福岡高等裁判所 平成26年(ネ)954号 判決 2015年4月22日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、56万6666円及びこれに対する平成24年7月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人の控訴人に対する反訴請求を棄却する。
第2事案の概要等(略称は、原則として原判決の表記に従う。)
1 事案の概要
(1) 本件は、控訴人の母であるA(平成25年7月死亡。被相続人)が、生前、通所していた介護サービスセンター(本件介護施設)の送迎車(本件車両)から降車する際に右大腿骨頸部骨折の傷害を負い(本件事故)、後遺障害が残存したことから、被相続人の子である控訴人ほか2名が、被控訴人に対し、本件車両に付保された自動車保険契約の搭乗者傷害特約に基づく保険金請求権(後遺障害部分)を相続したとして法定相続分に従いそれぞれ56万6666円及びこれに対する平成24年7月6日(請求日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め(本訴)、これに対し、被控訴人が、被相続人に対して搭乗者傷害保険金(傷害部分)として50万円を支払ったが、法律上の原因がないものであると主張して、被相続人の子である控訴人ほか2名に対し、不当利得返還請求権に基づき、それぞれ16万6666円及びこれに対する平成26年8月19日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた(反訴)事案である。
(2) 原判決は、本訴請求をいずれも棄却し、反訴請求を全部認容したところ、これを不服とする控訴人が控訴した。
なお、原審の本訴原告兼反訴被告である他の2名は、控訴せず、原判決が確定した。
2 前提事実、争点及びこれに対する当事者双方の主張は、当審における補充的主張を3に加えるほかは、原判決「事実及び理由」中「第2 事案の概要」2及び3記載のとおりであるから、これを引用する。
3 当審における当事者の補充的主張
(1) 控訴人の主張
本件事故については、以下のとおり、運行起因性が認められるべきである。
ア 本件事故は、本件車両からの降車という、車両装置の用い方に従って用いている際に発生したことから、運行に起因する事故であったといえる。なお、降車後、一、二歩歩いて路面の段差につまずいて転倒し受傷した事案につき、大阪高等裁判所平成23年7月20日判決(甲21、以下「大阪高裁判決」という。)は、運行起因性を認めた。
イ 被相続人は、本件事故当時83歳で、円背で、身長約115cmとかなり小柄な女性であり、骨粗鬆症があったのであるが、本件車両は、後部座席のシートから地面まで約72cm、床ステップから地面まで約37cmの高低差があったから、被相続人が直接着地すれば骨折が生じることは通常予見の範囲内であり、特異な事象ではない。被相続人のように小柄で骨粗鬆症のある高齢者にとって、シートから地面までの高低差には危険があり、本件事故はまさにその危険が顕在化し、骨折が発生したものである。
本件は、大阪高裁判決の事案と比較して、因果関係はより直接的であり、運行と事故との間に相当因果関係が認められるべきである。
本件事故につき、介護職員の不作為を内容とする注意義務違反が介在したとしても、相当因果関係が否定される理由とはならないはずである。
(2) 被控訴人の主張
争う。
本件事故に運行起因性は認められない。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所は、原判決の判断を相当とし、本件控訴には理由がないものと判断する。その理由は、当審における当事者の補充的主張に対する判断を2に加えるほかは、原判決「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における当事者の補充的主張に対する判断
(1) 控訴人は、本件事故が、本件車両からの降車の際に発生したことから、運行中に発生した事故であると主張するが、運行起因性が認められるためには、運行中に事故が発生したというのみでは足りず、運行と事故との間に相当因果関係がなければならない。
(2) そこで相当因果関係について検討すると、控訴人は、小柄で骨粗鬆症の高齢者が、本件車両の後部座席から高低差のある地面に直接着地すれば骨折することは通常予見の範囲内であり、本件事故は、シートから地面までの高低差に存する危険が顕在化したものである旨主張する。
しかしながら、本件車両は本件介護施設の送迎用の車両として用いられており、本件介護施設に定期的に通所していた被相続人に対し、同施設職員は、従前から、被相続人が高齢で身長約115cm、骨粗鬆症であることから、安全に降車するには、介助に加え踏み台を置くことが必要として、これを使用することにより安全に降車させていたものであり(甲3、4、6、7)、本件事故は、本件介護施設職員において、被相続人が本件車両から降車する際に安全に着地できるように注意すべきであったが、これを怠ったことにより発生したものと認められる。そうすると、本件事故は、シートから地面までの高低差に危険が存するままの状態で被相続人が降車することが予定され、被相続人が降車の際に危険が顕在化して本件事故が発生したものとはいえないのであり、運行と本件事故との間に相当因果関係があるとは認めることはできないものである。したがって、運行起因性は認められない。
(3) なお、控訴人は、大阪高裁判決の事案と比較して、本件事故について運行起因性が認められるべきであるとも主張するが、本件は大阪高裁判決とは事案を異にするから、この点の控訴人の主張は採用できない。
3 以上によれば、原判決は相当であり、控訴人の本件控訴には理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 髙野裕 裁判官 上田洋幸 裁判官吉村美夏子は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 髙野裕)