行われたと信じたことにほかならない。
そうすると、控訴人は、民法九四条二項の規定する善意の第三者に該当し、したがって、同項の類推適用により、被控訴人は、セントラルコマースが善意であったか否かに関わりなく、本件登記の無効をもって控訴人に対抗することができず、控訴人に対し、本件根抵当権設定契約に基づく本件根抵当権登記の抹消を求める理由はない。
四 以上の次第で、被控訴人の本件請求は、失当であるから、棄却を免れない。
第五 結語
よって、被控訴人の請求を認容した原判決は相当でないから、これを取り消し、被控訴人の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小長光馨一 裁判官 長久保尚善 裁判官 石川恭司)