福岡高等裁判所 平成25年(ネ)51号 判決 2014年11月21日
主文
1 第1審原告の請求についての第1審被告Y1及び第1審被告Y2の本件各控訴並びに第1審被告Y2の請求についての第1審原告及び第1審被告Y2の本件各控訴に基づき,原判決主文第1項,第4項及び第6項を次のとおり変更する。
(1) 第1審被告Y1及び第1審被告Y2は,第1審原告に対し,連帯して135万円及び内金105万円に対する平成21年12月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 第1審原告のその余の請求をいずれも棄却する。
(3) 第1審原告は,第1審被告Y2に対し,50万円及びこれに対する平成21年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 第1審原告は,第1審被告Y2に対し,平成21年7月29日から別紙物件目録1記載(2)の土地のうち,別紙図面154,151,P1,P3,154の各点を順次直線で結んだ部分及び同図面P4,P2,45,44,43,123,157,152,P4の各点を順次直線で結んだ部分の土地の明渡済みまで1か月当たり5000円の割合による金員を支払え。
(5) 第1審被告Y2のその余の請求をいずれも棄却する。
2 第1審原告の本件控訴のうち,原判決主文第2項,第3項及び第5項に係る部分を棄却する。ただし,当審における図面の差替えにより,原判決の主文第2項,第3項及び第5項をそれぞれ次のとおり改める。
(1) 別紙物件目録1記載(1)の土地と別紙物件目録2記載(1)の土地との境界は,別紙図面153,147及び155の各点を順次直線で結んだ線であることを確定する。
(2) 別紙物件目録1記載(2)の土地と別紙物件目録2記載(1)の土地との境界は,別紙図面154,P3,P4,152及び157の各点を順次直線で結んだ線であることを確定する。
(3) 第1審原告は,第1審被告Y2に対し,別紙物件目録1記載(2)の土地のうち,別紙図面154,151,P1,P3,154の各点を順次直線で結んだ部分及び同図面P4,P2,45,44,43,123,157,152,P4の各点を順次直線で結んだ部分を明け渡せ。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを10分し,その4を第1審原告の,その2を第1審被告Y1の,その余を第1審被告Y2の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 第1審原告
(1) 原判決中,主文第2項ないし第6項の第1審原告敗訴部分を取り消す。
(2) 別紙物件目録1記載(1)の土地と同目録2記載(1)の土地及び同目録1記載(2)の土地と同目録2記載(1)の土地につき,それぞれ境界を確定する。
(3) 第1審被告Y2のその余の請求をいずれも棄却する。
(4) 訴訟費用は,第1,2審を通じて第1審被告Y1及び第1審被告Y2の負担とする。
2 第1審被告Y1
(1) 原判決中,第1審被告Y1に関する敗訴部分を取り消す。
(2) 第1審原告の第1審被告Y1に対する請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用中当審において生じた部分及び原審において第1審原告と第1審被告Y1との間に生じた部分は,すべて第1審原告の負担とする。
3 第1審被告Y2
(1) 原判決中,主文第1項及び第6項のうち賃料相当損害金に係る第1審被告Y2の請求に関する敗訴部分を取り消す。
(2) 第1審原告の第1審被告Y2に対する請求をいずれも棄却する。
(3) 主文第2項同旨
(4) 第1審原告は,第1審被告Y2に対し,平成21年7月29日から別紙物件目録1記載(2)の土地のうち,別紙図面154,151,P1,P3,154の各点を順次直線で結んだ部分及び同図面P4,P2,45,44,43,123,157,152,P4の各点を順次直線で結んだ部分の明渡済みまで1か月1万円の割合による金員を支払え。
(5) 訴訟費用中当審において生じた部分及び原審において第1審原告と第1審被告Y2との間に生じた部分は,すべて第1審原告の負担とする。
第2事案の概要
平成21年6月9日当時,第1審被告Y1は別紙物件目録2記載(1)の土地(以下「838番8」という。)及び同(2)の建物(以下「本件建物」といい,838番8と併せて「本件建物等」という。)を所有しており,第1審被告Y2は838番8の北東側に隣接する別紙物件目録1記載(1)の土地(以下「838番4」という。)及び838番8の南西側に隣接する別紙物件目録1記載(2)の土地(以下「838番6」という。)を所有していたところ,第1審原告は,平成21年6月9日,強制競売による売却を原因として本件建物等の所有権を取得し,同年7月29日以降,これらを占有している(なお,以下で,直方市大字○○の土地は単に地番のみを表示する。)。
本件は,①第1審原告の第1審被告Y1及び第1審被告Y2(以下「第1審被告ら」という。)に対する請求(第1事件)と②第1審被告Y2の第1審原告に対する請求(第2事件)から成る。
すなわち,上記①は,第1審原告が,第1審被告らに対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,同人らが本件建物等を引き渡す際,本件建物と一体となっていた物品を違法に取り外し,または,持ち出したとしてその修復の費用496万0340円と,第1審原告が本件建物等の所有権を取得した平成21年6月9日から引渡しを受けた同年7月29日までの間,第1審被告らが権原なく本件建物等を占有・使用したとして賃料相当損害金合計10万円に弁護士費用30万円を加えた合計536万0340円の損害金及び内金506万0340円に対する年5分の割合による遅延損害金の支払(始期は訴状送達の日の翌日である平成21年12月16日である。)を求める事案である(以上は,連帯請求である。)。
そして,前記②は,第1審被告Y2が,第1審原告に対し,838番4と838番8及び838番6と838番8の各境界の確定を求めるとともに,第1審原告が本件建物等の引渡しを受けた直後に,838番4及び838番6の各土地上に植栽されていた樹木及び花卉(以下「樹木等」という。)を違法に伐採したとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき,伐採された樹木等の時価相当額である200万円及びこれに対する年5分の割合による遅延損害金の支払(始期は,不法行為の後の日である平成21年8月1日である。)を求めるほか,第1審原告が838番6の一部を権原なく占有・使用しているとして,土地所有権に基づく占有部分の明渡し(ただし,本件建物の収去は求めていない。)と平成21年7月29日から明渡済みまで1か月1万円の割合による賃料相当損害金の支払を求める事案である。
原判決は,第1審原告の前記①の請求につき,第1審被告らに連帯して355万円及び内金325万円に対する平成21年12月16日を始期とする遅延損害金の支払を命じる限度で認容し,その余の請求を棄却した。また,第1審被告Y2の前記②の請求につき,838番4と838番8の境界を原判決別紙図面のイ,ロ及びハの各点を順次直線で結んだ線及び838番6と838番8の境界を原判決別紙図面のニ,ホ及びヘの各点を順次直線で結んだ線と確定し,さらに,第1審原告に,141万6500円及びこれに対する平成21年8月1日を始期とする遅延損害金の支払と,第1審原告が占有する838番6の一部の明渡しを命じる限度で認容し,その余をいずれも棄却した。
そこで,第1審原告が,第1審被告Y2の請求における敗訴部分を,他方,第1審被告Y1が第1審原告の請求における敗訴部分並びに第1審被告Y2が第1審原告との請求及び自らの第1審原告に対する請求における各敗訴部分(ただし,樹木等の伐採に係る損害賠償請求を除く。)をそれぞれ不服として控訴した。
なお,第1審被告Y2は,当審において,境界確定の請求及び838番6の一部の明渡しを求める請求につき,原判決別紙図面を別紙図面のとおり差し替えて,主文第2項の(1)ないし(3)のとおり,請求の趣旨を補正した。
1 前提となる事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠ないし弁論の全趣旨より容易に認定できる事実)
(1) 第1審被告Y2は,838番4及び838番6の各土地を所有している。
(2)ア 第1審被告Y1は,平成20年2月20日当時,本件建物等を所有していた。
イ 本件建物等については,平成20年2月20日に債権者を日本債権回収株式会社とする強制競売開始決定がされ(福岡地方裁判所直方支部平成20年(ヌ)第2号。以下「本件競売手続」という。),同日付けで強制競売開始決定を原因とする差押えの登記がされた(甲3,4)。そして,その後,第1審原告に対する売却許可決定が発せられ,第1審原告は平成21年6月9日に代金を納付した。
ウ 平成21年7月29日以降,第1審原告は本件建物等を占有している。
(3) 本件建物の敷地である838番8と,838番4及び838番6は隣接しており,838番8の北東側に838番4が,838番8の南西側に838番6が存するところ,第1審原告と第1審被告Y2との間でこれら3筆の土地の境界につき争いがある。
2 当事者の主張
(第1審原告の請求)
(1) 請求原因
ア 第1審被告らは,本件建物等を第1審原告に引き渡すのに先立ち,本件建物の付加一体物として第1審原告の所有権が及んでいた門扉,下駄箱,流し台,水屋,畳,障子,襖,欄干,便器等一式,階段の手すり,照明器具,スイッチ,浴室の蛇口,窓の格子,物置,掘り炬燵及びテラスを取り外して,持ち出した。そして,その修復の費用は496万0340円とみるのが相当である。よって,第1審被告らはこれを賠償する義務がある。
イ 第1審被告らは,平成21年6月9日から同年7月29日まで権原なく,本件建物等を占有・使用した。本件建物の賃料は月額6万円を下らないから,上記期間の賃料相当損害金は10万円とみるのが相当である。
ウ 上記はいずれも第1審原告に対する不法行為となるところ,第1審原告は賠償請求のための訴訟追行を弁護士に委任した。よって,弁護士費用30万円を相当因果関係のある損害とみるべきである。
(2) 請求原因に対する認否・反論
ア 上記(1)アのうち,第1審被告らが,門扉,下駄箱,流し台,水屋,畳,障子,襖,欄干,便器等一式,階段の手すり,照明器具,スイッチ及び物置を撤去したことは認め,その余は否認ないし争う。これらはいずれも取り外し可能な動産類であり,第1審原告の所有権の対象とはならない。
また,仮に,この点につき第1審被告らが賠償義務を負うとしても,その額は,本件競売手続における本件建物の評価額である213万3000円の2割か,証拠(乙41の1及び2)より把握できる,第1審原告の実際の拠出額である465万7107円の1割を超えることはない。
イ 上記(1)イのうち,第1審被告らが,平成21年6月9日から同年7月29日まで本件建物等を占有・使用したことは認め,その余は否認ないし争う。第1審被告らは執行官の指示に従い,所定の日に本件建物等を引き渡したのであるから,その間までの占有・使用を不法占有と評すべきではない。
ウ 上記(1)ウは争う。
(第1審被告Y2の請求)
(1) 請求原因
ア 838番4と838番8の境界線は,別紙図面153,147及び155の各点を順次直線で結んだ線であり,838番6と838番8の境界線は別紙図面154,P3,P4,152及び157の各点を順次直線で結んだ線である。
イ 平成21年7月29日以降,第1審原告は,838番4及び838番6の各土地上に多数植栽されていた樹木等を,第1審被告Y2の同意なく伐採した。伐採された樹木等の評価額は200万円を下らない。
ウ 第1審原告は権原がないのに,838番6のうち,別紙図面154,151,P1,P3,154の各点を順次直線で結んだ範囲及び同図面P4,P2,45,44,43,123,157,152,P4の各点を順次直線で結んだ範囲を使用・占有している(以下「本件占有部分」という。)。よって,第1審原告は,第1審被告Y2に対し,本件占有部分の明渡義務がある。また,第1審原告はその使用対価として月額1万円の割合による金員を支払うべきである。
(2) 請求原因に対する認否・反論
ア 上記(1)アは争う。
イ 上記(1)イのうち,838番6に植栽されていた樹木等を伐採したことは認め,その余は否認ないし争う。伐採については事前に第1審被告Y2に告知していたし,第1審被告らはこれを承諾していた。また,伐採した樹木等に価値はない。
ウ 本件占有部分を第1審原告が使用・占有していることは認め,その余は否認ないし争う。本件建物の一部が838番6の土地上に存するとしても,本件建物が新築された平成2年当時,この建物及び838番8及び838番6はいずれも第1審被告Y1の所有であった。その後,第1審被告Y1は,平成14年になされた本件建物等に対する不動産仮差押えにおいて,838番6がその対象とはされなかったことを奇貨として,平成19年3月26日に838番6を第1審被告Y2に贈与したものであり,これは838番8を袋地にして執行妨害をしようとしたものといえる。以上の経緯からすると,本件競売手続により838番8が差し押さえられた当時,形式的に本件建物と838番6の所有者は異なっているとしても,民事執行法81条による法定地上権の成立が認められるべきである。また,本件で第1審被告Y2が第1審原告に対し,本件占有部分の明渡しを請求するのは権利の濫用として許されない。
(3) 抗弁に対する反論
争う。
本件競売手続により本件建物が差し押さえられた時点での,同建物の所有者は第1審被告Y1であるが,838番6の所有者は第1審被告Y2であったから,民事執行法81条に基づく法定地上権は成立しない。また,仮に法定地上権が成立したとしても,第1審原告は地代を全く支払っていない上,前記のとおり838番4及び同番6に植栽された樹木等を無断で伐採するなど,信頼関係を破綻させる行為に及んでいるので,第1審被告Y2はこれを解除した。
第3当裁判所の判断
1 第1審原告の請求について
(1) 前記第2の2,(第1審原告の請求)の(1)アについて
ア 本件建物内に存した物品の取り外し,持ち出し(以下,単に「撤去」という。)に係る損害賠償請求については,原判決を次のとおり補正し,後記イのとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の第五の一の1(1)ないし(3)に記載のとおりであるから,これを引用する(なお,引用する証拠の呼称は特に断わらない限り,第1事件の書証目録による。)。
(ア) 6頁21行目及び22行目を削る。
(イ) 6頁23行目の「⑪」を「⑩」に改める。
(ウ) 7頁2行目末尾に次を加える。
「最後に,窓の格子は,証拠(甲2の番号22ないし24の写真)によっても,本件建物に設置されていたことは確認できない。よって,第1審被告らが窓の格子を撤去したとは認めるに足りない。」
(エ) 7頁3行目の「2(1)土地」から4行目から5行目にかけての「(第2事件の甲3,4)」までを「本件建物等は,前提となる事実(2)のとおり,本件競売手続により平成20年2月20日差し押さえられているところ」に改める。
(オ) 7頁9行目の「⑧」を「⑧スイッチ」に,「2(2)建物」を「本件建物」にいずれも改める。
(カ) 7頁11行目末尾に次を加える。
「そして,⑧のうち,証拠(甲2の11~17,19の写真や,乙40の⑦~⑫の写真)によると,照明器具は容易に着脱できる構造のものであったと認められるので,これを本件建物の構成部分とみることはできないし,また,この種の照明器具は使用者の移転に伴い撤去されることが多いから,従物に当たると評するのも相当でない。すなわち,照明器具については第1審原告の所有権は及ばない。」
(キ) 7頁12行目の「,⑪」を削り,「2(2)建物」を「本件建物」に改める。
(ク) 7頁15行目の1「1(2)土地」を「838番6」に,15行目から16行目にかけての「2(2)建物ないし2(1)土地」を「本件建物等」にいずれも改める。
イ 以上によると,第1審被告らは,本件建物等の引渡しに際し,本件競売手続による差押えにより第1審原告の所有に属するに至った流し台,水屋,便器等一式,階段の手すり,スイッチ,浴室の蛇口や,下駄箱,畳,障子,襖,欄干,物置を撤去したことになるから,これは第1審原告に対する不法行為を構成する。
そこで,損害額につき判断すると,この点,第1審原告は証拠(甲3)を根拠として496万0340円と評価すべきであり,そうでないとしても,証拠(乙41の1及び2)のとおり,第1審原告は465万7107円を現実に拠出したと主張する。しかしながら,上記の撤去物は,本件建物の構造的,機能的に一体となるものであるから(だからこそ,付加一体物として差押えの効力が及ぶ。),その経済的評価も本件建物の評価をも斟酌して考察するのが相当である。すなわち,本件競売手続で行われた評価人による評価(第2事件の乙7)では,構成部分及び従物も併せた本件建物の原価法(標準的な建物の建築費等を踏まえて求められた再調達価格,耐用年数や観察結果による減価修正を加えて算出される方法である。)による査定では,現価率は0.181とされ,その額も第1審原告の主張する物品の修復費用を大きく下回る282万9000円に留まっていること(なお,第1審原告が本件建物等を取得した額はこれよりも低額である。)からすると,第1審被告らが撤去した物品の修復が必要であるとしても,このような本件建物の全体の価値や,撤去の対象となった物品の劣化・損耗による価値の減少をも加味して判断するのが相当である。
そこで,当裁判所は,証拠(乙41の1及び2)から認められるように,第1審原告は撤去された物品に関する修復費用として465万7107円を拠出していることを踏まえつつ,一方で,本件競売手続における評価では,本件建物自体の現価率が0.181とされていること,他方で,第1審被告らによる物品の撤去が,給排水,電気設備関係といった通常は撤去されることのない部分にまで及び,しかも,証拠(甲2・3~4枚目)のとおり,流し台などはほぼ解体に近い態様で取り外され,その後は838番4の土地に放置されていること(これらからすると,第1審被告らによる撤去は加害目的によるものと評するほかない。)などの本件で顕れた諸事情を勘案し,その損害額を100万円と認める。
(2) 前記第2の2,(第1審原告の請求)の(1)イについて
本件建物等の不法占有に係る賃料相当損害金に係る損害賠償請求については,原判決の「事実及び理由」中の第五の一の2に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,7頁22行目の「2(1)土地及び2(2)建物」を「本件建物等」に改める。)。
(3) 前記第2の2,(第1審原告の請求)の(1)ウについて
本件損害賠償請求の訴訟追行に係る弁護士費用については,原判決の「事実及び理由」中の第五の一の3に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 第1審被告Y2の請求について
(1) 前記第2の2,(第1審被告Y2の請求)の(1)アについて
ア 838番4と838番8の境界及び838番6と838番8の境界の確定につき,第1審被告Y2は,土地家屋調査士A(以下「A調査士」という。)が作成した,838番8の現況平面図(第2事件の乙9。以下「乙9図面」という。)を根拠にして,838番4と838番8の境界が別紙図面153,147及び155の各点を順次直線で結んだ線であり,838番6と838番8との境界が別紙図面154,P3,P4,152及び157の各点を順次直線で結んだ線であるとする(なお,引用する証拠の呼称は特に断らない限り,第2事件の書証目録による。)。
イ そこで,検討すると,まず,証拠(甲1~4,5の1,11〔枝番7,13,15,16〕,乙9,10,16,証人A)及び弁論の全趣旨によれば,①昭和42年6月23日に838番1から838番4が分筆され,次いで,同43年9月17日に838番1から838番6が,また,同年11月25日に838番4から838番8がそれぞれ分筆されたこと,そして,838番4の分筆の際の地積測量図が甲11の13,838番6の分筆の際の地積測量図が甲11の15及び838番8の分筆の際の地積測量図が甲11の7であること,②平成2年9月に第1審被告Y1は本件建物を建築し,以後838番8と838番6を本件建物の一体の敷地として使用していたこと,また,第1審被告Y2が平成17年11月7日に担保不動産競売による売却を原因として取得した後は,838番4の一部も本件建物の敷地として使用してきたこと,③平成19年にA調査士は,第1審被告ら側から838番4と同土地の東側に隣接する837番33との境界調査を依頼されたこと,そして,その際に837番33に関する資料として,同土地を含めた周辺土地を対象とした,境界復元図及び境界確定図と題する乙10の図面(以下「乙10図面」という。)を交付されたこと,④A調査士は,乙10図面の正確性を確認するべく,同図面の上部に記載のある県道側の座標を起点として729番7などの県道沿いの土地につき法務局備付の地積測量図を照らし合わせてみたところ,不審な点は見当たらなかったこと,⑤平成20年,A調査士は第1審被告らからの依頼により,今度は838番8の境界の確定を求められたため,乙10図面中の下部に記載のある市道側の座標を起点にし,法務局備付の地積測量図等を照合して乙9図面を作成したこと,以上の事実が認められる。
ウ そして,上記イ①のとおり,838番4,同番6及び同番8の土地はいずれも分筆された土地であるので,これに関する地積測量図がこれらの土地の境界を探求するうえで最も有力な資料となるはずであるが,甲11の13,甲11の15及び甲11の7の地積測量図に記された境界はいずれも基点が明らかでなく現地復元性を欠くため,これらを用いて境界を把握することはできない。また,上記3筆の利用状況についても,上記イ②のとおり,838番8,同番6及び同番4は一体の土地として使用されていたため,これによって境界を把握することもできない。
そこで,乙9図面の証拠価値が重要となるが,この点,上記イ⑤のとおり,同図面は,838番6の南西側に隣接する市道側の座標を起点として地積測量図を当てはめて作成されたものであるところ,そもそも前記のとおり,本件の3筆の係争地の地積測量図は現地復元性を欠くのであるから,その当てはめ方の合理性は慎重に検討する必要がある。しかしながら,例えば,A調査士は,乙9図面の154点(原判決別紙図面のニ点)は正しい位置を特定したと述べるものの,これをどのようにして特定したのかについての説明は十分でなく(なお,これに関連して,乙9図面の154点と151点との距離(2.80)と,甲11の15に表示された151点と154点に相当するとみられる線の距離(2.0)との食い違いも問題となっているが,この点についてのA調査士の説明には,あたかも,乙9図面の151点が所有権の範囲である所有権界の表示であるかのような言辞もあり,説明としての的確さも疑われないではない。),全体的にもその説明は抽象的で,具体性を欠くといわざるを得ない。
以上を総合すると,乙9図面は,ほぼ乙10図面に依拠している可能性が否定できないが(A調査士は,838番6とこれに隣接する市道の境界を確認し,これに相当する乙9図面の151点と乙10図面の162点を重ね合わせて,乙10図面上の838番4,838番8及び838番6の各土地の位置表示をこれに整合するようにスライドさせて,乙9図面を作成したとみられる。),その場合,根拠となった乙10図面の上記3筆の土地の位置表示や本件建物の位置表示がそもそもどのようにして特定されたのかが,本件証拠上全く不明というほかない(なお,乙10図面では,隣接するはずの上記3筆の境界表示が合致していないなど,少なくとも,本件における係争土地の位置表示の正確性には疑わしい点がある。)。
エ このように,乙9図面の証拠価値については疑問を差し挟む余地がある。しかしながら,本件建物が建築された際の建物図面・各階平面図(甲11の16)には,少なくとも,本件建物の南西側の一部は敷地である838番8を超え,若干ではあるが838番6に跨るものとして表示されていること,本件で提出されている各種の地積測量図(甲11の1~15)と照合しても,乙9図面上に表示された,838番4,838番6及び838番8並びに周辺土地との位置表示に,決定的な不整合も見出せないこと,そして,他ならぬ838番8の所有者である第1審原告はその境界につき具体的な根拠を示して境界線を提示していないことをも勘案すると,本件では,乙9図面により境界を確定するのが合理的であるというべきである。
オ そして,第1審被告Y2は当審で係争土地の境界を特定するものとして,原判決別紙図面に代えて別紙図面を新たに提出しているところ,証拠(甲12,13)によれば,この別紙図面は,乙9図面に表示された各点を現地で復元できるよう測量したものと認められるので,838番4と838番8の境界は,別紙図面の153,147及び155の各点を順次直線で結んだ線であり,また,838番6と838番8との境界は,別紙図面154,P3,P4,152及び157の各点を順次直線で結んだ線と確定するのが相当である。
(2) 前記第2の2,(第1審被告Y2の請求)の(1)イについて
ア 樹木等の伐採による損害賠償請求については,原判決を次のとおり補正し,後記イのとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の第五の三の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する(なお,引用する証拠の呼称は第2事件の書証目録による。)。
(ア) 10頁21行目の「1(1)」から24行目の末尾までを「838番4及び同番6の各土地上に植栽されていた多数の樹木等を伐採したことが認められる。」に改める。
(イ) 10頁25行目及び11頁1行目の各「1(1)土地」をいずれも「838番4」に改める。
イ ところで,第1審被告Y2は,甲6の1により,伐採された樹木等の損害額を評価すべき旨主張するが,この甲6の1に記された伐採された樹木等の本数は必ずしも定かでない。また,甲6の1に記された樹木等の種別ごとの評価額もその信用性は慎重に検討する必要がある。すなわち,例えば,甲6の1では荒樫の1本の評価額は1万円とされているが,乙17により確認できるように,新規植栽用の荒樫を再調達する場合の市場価格は3000円であることを踏まえると,甲6の1に表示された評価額を是認するには的確な裏付けが必要というべきであるが,本件証拠上,このような裏付けは全くない(なお,上記の荒樫1本の評価には,年数を経て成育した樹木等の付加価値を含めている可能性があるが,そうであれば,なおのこと的確な裏付けが不可欠というべきであり,専門家のアドバイスを受けながら作成した(第1審被告Y1本人)というだけでは全く足りない。)。よって,甲6の1に依拠して,伐採された樹木等の損害を認定することはできない。
してみると,本件では,この点に関する的確な証拠が存しないこととなるが,当裁判所は諸般の事情を勘案し,これを50万円と認める。
(3) 前記第2の2,(第1審被告Y2の請求)の(1)ウについて
ア 所有権に基づく本件占有部分の明渡請求については,原判決を次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の第五の四の1に記載のとおりであるから,これを引用する(なお,引用する証拠の呼称は第2事件の書証目録による。)。
(ア) 11頁12行目の「1」の次に「本件占有部分を第1審原告が使用・占有していることは争いがないので,」を加える。
(イ) 11頁12行目「証拠(甲2から4)」から13行目の「2(2)建物」までを「前提となる事実(2)のとおり,本件建物」に改める。
(ウ) 11頁14行目の「1(2)土地」を「838番6」に,15行目の「2(2)建物と1(2)土地」を「証拠(甲2,4)によれば,本件建物と838番6」に,16行目「2(2)建物」を「本件建物」にそれぞれ改める。
(エ) 12頁1行目の「1(2)土地」から2行目の「被告Y2の」までを次のとおり改める。
「本件占有部分の利用権の存在を主張・立証しないから(なお,第1審原告の権利濫用の主張は採用できない。),本件占有部分を第1審原告が占有していることに争いがない本件では,第1審被告Y2の本件占有部分の」に改める。
イ 以上のとおり,第1審原告は本件占有部分を権原なく占有使用していることになるところ,前記のとおり,838番6に隣接する838番8の使用対価は1か月当たり3万円程度であること,他方,本件占有部分を含めた838番6全体の面積は44.70平方メートルと,838番8の面積(285.95平方メートル)と比べ狭小であることからすると,これによる損害は1か月当たり5000円とみるのが相当である。
第4結論
1 以上によれば,第1審原告の請求は,物品等の撤去を理由とする損害金100万円,本件建物等の賃料相当損害金5万円及び弁護士費用30万円並びに内金105万円に対する第1事件の訴状が送達された日の翌日である平成21年12月16日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却すべきところ,これと異なる原判決は一部失当であって,第1審被告らの本件各控訴は一部理由がある。
また,第1審被告Y2の請求は,838番4と838番8の境界及び838番6と838番8の境界の確定については第1審被告Y2の主張のとおりの境界線で確定し,樹木等の伐採を理由とする損害金50万円及びこれに対する平成21年8月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払,そして,本件占有部分の明渡し及び同部分の賃料相当損害金として平成21年7月29日から明渡済みまで1か月当たり5000円の割合による金員の支払を求める限度で理由があるが,その余は棄却すべきところ,これと異なる原判決は一部失当であって,第1審原告の本件控訴及び第1審被告Y2の本件控訴はそれぞれ一部理由がある。
2 よって,原判決主文第1項,第4項及び第6項を,主文第1項のとおり変更し,かつ,第1審原告の本件控訴のうち理由がない,原判決主文第2項,第3項及び第5項に係る部分を棄却することとして(ただし,当審における図面の差替えにより原判決主文第2項,第3項及び第5項を主文第2項のとおり,別紙図面に基づくものにそれぞれ改める。),主文のとおり判決する。
別紙
物件目録1
(1) 所在 直方市大字○○字△△
地番 838番4
地目 宅地
地積 379.31m2
(2) 所在 直方市大字○○字△△
地番 838番6
地目 宅地
地積 44.70m2
以上
別紙
物件目録2
(1) 所在 直方市大字○○字△△
地番 838番8
地目 宅地
地積 285.95m2
(2) 所在 直方市大字○○字△△ 838番地8,838番地6
家屋番号 838番8
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階 97.46m2
2階 32.81m2
以上
別紙図面
<画像省略>