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福岡高等裁判所 平成11年(ネ)832号 判決

被控訴人 株式会社Y1 (合併前の株式会社Y2。以下「被控訴人Y1」という。)

右代表者代表取締役 F

右訴訟代理人弁護士 岩田務

被控訴人 日産火災海上保険株式会社 (以下「被控訴人日産火災」という。)

右代表者代表取締役 G

右訴訟代理人弁護士 梅野茂夫

主文

一  原判決中、控訴人Bと被控訴人管理組合に関する部分を次のとおり変更する。

1  被控訴人管理組合は、控訴人Bに対し、金五六万八〇〇〇円及び内金二八万円については平成八年八月一四日から、内金二八万八〇〇〇円については平成九年三月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人Bの被控訴人管理組合に対するその余の請求を棄却する。

二  控訴人Bのその余の被控訴人らに対する本件控訴をいずれも棄却する。

三  控訴人A、控訴人C及び控訴人Dの被控訴人らに対する本件控訴をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中、控訴人Bと被控訴人管理組合との間で生じたものは、第一、二審を通じてこれを六分し、その五を控訴人Bの、その余を被控訴人管理組合の負担とする。

五  その余の控訴費用は控訴人らの負担とする。

六  この判決は、第一項1に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは、控訴人Aに対し、各自金二七二万七六五〇円及びこれに対する平成八年一〇月二〇日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人らは、控訴人Bに対し、各自金三六一万九五四〇円及びこれに対する平成八年八月一四日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被控訴人らは、控訴人Cに対し、各自金三六八万一九八九円及びこれに対する平成八年一月二八日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  被控訴人らは、控訴人Dに対し、各自金二二〇三万一〇〇〇円及びこれに対する平成八年八月一四日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

6  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

7  2ないし5につき、仮執行宣言

二  控訴の趣旨に対する答弁(被控訴人ら)

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二事案の概要

次のとおり、被控訴人らの責任原因についての主張を改めるなどしたほか、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決六頁五行目の「X(」の次に「昭和五六年二月新築。」を、同七頁一〇行目の末尾に「株式会社Y2(以下「Y2」という。)は、平成一一年一〇月一日被控訴人Y1に合併して解散した。」を加える。

二  同八頁五行目から同九頁六行目までを次のとおり改める。

「(一) (第一事故)平成七年五月一四日に発生した、共用部分である屋上排水ドレーンゴミ詰まりに起因する九〇三号室への漏水事故(乙ロ四、乙ハ九、一三。ただし、その継続期間については、争点2記載のとおり争いがある。控訴人A及び同加藤は、当審において、平成七年五月一五日以降に生じた九〇三号室の漏水が屋上排水ドレーンのゴミ詰まりとは別の原因で生じたものであれば、別の原因による事故として両事故による損害を請求する旨明らかにした。)

(二) (第二事故)平成八年八月一四日に発生した、九〇三号室北側バルコニー排水口目詰まりに起因する同室への溢水事故

(原審控訴人B、原審証人H、同I)

(三) (第三事故)平成八年一月二八日に発生した、五〇三号室床下排水管亀裂に起因する三〇三号室への漏水事故(甲四三、乙ハ六)

(四) (第四事故)平成八年八月一四日に発生した、四〇三号室バルコニー排水口目詰まりに起因する三〇三号室への漏水事故(甲四三、乙ハ一六)」

三  同九頁八行目から同二三頁七行目までを次のとおり改める。

「1 被控訴人らの責任原因(控訴人らの主張)

(一)  控訴人A及び同C

(1)  被控訴人管理組合の責任

控訴人Aは九〇三号室の、控訴人Cは三〇三号室の各区分所有者として被控訴人管理組合に対し管理業務を委任(準委任)していたところ(管理規約二三条本文、二四条一項、三二条五項、六項、三八条(1) ないし(4) 、(13)等)、共用部分である屋上及びバルコニーについて被控訴人管理組合(又はその履行補助者であるY2)が管理業務を怠ったことにより第一事故及び第四事故(いずれも漏水事故)が発生し、また損害が拡大したのであるから、債務不履行に基づき右事故による損害を賠償すべき責任がある。

また、被控訴人管理組合には、右管理を怠った過失による不法行為責任がある。

バルコニーは構造的には建物全体の躯体の一部であって、明らかに本件マンションの共用部分であるから、その管理については被控訴人管理組合が責任を負う。また、本件マンションの管理規約(以下単に「管理規約」という。)二三条ただし書により、バルコニーの管理のうち通常の使用に伴うものについては、バルコニーの専用使用権を有する各住戸の区分所有者がその責任を負うとしても、右各事故の発生した台風接近時にバルコニー排水口の目詰まりを防ぐことは、バルコニーの通常の使用に伴う管理義務の範囲を超えており、被控訴人管理組合が管理責任を負うべきである。

(2)  被控訴人Y1の責任

被控訴人管理組合はY2との間で管理委託契約を締結していたが(甲一)、右契約は、管理者(建物の区分所有等に関する法律二五条以下)と同等の権限を付与された被控訴人管理組合理事長(管理規約四三条二項)が区分所有者全員の代理人として締結したものであるから、Y2は全区分所有者に対して右契約に基づく管理義務を負っているところ(管理委託契約二条二項、三条一号<1>、三号<4>、一一条一項)、共用部分である屋上及びバルコニーについてY2が管理業務を怠ったことにより第一事故及び第四事故が発生し、また損害が拡大したのであるから、債務不履行に基づき右事故による損害を賠償すべき責任がある。

また、Y2には、右管理を怠った過失による不法行為責任がある。

(3)  被控訴人日産火災の責任

被控訴人管理組合は被控訴人日産火災との間で本件マンションについて本件保険契約を締結していたが、右契約は、管理者と同等の権限を付与された被控訴人管理組合理事長が区分所有者全員の代理人として締結したものであるから、被控訴人日産火災は全区分所有者に対して右契約に基づく損害保険金支払義務を負っている。

また、控訴人A及び同Cは被控訴人管理組合に対し前記(一)のとおり損害賠償請求権を有しているので、右債権を保全するため同管理組合の被控訴人日産火災に対する保険金請求権を代位行使することができる。

(二)  控訴人B及び同D

(1)  被控訴人管理組合の責任

控訴人Bは九〇三号室の賃借人の配偶者、同Dは三〇三号室の所有者の配偶者で、いずれも本件マンションの居住者であるが、本件マンションの共用部分であるバルコニー及び床下排水管の欠陥が原因となって第二事故(溢水)及び第三事故(漏水)が発生し損害を蒙ったものであるから、右工作物の占有者である被控訴人管理組合には工作物の不法行為責任(民法七一七条一項)がある。

第三事故に関し、五〇三号室床下排水管は、構造上の独立性、利用上の独立性、特定区分所有者単独での保守管理可能性のいずれの点から判断しても共用部分であるから、被控訴人管理組合が管理責任を負うべきである。

なお、平成元年二月四日に開催された被控訴人管理組合の臨時総会において『専有部分の床スラブ等の中の給排水管等について共用部分とすることを明記する』との議案が承認され、これを受けて同年二月二〇日に施行された管理規約において、共用部分等(共用部分及び付属施設)の範囲を定めた別表2の『1』において床スラブが、同『2 建物に直接する附属物』として『給排水衛生設備』、『その他各種の配線、配管』が、同『3 建物に直接しない附属施設』として『排水施設』が掲げられるに至った。

(2)  被控訴人Y1の責任

Y2は、被控訴人管理組合から本件マンションの管理を受託していたにもかかわらず管理を怠ったことにより第二事故及び第三事故を発生させ、本件マンションの居住者である控訴人B及び同Dに損害を蒙らせたのであるから、不法行為責任がある。

(3)  被控訴人日産火災の責任

控訴人B及び同Dは被控訴人管理組合に対し前記(一)のとおり損害賠償請求権を有しているので、右債権を保全するため同管理組合の被控訴人日産火災に対する保険金請求権を代位行使することができる。

また、被控訴人日産火災が第四事故の際に派遣した鑑定人が、控訴人Dに対し被害物保管について誤った指示をしたことにより損害が拡大したのであるから、拡大した損害について被控訴人日産火災に使用者責任(民法七一五条)がある。

2 被控訴人管理組合の主張

(一)(1)  法人格のない被控訴人管理組合は、原則として不法行為能力を有しない。

(2)  管理規約は建物の区分所有等に関する法律三条の授権に基づき各区分所有者と管理組合との関係を規律している自治規範であって、各区分所有者と管理組合との関係は契約関係ではないから、被控訴人管理組合が各区分所有者に対し債務不履行責任を負うことはない。

被控訴人管理組合は本件マンションの共用部分を管理する権限を有しているが、仮に右権限の不行使があっても、それによって被控訴人管理組合が控訴人らに不法行為責任を負うものではない。また、被控訴人管理組合の権限は、組合内部の権限にすぎないから、組合外の第三者である控訴人Bに対して、被控訴人管理組合が不法行為責任を負うことはない。

(3)  第一事故に関して、屋上排水ドレーンは被控訴人管理組合が通常管理せず、占有もしていないから、被控訴人管理組合は不法行為責任を負わない。第二及び第四事故に関して、管理規約二三条ただし書により、バルコニーの管理のうち通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する当該住戸の区分所有者がその責任と負担において行うこととされているから、被控訴人管理組合は責任を負わない。また、バルコニーの排水設備に欠陥があったとしても、規約三二条一項に基づき、その保全及び修繕の責任は専用使用する区分所有者が負うべきであり、被控訴人管理組合に責任はない。第三事故に関して、五〇三号室床下排水管は、同室の区分所有者の専有部分であり、仮に共用部分であるとしても、同室の区分所有者が専用使用する部分であるから、右区分所有者が管理責任を負い、被控訴人管理組合に管理責任はない。

(二)  仮に被控訴人管理組合の工作物責任が問題になるとしても、被控訴人管理組合は、Y2に管理業務を委託して管理義務を十分に尽くしていたから、それでも発生した損害については各区分所有者が責任を負うべきである(民法七一七条一項ただし書き)。

3 被控訴人Y1の主張

Y2は、屋上排水ドレーンの清掃を毎月実施するなど、マンション管理会社としての通常の義務を履行しており、屋上排水ドレーンの保全、修理の義務を怠ったとはいえず、第一事故につき債務不履行及び不法行為責任はない。第二及び第四事故については、バルコニーが各住戸の専有部分の一部と解される以上、工作物の保存の瑕疵として、バルコニーの占有者ないし区分所有者が管理責任を負うべきであり、仮にバルコニーが共用部分とされるとしても、管理規約二三条ただし書に基づき、専用使用権を有する各住戸の区分所有権者が管理責任を負うべきである。したがって、Y2にバルコニーの管理義務はなく、債務不履行及び不法行為責任もない。第三事故についても、五〇三号室の床下排水管は、専有部分相互の境界部分のうち、いわば上塗り部分に当たり、同室の区分所有者が所有する専有部分であると解されるから、右区分所有者が保全と修繕の義務を負う。また、仮に共用部分であったとしても、管理規約三二条一項により、五〇三号室の専用使用者が保全と修繕の義務を負う。したがって、Y2には管理責任はなく、債務不履行及び不法行為責任もない。

4 被控訴人日産火災の主張

(一)  控訴人らが債権者代位権を行使するに当たっては、被控訴人管理組合の無資力及び被控訴人管理組合の被控訴人日産火災に対する保険金請求権が履行期にあることが必要である。右保険金請求権は、損害の確定によって履行期が到来するのであり、現時点では履行期は到来していない。したがって、控訴人は被控訴人日産火災に対して、将来の給付の訴えならともかく、現在の給付を求めることはできない。

仮に債権者代位権が認められたとしても、本件保険契約による保険額は、対物一事故につき五〇〇万円であるから、控訴人らは、第四事故による損害のうち五〇〇万円を超える部分について、債権者代位権を行使することはできない。

(二)  第二及び第四事故については、バルコニーが専有部分である以上、右各事故は、排水口の清掃を怠った占有者や区分所有者の管理懈怠に起因するものであり、本件保険契約の対象とはならない。仮にバルコニーが共用部分であっても、管理規約二三条ただし書により、その管理のうち通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者が責任を負い、右各事故がバルコニーや排水口の構造上の欠陥により発生したとしても、管理規約三二条一項により、その保全及び修繕は、専用使用権を有する区分所有者の責任であるから、本件保険契約の対象とはならない。

第三事故についても、五〇三号室の床下排水管は専有部分の建物の附属物であり、同室の区分所有者が管理責任を負うべきであるから、本件保険契約の対象とならない。

(三)  被控訴人日産火災に対する使用者責任については、控訴人らのいう鑑定人は、被控訴人日産火災の従業員でも指揮監督を受ける者でもなく、同人らに過失もないから、控訴人らの主張は失当である。」

第三当裁判所の判断

一  第一事故について

1  被控訴人管理組合の不法行為能力等については、原判示(原判決三三頁末行から同三五頁五行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

2  被控訴人管理組合は、管理規約は自治規範であり被控訴人管理組合と区分所有者との間に契約関係はないと主張するが、管理組合は、建物の区分所有等に関する法律三条に基づき区分所有の目的とする建物並びにその敷地等の管理のために区分所有者全員をもって構成するものとされ(管理規約六条)、敷地及び共用部分等の管理をその責任と負担において行うものとされている(同二三条本文)のであるから、管理組合において管理すべき共用部分に起因して個々の区分所有者に損害が発生した場合、その区分所有者の責に帰すべき事情がない限り、その損害が最終的には全区分所有者間でその持分に応じて分担されるとしても、先ずは管理規約に基づいて管理組合に対して請求できると解するのが相当である。そして、右の管理組合と個々の区分所有者の関係を準委任類似の関係とみるかどうかはともかく、控訴人Aらの主張が右の管理規約に基づく請求を含むものとする余地があるので、さらに検討する。

3  控訴人らは、第一事故に関し、屋上排水ドレーンからの漏水が、平成七年五月一四日以降平成八年一〇月二〇日まで継続した旨主張しており、控訴人Bも右主張に沿う供述をしている(甲二二、原審控訴人B)。しかし、証拠(甲三六、五〇、乙イ二の一ないし三、三の1ないし四、四、一二、乙ロ一、二の各一、二、四、五、乙ハ九、一〇の一ないし三、一一ないし一三、原審控訴人B、原審Y2代表者J、原審証人I、同K)によれば、平成七年五月一四日の場合は屋上排水ドレーンが詰まって水がたまり低い位置にあった通気孔から水が入って約四〇分間にわたり九〇三号室に相当の量の水が流れ込み、畳の取り替えを要した程のものであったのに対し、同年一〇月ころ以降に発生した漏水は九〇三号室の壁に断続的に水滴がつくといったものであって、漏水の態様が全く異なっていること、平成九年二月の調査により屋上、外壁から躯体内部のクラックを伝わって雨水等が浸入していたことが判明し、同年五月ころ屋上防水工事を施行した後は平成七年一〇月ころ以降みられた水滴被害はなくなったことなどの事実が認められる。以上の事実によれば、平成七年一〇月ころ以降に生じた九〇三号室の水滴の被害は、屋上、外壁のクラックからの雨水等の浸入が原因となって生じたものであり、屋上排水ドレーンのゴミ詰まりとは別の原因によって生じたものというべきである。控訴人A及び同加藤は、当審において、漏水の原因が異なる場合には、両者とも被害として請求する旨明らかにしたので、以下両者について検討する。

4  屋上排水ドレーンのゴミ詰まりによる漏水事故

第一事故が発生した屋上排水ドレーンが共用部分であることは当事者間に争いがない。

証拠(甲四八の一ないし四、乙イ二の一、二、乙ロ七、原審証人K、原審控訴人A)によれば、第一事故の約三年前である平成四年四月二八日に屋上排水ドレーンにゴミ(鳥が運んできたわら等)がたまって排水できず、低位置にあった通気孔から九〇三号室に水漏れが生じ、さらに八〇三号室まで水漏れが生じたという事故があり、その際被控訴人管理組合と被害者二名(九〇三号室の控訴人A及び八〇三号室のL)との間で示談書が交わされ、被控訴人日産火災から被控訴人管理組合に対し損害保険金が支払われたことが認められること、ゴミがたまって屋上排水ドレーンが詰まるのを防ぐための措置をとることが著しく困難であるとは考え難いこと(毎月の掃除のほか、排水口に大きめの椀型の網の蓋をかぶせ、また通気孔を高くする方法等が考えられ、現に平成九年二月に同様の改修工事が行われた。)などにかんがみると、被控訴人管理組合は屋上排水ドレーンのゴミ詰まりによる漏水事故の結果を予見してこれを回避することが可能であり、そうすべき義務があったというべきであり、これを怠った過失を認めることができる。また、右は工作物の設置又は保存の瑕疵に該当するというべきである。したがって、屋上排水ドレーンを管理していた被控訴人管理組合は右瑕疵によって損害を蒙った者に対し管理規約に基づく責任あるいは工作物の不法行為責任を免れない(民法七一七条一項)。

以上によれば、右漏水事故によって控訴人Aらに損害が発生したとすれば、被控訴人管理組合は、控訴人Aに対しては管理規約による管理責任として、控訴人Bに対しては不法行為責任として、同控訴人らの損害を負担すべきことになる。

5  屋上等のクラックからの雨水等の浸入

管理規約八条によれば屋上、外壁は共用部分であるから、前記のとおり、被控訴人管理組合がその管理義務を怠った場合には管理規約による管理責任が認められる余地がある。また、屋上等のクラックから雨水等が浸入するのは、本件マンションが通常有すべき安全性を欠いていたというべきであり、工作物の保存に瑕疵(民法七一七条一項)があったというべきであるから、工作物責任も免れないことになる。

6  損害

(一) 控訴人Aの損害について

証拠(乙イ二の一ないし三、乙ハ九、一〇の1ないし三、一一ないし一三、原審控訴人B)を総合すれば、屋上排水ドレーンの事故により九〇三号室の西南の和室六畳に約四〇分間漏水があったこと、当時同室の賃借人であったM(控訴人Bの夫)は、平成七年五月、右漏水事故に関し被控訴人管理組合との間で、壁クロス貼替工事、畳取替(二枚)等の代金八万五〇〇〇円を被控訴人管理組合に負担して貰うことで一切を解決する旨の示談をし、そのころ右工事、畳取替等を終えたことが認められる。

控訴人Aは、その後の水滴被害による損害も含めて平成九年一月時点における九〇三号室の改装工事の見積書等(甲五の一、二)を提出するが、右認定のとおり、第一事故については、事故直後賃借人との間で損害賠償の示談(右示談が控訴人Aに対し拘束力を有するものではないが)が行われて損害の回復が図られたこと、右見積書等の内容は、九〇三号室の玄関から居間、台所、和室二室その他全般にわたる改装の見積りであって、同控訴人も実際には右工事をしないまま、控訴人Bが九〇三号室を退去後二、三か月した平成九年六月ころ新たな賃借人に賃貸している(原審控訴人A)ことなどを考えると、右見積額は屋上排水ドレーンの事故や平成七年一〇月ころ以降の水滴被害による損害とは認め難く(控訴人Aは第二事故によって自宅が溢水したことによる損害賠償も請求しており、右見積もりは第二事故による被害の見積もりも含まれていることが窺われる。)、他に損害を認めるに足りる証拠はない。

(二) 控訴人Bの損害について

控訴人Bは、第一事故による損害として和服二着の損害を主張するが、右和服二着は平成七年五月一四日の第一事故当時九〇三号室には保管しておらず、同年一一月ころ七五三で使用した際に控訴人Bの実家から九〇三号室に持ち込んだところ一か月程してしみが付いてしまったというのであって(原審控訴人B)、右和服の変色等の損害が水滴などによる被害であることを認めることはできるが、着物二着のうち、一着は昭和六〇年の購入価額が三五万円、他は平成五年に九万二七〇〇円で購入した産着である(甲六、七、原審控訴人B)ことを考えると、右和服の損害は二五万円と認めるのが相当である。被控訴人管理組合は、Y2に管理業務を委託して管理業務を十分に尽くしたと主張するが、証拠(甲一、原審証人I)によると、被控訴人管理組合がY2に委託した管理業務は、一設備管理業務、二共用部分清掃業務、三事務管理業務及び四設備監視業務の四つであって、屋上、外壁のクラックなど建物の経年的劣化による瑕疵の有無の調査、その修繕は被控訴人管理組合が管理する建物の共用部分の「保全」「保守」ないし「修繕」(管理規約三八条(1) 、(2) )に相当するものであって、右四業務の中に含まれるものではなく、他にこれを特別に委託していたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、一般的な管理業務である右四業務を管理会社に委託したからといって、「設備」の管理、監視に含まれない建物の共用部分の「保全」「保守」ないし「修繕」を怠った以上、これにより生じた損害の発生を防止するために十分な注意を尽くしたということはできない。管理委託契約書(甲一)の第三条の三の<13>の「補修工事・・等の外注に関する業務」がこれに当たるとする反論もありうるが、これは事務管理業務の一つとして掲げられていることなどにかんがみると、被控訴人管理組合から特別に指示された場合の事務管理業務をいうと解するのが相当である。つまり、Y2としては建物の経年的劣化による瑕疵の発生の可能性、その調査等については被控訴人管理組合に進言することは期待されても、調査、補修工事等を含む一切合切を包括的に委託されていたわけではないのであるから、被控訴人管理組合からの特別の指示、委託なくして調査、補修工事を始めることはできないというべきである。

また、控訴人Bは、九〇三号室の漏水原因調査に二五万八〇〇〇円を要したと主張するので検討するに、証拠(甲八の一、二、乙イ四、原審証人I、原審控訴人B)によれば、控訴人Bが平成八年一〇月ころY2及び被控訴人管理組合に九〇三号室に漏水があるとしてその原因調査を依頼したが同被控訴人らはこれに応じなかったので、平成九年二月ころZ工務店に漏水原因調査を依頼したところ、屋上及び外壁から躯体内部のクラックを伝わって九〇三号室に雨水が侵入していることが判明したこと、控訴人BはZ工務店に対し同年三月一日右調査費用として二五万八〇〇〇円を支払ったことが認められる。これは、工作物の保存に瑕疵があったことにより蒙った損害と認められ、被控訴人管理組合において右損害を生じさせないように必要な注意を尽くしたとは認められないから、被控訴人管理組合は控訴人Bに対し右損害を賠償すべき責任がある。

本件事案及び認容額等にかんがみ、右事故と相当因果関係のある弁護士費用としては六万円を認めるのが相当である。

そうすると、控訴人Bの被控訴人管理組合に対する請求は、金五六万八〇〇〇円及びうち二八万円(和服の損害二五万円及び弁護士費用三万円)については不法行為の後である平成八年八月一四日以降、うち二八万八〇〇〇円(漏水調査費用二五万円及び弁護士費用三万円)については漏水調査費用を支出した平成九年三月一日以降の各遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

7  被控訴人Y1の責任

以上によると、第一事故については控訴人Bの和服二着の損害及び漏水原因調査費用のみが問題となるところ、和服二着の損害は屋上及び外壁の躯体部分のクラックから浸入した雨水によるものであり、右調査費用は、漏水の原因の調査のため支出し、結果的にも右の経年的な建物の瑕疵の発見につながったものであるから、先にみたとおり本来的に被控訴人管理組合が「保全」「保守」ないし「修繕」し、その費用を負担すべきものであってY2の委託業務の範囲外にある以上、Y2は民法七一七条一項の「占有者」とはいえず、工作物責任も生じない。

8  被控訴人日産火災の責任

控訴人Bの請求は債権者代位権によるものであるところ、債権者代位権を行使するには債務者の無資力が要件とされるのであり、本件全証拠によってもこれを認めるに足りる証拠はない。よって、同控訴人の被控訴人日産火災に対する請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がない。

二  第二ないし第四事故について

当裁判所も、第二ないし第四事故に関する控訴人らの請求は、いずれも被控訴人管理組合が管理すべき場所から生じた事故ではないから理由がないものと判断するが、その理由は、次のとおり改めるほか、原判決の「理由」のとおり(被控訴人管理組合につき、原判決四三頁七行目冒頭から同五〇頁九行目末尾まで、被控訴人Y1につき、同五三頁九行目冒頭から同五四頁六行目末尾まで、被控訴人日産火災につき、同五四頁末行冒頭から同五七頁一行目末尾まで)であるから、これを引用する。

1  原判決四九頁一〇行目の「相当である(」の次に「乙イ一の管理規約七条、」を加え、同五〇頁五行目の次に改行のうえ次のとおり加える。

「 なお、管理規約によって専有部分である配管を管理組合の管理の対象とすることは可能であるところ(建物の区分所有等に関する法律三〇条一項)、控訴人らは、被控訴人管理組合においては、平成元年二月四日に開催された臨時総会において、管理規約改定の件として、『新たに専有部分の床スラブ等の中の給排水管等については共用部分とする内容を明記する』旨の議案が承認され(甲五一)、これを受けて同年二月二〇日に改訂された管理規約(乙イ一)が施行されたので、第三事故の原因となった床下空間部分の排水管は共用部分であると主張する。

しかしながら、証拠(乙イ一、一三、乙ロ一〇の一ないし五)によれば、昭和六二、三年ころ床スラブ内の排水管から漏水した事故があって、右排水管が共用部分かどうかが問題となり、被控訴人管理組合がその損害賠償責任を否定するなどしたことを契機に、平成元年二月四日に開催された臨時総会において、管理規約改定の件として、『新たに専有部分の床スラブ等の中の給排水管等については共用部分とする内容を明記する』旨の議案が承認され(甲五一)、これを受けて、共用部分等(共用部分及び付属施設)の範囲を定めた別表2の『2』が、従前は、『建物に直接する附属物(専有部分内のものを除く)』として『電気設備、給排水衛生設備、防火設備、その他各種の配線、配管等』とされていたのが(乙イ一三参照)、新たに『建物に直接する附属物』として『電気設備、給排水衛生設備、防火設備、その他各種の配線、配管等(天井、床及び壁のうちに存するもので、躯体部分内に存するものは、専有部分内でも共用部分とする)』(乙イ一)と改正され、同年二月二〇日施行されたことが認められる。右管理規約の改正経緯、改正された管理規約の内容によれば、床下排水管は床スラブ内に存する部分は共用部分であるが、床とスラブとの間の空間に存する部分は区分所有者の専有部分であると解するのが相当であり、第三事故の原因となった排水管は床下空間部分に存したものであるから共用部分とは認められない。控訴人D作成の陳述書(甲五四)中、床下部分の排水管はすべて共用部分とした旨被控訴人Y1から説明があったとする部分は採用できない。」

2  同五五頁二行目の「1(四)」を「1(二)、(三)」と改める。

第四以上によれば、本件控訴は、控訴人Bの被控訴人管理組合に対する請求については一部理由があるが、その余はいずれも理由がなく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、二項、六五条一項、六四条、六一条を、仮執行宣言につき同法三一〇条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川畑耕平 裁判官 岸和田羊一 裁判官 白石哲)

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