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福岡高等裁判所 平成12年(行コ)17号 判決

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人平松守彦は、大分県に対し、九万六六八〇円及びこれに対する平成一〇年一一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被控訴人外山邦夫は、大分県に対し、金四万九八四〇円及びこれに対する平成一〇年一一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被控訴人利光一義は、大分県に対し、金九万六六八〇円及びこれに対する平成一一年一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とし、行政庁の訴訟参加によって生じた費用は、被控訴人ら訴訟参加人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

主文同旨

第二事案の概要

(本件の事案の要旨、前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、一部付加・訂正するほかは、原判決「第二 事案の概要」、「第三 前提事実」及び「第四 争点」に記載のとおりであるが、以下、主要な付加・訂正部分にのみ傍線を付して、全文を記載する。)

一  事案の要旨

本件は、被控訴人外山邦夫(本件当時大分県総務部長。以下「被控訴人外山」という。)及び被控訴人利光一義(本件当時大分県総務部財政課主幹兼総務係長。以下「被控訴人利光」という。)が、大分県大阪事務所(以下「大阪事務所」という。)の行政指導用務及び全国議員野球大会応援用務を目的とした旅行命令に基づき、平成九年八月二二日(金)から同月二三日(土)まで大阪市に出張し、その際、被控訴人利光が専決権限に基づいてした旅費支出命令により、同月二一日に被控訴人外山に四万九八四〇円、被控訴人利光に四万六八四〇円の旅費が支給されたところ、

1  前記出張は、第五二回国民体育大会協賛第四九回全国都道府県議会議員軟式野球大会(以下「本件野球大会」という。)の応援という公務以外の目的による出張であるから、かかる出張に対する旅費の支給は違法であり、

2  仮に被控訴人外山による大阪事務所における訓示等が必要適切なものであったとしても、短時間の訓示等であれば二日間にわたる日程で出張を行う必要はなく、前記出張に対する旅費の支給のうち、少なくとも日当・宿泊費については地方自治法二条一四項、地方財政法四条一項に違反する。

として、大分県の住民である控訴人らが、前記出張に対する旅費の支給につき監査請求前置を経た上、大分県に代位して、被控訴人平松守彦(大分県知事)に対し、不法行為に基づく損害賠償請求(地方自治法二四二条の二第一項四号前段)として九万六六八〇円を、被控訴人外山に対し、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求(同号後段)として四万九八四〇円を、被控訴人利光に対し、不法行為に基づく損害賠償請求(同号前段及び後段)又は不当利得返還請求(同号後段)として九万六六八〇円(ただし、不当利得返還請求としては四万六八四〇円の範囲に止まる。)を、それぞれ請求した事案である。

二  前提事実

以下は、当事者間に争いがないか、文中記載の証拠によって容易に認定できる事実で、争点判断の前提となるものである。

1  当事者及び被控訴人らの職務

(一) 控訴人らはいずれも大分県の住民である(争いのない事実)。

(二)(1)  被控訴人外山は、平成九年四月一日から平成一一年五月一七日まで、大分県総務部長であった(争いのない事実、原審における被控訴人外山)。

(2) <1>  大分県総務部は「議会及び県の行政一般に関する事項」、「県の歳入歳出予算、税その他の財務に関する事項」等を分掌しており、総務部長は、総務部の総括責任者である(乙五、弁論の全趣旨)。

<2>  大分県は、平成九年四月一日に大分県職員職務執行基準(以下「職務執行基準」という。)を定め、職務執行基準九条三項には「総括職務執行管理者は総務部長をもって充てる。」と規定されており、同基準一一条一項には「総括職務執行管理者は、この訓令の遵守の徹底を図るため、全庁における厳正な職務執行及び綱紀粛正の推進に関し、所要の措置を講ずるものとする。」と規定されている(甲九の2・3)。

<3>  大分県では、平成二〇年に国民体育大会(以下「国体」という。)の開催が予定されており、第六三回国民体育大会大分県準備委員会(以下「国体準備委員会」という。)を設置し、国体開催の準備を進めていたが、被控訴人外山は、平成九年八月二二日当時、同委員会の常任委員であった(乙三、四)。

(三)(1)  被控訴人利光は、平成八年四月から平成一〇年三月まで、大分県総務部財政課主幹兼総務係長であり、大分県事務決裁規程に基づき知事の旅費支給権を専決して旅費支給権を行使していた(争いのない事実、乙一、一一、原審における被控訴人利光)。

(2)  大分県総務部財政課は「部長・次長に関すること」「議会に関すること」等を分掌しており、「部長・次長に関すること」「議会に関すること」は財政課主幹兼総務係長が総括していた(丙一一)。

(四) 被控訴人平松守彦は大分県知事であり、大分県の旅行命令に基づく出張につき旅費を支給する権限を法令上本来的に有する(争いのない事実、顕著な事実)。

2  本件旅費の支出

(一) 被控訴人外山及び同利光は、平成九年八月一八日、大阪事務所行政指導及び本件野球大会応援を用務として同月二二日から同月二三日まで大阪市に出張する旨の旅行命令(以下「本件出張」という。)を受けた(甲二の1・2)。

(二) 平成九年八月一八日、本件出張の旅費として、被控訴人外山は四万九八四〇円、同利光は四万六八四〇円をそれぞれ請求した。これに対し、被控訴人利光は、被控訴人外山及び同利光に対し本件出張の旅費として合計九万六六八〇円を支給することを命令し、平成九年八月二一日、本件出張の旅費として被控訴人外山に対し四万九八四〇円、同利光に対し四万六八四〇円がそれぞれ支給された(以下「本件旅費」という。)(甲三ないし六)。

3  本件出張の日程

(一) 被控訴人外山及び同利光は、平成九年八月二二日午後に大阪市に向けて出発し、同日午後五時ころ大阪事務所に到着した。被控訴人外山は、同事務所に到着後、同事務所所長ほか同事務所職員全員に対し、職務執行基準に基づいて、服務規律の保持及び綱紀粛正について訓示し、その後、同事務所所長から同事務所の業務について報告を受けた(争いのない事実、乙四、一一、原審における被控訴人外山、同利光)。

(二) 被控訴人外山及び同利光は、同月二三日午前八時三〇分ころに大阪市内にある舞洲アリーナに到着し、同日午前九時から舞洲アリーナにおいて行われた本件野球大会の開会式を見学した。舞洲アリーナは、平成九年一〇月に大阪府で開催される国体で使用される予定の施設であった(争いのない事実、乙四、一一、原審における被控訴人外山、同利光)。

(三) 被控訴人外山及び同利光は、同日午後三時ころ、大阪府八尾市にある大阪府営久宝寺緑地野球場に到着し、同日午後三時三〇分ころから同日午後四時三〇分ころまで、同所において大分県議会野球チームの野球の試合の応援をし、同日に大分県に帰った(争いのない事実、乙四、一一、原審における被控訴人外山、同利光)。

4  監査請求

控訴人らは、平成一〇年八月一八日、本件旅費の支給につき大分県監査委員に対し、地方自治法二四二条に基づく大分県職員措置請求を行ったところ、大分県監査委員は、同年一〇月一五日、右措置請求には理由がないとの決定をした(争いのない事実)。

第三争点及び争点に関する当事者の主張

一  本件旅費の支出行為の違法性

(控訴人らの主張)

地方自治法二条一四項は「地方公共団体は、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」と、地方財政法四条一項は「地方公共団体の経費はその目的を達成するための必要かつ最少の限度を超えてこれを支出してはならない。」と規定しているから、出張旅費の支出行為の違法性を判断するについては、当該出張が職務行為と関連性を有するかを判断するとともに、当該職務行為にとって当該出張が必要最少限度のものであるかを厳格に審査すべきであり、これに加えて大分県においては、公金の不正支出の発覚を契機に制定された職務執行基準五条によっても、「旅行命令を行う場合の旅行期間及び出張人数は、当該用務の内容、用務地、旅行経路等を勘案し、最も経済的な通常の経路及び方法により、相当と認められる範囲内とする。」(一項)、「出張しようとする職員は、あらかじめ、出張計画を明らかにして旅行命令権者の承認を受けるものとする。」(三項)と定められているのであるから、出張旅費・日当の適法性に判断に当たっては、あらかじめ報告された出張計画を判断対象として、具体的な用務の内容や旅行経路等を検討したうえで、最も経済的なものであったか否かが審査されなければならない。かかる観点で厳格に審査すれば、以下のとおり、本件出張は、被控訴人らの職務との関連性も必要最少限度性も有していないのであるから、違法である。

1 被控訴人外山に対する本件旅費の支給について

(一)(1)  被控訴人外山は、本件出張の大部分を議員の野球練習の激励、開会式への参加、試合の観戦に当てており、本件野球大会の応援が主目的であったことは明らかであるところ、本件野球大会の応援は議員随行業務ではなく、単に観客席で観戦・応援をしたに過ぎず、また、本件野球大会への議員の参加自体が公務性を有しないものであるから、これへの応援に公務性がないことは明らかであるから、被控訴人外山に対する本件旅費の支給は違法である。

(2)  この点、被控訴人ら及び被控訴人ら訴訟参加人(以下「被控訴人ら」という。)は、大分県議会議員(以下「議員」という。)との交流を深めることにより行政運営の円滑な執行を図るため、種々の機会に議員との意見交換、情報交換を行うことは被控訴人外山の職務に属し、被控訴人外山は、本件野球大会に参加する議員の応援を行った際にも同様の意見交換、情報交換を行った旨主張する。しかし、本件野球大会は、議員が軟式野球を楽しむ、慰安と親睦、レクレーションの大会にすぎない。行政運営の円滑な執行を図るために、議員との交流を深め、議会と良好な関係を保つ必要があるとしても、そのために、わざわざ県外に出張してまで、議員全員が参加するわけでもない懇親行事に単なる応援のため出張することが必要であるとは到底認められない。また、本件野球大会応援の場で実際に行われた被控訴人外山及び同利光と議員との交流も、単なる応援と、雑談程度の会話にすぎず、具体的な政策にかかわるような情報交換や意見交換があったとは認められない。

(3)  被控訴人らは、本件出張には、被控訴人外山が大阪事務所において職務執行基準に基づき訓示を行う行政指導用務があった旨主張するが、右基準は、平成九年四月一日、被控訴人外山が各所属長あてに通知しており、当該通知を行うことにより十分に行政指導が行われているといえるから、大分県庁から大阪事務所に出張してまで訓示を行うことが特別に不可欠であったとはいえない。現に被控訴人外山が大分県福岡事務所や大分県東京事務所に出張した事実はない。

また、大阪事務所における訓示はわずか一〇分以内で、同事務所の職員とともに右訓示を聞いた被控訴人利光がその内容を覚えていない程度のものだったのであるから、訓示を行うための出張の必要性は認められない。

そうすると、被控訴人外山が大阪事務所において職務執行基準に基づく訓示を行う行政指導用務は付随的用務に止まり、かかる用務について独自に出張する必要性があるとはいえない。

(二) 被控訴人らは、被控訴人外山の本件出張には国体関連施設視察・調査用務もあった旨主張する。

(1)  しかし、被控訴人外山の旅行命令簿(甲二の1)の用務欄には「財務用務(大阪事務所行政指導及び全国議員野球大会応援)」と記載され、末尾に「等」と言った文字が付加されていないし、右用務欄に他の用務を記載するスペースがないとはいえないから、出張目的としては右二つだけであったと認定するのが自然である。また、被控訴人外山が、事前に、舞洲アリーナの施設責任者や大阪事務所職員に調査の準備を依頼したことはなく、国体関連施設視察・調査用務があったのであれば、これによって得られた情報や成果は個人的なメモではなく、長期保存文書として保存すべきであるのに、国体関連施設視察に関する文書は公文書として存在していない。これらの事情からすれば、そもそも、本件出張に国体関連施設視察・調査用務はなく、また、被控訴人外山が舞洲アリーナにおいて同施設の視察・調査を行った事実もないというべきである。

(2)  被控訴人外山は、本件出張を大分県総務部長としての立場で行っているものであり、国体準備委員会の常任委員としての立場で行っているものではないから、仮に、本件出張に際し、国体関連施設視察・調査の目的があったとしても、かかる目的は、大分県総務部長としての職務と何ら無関係である。

(3)  地方自治法二条一四項、地方財政法四条一項及び職務執行基準五条によれば、出張の適法性の判断は、事前に旅行命令簿等において承認されている出張用務を基準として行われるべきであり、出張先でたまたま職務と関連する情報を収集したからといって、当初承認されていた出張用務が不適法であったものが事後的に適法なものになるということはあり得ない。

そうすると、本件出張において当初承認されていた出張用務は本件野球大会応援及び大阪事務所行政指導だけであったから、国体関連施設視察・調査を本件出張の適法性判断の対象とすることは許されない。

(三) 仮に、本件出張当時、被控訴人外山が大阪事務所において職務執行基準に基づく訓示を行うことが必要かつ適切であったとしても、訓示及び大阪事務所長の報告のみであれば短時間で済むのであり、出張の期間は一日で足りるから、被控訴人外山に対する本件旅費の支給のうち、少なくとも一日分の日当(一三〇〇円)及び宿泊費(一万三一〇〇円)の支給は地方自治法二条一四項、地方財政法四条一項に反し違法である。なお、平成九年八月二二日、大阪事務所職員全員が大阪府内出張となっていることなどからすると、当日、大阪事務所職員による被控訴人外山及び同利光の出迎え等が行われた可能性が高く、午後五時に訓示をする必要性はない。

2 被控訴人利光に対する本件旅費の支給について

(一) 被控訴人らは、被控訴人利光が被控訴人外山の随行としての職務を遂行していた旨主張するが、前記1記載のとおり、本件出張の用務は被控訴人外山の職務と関連性がないから、被控訴人利光が被控訴人外山の随行であったとしても、本件出張は被控訴人利光の随行事務とも職務関連性がなく、また、本件出張は金曜日午後から土曜日にかけて行われたもので、被控訴人外山と大分県庁との連絡や指示の伝達の必要性は小さいし、携帯電話などの連絡手段も存在し、出張先である大阪市での被控訴人外山の時間や行程の管理については、大阪事務所職員に依頼すれば足り、本件出張については被控訴人利光の随行が必要不可欠とは認められないから、被控訴人利光に対する本件旅費の支給は違法というべきである。

(二) 被控訴人らは、被控訴人利光が総務部財政課総務係長として「議会に関すること」を分掌すること等から、本件野球大会応援用務及び国体関連施設視察・調査用務が被控訴人利光の職務と関連性を有する旨主張するが、前記1の(一)及び(二)と同様の指摘ができ、本件出張は被控訴人利光の職務と関連性がなく、被控訴人利光に対する本件旅費の支出は違法というべきである。

(三) 仮に本件出張と被控訴人外山の職務との関連性が認められたとしても、前記1(三)記載のとおり、被控訴人外山に対する本件旅費の支給のうち、少なくとも一日分の日当及び宿泊費の支出が地方自治法二条一四項、地方財政法四条一項に反し違法である以上、被控訴人利光に対する本件旅費の支給も同様に一日分の日当(一一〇〇円)及び宿泊費(一万〇九〇〇円)が地方自治法二条一四項、地方財政法四条一項に反し違法である。

(被控訴人らの主張)

職員の出張は、行政上の必要に対応するため、旅行命令権者の裁量により命じられるものである。そして、知事は、普通地方公共団体の長として、県を統括・代表し、その事務を執行する(地方自治法一四九条)のであり、行政上の必要に対応するためにいかなる行為をどのように行い、行わせるかは、知事の裁量であり、合理的な必要性があるときは、その裁量によって職員を出張させることができる。行政目的を達成するために、誰を、どのような用務で、いつ、どこに、どのような方法で出張させるかの決定は、旅行命令権者の裁量に属する事項である。本件出張は、旅行命令権者の裁量権や大分県の職員等の旅費に関する条例七条及び職務執行基準五条一項に定める「最も経済的な通常の経路及び方法」に適合する妥当なものである。出張の適法性の判断に当たって「当該出張が必要最少限度」のものであるか否かが審査されなければならないとする控訴人らの主張は独自の見解である。

1 被控訴人外山に対する本件旅費の支給について

本件出張は、大阪事務所行政指導用務、本件野球大会応援用務及び国体関連施設の視察・調査用務を目的とした適法な旅行命令に基づくものであり、これらの用務を処理するには一泊二日の旅行行程が必要であったから、被控訴人外山に対する本件旅費の支給は違法ではない。控訴人らは、用務の時間的な比重をもって、本件野球大会応援用務が目的であると主張するが、用務の必要性は時間的比重によって計られるものではないし、右応援が毎年行われていたことも、他の用務の存在を否定する理由とはならない。

(一) 大阪事務所行政指導用務について

(1)  本件出張当時は、大分県において服務規律の保持及び綱紀粛正が問題となっていた時期であり、大阪事務所についても職務執行基準に基づき服務規律と綱紀粛正につき訓示を行う必要があったのであり、被控訴人外山はその機会を窺い、本件出張によりこれを実現したのであって、本件出張の大阪事務所行政指導用務は必要かつ適切なものであった。

(2)  被控訴人外山は大分県東京事務所に他の用務で出張した際、同事務所職員に対し職務執行基準に基づく訓示を行っており、県外事務所の職員に対し職務執行基準に基づき直接訓示したのは大阪事務所だけではない。また、大分県福岡事務所については、同事務所の体制が三名と少人数であった上、同事務所長が帰県した際に被控訴人外山が職務執行基準の徹底を同事務所長に申し渡していたことから、同事務所職員に対し職務執行基準に基づく訓示を行う必要がなかった。さらに、地方機関での不祥事が相次いだことから、被控訴人外山は、地方機関における訓令の徹底を図るため、平成九年八月一九日から同年九月九日にかけて、多数の職員が勤務する一二の地方振興局を職場訪問し、合わせて訓示を行うこととし、総務部次長と分担し、訓示を行った。

(3)  控訴人らは、職務執行基準は、平成九年四月一日、各所属長あてに総務部長が通知しており、かかる通知を行うことにより十分に行政指導が行われていると主張するが、職務執行基準は公務に対する県民の信頼を確保することを目的とした重要な訓令であるから、各所属長あての通知のみならず、人事を総括する総務部長である被控訴人外山が大阪事務所職員に対し直接訓示することが必要であった。

(4)  大阪事務所における訓示の時刻を午後五時に設定したのは、業務の性質上日中は外出することの多い大阪事務所職員がその時刻ころまでには用務先から帰庁し全員そろい、また、当日の午前中は、被控訴人外山の本庁での執務が予定されていたからであり、事前に、被控訴人利光が大阪事務所次長と打ち合わせした結果で決まったことである。

(二) 本件野球大会応援用務について

県の行政運営の円滑な執行を図るため種々の機会に議員との意見交換、情報交換を行うことは、議会に関する事項を分掌する総務部の統括責任者である被控訴人外山の職務に属するところ、本件野球大会に参加する議員を応援し、その際に意見交換、情報交換を行うことは、議員らとの交流を深め、県の行政運営の円滑な執行を図ることに資する(特に、大分県では平成二〇年に国体開催を予定しているところ、本件野球大会の開会式会場である舞洲アリーナは国体で使用される施設であったことから、議員が同施設に参集する際に議員との意見交換等を行い、大分県の国体開催準備を円滑に進める上で必要である。)から、本件野球大会応援用務は、被控訴人外山の職務と関連性がある。なお、本件野球大会は、野球愛好家の議員有志のみが集る私的行事ではなく、全国都道府県議長会及び大阪府議会が機関決定し、主催した公式行事であり、その意味でも全国規模の公式行事に参加する議員を応援し、そのことを通じて議会との意思疎通や交流を図ることは、総務部長としての職務である。

(三) 国体関連施設の視察・調査用務について

(1)  被控訴人外山は、国体準備委員会の常任委員であるとともに、県財政を掌握する総務部長であるところ、大分県において、スポーツ公園整備の二期計画で、大分国体の主要競技用施設としても使用される総合体育館(アリーナ)の建設が予定されており、今後の施設整備計画の立案や国体関連予算の編成に適切に対処するには、本件野球大会の開会式会場である舞洲アリーナの状況を直接見て、同施設の建築費や財源等について調査し、その規模や最新の設備を自ら体感することが大事だと考えて視察・調査を行った。

(2)  控訴人らは、旅行命令簿の用務欄に国体関連施設視察・調査用務の記載がないことを指摘する。しかし、国体関連施設として舞洲アリーナを視察・調査することについては、被控訴人外山から被控訴人利光に伝えられたが、旅行命令簿の用務欄の記入スペースに限りがあって、従前からすべての用務を記載することにはなっていなかった上、舞洲アリーナが本件野球大会の開会式の会場であったことから、全国議員野球大会応援用務の中に国体関連施設視察・調査用務を含めればよいと考えた結果、被控訴人利光の判断で、「大阪事務所行政指導」と「全国議員野球大会応援」の二件の用務が代表例として記載されたにすぎず、記載されていないことをもって、国体関連施設視察・調査用務が本件出張の目的として意識されなかったということはできない。

(3)  控訴人らは、被控訴人外山は本件出張を大分県総務部長としての立場で行ったのであるから、国体関連施設視察・調査用務は被控訴人外山の職務と関連性がない旨主張する。

しかし、国体競技施設の建設には予算の調整が不可欠であり、かかる予算の調整権は大分県知事にあるところ、かかる財政運営の点において、大分県としても国体関連施設視察・調査は必要であったというべきである。そして、大分県総務部長が「県の歳入歳出予算、税その他の財務に関する事項」を分掌することからすれば、被控訴人外山の職務と国体関連施設視察・調査用務は関連性があるというべきである。現に、本件出張で被控訴人外山自身が調査し、見聞したことは、県財政の運営や予算査定等において、県財政を担当する総務部長としての判断・決定に役立っている。

2 被控訴人利光に対する本件旅費の支給について

(一) 被控訴人利光が総務部財政課総務係長として「議会に関すること」を分掌する者であり、被控訴人外山と同様、県の行政運営の円滑な執行を図るため議員との意見交換、情報交換を行う必要がある者であるから、本件野球大会応援用務は被控訴人利光の職務と関連性があるというべきである。

(二) 被控訴人利光が予算査定の場で自己の意見を述べることができ、あるいは議会との折衝に際し先進的施設に関する情報・知識が必要とされることからすれば、国体関連施設視察・調査用務は被控訴人利光の職務と関連性があるというべきである。

(三) 被控訴人利光は、総務係長として「部長・次長に関すること」を分掌する者であるところ、本件出張の全日程を通じ、被控訴人外山と大分県庁本庁との連絡や指示の伝達のため、あるいは出張先である大阪市での被控訴人外山の時間や行程の管理のため等、被控訴人外山の本件出張用務を円滑に遂行させるべく同人の秘書的な立場で随行したものであるから、被控訴人利光の本件出張の用務は同人の職務と関連性がある。総務部長の職は要職であり、出張中においても常に本庁との連絡が取れる状態にしておかねばならず、そのために、秘書的用務を処理する職員を一名随行させることは、必要なことであって、なんら不合理ではない。秘書的用務を行う職員は、緊急時には、総務部長の指示に基づくほか、自らの判断によって行動せねばならず、全行程を通じて総務部長に随行できるものでなければならない。直属の部下でない大阪事務所職員に本務外の職務を命ずるわけにはいかない。誰を随行させるかは、旅行命令権者が裁量で決めるべき事柄である。

(四) (一)ないし(三)記載の事情からすれば、被控訴人利光に対する本件旅費の支給に違法性はない。

二  被控訴人らの注意義務違反の有無

(控訴人らの主張)

1 被控訴人外山について

被控訴人外山は、本件出張が職務との関連性も必要最少限度性も有しないことを知り又は知り得たにもかかわらず、本件旅費の支給を受け、大分県に対して四万九八四〇円の損害を与えた。

2 被控訴人利光について

(一) 被控訴人利光は、被控訴人外山及び同利光に対する本件旅費支給につき左記(二)のような重大な過失によって違法な支出命令をし、よって、大分県に対して九万六六八〇円の損害を与えた。

(二) 被控訴人利光は、本件出張が職務との関連性も必要最少限度性も有しないことを知り又は知り得たにもかかわらず、本件旅費の支給を受け、大分県に対して四万六八四〇円の損害を与えた。

3 被控訴人平松について

被控訴人平松は、被控訴人外山及び同利光に対する本件旅費支給につき重大な過失により違法な支出命令をなし、よって、大分県に対して九万六六八〇円の損害を与えた。

(被控訴人らの主張)

控訴人らの主張はいずれも争う。

被控訴人外山及び同利光は、本件野球大会が前記のように公式行事として企画され、本件野球大会に大分県議会のみならず、全都道府県の議会が公費を支出してこれに参加したことから、同大会への議員の参加は公務と認識し、その議員を応援するための出張も公務であると信じていたものであり、かく信ずることに故意・過失はない。特に、被控訴人利光は、被控訴人外山の随行を命じられ、それに従ったまでである。

第四当裁判所の判断

一  争点一 (本件旅費の支出行為の違法性)について

1  事実経過について

前提事実、証拠(甲二の1・2、三ないし六、九の2・3、二〇、三〇ないし三二、三三の3、乙二、四、九、一一、丙一ないし一一、一四ないし一六、原審における被控訴人外山、同利光)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一)(1)  大分県においては、平成八年一二月、土木建築部監理課の食料費について不自然な会計処理がなされていることが公表され、同課の過去五年分の食料費と旅費について調査を実施することになるなど、職員の服務規律の保持及び綱紀粛正が問題となり、平成九年四月一日、大分県訓令として職務執行基準(甲九の3)が制定された。同基準は、職員の基本的心構えにはじまり、予算の執行、旅行命令、関係業者等との接触等に関する基本的基準が定められている。

右基準の制定された日に大分県総務部長に就任した被控訴人外山は、同基準の総括職務執行管理者となり、同基準一一条一項に基づき、同日、各所属長あてに「大分県職員職務執行基準に関する訓令について(通知)」と題する書面(甲九の2)を発出し、同基準の周知徹底を図るよう通知するとともに、関係部長会議や所属長会議等に出席して同様の訓示を行った。

(2)  大分県には、県外の機関として、東京事務所、大阪事務所、福岡事務所があるところ、被控訴人外山は、同年五月八日から九日にかけて、予算に関する自治省との連絡調整のため東京に出張(丙一)した際、大分県東京事務所に立ち寄り、同事務所の職員に対し、職務執行基準の趣旨の徹底を図るべく訓示をしたが、訓示のために立ち寄ることを事前連絡していなかったので、同事務所において被控訴人外山の訓示を受けたのは、同事務所の職員二〇数名のうちの一〇数名にとどまった。

福岡事務所は、職員数が所長以下三名であり、近県であることもあって、所長と会う機会も多く、そのような折りに被控訴人外山から職務執行基準の遵守を要請する等していたことから、特別に訓示を行うことはしていなかった。

大阪事務所は、職員数一一名で、大分県への企業誘致や県産品の販路開拓等の渉外業務が多いことから、服務規律の保持のため、職務執行基準を徹底させる必要性が高く、被控訴人外山は、そのためだけで大阪事務所に出張することまでは計画しなかったものの、機会があれば、大阪事務所を訪れて訓示をしておく必要があると考えていた。

(3)  同年七月一日、大分県農業技術センター職員による女児に対する脅迫・傷害事件が発生し、同月一九日には、大分県大分土木事務所職員による業務上過失致死・道路交通法違反(ひき逃げ)事件が発生した(丙一四ないし一六)。いずれの事件も地方機関の職員が起こした事件であったことから、被控訴人外山は、改めて地方機関に対する綱紀粛正及び職務執行基準の趣旨の徹底を図る必要があると考え、同年八月一九日から同年九月九日までの間、総務部次長と分担して、職場訪問の目的で大分県内にある一二の地方振興局に出張(丙二ないし八)した際、職員を集めて訓示を行った。

(二)(1)  全国都道府県議会議員の各議会対抗形式による軟式野球大会は、「国体に協賛し、あわせて議員相互間の親睦とスポーツ精神の高揚を図り、地方自治の発展に寄与する。」ことを標榜して、昭和二四年から国体開催都道府県議会が主催して、開催地において行われるようになり、昭和五二年からは全国都道府県議会議長会も主催者として加わり、多くの都道府県議会の野球愛好議員らが参加してきており(乙九)、その四九回目にあたる本件野球大会も議長会と大阪府議会が主催し、「なみはや国体に協賛し、あわせて議員相互間の親睦とスポーツ精神の高揚を図り、地方自治の発展に寄与する。」ことを目的として開催が決定され、大会実行委員会会長である大阪府議会議長から各都道府県議会議長宛にその旨通知された(丙一〇)。

(2)  大分県議会の野球チームは、昭和三五年から右大会に参加するようになり、本件野球大会まで連続出場しているところ(丙九)、被控訴人外山は、同年八月二三日(土曜日)から本件野球大会が大阪市において開催されることを、大分県議会議長から開催通知の写しの交付を受けて知り、例年、総務部長が全国議員野球大会の応援に赴いていたことから、本件野球大会についても応援のため大阪市に赴くこととした。

(3)  本件野球大会には、全国四七都道府県議会の野球チームの議員約一四〇〇名、随行員約五〇〇名が参加したが、参加者の旅費・日当・宿泊費等を公費で支出したことが社会的に批判(甲二〇)されたこともあって、平成一〇年一二月に右議長会が、地方財政の悪化を理由に休止することを決定している(丙九)。

(三)(1)  被控訴人外山は、被控訴人利光を随行して、本件野球大会の応援に行き、その機会を利用して、大阪事務所に立ち寄って訓示を行うことにし、被控訴人利光にその旨を告げ、大阪事務所と協議し、旅行日程等を調整するように指示した。

(2)  被控訴人利光は、右命を受け、大阪事務所と連絡をとり、職員が事務所にいる時間帯が午前八時半ころと午後五時ころということであり、被控訴人外山が八月二二日(金曜日)は午前中別の用務があったことから、二二日の午後に大分を出発し、同日午後五時に大阪事務所職員に訓示し、翌二三日に本件野球大会の応援をすることにし、二二日と二三日の一泊二日の旅行を計画した。そして、総務係の庶務担当職員に本件出張の日程及び用務地と用務として、「大阪事務所行政指導及び全国議員野球大会応援」と告げ、旅行命令簿等(甲二の1・2、三)の起案をさせた。そして、右担当職員は、被控訴人利光の指示どおり、用務として「財政用務(大阪事務所行政指導及び全国議員野球大会応援)」と記載(「財政用務」は電算印字、他は手書き)した旅行命令簿等を作成し、それに従って本件出張の旅行命令が下され、支出負担行為決議(甲四)がなされ、支出命令(甲五)に基づいて、被控訴人外山と同利光は本件旅費の支給を受けた(甲六)。

(四)(1)  被控訴人外山は、同月二二日の午前中、本庁で執務した後、被控訴人利光とともに、午後二時五五分大分空港発の航空機で大阪市に向けて出発し、午後三時四五分ころ伊丹空港に到着し、タクシーで、試合に出場する議員らが練習していた淀川の河川敷に立ち寄って、一〇分ほど挨拶だけして、午後五時前ころ、大阪事務所に着いた。

(2)  被控訴人外山は、同事務所において、同事務所所長ほか同事務所職員全員に対し、午後五時ころからおよそ四、五分間、職務執行基準に基づいて、服務規律の保持及び綱紀粛正について訓示を行った後、同事務所所長から同事務所の業務について報告を受けた。右訓示については、被控訴人利光も同席していた。

(3)  被控訴人外山及び同利光は、午後六時ころ、同事務所を退出し、県人会主催の本件野球大会参加議員激励会に出席し、その後、ホテル(新阪急ホテル)に宿泊した。

(五)(1)  被控訴人外山及び同利光は、同月二三日午前八時前ころにホテルを出発し、タクシーで本件野球大会の開会式が行われる大阪市内にある舞洲アリーナに向かい、午前八時三〇分ころ到着した。被控訴人外山は、同アリーナ到着後、午前九時に開始された開会式が始まるまでの間、被控訴人利光を応援席に行かせ、一人で、同アリーナ一階部分を一巡して施設を見て回り、同事務室窓口に積み重ねて置いてあった同アリーナ「利用のご案内」のパンフレット(乙二)を一部もらい、同事務室にいた管理職らしい男性職員に、名刺を持っていなかったので口頭で身分を告げて、同アリーナの建設費や財源等について一〇分ないし一五分尋ねた。右職員の説明では、平成七年に完成し、建設費は約一三五億円で港湾特別会計から支出され、第三セクター方式で維持管理をしているということであった。

(2)  その後、被控訴人外山は、二階の応援席にいる被控訴人利光と合流して、午前九時から本件野球大会の開会式を他の大分県議会議員等の応援者らとともに見学し、大分県議会議員の入場行進を拍手で迎えるなどした。その間、連続三五回出場の表彰を受けた議員に祝意を表したり、応援席にいた自民党県連会長から、大分県が運動公園内に二百数十億円をかけて建設を計画しているメインスタジアム問題について、作る以上は立派なものを作るべきであり、反対者にも一度このような施設を見てもらう必要があるというような話を聞いたり、観客席にいた数名の議員らと大阪国体に使用される舞洲アリーナの規模の大きさや施設の立派さについて感想を述べあうなどしていた。

(3)  一時間ほどして開会式が終わった後、被控訴人外山及び同利光は、同アリーナの二階部分を見て回り、二階の窓から外部に展開する野球場や緑地等の状況を見たりした後、一旦大阪駅まで戻って昼食をとるなどして時間調整をし、午後三時ころに、大分県議会議員の試合会場であった大阪府営久宝寺緑地野球場に到着し、午後四時ころから開始した同議員らの試合を三〇分ほど応援した後、試合途中で退出し、午後六時五五分伊丹空港発の航空機で帰路に就いた。

2  本件出張の違法性の有無について

知事は、行政目的達成のために、合理的な必要性がある場合には、その裁量により、職員を出張させることができるが、その目的や態様等に照らして著しく妥当性を欠くときは、右裁量権の行使に逸脱又は濫用があるものとして違法となるものと解するのが相当である。

しかるところ、地方自治法二条一四項は「地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、(中略)最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」と定め、地方財政法四条一項も「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない。」と規定しているから、出張旅費の支出行為の必要性の判断に当たっては、当該出張の職務行為との関連性のみならず、当該職務行為にとって当該出張が必要最少限度のものであるかとの観点においても検討されるべきである。

したがって、本件出張命令に裁量権の逸脱又は濫用があるか否かは、本件出張の目的、その必要性の度合い、態様などを総合的に勘案して判断されるべきである。

(一) 本件野球大会応援用務について

(1)  被控訴人らは、被控訴人外山は、大分県総務部長として「議会及び県の行政一般に関する事項」を分掌し、被控訴人利光は、総務部財政課総務係長として「議会に関すること」を分掌し、県の行政運営の円滑な執行を図るため種々の機会に議員との意見交換、情報交換を行うことは、両名の職務に属するところ、本件野球大会は、野球愛好家の議員有志のみが集る私的行事ではなく、全国都道府県議長会及び大阪府議会が機関決定し、主催した公式行事であり、このような全国規模の公式行事に参加する議員を応援し、その際に意見交換、情報交換を行うことは、議員らとの交流を深め、県の行政運営の円滑な執行を図ることに資するから、本件野球大会応援用務は、被控訴人外山及び同利光の職務と関連性がある旨主張する。

確かに、被控訴人外山は、大分県総務部長として「議会及び県の行政一般に関する事項」を分掌し、被控訴人利光は、総務部財政課総務係長として「議会に関すること」を分掌しているから、議員との交流や意見交換を行うことにより議会と執行部との交流を深め、行政運営の円滑な執行を図ることは、被控訴人外山及び同利光の職務に属するものと認められる。

(2)  しかし、証拠(甲一〇、三〇ないし三二、乙四、一一、丙九、一〇、原審における被控訴人外山及び同利光)及び弁論の全趣旨によれば、全国都道府県議会議員の各議会対抗形式による軟式野球大会は、「国体に協賛し、あわせて議員相互間の親睦とスポーツ精神の高揚を図り、地方自治の発展に寄与する。」ことを目的として始まった経緯はあるものの、国体が国民の健康増進、スポーツ振興を行政目的とする国内最大の行事として国民に定着している現在においては、議員野球が国体に協賛する意義は薄れており、なみはや国体実行委員会も本件野球大会を協賛事業や関連行事としては位置づけておらず、一般国民から特別な関心が寄せられているわけでもないのであって、国体協賛と銘打ってはいるものの、議員全員の参加が義務づけられているわけではないし、日程、行事計画において、参加議員と応援職員との交流や意見交換の機会も設けられておらず、実態は、野球愛好議員が軟式野球の試合を楽しむことを主たる目的とするものと評価するのが相当であり、全国都道府県議長会及び大阪府議会が機関決定し、主催した公式行事であるとはいえ、本件野球大会自体に公務性があるとは認めがたいというべきである。

したがって、本件野球大会が公式行事であるという理由で、それを応援することをもって、被控訴人外山や同利光の本件出張を合理化することはできない。

(3)  被控訴人らは、種々の機会に議員との交流や意見交換を行うことにより議会と執行部との交流を深めることが行政運営の円滑な執行を図る上で意義があると主張するところ、一般論としてその意義を否定するものではないが、証拠(甲一九の1ないし32、二八)によれば、九州で知事部局の職員が本庁から本件野球大会の応援に行ったのは大分県のみであり、福岡・宮崎・熊本・鹿児島・長崎・佐賀の各県は知事部局の職員を応援に行かせておらず(福岡は、福岡大阪事務所職員が応援に行っている。)、これら各県が本件野球大会の応援に行くことによる議員と執行部との交流に特別な意義を見出していないことを示している。

被控訴人外山は、各会派の議員が一緒に県民に親しまれているボピユラーな野球という話題を通じてフランクに話し合いができる、そういう雰囲気のなかで大分国体の開催という共通の課題を抱える議会と執行部とが情報交換をすることに意義があり、効果があると感じたと述べ、被控訴人利光は、会派の枠を超えて議員が一生懸命やっている野球に行政側も参加して和気藹々としたムードで話せることで後の仕事が円滑になるなどと述べているが、本件出張中に実際に被控訴人外山や同利光が議員らと接触したのは、前記のように、挨拶や試合の応援、その合間の雑談程度のものに過ぎなかったのであり、地元での種々の機会における交流においては果たせないというようなものではなく、議員との交流や意見交換が被控訴人外山及び同利光の職務に属するといっても、本件野球大会に参加する一部の議員と、雑談程度の交流をするために、わざわざ県外まで出張する合理的な必要性はないというべきである。

(二) 大阪事務所行政指導用務について

前記1(一)(1) ないし(3) 記載のとおり、平成八年後半から平成九年七月ころにかけて、大分県において、職員の服務規律の保持及び綱紀粛正が問題とされるような事件が発生し、被控訴人外山は、各所属長に、平成九年四月一日に施行された職務執行基準の趣旨を周知徹底するよう通知し、関係部長会議や所属長会議等にも出席して同様の訓示を行っており、同年五月には、東京事務所においても訓示し、本件出張の前後には、総務次長と分担して、大分県内にある一二の地方振興局に出向いて訓示を行っていることからすれば、大阪事務所においても職員に対し訓示をする必要があったというべきである。

しかし、被控訴人外山及び同利光自身、本件野球大会応援用務が生じたため、その機会を利用して大阪事務所訪問を企画したと述べているうえ、前記のとおり、被控訴人外山が、東京事務所において訓示を行ったのは、別の用務による出張の機会を利用してであって、東京事務所に事前連絡もしておらず、訓示に立ち会った職員は同事務所の全職員の半数ほどであったこと、福岡事務所については、同事務所の職員数が三名と少ないこともあるが、訓示は行われていないこと、地方振興局での訓示は、職場訪問の機会になされていること、大阪事務所における訓示が緊要であったのであれば、大阪事務所は、大阪駅からほど近い第三ビル内にあるのであるから、東京出張等の機会に立ち寄る計画をすれば、より早期に実施することも可能であったと考えられること、本件出張は、本件野球大会の日程に合わせて組まれたものであり、その行程は、殆ど本件野球大会の応援等に費やされていて、被控訴人外山が大阪事務所において訓示をした時間はわずか四、五分であり、同人が大阪事務所に居た時間も一時間ほどであること、職員の服務規律の保持及び綱紀粛正については、職務執行基準が制定され、右基準の遵守については文書で通知されており、一応の徹底措置は講じられていたことなどからすれば、本件野球大会応援のために出張する計画がなかった場合は、大阪事務所行政指導用務のみを目的として本件出張をするまでの必要性はなく、実行された可能性もないというべきである。

(三) 国体関連施設の視察・調査用務について

(1)  被控訴人らは、本件出張には、国体関連施設の視察・調査用務もあったと主張し、被控訴人外山及び同利光はその旨供述し、同人らの各陳述書(乙四、一一)にもその旨の記載がある。

(2)  しかし、<1>  被控訴人利光は、同外山から本件出張の用務の一つとして国体関連施設の視察・調査も指示されたといいながら、旅行命令簿の起案を命じた職員に、その用務を告げていないこと、<2>  被控訴人利光が同外山から右用務を指示されたとすれば、右用務を果たすためにどのような準備をするかについて指示を仰ぐなり、協議すると考えられるのに、そのような形跡はないこと、<3>  被控訴人外山も同利光も、本件出張においては、大阪府で開催される国体のために使用される予定の施設である舞洲アリーナの視察・調査を計画していたといい、当日は、本件野球大会の開会式があり、担当者は多忙であろうと予測していたといいながら、同施設管理者への連絡、案内依頼や資料の提供依頼をしたこともなく、大阪府や大分県大阪事務所に対しても、調査や資料提供等の依頼をしておらず、事前準備をまったくしていないこと、<4>  本件出張の際に被控訴人外山が視察・調査したという国体関連施設は、本件野球大会の開会式が実施された舞洲アリーナのみであり、その内容も、開会式が始まるまでの約三〇分くらいと開会式後のわずかの時間に、同アリーナ内を見て回り、同アリーナの事務室にたまたまいた職員に、同アリーナの建設費や財源等について尋ねたり、右事務室窓口に積み重ねて置いてあった誰でも持帰ることのできるパンフレットを持帰ったというにすぎないこと、<5>  被控訴人外山及び同利光の右のような行動は、国体関連施設視察・調査目的がなく、本件野球大会開会式のためだけに舞洲アリーナを訪れた場合であっても、空き時間を利用して行うことは珍しくなく、国体関連施設視察・調査用務の遂行としてなされた行動と見るほどの内容がないこと、<6>  被控訴人外山及び同利光は、開会式が終わった午前一〇時ころから大分県議会議員の試合が始まる午後四時まで、相当の時間の余裕があり、その間には何らの用務もないのに、その他の国体関連施設を視察したり、調査をしたこともないこと、<7>  大分県が総合体育館(アリーナ)を計画しているのは、平成一五年から始まる第二期計画であり(丙一二)、その資料として意味があるのであれば、被控訴人外山の私的知識に留めることなく、後々利用できる形にしておく必要性があるにもかかわらず、被控訴人外山は、帰県後、持ち帰ったパンフレットを職場の自分のキャビネット内にしまい、舞洲アリーナの視察・調査により得られた情報や成果を記録化したり、報告した形跡がまったくないことからすれば、本件出張には、国体関連施設の視察・調査用務もあったとの前記各証拠は採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(3)  なお、被控訴人らは、被控訴人外山及び同利光の旅行命令簿の用務欄に国体関連施設の視察・調査用務が記載されていないのは、右用務欄の記入スペースに限りがあるからであると主張するが、甲二の1・2によれば、右用務欄に、「国体関連施設の視察・調査用務」と記載するスペースがあることは明らかであって、被控訴人らの右主張も採用できない。ただし、原審における被控訴人利光の供述及び丙一ないし八によれば、従前から、旅行命令簿の用務欄には、「財政用務」「職場訪問」等抽象的な記載しかなされない場合も少なくなく、すべての用務を具体的に記載しているわけではないことが認められ、用務欄に具体的な記載がないことのみから、具体的な記載のない用務はすべて出張の目的とされていないと断定することはできないというべきではあるが、本件においては、旅行命令簿の用務欄に具体的な記載がないばかりでなく、前記のように、本件出張において、目的をもって、国体関連施設の視察・調査を行ったとはいい難い状況があるのであるから、本件出張の機会に前記のような行動があったとしても、本件出張が国体関連施設の視察・調査用務を目的として行われたものでないことは明らかである。

(4)  さらに、被控訴人らは、現に、本件出張で被控訴人外山自身が調査し、見聞したことは、県財政の運営や予算査定等において、県財政を担当する総務部長としての判断・決定に役立っていると主張するが、舞洲アリーナを実際に見学して、その規模等について体感するものがあり、何ほどかの判断材料を得たことは否定しないとしても、本件出張時に入手した程度の資料や情報が県財政の運営等の判断に役立つとは到底いい難く、具体的にどのような県財政の判断・決定に役立ったのか、首肯しうる説明はまったくないのであって、実質的に見ても、被控訴人外山や同利光が行った程度の見学や事情聴取のために、本件出張を実施する必要性があったとは認められない。

(四) 結論

以上のとおり、本件出張は、本件野球大会応援用務及び大阪事務所行政指導用務のみを目的として計画、実施されたものであるところ、本件野球大会応援用務を目的とする出張には、合理的な必要性が認められず、大阪事務所行政指導用務のみでは、本件出張はなされなかったものと認められるから、本件出張命令は、著しく妥当性を欠くといわざるを得ず、旅行命令権者の裁量権を逸脱又は濫用したものであって、違法であり、これを原因とする本件旅費の支出も違法である。

二  争点二(被控訴人らの注意義務違反の有無)について

被控訴人平松は、知事として、本件旅費支給権限を法令上本来的に有する者であり、被控訴人利光は、大分県事務決裁規程(乙一)に基づき知事の旅費支給権を専決して旅費支給権を行使する権限を有する者であるところ、単に過去の慣行を踏襲するのではなく、議員野球大会の存在意義の変化や総務部長を応援に派遣することの実質的意義の存否や住民意識の変化などを、決裁者として通常要求される程度の注意をもって慎重に検討すれば、本庁から職員を遠隔地に派遣してまで自県の議員を応援させる合理的な必要性に乏しいし、議員との交流をさせるといっても、真摯な協議などを行う予定などがあるわけではなく、野球の合間の雑談程度しか期待できないのであり、それによって得られる議員との親交は、本件出張を実施しなければ得られないようなものではなく、その意味においても出張の合理的な必要性がなく、したがって、本件旅費支出が違法なものであることを容易に認識し得たにもかかわらず、このような検討を怠って本件旅費の支給を命令したものであり、過失があったと認められる。

また、被控訴人外山は、自己に関する本件旅費を受領しており、これは前記のとおり、違法な支出に基づくもので、右受領は法律上の原因を欠くというべきであるから、受領した本件旅費相当額を大分県に返還すべき義務がある。

三  結論

以上によれば、控訴人らの本件請求はいずれも理由があるので認容すべきである。

よって、右と異なる原判決は相当でなく、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消した上、本件請求をいずれも認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井垣敏生 裁判官 白石史子 裁判官 高橋亮介)

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