福岡高等裁判所 平成25年(行コ)27号 判決 2013年12月12日
控訴人
X
同訴訟代理人弁護士
玉木正明
同
根岸秀世
被控訴人
中津市
同代表者市長
A
同訴訟代理人弁護士
神本博志
主文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、1092万8632円及びこれに対する平成24年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
4 この判決は、2項につき、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要(略称等は、原判決記載の例による。)
1(1) 本件は、被控訴人(平成17年に被控訴人が編入した大分県a郡b村(b村)を含む。特に断らない限り、以下、同じ。)の職員として勤務し退職した控訴人が、被控訴人に対し、「中津市職員の退職手当に関する条例」(本件条例)に基づいて、退職手当1092万8632円及びこれに対する退職した日から1週間経過した日である平成24年4月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
(2) 原審は、控訴人の請求を棄却した。
(3) 控訴人は、これを不服として控訴した。なお、控訴人は、当審において、退職手当の遅延損害金請求権の始期を平成24年5月1日とし、請求を減縮した。
2 事案の概要は、次のとおり原判決を補正し、次項のとおり当審における被控訴人の主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決2頁7行目の「任期で」の次に「空白期間なく」を加える。
(2) 3頁23行目の末尾に改行のうえ次のとおり加える。
「附則4項 当分の間、20年以上35年以下の期間勤続して退職した者(傷病又は死亡によらず、その者の都合により退職した者(第12条1項各号に掲げる者を含む。次項において同じ。)を除く)に対する退職手当の基本額は、第3条から第5条の3までの規定により計算した額にそれぞれ100分の104を乗じて得た額とする。」
3 当審における被控訴人の主張
(1) 合併により、b村は消滅し、消滅したb村の一般職の職員は、市町村合併特例法9条によって、被控訴人の一般職の職員として任用されたが、控訴人は、特別職の職員であったため、その身分が被控訴人に引き継がれなかった。
被控訴人は、平成17年3月1日、被控訴人の非常勤嘱託職員として期間を1か月として任用され、その後、単年度任用を繰り返している。
したがって、平成17年3月1日から1か月間任用され、その後は、単年度任用が繰り返されたにすぎないのであるから、控訴人は退職手当請求権を有しない。
(2) 仮に、平成4年の条例改正が制度変更を目的とするもの(一般職から職員への変更)であった場合には、本件の退職金算定の起算点は、平成17年3月1日からとなる。なぜならば、昭和63年に被控訴人(b村)が制定した非常勤職員の設置管理規則(証拠<省略>)には、非常勤職員の任用期間は最長で6年(4条)とされており、控訴人のような長期間の繰り返し任用の事態は生じ得ないはずだからであったところ、被控訴人は、任用の可否の決定に関与できなかったからである。
(3) 仮に、(1)及び(2)の主張が容認されない場合、本件の退職金算定の起算点は、本件条例改正の発効日である平成4年4月1日となる。
(4) 仮に、(1)ないし(3)の主張が容認されない場合、本件の退職金算定の起算点は、引用にかかる原判決、「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の4項(4)のとおり、昭和56年4月1日からとなる。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)及び(2)について
(1) 認定事実
末尾記載の証拠<省略>によれば、以下の事実が認められる(争いのない事実も含む。)。
ア 控訴人は、昭和49年3月に大学を卒業するとともに、中学校教諭1級普通免許(社会科)、高等学校教諭2級普通免許(社会科)及び図書館司書の資格を取得し、昭和56年8月には司書教諭の資格を取得した(当事者間に争いがない。)。
イ 控訴人は、初回の任用時から、平成17年2月末までは被控訴人に編入される前のb村に、同編入後は退職に至るまで、被控訴人の設置するd中学校の学校図書館の司書のみに従事し、勤務日数及び勤務時間は同校の常勤職員と同一であり(平成21ないし24年度においては、休日は、土・日曜日、祝日、年末年始の休暇、特に市長ないし中津市教育委員会が認めた日であり、午前8時30分から午後5時15分までで、そのうち休憩時間は60分。証拠<省略>)、他の仕事に就いたこともなく、被控訴人から支払われる給料によって生計を立てていた(当事者間に争いがない。)。
そして、控訴人は、被控訴人の中津市立学校管理規則14条4項により、校長によって監督される立場にあった。また、被控訴人の設置等規則11条により、勤務実績が良くない場合には、市長によって解任される場合があるとされていた(証拠<省略>)。
ウ そして、控訴人の具体的な職務内容は、学校図書館は、図書などの学校教育に必要な資料を収集、整理、保存し、これを生徒及び教員の利用に供することによって、学校の教育課程の展開に寄与するとともに、生徒の健全な教養を育成することを目的として設けられていることからして(学校図書館法2条)、図書館資料の選択、分類、整理、目録作成、参考調査、貸出業務などであった(証拠<省略>)。
エ 控訴人は、b村が中津市に編入されるまでの間は、単年度ごとに被控訴人(b村)からb村教育委員会嘱託雇用職員、嘱託学校司書又はb村嘱託職員などの名称で任命され、その編入後は、被控訴人(中津市)から、地方公務員法3条3項3号の非常勤嘱託職員として、cセンターを勤務課とする旨の任用通知を受けていた(証拠<省略>)。
オ 被控訴人が定めている設置等規則では、「cセンター嘱託員」は地方公務員法3条3項3号の特別職非常勤職員とされている(証拠<省略>)。
(2) 本件条例1条の「職員」について、同条のかっこ書が除外している職員以外の一般職が含まれることについては、争いがなく、それが解釈上も妥当であると解される。そこで、まず、上記(1)の事実に照らし、控訴人は一般職の職員に当たるかどうかを判断する。
ア 地方公務員法は、地方公務員の職を一般職と特別職に分け(同法3条1項)、特別職に該当するものを同条3項に掲げ、同条2項において、これら特別職に属する職以外の一切の職をすべて一般職と規定している。このような同法の規定の仕方からすると、特別職とされる同条3項の職は限定列挙であると解される。
そして、本件においては、控訴人が、同条3項3号の「臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらの者に準ずる者の職」に該当するかどうかが検討されなければならない。
イ しかるとき、同号は、生活を維持するために常時公務に就くのではなく、一定の学識、知識、経験、技能等に基づいて、随時、地方公共団体の業務に参画する者について、その特殊性にかんがみ、競争試験(地方公務員法17条)や職階性(同法23条)などを定める同法の一般的規定の適用を受けない特別職として任用、処遇することを定めたものと解される。
そうすると、ある職員が同号に定める特別職に該当するか否かは、専門性を有することは当然のこととし、その専門的な学識や知識等を、常時ではなく、臨時ないし随時業務に役立てるという状況にあるかどうかが重視されなければならない。したがって、勤務時間や勤務日数などの勤務条件や職務遂行に際して指揮命令関係があるのかどうか、成績主義の適用があるか等が、正規の職員と異なるかどうかで判断されるものである。
ウ 本件において、控訴人は、d中学校の学校図書館において、勤務日数や勤務時間の点で正規職員と異なることなく勤務しており、また、その勤務条件からすると、他職に就いて賃金を得ることは不可能であり、さらには、校長による監督を受ける立場にあり、勤務成績が不良である場合には、市長によって解任される場合があるとされていたものである。
そうであれば、任命権者である中津市教育委員会が、控訴人の任用通知書等に「地方公務員法第3条第3項第3号の非常勤嘱託による。」などと記載しているように、非常勤嘱託職員として、控訴人が図書館司書としての専門性を備えていることに着目して任用したものであったとしても、それは、地方公務員法の解釈を誤った任用であるから、そのことをもって、控訴人が特別職の職員であると認定することはできない。また、任用に際して、選考試験等が実施されたかについては不明であるが、そもそも、昭和50年代にb村で選考試験が実施されるほど、図書館司書の資格を有する者の応募が予想される状況にあったのか疑問である。
したがって、控訴人は一般職の職員に当たるというべきである。
そうであれば、本件条例1条の「職員」に特別職が含まれるかどうかについては、判断する必要はない。
2 争点(3)について
(1) 控訴人が、本件条例2条1項の「常時勤務に服することを要する者」に当たらず、同条2項の「職員以外の者」に当たることについて、両当事者に争いはない。そこで、控訴人について同条2項の要件を満たすかを判断する。
(2) まず、引用にかかる原判決「事実及び理由」欄の第2の2項及び前1項(1)のとおり、控訴人は、正規の職員について定められている勤務時間と同一条件で勤務し、月内の勤務日数も正規の職員と同じであり、任期は、会計年度ごとの1年間であったことから、期間の満了をもって任期は終了していたが、期間満了後空白期間なく再び任用されていたのであるから、事実上雇用関係が継続することとなり、正規の職員について定められている勤務時間以上勤務した日が18日以上ある月が12月を超え、以後引き続き所定の勤務時間により勤務してきた者に該当する。
本件条例2条2項が、同項の要件を満たす職員に対して退職手当を支給しようとした趣旨は、退職手当は勤続報償的性格から支給されるものであること、事実上、常時勤務の実態を備えていれば、退職手当の支給に関して、常時勤務に服する職員であるかどうかで区別する理由に乏しいことにあると解される。そうであれば、控訴人のように、単年度の任用が間断なく継続した者についても同項の適用を排除すべきではない(なお、国家公務員退職手当法2条1・2項及び同法施行令1条1項2号、総務大臣通達「国家公務員退職手当法の適用を受ける非常勤職員等について」(昭和60年4月30日総人第260号))。
(3) したがって、被控訴人は、本件条例2条2項の要件を満たすものと認められる。
3 争点(4)及び当審における被控訴人の主張について
上記1のとおり、控訴人は、一般職の職員である。したがって、控訴人が特別職の職員であることを前提とする被控訴人の当審における補充主張は、その前提を欠き、理由がない。
そして、証拠<省略>及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、昭和54年4月1日に村費負担司書として採用され、引用にかかる原判決「事実及び理由」欄の第2の2項のとおり、昭和56年4月1日にb村教育委員会から1年の任期で非常勤職員に任用され、以後、平成24年3月末に退職するまで、毎年1年間の任期で継続的に任用されていたものである。
したがって、控訴人の勤務年数は33年間であるから、本件条例3条、同附則4項を当てはめ、退職金額は1092万8632円とする。
(計算式:23万3000円×45.1=1050万8300円 1050万8300円×104/100=1092万8632円)
そして、控訴人は、平成24年5月1日からの遅延損害金を請求している。控訴人は、同年3月31日に退職したところ、本件条例(証拠<省略>)2条の3第2項には、退職手当は、職員が退職した日から起算して1月以内に支払わなければならないと定められていることからすると、同年5月1日には、退職手当支給の合理的期間を過ぎたものと認められ、同日からの遅延損害金請求には理由がある。
4 よって、控訴人の請求は理由があり、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 古賀寛 裁判官 武野康代 裁判官 常盤紀之)