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福岡高等裁判所 平成23年(ラ)115号 決定 2012年2月23日

抗告人(養父となる者)

抗告人(養母となる者)

事件本人(養子となる者)

主文

1  原審判を取り消す。

2  事件本人Aを抗告人Xと同Yの特別養子とする。

理由

第1抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨及び理由は,別紙「即時抗告申立書」のとおりであるから,これを引用する。

第2当裁判所の判断

1  本件は,児童相談所から紹介を受けて事件本人と面会等の交流を続けていた抗告人らが,事件本人との特別養子縁組を申し立てた事案である。

原審が,本件申立て時には事件本人が6歳に達しており,抗告人らによる事件本人の監護は,事件本人が6歳になってから受けた里親委託決定によるものであるから,特別養子縁組のうち年齢に関する要件(民法817条の5)を満たさないとして,本件申立てを却下したため,抗告人らがこれを不服として即時抗告をした。

2  一件記録によって認められる事実関係は,後記(1)ないし(5)のとおり原審判を補正するほかは,原審判の「理由」欄の2(1)に判示のとおりであるから,これを引用する(なお,以下,原審判を摘示ないし引用する場合は,「原審判2(1)」のように表記し,当審において補正があるときは,補正後のものによる。)。

(1)  2頁9行目の「センター」の次に,「(児童福祉法12条にいう児童相談所。以下「本件機関」ともいう。)」を加える。

(2)  2頁10行目の「同センターから」の次に,「生後間もなく「a乳児院」(児童福祉法37条にいう乳児院,以下「本件施設」という。)に入所していた」を加える。

(3)  2頁14行目の「続けていたところ,」の次に,「平成20年×月頃,同月下旬頃には,里親委託の決定がされて同年×月初め頃から養子となる者(事件本人)を監護する予定となった。しかし,養親となるべき抗告人Yに手術を受ける必要が生じたため,これが延期となった。抗告人Yは,同年×月には職場復帰したが,里親委託決定がされないうちに」を加える。

(4)  2頁19行目の「というものであった」を,「というものであり,その後も,ほぼ毎週末に1泊2日の外泊を行い,特に,平成20年×月×日から平成21年×月×日までは4泊5日で外泊を行っている」と改める。

(5)  2頁30行目の「事件本人は」の前に,「抗告人らは,本件機関から,事件本人との特別養子縁組が認められる可能性があると示唆されていたものであるが,」を加える。

3  特別養子となる者の年齢は,原則として申立て時に6歳未満とされており(民法817条の5本文),6歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合には,例外的に2年間の猶予期間を設けて,申立て時に8歳未満であってもよいこととされている(同条ただし書)。これは,特別養子となる者が6歳未満の時から養親となる者に現実に監護されている場合には,その時から事実上の親子関係があるものといえるところから,年齢要件の緩和を認めたことによるものである。

本件申立て時(平成22年×月×日)には,事件本人の年齢は7歳11か月であるから,養子となる者の年齢制限を定めた民法817条の5本文の要件を満たしていないこととなる。そこで,進んで同条ただし書の場合に当たるか否かについて見ると,前判示(前記引用に係る原審判2(1))のとおり,抗告人らは特別養子縁組を利用することを想定して里親登録をし,事件本人と交流を深めているところ,平成20年×月には,本件機関においても,事件本人について抗告人らへの里親委託決定を予定していたこと,その後,抗告人Yの入院のため同決定が延期されたものの,これにより同決定自体が取りやめとなったものではなく,抗告人らは,抗告人Yが日常生活に復帰した同年×月以降,里親委託決定を待ち望み,事件本人は,週末ごとの抗告人ら方への外泊を含め,抗告人らと従前以上の頻度ないし密度をもって交流を持っていたことが認められる。

加えて,当審における調査嘱託の結果によれば,事件本人は,平成19年×月頃から抗告人らのことを「お父さん」,「お母さん」と呼ぶようになり,抗告人ら方への週末の外泊を重ねるうちに抗告人方を自宅と認識し始め,平成20年×月頃には,家にずっと居たいなどと抗告人ら方での生活を望むようになっていること,抗告人らも事件本人に父母として接して良好な関係を築くことができていること,本件機関においても,事件本人と抗告人らが特別養子縁組を行うものと認識し,そのような指導をしていたことが認められる。

これらの事実によれば,抗告人らは,事件本人が6歳に達する以前から,事件本人に対して,相当程度,直接的な監護を行う機会があり,抗告人らのみならず,本件機関,そして本件施設においても,抗告人らが里親として事件本人に接しているものと認識していたことを認めることができるのであり,抗告人Yが日常生活に戻り,事件本人と密接な交流を再開した平成20年×月頃からは,抗告人らによる事件本人の監護がされていたものというべきである。

したがって,事件本人は,6歳に達する前から養親となる者に監護されていたのであるから,民法817条の5ただし書の要件を満たすことになる。

4  そして,事件本人は,その父母が知れないから,特別養子縁組を行う上でその同意を要せず(民法817条の6ただし書),当審における調査嘱託の結果,平成21年×月×日から抗告人らによる事件本人の監護の状況は良好であり,これをもって試験養育に十分な期間としてみることができる。

また,事件本人は,生後間もなく棄児として保護され本件施設に入所して以降父母の知れない状態であり,前判示(前記引用に係る原審判2(1))のとおり,抗告人らと交流を深めており,里親委託決定がされた後の監護状況も良好であるから,本件においては,特別養子縁組を成立させることが子の利益のため特に必要があると判断される。

5  上記2ないし4によれば,本件申立てについて,特別養子縁組を成立させる要件を満たしていることは明らかであるから,本件申立ては理由があることになる。

6  よって,家事審判規則19条2項に基づき,原審判を取り消して審判に代わる裁判をするのが相当であるから,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 西謙二 裁判官 足立正佳 石山仁朗)

別紙<省略>

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