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福岡高等裁判所 平成21年(ラ)49号 決定 2009年6月01日

抗告人兼被抗告人(以下「原審申請人」という。)

被抗告人兼抗告人(以下「原審被申請人」という。)

株式会社佐賀銀行

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

松坂徹也

髙松直史

中村匠吾

柴山真人

主文

1  原審被申請人の抗告に基づき、原決定を次のとおり変更する。原審申請人の申請を却下する。

2  原審申請人の抗告を棄却する。

3  手続費用は第1、2審とも原審申請人の負担とする。

理由

第1本件抗告の趣旨

1  原審申請人

(1)  原決定を原審申請人勝訴の部分(原決定主文第1項)を除き原決定添付別紙記載の[不許可部分]を取り消し、改めて次のとおり決定する。

(2)  原審被申請人が、平成17年10月1日から平成19年8月31日までの期間に開催した『株式会社東峰住宅』の売却、譲渡(M&A)に関する取締役会の議事録及び『株式会社東峰住宅』を穴吹興産株式会社に売却、譲渡した件に関する一切を協議、承認、決定した取締役会のすべての議事録を原審申請人が謄写することを許可する。

(3)  抗告費用は原審被申請人の負担とする。

2  原審被申請人

主文第1項同旨

第2事案の概要等(以下、略称は原決定の表記による。)

1  事案の概要

本件は、原審被申請人の株主である原審申請人が、会社法371条2項、3項により、株主の地位に基づいて、上記第1、1(2)の原審被申請人の取締役会議事録(以下「本件取締役会議事録」という。)の謄写の許可を求めた事件である。

原審は、原審申請人の申請の一部を認容して、その余を却下したので、これを不服とする当事者双方が即時抗告した。

2  前提となる事実及び当事者の主張は、原決定2頁6行目から同8頁18行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

第3当裁判所の判断

1  上記第2、2の前提となる事実及び本件記録によれば、本件M&A後の状況は以下のとおりであったことが認められる。

(1)  平成19年5月10日、穴吹興産が買手となって東峰住宅の本件M&Aが成立したが、その後、同月16日ころから3回にわたり、原審申請人は、原審被申請人に対し、質問状を送付し、本件M&Aには原審申請人が関与していたのに、新生銀行が原審申請人を排除して成立させたと主張して、本件M&Aへの新生銀行や原審被申請人の関与について回答を求めた。

(2)  原審被申請人は、当初、上記質問状を無視していたが、平成19年6月26日ころ、原審申請人に対し、上記質問には答えられない旨を回答した。すると、原審申請人は、同年7月4日、原審被申請人の株式1000株を取得し、同月16日、原審被申請人に対し、本件取締役会議事録の閲覧・謄写を求め、さらに、原審被申請人からこれを拒絶されたため、同年9月7日、本件申請をした。

(3)  原審申請人は、上記(2)の閲覧・謄写請求書において、「株主として、原審被申請人の主導により東峰住宅をいかに整理し、貸付金をどのくらい回収したか、その額が他行が回収した金額と比べてどのような比率であったかを知る権利がある」と主張する一方、「今後この取引に関与した新生銀行、その行員及びその他会社に対する不正競争防止法による提訴を準備中である」と主張し、また、本件申請書においては、「一株主として、原審被申請人が実質的管理を行っていた東峰住宅をいくらの金額で整理して貸付金の回収を図り、いくら償却して銀行経理を処理したかを知る権利がある」「万一、経理処理(売却金)が適正に行われていなかったと判断される場合は、取締役に対する賠償責任追及、或いは背任行為での訴追を勘案する局面があるかも知れない」と主張する一方、「新生銀行が原審申請人に、東峰住宅との交渉参加の仲介を依頼した経緯から、原審申請人は、原審被申請人に対して、新生銀行が原審被申請人を訪問したいきさつを丁寧に質問したり、顧問弁護士から問合せがあっても、一切拒否し続けている。原審被申請人が、東峰住宅の売却という決断をしたのは、原審申請人の働きかけによることが大きかったと、感謝の意を表しながら、『見ざる、聞かざる、言わざる』の態度を示すのは、道義的にも原審申請人を無視することであり、公序良俗にも反するといえる」と主張して、原審被申請人の上記(2)の対応を非難している。

(4)  原審申請人は、平成19年10月ころ、福岡地方裁判所に対し、新生銀行及び穴吹興産を相手に、原審申請人を本件M&Aから排除するなどしたと主張して、不正競争防止法等に基づく損害賠償として、仲介人として得べかりし利益金相当額3000万円の支払を求める訴えを提起し、さらに、平成20年4月21日、上記訴訟について、「万一、原審申請人が、本件訴訟で敗訴したときには、原審申請人としては、原審被申請人に対し損害賠償請求を行い得るものと考える。」と主張して、原審被申請人を被告知人とする訴訟告知の申立てをした。(疎乙21)

2  以上のとおり、原審申請人は原審被申請人が本件M&Aに関する質問を拒絶したことから、新たに原審被申請人の株式を取得して本件申請をし、現在、本件M&Aの関係者である新生銀行及び穴吹興産を相手に訴訟を追行し、さらには、原審被申請人を当事者として引き込むため訴訟告知をしているものであって、このような一連の原審申請人の行動をみると、原審申請人は、株主の地位に仮託して、個人的な利益を図るため本件M&Aを巡る訴訟の証拠収集目的で本件申請をしたものと認めるのが相当である。しかして、M&Aを進めるべきか否かの原審被申請人取締役会の審議の内容が企業秘密たる事項であることは明らかであるところ、これらの記載部分が閲覧・謄写されることになれば、原審被申請人の将来の事業実施等についても重大な打撃が生じるおそれがあるのであって、このことは原審被申請人の全株主にとっても著しい不利益を招くおそれがあると認められる。

そうすると、本件申請は、会社法371条2項にいう「株主の権利を行使するため必要であるとき」という要件を欠くか、或いは権利の濫用に当たるというべきであって、これを許可することはできない。

第4結論

以上によると、本件申請は許可すべきではないから、原審被申請人の抗告に基づいて原決定を変更し、原審申請人の抗告は棄却することとする。

(裁判長裁判官 牧弘二 裁判官 川久保政德 塚原聡)

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