福岡高等裁判所 平成25年(ラ)246号 決定 2013年9月19日
抗告人
X
同代理人弁護士
清源万里子
清源善二郎
岡野重信
清源了胤
相手方
Y
同代理人弁護士
工藤正朗
奥田克彦
岸本紀子
主文
一 原決定を取り消す。
二 相手方は、命令の効力が生じた日から起算して二か月間、別紙住居目録記載の住居から退去せよ。
三 相手方は、命令の効力が生じた日から起算して二か月間、前記住居の付近をはいかいしてはならない。
四 本件手続費用は、原審及び当審を通じ、相手方の負担とする。
理由
第一本件抗告の趣旨及び理由
本件抗告の趣旨及び理由は、別紙一「抗告状」、同二「抗告状訂正申立書」及び同三「平成二五年六月五日付け準備書面一」(各写し)に記載のとおりであり、これに対する相手方の意見は、同四「平成二五年七月三日付意見書」(写し)に記載のとおりである。
第二当裁判所の判断
一 本件は、婚姻関係にある相手方から暴力を受けていたなどとする配偶者暴力に関する保護命令を申し立て(前件申立て)、相手方に対する退去命令(前件退去命令)を含む保護命令が発令される中で住所地に戻って生活していたものの、その効力が生じた日から起算して二か月を経過した後も転居しないでいた抗告人が、相手方に対する再度の退去命令の発令を求めて申し立てた(以下「本件申立て」という。)事案である。
原審が、本件申立てが再度の申立て(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律〔以下「法」という。〕一八条一項)であり、その要件である転居を完了できないでいたことについて、「被害者がその責めに帰することのできない事由」(法一八条一項本文)があると認めることはできないこと等を理由として、本件申立てを却下したため、抗告人が、これを不服として、即時抗告をした。
二 一件記録によれば、抗告人は、躁うつ病を患い、平成二五年三月一八日には、大分県から、障害等級二級「日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令六条三項)と認定され、障害者手帳の交付を受けたこと、抗告人は、その日常生活において常時援助を必要とし、憂うつ気分、精神運動制止、不安、焦燥感、不眠、希死念慮などの抑うつ症状と、多弁、多動、高揚気分などの躁症状が交代して出現していること、抗告人は、前件退去命令発令後しばらくして肩書住所地に戻ったが、頼れる親族等がいないため、大分県婦人相談所及び福祉施設関係者(以下「福祉関係者」という。)の支援を得て、転居先の検討をしたこと、抗告人は、グループホームへの入居を希望し、福祉関係者も抗告人の躁うつ病の状態等の心身の状況から、単身、民間の賃貸住宅で生活することは困難であり、グループホームへの入居が望ましいと考え、該当する施設を探したこと、しかし、保証人を不要とし、直ちに入居できる施設が容易には見つからず、前件退去命令の効力が生じた日から起算して二か月を経過した平成二五年五月になって、入居の許可が得られる施設が見つかり、原則として男性のみが入居する施設ではあったものの、抗告人は同施設への入居を希望し、入居の準備が整ったこと、抗告人が転居の準備を行うには相当程度の時間を要することが認められる。
この事実関係の下で、本件申立てについて、抗告人に帰責性がなかったかをみると、抗告人がグループホームへの入居を希望し、該当する施設を探し、入居の許可を得るまでに二か月以上の時間を要したことは、抗告人の心身の状況からすれば、帰責性がなかったものと認めるのが相当である。なお、相手方は、住居に当面接近しないことを誓っているが、一件記録によれば、相手方には、保護命令に反した行動があるので、再度、退去命令を発令する必要性があるといえる。次に、相手方は、退去命令により、余所での生活を余儀なくされることとなるが、その収入や稼働状況、生活状況等に照らして、特に著しい支障を生ずる(法一八条一項ただし書)とは認め難い。
そして、上記のとおり、相手方には保護命令に反した行動があるので、法一〇条一項に定める「配偶者からの更なる身体に対する暴力」により「その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きい」ことも認められる。
以上によれば、本件申立ては、理由があると認めるのが相当である。
三 よって、本件抗告は理由があるから、これを却下した原決定を取り消した上、本件保護命令を発令することとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 一志泰滋 裁判官 足立正佳 島田正人)
別紙 住居目録<省略>
別紙一 抗告状(写し)<省略>
別紙二 抗告状訂正申立書(写し)<省略>
別紙三 平成二五年六月五日付け準備書面一(写し)<省略>
別紙四 平成二五年七月三日付意見書(写し)<省略>