福岡高等裁判所 平成12年(行コ)4号 判決 2000年12月14日
控訴人
甲
右訴訟代理人弁護士
江越和信
同
塩田直司
同
森徳和
被控訴人
宇土税務署長 吉岡忠
同
国
右代表者法務大臣
高村正彦
右両名指定代理人
吉田勝栄
同
金子健太郎
同
秋岡隆敏
同
林俊生
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人宇土税務署長が平成二年二月二七日付けでした
1 控訴人の昭和六一年分の所得税の更正のうち総所得金額二八二万三〇〇〇円、納付すべき税額三万九二〇〇円を超える部分及び同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定
2 控訴人の昭和六二年分の所得税の更正のうち総所得金額五二六万八六七一円、納付すべき税額三〇万七一〇〇円を超える部分及び同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定
3 控訴人の昭和六三年分の所得税の更正のうち総所得金額一一一六万八三四五円、納付すべき税額一七七万〇三〇〇円を超える部分及び同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定
をいずれも取り消す。
三 被控訴人国は、控訴人に対し、五五〇万円及びこれに対する平成五年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
第二事案の概要
事案の概要は、原判決八頁四行目の「四月二二日」を「四月一九日」と改めるほかは、原判決「事実及び理由」欄の第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
第三当裁判所の判断
一 当裁判所も、当審で取り調べた証拠を加えて検討しても、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものと判断するが、理由は、次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第四 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決五五頁五行目の次に、改行の上、次を加える。
「(なお、控訴人は、同日の調査について、日隈調査官は、調査に来たと言って、いろいろ質問しようとしたが、控訴人が「わずか三日で資料をそろえることはできないので、まだ資料がそろてない。今度までに揃えておく。六月一二日に来てくれ。」と告げたところ、日隈調査官はこれを了解して帰ったといった程度のやりとりがなされたただけで、反面調査には同意していない旨主張し、これに副う供述(証人乙、控訴人本人)も存する。しかしながら、いずれも主尋問において当日の調査について右内容を超えた具体的な供述はなく、反対尋問においても、第三者の立ち会いは困るというようなことは言われた(証人乙)、売上や経費の内容に関して質問されたことはあった、どんな申告をしたのかと聞かれたが回答は覚えていない、反面調査については、あやふやだけどわからんならするというような話を聞いたような気もする(控訴人本人)などと曖昧な供述に終始しているものであって、右調査の期日が事前に決まっていたこと、当日の調査に要した時間に照らすと、日隈調査官が調査の実を上げるべく資料の提出を求めるなどをしたことは容易に推認しうるのであり(反対尋問での控訴人らの右応答も、曖昧とはいえ、これを裏付けるものだる。)、後述のとおり五月三一日のA砥用支店における日隈調査官の調査の際、Bから反面から反面調査に応じないよう申し入れがなされていたことを併せ考慮すると、右認定に反する右供述部分は採用できない。)」
2 同七五頁六行目の「調査手続が」の次に「、一般の調査においては、事前通知の励行に努め、また、現況調査は必要最小限度にとどめ、反面調査は客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限って行うこととする旨規定された」を加える。
3 同七五頁七行目の「主張しているが、」の次に「右運営方針などは、その内容に照らすと申告納税制度における国民の自主的な納税義務の遂行を図るため、税務運営に関し、国税庁が税務職員に対して示した指針というべきものであって、税務調査の違法性に関する判断基準を示したものではないと解されるから、」を加える。
4 同八一頁一〇行目の「近似性等に」を「近似性等の」と改める。
5 同八三頁三行目ないし四行目の「認められる。」を「認められるところ、」と改める。
6 同八四頁四行目の「納税者」から同頁九行目の「当たり」までを、「前記抽出条件により、ひとまず類似性が担保されているので、業者間に通常存在しうる事業形態の差異は平均化により捨象されるというべきで、これを考慮するまでもないから、納税者の事業形態の差異が当該平均値による推計自体を不合理ならしめる程度に顕著でない限り斟酌するまでもないというべきところ、本件についてかかる事実は認められないから」と改める。
7 同八五頁六行目の「覆すには、」の次に「所得は総収入金額から必要経費を控除したものであるから、総収入金額と必要経費が明らかにされなければならず、」を加える。
8 同八五頁七行目の次に、改行の上、次を加える。
「控訴人は、納税者に捕捉漏れのない総収入金額の立証を求めることは、難きを強いるものであり、また、青色申告と異なり、白色申告では現金出納簿が不要とされるなど記帳義務の程度に差があることを無視している旨主張するが、この控訴人の主張によれば、自ら正しい申告をしないために課税庁をして推計課税を余儀なくさせた納税者が、実額反証を許される結果、正しい申告をした誠実な納税者より利益を得るような事態を生じかねないのであり、また、課税庁による反面調査などによる証拠の収集には著しい困難があるのに対して、そもそも売上額等はこれを主張する納税者の支配領域内の事実であって、その立証は容易で、困難を強いるものではないことなどを考慮すれば、総収入額を納税者において合理的疑いを入れない程度に立証すべき責任があると解しても、納税者に難きを強いるものでないことは明らかである。また、確かに白色申告では青色申告に比して記帳義務が軽減化されているが、このことと右立証責任とは自ずから別問題であり、要は会計帳簿等の有無にかかわらず、総収入額を明らかにすることができるか否かということであって、記帳義務の軽減化をもって右の立証責任を軽減するものとは到底解することができない。」
9 同九三頁八行目末尾に「右は控訴人主張の売上金額が二年分とも推計課税の前提とさえた売上金額を上回るものであるとしても異なることはない。」を加える。
10 同九四頁八行目の「交通費」を「交際費」と改める。
11 同九五頁九行目の「残るところであり」の次に「(交際費などの領収書中には、右のとおり、領収年月日に照らして不実の記載がなされているものがあり、後で紛れ込んだ旨の供述は到底採用しえない。)」を加える。
12 同九七頁九行目の「勧めるものではなく、」の次に「会話の流れからは、税務調査が円滑に進まないことから専門家である税理士の関与を勧めたものと解されるのであって、」を加える。
13 同九八頁七行目の「争点四、五」を「争点五、六」と改める。
二 以上によれば、控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。よって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(平成一二年九月七日口頭弁論終結)
(裁判長裁判官 吉原耕平 裁判官 石村太郎 裁判官 髙野裕)