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福岡高等裁判所 平成21年(ネ)684号 判決 2010年2月04日

控訴人

X1<他2名>

上記三名訴訟代理人弁護士

波多江愛子

石田光史

被控訴人

福岡県

同代表者知事

麻生渡

同訴訟代理人弁護士

古賀和孝

岡崎信介

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人は、控訴人X1に対し、一億一〇四一万六二九五円及びこれに対する平成一六年九月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  控訴人X1のその余の請求を棄却する。

(3)  被控訴人は、控訴人X2に対し、二五〇万円及びこれに対する平成一六年九月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(4)  被控訴人は、控訴人X3に対し、二五〇万円及びこれに対する平成一六年九月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じ、控訴人X1に生じた費用の五分の一と被控訴人に生じた費用の五分の一を控訴人X1の負担とし、控訴人X1及び被控訴人に生じたその余の費用と控訴人X2及び控訴人X3に生じた費用を被控訴人の負担とする。

三  この判決は、第一項(1)、(3)、(4)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人X1に対し、一億三八〇九万七七〇八円及びこれに対する平成一六年九月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  主文第一項(3)、(4)と同旨

四  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

五  仮執行宣言

第二事案の概要(略称等は原判決の例による。)

一(1)  本件は、被控訴人の設置するa高校に二年生として在籍し、陸上部に所属していた控訴人X1(控訴人X1)並びにその両親である控訴人X2(控訴人X2)及び同X3(控訴人X3)が、控訴人X1が、陸上競技大会の棒高跳びの競技に同校の課外のクラブ活動の一環として参加していた際、跳躍中に空中でバランスを崩して落下した事故に関し、同校陸上部の顧問教諭であったA教諭には事故発生を予見して控訴人X1を本件試合に出場させないという安全確保義務を怠った過失があるとして、被控訴人に対し、国家賠償法一条一項に基づき、控訴人X1については一億三八〇九万七七〇八円及びその余の控訴人らについては各二五〇万円の損害賠償金並びにこれらに対する本件事故の日である平成一六年九月五日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

(2)  原審は、棒高跳びのような危険な技術を伴う競技については、クラブ活動の担当教諭は、いわば競技自体に内在する危険性とは区別される他の又は追加的な事故の危険性が具体的に予見される場合に初めてこれを防止する措置を執るべき注意義務を負うところ、本件試合当時、そのような他の又は追加的な事故の危険性が生じていたとは認めるに足りないし、A教諭においてそのような危険性があると具体的に予見することができたとも認めるに足りないなどとして、控訴人らの請求をいずれも棄却した。

(3)  控訴人らは、これを不服として、控訴した。

二  事案の概要は、原判決の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要等」に記載のとおりであるから(ただし、二頁二二行目の末尾に「A教諭は、自身も棒高跳びの選手だったものである。A教諭は、b大学体育学部体育学科を卒業してから本件事故当時に至るまでの間、三〇年以上、陸上競技部の顧問として生徒の指導に当たっており、その専門は主に跳躍である。」を加え、七頁二一行目の「無関係である」を「無関係である。」に改める。)、これを引用する。

第三当裁判所の判断

当裁判所の認定判断は、次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第三 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  一一頁五行目の「通院する必要はないと考えて」を削り、一二・一三行目の「足首の痛みも上記(4)の程度であって競技に支障はなく」を「足首の痛みはあるものの」に、一二頁一二行目の「後」を「後ろ」に改める。

二  一三頁二五行目から二一頁一九行目までを次のとおり改める。

「(2) これを本件についてみるに、そもそも棒高跳びは、一本の棒を使って地上数メートルの高さまでの跳躍を試みるという競技の性質上、本件事故のような事故の危険性を一定程度伴うものである(被控訴人の主張によれば、本件事故の原因は、控訴人X1の踏切り足が前方に一、二足くらい入りすぎたため突っ込みが遅れたことなどにあるというのであり、このことからも心身のわずかな不調が重大な事故につながり得ることがうかがわれる。)。そうであるところ、前記一で認定した事実によれば、控訴人X1は、本件試合の約三週間前に左足首をひねるという先行負傷を負っていたものであり、A教諭もそのことは認識していた。また、控訴人X1は、先行負傷を負った直後の国体選考会等への出場を棄権したほか、その後も、A教諭と相談の上、陸上部の他の選手とは異なる練習をしていたものである。さらに、A教諭は、本件試合の数日前ころ、控訴人X3から、先行負傷について靱帯が伸びていると診断されたことを聞いていた。そして、控訴人X1は、本件試合の前日、A教諭と相談の上、同日に行われる幅跳び及びリレーを棄権したものであり、同教諭は、控訴人X1が先行負傷により体調に不安を持っているために棄権を申し出たことを理解していたというのである。そのほか、A教諭は自身もかつて棒高跳びの選手であり、三〇年以上にわたり主に跳躍を専門として陸上競技部の生徒の指導に当たってきたもので棒高跳びという競技の上記危険性を熟知していたと考えられる(前記第二の二(1)イ)。これらの事情を総合すれば、A教諭は、遅くとも本件試合の前までには、控訴人X1が本件試合に出場すれば、棒高跳び本来の危険性のみならず、同控訴人の助走や跳躍にかかわる左足首の痛み、練習不足及び自身の体調に対して抱いている不安等も影響して、同控訴人の安全にかかわる事故が発生する危険があることを具体的に予見することが可能であったというべきである。したがって、A教諭は、控訴人X1に対して先行負傷の状態や同控訴人が体調に対して抱いている不安の内容等を具体的に確認した上、同控訴人に指示して本件試合への出場をやめさせるべき注意義務を負っていたものというべきである。

しかるに、A教諭は、上記注意義務を怠り、控訴人X1に対して先行負傷の状態や同控訴人が体調に対して抱いている不安の内容等を何ら尋ねることなく、同控訴人を本件試合に出場させたものであり、その結果、本件事故が発生したものである。

よって、被控訴人は、国家賠償法一条一項に基づき、本件事故によって控訴人らに生じた損害を賠償する責任を負う。

(3)ア これに対して、被控訴人は、控訴人X1は棒高跳びについてかなり高い能力、技能を有しておりその危険性を十分に知悉していたと主張する。しかしながら、控訴人X1は当時まだ高校二年生で、判断能力等の点において未熟であったというべきである。したがって、A教諭は、クラブ活動の担当教諭として、たとえ控訴人X1に高い能力や技能があるとしても、危険性のある競技に参加するか否かの判断をすべて生徒である同控訴人にゆだねるべきではなく、前判示の注意義務を負うというべきである。

また、被控訴人は、本件事故の原因は控訴人X1の足首の痛みとは無関係であるからA教諭に過失はない旨主張する。しかしながら、そもそもA教諭の注意義務の有無及び内容は控訴人X1が本件試合に出場する前に存した事情によって判断されるものであるから、事後的にみて足首の痛みが本件事故に結びついたといえないとしても、同教諭の過失に関する前記認定判断が左右されるものではない。また、控訴人X1の左足首の痛み、練習不足及び自身の体調に対して抱いていた不安等が本件事故に影響した可能性も否定できない。被控訴人の上記主張は理由がない。

さらに、被控訴人は、A教諭は、控訴人X1の試合前の練習を見るなどしてその足の状態が棒高跳びをするのに何ら支障がないことを確認している、練習の際の跳躍に危険な様子は全くなかったから、同教諭は本件事故を予見することができなかったなどと主張する。しかしながら、前記(2)の事情に照らせば、A教諭は、控訴人X3から靱帯が伸びていると聞いたほかは先行負傷について何ら医学的な情報等を得ていないのであるから、控訴人X1の練習状況等の外形的事情だけで同控訴人が本件試合に出場しても支障はないと即断するのではなく、前判示のとおり、控訴人X1に対して先行負傷の状態や同控訴人が体調に対して抱いている不安の内容等を具体的に確認すべきであったものである。被控訴人の上記主張は理由がない。

イ  なお、前記一で認定した事実によれば、控訴人X1を本件試合の約一週間前に診察したB医師は、控訴人X1から九月四日、五日に棒高跳びの試合があることを聞いたにもかかわらず、診察の上、症状は著明に改善し、腫れも圧痛もないと診断し、本件大会への出場を止めなかったものである。そして、控訴人X1は、このような医師の診断を受けていたほか、自らも、体調に不安はあるものの、棒高跳びを跳ぶことができるという自信があったことから、棒高跳びは棄権したくないと考えて、本件試合の前日に幅跳び及びリレーを棄権したものである。そうすると、A教諭が前記(2)のとおり控訴人X1に対し先行負傷の状態等を確認し、本件試合に出場しないよう指示したとしても、同控訴人は、医師からは本件大会への出場を止められていない、確かに足首の痛みはあるものの、自分には跳ぶ自信があるから本件試合に出場したいなどと述べた可能性がある。

しかしながら、控訴人X1は当時まだ高校二年生であり、判断能力等の点において未熟であったというべきである。他方、A教諭は、前判示のとおりもともとクラブ活動の担当教諭としてその指導監督に従って行動する生徒を保護すべき立場にある上、自身もかつて棒高跳びの選手であり、三〇年以上にわたり主に跳躍を専門として陸上競技部の生徒の指導に当たってきたもので棒高跳びという競技の上記危険性を熟知していたものと考えられる。したがって、A教諭は、たとえ控訴人X1が上記のとおり述べたとしても、前判示の注意義務を免れることはできないのであり、担当教諭として、同控訴人に指示して本件試合への出場をやめさせるべきであったといえる(なお、本件全証拠によっても、同教諭が上記のとおり指示したにもかかわらず、控訴人X1がその指示に従わず無理矢理本件試合に出場したであろうという事情はうかがわれない。)。

三  争点二(損害額)に対する判断(控訴人X1の損害額について)

(1)  前記第二の二(4)の事実に《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

ア 控訴人X1は本件事故によって第六頸椎脱臼骨折の傷害を負い、本件事故の当日である平成一六年九月五日に救急車で久留米大学病院に搬送され、その日のうちに独立行政法人労働者健康福祉機構総合せき損センター(以下「せき損センター」という。)に転送された。控訴人X1は、同日から平成一七年二月二日までの間、せき損センターに入院した。

イ 控訴人X1は、手術を受けたものの、平成一六年一二月六日ころには、両上下肢機能障害(全廃)及び神経因性膀胱直腸障害の後遺障害が固定して残存した。具体的には、控訴人X1は、寝返りすること、いすに腰掛けること、立つこと、洋式便器に座ること、排泄の後始末をすること、コップで水を飲むこと、シャツを着て脱ぐこと、顔を洗いタオルでふくこと、屋外を移動すること、公共の乗り物を利用することなどについていずれも全介助を要するか又はできない状態であり、家の中の移動には車いすを必要とし、食事や歯磨きには自助具を必要とする状態である。

(2)  治療費 一六一万六五〇八円

ア 医療費 一五七万八六三五円

控訴人X1は本件事故の日から平成一七年二月二日まで入院し治療を受けたものであるところ(前記(1)ア)、《証拠省略》によれば、上記期間の医療費等として一五七万六〇七〇円が支払われたことが認められる。また、《証拠省略》によれば、控訴人X1は、退院後間もない平成一七年二月八日及び同月一八日に病院に通院し、医療費として二五六五円が支払われたことが認められる。これらはいずれも必要かつ相当な費用であると認めることができる。

イ 《証拠省略》によれば、控訴人X1はリハビリのために北海道小樽市の施設を訪れたこと、その際リハビリ費用等が支払われたことが認められる。しかし、本件全証拠によっても、控訴人X1がリハビリのために小樽市を訪れる必要性を認めるに足りない。

ウ 文書代・コピー代 三万七八七三円

《証拠省略》によれば、診断書料等として三万七八七三円が支払われたことが認められる。これは必要かつ相当な費用であると認めることができる。

(3)  付添介護費 三五八六万一八七五円

ア 入院付添費 一〇五万円

控訴人X1は平成一六年九月五日から平成一七年二月二日まで入院し治療を受けたものであるところ(前記(1)ア)、《証拠省略》によれば、この間、控訴人X3等が付き添って看護したことが認められる。控訴人X1は、入院付添費として一日当たり七〇〇〇円を一五〇日間分請求しているところ、前記(1)イのとおり同控訴人の症状が極めて重篤であること、同控訴人は当時一六歳であったことなどを考慮すれば、その全額を相当と認めることができる。

イ 将来介護費 三四八一万一八七五円

控訴人X1は、将来介護費として一日当たり五〇〇〇円を平均余命である六三年間分(五〇〇〇円×三六五日×一九・〇七五(六三年のライプニッツ係数)=三四八一万一八七五円)請求しているところ、前記(1)イの控訴人X1の後遺障害の内容からすれば、控訴人X1は、今後上記期間にわたって常時介護を要する状態であると認められる。したがって、控訴人X1が請求する全額を相当と認めることができる。

ウ 《証拠省略》によれば、控訴人X1は、平成一八年五月から同年一二月までの間、一か月当たり一回ないし九回デイサービス等を利用したこと、その一回当たりの費用は、最も高い同月分で約一六〇〇円であることが認められる。そうすると、上記デイサービス等に要した費用は前記イの将来介護費に含まれるというべきである。

(4)  雑費 四八〇万二二一二円

ア 入院雑費 二五万五〇〇〇円

控訴人X1が請求するとおり、一日当たり一七〇〇円を一五〇日間分認めるのが相当である。

イ 将来の雑費 四五四万七二一二円

前記(1)イの事実に《証拠省略》を総合すると、控訴人X1は両上下肢機能全廃の障害を負っており、褥瘡を予防する必要がある上、神経因性膀胱直腸障害の障害を負っていることから排便をコントロールできないこと、そのため、リハビリパンツ、尿取りパッド(昼用)(夜用)、ベビーオイル、おしりふき、お手入れコットン、サランラップ、サージカルテープ及びゴム手袋の購入費として年間二三万八三八六円を要することが認められる。したがって、将来の雑費として、次のとおり、平均余命である六三年間分合計四五四万七二一二円を認めるのが相当である。

二三万八三八六円×一九・〇七五(六三年のライプニッツ係数)=四五四万七二一二円(円未満切捨て。以下同じ。)

これに対して、控訴人X1は、リハビリの際の水分補給に必要であるとして有機ルイボス茶及びアクエリアスの購入費をも請求している。しかし、これらは通常の生活を送る上でも必要となる可能性のある費用であるから、本件事故による損害と認めることはできない。

(5)  通院交通費等 一一万二八八七円

ア せき損センター宿泊費 二万四一五〇円

《証拠省略》によれば、控訴人X3は控訴人X1がせき損センターに入院していた際にせき損センターに宿泊したことがあり、そのための費用として合計二万四一五〇円が支払われたことが認められる。前記(1)イのとおり控訴人X1の症状が極めて重篤であること、同控訴人は当時一六歳であったことなどを考慮すれば、控訴人X3が宿泊して付き添ったことは相当であるといえるので、上記宿泊費を損害と認めるのが相当である。

イ せき損センター交通費 八万八七三七円

控訴人X1は、せき損センターに入院中に近親者が介助のために通院するのに要した交通費として、有料道路料金三万六五五〇円及びガソリン代九万八三一二円を請求する。

この点、《証拠省略》によれば、控訴人X1がせき損センターに入院していた平成一六年九月五日から平成一七年二月二日までの有料道路料金として七五回分二万七八〇〇円を認めることができる。また、弁論の全趣旨によれば、上記七五回分のガソリン代として六万〇九三七円(五〇km÷八km×一三〇円×七五回)を認めることができる。

ウ 控訴人X1は、リハビリを行うために北海道小樽市を訪れるのに要した費用等をも請求している。しかし、前記(2)イのとおり、その必要性を認めることはできない。

(6)  家屋・自動車等改造費 七九〇万八三〇一円

ア 家屋改造費 三五四万七七九九円

《証拠省略》によれば、控訴人X1が自宅で生活するために家屋改造費等として合計三五四万七七九九円が支払われたことが認められる。前記(1)イのとおり、控訴人X1は日常生活動作のほとんどに全介助を要し、家の中の移動には車いすを必要とする状態であるから、上記家屋改造費等は必要かつ相当なものと認められる。

イ 装具代・用具代 五七万〇九〇八円

《証拠省略》によれば、控訴人X1の装具代・用具代として合計五七万〇九〇八円が支払われたことが認められる。前記(1)イの控訴人X1の後遺障害の内容からすれば、上記装具代・用具代は必要かつ相当なものと認められる。

ウ 車いす 三七万七九五九円

《証拠省略》によれば、控訴人X1の車いす等の購入費等として合計三七万七九五九円が支払われたことが認められる。前記(1)イの控訴人X1の後遺障害の内容からすれば、上記装具代・用具代は必要かつ相当なものと認められる。

エ 車購入・車改造 三四一万一六三五円

《証拠省略》によれば、控訴人X1が車いすで乗車できるように、自動車が買い替えられ、そのために合計三〇七万六九一〇円が支払われたこと、控訴人X1が自動車免許を取得するために自動車学校に通った際、教習車を改造するために八万八七二五円が支払われたことが認められる。前記(1)イの控訴人X1の後遺障害の内容からすれば、上記自動車購入代金等は必要かつ相当なものと認められる。

また、《証拠省略》によれば、控訴人X1が運転するためにもう一台自動車が購入され(代金一〇五万円)、控訴人X1がこれを運転できるように改造するために二四万六〇〇〇円が支払われたことが認められる。このうち、改造費二四万六〇〇〇円については必要かつ相当なものと認められるが、購入代金については本件事故との因果関係を認めることができない。

(7)  逸失利益 八七二〇万三五四四円

控訴人X1は、男性労働者の大学卒・全年齢平均賃金(平成一六年度賃金センサスにより、六五七万四八〇〇円)を逸失利益の基礎収入とすべきである旨主張する。控訴人X1は本件事故の後に大学に入学したことなどによれば、本件事故当時、同控訴人は大学に入学し、二二歳から就労を開始する蓋然性があったものと認められ、男性労働者の大学卒・全年齢平均賃金を逸失利益の基礎収入とするのが相当である。そして、前記(1)イの控訴人X1の後遺障害の内容に照らせば、控訴人X1は、その後遺障害によって、二二歳から六七歳までの就労可能期間において、労働能力を完全に喪失したものと認めることができる。

したがって、控訴人X1の逸失利益は、次のとおり、八七二〇万三五四四円と認められる。

六五七万四八〇〇円×一〇〇%×(一八・三三九〇(六七歳までのライプニッツ係数)-五・〇七五七(二二歳までのライプニッツ係数))=八七二〇万三五四四円

(8)  慰謝料 三〇五〇万円

ア 傷害慰謝料

控訴人X1の入院期間等を考慮すると、傷害慰謝料として二五〇万円を認めるのが相当である。

イ 後遺障害慰謝料

前記(1)イの控訴人X1の後遺障害の内容等を考慮すると、後遺障害慰謝料として二八〇〇万円を認めるのが相当である。

(9)  損害のてん補

控訴人X1が、独立行政法人日本スポーツ振興センターから医療費及び障害見舞金等として合計五七五八万九〇三二円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

(10)  控訴人X1の損害額

前記(2)から(8)までの損害の合計額(一億六八〇〇万五三二七円)から同(9)の金額を控除すると、控訴人X1の損害額は一億一〇四一万六二九五円となる。

四  争点二(損害額)に対する判断(控訴人X2及び同X3の損害額について)

前記三(1)イのとおり、控訴人X1は本件事故により極めて重篤な後遺障害を負ったものであり、《証拠省略》によれば、控訴人X2及び同X3は、子の将来の成長への楽しみを奪われ、将来に不安を抱きながら控訴人X1を介護する生活を余儀なくされるに至ったことが認められる。その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、控訴人X2及び同X3の慰謝料としてそれぞれ二五〇万円ずつを認めるのが相当である。」

第四結論

以上の次第で、控訴人X1の請求は、損害賠償金一億一〇四一万六二九五円及びこれに対する本件事故の日である平成一六年九月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がなく、控訴人X2及び同X3の請求はいずれも理由がある。

よって、原判決を変更することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古賀寛 裁判官 川野雅樹 齋藤毅)

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