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福岡高等裁判所 平成23年(行コ)13号 判決 2012年1月31日

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とし、当審における各控訴人補助参加人らの補助参加によって生じた各費用は、各控訴人補助参加人らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(1)  原判決中主文第1項を取り消す。

(2)  被控訴人らの控訴人補助参加人Z党(以下「Z党」という。)に関する請求をいずれも棄却する。

(3)  被控訴人らとZ党との間に生じた費用は、1、2審とも被控訴人らの負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第2事案の概要

事案の概要は、次のとおり補正するほかは、原判決の「第2 事案の概要」欄に記載(3頁25行目から13頁9行目まで。なお、別紙「支出一覧表」及び同「主張整理表」を含む。)のとおりであるから、これを引用する。ただし、控訴人が当審において不服の対象とするのはZ党に関する請求に限られ、当審における審理の対象は同請求のみである。

1  原判決11頁13行目の「Z党」を「政党であるZ党(以下「Z党(政党)」という。)」と改める。

2  同12頁14行目の次に改行して次のとおり加える。

「 Z党は、議員控室における議員の活動及び補助事務員の業務内容の実態に照らして、議員控室における事務経費、補助職員の人件費及び事務費の支出については全額政務調査費として認めるべきであると主張する。

しかし、補助事務員であるAは、議員控室においてマスコミ対応や電話対応等を行っているから、専ら調査研究活動を行っていたとはいえない。むしろ、当時、Z党(政党)の議員はBのみであり、BはZ党(政党)の中で何らかの役職に就いており、重要な地位にいたこと、このような地位にあるBが毎日議員控室に来て執務していたこと等を考えれば、議員控室において政党活動、議員個人の活動、後援会活動等を切り離して調査研究活動のみを行っていたと考えるのは不自然である。また、Aが議員控室で業務を行い、その活動の結果が会派の議会活動に活かされたからといって、専ら調査研究活動のみを行っているといえるわけではない。そして、Z党は、Aが政務調査の分野の専従補助職員として雇用されたと主張するが、雇用契約書等もなく、その真偽は明らかでない。

また、Z党は、政務調査費を議員の自宅や後援会事務所の費用としている事案ではないから、目的別按分論を適用するのはふさわしくないと主張する。しかし、按分論は、ある支出が調査活動費だけでなく他の活動の費用でもある場合に適用されるのであって、活動場所によって判断されるものではない。Aは、マスコミ対応等を行っており調査研究活動だけに従事していないことは明白である。議員の在室や訪問を問い合わせる一般的な電話等への応対、一部のマスコミ対応等がZ党(政党)の事務所ではなく、議員控室でなされていることを考えれば、従来から議員控室において調査研究活動だけでなく他の活動も行っていたと考えるのが自然であるし、マスコミ対応は些細な事務ではない。したがって、Aが専ら調査研究活動を行っていたわけでない以上、按分した額をもって政務調査費とすべきである。」

3  同13頁9行目の次に改行して次のとおり加える。

「 Z党が議員控室において使用した資料作成費、事務費及び補助職員の人件費については、議員控室における議員活動及び補助事務員の業務内容の実態た照らして、全額を政務調査費として認めるべきであり、これを認めても立法の趣旨に反しない。なお、ウェブサイト利用料については、不服を申し立てない。

議員が付託された議決案件や調査案件の審議を行うためには、当該対象事項の内容の調査や評価研究が必要である。大分県議会の開催状況と会期におけるBの議員活動を見れば、議員控室におけるBの活動は、すべて議案の審議とその準備のための調査研究に費やされている。また、議員控室は、政党活動、後援会活動、選挙活動に使うことは目的外使用として許されない。したがって、議案の審議の準備のための資料作成費やその作業環境を整える事務設備費等は、政務に関する調査研究に資する費用として、全額政務調査費として認めるべきであり、議員としての地位、権限及び職務内容から当然に2分の1という按分認定をする合理的な根拠はない。被控訴人らは、議員の発言原稿の作成費などは政務調査費に含まれないというが、議員による議案等の審議能力を向上させるという政務調査費制定の目的に照らして柔軟に考えるべきであり、調査研究の成果として賛否の発言をする原稿を作成するのであるから、関連性があるというべきである。

Aの行うマスコミ対応は、県政の問題について記者が取材に訪れたときの対応や資料提供の対応のことであるから、広報活動の一つとして使途基準に認められている事務である。また、仮に議員の在室や訪問を問い合わせる一般的な電話や応対が一部にあったとしても、Aが専ら調査研究の補助業務に携わっていることが認められるなら、議員控室に在室することに随伴するその程度の対応はあえて人件費を減ずるほどの違法な職務とはいえないというべきである。Aは、Bが有しているいくつかの活動分野のうち、政務調査の分野の専従補助職員として雇用されたのであるから、その費用を議員の持つ複数の職務の割合に合わせて減じる必要は何らない。按分論は、議員が自宅や後援会事務所の費用を政務調査費と主張する事案において、複数目的による使用の割合に応じて費用を按分する基準であるから、議員控室を勤務場所とする本件には適用されない。使途基準の解説(丙A8)でも実態として調査研究に専従していることが認められれば、全額支出してよいとされている。平成17年度当時は会派としてのZ党はBしか議員がいなかったところ、少数会派は調査能力や範囲に限界があるから、補助職員を雇用して、いわばマンパワーを強化してその能力や範囲を拡大することが必要である。」

第3当裁判所の判断

当裁判所の認定判断は、次のとおり補正するほかは、原判決の「第3 当裁判所の判断」欄に記載(13頁11行目から25頁7行目まで。なお、別紙「支出一覧表(共産党)」及び同「主張整理表 1 被告補助参加人Z党関係の主張」を含む。)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決17頁5行目から10行目までを削除する。

2  同19頁8行目、同頁10行目、同21頁11行目及び同22頁14行目の各「Z党」を「Z党(政党)」と改める。

3  同20頁13行目の次に改行して次のとおり加える。

「 この点に関し、Z党は、前記のとおり、議員控室における議員活動及び補助事務員の業務内容の実態に照らして、全額を政務調査費として認めるべきであり、これを認めても立法の趣旨に反しない旨主張する。

しかし、議員控室の設置目的やBの議員活動状況等をもって、直ちに、議員控室における執務がすべて政務調査に関連してなされたものであるとまでは認めることができない。Bが、議員として活発に議会活動をしていたとしても、平成17年当時、BがZ党(政党)の唯一の大分県議会議員であり、その大分県内の組織における一定の重要な立場にあったと考えられること、別府市の選挙区選出の議員であるBは、大分市内に事務所を持たず、議員控室を大分市内の一つの拠点として活動していたと考えられること(A93項)、BのZ党(政党)における活動は、議員活動とも密接に関連するものであり、Bは議会閉会中も議員控室に登庁していたこと(A)、議員控室ではAによりマスコミ対応、市民の訪問や電話に対する対応等もされていたこと(A36、135、137、143項等)、このような対応等はZ党(政党)の政策や活動を広報したり、これを推進したりする側面を有するものと考えれること、以上からすれば、Bが、議員控室において政務調査に関連するものだけを行い、これとは別の活動を行っていなかったというのは不自然である。更に、Z党は、Aとの間で雇用契約書を作成していないが(A161項)、Aが政務調査に専従する職員として雇用されたと主張し、Aはその旨証言するところ、仮に、そのような雇用契約を結んでいたとしても、Bの上記のようなZ党(政党)における立場や活動状況からすると、Aが政務調査の事務のみに専従できたとは考えがたいといわざるを得ない。以上に照らすと、議員控室においては、政務調査に関連する以外の執務もなされていたことが推認される。そうすると、議員控室において作成された資料には政務調査に関連するもの以外のものもあったと認められる。

そして、議員控室において発生した費用であっても、複数の目的のために支出した場合には、社会通念に従った相当な按分割合で適法な政務調査費の支出額を確定することが条理に適うというべきであるところ、議員の発言原稿の作成費などが政務調査費に含まれるとしても、前記のようなBの活動等からすると、政務調査に関連する目的以外の資料も作成され、上記のとおり、均等に按分した割合である2分の1をもって、政務調査に関連しない支出と認めるのが相当である。」

4  同25頁2行目の次に改行して次のとおり加える。

「 なお、Z党は、議員控室の使用は目的を限定されていたし、仮に議員の在室や訪問を問い合わせる一般的な電話や応対が一部にあったとしても、Aが専ら調査研究の補助業務に携わっていることが認められるなら、控室に在室することに随伴するその程度の対応はあえて人件費を減ずるほどの違法な職務とはいえないというべきである、使途基準の解説でも実態として調査研究に専従していることが認められれば、全額支出してよいとされているなどと主張する。しかし、前記のとおり、Bの地位からして、必然的に目的を異にする活動をせざるを得ないのであり、このことが議員控室の使用目的に違反する違法な活動とはいえないし、AはBの補助職員として、議員控室において政務調査に関連する事項以外の執務も行い、これらの執務が軽微なものとは考えられないのである。Aの上記のような活動等に鑑み、按分により政務調査に関連する事項以外の執務が行われたというべきである。Z党の指摘する政務調査の使途基準(丙A8)に照らしても、Z党の主張は採用できない。」

5  同25頁7行目の次に改行して次のとおり加える。

「4 県の有する請求権についてのまとめ

Z党は、県に対し、平成17年度の政務調査費に係る前記認定の違法支出額と同額の不当利得返還義務を負うところ、この義務は期限の定めのない債務であり、権利者が請求をした時に遅滞となるから(民法412条3項)、Z党は、権利者である県の代表者である控訴人がZ党に対して請求をした日の翌日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。」

第4結論

以上によれば、被控訴人らのZ党に関する請求は、控訴人がZ党に対し、162万7568円及びこれに対するZ党に対して請求した日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払の請求をすることを求める限度で理由があり、その余は理由がないから棄却すべきである。

よって、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、いずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 犬飼眞二 裁判官 青木亮 石原直弥)

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