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福岡高等裁判所 平成24年(ネ)685号 判決 2012年10月18日

控訴人

同訴訟代理人弁護士

菅藤浩三

被控訴人

同訴訟代理人弁護士

中村匠吾

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

(1)  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

(2)  被控訴人の請求を棄却する。

(3)  訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」欄に記載(一頁二三行目から五頁二行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一  控訴人は、被控訴人からAに対する投資金を一時預かり、預かりの趣旨のとおり送金していたにすぎない。むしろ、被控訴人から送金停止を命じられてもいないのに自己の判断で送金を停止する行動こそ、被控訴人から控訴人名義の口座に金銭を預けられた委託の趣旨に反する。控訴人に、被控訴人から預かった金銭の送金を止めなければならないと判断すべき義務はないから、控訴人が送金を継続した行為は違法ではない。

二  控訴人は、Aとの以前からの付き合いで、安全で損のない投資と信じ切っていた。そして、控訴人は、投資の専門家でもなく、Aの話の裏付けを確認することができず、Aに投資された金銭がどうなるかを知りうる地位にもなく、控訴人と被控訴人の間には情報の格差はなかった。したがって、Aに対する投資が一方的なAの騙取で終わることについて危険性を十分認識できる状況に置かれながら、控訴人が被控訴人に対し投資勧誘をしていたと評価することはできない。また、控訴人が財務省や金融庁に確認しようにも、Aを介さずしては無理な状況にあり、確認しないで勧誘したとしても、控訴人に過失があったとはいえない。投資の専門家でもない控訴人に対し、他人を投資に勧誘してはならないとか、他人を投資に勧誘するときは投資先のことを調べて初めて勧誘が許されるというような注意義務は、社会通念に照らして発生していたとはいえない。

(被控訴人の主張)

一  控訴人は、被控訴人を勧誘した時点で既に約八か月もの間に合計三八六万七〇〇〇円を送金した一方で合計一二万六〇〇〇円の返金しか受けていなかったのであり、Aに対する投資を勧誘した行為自体が不法行為に該当する。特に、控訴人が、被控訴人を勧誘する際にこの状況を伝えなかったこと、被控訴人に対し送金後間もなく返金があるなどと自らの体験と異なる説明をしたことからすれば、控訴人の勧誘が被控訴人に対する故意又は過失に基づく不法行為に該当することは明らかである。

二  控訴人は、自身が投資の専門家でもないとして注意義務違反がない旨を主張するが、専門家でなくても、控訴人自身が体験した事実をそのまま説明することは容易である。したがって、控訴人がAから約八か月もの間に送金を受けることができなかった結果として自己資金が枯渇するに至ったことや、今後の必要資金の金額が不明であること等を説明しなかったことなど、被控訴人がAに対する投資をするか否かを判断するにつき重要な事項について、被控訴人に説明をしなかったことに注意義務違反がある。

第三当裁判所の判断

当裁判所も、被控訴人の控訴人に対する本件請求は、合計一七四〇万三六〇〇円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものと判断する。その認定判断は、次のとおり当審での主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「第三 当裁判所の判断」欄に記載(五頁四行目から九頁一八行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人は、被控訴人からの委託を受けてAに送金したのであるから送金を継続した行為が違法ではない旨を主張する。

しかし、控訴人の不法行為にあたる行為は、控訴人が被控訴人に多額の謝礼を払うと約束して根拠のない投資のため送金させて損害を被らせた行為であって、控訴人がAに送金したからといって、その行為の違法性に影響するものではないから、控訴人の上記主張は理由がない。

二  控訴人は、控訴人が、安全な投資と信じ切っており、Aの話が真実か否かを確認する方法がなかったなど被控訴人と比べて情報に格差はなく、過失がなかったなどと主張する。

控訴人(昭和一八年○月○日生)は、福岡大学法学部卒業の経歴で、不動産仲介業に従事し、客である被控訴人(昭和一四年○月○日生)と知り合ったものである(甲四、乙二六)。そして、控訴人は、Aから、「Aがホテルに保有している多額の現金を財務省の金庫に預け、財務省の方で手続を踏んで金融庁で届出が受理されれば無税化されるという仕組みがあるが、上記現金を動かせない事情があるので、代わりに財務省の金庫に預けたり、審議官らに動いてもらう際の口利き経費や口座の開設費用を自分に投資してほしい、上記現金が無税化された場合は、投資金に加えて多額の謝礼をする」旨の説明を受けて投資に勧誘され、「審議官と一杯飲みに行かなければいけない。」、「官僚の関係者と飲まないといけない。」、「名古屋行きの飛行機代やホテル代」が必要であるなどと説明されて送金の指示を受け、Aに送金を始めた後、返金時期を尋ねても明確な答えはなく、審議官が替わった、財務省のコンピューターが故障したなどという報告を受けただけであったというのである。このように、Aの投資内容、送金指示及び返金等についての説明内容は、いずれも極めて不自然であり、Aに投資しても容易に返金の可能性がないことに容易に気付くことができたものである。しかし、控訴人は、Aの経歴を確認することもなく、Aとの以前からの付き合いや振る舞いを通じてAが信頼できる人物だと感じ、Aが騙すことはあり得ないとして、Aの上記説明内容を信じた上、Aからの返金の際の配当の計算方法、配当の頻度等について質問したものの、Aからまだ言えないと言われて、それ以上、資料を確認したり、ホテルに行って現金を見るなどの確認をしなかったものである(乙二六、控訴人)。

また、控訴人がAに送金を開始してから被控訴人が控訴人に対して送金を開始するまでの約八か月の間に、控訴人は、Aに対し、合計三八六万七〇〇〇円を送金しながら、Aからは合計一二万六〇〇〇円の送金しか受けていなかったものである。上記事情は投資をするための重要な情報であるにもかかわらず、控訴人は、上記返金状況等について被控訴人に説明しなかったものである(乙二六、控訴人)。

以上のとおり、控訴人は、Aの上記説明内容が虚偽であって、Aに対して投資をすれば損失が生じることを容易に認識することができたのに、その旨信じて被控訴人に同内容を告げ、しかも、被控訴人に対しAに対する投資を勧誘するにあたり十分な説明をしなかったものである。

控訴人に過失があり、そのため被控訴人に損害を被らせたことは明らかである。

第四結論

よって、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は、理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 犬飼眞二 裁判官 青木亮 石原直弥)

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