福岡高等裁判所 平成21年(行コ)25号 判決 2009年11月27日
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 差戻前の控訴審,上告審及び差戻後の当審における訴訟費用は,参加によって生じた費用を含め,控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が,控訴人らに対して,それぞれ平成16年3月23日付けでした一般廃棄物処理業の各不許可処分及び浄化槽清掃業の各不許可処分をいずれも取り消す。
第2事案の概要(以下,略称は,原則として原判決に従う。)
1(1)ア 控訴人らは,大野広域連合長A(以下「大野広域連合長」という。)に対し,①廃棄物処理法7条1項に基づき,一般廃棄物のうち,し尿汚泥の収集及び運搬を業として行うことの許可申請,及び②浄化槽法35条1項に基づき,浄化槽清掃を業として行うことの許可申請をしたところ,いずれも不許可処分を受けたことから,その取消しを求めて提訴した。
イ 原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却したので,控訴人らが控訴した。
(2)ア 差戻し前控訴審は,上記(1)ア①の請求を棄却すべきものとしたが,同②の請求につき,以下の理由により,これを認容して,本件清掃業不許可処分を取り消した。
(ア) 補助参加人は,大野郡8か町村の住民等からし尿汚泥の収集運搬の要請(契約の申込み)があった場合には,特段の事情のない限り,条例で定める手数料の額で,これに応ずる義務(業務引受義務)がある。
(イ) 控訴人らがした浄化槽清掃業の許可申請は,仮に一般廃棄物収集運搬業の許可が得られない場合には,控訴人らが行う浄化槽の清掃により引き出される汚泥等の収集運搬を補助参加人に依頼することを前提としていることは明らかであり,補助参加人には業務引受義務があることにかんがみれば,控訴人らは上記汚泥等の収集運搬を補助参加人に業務委託することができる体制にあったというべきであるから,控訴人らが浄化槽法36条2号ホ所定の欠格事由に該当することを理由としてされた本件清掃業不許可処分には違法がある。
イ これに対し,被控訴人が上告受理の申立てをした。なお,控訴人らは,上記(1)ア①の請求につき,原審及び差戻し前控訴審で敗訴し,上告も上告受理の申立てもしなかったため,この敗訴判決は確定した。したがって,当審では,上記(1)ア②の請求のみが審判対象となる。
(3) 上告審は,本件を上告審として受理し,以下の理由により,同人らの敗訴部分を破棄して当審に差し戻した。
ア 「浄化槽清掃業の許可申請者が,浄化槽の清掃により引き出される汚泥等の収集運搬につき,これに必要な一般廃棄物処理業の許可を有しておらず,また,他の一般廃棄物処理業者に業務委託すること等により適切に処理する方法も有していない場合には,上記許可申請者は,浄化槽法36条2号ホにいう「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に当たると解するのが相当である(最高裁平成4年(行ツ)第122号同5年9月21日第三小法廷判決・裁判集民事169号807頁参照)。」
イ 「前記事実関係によれば,本件処理計画においては,大野郡8か町村の区域内でのし尿汚泥の収集運搬及び浄化槽の清掃については,許可業者である上告補助参加人1社で行うことが前提とされていたというのであるが,これは,上記区域内における浄化槽の清掃とこれにより引き出される汚泥等の収集運搬については,両者を一体として併せて上告補助参加人1社に行わせるという趣旨であると解され,本件収集運搬業不許可処分及び本件許可処分は,このような本件処理計画の趣旨の下にされたものということができる。そうであるとすれば,上告補助参加人としては,大野郡8か町村の住民等から浄化槽の清掃とこれにより引き出される汚泥等の収集運搬とを併せて依頼された場合に,これを引き受けて業務を適切に行いさえすれば,本件処理計画に従った業務を遂行しているということができるのであり,これを超えて,他の事業者が行う浄化槽の清掃により引き出される汚泥等につき収集運搬を行うことを義務付けられる理由はないというべきである。」
ウ 「本件清掃業不許可処分がされた当時において,被上告人らが行う浄化槽の清掃により引き出される汚泥等の収集運搬につき,被上告人らと上告補助参加人との間で業務委託契約が締結される見込みがあったのかどうかなどの事実について審理を尽くすことなく,上告補助参加人の業務引受義務を根拠に,被上告人らは上記汚泥等の収集運搬を上告補助参加人に業務委託することができる体制にあったとして,本件清掃業不許可処分に違法があるとした原審の判断は,以上の点を正解しないものであり,同判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。」
2(1) 本件における争いのない事実,争点及びこれに対する当事者の主張は,以下(2)のとおり原判決を加除訂正するほかは,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の「1 争いのない事実等」,「2 争点」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2) 原判決の加除訂正
ア 原判決3頁21行目末尾の次に,改行の上,以下のとおり加える。
「なお,αは,それに先立つ同年1月1日付けで,臼杵市と合併し,大野広域連合から離脱した。」
イ 同6頁5行目末尾の次に改行の上,以下のとおり加える。
「ウ 控訴人らは,被控訴人に対し,平成18年4月1日からの期間の一般廃棄物(し尿汚泥)収集運搬業許可申請及び浄化槽清掃業許可申請を行ったが,いずれも不許可処分がなされた。」
ウ 同15頁21行目の末尾に改行の上,以下のとおり加える。
「 事実,控訴人Bと補助参加人との間においては,以下の業務委託関係が存在した。
ア 平成13年3月に設立された控訴人Bにおいては,当初から浄化槽の保守点検業務を行っていたが,浄化槽に関する清掃,収集運搬業の許可がなされないことから,補助参加人に対し浄化槽の清掃,収集運搬の業務を委託することとなった。
イ 具体的には,平成13年5月ころから,控訴人Bの業務担当者名で,補助参加人宛てに,清掃作業先の連絡先等を記載した「浄化槽清掃作業について」と題する書面をファクシミリ送信し,これを受け取った補助参加人から控訴人Bに対して電話で委託の受理が伝えられていた。
平成14年4月からは,毎月,補助参加人に対し,控訴人B担当者名で浄化槽清掃作業予定表をファクシミリ送信し,平成18年1月からは,補助参加人から控訴人Bに対し,上記予定表の委託内容について,報告書が返信されている。
ウ 以上のとおり,控訴人Bと補助参加人の間には,業務委託契約書は存在しないものの,業務委託契約が継続している。」
第3当裁判所の判断
1 訴えの利益の有無について
(1) 浄化槽法35条2項によれば,浄化槽清掃業の許可には,期限を付することができるとされており,大野広域連合廃棄物の処理及び清掃に関する条例(平成12年4月20日条例第7号)25条及び同条例施行規則11条,13条2項1号によれば,浄化槽清掃業の許可の有効期間は,当該許可のあった年の4月1日から翌々年の3月31日までの2年間であり,その許可申請は,当該許可を受けようとする年の前年の12月1日から同月27日までの期間に行わなければならないこととされている(甲ハ14)。
控訴人らの本件清掃業許可申請は平成15年12月1日になされたものであり,平成16年4月1日から平成18年3月31日までの期間の浄化槽清掃業を対象としたものであることが明らかであるが,現在においては既にその許可の有効期間の終期を経過していることもまた明白である。
そうであれば,本件清掃業不許可処分が取り消されたとしても,控訴人らはもはや本件清掃業許可申請に基づく許可処分に基づいて所期の事業活動をする余地はないものというほかない。この点につき,控訴人らは,本件清掃業不許可処分には不許可とした期間の記載はなく,許可期間は許可があった時から2年間であると解すべきである旨主張するが,採用の限りではない。
(2) しかしながら,本件清掃業不許可処分の取消しを求める本件訴訟は訴えの利益を欠くとする被控訴人の主張を採用することはできない。
なぜなら,本件清掃業許可申請に基づく許可処分のように,当該許可の有効期間が比較的短期間であり,しかも,それが反復して継続され,実質的には一種の「許可の更新」のような感を呈している場合には,当該不許可処分の取消訴訟を提起しても,その審理中に当該有効期間が経過してしまうことは十分あり得ることである(上級審まで考慮に入れるならば,当該有効期間内に不許可処分取消しの判決が確定することはむしろ稀であるといえる。)。それにもかかわらず,当該有効期間が経過したことを理由として,不許可処分取消訴訟が訴えの利益を欠くことになるというのであれば,処分取消しの訴えは著しくその意義を殺がれることにならざるを得ず(その後になされた不許可処分について,新たに取消訴訟を提起してみてもほとんど同じことである。),ひいてはこの種の処分取消訴訟の制度趣旨を没却することにもなりかねない。
そうであれば,本件の場合の控訴人らは,行政事件訴訟法9条1項括弧書の原告適格を有するものと解すべきであり,本件訴訟には,上記有効期間経過後においてもなお訴えの利益があるものというべきである。
(3) なお,控訴人らは,平成17年4月1日から平成19年3月31日までの期間の浄化槽清掃業の許可申請をしており,これに対しても不許可処分がなされ,同不許可処分が確定していることは,争いのない事実等(5)のとおりであるが,そのことが訴えの利益の有無を含めて本件訴訟の行方に影響を及ぼすことはない。
2 本件清掃業不許可処分の違法性の有無
(1) 浄化槽清掃業の許可申請者が,浄化槽の清掃により引き出される汚泥等の収集運搬につき,これに必要な一般廃棄物処理業の許可を有しておらず,また,他の一般廃棄物処理業者に業務委託すること等により適切に処理する方法も有していない場合には,上記許可申請者は,浄化槽法36条2号ホにいう「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に当たると解するのが相当である(前記最高裁平成5年9月21日第三小法廷判決)。
(2) 原判決判示のとおり,大野広域連合長は,浄化槽の清掃により引き出された汚泥,スカム等を適正に処理する体制が確認できないとして,控訴人らに対して本件清掃業不許可処分をしたところ,本件清掃業許可申請当時,控訴人らが一般廃棄物(し尿汚泥)の収集運搬業の許可を有していなかったことに争いはなく,また,本件収集運搬業不許可処分は適法であり(控訴人らの同処分取消請求は当審(差戻し前)において棄却され既に確定している(顕著な事実)。),結局,控訴人らは浄化槽の清掃によって生じる汚泥等の収集,運搬をするために必要な一般廃棄物(し尿汚泥)処理業の許可を有しておらず,当面有する可能性もなかったといえる。
(3) そこで,さらに,控訴人らが浄化槽の清掃により引き出される汚泥等の収集運搬につき,他の一般廃棄物処理業者に業務委託すること等により適切に処理する方法を有していたか否かについて検討する。
ア 控訴人らは,仮に一般廃棄物(し尿汚泥)収集運搬業の許可を得られなかったとしても,補助参加人に汚泥等の収集運搬を委託することになるのであって,汚泥等を適正に処理する体制を整えることはできる旨主張する。
(ア) しかしながら,控訴人B代表者は,本件清掃業不許可処分がされた当時において,同社と補助参加人との間において,浄化槽の清掃により引き出される汚泥等の収集運搬を補助参加人に委託する旨の業務委託契約が締結された事実を否定する供述をなしている(当審(差戻し前)控訴人B代表者218ないし233項)ところであり,その他本件全証拠によっても,本件清掃業不許可処分がされた当時において,控訴人らと補助参加人との間において,浄化槽の清掃により引き出される汚泥等の収集運搬を補助参加人に委託する旨の業務委託契約が締結された事実は認められず,また,締結の見込みがあったと認めるに足りない。
(イ) この点,控訴人Bは,同社が保守点検を行っている顧客について,平成13年5月ころから,補助参加人との間の業務委託契約に基づき,同社に対し,浄化槽の清掃及びこれより引き出される汚泥等の収集運搬(以下「清掃及び収集運搬」という。)を委託していた旨主張し,証拠(甲ハ47,48,控訴人B代表者)及び弁論の全趣旨によれば,平成13年5月ころから,控訴人Bが保守点検を行った浄化槽について,同社から補助参加人に通知をなし,補助参加人がその清掃及び収集運搬を請け負った事実(以下「本件事実」という。)が認められる。
しかし,本件事実は,清掃及び収集運搬を補助参加人が請け負うもので,控訴人Bが清掃した浄化槽から引き出される汚泥等の収集運搬を補助参加人に委託したものとはいえないから,これによって,控訴人Bが汚泥等を適正に処理する体制を整えていると評価することはできない。
また,控訴人Bは,浄化槽保守点検の登録業者であるところ,浄化槽の保守点検業者の登録に関する条例(昭和60年12月25日大分県条例第36号・丙24)9条6項によれば,「浄化槽保守点検業者は,浄化槽の保守点検を行った場合において,当該浄化槽について清掃が必要であると認められたときは,速やかに浄化槽管理者及びその者が当該浄化槽の清掃を委託している場合にあっては委託を受けている浄化槽清掃業者に通知しなければならない。」とされており,本件事実は,浄化槽の保守点検を行った控訴人Bが,上記条項に基づき,顧客が浄化槽清掃を委託している補助参加人に対して,浄化槽の清掃が必要である旨通知したものと解せられるから,補助参加人との間で,清掃及び収集運搬に関する請負契約を締結したのは,浄化槽管理者であると認めるのが相当であって,控訴人Bが同契約を締結したと認めることはできない。
さらに,請負契約締結の見込みについて,各業者の手間や費用,採算性等の点からの具体的可能性を検討しても,争いのない事実のとおり,大野広域連合の定めた平成16年度の一般廃棄物処理計画においては,一般廃棄物(し尿汚泥)収集運搬業について,補助参加人1社のみを許可業者とする趣旨が含まれていることが認められるところ,その許可に裁量権逸脱の違法等はないことは,原判決第3,2(1)ないし(3)判示のとおりであるところ,甲ハ46ないし48と当審(差戻し前)における控訴人B代表者本人(235項ないし248項)によれば,大野広域連合管轄地域における世帯数のうちの30数パーセントの世帯について補助参加人とは末契約で,本件事実のような作業経過がとられたこと,控訴人Bは豊後大野市βに,同Cは同市γに本店があるが,同町等には上記末契約の住民もいることが認められる。しかしながら,控訴人Bにおいて,浄化槽保守点検の登録業者として点検等に際して少量の汚泥等を扱うことがないとはいえないものの,清掃の際には,多量のし尿や汚泥を扱い,さらに搬出,処理場への運搬をすることになるものである。そして,これらの一連の作業を別々の業者が担当することが効率的とはいえないことは明らかであり,その結果が手数料や作業内容等に反映することが考えられ,これが公共性低下の要因ともなって住民に不利益な結果を招くことも懸念されることも考慮すれば,控訴人らによる将来の補助参加人への運搬業務委託の可能性は,極めて乏しいといわなければならない。
イ したがって,控訴人Bと補助参加人との間において,控訴人Bが行った浄化槽の清掃により引き出される汚泥等の収集運搬を補助参加人に委託する旨の業務委託契約が締結されたと認めるに足る証拠はなく,また,締結の可能性があると認めることもできないものといわざるを得ず,控訴人らの主張は採用できない。
(4) 以上のとおり,控訴人らは,浄化槽清掃によって生じる汚泥等の収集運搬につき,これに必要な一般廃棄物処理業の許可を有しておらず,他の廃棄物処理業者に業務委託すること等により適切に処理する方法も有していなかったことから,汚泥等を放置したり,不法投棄するなどの相当程度の蓋然性があり,浄化槽法36条2号ホの「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者」に該当するといえる。よって,本件清掃業不許可処分に違法性は認められず,その取消しを求める控訴人らの請求に理由はない。
第4結論
よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないので,これを棄却する。
(裁判長裁判官 牧弘二 裁判官 川久保政徳 裁判官 塚原聡)