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福岡高等裁判所 平成2年(ネ)716号 判決 1991年5月28日

控訴人 今泉友隆破産管財人 中島繁樹

被控訴人 国

代理人 浅野秀樹 宮崎和夫 ほか三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

第二  当事者の主張及び証拠関係は、次のとおり、改め、削除するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三枚目表六行目の「差押え」を「差し押さえ」と、同裏四行目の「手続き」を「手続」と、同五枚目表五行目、同七行目、同七枚目表四行目、同六行目、同枚目裏三行目、同一二行目(二箇所)、同一一枚目表六行目の各「差押」を「差押え」と改め、同一五枚目裏初行の「<証拠略>」を削除する。

二  (控訴人の当審における補足主張)

破産法七一条一項によって続行が認められる処分は、滞納処分庁が自ら強制換価手続を主宰している手続に限定すべきであり、かつ滞調法による続行決定によって続行される手続は個別執行手続である民事執行手続であって、いわゆる包括執行手続である破産手続においては、同法が例外的に認めた個別執行手続である滞納処分手続についての規定の適用は合理性がない。滞調法は、強制執行(競売)続行決定がなされた場合にも、滞納処分庁に滞納処分による差押えに基づく優先的地位を認めている(同法一〇条四項、国税徴収法一二条、地方税法一四条の六)が、これは租税債権間においてのことであり、破産法上の他の財団債権との関係を認めるものではない。したがって、右各規定を根拠に右続行決定があった場合にも、滞納処分庁は破産法七一条一項に基づく滞納処分の続行と同視して、優先的弁済を得られる地位を失わないとして、租税債権が破産法上の他の財団債権に優先することを認める結果となる見解をとるべきでない。

理由

一  当裁判所は、被控訴人の本訴請求は、正当として認容すべきであると判断するが、その理由は、次のとおり加え、改めるほか、原判決がその理由で説示するとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一五枚目裏六行目、同二一枚目表六行目、同一〇行目、同一一行目、同一二行目、同枚目裏二行目、同五行目、同八行目、同二二枚目表二行目、同五行目、同二三枚目表一〇行目、同二四枚目表三行目(二箇所)、同四行目の各「差押」を「差押え」と改める。

2  同一八枚目表六行目の「他の財団債権」の前に「共益的費用を除く」を加え、同八行目の「すべき」を「すべきである」と、同一九枚目表八行目の「保障」を「保証」と、同二二枚目表初行の「滞調法が」を「滞調法は」と、同三、四行目にかけての「にもかかわらず、ひとり破産手続との関係においては」を「のであるから」と改め、同二三枚目表一〇行目の「可能」の次に「で」を、同裏末行の「滞調法」の次に「二〇条、」を加え、同二四枚目裏九行目の「同条」を「同条項」と、同二五枚目表一〇行目の「滞納処分を」を「滞納処分に」と、同二五枚目裏九行目の「6」を「4」と、同一一行目の「被告」を「執行裁判所」と改める。

3  (控訴人の主張について)

破産法七一条一項により続行が認められる処分を控訴人のように限定的に解するのも現実の破産手続上からは一つの見解であると首肯できなくもないが、現行法上滞調法は、続行決定がされた場合に、それが租税債権間の関係であるにせよ、滞納処分による差押えに基づく優先的地位を変動させないように配慮している(同法一〇条四項、国税徴収法一二条、地方税法一四条の六)ことからすると、右の続行決定がなされたことによって、破産に先立って差押えに着手した租税債権の優先的地位が失われると解するのは不合理であること、また滞調法は、必ずしも滞納処分庁が滞納処分の続行の利益を放棄したと認められるような場合のみを続行決定の要件として定めていないこと、その他原判決がその理由の三、四で説示するとおりの理由により控訴人の主張は採用できない。

二  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鎌田泰輝 川畑耕平 簑田孝行)

【参考】 第一審(福岡地裁 昭和六三年(ワ)第一六四八号 平成二年一〇月一八日判決)

主文

一 福岡地方裁判所昭和六一年ヶ第一〇二六号競売事件の配当について同裁判所が作成した配当表の債権者福岡税務署の項備考欄に「被告に交付」とあるのを、「原告(福岡税務署長)に交付する。」と変更する。

二 訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

主文同旨

二 請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(原告)

一 請求原因

1 原告は、福岡県糟屋郡志免町大字志免一一六九番地の一訴外今泉友隆(以下「滞納者」という。)に対し、昭和六一年九月二九日現在、昭和六二年六月二三日現在及び昭和六三年五月三〇日現在において次のとおり租税債権を有していた。

(一) 昭和六一年九月二九日現在

<1> 年度  五八年度

<2> 税目  申告所得税

<3> 納期限 昭和五九年三月一五日

<4> 本税  三七万五九〇〇円

<5> 延滞税 一〇六万六五〇〇円

<6> 合計  一四四万二四〇〇円

(二) 昭和六二年六月二三日現在

<1> 年度  五八年度

<2> 税目  申告所得税

<3> 納期限 昭和五九年三月一五日

<4> 本税  三七万五九〇〇円

<5> 延滞税 一一〇万六〇〇〇円

<6> 合計  一四八万一九〇〇円

(三) 昭和六三年五月三〇日現在

<1> 年度  五八年度

<2> 税目  申告所得税

<3> 納期限 昭和五九年三月一五日

<4> 本税  三七万五九〇〇円

<5> 延滞税 一一五万五六〇〇円

<6> 合計  一五三万一五〇〇円

2 原告〔所管行政庁福岡税務署長(以下「福岡税務署長」という。)〕は、昭和六一年九月二九日、滞納者の右租税債権を徴収するため、滞納者所有の別紙物件目録<略>記載の不動産(以下、「本件不動産」という。)を差押え、福岡法務局粕屋出張所昭和六一年九月三〇日受付第一三六三二号をもって右差押登記を経由した。

3 訴外九州ビザカード株式会社は、本件不動産について福岡法務局粕屋出張所昭和六〇年六月二九日受付第九一五九号の登記を経由した昭和六〇年六月二八日設定の根抵当権に基づき、訴外株式会社フリーウエイを債務者として担保権の実行としての競売の申立をなし(福岡地方裁判所昭和六一年ヶ第一〇二六号競売事件、以下「本件競売事件」という。)、昭和六一年一〇月三日、不動産競売開始決定がなされた。

その後、本件競売事件は、昭和六二年六月一六日、滞納処分と強制執行等との手続きの調整に関する法律(以下、「滞調法」という。)九条一項(一七条、二〇条)の規定により続行決定がなされ、競売手続が続行することとなった。

4 福岡税務署長は、昭和六二年六月二三日、滞調法一〇条三項(一七条、二〇条)の規定に基づいて福岡地方裁判所に対して交付要求を行い、昭和六三年五月三〇日、債権現在額申立書を提出した。

5 福岡地方裁判所は、滞納者に対し、昭和六一年一〇月八日午前一〇時、破産宣告をなし、破産管財人に被告である弁護士中島繁樹を選任した。

6 福岡地方裁判所は、昭和六三年六月三〇日、本件競売事件の配当期日において配当金額三八三六万六〇〇〇円のうち、原告に対する配当金額一五三万一五〇〇円(以下「本件配当金」という。)を滞納者の破産管財人である被告に交付するとの配当表を作成した。

7 しかしながら、後記二記載のとおり、本件配当金を被告に交付すべき理由は存在しないので、原告は右配当期日において、配当異議の申出をした。

8 よって、原告は、本件競売事件の配当について福岡地方裁判所が作成した配当表を変更し、原告(福岡税務署長)に一五三万一五〇〇円を交付する旨の記載をすることを求める。

二 原告の法律上の主張

1 原告に配当金を交付すべき理由

(一) 破産法七一条一項の趣旨について

破産法七一条一項は、「破産財団ニ属スル財産ニ対シ国税徴収法又ハ国税徴収ノ例ニ依ル滞納処分ヲ為シタル場合ニ於テハ破産ノ宣告は其ノ処分ノ続行ヲ妨ケス」と規定し、破産宣告前に破産財団に属する財産に対してなされた滞納処分は、破産宣告後もその続行を妨げられない旨規定している。

右規定の趣旨は、滞納処分庁において、破産宣告前に着手した滞納処分を、破産宣告後も、破産手続によらず自らその続行をなすことができるに止まらず、換価代金の中から破産管財人の手を煩わすことなく優先的弁済を受けることによって徴税の目的を達することができるというものであり、破産手続における先行の滞納処分の優先性を保証したものである。換言すれば、破産宣告前に着手された滞納処分に係る租税債権は、破産手続によらずしてその固有の実行方法をなしうる点で別除権とほぼ同様の取扱を受けることが予定されているのである。

そうすると、本件においては、租税債権を徴収するために本件不動産について滞納処分(差押)がなされた後、滞納者に対し破産宣告がなされているのであるから、右租税債権は、破産宣告の時点において滞納処分(差押)によって本件不動産の交換価値を優先的に把握しており、破産法七一条一項の規定により換価代金の中から破産管財人の手を煩わすことなく優先的弁済を受けることができるというべきである。

したがって、執行裁判所は、優先的弁済を受け得る立場にある原告に対し、直接本件配当金を交付すべきである。

(二) 交付要求について

破産法七一条一項は、一般的に、破産宣告は滞納処分の続行を妨げない旨規定しているところ、本来、本件競売手続のような別除権の行使は破産手続外の手続であり、破産宣告によって何らの影響を受けない通常の担保権の実行としてのものであるから、滞納処分に係る租税債権について別除権の実行手続たる民事執行手続に従い交付要求した場合には、当該交付要求も「滞納処分の続行」に当たるというべきである。そうすると、配当については民事執行手続に従うべきであって、民事執行法上、配当表は実体上の優先関係に基づいて作成され、配当は配当表に基づいて実施することとされており(民事執行法八四条一項)、配当表に記載された債権者以外の者に配当金を交付できるとの規定はないのであるから、実体上の優先関係に基づいて配当を実施し、交付要求権者に配当金を交付すべきである。

仮に、右配当金を破産管財人に交付すれば、交付要求権者を競売手続から排除する結果を生じることとなり、不当であるから、右配当金を破産管財人に交付することは許されないというべきである。

(三) 続行決定について

本件は、滞納処分のみがなされた場合とは異なり、破産宣告後、滞調法による続行決定により競売手続が続行された場合であるが、この場合においても破産宣告前に着手された滞納処分に係る租税債権は、次のとおり破産管財人の手を煩わすことなく優先弁済を受けることができる。

(1) 滞調法に規定する続行決定の制度は、滞納処分と民事執行法による強制執行という異種別個の執行手続相互間の調整を図るため、本来先着手主義であり、先行する手続が存在する限り後行の手続は続行できないところを、先行する手続における当事者の利益を害さない限度において後行の手続の続行を認めたものである。

すなわち、

<1> 滞納処分と民事執行による競売とは、もともと執行機関、清算の対象者、手続の細目を異にする異種別個の執行手続であるが、ともに目的物件を強制的に換価してその代金から債権の満足を得ることを目的とし、両手続による差押が競合する場合に一方の手続により換価・配当が行われると、他方の手続の差押債権者は、あるいは当然に、あるいは交付要求を通じて、実体法上の順位にしたがって配当を受けることができる地位に立ち、一方の手続が完了すると他方の手続も完了する関係にある。

<2> また、滞調法三二条は、滞納処分による差押登記は民事執行による売却がなされると登記官によって職権抹消される旨規定し、滞納処分による差押の効力が、滞納処分庁の交付要求の有無にかかわりなく当然失効するものとしているが、これは、先行の滞納処分庁は差押に係る租税債権について交付要求の方法により優先的地位で配当を受けることがその前提となっている。

<3> さらに、滞調法九条四項が続行決定に対する滞納処分庁の不服の申立を禁じたのは、租税債権が続行決定後の競売手続において交付要求の方法により優先的な満足を受けることができるので、別段続行を阻止する必要がないからである。

したがって、続行決定によって競売手続が続行され、滞納処分によるその後の手続が行われなかったとしても、租税債権は滞納処分による差押によって把握した交換価値を完全に実現できることが予定されているのである。換言すれば、執行裁判所は、もともと自ら交換価値の実現ができる滞納処分庁に代わって競売手続を進行させるのであるから、滞納処分庁(租税債権)の利益を害することはできず、続行決定後の競売手続では先行滞納処分の効果は維持されたまま、双方の執行手続が一体となって完了する関係にあるとみるべきである。

なお、滞調法一〇条一項によれば、強制執行(競売)続行決定により滞納処分による差押は民事執行による差押の後にされたものとみなされるが、そのことの効果は後行の民事執行手続を進行させることができることにとどまるのであって、滞納処分の効果が無に帰するものではないのである。

(2) 以上のとおり、続行決定後の競売手続は、先行の滞納処分のためにも実行されたものと解することができるから、この場合も破産法七一条一項にいう「滞納処分ヲ為シタル場合」に該当し、執行裁判所は破産手続によらずに別除権者と同様の立場にあって優先的弁済を受け得る立場にある原告(福岡税務署長)に対し直接本件配当金を交付すべきである。

(3) 被告は、滞納処分庁たる福岡税務署長が破産法七一条一項により優先的弁済を受けうるのは、自らその滞納処分手続を進行させ、目的物件を換価したときに限られ、滞納処分が先行した場合であっても滞調法による続行決定によって民事執行手続が終了した場合には、同条項の適用がない旨主張するが、右主張に従えば、租税債権は、最後まで滞納処分手続を進行させて終結した場合に限り破産法七一条一項により破産手続外で満足を得ることができるというのであるから、逆にいえば、租税債権としては、滞納者がいささかでも破産宣告の可能性がある場合には(しかも、滞納者は一般的に破産の可能性とは無関係ではないのである。)、滞納者の個別的、具体的な実情への配慮(換価の猶予など徴収上の措置)を早い段階で厳しく判断することが強制されるに止まらず、その満足を図るために、滞調法上の「続行決定」を拒否して滞納処分をあくまでも自己の手で進行終結させることが必要となる。

しかしながら、滞調法九条二項には、執行裁判所は強制執行続行決定をなすにはあらかじめ徴収職員の意見をきかなければならない旨規定されているものの、執行裁判所は右徴収職員の意見に拘束されないのであり、しかも、同条四項によれば、滞納処分庁は続行決定に対し不服申立をなすことは禁止されているのであって、滞納処分庁は続行決定を拒否することができないのである。

このように、滞納処分庁が続行決定に応ずるか否かについて選択する自由がない以上、右続行決定に一旦把握した優先弁済権を放棄するような重大な効果を認めることはできないものといわなければならない。

また、滞納者が破産した場合は、別除権者が続行決定を得て民事執行手続により別除権を行使するのが通常であるから、被告の右主張に従えば、破産法七一条一項は実際上適用されないこととなり、同条項の存在意義を没却することになる。

(四) 破産管財人に本件配当金を交付することの不当性について

(1) 仮に、原告(福岡税務署長)に配当すべき金額を破産管財人である被告に交付するとすれば、被告は配当表に拘束されずに財団債権として随時弁済すべきものとなって、弁済が遅延するなど租税債権者の地位が極めて不安定なものとなるうえ、財団不足の場合、財団の管理、換価配当の費用及び管財人報酬その他の手続費用を弁済した残額が未払い財団債権額に応じて案分弁済されることとなるから(破産法五一条一項本文)、本件租税債権が全額満足できなくなることも予想され、国税の優先権が阻害されるおそれがある。このことが、破産法七一条一項の趣旨に反することは明らかである。

また、これを租税債権と担保権の優先関係から検討しても、破産宣告前には本件租税債権に劣後していた担保権が、破産を契機として本件租税債権に優先することとなり、不合理である。

(2) 本件不動産の価額は、三八三六万六〇〇〇円であるが、別除権たる訴外九州ビザカード株式会社の根抵当権の被担保債権額三〇〇〇万円及び訴外林正男の根抵当権の被担保債権額八六六万七四五三円合計三八六六万七四五三円を下回っている。

したがって、本件不動産の価格から破産財団に組み入れるべき原資(換価代金の残余)は当初から見込まれていないのであるから、本件配当金を被告に交付する合理的理由は全く存しない。

(3) 被告は、財団債権として位置付けられた租税債権は、破産手続遂行に必要な共益的費用に劣後するところ、滞納処分を続行することによって、財団債権相互の本来の優劣関係を無視してでも租税債権を最優先的地位に繰り上げることの妥当性には疑問があるとし、結果の不当性を回避するためには、破産法七一条一項によって優先的弁済を受ける要件を厳しく設定すべきである旨主張するが、右主張は次のとおり失当である。

<1> 被告の主張する「共益的費用優先」の考えは、財団債権の弁済という手続の枠内での権利の優先を意味するに止まるものであり、租税債権が破産手続を利用して満足を受ける場合を前提としているものであるが、破産法自体が同法七一条一項で租税債権が破産手続外で満足を受けることを例外として認めているのであるから、このような場合まで共益費用を優先させる実質的根拠はないというべきである。

<2> 滞納処分による差押は、担保としての性格を有し(国税通則法四六条六項)、差押先着手による国税の優先も確保されているのであるから(国税徴収法一二条)、特定の財産を差し押さえることによって当該財産から優先的弁済を受けるものであり、滞納処分による差押財産は担保権の目的たる財産と同視できるものである。

仮に、被告主張のとおり続行決定後の競売手続においては、滞納処分に係る租税債権は破産手続の存在を無視してまで優先的弁済を受けることができないとするならば、破産宣告前に滞納処分により差し押さえた財産上に租税債権に劣後する抵当権が設定されている場合、破産を契約としてその抵当権の被担保債権が租税債権に優先することになり不合理である。

<3> 共益費用と租税債権との優劣が事実上問題となるのは、破産財団が財団債権の総額を弁済するのに不足する場合であるところ、破産法五一条一項の規定は、破産管財人がなす財団債権の弁済を規制するものではあっても、財団債権者が債権の満足を得る行為については何ら規制するものではないと解されているのであるから、破産手続内における共益費用と租税債権との優先劣後の関係から直ちに、破産宣告前に着手され、別除権とほぼ同じ取扱を受ける滞納処分上の租税債権について、滞納処分の続行を否定することはできないというべきである。

(4) 以上のとおり、破産管財人に本件配当金を交付することが不当であることは明らかである。

2 本件配当異議訴訟の適法性について

配当異議の申出は配当表に記載された各債権者の債権又は配当の額について不服がある場合に限られているのであるが(民事執行法八九条一項)、本件においては、前記一6のとおり、本件配当金を交付要求権者たる原告にではなく、配当表に記載された債権者以外の者である被告に交付するとの配当表が作成されている。

配当表は実体上の優先関係に基づいて作成され、配当は配当表に基づいて実施されるところ、本件配当金について前記の配当表を作成することは、原告の交付要求を認めないのと同様の結果となり、租税債権と私債権の実体上の優先関係を否定することにもなる。また、財団不足の場合には、配当表に「破産管財人に交付する」旨記載されているか否かにより租税債権の満足額が異なることとなるのであって、配当表に前記文言が記載されているか否かは、単に本件配当金の交付方法の相違に止まらず、原告に対する配当を認めるか否か、ないし、その配当額についての相違を意味することになる。

さらに、審理方法の相当性の視点からいえば、本件配当金をめぐって本件配当により租税債権を直接満足すべきである旨主張する原告と財団債権であるから破産管財人に交付すべきである旨主張する被告との間に対立があるのであるから、被告を相手に配当異議訴訟として審理するのが紛争の目的にかなうというべきである。

結局、本件配当金については、「破産管財人中島繁樹に対し一五三万一五〇〇円、原告に対し〇円」との配当表の作成があったものとみることができるから、本件配当異議の訴えは適法である。

三 請求原因に対する認否

1 請求原因1ないし6の事実は認める。

2 同7のうち、原告が配当期日に配当異議の申出をしたことは認め、その余は争う。

四 被告の法律上の主張

1 破産法七一条一項の解釈について

租税債権は、破産法四七条二号により財団債権とされているから、本来は租税債権も破産手続内においてその満足を受けるべきであるが、同法七一条一項は、滞納処分が破産宣告前になされているときは、当該滞納処分庁がこれを続行してその滞納にかかる租税債権の弁済を受けうるとしたものである。しかしながら、右の滞納処分を「続行する」ということがいかなる事態を指しているのかは、同条項自体からは必ずしも一義的に明白ではない。(同法九五条において別除権が破産手続を離れて独自に実行されることを明白に認めていることとは対照的である。)

もともと財団債権には多様なものがあるが、これら財団債権のうち破産手続遂行に必要な共益的費用が、租税債権を含む他の財団債権に対して優先的地位にあることは一般的に認められており、かつ、実際にもそのように運用されている。したがって、租税債権について滞納処分がなされなかったときは、破産手続内においては共益費用的財団債権に劣後するしかない租税債権について、破産宣告前に滞納処分をなし、かつ、これを「続行する」ときには、右の劣後的地位が優先的地位に逆転することを認めるというのが破産法七一条一項なのである。そうすると、仮に破産財団が乏しく全部の財団債権に対して必ずしも十分な弁済ができない場合でも、租税債権について破産宣告前に滞納処分がなされ、これが「続行」されたときには、財団債権相互の本来の優劣関係を無視してでも当該租税債権が最優先的地位に繰り上がることを許容することとなるのであって、一定の要件の下であるとはいえ、租税債権をこのように処遇することの妥当性については相当の疑問がある。この疑問は根本的には立法によって解決するしかないとしても、結果の不当性をいささかでも回避するためには、右の一定の要件を厳しく設定することが妥当であって、本件に即していうならば、以下のとおりに解釈すべきである。

すなわち、滞納処分庁が破産法七一条一項によって優先的弁済を受けうるのは、滞納処分庁がその着手した滞納処分そのものを文字どおり続行したとき、換言するならば、強制換価手続の主宰者として自らその滞納処分手続を進行させ、目的物件を換価して滞納処分手続を終了させたときのみであると解すべきであり、本件のように、滞調法上の続行決定によって強制換価手続の主宰者たる地位を喪失し、代わって登場した強制換価手続たる民事執行手続が終了した場合には、その手続においてもはや破産手続の存在を無視してまで優先的弁済を受けることはできなくなったというべきである。

2 結果の不当性回避の主張

被告の前記1の主張は、破産手続に参加した全債権者の公平な処遇に最も適するものである。

すなわち、本件のように不動産について滞納処分をなした滞納処分庁が自らその不動産を換価することは、現実には稀であり、しかも、破産財団を構成する不動産は例外なく別除権の対象となっているのであるから、破産法七一条一項について原告の主張するとおりに解した場合には、租税債権は滞納処分をなすことによって、後には別除権の行使に便乗することによって、財団債権相互の優劣関係を変動させうるのであって、財団債権相互の本来の序列からして甚だ当を得ない結果を生じることとなる。

3 本件配当異議訴訟の適法性については異議がない。

第三証拠<略>

理由

一 請求原因1ないし6の事実、同7の事実のうち原告が配当期日に配当異議の申出をしたことについては当事者間に争いがない。

右争いのない事実によれば、本件競売事件は、<1>滞納者の所有する不動産に対する滞納処分(差押)、<2>担保権者の申立による右不動産に対する不動産競売開始決定、<3>滞納者に対する破産宣告と破産管財人の選任、<4>滞調法に基づく続行決定による競売手続の続行といった経過をたどった後、配当期日における配当表の作成に至ったものであるところ、右配当表には、交付要求者である福岡税務署長に対してではなく、滞納者の破産管財人である被告に対して本件配当金を交付する旨が定められていたので、原告は、本件配当金を被告に交付すべき理由はないとして、配当異議の申出を行い、本件訴えを提起したものである。

二 本件配当異議訴訟の適法性について

民事執行法八九条一項によれば、配当異議の申出は配当表に記載された各債権者の債権又は配当の額について不服がある場合に限られているところ、本件は、債権者である原告に対する配当金について、配当表に記載された債権者以外の者であり、滞納者の破産管財人である被告に交付する旨の配当表が作成されたという事案であるから、このような場合においても、「各債権者の債権又は配当の額について不服がある場合」として、原告から被告に対する配当異議の訴えが許されるか否かにつき、以下検討する。

まず、配当表は、実体上の優先関係に基づいて作成され、配当は配当表に基づいて実施されるところ(民事執行法八四条一項)、前記のとおりの配当表が作成された場合には、原告(福岡税務署長)の交付要求を認めないのと同様の結果を生じるものであり、また、特に、財団不足の場合には、配当表に「破産管財人に交付する」旨記載されているか否かにより租税債権の満足額が異なることとなるのであるから、配当表に前記文言が記載されているか否かは、単に本件配当金の交付方法の相違に止まらず、原告に対する配当を認めるか否か、ないし、少なくとも、その配当額についての相違を意味することになるから、原告にとっては配当額について不服のある場合に当たるものと解される。

また、本件においては、本件配当金をめぐって本件配当により租税債権を直接満足すべきである旨主張する原告と財団債権であるから破産管財人に交付すべきである旨主張する被告との間に対立があるものと解されるから、原・被告を本件訴えの当事者とすることが相当である。

そうすると、本件配当金については、実質的には「破産管財人中島繁樹に対し一五三万一五〇〇円、原告に対し〇円」との配当表の作成があったものと解されるから、配当の額に不服があるものとして、原告が被告を相手に配当異議の訴えを提起することは適法と解する。

三 破産法上の租税債権に関する規定について

前記一記載の事実関係の下において、滞納処分庁と破産管財人のいずれに配当金を交付すべきであるかについて、これを明確に規律するような破産法と民事執行法との間での調整規定は存しない。そこで、まず、破産法における租税債権の扱いについて見てみると、同法上租税債権に関して以下のような規定が存する。

1 破産法四七条二号

破産法四七条二号によれば、破産宣告前に生じた一切の租税債権について財団債権として取り扱う旨定められており、租税債権は、破産手続によらずに、破産管財人に対して交付要求をなすなどの方法によって、破産債権に優先して随時弁済されるという取扱を受けることになる。

ところで、破産宣告前に生じた債権は破産債権とされるのが原則であることからすれば(破産法一五条)、破産宣告前に生じたものであるにもかかわらず、租税債権が財団債権とされたのは、例外的な規定であるといわなければならない。

また、そもそも、財団債権が、破産債権に優先して、破産手続によらずに破産財団から弁済されるという取扱を受ける理由は、財団債権が破産債権者にとって共益的費用としての性質を有するためであるが、租税債権においては、かかる性格は希薄であって、この点からも、租税債権を財団債権として扱うことは大きな例外であるといわねばならない。

そして、租税債権か財団債権として右のような特別な取扱を受ける理由は、専ら、租税収入の確保を図るという公益的な要請によるものであって、租税債権の持つ高度の公益的性格に鑑み、単にそれが本来持つ優先的効力によって他の破産債権に先立つことをもって満足せず、他の財団債権よりも遅れることなく、かつ、配当手続の事実上の遅延にわずらわされないようにすべきという配慮に基づく立法政策に出たものと解される。

2 破産法七一条一項

(一) 租税債権については、前記1のとおり、破産法四七条二号により財団債権として取り扱う旨定められている。したがって、本来、滞納処分後に破産宣告がなされた場合には、当該滞納処分を中止又は失効せしめて破産管財人の手に移し、破産管財人から弁済を受けることとすべきものとも考えられる。

しかしながら、右のように取り扱う場合には、滞納処分の対象とされた財産を破産財団に取り入れ、これを換価した後、財団債権である租税債権に対して優先的に弁済しなければならなくなり、甚だしく煩瑣な手続を要することとなる。

(二) そこで、破産法七一条一項は、右の事情及び租税債権の持つ公益的性格に鑑みて、破産財団に属する財産に対して破産宣告前から国税徴収法または国税徴収の例による滞納処分がなされていた場合には、後に破産宣告があっても、当該滞納処分はその効力を失うことがなく、当該滞納処分庁がこれを続行したうえ、租税債権につき優先的弁済を受けることができる旨規定している。したがって、同項は破産宣告前に着手した滞納処分について「其ノ続行ヲ妨ケス」と規定するのみであるが、本条が租税債権について破産手続とは別個の滞納処分の続行を特別に許した趣旨と滞納処分による換価代金を一旦破産管財人に交付したうえで財団債権の弁済として破産管財人から随時弁済を受けるといった受渡を経由することの煩瑣さをも考慮するならば、同項は、単に滞納処分の続行のみを認めるのではなく、滞納処分の結果生じた換価代金につき、滞納処分庁がその中から破産管財人の手を煩わすことなく優先的弁済を受けうることを保障したものと解するのが相当である。この結果、破産宣告前に滞納処分のなされた租税債権は、通常の財団債権以上に優先的弁済を受けうるものとして扱われることになる。

四 競売続行決定後の破産手続と滞納処分との優先関係について

ところで、本件は、前記三2(二)で検討したような滞納処分庁が自ら滞納処分を続行して物件を換価したという場合ではなく、滞納処分後に担保権に基づく不動産競売開始決定がなされた後、破産宣告、滞調法に基づく競売続行決定がなされて、民事執行手続によって物件を換価したという場合であるが、このような場合においても、滞納処分庁が破産手続によらずに優先的弁済を受けうるのか否かについて、以下検討する。

1 まず、破産法七一条一項は、別除権の行使について破産手続を離れて独自に実行されることを明白に定めた同法九五条とは異なった規定がなされているから、破産法七一条一項の文言自体からは、前記の点については必ずしも明白ではない。

2 破産法七一条一項は、前記三2のとおり、租税債権の持つ公益的性格及び財団債権の弁済としての受渡を経由することの煩瑣さの回避を理由として、破産宣告後における滞納処分の続行を認めたものである。

しかし、租税債権が右のような優先的扱いを受ける結果、実際の破産実務においては、延滞税、利子税を加算した多額の税金によって破産財団の大半が先取りされるという実情が存するのであって、この破産実務の実情をも併せ考慮すると、租税債権の行使の保護については、立法論的には、破産手続における財団債権者間の公平の観点からみて見直すべき点もあるものと解され、租税債権の優先的扱いを肯定すべき場合の要件を限定的に解すべきであるとする被告の主張にも傾聴すべき点がある。

また、本件のように、強制執行、競売手続によって財産の換価がなされた場合には、換価代金は滞納処分庁の下に保管されているのではないのでから、この換価代金から直接に弁済を受けられないとしても、煩瑣さの回避の点では、それほどの障害は生じないものと考えられる。

3 しかしながら、以下の理由により、本件のような場合においては、執行裁判所は、先に滞納処分に着手し、執行手続の続行決定によって交付要求をすることとなった課税庁に対し配当金を直接交付するものと解すべきである。

(一) まず、破産法七一条の趣旨からすると、一旦滞納処分に着手し、同条によって、破産宣告にかかわらず、その処分の続行、更には配当を直接に受領しうる地位を得ていた以上、執行競売手続の続行決定によってその地位を覆される理由はなく、執行裁判所は交付要求をすることとなった滞納処分庁に対し配当金を直接交付することができるものと解するのが自然である。

換言すれば、滞納処分の着手があった租税債権は、破産手続との関係ではその外に置かれる立場を得ていたものであり、続行決定は滞納処分手続と執行競売手続との関係を規律するためのものであるから、これによって右のような立場にあった租税債権があらためて破産手続に取り込まれる理由はない。

(二) 次に、滞調法一〇条三項によれば、強制執行(競売)続行決定がなされた場合には、滞納処分による差押に係る国税は当該滞納処分手続によって徴収することができなくなるため、徴収のため交付要求をすることが必要となる。しかし、他方、同条一項によれば、強制執行(競売)続行決定がなされた場合、同法の適用については、滞納処分による差押は強制執行による差押後になされたものとみなされるものの、続行決定後も滞納処分による差押の効力は全くなくなってしまうものではない。また、(三)でも述べるとおり、滞調法一〇条四項の規定により、この場合の交付要求は、他の一般の交付要求と異なり、先行する滞納処分による差押を基礎とするものとして、租税債権間の優劣に関する差押先着手主義が働くものとされている。したがって、この場合の交付要求は、執行競売手続との関連において滞納処分としての差押に続く強制換価をしえない代わりになされる滞納処分の続行手続とも評価しうる。

(三) また、滞納処分による差押は、担保としての性格をも有し(国税通則法四六条六項)、他の租税債権との間において差押先着手による租税の優先も確保されており(国税徴収法一二条、地方税法一四条の六)、この優先関係は、強制執行(競売)続行決定がされた場合においても、滞調法一〇条四項の規定により、同条三項の規定により交付要求をした限りにおいて維持されることになる。このように、滞調法が滞納処分による差押に基づく優先的地位を変動させないように配慮しているにもかかわらず、ひとり破産手続との関係においては滞調法に基づく強制執行(競売)続行決定により破産に先立って差押に着手した租税債権の優先的地位が失われるものと解釈することは、不合理である。

(四) さらに、原告が法律上の主張1(四)(1)で主張する結果の不当性のうち、随時弁済に伴う不利益については、破産管財人としては、多額の延滞税の負担を避けるために早期に徴税官庁と交渉して租税債権の弁済を行うのが通常であろうし、仮にそうでない場合にも、徴税官庁としては、破産裁判所に対して監督権の発動を促すこと(破産法一六一条、一六七条等)や破産管財人に対して損害賠償を請求すること(破産法一六四条)によって不当な結果の発生を大半防止できるものと解されるが、財団不足の場合の問題点については、管財人の報酬は財団債権たる租税債権に優先するとするのが最高裁判所の判例であること(最高裁判所第二小法廷昭和四五年一〇月三〇日判決民集二四巻一六六七頁参照)などからいっても、管財人報酬等を弁済した残額が案分弁済されることとなる結果、滞納処分に係る租税債権が全額満足を受けられなくなることもありうるという点で、租税債権の優先性が損なわれる結果となることは否めない。

(五) 被告は、滞納処分庁が破産法七一条一項に基づき優先的弁済を受けられるのは、滞納処分庁が、強制換価手続の主宰者として自らその滞納処分手続を進行させ、目的物件を換価して滞納処分手続を終了させたときのみであり、本件のように、滞調法上の続行決定によって強制換価手続の主宰者たる地位を喪失し、代わって登場した強制換価手続たる民事執行手続が終了した場合には、その手続においてもはや破産手続の存在を無視してまで優先的弁済を受けることはできなくなったものと解するのが相当と主張する。

確かに、破産法七一条一項は、徴税当局自身が、その人員と組織を利用し、強制換価手続の主宰者として自らその滞納処分手続を進行させ、目的物件を換価して滞納処分手続を終了させることに対する報償的側面をも考慮しているものと理解することも十分可能あり、また、実際にも、差押だけして、徴税当局において後の手続続行を怠り、続行の権限と利益を放棄したと認められても已むを得ない事態も生じていないわけではないから、このような滞納処分庁の対応は、同条項の趣旨に反するものとして批判を免れないものということができよう。

しかしながら、徴税官庁の人的物的組織の現状を直視しつつ、現行法の採用する制度をみるならば、(徴税当局において明らかに滞納処分続行の権限と利益を放棄したと認められるような場合において、事案に応じ、「滞納処分ヲ為シタル場合」に当たらないと解するなどして、妥当な解決を図ることを考慮すべき余地がないかどうかは一応措くとして、)必ず滞納処分庁自らが強制換価手続を完結するのでなければ右報償的性格に反するとまではいえず、また、一般に、続行決定がなされた場合には右の滞納処分続行の権限と利益を放棄したものと評価するということもできない。

すなわち、競売手続の続行決定の要件(滞調法一七条において準用する同法九条、八条)をみると、続行決定は、<1>法令の規定又はこれに基づく処分により滞納処分の手続が進行しないとき、<2>先行する差押が保全差押、繰上請求に基づく差押等であるとき、<3>相当期間内に公売その他滞納処分による売却がされない場合において、すみやかに売却をすべきことを徴収職員等に催告したにかかわらず、その催告の効果がないときに、なされた申請を相当と認めるとき、あらかじめ徴収職員等の意見をきいた上で決定される。そうすると、特に<3>については、一見、滞納処分続行の権限と利益を放棄したものと考えられないでもない。しかし、徴収職員は、国税徴収法一五一条のような滞納者の窮状等特殊事情を考慮した規定等に基づく社会政策上の配慮又は徴税技術上の配慮から滞納処分を進行させないこともあり、滞納処分の対象財産の状態に配慮して進行させないこともある。また、滞調法九条二項により、裁判所は、あらかじめ徴収職員の意見をきかなければならないが、右徴収職員の意見に拘束されずに続行決定をなしうるのであって、しかも、同条四項によれば、滞納処分庁は続行決定に対する不服申立を禁止されている。

(なお、原告は、右のような規定がなされた理由として、租税債権が続行決定後の競売手続において交付要求の方法により優先的な満足を受けることができるので、別段続行を阻止する必要がないからであると主張するのであるが、同条は必ずしも原告の主張するような理由で規定されたものと解する必要はないのであって、同条二項は執行裁判所が慎重に続行決定を行うための手続を定めた規定であり、また、同条四項は、手続の遅延を防止するため、徴収職員には決定前に意見を述べる機会が与えられていることにも鑑みて不服申立てを禁止した規定であると解すれば足りるのであるから、かかる規定の存在自体を租税債権の優先性が維持されていることの根拠とすることは相当でない。)

右の点からすると、続行決定は、前記のような滞納処分続行の権限と利益を放棄したというような場合を必ずしも前提としているものとはいえない。

(六) 破産法七一条一項について右のように解した場合には、租税債権については、滞納処分庁が自らその不動産を換価するまでもなく、別除権の付着した不動産に対して滞納処分を着手してさえいれば、その後の別除権の行使に便乗して、他の財団債権に優先して弁済を受けうることとなる。しかも、不動産について滞納処分をした滞納処分庁が、実際に、自らその不動産を換価している割合は低く、また、破産財団を構成する不動産別除権の対象ともなっていることが多いと考えられるから、かかる実情の下においては破産手続に参加した債権者の公平を害するおそれがあることは否定できない。

しかし、租税債権の公益的性格に鑑みその実現に優先的取扱を設けている現行法体系の下においては、かかる運用面における弊害をもって、前記解釈を否定すべき理由とまでは言えない。

6 以上検討したとおり、原告は本件配当金を滞納処分の実行として破産手続によらずに取得することができるものというべきであり、被告は右配当金を直接原告(滞納処分庁であり所管国税徴収機関である福岡税務署長)に交付すべきものである。そうすると、本件について、これと趣旨を異にする本件配当表の債権者福岡税務署の項の備考欄中「破産管財人中嶋繁樹に交付」との記載は違法であり、これを「原告(福岡税務署長)に交付する。」との記載に改めるのが相当である(右「破産管財人中嶋繁樹に交付」との記載を抹消すれば、本来の原則どおり債権者に交付すべきものとなると考えられるが、前記の趣旨を明らかにするため、「原告(福岡税務署長)に交付する」旨の記載を付記するのが妥当である。)。

五 結論

よって、本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 綱脇和久 川神裕 松藤和博)

物件目録 <略>

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