福岡高等裁判所 平成19年(ネ)47号 判決 2009年7月14日
控訴人
福岡トランス株式会社
(以下「控訴人福岡トランス」という。)
同代表者代表取締役
A<他5名>
上記六名訴訟代理人弁護士
古嵜慶長
以呂免義雄
横光幸雄
畑中潤
石井将
小倉知子
被控訴人
北九州市
同代表者市長
北橋健治
上記訴訟代理人弁護士
中野昌治
河原一雅
上記指定代理人
松田安正<他4名>
主文
一 原判決中控訴人らに関する部分を次のとおり変更する。
二 被控訴人は、控訴人福岡トランスに対し二七〇四万一七七一円、控訴人電綜に対し二〇三〇万一〇七一円、控訴人八州電工に対し四二二万一八六六円、控訴人奈良工業に対し一五万四九四一円、控訴人八州工業に対し八万四一九二円、控訴人北九ドラムに対し七六七万八六八二円及びこれらに対する平成一一年九月二四日から支払済みまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。
三 控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。
五 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は、控訴人福岡トランスに対し五四二一万二二八八円、控訴人電綜に対し四一〇七万七〇三八円、控訴人八州電工に対し一六五三万二八八一円、控訴人奈良工業に対し二九万六八七〇円、控訴人八州工業に対し一六万五三一一円、控訴人北九ドラムに対し三一四八万九七五一円及びこれらに対する平成一一年九月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
四 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。
第二事案の概要(略称等は原判決の例による。)
一(1) 本件は、被控訴人において公有水面である海を埋め立てて造成した工業団地の分譲地の一画を所有又は賃借して事業を行っていた控訴人ら一一名が、平成一一年九月二四日に来襲した台風九九一八号による上記工業団地の冠水により被害を受けたと主張して、本件護岸の設置管理者である被控訴人に対し、国家賠償法二条一項に基づき、損害賠償を請求した事案である(附帯請求は上記被害を受けた日からの民法所定の遅延損害金)。
(2) 原審は、本件護岸の設置又は管理の瑕疵も、本件埋立地の排水施設の設置又は管理の瑕疵もいずれも認められないとして、控訴人らの請求をいずれも棄却した。
(3) 上記一一名のうち控訴人らを含む七名は、これを不服として控訴した。本件控訴後、上記七名のうち一名が控訴を取り下げた。
二 事案の概要は、次のとおり補正し、三において当審における当事者の主張の要旨(補足的主張を含む。)を付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」の控訴人らと被控訴人に関係する部分に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決四頁一六行目の「昭和三七年一一月」から同頁一九行目の「完成した」までを「旧門司市は、同年一一月、第一期埋立事業(上記第一区埋立地に対応)に着工し、五市合併に伴い、この事業を旧門司市から承継した被控訴人は、昭和四九年一〇月までに、原判決別紙図面1.2の工業団地(総面積約二五四万m2)の埋立て・造成を完成させた」に改める。
(2) 四頁二四行目の「本件埋立地」から同頁二五行目の「販売されたところ、」までを「被控訴人は、上記工業団地に企業誘致を行うために、昭和三八年度から本件埋立地の分譲販売を開始し、平成一〇年二月までの間に、一七七区画を控訴人らを始めとする一四五企業に分譲した。」に改める。
三 当審における当事者の主張の要旨(補足的主張を含む。)
(控訴人らの主張)
(1) 本件護岸の築造当初の設計思想
ア 本件護岸は、後背部(陸側)が埋め立てられ、前部(海側)に消波工が積まれることが予定され、「片持ばり式護岸」となることが明らかであったにもかかわらず、その付け根部分に作用する大きな荷重に対する検討がなされていなかった。
イ 上記検討がなされていなかったことは、以下の事実から明らかである。
(ア) 大きな応力が生じる片持ばりの支点である、護岸が地上に露出した部分と地下に埋もれた部分との境目部分(付け根部分)にコンクリートの打継目が設けられていること。
(イ) 本件護岸は、主鉄筋や配力鉄筋を配した鉄筋コンクリート構造物として築造されていないこと。
(ウ) 本件護岸には、鉄筋コンクリート造と同程度の強度を有するコンクリートが用いられていないこと。
(2) 台風八五一三号来襲時の倒壊原因
本件護岸が台風八五一三号来襲時に倒壊した原因は、上記築造当初の設計思想の誤りにあると考えられるが、それに加えて、以下の瑕疵も倒壊の原因と考えられる。
ア 片持ばりの支点となる上部工(パラペット)と下部工との境目に設けられていた打継目に凹凸が設けられていなかったばかりか、レイタンスの除去が満足になされていなかったため、打継目の付着力が適切な施工がなされた場合の一〇パーセント程度しかなかったこと。
イ 打継目の付着力を増すために挿入された用心鉄筋が腐食したことにより、上部工と下部工が別々の構造物となってしまい、護岸全体が垂直方向に一体となった構造物として波力に耐え得る状態ではなかったこと。
ウ コンクリートの劣化が激しく、又、多数の貫通ひび割れや目地ずれ、目地開きが放置されていたために、護岸全体が水平方向に一体の構造物として波力に耐え得る状態ではなかったこと。
(3) 台風八五一三号被災後の復旧工事で求められた設計内容
ア 復旧工事を行うに当たっては、まず、片持ばり式との前提で復旧工事を行うか、重力式との前提で復旧工事を行うかについて明確な選択が必要であった。
イ 本件護岸を片持ばり式護岸として捉えるのであれば、①上部工と下部工とが一体の鉄筋コンクリート構造物とするか、②上部工と下部工とが一体の高強度コンクリート構造物として設計する必要があった。
ウ 鉄筋コンクリート構造物とする場合は、打継目よりも一m以上下までコンクリートを斫ったうえで、主鉄筋、配力鉄筋を組み、新たにコンクリートを打ち足すことが必要であった。
エ 無筋コンクリート構造物とする場合、打継目よりも一m以上下までコンクリートを斫ったうえで、設計基準強度二四〇kg f/cm2以上のコンクリートを打ち足して高強度コンクリート構造物とすべきであった。
(4) 台風八五一三号被災後の復旧工事における設計上の瑕疵
上記復旧工事において、コンクリートの打ち足しは行われず、本件護岸が片持ばり式護岸であることを前提とした応力計算が行われているものの、本件護岸を鉄筋コンクリート構造物あるいは高強度の無筋コンクリート構造物に変更する設計も行われなかった。
(5) 台風八五一三号被災後の復旧工事が依るべきであった施工基準
台風八五一三号被災後の復旧工事は、単なる改良工事を超えて新規工事と同視し得るものであるから、その復旧工事につき技術基準通達が適用されることに疑いを入れる余地はなかった。この通達に定められた抽象的な基準を具体化するものが、当時のコンクリート工事に関する基準を定めた「昭和四九年制定 コンクリート標準示方書 解説(昭和五五年版)」(以下「コンクリート標準示方書」という。)等の当時の一般的な技術水準に基づく基準であった。したがって、上記復旧工事を行うに当たっては、①挿入する鉄筋の間隔、②鉄筋とコンクリートの断面積比、③鉄筋の挿入・接着工法、④打継目の処理、⑤伸縮継目の処理、⑥ひび割れの補修に関する施工基準に依るべきであった。
(6) 台風八五一三号被災後の復旧工事における施工上の瑕疵
実際に行われた復旧工事の内容は、原判決第二の一(4)エに記載のとおりであり、伸縮継目の補修(段差をなくし、ほぞやスリップバーを設けること)やひび割れの補修については全く行われていないし、打継目の処理(付着力の補強)については、最低限度必要な本数の鉄筋を挿入していないだけでなく、挿入された用心鉄筋も杜撰な手抜き工事のためコンクリートに付着していないなどの施工上の瑕疵があった。
(7) 台風八五一三号被災後における護岸管理の瑕疵
被控訴人は、本件護岸につき定期的な点検を実施し、上記台風直後に既に存在していたひび割れや目地ずれ、目地開きを補修すべきであったのはもちろんのこと、その後、新たに生じたひび割れ等についてもその都度補修を行うべきであったにもかかわらず、台風九九一八号の来襲まで上記補修をせずにひび割れ等を放置した。
(8) 消波工の沈下が本件護岸パラペット倒壊の原因であること
台風九九一八号による周防灘沿岸の高潮被害について調査した研究者は、消波工が台風九九一八号襲来前に既に沈下していたことを指摘している。
(9) 台風九九一八号来襲時における本件護岸の倒壊原因
上記各基準に違反した重大な瑕疵が複数存した台風八五一三号被災後に復旧された一号護岸倒壊箇所であっても、台風九九一八号による波圧荷重に耐えられたところ、更に瑕疵の種類が多く、瑕疵の程度が酷かった箇所では波圧荷重に耐えられずに護岸が倒壊していることからすれば、本件護岸が倒壊した原因は、予測を越えた波圧(不可抗力)などではなく、台風八五一三号被災後の復旧工事における設計上の瑕疵、施工上の瑕疵、復旧工事後の管理上の瑕疵の程度が余りにも重大であったことにある。
(10) 護岸倒壊と湛水被害との因果関係
ア 台風九九一八号の際の本件埋立地への海水流入量は、Bの越波流量推定図を用いた推定と波の出現確率特性を用いた推定によれば、上部工が倒壊しなかった場合に比べて三〇・二一%の増加であり、二号護岸A(本件護岸北端を起点として一〇〇〇mから一四〇〇m南下した区間の護岸であり、その西側に控訴人らの占有していた分譲地が存在する。)に限ると、六一・六八%の増加である(甲A六三)。
イ 被害の集中した控訴人らの土地は、本件埋立地の中央部であり、護岸との関係では二号護岸Aの背後に位置し、直接的には、二号護岸Aによって海水の侵入が防護されていたのである。台風九九一八号の来襲により二号護岸Aの上部工が倒壊し、しかも、その倒壊箇所が東西に走る道路の終点であったため、地盤沈下した道路が水路となって海水が流れ込み、控訴人らが湛水被害を被った直接的な原因となったのである。また、この区域では、一・八m前後の冠水深が観察されているので、護岸倒壊がなければ、約一・一mの水位上昇に止まり、敷地内の盛土が五〇cm以上なされているので、控訴人らの事業所は床下浸水に止まった可能性が高い。
(被控訴人の主張)
(1) 冠水被害と本件護岸上部工(パラペット)の倒壊の因果関係
ア 控訴人らの本件冠水被害は、台風九九一八号により護岸前面でせり上がった海面高が八・〇七mにも達し、護岸上部工の高さ七・〇mを一m以上も超えていたため、大量の海水が護岸上部工を超えて本件埋立地に流れ込んだことによって生じたものである。
イ 台風九九一八号より潮位、波高とも小規模であった台風八五一三号の場合でさえ、冠水状況が一部護岸の倒壊の有無に関係なかったことは、甲A一一・五七頁の図4.2.5に示されているとおりであり、ましてや、より高い潮位と波高を生じた台風九九一八号では、護岸上部工からの越波流量がさらに増大したことは明らかであって、この点からも同台風による冠水被害が護岸の一部倒壊の有無と関係ないことは十分に推察されるところである。
ウ 甲A七三、八一及び八三を作成したC証人も、これらの書証は「護岸が壊れたことを議論しているだけで、災害状況を議論しているわけではない。」と、冠水被害の原因を検討したわけではないことを証言している。護岸上部工の倒壊と冠水被害との因果関係を示す客観的証拠は何一つ存在しない。
(2) 護岸上部工の倒壊について
ア 護岸上部工には、一六〇kg f/cm2の無筋コンクリートの使用が認められているし、必ずしも鉄筋コンクリートとすることを求められていないのであって、本件護岸上部工にコンクリート標準示方書の鉄筋コンクリートに関する規定は適用されない。
イ 上部工は、その突出部と下部が一体(打継目の付着が十分)であれば、片持ばりとしての機能を持つもので、水平方向から受ける波圧に対して鉛直方向のクラック(伸縮目地も含む。)の存在は問題とならないものである。
ウ 被控訴人は、築造当初から挿入していた用心鉄筋が腐食していることを認識し、台風八五一三号の復旧対策における応力検討に際しては当該鉄筋はないものとして取り扱っているのであって、築造当初に埋設した用心鉄筋の腐食が上部工倒壊の原因であるとの控訴人らの主張は理由がない。
エ 挿入鉄筋とコンクリートとの付着を高めるために注入した樹脂接着剤の使用量や、上部工倒壊部において露出した鉄筋に樹脂状のものが付着していた写真(甲A三七の一の⑦~⑨、乙A四一の②、③)等から、台風八五一三号の復旧工事で挿入した補強鉄筋とコンクリートの付着が不十分な箇所があったとはいえない。
オ 海岸保全施設築造基準解説(乙A一〇六)にあるように、護岸上部工の伸縮目地にスリップバー等を設ける目的は、土砂の吸出し防止にあり、背後に土砂のない上部工においては、乙A一〇〇に示す防波堤の上部工と同様の発泡樹脂等の目地材の充填だけでよく、凹凸溝やスリップバーは不要である。
カ 本件護岸の築造過程でやむを得ずせん断力の大きな位置に打継目が設けられたものであるが、コンクリート標準示方書においても、適切な対処を行えばこれを設けることが認められている。既存の上部工と下部コンクリートの表面を削り(チッピング)、セメントペースト等を塗ってコンクリートの打ち足しをすれば、打継目のない一体化したものと同等の耐力が得られるものであるから(乙A二三等参照)、被控訴人は、倒壊した上部工についてはチッピングを施して、さらに用心鉄筋を配して復旧し、さらに、倒壊しなかった護岸の上部工については補強鉄筋を挿入したものである。
キ 被控訴人は、台風八五一三号の復旧においては、衝撃砕波は発生しないと適切に判断し、かつ、上部工部は消波機能が働かないと、より安全側に波圧計算を行ったもので、しかも、消波工の経年沈下はないことを原審において明らかにしている。控訴人らの依拠する甲A八九は、台風九九一八号による各地の被災が「不完全消波面での越波流量および波圧の算定方法」を「新しく提案」するきっかけとなったもので、従前からあった知見ではない。
ク 以上のとおり、台風八五一三号の復旧工事は、技術基準に即して設計され、施工されたものであり、台風九九一八号が、この復旧工事における設計条件を大きく上回った波圧をもたらしたことから護岸上部工の一部が倒壊に至ったものである。
第三当裁判所の判断
一 被控訴人による本件護岸の造成・分譲について
被控訴人(当時は門司市)は、昭和三七年一一月、裏門司地区臨海工業用地の第一区埋立事業に着工し、昭和四九年一〇月までに、原判決別紙図面1.2の工業団地(総面積約二五四万m2)の埋立て・造成を完成させたが、上記工業団地に企業誘致を行うために、この間の昭和三八年度から本件埋立地の分譲販売を開始し、控訴人らはこれに応じて、原判決第二の一(1)イのとおり、本件埋立地の一画をそれぞれ購入し、あるいは購入した企業から賃借して利用していた。
二 台風八五一三号による被害とその復旧工事について
台風八五一三号による被害の状況は、原判決第二の一(4)イに記載のとおりであり、被控訴人は、原判決第二の一(4)エに記載のとおり、被災直後、パラペットが倒壊した一号護岸について復旧工事を実施し、台風八五一三号調査報告書提出後、パラペットの倒壊しなかった二号護岸についても復旧工事を実施した。
三 台風八五一三号による被害によって明らかにされた本件護岸の当初の造成工事の問題点、同台風による被害の原因及び上記復旧工事の問題点について
(1) 《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。
ア 「港湾工事設計要覧(昭和三四年)(乙A七〇)及び技術基準通達によれば、護岸及び直立部のコンクリート構造は、①壁体の滑り出しに対する検討、②壁体の転倒に対する検討、③壁体の支持力に対する検討の三項目について安定計算して設計する。この形式は、「道路土工擁壁・カルバート・仮設構造物工指針」(日本道路協会・昭和五二年一月、甲A八二)で規定される「重力式擁壁」と同様であり、作用荷重を土圧から波力に変えた「重力式護岸」である。この場合、コンクリートに対する要求性能としては、単位体積重量二・三t/m3(無筋コンクリート)であり、設計基準強度の規定はないが、「用途に応じ、十分な強度及び耐久性を有するもの」と規定されている(別紙「参照図面一覧表」の「図―1 港湾の施設の技術上の基準を定める省令について(通達)の安定計算」参照)。
イ 台風八五一三号による被災当時の本件護岸の構造は上記アのそれとは異なっており、護岸の後面部を埋め立て、前面部に消波工(テトラポット)が施工されているため、護岸の高さ四・一mのうち二・九m(高さの七〇・七%)が埋立堤体内に固定されて高さ一・二mの壁体が突き出した構造になっていた。埋立て・消波工が完成すると、上記アの①ないし③に起因する損壊の危険性は小さいのに対し、④耐荷力に起因する損壊の危険性が発生する(別紙「参照図面一覧表」の「図―2 新門司埋立地護岸の構造」参照)。したがって、本件護岸に作用する荷重(波力)は、「片持ちばり構造」と同様に、壁体の断面でコンクリートに応力を生じさせるため、この応力を照査し本件護岸の構造設計を行う「④壁体の耐荷力に対する検討」を追加して実施する必要があったにもかかわらず、この検討の実施なしに埋立て・消波工の施工が行われている。この構造形式は、「道路土工擁壁・カルバート・仮設構造物工指針」で規定される「片持ばり式擁壁」と同様であり、作用荷重を土圧から波力に変えた「片持ばり式護岸」である。
ウ また、本件護岸については、コンクリート標準示方書二三七条の「打継目はできるだけ避けることが望ましい。やむを得ず設けるときは、せん断力の小さい位置に設けること」との規定にもかかわらず、せん断耐力が必要となる断面部分に打継目が位置している。
エ 以上によれば、台風八五一三号による被災後の本件護岸を復旧する工法としては、既設護岸の打継目から上のコンクリート構造に対して、大別すると次の二工法が選択可能であったが、被控訴人は次の(イ)の片持ばり式護岸として復旧する工法のうち既設護岸を鉄筋で補強する工法を採用して、本件護岸の復旧工事をした。
(ア) 重力式護岸(無筋コンクリート)として復旧する工法
「港湾工事設計要覧」(昭和三四年)及び技術基準通達に基づき、重力式護岸(無筋コンクリート)として復旧するものであり、裏法側(陸側)に既設護岸と一体となるように無筋コンクリートを打ち足すことによって護岸の重量を増加させる工法。
(イ) 片持ばり式護岸として復旧する工法
「道路土工擁壁・カルバート・仮設構造物工指針」に準じて、片持ばり式護岸として復旧するものであり、既設護岸を鉄筋で補強する工法、または、既設護岸を除去して鉄筋コンクリート構造あるいは設計基準強度が高強度の無筋コンクリート構造で打ち替える工法。
オ 次に、本件護岸を当初設計の重力式護岸から片持ばり式護岸に変えて設計する場合、別紙「参照図面一覧表」の図―3の「新門司埋立地被災護岸を片持ばり式護岸として復旧する場合の設計条件」に示すように、荷重の作用位置が①、②、③、④となるので、この場合の安定計算については、④の断面に生じる応力を計算し、本件護岸に必要であった設計耐力を検討する必要がある。
(ア) 曲げ応力
コンクリート標準示方書から無筋コンクリートの許容応力度を求めると、打継目部分で完全に付着していた場合、コンクリートの山側縁部に発生する圧縮応力は許容応力度を満足しているが、海側縁部に発生する引張応力は、許容応力度を超過しており、設計耐力が不足している。
(イ) せん断力
打継目部分に作用する水平力(せん断力)=五・九三t/mから、完全に付着していた場合のコンクリートのせん断力を求めると、最大せん断力は五・九三〇kg f/mであり、打継目部分で完全に付着していた場合、許容応力度を満たしている。
(ウ) 護岸の耐力不足
本件護岸は、当初の埋立工事と消波工事の実施前までは設計基準強度一六〇kg f/cm2の無筋コンクリート構造物であり、打継目部分で完全に付着していた場合には設計どおりで問題は発生しなかった。しかし、その後、護岸の前後に埋立工事と消波工事を行うことにより、建設時とは設計条件が変化した時点で、曲げモーメントに対する耐力が確保できなくなっていたと考えられる。加えて、打継目付近で付着がなかった場合には、せん断力に対しても耐力不足であったと考察される。したがって、埋立工事と消波工事を行う時点で、鉄筋コンクリート構造物として鉄筋で補強する工事を実施するか、あるいは設計基準強度が高強度のコンクリートに改築する必要があった。
カ 片持ばり式護岸の要求性能として、転倒防止及び破壊防止を図るために必要な設計及び維持管理について、次の事実が認められる。
(ア) 後背地に事業施設がある重要な護岸においては、台風による高波が作用した場合であっても、後背地への海水の侵入を阻止するという護岸の機能を保持することが必要とされる。したがって、護岸の設計のうち、別紙「参照図面一覧表」の図―3の②の波力により「転倒させないこと」及び④の波力により「破壊させないこと」は、護岸に対する最重要な要求性能であり、これらに対応した設計をする必要があった。
ところが、被控訴人がなした設計は、以下のものであった。
a 護岸の目地(伸縮継目・その構造は、別紙「参照図面一覧表」図―4「伸縮継目の構造」(コンクリート標準示方書解説)のとおり。)は、波力によって段違いが生じる恐れがあるにもかかわらず、「ほぞ又は溝を造るかスリップバーを用いる構造」を採用していない。また、鉛直ひび割れ(目地と平行方向)発生箇所についても、段違いが生じないようにタイバーなどで連結していない。
b コンクリートは、目地(伸縮継目)以外でのひび割れ発生を防止する必要があるが、材料、配合などにひび割れ低減工法を採用していない。
c 打継目は、できるだけ避けることが望ましく、やむを得ず設けるときは、せん断力の小さい位置に設けることが必要であるが、そのような構造を採用していない。例えば、高さ四・一mのうち下から二・九mのコンクリート打設後、上一・二mを打設しているのを、逆に下から一・二mのコンクリートを打設後、上二・九mを打設することが考えられる。
(イ) 維持管理において、塩害環境下にある護岸の打継目部に設置された鉄筋の腐食及びコンクリートに発生したひび割れを、定期的に補修する必要があった。
a 台風八五一三号調査報告書(三八頁)によれば、鉄筋の腐食程度の調査の結果、鉄筋の断面積は〇・〇八七~一・〇〇二cm2/mとなっており、直径一三mmの鉄筋が腐食していない場合の断面積二・六五四cm2/mの三~三七%まで断面積が減少しており、打継目部分の鉄筋による付着耐力はほとんど期待できない状態であった(別紙「参照図面一覧表」図―5「新門司埋立地被災護岸の当初の構造」参照)。塩害環境下にある護岸の打継目部に埋設された鉄筋は、腐食して断面欠損が生じることは周知のことであるにもかかわらず、この補修を怠ったため鉄筋による打継目の補強効果が減じられたものである。
b また、目地(伸縮継目)は、コンクリートの乾燥収縮及び温度変化に起因して発生するひび割れを防止するために設置するものであり、護岸の建設後、波力によって段違いが生ずる恐れがある有害なひび割れが伸縮継目間のコンクリートに発生した場合には、これを補修する必要がある。ところが、伸縮継目及びひび割れの補修・補強を怠ったため、波力によって伸縮継目の段違いの発生、ひび割れの拡大が生じたものである。
キ 被控訴人による台風八五一三号による被災後の復旧補強工事について
(ア) 本件護岸の非倒壊部補強工事(補強部四八四・五m)で施工された打継目部の構造について、次の事実が認められる。
設計書(乙A七)によれば、打継目部の補強のため、断鉄筋(SD三〇、D二九×一〇〇cm)三六七本が施工されているが、一箇所当たりコンクリート穿孔(直径四〇mm、深さ一六五cm、一・四mピッチ)後、継鉄筋及びコンクリート接着用ボンド一本を挿入して定着させた後、モルタル八〇〇cm3を挿入することになっている(別紙「参照図面一覧表」図―6「新門司一期A護岸補強工事の構造」参照)。
しかし、打継目部の継鉄筋とコンクリートとの付着を確保するためには、コンクリート接着用ボンド一本として市販されているものでは使用量が不明であり、アンカーボルト接着剤一缶として市販されているもの一kg(六一五cc)程度が必要である。また、鉄筋なし部分の必要モルタル量も不足しており、過少積算と見なされる。
打継目部分の破損部に残存する継鉄筋の写真(甲A一五、三七の一・二、乙A四一)によれば、鉄筋が破断しているのは塩害による腐食箇所のみで、他の箇所では付着力不足のため打継目より上の鉄筋がコンクリートから引き抜けており、この場合は上先端部一〇cm程度のみにモルタルが付着し、他の部分は鉄筋に付着物が認められない事例が観察される。この原因については、施工業者としては仕様書に基づきボンド一本で施工できる鉄筋の下五〇cmの範囲に接着剤を充填したものと推察され、継鉄筋の上五〇cmの範囲の空洞部分に、継鉄筋の上六五cm部分に充填したモルタルが垂れ下がり、結果的に継鉄筋の上五〇cmの範囲は付着強度が確保できていなかったと考えられる。これを裏づけるように、護岸の損壊部の鉄筋は、コンクリートとの付着が不足する継鉄筋の上五〇cmの範囲が引き抜けており、これに比べ付着の確保された継鉄筋の下五〇cmの範囲が引き抜けた事例は認められない。なお、被控訴人の港湾局が、打継目部分の補強に対する仕様書の不備について、実際の工事でどのように指示、検査を行ったかは不明である。
(イ) 次に、本件護岸の倒壊部の復旧工事(一四四・一m)で施工された鉄筋部の構造について、次の事実が認められる。
差筋一箇所当たり、コンクリート穿孔(直径二〇mm、深さ三〇cm)後、差筋及びモルタルを穿孔部に三〇cm埋め込んで定着させ、突出した五〇cmが復旧工のコンクリート中に定着することになっているところ、この構造は、コンクリート標準示方書に適合していないが、鉄筋間隔は五〇cmとし二列で千鳥配置しているため、護岸の延長方向には二五cm間隔とみなされ、非倒壊部の補強が一・四mであるのに対して二五/一四〇=一七・九%と極めて狭くなっており、鉄筋の補強効果が有効に作用する。また、穿孔部に三〇cm埋め込んで五〇cm突出させる構造は、穿孔部分に三〇cm埋め込む部分の付着としては不十分であったが、五〇cm突出させた部分は後打ちのコンクリート中に埋設されるため、五〇cm全長にわたる十分な付着が確保される。
以上から、台風九九一八号によって、「補強が不完全な非倒壊部の護岸」は倒壊したのに対し、「補強効果の高い倒壊部の護岸」は安全であったと判断される。
(ウ) なお、コンクリートは、目地(伸縮継目)以外でのひび割れ発生を防止する必要があるにもかかわらず、膨張コンクリートを使用するなどのひび割れ低減工法を採用した設計を実施していない。
さらに、台風八五一三号調査報告書によれば、昭和六〇年調査では普通鉄筋は腐食が発生し、耐力が欠如していることが確認されていた。ところが、防食性のエポキシ樹脂塗装鉄筋を採用するなど、波力による護岸の倒壊に備えた耐久性を考慮した設計を実施していないため、平成一一年調査(甲A一五、三七)でも、鉄筋腐食の発生が認められた。
(2) 以上によれば、台風八五一三号による本件護岸の被災に対する復旧補強工事は、その設計条件において、波力に対して用心鉄筋(主鉄筋)のみを一・四m間隔で配筋し、配力鉄筋及び溝・スリップバーを設けない構造物とすることによって耐力不足であったことに加えて、施工不良のために、用心鉄筋とコンクリートとの接着剤による付着が確保されていなかったのであり、その結果、打継目の付着力が不十分なままとなり、このことが護岸倒壊の原因となったと考えられる。
加えて、証拠(甲A八九)によれば、本件護岸の海側に設置されていた消波工は、台風九九一八号による高波よりも前に発生していた波浪によって沈下していたと認められ、そのことが、衝撃砕波力を生じさせた原因の一つと考えられ、本件護岸のパラペットの倒壊の原因の一つになったものと推測される。
四 台風九九一八号による被害について
(1) 本件護岸の倒壊について
同台風によって、原判決別紙図面2.4のとおり、本件護岸の一、二号護岸の各五箇所(合計一〇箇所。いずれも台風八五一三号による倒壊箇所とは異なる箇所。)のパラペットが約一五六メートルにわたって倒壊した。一号護岸については、四箇所が打継目から倒壊し、一箇所が打継目からパラペット上部に向かって破壊し倒壊し、二号護岸については、二箇所が打継目から倒壊し、三箇所が打継目からパラペット上部に向かって破壊し倒壊した。
(2) 消波工の沈下について
《証拠省略》によれば、消波工(消波ブロック)は、全体的に天端高の沈下やブロックに破損が見られ、一号護岸においては、護岸前面で約四・八~五・八m、消波工肩で約四・六~約五・四mに沈下し、二号護岸においては、護岸前面で約四・六~約五・四mm、消波工肩で三・六~五・二mに沈下したこと、この沈下の原因について、台風九九一八号による波力だけでなく、それ以前の波力による影響も原因となっていることが認められる。
(3) 控訴人らの冠水被害について
証拠(甲A六三、八〇、八八)によれば、研究者らが、台風九九一八号による水害について、被控訴人の資料と現地調査をもとにして、本件護岸が倒壊した実際の被害をもとにした総流入量と同護岸が倒壊しなかった場合を推定した総流入量を比較したところ、半経験的な手法では一・三倍の差となり、理論的な手法では二・二倍の差となること(この数字の差異は、消波工の効果を認めるか否かの評価の違いである。)、二号護岸Aでは、護岸の倒壊により約六〇%もの総流入量の増加が認められ、この地点では一・八m前後の湛水深が観察されており、護岸倒壊がなければ、約一・一mの水位上昇にとどまったとみられること、潮位の上昇とともに、排水路の排水機能が失われ、特に、高潮位時(当日午前七時ころないし同八時三〇分ころ)には、護岸が文字通りの「防波堤」となり、その倒壊が被害に直結したこと、本件埋立地の実際の平均湛水位は、約一・三mであったから、仮に、護岸の倒壊がなければ、平均湛水位は約〇・六m~約一・〇mの水位となり、本件埋立地の過半の建築物が床上浸水を免れた可能性があったことが認められる。以上によれば、本件冠水被害は、本件護岸の倒壊と相当因果関係があるものということができる。
被控訴人は、台風九九一八号による冠水被害の大半は、大量の越波による被害であり、本件護岸倒壊による影響はほとんどなかったと主張するが、これを裏付ける証拠はない。また、台風九九一八号報告書(乙A一一)には、パラペット倒壊による越波量の増加はわずかで、本件埋立地の冠水に影響を及ぼしていないとの記載があるが、これは理論に基づく推測値にすぎず、現地調査を踏まえて検討している甲A六三、八〇、八八に照らし採用できない。
五 被控訴人の責任について
本件護岸は、地方公共団体である被控訴人が公の目的に供している物的施設であるから、国家賠償法二条一項の「公の営造物」に該当するところ、台風九九一八号による波力により倒壊したことが、その設置又は管理に瑕疵があったといえるかが問題となる。公の営造物の設置又は管理の瑕疵における瑕疵の意義については、当該営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいうと解すべきである(最高裁判所昭和四五年八月二〇日判決民集二四巻九号一二六八頁)。そして、本件護岸は、被控訴人が工業団地を事業者らに対し分譲する目的で造成した本件埋立地を海水による侵害から保全するために設置されたものであり、その供用開始以降、本件埋立地の分譲を受けた事業者らに対し、一定の安全性を確保すべきことが要請され、安全対策への期待水準は高いものというべきであるから、その設置及び管理の瑕疵の判断に当たっては、純然たる自然公物である、埋立地の護岸でない通常の海岸あるいは河川の護岸の場合と同様の基準に依拠することは相当でないというべきである。
ところで、前記一ないし三で認定した事実関係を総合勘案すると、台風八五一三号による被災後の本件護岸についての被控訴人の復旧工事は、その設計条件自体、その当時の技術的基準を充足しない耐力不足の不十分なものであり、また、その施工においても上部工と下部工の付着が確保されないなど不十分なものであった。しかも、復旧工事後の本件護岸の管理においても、被控訴人は消波工の沈下、護岸のひび割れ、護岸の打継目の鉄筋の腐食などに対する対策を怠るなど不十分であったことなど、本件護岸の設置及び管理において、海側の護岸として通常有すべき安全性を欠いていたというべきである。
被控訴人は、台風九九一八号による波圧の程度が不可抗力ともいうべき程度であったと主張するが、台風八五一三号による倒壊被害を受け復旧した箇所が、台風九九一八号による波圧にも耐えたことに照らし、採用することができない。
六 控訴人らの損害について
控訴人らは、本件埋立地内にある前記各分譲地に所在する事務所、工場及び倉庫等が、台風九九一八号による本件護岸からの越波、その一部倒壊、これに続く海水の浸水等により冠水被害を被った(以下「本件被災」という。)ことから、以下のとおりの損害を被ったものと認めることができる。
(1) 控訴人福岡トランス
ア 被控訴人は、福岡トランスにおいて倉庫業法施行令に合致した倉庫によって保管していたら、その主張する損害は発生しなかったはずであると主張するが、同法違反の具体的事実は明らかでなく、被控訴人の主張は採用しない。
イ 《証拠省略》によれば、控訴人福岡トランスは、本件埋立地内にある土地上及び車庫内のトラック数台に、以下の(ア)ないし(カ)の会社から委託を受けて、商品を保管していたところ、本件被災により委託を受けた商品が海水をかぶったので、示談により上記各荷主に対し合計四九二八万三五四二円を支払い、同金額に相当する損害を被ったことが認められる。なお、被控訴人は、控訴人福岡トランスは、被害品の単価・数量等の立証をしていないと主張するが、《証拠省略》によれば、以下の示談金額は、同控訴人と元請会社が被災品目と被害金額について詰めて交渉し算定したものであり、正確性が担保されており相当な金額であると認めることができる。
(ア) グリーンシッピング株式会社 一一九三万二〇五二円
株式会社ジャパンエキスプレス分 八五一万六二四三円
野村貿易株式会社分 八〇万円
ダイレクトジャパン株式会社分 二六一万五八〇九円
(イ) 株式会社サンパル・三井倉庫株式会社 一五三二万六四九〇円
(ウ) 上神谷運送株式会社 二五〇万円
① 日本絨氈株式会社分 二三七万七九一九円
② 日本敷物製造株式会社分 五万五二四五円
③ 東和織物株式会社分 五万九二八一円
④ 東亜紡織株式会社分 二五万〇三七一円
⑤ 株式会社オーノ分 八万九〇六一円
⑥ 山本産業株式会社分 一五万六九六〇円
(以上①ないし⑥の合計額から値引して上記のとおりの示談金)
(エ) 松本興業株式会社 四〇万円
(オ) 株式会社三幸金属工業所 五〇万円
(カ) 栄運輸工業株式会社 一八六二万五〇〇〇円
(キ) 合計 四九二八万三五四二円
(2) 控訴人電綜(被災当時は西部工業)
《証拠省略》によれば、控訴人電綜(西部工業株式会社との吸収合併により地位を承継)は、控訴人奈良工業の所有する土地及び建物を借り受けて、金属製品(プルボックス、ダクト架台金物等)の製造業務を営んでいたところ、本件被災により土地・建物内に海水が侵入して、建物床面から七〇ないし八〇センチメートルのところまで浸水したため、以下のとおりの損害を被った。
ア 機械及び装置の滅失による損害 七七万六八四六円
《証拠省略》によれば、本件被災により、以下の機械及び装置は使用不能となり、①エアコンは新規の物(取得価額一四万五六九三円)に買い替えたこと、②コンプレッサーは、簿価が二万一五〇〇円であるが、新規の物(取得価額二七万六一五〇円)に取り替えたこと、③梱包機は、簿価は八五万二九二六円であるが、新規の物(取得価額六八万二五〇〇円)に買い替えたことが認められるから、①エアコンについては、本件被災当時の簿価が不明なことから新規取得価額の二分の一、②コンプレッサーについては簿価、③梱包機については新規の取得価額を損害とみるのが相当である。そうすると、機械及び装置の滅失による損害は以下のとおりである。
① エアコン 七万二八四六円
一四万五六九三円÷二=七万二八四六円(円未満切り捨て。以下同様)
② コンプレッサー 二万一五〇〇円
③ 梱包機 六八万二五〇〇円
イ 機械及び装置補修費用 七七四万五一三七円
《証拠省略》によれば、本件被災により、以下のとおり機械及び装置について修理を要することが認められる。これらについては簿価が明らかではないが、修理費用等が簿価を上回ることが窺われないので、以下の金額をもって本件被災と相当因果関係のある損害と認める。
① 電気設備工事費 一三一万二五〇〇円
② 自動溶接機修理費 三六〇万円
③ プレス機械等修理費 二一三万九八四七円
④ 梱包機修理費 六九万二七九〇円
ウ 器具及び備品の滅失又は補修による損害 四〇七万〇六九一円
エ 製品及びその附属品の滅失による損害 二三九五万一一四四円
① 在庫品冠水による不良品 二二六四万三五二七円
② 製品附属品冠水による不良品 一三〇万七六一七円
オ フォークリフト補修費用 四五万八三二五円
カ 合計 三七〇〇万二一四三円
(3) 控訴人八州電工
《証拠省略》によれば、同控訴人は、本件被災により、以下の損害を被ったことが認められる。なお、以下のアの複写機は、買い替えた新規の複写機の取得価額四七万二五〇〇円ではなく、被災した複写機の簿価一万八九〇〇円を損害とみるのが相当であり、また、イ①の電算機の簿価が明らかでないが、修理費が簿価を下回ることが窺われないから、修理費をもって損害とみるのが相当である。
ア 複写機一台の滅失による損害 一万八九〇〇円
イ 機械及び装置補修費用 六九九万九七二〇円
① 電算機修理費 六九一万一五二〇円
② 電話等復旧工事費 八万八二〇〇円
ウ 車両一台の滅失による損害 二一万七八九六円
エ 器具及び備品の滅失による損害 四四万七二一六円
① 流し台 四万二〇〇〇円
② 文具類一式 二三万七六三六円
③ 印刷物一式 一六万七五八〇円
オ 合計 七六八万三七三二円
(4) 控訴人奈良工業
《証拠省略》によれば、控訴人奈良工業は、工場兼事務所に駐車していた車両二台が被災し、二六万九八八二円の損害を被ったことが認められる。
(5) 控訴人八州工業
《証拠省略》によれば、本件被災により、同控訴人は、車両一台の滅失による損害(簿価)三万七六四〇円及び車両一台の修理費一一万〇七四四円の合計一四万八三八四円の損害を被った。これは、控訴人八州電工及び同西部工業が使用していた控訴人八州工業名義の車両が被災したもの。
(6) 控訴人北九ドラム
《証拠省略》によれば、同控訴人は、事務所を所有し、ドラム缶の再生販売、貨物自動車運送事業を営んでいたが、本件被災により以下の損害を被ったことが認められる。
ア ドラム缶の再生販売部門の損害 四五〇万四五〇〇円
(ア) 再生ドラム缶 一一九万〇七〇〇円
《証拠省略》によれば、同控訴人代表者は、本件被災により、同控訴人が保管中の再生ドラム缶約七〇〇本が海水に浸って流失し、製品としての価値を喪失したこと、その再生ドラム缶は大分の昭和高分子株式会社に納入するもので、常時、この程度の本数の再生ドラム缶を再生し保管していたこと、その取引価格は一本二五〇〇円であることを陳述するところ、海水に流失した再生ドラム缶の本数は明らかでないものの、その陳述の内容等に照らし、少なくとも、その七〇パーセントに当たる四九〇本の流失はほぼ間違いないと考えられ、また、《証拠省略》によれば、再生ドラム缶の一本当たりの取引単価は二四三〇円(平成一七年六月当時)程度であったことが認められるから、再生ドラム缶流失による損害は以下のとおりと認めるのが相当である。
二四三〇円×七〇〇本×〇・七=一一九万〇七〇〇円
(イ) 再生用原ドラム缶 一六八万円
《証拠省略》によれば、同控訴人代表者は、保管中の再生用原ドラム缶約六〇〇〇本が海水に浸って流失し、原材料として使用できなくなったこと、この再生用原ドラム缶は、回収後、有限会社金田商店にスクラップとして処理することを依頼したこと(処理費用は、同社がスクラップを金属屑として処分可能なため不要であった。)、再生用原ドラム缶の一本当たりの取引価額は四〇〇円である旨陳述するところ、その陳述の内容等に照らし、少なくとも、その七〇パーセントに当たる四二〇〇本の流失はほぼ間違いないなく、また、再生ドラム缶の一本当たりの取引単価は四〇〇円程度であったことが認められるから、再生用原ドラム缶流失による損害は以下のとおりと認めるのが相当である。
四〇〇円×六〇〇〇本×〇・七=一六八万円
(ウ) 再生用備品 五八万六六〇〇円
《証拠省略》によれば、以下の再生用備品は再生工程に必要な備品であり、常時一定の個数が用意されているものであり、本件被災当時の保管個数及びその単価は明らかでないものの、同控訴人代表者が陳述する保管個数の七〇パーセント程度は保管されていたものとみて、再生用備品の流失による損害は、以下のとおりと認めるのが相当である。
① 天板(新品)
三五〇円×七〇〇個×〇・七=一七万一五〇〇円
② 天板(再生分)
二〇〇円×六〇〇個×〇・七=八万四〇〇〇円
③ バンド
二五〇円×五〇〇個×〇・七=八万七五〇〇円
④ パッキン
一二〇円×九〇〇個×〇・七=七万五六〇〇円
⑤ ボルト
九〇円×一〇〇〇個×〇・七=六万三〇〇〇円
⑥ 塗料
七五〇〇円×二〇缶×〇・七=一〇万五〇〇〇円
⑦ 以上合計 五八万六六〇〇円
(エ) ドラム缶再生の機械装置一式 一〇四万七二〇〇円
① ドラム缶再生のためのカール機及びカッティング機 八七万三六〇〇円
《証拠省略》によれば、カール機及びカッティング機は、同控訴人が昭和六一年ころ八七三万六〇〇〇円で購入したもので、本件被災当時には、既に償却期間が経過したため、会社の帳簿には記載されていなかったが、本件被災当時も使用可能であったところ、本件被災により水没したことが認められるから、その損害は償却期間が経過しているものの使用可能であったことを考慮して、上記取得額の一〇パーセントとみるのが相当である。
八七三万六〇〇〇円×〇・一〇=八七万三六〇〇円
② コンプレッサー機 一七万五〇〇〇円
(オ) ドラム缶運搬用パレット 〇円
《証拠省略》によれば、同控訴人代表者は、ドラム缶運搬用パレットが流失し行方不明となったと陳述するが、《証拠省略》によれば、中山産業株式会社は同控訴人に対しパレット代金として二五万二〇〇〇円を請求しているものの、その請求書の日付は本件被災後の平成一二年六月九日となっており、この請求に係るパレットと同控訴人が流失したとするドラム缶運搬用パレットとの関係が不明確であり、同パレットの流失による損害を認定することは困難である。
イ 運送事業部門の損害 三六〇万二五九四円
(ア) 水没による全損車両 二三九万八四六八円
① 五トンユニック車(北九州《省略》) 一七八万九六〇〇円
《証拠省略》によれば、同控訴人は、上記ユニック車を平成一一年一月に二四〇万円で購入し、平成一一年三月末の期末帳簿価額は一九八万九六〇〇円で、普通償却限度は四一万〇四〇〇円であり、そのほぼ六か月後の本件被災により水没して全損していることが認められるから、本件被災時の上記ユニック車の損害は上記期日の帳簿額からほぼ六か月間の償却額に相当する二〇万円を控除した一七八万九六〇〇円とみるのが相当である。
② 一・五トンフォークリフト車(車体番号《省略》) 一三万六五〇〇円
《証拠省略》によれば、同控訴人は、上記フォークリフト車を昭和五七年三月に一三六万五〇〇〇円で取得し、償却期間一二年が経過した後本件被災当時も使用していたことが認められるから、同フォークリフト車の本件被災による損害は、上記取得価額の一〇パーセントに相当する一三万六五〇〇円とみるのが相当である。
一三六万五〇〇〇円×〇・一=一三万六五〇〇円
③ 二トンフォークリフト車(車体番号《省略》) 四七万二三六八円
《証拠省略》によれば、同控訴人は、上記フォークリフト車を平成九年七月に一八〇万円で購入し、平成一一年三月末の期末帳簿価額は七六万二三六八円で、普通償却限度は五九万四一五七円であり、そのほぼ六か月後の本件被災により水没して全損していることが認められるから、本件被災時の上記フォークリフト車の損害は上記期日帳簿額からほぼ六か月間の償却額に相当する二九万円を控除した四七万二三六八円とみるのが相当である。
(イ) 車両修理代 一〇五万〇五九七円
① 一〇トントラック車(北九州《省略》) 二三万九一五九円
② 一〇トントラック車(北九州《省略》) 八一万一四三八円
(ウ) 洗車機・ホース一式全損 一五万三五二九円
《証拠省略》によれば、同控訴人は、洗車機を昭和六三年一月に四三万五〇〇〇円で購入したが、本件被災により全損し、平成一一年九月に廃棄しているところ、その時点での帳簿の残存価額は二万一七五〇円であったものの、耐用年数は一七年であり本件被災がなければさらに約六年程度使用可能であったことを考慮すれば、上記取得価額の一七分の六の金額である一五万三五二九円を損害とみるのが相当である。なお、ホースについては、《証拠省略》によれば、新しく二万二六八〇円で買い替えているが、流失したホースについて、その当時の残存価額が不明であり損害額の認定が困難である。
ウ 事務所部門の損害 三三七万〇二七〇円
(ア) 事務所・工場の電気配線修理代 一八万七〇〇〇円
(イ) 事務所・工場の産業廃棄物処理代 一〇万五〇〇〇円
(ウ) 事務所給水管修理代 三一万六五〇一円
(エ) 水没全損備品代 五〇万〇〇二八円
① 掃除機 三万三〇〇〇円
② 石油ストーブ 一万五〇〇〇円
③ タイマー 五〇〇〇円
④ 冷蔵庫・テレビ・棚 一二万七〇〇〇円
⑤ 税理士用専用伝票 一一万二三六七円
⑥ 事務備品 一〇万五〇八二円
⑦ 消耗備品 一〇万二五七九円
(オ) 流出・水没品等片付け費用 一五六万一七四一円
① 流失ドラム缶回収費用 一五〇万円
② 深夜勤・休日出勤に伴う従業員の交通費及び食事代 六万一七四一円
(カ) 従業員の車両六台が水没全損したことにつき業務中の被災及び会社の管理責任を認めて支払った損害賠償金 七〇万円
《証拠省略》によれば、同控訴人は、従業員が自家用車を運転して出勤し、社内敷地に駐車のうえ、遠距離用トラックの運転等の業務に従事していたところ、本件被災により上記車両が水没し全損となったため、業務中の被災並びに会社の管理責任を認めて、シボレーを所有していた従業員に三〇万円、他の車両を所有していた従業員に各一〇万円の、合計八〇万円を支払ったこと、これらの従業員の中には廃車手続が遅れた者が三名いること、また、このうちの一名は、本件被災当時車検切れであり、その車両で通勤していたか疑われる者がいることが認められるから、一名分の一〇万円を控除した七〇万円を損害とみるのが相当である。
エ 逸失利益 二五〇万円
(ア) 三〇日間の工場の操業不能による逸失利益 一五〇万円
《証拠省略》によれば、同控訴人のドラム缶再生部門の月別平均売上は約七五〇万円で、粗利益が約四〇パーセントであること、同控訴人は、本件被災により三〇日間操業できなかったことが認められるが、逸失利益の算定は営業利益に基づき行うべきところ、同控訴人は営業利益の算定資料を提出していないが、少なくとも二〇パーセント程度の営業利益があったものと推認されるから、三〇日間の操業不能による逸失利益は以下のとおり一五〇万円と認めるのが相当である。
七五〇万円×〇・二=一五〇万円
(イ) トラックの使用不能による逸失利益 一〇〇万円
《証拠省略》によれば、本件被災により前記一〇トントラック二台の修理のため一〇日間運行することができなかったこと、五トンユニック車一台が水没全損となったため、注文したところ、納車までに三〇日間を要し、この間の運行ができなかったこと、同控訴人が、平成一四年七月一日から同年九月三〇日までの間、休車した際の保険会社に対する保険金の請求における算定資料によると、その期間中の一台当たりの一日の休車損は二万六七二一円であり、本件においても、一台一日当たりの休車損は二万五〇〇〇円程度とみることも可能であることが認められるから、本件被災による同控訴人の休車損は以下のとおり一〇〇万円と認めるのが相当である。
四〇日×二万五〇〇〇円=一〇〇万円
オ 合計 一三九七万七三六四円
七 控訴人らが被控訴人に対し請求し得る損害の範囲について
前記認定事実によれば、本件護岸の設置・管理の瑕疵と控訴人らが被った損害との間には、相当因果関係が認められるものの、他方、本件埋立地に浸入した海水は、パラペットの倒壊箇所から流入したものだけではなく、本件護岸の越波によるものがかなり含まれていると推測されることや、床上浸水には雨水も相当程度寄与していることなどを勘案すれば、控訴人らの本件被災による損害の二分の一を被控訴人に負担させるのが相当である。そうすると、控訴人らが被控訴人に請求し得る損害額は、前記認定額の二分の一(円未満切り捨て)、すなわち、控訴人福岡トランスにつき二四六四万一七七一円、控訴人電綜につき一八五〇万一〇七一円、控訴人八州電工につき三八四万一八六六円、控訴人奈良工業につき一三万四九四一円、控訴人八州工業につき七万四一九二円、控訴人北九ドラムにつき六九八万八六八二円となるところ、本件訴訟の難易、認容額等諸般の事情を考慮して、本件被災と相当因果関係のある弁護士費用として、控訴人福岡トランスにつき二四〇万円、控訴人電綜につき一八〇万円、控訴人八州電工につき三八万円、控訴人奈良工業につき二万円、控訴人八州工業につき一万円、控訴人北九ドラムにつき六九万円を認めるのが相当である。
八 結論
控訴人らの請求は、被控訴人に対し、控訴人福岡トランスにつき二七〇四万一七七一円、控訴人電綜につき二〇三〇万一〇七一円、控訴人八州電工につき四二二万一八六六円、控訴人奈良工業につき一五万四九四一円、控訴人八州工業につき八万四一九二円、控訴人北九ドラムにつき七六七万八六八二円の各金員及び各金員に対する本件被災の日である平成一一年九月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。
よって、以上と異なる原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 古賀寛 裁判官 川野雅樹 齋藤毅)
別紙 参照図面一覧表《省略》