大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 平成17年(行コ)27号 判決 2006年12月21日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人は,太良町に対し,1976万4237円及びこれに対する平成13年5月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

(4)  仮執行宣言

2  被控訴人

主文同旨

第2事案の概要等

1  事案の要旨(以下,略称については原判決の表記に従う。)

本件は,太良町の住民である控訴人が,同町の納税奨励に関する規程及び国民健康保険税納税奨励に関する規程に基づいて,太良町町長であった被控訴人が支出を命じた納税奨励金は,①納税貯蓄組合法10条1項の趣旨を潜脱し,②地方税法321条3項などの趣旨に違反し,③太良町補助金等交付規則3条等に違反するとともに,④地方自治法232条の2に違反する違法な支出であると主張して,地方自治法等の一部を改正する法律(平成14年法律第4号)による改正前の地方自治法242条の2第1項4号に基づき,太良町に代位して,被控訴人に対し,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求として,納税奨励金合計1976万4237円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた住民訴訟である。

2  争いのない事実等及び争点

(1)  次の(2)に当審における控訴人の主張及び被控訴人の反論を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の「第2 事案」の2項及び3項に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,3頁13行目の「これらの規定に違反したり,」を「法令又はこの規則に基づく町長の指示に違反したり,」と改める。)。

(2)  当審における控訴人の予備的主張及び被控訴人の反論

(控訴人の主張)

本件納税組合のうち,少なくとも,以下の納税組合(以下「本件14納税組合」という。)は,本件奨励金交付の対象となった平成11年当時,活動実態がなかったから,本件14納税組合に対する本件納税奨励金①の交付は違法である。

納税組合名

交付金額

ア A組合

8万5453円

イ B組合(α)

2万5109円

ウ C班(β)

5万5119円

エ D班(β)

4万6232円

オ E組合(γ)

2万7953円

カ F班

3万2752円

キ G組合(δ)

2万5964円

ク H組合(ε)

1万6592円

ケ I班

3万1614円

コ J班

1万2219円

サ K組合(ζ)

1万5905円

シ L組合(ζ)

1万4486円

ス M組合(ζ)

1万4665円

セ N組合(ζ)

2万1077円

(合計)42万5140円

そして,被控訴人は,長年,O及びC班納税組合に所属し,平成10年より少なくとも数年前から,同区や同納税組合において,集金活動がされておらず,会議・情報宣伝その他何の活動も行われていないことを知っていた。また,地元に居住する町長という立場にあり,他の納税組合も同様に活動実態のないことを当然知っていたものと推認される。そうでなくても,そのことを容易に知ることができ,知らなかったことに過失が認められる。

(被控訴人の反論)

本件14納税組合はいずれも活動実態があり,これらに対する本件納税奨励金①の交付が違法評価を受けることはない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,控訴人の被控訴人に対する本件請求は理由がないものと判断する。その理由は,2項に原判決を付加・訂正し,3項に当審における控訴人の予備的主張に対する判断を付加するほか,原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1項ないし4項に記載のとおりであるから,これを引用する。

2  原判決の付加・訂正

(1)  5頁23行目の「本件納税奨励金」を「本件納税奨励金①」と改める。

(2)  6頁23行目冒頭から7頁2行目末尾までを「 以上によれば,同法は,納税貯蓄組合,すなわち,組合員の納税資金の貯蓄のあっせんその他貯蓄に関する事務を行うことを目的とし,政令で定める手続によりその規約を税務署長及び地方公共団体の長に届け出た団体(2条1項)を対象とし,これに対する補助金に関して,その使途を事務費に限定し,その範囲を組合が使用した当該費用の金額に限定する(10条1項)ことを定めているのであり,同法10条1項は同法に定める納税貯蓄組合に対する補助金に限り適用され,他方,地方公共団体が,納税成績の向上を図るために,上記納税貯蓄組合の目的とは異なる目的で設立された団体に対して,同法に基づくことなく補助金を交付することは,必ずしも,同法10条1項が禁止するところではないと解するのが相当である。」と改める。

(3)  7頁8行目及び11行目の各「本件納税奨励金」をいずれも「本件納税奨励金①」と改める。

(4)  10頁21行目の「班単位」を「班(単独又は合同)単位」と改める。

(5)  11頁14行目の「乙19」の後に「,原審証人P」を,同24行目の「であり」と「,納期限納付率と」の間に「(その差4.3パーセントを平成11年度の納税額に換算すると,3000万円余りとなる。)」を加える。

(6)  12頁4行目の「区」を「区又は班」と改める。

(7)  15頁9行目末尾に「本件各規程の内容をみても,当該制度が納税組合における未納者に対する督促活動を不可欠の要素としているとは認められない。そうすると,前記の事実関係によれば,本件納税奨励金の対象となった平成11年度の納税に関し,納税組合の中には,区長又は班長(組合長)らが,町役場から送付された未納者名簿に基づいて,未納の組合員に対して納税を説得する例が少なからずあったことが認められ,これが未納の組合員のプライバシーの観点から相当性を欠く措置であったとしても,これをもって,本件支出が公益性を欠くことにはならないというべきである。」を加える。

(8)  原判決の別紙6(23頁及び24頁)を本判決の別紙6に改める。

3  当審における控訴人の予備的主張に対する判断

(1)  証拠(甲32,乙10の2,12の2,13の2,31の1ないし14,当審における調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 本件14納税組合に交付された本件納税奨励金①の額は以下のとおりである。

納税組合名

交付金額(町民税・固定資産税)

(ア) A組合

8万5453円(15,853円・69,600円)

(イ) B組合(α)

2万5109円(5,679円・19,430円)

(ウ) C班(β)

5万5119円(19,338円・35,781円)

(エ) D班(β)

4万6232円

(オ) E組合(γ)

2万7953円(2,722円・25,231円)

(カ) F班

3万2752円

(キ) G組合(δ)

2万5964円(3,006円・22,958円)

(ク) H組合(ε)

1万6592円(2,125円・14,467円)

(ケ) I班

3万1614円

(コ) J班

1万2219円

(サ) K組合(ζ)

1万5905円(1,178円・14,727円)

(シ) L組合(ζ)

1万4486円(485円・14,001円)

(ス) M組合(ζ)

1万4665円(2,389円・12,276円)

(セ) N組合(ζ)

2万1077円(0円・21,077円)

※交付金額の内訳の記載は,調査嘱託で判明したもののみである。

イ 太良町は,毎年,本件納税組合の組合員の死亡及び転入・転出による変動の有無について調査をしている。

(2)  本件各規程に基づく本件納税組合に対する納税奨励金の交付が,一般的に地方自治法232条の2に基づく補助金として違法ではないとしても,実態のない納税組合や全く活動をしていない納税組合に対して補助金を交付することになれば,もはや公益上の必要があるとはいえないから,個別の納税組合に対する納税奨励金の交付が違法評価を受けることはあり得る。また,その活動実態に比して不相当な支出がされていれば,やはり納税奨励金の交付は違法評価を免れないものと解される。

既に認定した事実関係等によれば,本件各規定に基づく納税奨励制度は,もともと,住民の共同体意識を基盤として,納税意識の向上,住民相互の納税奨励を図り,もって納税成績を向上させることを目的としたものであったところ,口座振替制度の普及等による組合員個人による直接納付の増加,個人のプライバシー権に対する意識の向上による区長への未納者名簿送付の廃止に伴い,それまで本件納税組合の活動の中で重要な位置を占めていた集金(組合を通じた納付)活動や未納者に対する個別の働きかけは次第に行われなくなっていったことが認められる。そして,本件14納税組合の活動状況は別紙6「納税組合活動状況一覧表」に各記載のとおりであり,従前に比べれば,本件納税奨励金の対象となった平成11年当時は,その活動内容が相当に低下していることは否定できない。しかし,納税奨励金の交付・管理・使用の状況,町による各納税組合の組合員の把握状況等からみて,本件14納税組合が実態のない団体であったとはいえないし,本件納税組合全体の組合員と非組合員との納付率及び納期限納付率を比較しても,前者が相当程度上回っており,制度目的である住民の共同意識を基盤とした納税奨励,納税成績の向上という意義はなお失われていなかったことが認められる。そして,本件14納税組合を含めた本件納税組合は総じて比較的小規模の組織であることや,もともと,行政単位として共同体意識の醸成されている区や班を基盤として構成された団体であることからすると,組織化・様式化された活動として目立ったものがなかったり,区ないし班としての活動と明確に分化されていない面があったとしても,これをもって納税組合の活動の存在をすべて否定することは相当でない。また,納税額に対する納税奨励金の交付率についても,順次,引下げがされており,本件14組合に対して交付されたそれぞれの本件納税奨励金①の金額は,1万2000円余りないし8万5000円余りと決して高額なものではなく,各納税組合の規模,活動状況,更には組合員の納税額や納付率からうかがわれる納税効果に照らして,不相当な支出がされたとはいえない。結局,本件14納税組合の個々の具体的な活動状況をみても,これらに対する本件納税奨励金①の交付が,いずれも違法であるということはできない。

4  以上のとおり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 寺尾洋 裁判官 前川高範 裁判官 伊丹恭)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例