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福岡高等裁判所 平成23年(ラ)58号 決定 2011年3月16日

抗告人

株式会社丸二タクシー

同代表者代表取締役

円田治

同代理人弁護士

敷地隆光

上村武

井上敦史

河浦龍太

相手方(受託者)

オリックス債権回収株式会社

同代表者代表取締役

北山久行

同代理人弁護士

黒木和彰

内田敬子

川口珠青

染谷翼

委託者

オリックス株式会社

同代表者代表取締役

宮内義彦

主文

1  本件抗告を棄却する。

2  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第1  本件抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨及び理由は,別紙「即時抗告申立書」のとおりである。

第2  当裁判所の判断

1  破産手続開始の原因について

(1)委託者(オリックス株式会社)の抗告人に対する債権について

一件記録によれば,株式会社十八銀行(以下「十八銀行」という。)は,抗告人との間で,本決定別表(2)のとおり,6口の金銭消費貸借契約を締結し,平成19年3月30日に委託者に対して,その時点における各貸付債権(同表(4)のとおり。この各貸付債権を,以下「本件各貸付債権」という。)を有していたところ,委託者が平成19年3月30日に十八銀行から本件各債権を譲り受け,以降債権者となったことが認められる。

(2)抗告人の債務超過ないし支払不能について

一件記録によれば,抗告人は,平成21年9月30日付け貸借対照表上,15億3790万1763円の資産を有し,そのうち営業権が12億5300万円を占めているところ,抗告人は,平成22年1月25日に,同年3月1日を譲渡日として,みなとタクシー株式会社(以下「みなとタクシー」という。)に抗告人の事業を全部を譲渡した結果,上記営業権12億5300万円のほか,抗告人所有の車両(タクシー),土地及び建物等を喪失し,抗告人の資産の額は,本件破産手続開始の申立時点において,多くとも2億8490万1763円(計算式・15億3790万1763円-12億5300万円)であり,他方,委託者が抗告人に対して平成22年9月30日時点で元本,利息,遅延損害金合計12億4306万7035円(うち元本合計11億0715万7000円)の本件各貸付債権を有していることが認められるところ,抗告人に対して委託者のほかに債権者がいるか否かを検討するまでもなく,消極財産が積極財産を超過し,抗告人は債務超過の状態にあるというべきであり(破産法16条),さらに,抗告人は,本件各貸付債権について期限の利益を喪失し,みなとタクシーに事業及び主要な財産を譲渡していることからすると,支払不能の状態(破産法2条11項,15条)にあると認められる。

2  本件破産手続開始申立てにつき破産法30条1項2号の事由があるかについて

抗告人は,①相手方側は,抗告人から既払金2億3000万円のほかに5000万円を支払う旨の和解案を提示されたのに,これを拒否して,抗告人所有の物件につきその賃料を差し押えるなどしたこと,②委託者の抗告人に対する債権の額は名目上約14億円となっているが,実際には委託者は十八銀行から同債権を安価で購入している上,抗告人にその購入金額を開示しないこと,③委託者が抗告人の営業に干渉するのであれば,債務名義を取ってから法的措置を講じるべきであることからすると,相手方の本件破産手続開始申立ては,権利濫用であり,公序良俗に反し,破産法30条1項2号の事由がある旨主張する。

しかしながら,上記①については,委託者又は相手方が抗告人が提案した和解案に応じるか否かは自由である上,委託者又は相手方において抗告人が他に賃貸する物件の賃料を差し押えることは,抗告人に対する債権を回収するための手段として認められていることからすると,抗告人主張の事由があるとしても,本件破産手続開始申立てが権利濫用であり,公序良俗に反するということはできない。同②については,本件各貸付債権の購入額をどのように設定するかは,債権譲渡契約の当事者である委託者と十八銀行の自由であるというべきであり,また,委託者又は相手方に抗告人に対してその購入額を明らかにする法的義務があると認めることはできない。同③については,債権者が債務者について破産手続開始の申立てをするに際しては,その有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明することを要するが(破産法18条2項),当該債権について債務名義を取得していることは同申立ての要件ではない。上記①ないし③を総合しても,本件破産手続開始申立てが権利濫用であり,公序良俗に反するということはできず,破産法30条1項2号の事由は認められない。抗告人の主張は採用できない。

3  以上のとおり,抗告人について破産手続を開始した原決定は相当であり,本件抗告は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 西謙二 裁判官 脇由紀 裁判官 桂木正樹)

別紙

即時抗告申立書

第1 原決定主文<省略>

第2 抗告の趣旨<省略>

第3 抗告の理由

1 原審裁判所は,債務者が支払不能又は債務超過の状態にある,申立権の濫用や公序良俗に反すると認めるべき事情はうかがわれないとして,抗告人につき破産手続開始の決定をなした。

2 しかし,申立人の債務者に対する債権は存在せず,債務者は支払不能又は債務超過の状態にない。また本件申立ては申立権の濫用であり,公序良俗に反する。

3 債務者は2億3000万円を支払い済みである。ところが,債権者は,会社全ての任意売却をオリックスが斡旋するとして,長崎のラッキータクシーに3億円で売却することで,その3億円をオリックスに支払えば和解に応じるとのことであった。債務者側は,本社の土地,社屋を担保に銀行から5千万円の融資を受けて,債権者に支払うとの和解条件を提示した。これについて,オリックス側は拒否し,その上債務者所有物件の賃料差押えを行った。結論から言うと,債務者の支払提示額は既払い額の2億3000万円に5000万円を加えた2億8000万円であったのに対し,債権者側は5億3000万円を要求してきたことになる。

ちなみに,長崎ラッキータクシーは,現在負債を230億円以上かかえ,銀行管理中の会社であった。

4 本件債権譲渡は,表面的には14億円となっているが,問題は,オリックスが債務者の財産内容について開示要求をしているが,本来債務者と債権者は,取引において対等な立場にある。債務者は,単なる取り立ての対象ではない。資本主義社会における私的自治・契約自由の大原則は,「当事者対等の原則」のもとに成り立っている。債務者が債権者の求めに応じて情報を開示するのであれば,債務者側も,一方の当事者として,債権者に対して情報の開示を求める当然の権利を有する。しかし,債権者はこれに応じない。

債務者が,債権者に開示を求めたいものは,金融機関からいくらで買い取ったかという「買い取り価格」である。そして,当事者ゆえ,買い取り価格を開示することには,なんの不都合もないはずである。

もとより,債権者側は,十八銀行から債権譲渡を受けるに際して,債務者の財務状況,資産等を総合的に判断して,金額を決定する。通常,サービサーの買い取り価格は額面の5~10%が相場とされている。現に,オリックスは,先日起きた「かんぽの宿買取事件」において,時価の22分の1の随意契約で買い取ろうとしていた。本件において,債務者は現今の経済状況では,2億円で売却されれば上出来である。

本件の場合,オリックスは債権をもとに資金を回収するだけの会社であり,ならば,銀行から債権をいくらで買い取ったのか開示したうえで,コスト,利益等を算出して返済額を決定するのが合理的といえる。サービサーがごく安値(本件の場合,1億円内外で本件債権を十八銀行から買い取ったと推認される。)で買い取った債権をもとに,原価ベースで実質的に利息制限法をはるかに超える回収をはかっているのは,周知の事実である。事実上,利息制限法,出資法の逸脱ではないか。だからこそ,買い取り価格を債権者は債務者に開示し,買い取り価格の適正比率で回収の上限を設定し,それ以上の回収を禁止するというのが,公平というものである。法律上一切の制限がないのは,立法の不備である。

銀行の不良債権処理の迅速の旗のもとに,(サービサーは法の規制のないことをよいことに),暴利をむさぼっているのが現状である。

金融機関の役割は,主に企業の育成にある。現今のオリックスサービサーのやり方は,日本の風土に反した回収を行っているというのが,他の銀行筋の評価である。

ちなみに,アメリカの裁判では「ディスカバリー(証拠開示)」が広く認められている。さらに,これはアメリカ裁判の「フェア」を担保する不可欠の制度として支持されている。

医療におけるカルテについても,「カルテは誰のものか」という議論もあったが,今ではカルテは患者のものであり,医療行為が適切に行われたかを担保するものであるとして,患者からの要求があれば開示しなければならないことが現行の常識である。

これに対して,銀行やサービサーの情報開示は法の規制がないことをよいことに,情報開示が極めて消極的である。

債権の額面はともかくとして,もともと1億円で買い取った債権から利息制限法,出資法に反した取り立ては許されるものではない。出資法では,貸金業者が年29.2%を超える利息を取ったときは,5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金の処罰を受ける規定があり,業者は出資法違反で逮捕されることにもなる。しかし,サービサーの場合,債権をいかに安く買ったとしても,債権の額面分の取り立てをすることが許されているため,出資法で禁止されているよりはるかに高い取り立てを行っているのが現状である。しかし,現実の売却額が債務者側に開示されるようになれば,サービサーもこのような無法な取り立てを行えなくなる。そもそも,サービサーが債務者に対して,いくらで買っているかを明らかにしたところで,何の不都合もない。サービサーは,これを知らせると「ボロ儲け」ができないから,売却価格については秘匿し,絶対に知らせない。

十八銀行は,債権を売却した先のオリックスが過酷な取り立てを行うことがないよう配慮する責任もある。したがって,債務者からの身にあまる過酷な取り立ての実情が訴えられた場合には,買い戻し,若しくはせめて債務者の求めに応じていくらでオリックスに売却したのか開示するべきである。

民法467条(指名債権の譲渡の対抗要件)も考慮に入れるべきである。

従来から,十八銀行は債務者の長年のメインバンクである。そもそも十八銀行の不良債権を債務者側を錯誤におとしめ売却した経緯もある。その結果,債務者が金利を支払えなくなり,その状況を判断した十八銀行がオリックスに債権を売却した。

ちなみに,十八銀行がオリックスに債権譲渡した際,債務者は,十八銀行から「相手がオリックスだから特別清算すべきだ」と申し向けられた経緯もある。本件の場合,第三者破産の行使は,権利濫用で公序良俗に反する。

5 債務者は,十八銀行及びオリックスに対して,実力以上に返済した結果,消費税及び社会保険料の滞納額が多額(約5000万円)となり,行政から差押通知も受けた。債務者は,現在の状況から支払が不可能であると考え,みなとタクシーへ事業譲渡し,同社において消費税及び社会保険料の支払債務を引き受けてもらったものである(添付資料①)。

6 債務者は,オリックスへの支払いのために,債務者と役員が同一の傍系会社から約2億8000万円の借入金があるが,これはいわゆる自然債務であり,この傍系会社に対する債務の存在が債務超過の原因となることはない。

7 現時点において,本社土地及び建物について,申立人は17億円の極度額で根抵当権を設定している。申立人は,単なる根抵当権者であって,債務者は本件の債権の有無,債権額を争っているのである。せいぜい,根抵当権者のできることは,抵当権の実行のみである。それ以上債務者の営業状況に口出しするのであれば,債務名義を取って法的措置をとるべきである。

8 よって,原審裁判所の上記破産手続開始決定は不当であるから,これを取り消し,相手方の破産手続開始申立てを棄却する旨の決定を求めるため,この申立てをする。

別表<省略>

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