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福岡高等裁判所 平成17年(ネ)790号 判決 2006年12月21日

主文

1  一審被告会社の控訴に基づき、丙事件の関係で、原判決4項を次のとおり変更する。

(1)  一審原告は、一審被告会社に対し、8300万円及びこれに対する平成5年3月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  一審被告会社のその余の反訴請求を棄却する。

2  一審原告及び一審被告Yの各控訴をいずれも棄却する。

3(1)  丙事件の関係で生じた訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを10分し、その1を一審被告会社の負担とし、その余を一審原告の負担とする。

(2)  一審原告及び一審被告Yの各控訴費用は、各自の負担とする。

4  この判決は、第1項(1)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

(一審原告)

1  原判決中、一審原告敗訴部分(甲事件のうち一審被告会社に対する請求が棄却された部分)を取り消す。

2  一審被告会社は、一審原告に対し、原判決別紙1物件目録1、2記載の各不動産につき、佐賀地方法務局唐津支局平成6年7月26日受付第8690号抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

(一審被告Y及び一審被告会社)

1  原判決中、一審被告ら敗訴部分(甲事件のうち一審被告Yに対する請求及び乙事件の請求が認容された部分並びに丙事件における一審被告会社の請求が棄却された部分)を取り消す。

2  一審原告の一審被告Yに対する請求をいずれも棄却する。

3  一審原告は、一審被告会社に対し、9498万4440円及びこれに対する平成5年3月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  甲事件及び乙事件は、一審原告において、原判決別紙1の物件目録記載の土地建物(以下においては、同目録記載の土地につき目録番号を付して「本件1土地」のようにいい、同建物を「本件建物」という。)を所有しているところ、同土地建物につき、一審被告Y名義の所有権移転登記(以下「本件所有権登記」という。)がなされており、本件1土地及び本件建物については、一審被告会社を抵当権者とする抵当権設定登記(以下「本件抵当権登記」という。)が存在し、かつ、一審被告Yにおいて占有しているとして、いずれも所有権に基づき、①一審被告Yに対しては、本件所有権登記の抹消登記手続、本件建物からの退去と本件1土地の明渡し及び訴状送達日の翌日から同明渡済みまでの賃料相当損害金の支払いを求め、②一審被告会社に対しては本件抵当権登記の抹消登記手続を求めた事案である。

丙事件は、一審被告会社が一審原告に対し、平成3年5月7日、一審原告に1億円を貸し付け、又は一審被告会社のA(以下「A」という。)に対する同額の貸金を一審原告が連帯保証したとして(以下、これによって生じた債務を「本件債務」という。)、残元本9498万4440円及びこれに対する弁済期後の日である平成5年3月2日から支払済みまでの遅延損害金の支払いを求めた反訴請求である。

原審が、甲事件及び乙事件につき、一審被告Yに対する請求を全部認容したが、一審被告会社に対する請求を棄却し、丙事件については一審被告会社の反訴請求を棄却したところ、一審原告、一審被告ら双方がそれぞれ控訴した。

2  前提事実

(1)  当事者等

ア 一審原告(昭和○年○月生)は、平成4年ころまで定期船、貨物船とホテル業を営む昭和交通船有限会社(以下「昭和交通船」という。)の代表取締役を、平成6年ころまで遊覧船業を営む株式会社呼子グラスボートセンターの代表取締役をそれぞれ務めていた者であって、平成3年5月ころは呼子商工会理事の職にあったが、現在は無職である。

B(以下「B」という。)は一審原告の妻である。

イ 一審被告会社は、砂採取及び販売等を目的とする会社である。その代表者であるC(昭和○年○月生、以下「C」という。)は、昭和48年6月の同会社設立以来の代表取締役であって、平成3、4年ころは、唐津湾海区砂採取協同組合(以下「砂組合」という。)理事、社団法人全国海砂部会会長及び呼子町議会議員を務めており、呼子商工会の理事長の職にあったこともある。

Cの二男・D(以下「D」という。)は、平成3年ころは砂組合に勤務していたが、平成5、6年ころ以降、一審被告会社の従業員として経理に関わるようになった者であり、E(以下「E」という。)は、一審被告会社設立以来、会社の経理を担当している事務員である。なお、F(以下「F」という。)は、Cの兄であり、鎮西町において採石業を営む三松興業株式会社を経営しているが、地元では名の通った恐れられていた人物である。

ウ 一審原告とCは、小・中学校の同窓(一審原告が1学年上)であったが、Cが呼子商工会の理事長、一審原告が同会理事であったころ、商工会活動を契機として深く関わるようになったものであり、その後、Cが昭和交通船の所有船舶の進水祝賀会や一審原告の長女の結婚式に参列したりするなど親交を重ねていた。

エ 一審被告Y(昭和○年○月生)は、Cとは平成14年11月以前からの知人であって、唐津市内において主に飲食業と遊技場を経営する傍ら、肩書住所地において「エイシンファイナンス」の屋号で貸金業も営んでいる。

オ Aは、有限会社五岳商事(以下「五岳商事」という。)及び株式会社日建土地サービス(以下「日建土地」という。)の代表取締役・Gの兄であり、H(以下「H」という。)は、不動産仲介業を営むアメニティジャパン株式会社(以下「アメニティジャパン」という。)の代表取締役であった。Hは、平成3年3月以前から、昭和交通船が所有していたホテルの売却の仲介を依頼されていた。

(以上につき、甲4、乙25、原審証人D、同E、原審における一審原告、同C、同一審被告Y)

(2)  一審原告は、本件1、3土地につき昭和44年12月7日相続により、本件4土地につき平成3年8月19日売買により、それぞれ所有権を取得し、その旨所有権移転登記を経た。

また、一審原告は、平成3年12月18日ころ、本件1土地上に本件建物を新築し、同人名義の所有権保存登記を経た上、平成14年11月ころまで自宅として使用していた。

(争いがない、甲1、2、4~6)

(3)  本件紛争の端緒

ア 一審原告は、平成3年3月10日ころ、Hから電話で、博多駅前の土地を整理転売する計画(以下「本件土地転売計画」という。)に必要な土地買収資金1億円につき、これを融資してくれる人物の紹介方を頼まれたが、同申出を断った。それにもかかわらず、Hは、同月15日ころ、A(一審原告は同人とは初対面であった。)を伴って一審原告を訪ねて来た。Aは、一審原告に対し、本件土地転売計画について説明するとともに、1億円の融資をしてくれそうな人はいないかと尋ね、これに対し、一審原告は、呼子地内で大きな事業をしている者はCぐらいではないかとの趣旨の発言をした。

イ 同年5月2日、日建土地等が所有する原判決別紙2の物件目録記載の土地ほか建物6棟につき、根抵当権者を一審原告、債務者を日建土地、極度額を1億5000万円、原因を前同日設定とする、根抵当権設定登記手続がなされた(福岡法務局前同日受付第17269号。以下、この根抵当権を「本件根抵当権」といい、同登記を「本件根抵当権登記」という。)。

ウ 一審被告会社は、同年5月7日、預金を担保として、①西日本銀行から4000万円、②佐賀銀行から6100万円の各融資を受け、それぞれ額面4000万円及び6000万円の銀行保証小切手各1通の振出交付を受けた。

Cは、前同日、上記各小切手を、一審被告会社の事務所に持ち戻ったが、同事務所には、一審原告、H、Aが待っており、その場で、上記各小切手は、結局、Aの手に渡った(ただし、一旦一審原告に渡された上でAに渡されたのか、それとも直接Aに渡されたのかについては当事者間に争いがある。)。

(以上につき、争いがない、甲4、乙1、29、原審証人E、原審における一審原告、同C、原審における調査嘱託、弁論の全趣旨)

(4)  本件抵当権登記とそれに至る経緯

ア 一審原告は、平成4年12月17日、一審被告会社の事務所において、D及びEの面前で、一審被告会社に宛てて、「12月31日までに1億円及び利息が返済できない場合は、担保設定されても異議はありません」との本文及び自宅と事務所の所在地を記載した上、署名指印した書面(以下「本件同意書」という。)を作成し、これをDに交付した(乙12、原審証人E、同D、原審における一審原告)。

イ Eと一審原告は、平成5年4月5日、唐津市内のI司法書士の事務所に同道し、本件根抵当権につき、一審原告において一審被告会社を権利者とする転抵当権を設定する旨合意した。そして、同月7日、同月5日設定を原因とし、債権額を1億4300万円とする本件根抵当権転抵当権設定登記手続(福岡法務局平成5年4月7日受付第11348号)がなされた。

(甲10、乙27、原審証人I、同E、原審における一審原告)

ウ また、平成6年7月26日付けで、本件1土地及び本件建物につき、原因を平成3年5月7日金銭消費貸借、債権額を5000万円、債務者を一審原告、債権者を一審被告会社とする本件抵当権登記(佐賀地方法務局唐津支局平成6年7月26日受付第8690号)がなされた。

(争いがない、原審における一審原告)

(5)  平成14年11月6日、本件土地建物につき、一審原告と一審被告Yとの間で、同日付け売買を原因とする所有権移転登記手続をする旨の合意(以下「本件所有権登記合意」という。)がなされ、同合意に基づき、佐賀地方法務局唐津支局平成14年11月6日受付第12420号をもって本件所有権登記がなされた。

(争いがない、原審における一審原告)

(6)  一審被告Yは、遅くとも平成14年12月5日ころまでには、本件建物の鍵を交換して一審原告ら家族の立入りを不能にした上、自ら鍵を所持して、現在まで同建物を占有している。

(争いがない、甲4、8、原審証人B、原審における一審原告、同一審被告Y)

3  争点及びこれをめぐる当事者の主張の要旨

(1)  本件債務の存否と額

(一審被告らの主張)

ア 本件債務の成立について

(ア) 主位的主張

一審被告会社は、一審原告に対し、平成3年5月7日、返済期を同年7月31日、利息を一審被告会社が銀行から借り入れる金利と同額とする旨約束した上、一審原告に対し、前提事実(3)ウの銀行保証小切手を手渡し、もって1億円を貸し付けた。

(イ) 予備的主張

一審原告は、平成3年5月7日、一審被告会社に対し、同会社のAに対する上記(ア)と同内容の貸金につき、連帯保証した。仮にそうでないとしても、一審原告は、同年10月初めに、昭和交通船振出しにかかる2通の小切手(額面1億円と5000万円のもの)を差し入れていることからして、遅くとも、このころまでに、上記貸金の連帯保証をしたというべきである。

イ 本件債務の残額について

一審被告会社は、前提事実(3)ウの預金担保貸付けを受けた際、同①につき76万3205円、同②につき161万1368円をそれぞれ前払利息として支払った。また、一審被告会社は、平成4年11月9日に西日本銀行に対して、平成5年3月1日に佐賀銀行に対して、それぞれ貸金の返済をした。これにより、上記前払利息も含めて一審被告会社が両銀行に利息及び手形取立手数料として支払った金員の合計は、1198万4440円となる。

そうすると、本件債務の総額は、元利金合計で1億1198万4440円となるところ、一審被告会社は、昭和交通船を振出人とし、振出日を平成3年11月25日、支払期日を同年12月25日とする額面1000万円の約束手形を同月27日に元本に組み入れ、同年7月末ころAから交付された日建土地振出しの小切手(額面700万円)を平成4年5月31日に利息に充当したため、上記元利金合計額から上記充当額合計1700万円を控除した残額9498万4440円が平成5年3月1日現在における本件債務の残額となる。

ウ 仮に、後記(4)一審被告Yの主張欄オの代物弁済合意が有効であれば、上記イ記載の残額から6000万円を控除した3498万4440円が本件債務の残額となる。

(一審原告の主張)

一審原告は、一審被告会社主張の貸付けを受けたことはない。同貸付けの相手はAであり、一審原告はこれを連帯保証したこともない。

(2)  本件抵当権登記の原因たる同抵当権設定合意の存否

(一審被告会社の主張)

ア Eは、かねて、一審被告会社の会計処理についての権限をCから包括的に与えられていた。

イ Eは、一審被告会社が一審原告から本件債務に対する弁済を得られないまま推移していたため、平成4年12月半ばころに至って担保を徴しておかなければ危険であると考え、その旨Cに進言したところ、同人からその手続を任された。そこで、Eは、一審原告に連絡して一審被告会社の事務所に来てもらい、前提事実(4)アのとおり、一審原告に本件同意書を作成してもらった。

その後も、一審被告会社は、一審原告から本件債務の支払いをする旨言われたのでこれを待っていたが、一向にらちがあかないので、本件同意書をもって本件抵当権登記手続をすることにした。

ウ 以上によれば、一審原告と一審被告会社との間では、平成4年12月17日に、本件抵当権登記の原因となる抵当権設定合意(以下「本件抵当権設定合意」という。)がなされたというべきである。

(一審原告の認否)

本件抵当権設定合意は存在しない。本件同意書は、その体裁からして抵当権設定合意にかかる書面とみることはできない。

(3)  本件抵当権設定合意の効力

(一審原告の主張)

ア 通謀虚偽表示による無効

本件抵当権設定合意は、一審原告において、Dから、銀行に見せるためだけのものであり、担保は実行しないと言われて合意したものである。

したがって、同合意は通謀虚偽表示によるものであって、無効である。

イ 強迫による取消し

一審原告は、平成3年5月7日ころから平成4年10月ころまでの間、C、F及びDから、一審原告や家族の生命まで奪いかねない旨の強迫を受け続けたり、実際に監禁されたり、妻子に対して怒鳴り込まれるなどの実力行使を受けてきた。

そのような状況下で、一審原告は、平成4年12月17日、Dから呼び出され、同人から、「担保を入れんば、あんた大事(おおごと)になるばい。一筆書かんと親父(C)が癇癪を起こす。」「書いてくれんだったら、あんた、ひどか目に遭わせらるるばい。」などと申し向けられて本件土地建物等の担保提供を要求された。

したがって、本件抵当権設定合意は、上記のとおりDの強迫によるものである。一審原告は、平成18年7月12日付け準備書面(4)をもって、同合意を取り消す旨の意思表示をし、同意思表示は同日一審被告会社に到達した。

(一審被告会社の認否)

一審原告の主張はいずれも否認する。

(4)  本件所有権登記合意は、一審被告Yの強迫によってなされたものか。

(一審原告の主張)

ア 一審被告Yは、Cから、一審原告に対する債権を譲渡されたとして、一審原告に対し、利息として300万円を支払うよう要求したり、一審被告Y宛の借用証を書くよう求めたりした上、平成14年11月5日に唐津市内のホテルのロビー兼喫茶室で待ち合わせることを一審原告に約束させた。

イ しかし、一審原告が約束の日時に待合せ場所に行かなかったところ、一審被告Yは、同月6日午前7時ころ、一審原告宅に押しかけ、応対に出た一審原告に対し、同一審被告への連絡なく上記面会に応じなかったことを非難し、一審原告の胸ぐらを掴んで、「人から金銭を借りていて、返さないで逃げ回るのは、人の道に外れている。人間ではない。法律がなかったら、あんたのような者は殺したいぐらいである」などと怒鳴りつけた。

ウ 一審原告は、同日午前10時30分ころ、一審被告Yとともに呼子町役場へ赴き、従前の印鑑登録を廃止するとともに、その際持参した印鑑について新規に印鑑登録手続をしてその印鑑登録証の発行を受けた上、引き続き、唐津市内の司法書士事務所に出向き、本件土地建物につき、本件所有権登記合意をし、本件所有権登記手続をした。

エ 以上のとおり、本件所有権登記合意は一審被告Yの強迫によるものであるから、一審原告は、平成15年9月10日付け準備書面(3)をもって、これについての取消しの意思表示をし、同意思表示は同日一審被告Yに到達した。

(一審被告Yの主張)

ア Cは、一審原告からの本件債務の回収方につき困っていたところ、平成14年10月ころ、Cの知人・Jの助言を得て一審被告Yと面会し、一審原告に対する債権の存在を説明した。そして、Cは、一審被告Yから、上記債権の取立てを任せるようにもちかけられてこれに応じ、同人に対して同取立てを委任した。

イ これを受けて、一審被告Yは、一審被告会社からの委任状、債権譲渡書の交付を得た上、同年11月1日に初めて一審原告と面会した。

一審原告は、同面会の際、一審被告会社からの1億円の借り入れの有無を尋ねられるとこれにうなずいたので、一審被告Yは、一審原告に対し、一審被告会社から債権譲渡を受けたとして、今後は一審被告Yと一審原告との交渉になる旨告げてその了解を得た。

ウ その上で、一審被告Yは、一審原告に対し、借用証の作成や利息の支払いを求めたりした上、一審原告との間で、同月5日に唐津市内のホテルで待ち合わせることにしたが、一審原告は、何らの連絡もせずに、同待合せ場所に来なかった。そこで、一審被告Yは、同日、一審原告方に「連絡してください」などと書いた張り紙をした。

エ それにもかかわらず、一審原告は、なおも一審被告Yに何の連絡もしてこなかったため、一審被告Yは、翌6日午前7時ころ、一審原告方を訪れ、一審原告に対し、「どうして昨日来なかったのか。」「まず連絡をすべきでしょう」などと言った。その際、一審被告Yは、同原告の態度が煮え切らないので思わずかっとなり、同原告の胸ぐらを掴んだことがあったもののすぐ離したし、脅迫的な言辞は述べていない。

オ 一審被告Yは、一審原告からなおも返済の目途を明らかにしてもらえなかったので、一審原告に対し、本件土地建物を代物弁済として同一審被告の名義にするよう求め、その承諾を得た。その際、一審被告Yは、本件土地建物の評価証明書の記載を基に、その価値を一応6000万円と見積もった。

カ そして、上記承諾を受けて、同日、本件所有権登記手続がなされたものである。

したがって、本件所有権登記合意は、一審被告Yの強迫によるものではない。

(5)  一審被告Yが本件1土地及び本件建物を占有するのは不法行為となるか。その場合の賃料相当損害金はいくらか。

(一審原告の主張)

一審被告Yによる本件1土地及び本件建物の占有(前提事実(6))は、何らの権原にも基づかないものであり、一審原告に対する不法行為を構成する。

本件1土地及び本件建物の賃料相当額は月10万円を下らない。

(一審被告Yの主張)

一審被告Yは、一審被告会社から本件債務に関する取立委任を受け、その取立権限に基づいて、本件所有権登記を得たのであるから、本件1土地及び本件建物の占有は、正当な権原に基づくものである。

(6)  本件債務の時効消滅

(一審原告の主張)

本件債務は商事債権であるところ、一審原告が執った最終の債務承認的言動は、平成6年7月26日の本件抵当権登記手続である。したがって、本件債務は、平成11年7月26日の経過により短期消滅時効が完成し、消滅した。

なお、本件所有権登記合意は一審被告Yの強迫によるものであることが明白であるから(上記(4))、一審原告が上記合意をしたことをもって債務承認行為と評価すべきではない。

(一審被告らの主張)

ア 本件債務は、Cに対する一審原告からの個人的な依頼に基づくものであって、一審被告会社の業としての貸付けではないから、商事債権に当たらない。

また、一審原告は、一審被告Yに対し、平成14年11月6日、本件債務の存在そのものは承認していた。

イ 仮に消滅時効が完成しているとしても、一審原告の上記主張は、本件控訴審に至って初めて主張されるに至ったものであるから、同主張は信義則に反し許されない。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)について

(1)  本件債務の成否

ア 平成3年5月7日に、一審被告会社から合計1億円が支出され、それがAに渡ったことは確実である。問題は、この1億円が、①一審被告会社から一審原告に貸し付けられた上で、一審原告からAに交付(貸付け)されたのか、それとも、②一審被告会社からAに直接貸し付けられたのかである。そして、②の場合にも、(ⅰ)一審原告が連帯保証をしたのか、それとも、(ⅱ)一審原告は当該貸付けに全く関わっていないのかである。

しかし、上記のいずれの場合であるかを問わず、一審被告会社からAまでの上記1億円の流れについては借用証書その他の客観的な証拠書類は存在せず、しかも肝心のAや、これに深く関与したことが明らかであるHの各証言も得られないまま、上記①又は②の(ⅰ)であるとするC及びEの供述等(乙1、25、原審における各尋問)と、②の(ⅱ)であるとする一審原告の供述等(甲4、原審における尋問)が真っ向から対立している状況である。それゆえ、この点の帰趨は、上記各証拠の信用性の判断いかんにかかっている。

イ ところで、この点に関しては、以下のような相反する事情が認められる。

すなわち、上記①又は②の(ⅰ)であるとする一審被告らの主張に沿う事情として、以下の(ア)ないし(エ)があり、これに対し、上記②の(ⅱ)であるという一審原告の主張に沿う事情として、以下の(オ)及び(カ)がある。

(ア) Cは、A及びHとは面識がなく、一審原告を介して知ったものである。

(イ) 前提事実(3)イ及びウの事実

(ウ) 平成3年7月9日、一審原告が、同年5月7日に、日建土地に対し、アメニティジャパンを連帯保証人、返済期限を同年7月31日と定めて、1億円を貸し付けた旨の消費貸借契約公正証書が作成された。

(エ) 一審被告会社は、いずれも昭和交通船を振出人とする、平成3年10月11日を振出日とする額面1億円の小切手と、同月15日を振出日とする額面5000万円の小切手を現在も所持している。

また、一審被告会社は、いずれも昭和交通船を振出人とする以下の各約束手形を所持している。このうち、②は平成4年4月30日に、③は同年6月1日に、それぞれ支払呈示されたが、依願返却により決済されず、①及び④は決済に回されたことがない。なお、これらとは別に、一審被告会社は、昭和交通船を振出人とし、振出日を平成3年11月25日、支払期日を平成3年12月25日とする額面1000万円の約束手形(⑤)の振出交付を受けていたが、同手形は後刻決済された。

① 振出日 平成3年11月25日

支払期日 平成4年1月25日

額面 2000万円

② 振出日 平成4年3月26日

支払期日 平成4年4月30日

額面 300万円

③ 振出日 平成4年3月26日

支払期日 平成4年5月30日

額面 300万円

④ 振出日 平成4年3月26日

支払期日 平成4年6月30日

額面 400万円

(以上につき、甲14、乙5~10、26、28、原審証人E、原審におけるC)

(オ) 前提事実(3)ウの一審被告会社事務所での席上、Cは、いずれも五岳商事を振出人、日建土地を受取人、満期日を平成3年7月31日とする、額面1億円及び5000万円の約束手形各1通をAから受け取った。

(カ) 同年7月末ころ、Aは、一審被告会社事務所において、日建土地振出しの、額面700万円の小切手をCに渡した。同小切手は間もなく取立てに回され、決済された。

(以上につき、乙3、4、原審証人E、原審における一審原告、同C、弁論の全趣旨)

ウ 上記イの(ア)ないし(エ)は上記アの①又は②の(ⅰ)にとって相当の重みがある事情ばかりである。特に、一審原告は、平成3年5月2日には日建土地の所有土地に、根抵当権者を一審原告とし、極度額を1億5000万円とする本件根抵当権登記を経ていたのであり(前提事実(3)イ)、これにより、一審原告は、Aないしは日建土地に対する債権者としての地位を確立していたものであること、同月7日に、Cが一審被告会社の事務所に額面合計1億円の小切手を持ち帰った際、そこにはA及びHのほかに一審原告が待ち受けていた(前提事実(3)ウ)という事実(上記イ(イ))は重要である。また、一審被告会社(C)にすれば、一審原告はCとは昵懇の間柄であり、信頼できる相手であったのに対し、Aは一審原告から紹介されて知ったばかりの、いわば初対面といっても過言ではない人物であったことからすると(上記イ(ア))、そのようなAに1億円もの大金を貸し付けるということは考えがたいことといわなければならない。

これに対して、上記イ(オ)の約束手形の交付及び同(カ)の小切手の交付は、いずれも上記アの②の(ⅱ)にとって必ずしも決め手になるような事情ではない。一審被告会社から1億円の貸付けを受けたのは一審原告であり、Aはその一審原告から貸付けを受けた者であるという一審被告会社の主張を前提とした場合においても、上記各交付のいずれの場面にも一審原告が同席していた(原審における一審原告、同C)ということを考え併せれば、上記各交付は、本来であれば、Aから一審原告へ、一審原告から一審被告会社へと順次なされるべきところ、上記の機会に、一審原告の関与を省略して、AからCへの直接の交付をもってその目的を遂げたということも考えられないではなく、そうであれば、これらの事実が一審原告の主張を前提にしなければ成り立ち得ないことであるともいえないことになるからである。まして、上記アの②の(ⅰ)であるとすれば、何ら矛盾しないのである。

一審原告は、上記アのとおり、本件債務の成立を強く否定する供述をし、上記イ(ア)ないし(ウ)に関してもいずれもこれを否定する供述をしているのであるが、同供述の信用性を肯定するには、A又はHの供述による裏付けが欠かせないところ、同人らの供述が得られていないことは上記のとおりである。そうであれば、一審原告の供述をそれのみでたやすく信用することはできない。

なお、一審原告は、上記イ(エ)前段の小切手及び同後段の各約束手形を一審被告会社に交付した経緯について、平成3年10月ころと11月ころの2回にわたり、相次いでFから強要されたからである旨供述する(原審における尋問)。しかし、Fから強要されたとする時期・場所や振り出した小切手の額面などは、この点に関する一審原告の供述の核心部分であるはずなのに、上記供述内容には、同人の陳述書(甲4)のそれと齟齬があり、その信用性に疑問を差し挟まざるを得ない。したがって、一審原告の上記供述もたやすく信用することができない。

エ 以上によれば、上記1億円の貸付け(以下「本件貸付け」あるいは「本件貸付金」ということがある。)の貸付先が一審原告であるか、又はAに対する貸付けであるとしても、これにつき一審原告において連帯保証したものであるという一審被告らの主張に沿うC及び原審証人Eの供述等は、いずれも信用することができ、これに反する一審原告の供述等は信用することができないものというべきである。

そうすると、上記一審被告らの主張のとおり、一審原告において本件債務を負っていることが認められる。

(2)  本件貸付けの弁済期

Cは、本件貸付けの際、一審原告から2か月程度で返済できる旨聞かされていたこと(乙25)、本件貸付けはその全額が銀行からの借入金で賄われているところ、同借入金の返済期日がいずれも平成3年8月1日であったこと(前提事実(3)ウ、原審における調査嘱託)、本件貸付けの際、AからCに交付された額面合計1億5000万円の約束手形の満期日が平成3年7月31日と記載されていたこと(上記(1)イ(オ))からすれば、本件貸付けにかかる貸金の弁済期は平成3年7月31日とする旨の約定であったものと認めることができる。

(3)  本件貸付けにおける利息の約定

ア 一審被告らは、利息について、一審被告会社が銀行から借り入れる金利と同じとする約定があった旨主張し、Cの陳述(乙25)中にはこれに沿う部分があり、また、Eが作成した帳簿(乙2(各証))も、利息の約定が存在することを前提とした記載となっている。そして、本件貸付けがいやしくも有限会社の出捐において行われたこと、同貸付金がすべて銀行からの借入金で賄われていることからすれば、一審被告会社において、本件貸付けに際してそれなりの利息を徴することとしたということも十分根拠のあるところである。

イ しかし、本件貸付けは、一審原告の依頼を受けたCにおいて、「男らしくバンと貸してやるという気持ち」でこれに応じることとし、一審原告がCにとって「竹馬の友」である旨を強調してEをして手続させたものであったというのであるから(原審証人E、原審におけるC)、Cが一審原告に対する情誼に基づいて貸し付けたものという見方も十分成り立ち得るところである。

その上、上記帳簿は、事後、本件における書証に供するべくEが改めて作成したものであるところ(原審証人E)、その記載の正確性を裏付けるに足りる客観的な資料は全くない。また、Cは、本件貸付けに際して利息の取り決めをしたかとの尋問に対して、「してません」と明言し、せいぜい、Eにおいて利息の取り決めの作業をしているであろうとの観測を述べるにとどまる(原審における尋問)。そして、Eは、本件貸付けに際し、小切手や約束手形の授受(前提事実(3)ウ、上記(1)イ(オ))があったほかは、特段の話題もなく散会したとか、平成3年7月30日に翌31日の決済が困難である旨Aから聞かされるに及んで「それじゃあ、利息を下さい」と申し向けたというのである(原審における尋問)。また、その際にAから交付された小切手の額面は700万円であったところ(上記(1)イ(カ))、同金額は、平成3年7月30日までの一審被告会社の上記各銀行に対する借入金(前提事実(3)ウ)の利息額をはるかに上回る金額であることが明らかである(原審における調査嘱託の結果参照)。

ウ そうであれば、本件貸付けが一審被告会社の名義で行われたからといって、上記アの一般論に基づいて、利息の定めがあったものと断ずることはできず、また、利息の約定が存在した旨のCの上記陳述部分や上記帳簿はたやすく信用しがたいし、ほかに利息の約定の存在を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、一審被告らの上記主張は採用しがたいというに帰する。

(4)  本件債務の残額

上記(3)によれば、一審原告は、一審被告会社に対し、本件債務として、本件貸付金の残元本のみの返還義務を負うものである。そして、A及び一審原告から一審被告会社に対して交付されていた小切手及び約束手形のうち、現実に決済された分合計1700万円(上記(1)イ(エ)⑤及び同(カ))については、本件債務に対する弁済とみてよい。

そうすると、本件債務の残額は、1億円から1700万円を控除した残額である8300万円となる。

2  争点(2)について

(1)  本件貸付けの弁済期は平成3年7月31日であったにもかかわらず、同年12月ころの約束手形の差し入れ(上記1(1)イ(エ)⑤)を最後に、その後本件貸付けに対する返済は全くなされないまま経過していたというのであるから、一審被告会社においてその回収方を懸念していたこと、そこで、Cにおいて、一審原告に対し、物的担保の提供を再三促していたことは見やすいところである(原審証人E、原審におけるC、同一審原告)。

そして、本件同意書が平成4年12月17日に一審原告によって作成された上、Dに交付されたというのである(前提事実(4)ア)。ところで、本件同意書は、一審被告会社の罫紙を用いたものである上、担保の目的物件についても、土地や建物の区別もなく、「自宅」とのみ記載されていること、一審原告の実印ではなく指印が押捺されていることなど、いかにも急ごしらえで、杜撰なものではあるけれども、本件貸付けの債務を担保するため、その自宅に抵当権を設定することを承諾するという一審原告の意思が明示されているものではある。

(2)  これによれば、前同日に本件抵当権設定合意が成立したものと認められる。

3  争点(3)について

(1)  通謀虚偽表示による無効

一審原告は、本件抵当権設定合意につき、上記第2の3(3)一審原告の主張欄アのとおり主張し、一審原告においてこれに沿う供述をする(原審における尋問)。

しかし、本件抵当権設定合意に至るまでの弁済の経過や、この間Cにおいて一審原告に対して再三にわたり担保の提供を促していたことは上記2(1)でみたとおりである。そうすると、あるいはその催促の過程において、Cが、一審原告に対し、抵当権の設定を受けたからといって直ちに実行するつもりはないなどと、一審原告を安心させるような言辞を用いた可能性は否定できないけれども、一審原告から抵当権の設定を受ける旨の効果意思を欠いていたとまで認めることは困難である。一審原告の上記供述はたやすく信用できず、同主張を採用することはできない。

(3)  強迫による取消し

一審原告は、上記第2の3(3)一審原告の主張欄イのとおり主張し、一審原告においてこれに沿う供述等(甲4、原審における尋問)をする。

しかし、C及びDはこれを否定しているところ、Bの供述等(甲16、原審における尋問)をみても、本件抵当権設定合意当時に至るまで、Cらが一審原告方に怒鳴り込んできたなどという供述は全くないばかりか、平成4年10月ころに一審原告が一晩留守にし、翌朝帰宅したことがあった旨指摘するとともに、その際、一審原告から「Cさんのところに行っとっただけだ」と聞かされても、「台風で、そのときは帰ってこれんだったのかなぐらいだった」などと、その当時はさして不審も抱かなかった旨の供述をしているのであって(原審における尋問)、この間、Cらが一審原告方に怒鳴り込んでいたりしたとすれば、Bの供述がこのようなものに終始するとは到底考えられない。また、一審原告は、Cとの間で親交を重ねていたところ、平成2年ころまではそれなりにそれが継続していたことが窺える上(前提事実(1)ウ、乙43の3・4)、一審原告は、本件抵当権設定合意から1年半余も経った平成6年7月26日ころになって、面識のあるK司法書士の下を訪れ、同日付け「抵当権設定契約証書」に自ら署名押印して同司法書士に提出し、同証書を原因証書として本件抵当権設定登記手続を委任したというのであって(乙40、51の1)、そのような行動は、強迫によって本件抵当権設定合意がなされたということとは相容れないものである。

してみると、一審原告の上記供述等はたやすく信用することができず、一審原告の上記主張を採用することはできない。

4  争点(4)について

(1)  証拠(甲4、乙24、原審における一審原告、同一審被告Y)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が確実に認められる。

ア 一審被告Yは、平成14年11月1日、呼子町議会事務局議会室において、Cほか1名の同席を得て、一審原告と初めて面会した。その際、Cにおいて、一審原告に対し、本件貸付金につき一審被告Yに債権譲渡をした旨告げるなどし、一審被告Yは、一審原告から、同月3日に唐津ロイヤルホテルで面会する約束を取り付けた。

イ 同月3日、一審原告は唐津ロイヤルホテルの喫茶店で一審被告Yと面会し、その際、同一審被告から、同一審被告宛の借用証の作成を求められたり、金利として当座299万円の支払いをするよう求められるなどした。一審原告はこれらの要求を断ったが、同月5日に一審被告Yと再度上記場所で面会する旨約束した。

しかし、一審原告は、約束の日時に、待合せ場所に行かなかった。

ウ これを受けて、一審被告Yは、同月6日午前7時ころ、一審原告の自宅を訪れた。

そして、同日のうちに、本件所有権登記手続がなされた。

(2)  上記認定事実によれば、一審被告Yへの債権譲渡がなされたことに得心せず、それゆえに、平成14年11月3日にホテルへ出向いた際も(甲4)、一審被告Yからの要求を断り、同月5日に再度会う約束も反故にした一審原告が、同月6日になって、一転して、本件所有権登記手続に応じたというのであるから、一審原告において本件所有権登記合意に及んだ契機が、同日朝の一審被告Yの来訪とその際のやりとりにあったものとみて差し支えない。

ア そこで、同月6日の一審被告Yの来訪時の同一審被告の振る舞いについて検討するに、一審原告は上記第2の3(4)一審原告の主張欄イのとおり主張するのに対し、一審被告Yは同一審被告の主張欄エのとおり主張する。そして、上記各主張に沿う供述等(甲4、16、乙24、原審証人B、原審における一審原告、同一審被告Y)があるものの、そのほかには決定的な証拠があるわけでもない。

イ ところで、一審被告Yは、同日午前7時に突然一審原告方を訪問したものであるが、その際、一審被告Yは、一審原告の自宅の玄関先において、一審原告に対し、同月5日に会う約束を違えたことをなじった上、同人の胸ぐらを掴み、「本当にあんたは人間じゃないわ」「人に金を借りておって返さんで逃げ回って良いんですか」「法律がなかったら、あんたみたいなやつは殺したいぐらいあるわ」などと申し向けたことを自認している(原審における尋問)。また、Bは、一審被告Yの振る舞いに接して110番通報し、警察官に臨場してもらったものであり、一審被告Yが一審原告方を辞去した後、同日午前中のうちに、一審原告の委任状を携えて町役場へ出向き、一審原告の印鑑登録を抹消する手続をしたというのである(原審証人B、原審における調査嘱託の結果)。これらの事情を勘案すると、一審原告の主張に沿う一審原告及び原審証人Bの各供述等は、上記来訪時における一審被告Yの言動が、一審原告をして、その本意によらず、本件所有権登記合意に応ぜしめるに足る程度の気勢のものであったという限りでは、十分信用することができ、これに反する一審被告Yの供述等はたやすく信用することができない。

ウ 以上によれば、本件所有権登記合意は、一審被告Yの強迫によるものと認められる。

(3)  そして、一審原告において、平成15年9月10日、同一審被告に対して同合意を取り消す旨の意思表示をし、同意思表示が同日一審被告Yに到達したことは当裁判所に顕著である。

5  争点(5)について

(1)ア  上記4によれば、本件1土地及び本件建物は一審原告の所有であることになる。

イ  しかして、一審被告Yは本件1土地及び本件建物を占有しているところ(前提事実(6))、同一審被告は、上記第2の3(5)のとおり占有権原を主張するけれども、上記4で説示したところに照らし、同主張を採用することはできない。

ウ  そうすると、一審被告Yは、一審原告に対し、本件建物を退去して本件1土地を明け渡すとともに、上記占有(不法行為)によって一審原告が被った賃料相当損害金を賠償する責めを免れない。

(2)  そして、上記賃料相当損害金は、これを1か月当たり10万円とするのが相当である(甲32)。

6  争点(6)について

一審原告は、上記第2の3(6)のとおり主張する。しかし、一審被告会社は、砂採取及び販売等を目的としているところ(前提事実(1)イ)、本件貸付けは、一審被告会社の営業とは無関係に、むしろ、Cの一審原告に対する情誼に基づいてなされたものとみる余地があることは上記1(3)イでみたとおりである。そうであれば、本件貸付けに基づく債権が商事債権であるということはできない。

そうすると、一審原告の上記主張は、その前提において既に失当であり、採用の限りではない。

7  結論

以上の次第で、(1)一審原告の一審被告会社に対する本件抵当権登記の抹消登記手続請求(甲事件)は理由がないからこれを棄却し、一審被告Yに対する本件所有権登記の抹消登記手続請求(甲、乙事件)、本件建物の明渡請求及び損害賠償請求(いずれも甲事件)はいずれも理由があるからこれを認容し、(2)一審被告会社の一審原告に対する貸金請求(丙事件)は本件債務の残元金8300万円及びこれに対する弁済期後の日である平成5年3月2日から支払済みまで民法所定年5分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容すべきである。原判決は、甲、乙事件については上記と同旨であってすべて正当であるが、丙事件について一審被告会社の請求を全部棄却した点は不当であって、この点において変更を免れない。

そうすると、一審被告会社の控訴は上記の限度で理由があり、一審原告及び一審被告Yの各控訴はいずれも理由がないことになる。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西理 裁判官 有吉一郎 吉岡茂之)

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