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福岡高等裁判所 平成26年(ラ)269号 決定 2015年3月20日

抗告人

Y1株式会社

同代表者代表取締役

同代理人弁護士

千野博之

抗告人

株式会社Y2銀行

同代表者代表取締役

同代理人弁護士

香月裕爾

阿部博昭

三好涼子

石黒英明

古川綾一

相手方

同代理人弁護士

河野聡

上垣内悦子

藤﨑千依

巨瀨慧人

柿木大

吉井和明

主文

1  本件抗告をいずれも棄却する。

2  抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

第1本件抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨及び理由は、抗告人Y1株式会社(以下「抗告人Y1社」という。)については、別紙「即時抗告申立書」、同「主張書面」、抗告人株式会社Y2銀行(以下「抗告人Y2銀行」という。)については、同「即時抗告申立書」、同「即時抗告理由書」、同「準備書面(1)」、同「準備書面(2)」(いずれも写し)に各記載のとおりである。

第2当裁判所の判断

1  事案の概要

本件は、抗告人Y2銀行に対して住宅ローン債務を負う相手方が、民事再生法199条2項の住宅資金特別条項を含む再生計画の認可を求めた事案である。

2  前提事実

(1)  相手方は、平成21年10月23日、抗告人Y2銀行a支店から、マンションの購入資金として、1370万円(最終弁済期は平成56年10月22日、返済額は元利均等返済で毎月3万9314円)の貸付を受け(以下「本件貸付契約」という。)、抗告人Y1社は、同日、相手方との間で、相手方の抗告人Y2銀行に対する上記債務の保証委託契約を締結した。

(2)  相手方は、その後、勤務先を退職するなどして返済に遅滞が生じるようになり、抗告人Y1社は、平成25年3月29日、抗告人Y2銀行の請求により、同銀行に対し1288万7730円を代位弁済した。

(3)  平成25年9月3日、相手方についての再生手続開始決定があり、同年12月10日、相手方は、民事再生法199条2項の住宅資金特別条項(最終弁済期を平成65年6月までに延長)を含む再生計画案(以下「本件再生計画」という。)を提出した。相手方の平成26年5月8日付けで提出した報告書添付の表(以下「本件返済計画表」という。)によれば、抗告人Y2銀行の債務については、最初に積立金から27万円を返済した上で、3年間については毎月4万円、その後は毎月5万2077円(最終月である平成65年6月は5万0194円)とされている。

(4)  大分地方裁判所は、平成26年6月2日、本件再生計画を認可する旨の原決定を行ったところ、抗告人Y2銀行及び抗告人Y1社(本件再生計画が認可された場合には代位弁済が無効となるなどの利害関係を有する。)がそれぞれ抗告した。

3  当裁判所の判断

当裁判所も、本件再生計画は、民事再生法199条2項の要件を満たし、再生不認可事由に該当する事由はないから、相手方の再生計画は認可すべきと判断するが、その理由は、以下のとおりである。

(1)  本件再生計画は、本件貸付契約の毎月の返済額3万9314円を超える毎月4万円から5万円程度の返済を行って、本件貸付契約の返済期限後10年以内である平成65年6月(相手方は69歳)までに元金、利息及び損害金全額を返済するというものであって、民事再生法199条2項の要件を満たしており、また、相手方の収入等に照らしてその実現可能性は十分にあると認められる。

(2)  この点について、抗告人らは、本件返済計画表によれば、相手方による返済金は、毎月生じる利息に充当された後、その残額が遅延損害金に充当される結果、元本に対する返済が始まるのは約9年後であることから、元利均等返済という従前の弁済等の基準におおむね沿うもの(民事再生法199条2項3号)とはいえず、本件再生計画は同条2項の要件を満たさないなどと主張する。

そして、確かに、本件返済計画表によれば、当初は毎月の返済金が毎月生じる利息と既発生の遅延損害金に充当され、元金に充当されないため、民事再生法199条2項1号イにいう「元本及びこれに対する再生計画認可の決定の確定後の住宅約定利息」の毎月の返済額(既発生の遅延損害金への充当額はこれに含まれない。)は毎月の利息額のみとなり、本件返済計画表によれば、毎月の利息額は3万円未満の金額であって、本件貸付契約の毎月の返済額3万9314円を大きく下回るから、民事再生法199条2項3号にいう「当該基準におおむね沿うものである」とはいえない。

しかしながら、本件返済計画表は、あくまで本件再生計画に従った試算を行ったものに過ぎず、本件再生計画の認可確定後もこれに拘束されることなく、本件再生計画に従った返済計画表に修正し得るものであり、民事再生法199条2項の要件該当性の判断は本件再生計画の内容についてなされるものであるから、本件返済計画表の記載内容が民事再生法199条2項3号の要件を具備していなかったとしても、本件再生計画が違法になるとはいえない。

もっとも、本件再生計画に従って修正される返済計画表の遂行が可能であると認めることができないときは再生不認可事由に該当するが、民事再生法199条2項によれば、元本及びこれに対する再生計画認可確定後の約定利息を、その確定前に発生した遅延損害金に優先して支払うことも可能であるから、当初から毎月の返済金を毎月生じる利息と元金に充当し、元金完済後に毎月の返済金を既発生の遅延損害金へ充当すれば、民事再生法199条2項3号の要件を具備するとともに、本件再生計画に従った返済計画になるところ、本件返済計画表は、既発生の遅延損害金を優先して支払うという相手方にとって不利な内容の返済計画となっているのであるから、本件返済計画表の遂行が可能であれば、当然上記のような当初から毎月の返済金を毎月生じる利息と元金に充当するという返済計画の遂行は可能であるといえる。

したがって、抗告人らの主張は採用できない。

(3)  さらに、抗告人らは、本件再生計画によれば、相手方の毎月の弁済金額が合計7万円程度になること、相手方の本件個人再生申立前までの転退職の経緯、弁済等に対する不誠実な態度等を考慮すると、本件再生計画の実現可能性は乏しく、民事再生法202条2項2号の「再生計画が遂行可能であると認めることができないとき」に当たると主張する。

しかし、相手方は、平成26年3月に転職した後は、現在まで就労を続けて安定的な収入を得ており、従前の毎月の積立金額を3万円から4万円に増額して平成26年12月までに合計62万円を積み立てているというのであり(なお、未だに本件再生計画の認可の決定の確定前であるから、これまでの相手方の毎月の積立額が本件再生計画での毎月の返済額に達していないとしても、これをもって直ちに本件再生計画の遂行可能性が乏しいとはいえない。)、本件個人再生申立後は、相手方の転職や失職、抗告人らを含む債権者に対する不誠実な態度等、本件再生計画実現の障害となるような事情はうかがわれないから、「本件再生計画が遂行可能であると認めることができない」とはいえない。

4  結論

以上によれば、本件再生計画を認可した原決定は正当であり、本件抗告はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 一志泰滋 裁判官 金光健二 裁判官 小田島靖人)

【別紙】即時抗告申立書(抗告人Y1社)<省略>

主張書面<省略>

即時抗告申立書(抗告人Y2銀行)<省略>

即時抗告理由書<省略>

準備書面(1)・(2)<省略>

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